ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

いい人

2014-10-29 00:49:22 | 日記
私の母はいい人だ。

きのう実家に帰ったとき
一人でせっせと父の遺品整理をする私を気遣い
晩ご飯にウナギをとるから食べていってちょうだいと言う。

大好物ではあるが、とりあえず固辞。
欲得なしに働く娘だということを
老母にアピールしておこう。

しかしそれでも是非、というのだ。
ならば馳走になるか。
私は人の好意を無にしない人間でもあるし。

というわけで、さっそく母はいつもの料理店に出前の電話を入れる。

もしもし、鰻の特上と天ぷらの盛り合わせをお願いします。
(注:天ぷらは鰻の嫌いな母のものだ)

注文の品を伝えたあと
おそらく店の人から「何時ころにお届けしますか?」と
聞かれたのだろう。

いい人である母は恐縮しながら答えた。
「あ、別に何時でも。
そちら様が都合のいいときに届けてくだされば…」

なんだそれ?
そんな注文ってあるかい!?

いやいや、突っ込みを入れるのはやめておこう。
遺品を片付けながら、亡き父に向かってつぶやく。

お父さん、いい嫁もらったね。


お宝

2014-10-28 00:30:00 | 日記
そろそろ父の一周忌法要について話し合わなければ…
というわけで、実家に帰ってきた。

ざっくり話し合いを終えると
せっかくだから手付かずだった遺品の処分もお願い!と
幼児二人を連れて新潟から帰ってきた妹は早々に立ち去る。

仕方ない。そう、せっかく休みを取って里帰りしたのだ。
のんびり屋の母に任せておいたら埒が明かない。
どれどれ、多趣味で社交的だった父の書棚でも整理するか。

投稿した俳句の小冊子や生原稿
自ら立ち上げた同窓会、老人会、町内会、社会科見学の会
カラオケ会、歴史研究会、書道クラブ、ゲートボールクラブ…
それらの名簿や書類をまとめたファイルを整理していたら
面白いものが見つかった。

「○○画伯」と書かれた巻物を広げてみると
墨絵の達磨さんと七福神に混じって
半紙に描かれた4枚の、なんと“春画”が。

うわぉ、時代小説で読んだことはあるが
ホンモノを見るのは初めてである。
何これ!? レアもんじゃない?
父の形見として取っておく気はしないけれど
とりあえず、おっさんにだけは見せてあげよう。

しかし、なんでこんなものが?

そういえば、これは以前も書いたかもしれないが
20代のころ結婚前のおっさんを連れて実家に帰ったときのこと。
「桃尻娘」という日活映画の主役に私が似ていると
おっさんんが言ったら
「そうなんだよ、私も映画を観て驚いたんだ」
と、父がまさかの発言。
え、アナタ…? え、お父さん?
夫が、父親がその類の映画を見に行ったと知り
母と私の心にザラッとした風が吹いたのだった。

春画を見つめながら
あの日のことが思い出された。

色気やスキャンダルとは無縁な男だと思っていたが
ヤツは隠れスケベだったのだろうか。

さてもう一つの発見。
小さな桐の箱を開けると、数葉の古い写真と葉書が出てきた。
写真は、髷を結った美人女性。
裏を見ると、昭和10年、水谷八重子、とある。
そして葉書の方は
文面は旧仮名遣いの草書体なので解読困難だが
宛名は私が生まれる前に亡くなってしまった祖父“音八”。
差出人は、これまた水谷八重子、である。

母もそれを初めて見たというが
そういえばアナタのオジイチャンと新劇女優・水谷八重子は
なんか、交流があったらしいわよ、と言う。

え、え~!? 交流って、どんな?
しかし本人はもちろんその息子も死んでしまった今となっては
知りようもない。

大正から昭和にかけて探偵を生業としていたらしい祖父・音八。
ああ、あなたに会ってみたかった。

面倒くさい遺品整理ではあったが
父と祖父の知られざる世界を垣間見させてもらって
ちょっとした“お宝ゲット!”の気分である。



キツネ憑きの夜

2014-10-26 22:48:55 | 日記
ミヨに狐が憑いた。
そんなはずはないが、そうとしか思えぬ奇怪なコールが
昨夜、夜勤の私を脅かしたのだった。

※ミヨについては10月4日付けの「ミヨの生きる力」参照。

日付が変わる前辺りから始まったミヨの迷惑コール。
「隣のおばあさんがうるさい」
「寂しい」
「私のお母さんはどこへ行ってしまったのかしら」
事務所でPC入力しながら
ときには他の利用者のお尻を拭きながら
はいはいと傾聴に徹していた私であったが
午前4時を過ぎてからのミヨの“憑依”に
私は震撼とする。

「このバカ女、クソ女! 早く出て行け~~~!!!」

電話(緊急コール)の向こうで叫んでいるのは、ミヨだ。

あ、あの、ミヨさん、どうされました?

しかしそんな問いかけに耳を貸さず、ミヨは叫び続ける。

「なんて図々しい奴だ。ここは私の家なのに
勝手に家族を連れて入り込んできやがって
そういうのを何て言うか知ってるか?
不法侵入って言うんだよ。
さあ、早く出て行け~!!!」

ミヨさん、ミヨさん
ここは事務所ですよ。私は事務所の人間ですよ。
落ち着いてください。

それでも止まらない絶叫。
狐のようにつり上がった目、逆立ったマントヒヒ・ヘアのミヨが
きっと、電話の向こうにいるのだろう。
激しい罵声・怒声と想像したミヨの姿に
私は震えた。

こわいよ、こわいよ、ミヨさん、こわいよお!!!

だがこんなコールが続いては仕事にならない。
意を決し、訪室。なんとか寝かせなくては。

ベッドの傍らでミヨの手をさすりながら
ミヨさん、どうされました?
何か怖い夢でも見ました?
そう話しかけると
ミヨは憑依が解けたのか
いつもの穏やかな笑顔で言った。

「あら、あなた今日も夜のお当番なの? 大変ねえ。
あなた、働きすぎじゃない? 少し寝たほうがいいんじゃない?」
さらに
「私なんだかノドがカラカラ。お水くださる?」

さんざん叫んで乾いたノドを潤すと
ミヨは静かに眠りについたのだった。

私をいたわる優しさがあるのなら
どうかミヨよ、夜は寝ておくれ。


ダイエット?

2014-10-22 02:24:06 | 日記
肉付きのいい登録ヘルパー・Kが
あわや利用者さんの生死にかかわるようなミスを犯した。

「申し訳ありません」

神妙な顔つきで責任者にそう詫びたあと、彼女は言った。

「身を引き締めて頑張ります」

“身”?
ダイエットか~い!?

深夜。心温まるカレの存在。

2014-10-17 00:08:04 | 日記
私はよほど彼を愛しているのだろうか…
またまたオトボケM三郎さんの話である。

きのうの夜勤中
誰もが寝入っているはずの午前3時台に
私はあちこちでM三郎さんと遭遇した。

暗い廊下の曲がり角から車椅子でぬぅっと出てきたり
彼の部屋から怪しげな音がするので覗いてみたら
電動髭剃りでヤギのように伸びた眉毛を切りそろえようとしていたり
他の人の排泄介助中にエントランスからチャイムが鳴ったので
あわてて行ってみると
暇だからと外に出たはいいが
鍵を持たずにでたため中に入って来れなくなってしまった彼が
車椅子で扉の向こうに佇んでいたり
かと思えば
すっかり電気を消した食堂でガタンガタンと物音。
すっとんで行ってみたら
車椅子を降りた彼が、歩行器で歩く練習をしていたり…。

もう一度言うが、午前3時である。

M三郎さん、いい加減に寝てちょうだい!!!

規制のない高齢者住宅ではあるが
夜勤中にこうも自由な行動をとられては
一人で館内を守るこっちの身が持たない。

ね、M三郎さん、私も忙しいんだからそろそろ寝てちょうだいな。
いい? 私もう行かなくちゃならないから
お部屋に戻って今度こそ寝てね。

そう言って足早に去ろうとしたら、例によって素っ頓狂な声が返ってきた。

「忙しそーだねー。いったい何やってんの?」

何って、仕事よ、仕事。

「どんな仕事なの? おれ、手伝おうか~?」

思わず大笑いしてしまった。
どんな仕事って、アナタにもやっているように
いろいろな人のところを回っておむつ交換したりしてるのよ。

するとM三郎さん
「へえ~、そんな仕事してるんだ。大変だねえ」

おかしくて愛おしくて、笑いが止まらない。
彼は、ここがどういう場所だかわかっていないのだろう。
そしてこの私のことは
しょっちゅう顔を合わせる忙しそうなご近所さん
くらいに思っているのだろう。

過酷だが、カレといれば心温まる夜勤である。