ジョナ・マツカは何故命がけでキースを守ろうとしたのか?
ミュウは一度受けた恩を忘れないとは、物語の中で何度も言及されています。それにしてもマツカのキースに対する献身は尋常ではありません。
この点については、ボーイズ・ラブ的なことを連想する方もおられるかも知れません。まあ、そうであったとしても、プラトニックなものだったでしょうから、マツカは自分の命を捧げることで、愛を青樹したのだ、とも言えなくはない。
しかし私はそういうことよりも、人間の関係性の不思議さ、複雑さを感じます。ミュウと人造人間というまったく相反する二人が、「孤独」というキーワードを媒介として、お互い警戒し合いながらも、実はもっとも心を赦せる相手になっていた。この面白さなんですよね。
だからキースは、ミュウと人間との共存の可能性は有り得るということを、分かってはいたんだと思う。それでも、彼は自らの存在する意味として、それを否定せざるお得なかった。
コンピューター、グランド・マザーに「作られた」存在として。
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マツカが死んだ翌朝、ミュウの代表と地球〈テラ〉政府側の首脳陣による、形ばかりの会談が行われました。
ジョミーは言います。あなた方がどうしても我々を受け入れられないというのであれば、去りもしよう。しかしそれはコンピューターの指示によるものではなく、あなた方人類自身の意思で決めてくれと。
しかし、コンピューター、「マザー」に依存することに慣れ、ひ弱になってしまった人類に、今更マザーに頼ることなく重要事項を決定することなどできない。
それに、マザーにミュウを完全排除するようプログラミングされている以上、人類とミュウの共生はあり得ない。
何故だ?何故?マザーはそこまでミュウを排除しようとするのか?ジョミーはテレパシーはキースに問いかけます。
それはわからない。キースが答えます。何故ミュウが生まれてくるのかわからないように。
その時、ジョミーを連れてくるようにと、マザーよりの命令が下されます。ジョミーとキース二人きりで来るようにと。
これがなにを意味しているのか、分かったうえでジョミーは、キースとともにマザーの下へ向かいます。
基地の風防越しに、荒れ狂う地球の大自然の息吹を眺めながら、ジョミーが言います。「トオニィが早まったことをした、すまない」
「……なんのことだ?」平静を繕ったものの、その表情には明らかな動揺が現れていました。
グランド・マザーの前に立つジョミーとキース。マザーが有無を言わせぬ精神波攻撃を仕掛けてします。
キースの抗議も聞かずに攻撃を続けるマザーに、ジョミーも反撃します。「ぼくたちが戦ってきた相手は人間じゃない、このグランド・マザーだ!」
ジョミーは言います。「人間はマザーにあやされ育てられた意思のない子供、目も耳も口もふさがれながら、それを知らない不幸な子供だ」
「だが反逆児であるミュウたちにはそれが見える、敵の姿として」
だからここまで来た。
お前を壊すために
ジョミーはミュウたち全員に力を結集するよう呼びかけます。それによりグランドマザーの機能は明らかに壊れ始めます。
激しいエネルギーの波に翻弄されながら、キースもまた、心の中で戦っていました。
ミュウたちとともに。
機能停止寸前、一瞬の隙をついて、マザーがキースの脳波を捕らえ、これをコントロールします。マザーの操り人形と化したキースが
ジョミーに銃を撃ち込みます。
ハッと気が付いたキースの前に横たわる、ジョミーの遺体。「完璧デス、キース……」途切れ途切れの言葉で、尚も体制を維持しようとし続けるマザー。「ワタシタチノ子……」
キースの怒りが爆発します。「わめくのをやめろコンピューター!二度とおれの意志にさわるな!」
それは初めてと言っていい、キースの感情の迸りでした。
これに感応するかのように大爆発を起こすマザー。激しい地殻変動が地上を襲い、基地が倒壊していきます。
地割れに飲み込まれ、地下深くへと落ちて行くキース。
つづく
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