おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「お縫い子テルミー」 栗田有起

2008年11月17日 | か行の作家
「お縫い子テルミー」 栗田有起著 集英社文庫 (08/11/17読了)

 前からちょっと気になっていた本。なにしろ、タイトルがカワイイし、文庫の表紙もタイトルにピッタリの雰囲気。栗田さんの本を読んだことがなかったので、ちょっとばかり躊躇していましたが、いつも、ここを訪ねてきて下さるlatifaさんのブログで推奨されていたので、「これは間違いなし!」と思って購入しました。

 読みながら、ふと、「包丁一本~さらしに巻いて、旅へ出るのも、板場の修業~」と「月の法善寺横町」を口ずさんでしまいました。テルミー(照美)は16歳。流しのお縫い子さん。注文主の家に居候しながら、その人にピッタリの服を、ミシンは使わず、手縫いで作る。学校に通ったことはなく、子どもの頃からばぁちゃんに裁縫の技を叩き込まれ、自分の腕だけを頼りに一人で生きて行こうとしている女の子。タイトルは可愛いし、舞台は歌舞伎町で、たまには水商売のバイトもするイマドキの女の子だけど、なんか、演歌の世界なんですね。短く、潔い文体で、とっても読みやすいけれど、でも、「プロとして生きていくとはどういうことか」と問われているようなストーリーでした。職業人として、超ストイックなテルミーはカッコイイ。でも、どこかで、彼女が心から休める場所があれば良いなぁと願ってしまいました。

 表題作のほかに「ABARE・DAICO」という小学生の男の子を主人公とした作品が収録されています。「ABARE・DAICO」の意味は、ストーリーの最後の方で「そういうことだったのか」とちょっと笑えますが、これも、軽やかなストーリーの裏には、軽やかじゃないテーマがある作品のような気がしました。

若くして「人間とは孤独である」ということを悟ってしまった16歳と小学生を主人公とした短編2編。ちょっと逃げたい気分な大人にとっては、気を引き締めたくなるようなジャブになります。