おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「夢の守り人」 上橋菜穂子

2011年10月07日 | あ行の作家

「夢の守り人」 上橋菜穂子著  新潮文庫 2011/10/06読了  

 

 「精霊の守り人」から始まる「守り人」シリーズの第3弾。今回は、半月も掛からず数日で読了!

 

 主人公のバルサが、奴隷狩人に追われていた旅人を救出するところから物語が始まる。旅人は、木霊に愛され、永遠の命を手に入れた旅の歌い人ユグノ。ユグノは人の魂に響く歌声を持っているが、それ故に、彼の歌を聴いて心揺さぶられ、この世に生きる悲しみや不条理に堪えきれず、夢に逃げ込んでしまい、眠りから覚めなくなってしまう人もいる。

 

 バルサの古い友人で呪術師のタンダは、眠りから覚めなくなってしまった姪っ子を助けるために、夢の世界に入っていき、そこで、とらわれの身となってしまう~というあたりからが、多分、物語のクライマックスで、アクションシーンなども盛りだくさんなのですが… でも、本当のテーマは、極めて静謐で哲学的なことのように思えました。

 

 「夢の中に逃げ込んでしまう人生」と、「運命を受け入れ、与えられた環境の中で戦う人生」― どちらを選びますかという、かなり難しい命題。もちろん「運命を受け入れ、与えられた環境の中で戦う人生」が模範解答なのだろうけれど、でも、「夢の中に逃げ込んでしまう人」が、自らの選択として逃げているわけではないかもしれない。「夢の中に逃げ込んでしまう人」として生まれたこと自体が、逃れられない運命なのかもしれない―。どんな病気も同じことですが、心を病むことも、完全に回避する方法がないだけに、その苦しみについて考えずにいられないストーリーでした。