荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『欲望という名の電車』 ナショナル・シアター・ライヴ2015 @TOHOシネマズ日本橋

2015-03-14 08:36:00 | 演劇
 昨年に引き続き、イギリス演劇の上演舞台を撮影した《ナショナル・シアター・ライヴ2015》が、日本橋、梅田、京都・二条、川崎などいくつかのTOHOシネマズで断続的に上映されている。大阪の会場がなんばから梅田に替わり、次回からは新たにオープンする新宿が加わるらしい。
 今回の上映作品は、テネシー・ウィリアムズ作、ベネディクト・アンドリュース演出による『欲望という名の電車』。いつもと2点異なる点がある。ひとつは上演会場がロイヤル・ナショナル・シアターではなく、ロンドン・サウスバンクの独立系劇場ヤング・ヴィックであること。もうひとつはイギリス演劇ではなく、アメリカの戯曲であること。ロンドンで上演されたアメリカ演劇をわざわざ見るというのも、一風変わった体験でおもしろい。
 ヒロインのブランチを演じたのはドラマ『Xファイル』のジリアン・アンダーソンだが、両親の出自によるイギリス訛りが少女時代に地元の米中西部でいじめの原因となったそうで、米中西部方言とイギリス英語を使い分けるようになったとのことだ。今回はニューオーリンズが舞台となる『欲望という名の電車』だから、南部訛りを駆使することになった。3月9日のニュースによれば、彼女は本作によって、イギリス演劇界最高峰の賞、ローレンス・オリヴィエ賞の主演女優賞にノミネートされている。
 今回の上演でもっともおもしろいのはセットだ。ちょうど東京の青山円形劇場に2階席も設けて少し大型にしたような円形の客席があり、客席にとり囲まれるように真ん中にステージがある。プロセニアムで恭しく上演されるのと違い、役者は360度から見つめられ、逃げ場が失われている。柱と階段と半透明の玄関があるのみで、壁はいっさいなく、完全なるシースルーセットである。さらに、ステージ全体が旋盤上でゆっくりと回転している。これは、先年若くして亡くなった深津篤史が、新国立劇場(東京・初台)でハロルド・ピンターの『温室』を演出した際にも試みられたやり方である。視点はこれによって不断に更新されていく。
 途中、インターミッションで上映される企画VTRで、ヤング・ヴィック劇場の紹介がされていた。劇場側は上演作品が決まると、まずその作品の演出家に常識を覆すようなセットデザイン案を要求する。劇場構造からいって、実験は必定なのだ。そうすることによってレパートリーに亀裂を入れ、新たな生命を吹き込む。これは日本で演劇が上演される際も同様だろうが、古典戯曲が上演される際も、それは常に新作として上演され、新作として鑑賞されるべきである。更新されていく新たな視点、演出がなければ、演劇は死ぬだろう。そのことを、今回の『欲望という名の電車』を見ながら改めて思った。


TOHOシネマズ日本橋(東京・三越前)ほかで上映終了 次回『二十日鼠と人間』は5/15より
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