おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「土井徹先生の診療事件簿」 五十嵐貴久

2011年10月10日 | あ行の作家

「土井徹先生の診療事件簿」五十嵐貴久著 幻冬舎文庫 2011/10/10読了

 

 まずは、五十嵐貴久に敬意を!!!

 

 この作家が凄いなと思うのは、作品ごとに全く作風が違うのだ。わりと正統派に近いケーサツ小説の「交渉人」、エンタメ時代小説の「安政五年の大脱走」、ハードボイルドチックな「TVJ」、青春小説「1985年の奇跡」、ハートフルホームコメディ「パパとムスメの7日間」、微妙な女心を描いた「年下の男の子」。ときて、「土井徹先生の診療事件簿」はユルユルなライトノベル風。いったい、どれだけ引き出しを持っているんだか。とにかく、凄いです。

 

 土井徹先生は獣医さん。動物に関する知識を活かして、現場を見ずして事件を推理し、南武蔵野署の立花令子副署長を助ける。

 

令子さんは、有能で、人格者でもあった殉職警官の一人娘。東大在学中に就職活動に出遅れ、なんとなく受けた国家公務員一種試験に合格して警察庁に入庁してしまったものの…南武蔵野署ではキャリア女性警察官僚を持てあまし気味。ジェントルマンで、思慮深く、知恵者である土井徹先生は令子さんにとって、最も頼れる相棒的存在。

 

「これは、ライトミステリーなんだから、甘い設定にいちいち目くじらを立ててツッコむな、私!」と必死に自制心を働かせようと努力するも、やっぱり、ツッコミたくなるのは損な性分なのかもしれません。

 

特に、どうしても許せないのが、令子がなんでもかんでも、土井徹先生にしゃべりまくることだ。いや、わかっています。ミステリーというのは、ストーリーの中にヒントを埋め込み、読者に推理する楽しみを与える読み物であり、誰かしらが、事件を語らなければ成立しないということは重々承知であります。ヒントは、時に地の文に隠され、時に主人公が語り、ある時は端役が重要なことを言うこともあるかもしれません。まぁ、それは、作品によって違うのでしょうが…。でも、たとえ、どんな設定であろうとも、たとえライトミステリーであろうと、私は、警察官が外部の人間にペラッペラと事件を語るというストーリーが蕁麻疹が出るほどキライっ。というか、「あーりーえーなーいー!!!」と叫びたくなるのです。「謎解きはディナーのあとで」を読んだ時に感じた苛立ちに似ています。

 

 ライトミステリーにマジツッコミをせず、ユルさを許容できる人ならば、そこそこに楽しめる作品です。多分、既に、ドラマ化しようと目を付けている人いるだろうなぁ。土井先生も、令子さんも、それなりにキャラが立っているし、作品全体としてホンワカした感じがあるし…。私のイメージでは、土井徹先生は藤村俊二(但し、十年ぐらい前の)で、令子さんは宮崎あおいかな。


「悲桜餅」 和田はつ子

2011年10月10日 | わ行の作家

「悲桜餅」 和田はつ子著 ハルキ文庫 2011/10/09読了 

 

 同じハルキ文庫で高田郁の「澪つくし料理帖」シリーズには、必ず、和田はつ子の「料理人季蔵捕物控」シリーズの宣伝が載っている。二つのシリーズはハルキ文庫的「料理は人を幸せにしてくれる」という括りになっているらしい。で、初めて「料理人季蔵捕物控」を読んでみた。

 

 日本橋・塩梅屋の季蔵は、元武士から料理人に転じた異色の経歴の持ち主。先代から跡継ぎとして見込まれたのは、実は、剣の腕があってこそ。表の「料理屋の主」だけでなく、法では裁き切れない悪者を密かに処刑するという隠れ者としての裏稼業まで引きつぐことになってしまう―というところがストーリーのベースになっている。

 

 「捕物控」というシリーズの名前通り、料理小説というよりも、時代ミステリー的な色彩が強い印象。主人公の季蔵が、そこそこのオッサンということもあり、少女漫画チックな「澪つくし料理帖」シリーズとは別の味わいがあるのかな…と興味深く読み始めていたものの、何かがひっかかる。読めば読むほどに、こじつけっぽいく、色々なものがあまりにも都合よく裏で結びついている。つまり、ミステリーの部分が「お見事!」という感じでスッキリと頭に入ってこないで、「なんだ、結局はそういうオチなのか」とちょっとガッカリさせられるような陳腐さが匂ってくるような感じ。この時点で、私の頭は「ケチをつけてやりたい」モードに入ってくいるので、ハルキ文庫のうたい文句にあるような「料理は人を幸せにしてくれる」という効用もイマイチ感じられなかった。

 

 シリーズがすすむにつれ、面白くなっていくのだろうか??? 今のところ、最終評価はペンディング。