荻野洋一 映画等覚書ブログ

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ロシア 0-3 スペイン

2008-06-28 03:20:00 | サッカー
 UEFA EURO 2008、大会20日目。準決勝第2日。

 神経戦に持ち込まれたイタリア戦以外は、今大会、前評判どおりの素晴らしい攻撃を披露してくれているスペイン。準決勝の対戦相手ロシアは、ヒディンク監督の采配と、エースのアルシャフィンの活躍で、大会の主役に躍り出ていたが、この日はスペインサッカーの魅力を十二分に引き出させる触媒の役割を演じてしまった。
 特にビジャが負傷退場して、セスクが投入されてからはむしろ、パスワークが良くなった。相手をぎりぎりまで引きつけておいて、あざ笑うようなワンフェイントを入れてから長短のパスで相手の穴を見つけていく。スペインはプレーヤー1人1人が監督でもある。

 ロシアのフース・ヒディンク監督は、試合開始して1時間くらいは互角だった、と述べた。しかし、互角に戦わせることでわれわれを疲れさせ、その上で後半に勝負を決めに来るのがスペインのやり方だとも認めた。「スペインが能力を存分に発揮し、よく動いて頻繁にポジションを入れ替えていた。こちらにとっては非常に厳しい試合となった。」

 カム・デ・ラ・マズィーアへ行き、FCバルセロナの練習を見て驚かされるのが、選手たちの体格が私たち日本人とほとんど変わらないのではないかということだ。バルサで唯一、これは大きいぞと思わせたのは、オランダ人のフランク・ライカールト監督だけだった。バレンシアにおいてもそれは同様で、1年半前にビジャとのインタビューを終え、お互いに立ち上がって握手した時には、私たちにはまるで「友だちのような」背格好であった。
 サッカーは、体の大小だけですべてが決まってしまうジャンルではない。バスケットボールやアメフトに較べても遙かに、アジア人にも未来が開かれたスポーツであることを、スペインが証明してくれている。当のスペイン人たちもこぞってわれわれに諭してくれる、メッシ、シルバ、アイマールらを見よ、と。

 剛のドイツ、柔のスペイン。両極端の性格を持つ両チームがぶつかる決勝に、興味が尽きない。29日日曜深夜(月曜未明)3:45A.M.からキックオフ。その直前の3:20から閉幕セレモニーがある模様。

山本嘉次郎 著『洋食考』

2008-06-25 19:07:00 | 
 エノケン映画や『綴方教室』『馬』『ハワイ・マレー沖海戦』の監督、山本嘉次郎(1902-74)の『洋食考』(すまいの研究社 絶版)を興味深く読んだ。4月の終わり、ちょっとしたミニドラマのロケで都内の古書店を使わせていただいた際、撮影終了後に買い求めたものである。

 東京・釆女町(旧・木挽町に囲まれた孤島のような狭小な町。現在の東銀座、晴海通りを挟んで歌舞伎座の前あたりにあったらしい)の商家に生まれた山本嘉次郎は、生来の食通であったという。1970年、著者が亡くなる4年前に発売された本書には、関東大震災以後、和食・洋食を問わず世の中の料理が不味くなったこと、そして芳香の薄れたことに対して批判的な文章が並んでいる。ページをめくり始めた当初は、ひどく反動的、懐古的な文章を書く監督だと鼻白む部分もあったが、徐々に説得されていくこととなった。

 銀座松屋裏の洋食店「十八屋」の主人・中山延治との交流の中で書き連ねられる言行録は、明治期の洋食の実情を示して興味深い。中山延治は、明治20年から横浜グランドホテルのシェフ、マラッピョの厳格な修行に耐えて一本立ちした一徹な料理人。

 “ 洋食の草創期の頃、横浜や神戸にやって来たフランス人やイタリー人の親方さんからブンなぐられ、蹴ッ飛ばされながら、十二、三歳の少年の頃から十年も十五年もみっちりと叩き込まれた仕事を、馬鹿ッ正直に、材料を落さず、手間暇を惜しまず、ひたすら教えられた(あるいは盗み取った)手法を、大事に大事に護り通して来た職人気質があってこそ、あの魔法のような芳香がただようのである。” (本書218頁)

 衒学的ではなく、食に対する祈りの心に満ちた文章だ。また、著者は銀座の4丁目交差点にあった伝説的な「カフェー・ライオン」のオープン披露(明治44年)に出席したのだそうだ。その時、なんと9歳! 当日都合で招待に応じられなくなった父親が、「カフェー」を「パリのカフェみたいなもの」と誤解して、息子を代理で送り出してしまったのだとか。

 “ 私は大いにモテた。坊っちゃん、坊っちゃんと沢山の女給が集まって来た。そして手を取らんばかりに、いや実際に手を取ってテーブルに連れて行かれた。(中略)卵の寄せ物のようなのがバカに旨かったことを、かすかに覚えている。(中略)最初は女給よりも料理が売りものだった。”(本書227頁)

横浜・野毛町「三幸苑」

2008-06-24 04:16:00 | 味覚
 UEFA EURO 2008の会期に入ってからは、多忙のあまり、これといって店で旨いものを食べていない。きょうあすと大会が休みなので、今夜あたりいい店に行ってみようと考えたが、思うように時間が取れない。

 そういえば2週間前、横浜国立大学で講義をした後、梅本洋一と共に野毛町に行き、「三幸苑」で湯麺を啜ったが、これが豪快に旨かったことを、まだ書いていなかった。日本の進化した拉麺ではなく、伝統的な支那そばの味で、むかし九龍の油麻地あたりで食べた味とそっくりである。

 それにしてもこの野毛町という街、なにやら異色な場所である。簡単に言えば、横浜の下町ということになるだろうが、浅草のような、いやもう少し陋巷という感じで、千束か向島といったところか。うーむ、それも違う。やはりこの空気感は横浜独自のものだ。東京の街に当てはめて形容できない。

スペイン 0-0 (PK 4-2) イタリア

2008-06-24 01:47:00 | サッカー
 UEFA EURO 2008、大会16日目。準々決勝の最終日。

 スペインが過剰にイタリアのカウンターアタックに対して恐怖を感じ、普段のワンタッチ、ツータッチで小気味よく繋いでいくポゼッションサッカーをできず、腰の引けた神経戦となってしまったことが、スコアレスドローという結果を招いた最大の要因だ。

 セリエAファンの人間とよくサッカーの話をしていて、ぽろりとカテナッチョなどと言おうものなら、そんな語はもうとっくに死語だなどと噛みつかれる、という経験は誰もが持っていることだろう。
 だが、今朝のキエッリーニ、パヌッチはまさにカテナッチョだった。中盤が一斉に下がってスペイン自慢のパスワークを寸断しながら、ラストパスのパスコースを数十ミリ単位で消し、捨て身のシュートブロックで無失点で抑えた。イタリアらしい、素晴らしいディフェンスを見せてもらった。

 とはいえイタリアは、内容面での完敗を初めから覚悟していたようにも見え、ではいったいどんなプランがあったのか? 不可解だが、PK戦でなんとか勝ち抜こうと考えただろうか? 聖カシーリャスの進境著しいアクティヴなゴールキーピングが、ブッフォンを凌ぐことはないと考えたのだろうか?

 チェフ、ファン・デル・サール、そしてブッフォンと、いずれ劣らぬ名ゴールキーパーが去っていった。そして、「ゴールキーパーの不安」をみごとに克服した若き “サン” カシーリャスが「世界最高のゴールキーパー」の称号を継承した夜だった。
 マンU時代のシュマイケル、バルサ時代のスビサレッタ…。最高のゴールキーパーは本来、守備的なチームからではなく、攻撃的なチームから生まれなければいけないのである。