おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「ゴールデンタイム」 山田宗樹

2008年11月15日 | や行の作家
「ゴールデンタイム」 山田宗樹著 幻冬舎文庫 (08/11/15読了)

 うーん。この人、やっぱり、うまいなぁと思います。まだ、テレビドラマ化も、映画化もされていない時に、本屋をぶらぶらしていてあまりに人の気を引くタイトルの本を発見、「嫌われ松子の一生」上下巻は、それこそ、仕事そっちのけで貪るように読みました。ジェットコースターノベルの書き手は少なくないですが、文章がかなり雑だったり、設定があまりにもめちゃめちゃだったりで、途中でウンザリすることが多いのです。でも、山田宗樹さんは、読者を高速スピードの物語に引きずりこみながらも、文章は読みやすいし、取材を積み重ねて細部を詰めていることがよくわかる記述で、とっても好感持てます。しばらく前に読んだ「天使の代理人」はかなりヘビーな内容でしたが、この「ゴールデンタイム」は主な登場人物が大学生やフリーターということもあって、あっけかんと明るく、楽しい気分で、あっという間に読み終えてしまいました。

医者になる夢を諦めきれず、東京の大学を辞めて再受験して佐賀で医学生をしている明日香と、大学を卒業したものの、就職しそびれてフリーターをしている笙。佐賀と東京にいる二人の語り手が、それぞれに、現実を受け入れるのか、夢を追うべきなのか、苦悩する。って言っても、立ち止まって悩みこんでしまうわけではなく、常に進んでいる。そして、あえて、現実と折り合うことを選んじゃなおうかな-と思っている明日香のもとに、元・恋人の笙が訪ねてきて、そこで、もう一度、夢を追ってみようという気持ちになる。二人の恋が復活するような暗示はない。でも、それぞれにとって、相手が、夢を追うためのパワーの源になっているところが、読んでいて、気持ちいい。心地よい、青春ストーリーです…

って言いたいけれど、実は、このストーリーの副題は「続・嫌われ松子の一生」となっていて、笙は松子の甥っ子で、笙が大学時代に松子の人生をトレースしていた時に付き合っていた女の子が明日香なのです。でも、全然、「続」にはなっていなくて、単に、「嫌われ松子の一生」の登場人物が主人公になっているというだけです。この物語、主人公が松子の甥でなくても、十分に、成立するし、著者が言いたかったことを言えると思うのです。編集者に唆されて、「嫌われ松子」スピンアウトモノっぽく書かされたのかもしれませんが、無理して、松子関連にしなくても、いいストーリーだったのに、もったいない。「嫌われ松子」を読んでいない新しい読者を取り入れ損ねたのではないでしょうか…。