おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「杉浦日向子の食・道・楽」 杉浦日向子

2011年10月19日 | さ行の作家

「杉浦日向子の食・道・楽」 杉浦日向子著 新潮文庫 11/10/19読了

 

 杉浦日向子と言えば「お江戸でござる」。といっても、私は「お江戸でござる」も数えるほどしか見たことがないので、漠然と「江戸の風俗に詳しい人」という程度の認識しかなかった。こんな、ステキな文章を書く人だったのかということを初めて知り、ちょっと心打たれました。

 

 3つの雑誌に連載していたエッセイを一冊にまとめたもの。中でも、毎月、季節にあった手持ちの酒器の写真とともに、その酒器にまつわる思い出、日々の生活雑感を綴った「酒器12月」がいい。酒への限りない愛情と、ここ数年、加速度的に薄れてきている昭和の空気がそこはかとなく漂うような文章。文庫の2ページと少々程度の短いエッセイの中に、決して押しつけがましくはなく、その人の価値観、こだわり、美意識をきっちり表現し、時々クスリと笑わせ、最後に爽やかな読後感を与えるって、すごい文章力だと思う。

 

 高価なものでなくていい。ご馳走してもらうんじゃなくて、自分が好きなモノを、好きな時に、ゆっくりと味わいながら食べることの幸せ(彼女の場合は飲むことの方がより幸せだったようですが)。誰もいない、誰に気兼ねすることもない一人の時間の幸福。なんか、そういうのっていいなぁ。本当の豊かさって、こういうことなんだよね。

 

 きっと、平成生まれの子たちには…この文章の良さって実感として分からないんだろうなぁ。まぁ、私も、のべつまくなしに、私生活を垂れ流しにするつぶやきの楽しさが分からないので、お互い様なのかもしれないけれど…。昭和を感じる一冊でした。