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 風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

月とオオカミたち

2014-08-26 18:52:00 | 雑論



                     

                     



古来より日本においては、オオカミは神として畏れられ、信仰の対象でした。

オオカミは農作物の害獣である猪や鹿などを捕食することから、農作物を守る神であり、そこから転じて災難除け、盗難除けの神として信仰され、また大和武尊を山火事から救ったという伝説から、火除けの神としても信仰されました。





いにしえ、明日香の地にあった老狼は多くの人を喰い霊力を得、土地の人から畏れられた。老狼は真神(まかみ)と呼ばれ、善人を助け、悪人を喰らったとか。

この真神に、オオカミを表す「大口」を付けて「大口真神」とし、三峰神社などでは眷属神として祀られています。



ところで、この「大口」ですが、アイヌの人々はオオカミを「大きな口を持つ神」=ホロクウカムイと呼んで崇めていたそうです。アイヌの信仰が遥か縄文時代以来の信仰形態を受け継いでいるなら、この大口=オオカミ信仰は、かなり古い起源を持つということでしょう。




その大口真神を眷属として祀る三峰神社ですが、三峰神社の御祭神というのは、イザナギ、イザナミなんです。

いわゆる「白山神」ですね。

古代日本の中心的信仰であったとされる白山信仰。その白山の神を祀る神社の眷属神が、やはりその起源が非常に古いと思われること…。

面白いですねえ。

かつては日本にもオオカミは多数生息しておりました。白山をはじめとする多くの山々にオオカミは暮らしており、
人々はオオカミを山の神(白山神)の使いとして畏れた。

オオカミを真神と呼ぶのは、真の神である白山神の使いであったから、ではないでしょうか。



我が岩手県平泉町の世界遺産、中尊寺の真裏には、「月山」と呼ばれる小さな山があり、山頂には月山神社と、謎の神「アラハバキ神」を祀ると云われるワカエトノ神社が鎮座されています。

その月山の麓に、三峰神社が鎮座されているのです。

この三峰神社、かの有名な遠野物語にも登場するほど、その霊験はあらたかだったようで、かなりの信仰を集めていたようです。

この月山、古来よりの白山信仰と非常に関係の深い一つの聖地だったのではないかと、私は妄想しております。前九年合戦の激戦地、衣川の柵は、この月山の麓にあったと伝えられ、安倍一族が衣川を越えて死守しようとし、奥州藤原氏がこの地に中尊寺を建て奥州の都としたのも、この地、詳しく言えば旧磐井郡一帯が、蝦夷にとっては古来よりの重要な聖地であり、それは白山信仰と深く関わっていたからではないか、

なーんてことを、つらつら考えております。



                     

満月の夜に人間がオオカミに変身する、狼人間伝承ですが、この満月云々というのは、どうやら映画が発端のようです。

古来よりの狼人間伝承には、確かに月との関連を窺わせる伝承がないわけではない。しかし特に満月にこだわった伝承は見当たらないようで、やはり映画作家たちによる創作であると思われます。

おそらく、「満月の夜は犯罪が多発する」などという統計結果に触発されて、それと狼男を関連付けて物語を創作したのが始まりではないでしょうか。

例えば、吸血鬼がコウモリに変身できるなんて話は、イギリスの作家ブラム・ストーカーが自身の小説「吸血鬼ドラキュラ」で書いたのが初出であり、それ以前にそのような伝承は存在しなかった。丁度この小説を書き始めた頃に、南米で吸血コウモリが発見されたことをヒントにしたといわれています。

昔からの伝承だと思っていたら、実は映画や小説が発端だったというのは往々にしてあることです。ゾンビというのも、本来はハイチのブードゥー教の呪術(毒薬)によって人間の脳を麻痺させ、その人間をロボットのように操る、そのロボット化された人間を「ゾンビ」と言ったのですが、これが68年の映画「ナイト・オブ・ザ・リヴィング・デッド」に登場した人肉を喰らう生ける死者たちを、巷間ゾンビと呼ぶようになったことから、現在のような意味で使われるようになった経緯があります。



抑々、キリスト教以前の自然崇拝、精霊信仰のもとでは、オオカミを神や精霊として祀る風習は普遍的なものであったでしょう。古い土俗では、動物を模った面や、動物の毛皮を被ることによって、その動物の精霊を憑依させるといった宗教儀礼が広範囲で行われていたと思われ、これがキリスト教によって異端とされて、そのような妖怪、悪魔の手先のような位置づけにされたものと思われます。

西洋では、オオカミは家畜を襲う害獣として忌み嫌われた。しかしそれは、元々オオカミのテリトリーだった森に人間が進出し、木々を伐採し牧場を作り、オオカミたちの餌場を奪ってしまった。

そのため仕方なく、オオカミは人間の財産である家畜を襲わざるを得なかったわけで、どっちが悪いかといったら、人間の方が罪深い。しかしキリスト教では、人間はしぜんを支配することを神より許可されていますから、その人間の邪魔をする奴は、当然悪魔の化身とされてしまう。

かくして、かつて神であったあったオオカミは、妖怪の類へと転落してしてしまったのです。



                      


                      





月の満ち欠けと、生命の誕生との間に深い関係性があることは、巷間よく知られていますね。

オオウミガメでしたっけ?満月の夜に卵を産むのは。あれ?違ったかな?

ともかく満月の夜に卵を産む生物は多種あったように思います。人の誕生もまた、月の満ち欠けと深く関係しているようですね。

月には、命や生命力といったものを強く横溢させるパワーがあるのかも知れない。

それはプラスの面ばかりではなく、マイナスの面も地上に齎すようです。

「満月の夜は犯罪の発生率が大きい」という統計データなどは、その“マイナスの面”の典型でしょう。

生命力の横溢とともに、人の心の中にある獣性をも目覚めさせてしまう。

もちろんそれは、すべての人間に当てはまるわけではなく、元々獣性の強い人、あるいは獣に“憑りつかれている”人がそうなり易い、ということなのでしょうね。

そういう意味では、男はオオカミなのよ~♪と歌うのではなく、

男も女も獣になっちゃうかもよ~♪と歌うべきなのでしょうね。

ん?なんの話だ???


あなた、獣に憑りつかれてません?

気をつけましょう。








さて、日本で狼男といえば、SF作家・平井和正による小説「ウルフガイ・シリーズ」でしょう。私も中学、高校の頃は夢中になって読んだものです。

主人公・犬神明は妖怪ではなく、大自然の精霊として描かれており、人間に絶望しながらも、見捨てることが出来ずについ手を出してしまう、そんな情の深い存在です。

犬神明も満月の夜に狼男に変身するのですが、特に精神的に獣化するわけでもなく、単に生命力が強くなり、特殊能力を発揮しやすくなるんです。満月の夜は不死身で無敵のスーパーヒーローになるんです。

むやみに人を襲うことなどせず、むしろこの人(?)は、ホントは人間が好きなんじゃないかと思わせる、

そんな「精霊」。それが犬神明です。


近年ではやはり、「おおかみこどもの雨と雪」を外すわけにはいきませんね。

人の母性、大自然満ちる母性をおおらかに、そして力強く描いた大傑作です。



日本においてオオカミは、やはり妖怪、悪魔の類には成りきれないようです。

大自然の精霊。神の御使い。


それこそが真のオオカミ。

大神、「真神」の姿です。



                    



※狼の写真はすべてhttp://www.inspiration-gallery.net/2011/07/16/wolves-photo-75/より転載させていただきました。

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お疲れ様です。ありがとうございます。 (よしの@)
2014-08-26 22:04:08
おおかみとこどもと雨と雪?あれ?私も観ました。何か考えました。姉弟の喧嘩とか母の命がけの子育てにです。男性と女性の違いも感じました。たぶん?忘れない心とは、背負うことと考えます。感謝の意味とも思えますね。自分がどう見えるかではなく。自分がどうあるか。とても勉強に成りまして。
ありがとうございます。お疲れ様です。です。m(__)m。
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Unknown (薫風亭奥大道)
2014-08-26 23:22:14
よしの@さん、「おおかみこども」は素晴らしい作品でした。
男の子の雨くんが旅立つところのシーンは、旅立つ雨くんも良いけれど、むしろそれを見送ってあげた母親の方が偉いなと思いましたね。雨くんは野性のオオカミとしての本能の方が強くなっているから、時期が来たら独り立ちするのは、オオカミとして当然だったでしょう。
母親も初めは息子の旅立ちを受け入れられない。でも雨くんの遠吠えを聞いて、息子が大人になったこと、独り立ちすることを受け入れるんです。偉いですよ、イマドキの親は子離れできないのが多いですから。
自身の寂しさより、息子の成長を喜ぶ。母性だなと思いますね。切ないけど。
それにしても、この時の母親のセリフ、「私、まだ雨になにもしてあげてない」このセリフに、オオカミになった雨くんがハッとして振り向くんです。息子にしてみれば、今まで育ててくれたことだけで、十分にしてもらったと思ってる。でも母親は何もしてあげてないと思ってる。
母親ってこういうものなのかなと思うと、なんか泣けてくるんですよ。
ホントたまらん映画ですわ。
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それにつけても… (おかか)
2014-08-27 18:58:44
満月を見ると…
本能がムラムラと沸いてきて、雄叫びをあげてしまうのは狼男。
うぉお~ん!
満月を見ると…
飲みたい気持ちがムラムラと沸いてきて、飲んでしまうのが私。
プッハ~!
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Unknown (薫風亭奥大道)
2014-08-27 20:16:30
おかかさん、くれぐれも虎女には変身しないようにね…(笑)
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Unknown (玲玲)
2014-08-28 11:44:11
三峰様!
私の地域の集落センターにはお伊勢様って呼ばれる小さい神社がくっついてまして。
私が氏神様にしている神社の神主さんが来てくれて、色々な神事の寄合があり、年に一度は三峰様の日があって、神主さんに秩父の三峰神社に御札を取りに行ってもらったものを頂いてきます。
お伊勢様にも三峰様にも行けないから昔から地域で集まって神事を奉納って感じかと思いますが。昔からそうするもんだ、ってことしか分からないんですが。
三って数字は真理現しているのかなぁ。どこが一番最初の三峰様なんだろ?でも呼び方違っても白山系か古代からここはそういう場所って決まっていた神域があったのですね。
オオカミが守っていたなんて、本当に日本オオカミいなくなったことが悲しいです。
月のことにしても、日本人だけは感謝して畏れて敬ってたのだなぁと改めてよく分かりました。
有り難う、ウルフガイ薫風亭さん!ってオオカミにはならないですよね?
ワォーン。
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Unknown (薫風亭奥大道)
2014-08-29 03:14:55
玲さん、オオカミは災難除けの神様として信仰されていたわけですが、江戸も末期あたりには、オオカミの頭骨を祈祷に使うようになっていたんです。それでコレラだったかペストだったかが流行ったときに、祈祷用に大量のオオカミの頭骨が必要になった。それで随分乱獲されたらしいです。さらには海外からジステンパーとか狂犬病が入ってきてオオカミが媒介するので、それで駆除されたりして、とうとう絶滅してしまったのだとか。
かつて神として崇めたにも関わらず、結局我良しの御蔭信仰やら人間の勝手な都合やらで絶滅に追い込まれてしまった。犬神明ならずとも絶望しちゃいそうになります。若い頃の私はそうだった。犬神明に共感していた。人間なんてもうダメだと思ってた。
まっ、若気の至りって奴です。そういう時もあったなってことで。
オオカミは好きですが、オオカミのにはならないですよ。ならないでがんす。フンガー。
あれっ?なんか混じってる?玲
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Unknown (美樹枝)
2014-08-29 04:44:08
昔からオオカミ大好きです! オオカミは家族を大事にするんだね。 オオカミに似てるシェパードも大好き。柴犬も大好き(柴(シヴァ…シヴァ神)似てたっけ?)。  皇室御守り犬もシェパードさんで~…でも月は人間の出産に関わる不思議。人口物なのに。お産の時、子宮の動きは見事に月に従いました。    …薫にいさんはウルフガイなのかオオカミ男なのか?
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Unknown (薫風亭奥大道)
2014-08-29 10:43:57
美樹枝さん、月がなければ生命の誕生はなかったらしいですから、不思議ですよねえ。
柴犬好きですねえ。私はどちらかというと犬派で、猫も好きなんだけど、どっちか選べといわれたら犬を選びます。わんわん。
でもオオカミには変身しませんよ。変身しないざ~ます。フンガー!
いや、だからなんか混じってる!?
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