「なんにもうまくいかないわ」 平安寿子著 徳間文庫
「あ~、なんにもうまくいかない!」と、悲観したり、投げやりになっているわけではない。うまくいかないのは、うまくいかないなりに楽しいし、うまくいかない友人を横目に見るのはもっと楽しい―という、しぶとい女たちの物語。
オバーフォー、シングル、姉御肌。仕事は楽しく、それなりに経済的余裕ありの志津子と、彼女のまわりにいる女たちをオムニバス形式で描いている。単行本として出版されたのは2004年。wikiによれば「草食男子」という言葉が本格的に世の中に広まったのは2008~09年。その対語として「肉食女子」と言われるようになったのは2009年以降だろう。
でも、2004年に描かれた志津子も、既に、草食男子を翻弄しまくる肉食女子パワー全開。女はたくましく、しぶとく、恋愛を糧に、不幸も糧に(人の不幸はもっと糧?)するサバイバーなのだ。 志津子のキャラは、桂望実の「嫌な女」(光文社刊)に登場する夏子に相通ずるものがある。華やかで、エネルギッシュで、トラブルメーカーなのに人を惹き付ける。
でも、最後の最後、忌の際で志津子の心は平穏だろうか ― 読みながらそんなことを考えた。
強く・たくましい肉食の女たちが「私も志津子と同じ」と共感したいわけではない。「私は志津子ほど愚かではない。草食動物を食べ尽くして、荒野にひとりぼっちになったりしない」と、自分を慰め、励ましたいから、こういう小説へのニーズが尽きないのだろう。女は強く、たくまし、しぶとく、そして、不安なのだ。
志津子の物語とは別枠のボーナストラック「亭主、差し上げます」が秀逸。全ての不倫男子諸君、自分がどれぐらい腹を括っているのか、もう一度、よ~く考えてみたまえ。やっぱり、女ってしぶといなぁ。