荻野洋一 映画等覚書ブログ

http://blog.goo.ne.jp/oginoyoichi

『戦火の馬』 ナショナル・シアター・ライヴ2016

2016-11-15 01:52:24 | 演劇
 ロンドン・サウスバンクのロイヤル・ナショナル・シアターが2007年に初演し、ロングランとなった舞台『戦火の馬(War Horse)』が、イギリス演劇の上演ライヴを世界中の映画館で紹介するシリーズ〈National Theatre Live 2016〉に含まれて、TOHOシネマズ8会場で上映中である。公演に感銘を受けたスティーヴン・スピルバーグが2011年に映画化したことは周知。今回上映されたのは、2014年にロンドン・ウェストエンドのニュー・ロンドン・シアターで上演された際の実況録画である。
 なんといっても本公演の最も大きな特長は、南ア・ケープタウンを本拠とするあやつり人形劇団ハンドスプリング・パペット・カンパニーによる等身大の馬のパペットである。スピルバーグによる映画版は本物の馬とCGの組み合わせで乗りきっていて、その判断も当然のことではある。しかしながら、こうして元となった演劇版のパペットによる見事としか言いようのない形態模写、擬声によるいななきや息遣いなどが、この作品の太い生命線であることに気づかざるを得ず、スピルバーグ版もいい映画ではあったけれども、パペットによる独創性とたぐいまれな詩情を捨ててリアリティの追求に引っ張られたのはしかたのないことだ。
 あらゆる動き、音の醸す馬の生命感。ギャロップするときは、3人のパペット遣いも馬と一体化してギャロップしている。首、前足、後ろ足の3人の係が主人公の馬ジョーイを担当する。その他、ジョーイを手塩にかけて育てる農家の飼うアヒルもパペットでコミカルさを出し、後半にはなんと戦車さえもがパペット化されていた。
 ジョーイの首(かしら)を担当したパペット遣いは、厩舎の調教師のような衣裳に身を包み、姿が観客にさらされている。それは決して透明な存在ではなく、あたかもジョーイの意志と一体化し、命を吹き込む守護神のごとく振るまい続ける。まるで日本の文楽における「主遣い(おもづかい)」のようだった。


TOHOシネマズ日本橋ほか、全国8箇所のTOHOシネマズで限定公開
http://www.ntlive.jp/warhorse.html


最新の画像もっと見る

コメントを投稿