ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

100歳テルエ、復活!

2019-03-22 00:07:24 | 日記
1月30日付けのブログ「名女優」で紹介したテルエ、100歳。

実は彼女、あれを書いた直後
意識消失によって緊急入院した。

意識消失の方はたいした問題じゃなかったらしいが
検査の結果、すい臓癌が発見!

年齢的なこともあり
もはや医療的には成すすべなし!という医師の判断により
退院して静かに死を迎える準備に入ることになった。
つまり、看取りである。

ああ、名女優・テルエ、いよいよオサラバか。

ところがさすがはテルエ。
ウチに戻ってきたときは寝たきりバアサンだったのに
退院後10日経った今
なんとコールボタンは連打するし
自力で起き上がってベッドに座ることもできるし
信じられないことに
ご飯だってもりもり食べているし…。

こうなるともう、化け物だ。

めでたいことだが
ここまで元気になってくると
入院前のように自分でトイレに行こうとしかねない。
そうしたら、次は転倒&骨折だ。

テルエよ、テルエ。
難しいことかもしれないが
どうか静かに長生きしておくれ。





これは事故じゃありません。

2019-03-18 00:10:22 | 日記
前々回のブログに登場したゴトウショウコ、再び!である。

排泄介助のために、ショウコの部屋を訪ねた。
ドアを開けて目に飛び込んできたのは
床に座っている彼女の姿。

パジャマ姿、そして
いつものように赤いショルダーバッグを下げた格好で
足を投げ出し
洋服ダンスに背中をもたれかけて座っている。

どーしたの、ショウコさん!?

するとショウコは悠然とした微笑みを浮かべながら言った。
「どうしたのって、私は座っているだけよ」

座ってるだけって、ショウコさん、転んだんじゃないの?

「何を仰ってるの? 私、座ってるだけよ」

ひどい認知症の彼女は
自分が置かれている状況が理解できていない。

とにかく起きましょう。
とはいえ、デブッチョの彼女を立ち上がらせるのは至難の業。
私はピッチで同僚に助けを求めた。

ショウコさん、今、若い男の子を呼びましたからね。
彼ならアナタを立ち上がらせることができるから。

ほどなくやってきた若い男の子・吉田くん(32歳)。

任せてください!と言わんばかりに
デブッチョのショウコを抱きかかえた吉田くんであったが
その彼に対してショウコは言い放った。

「若くないじゃないの~~~!?」

3秒前のことすら記憶できないのに
ショウコは
私が言った“若い男の子”という部分を
なぜかしっかりとインプットしていたらしい。

「若い男の子と言ったのに。若い男の子と言ったのに」
吉田君に抱きかかえられてベッドに運ばれるまで
彼女はずっと、そう叫び続けていたのであった。

やや老けてはいるが、吉田君はまだ32歳。
ショウコからしたら孫ほどの歳であるのだが
もはや自分の年齢もわからなくなっている彼女からしたら
吉田君は若い男子ではないのかもしれない。

事務所に帰り、上司に報告。

あのぉ、ショウコさんが転んでいたようなんですが
本人は座っていただけ、と言っているんです。
これって、事故報告書を書かなくちゃダメでかねえ。

心の広い上司は笑いながら言った。
「本人が座っているだけって言ったんでしょ?
じゃ、事故じゃないよねえ」

真相はどうあれ
今朝は面倒臭い事故報告書を書かずにすんだ。

転倒したウチの高齢者には今後
「座っているだけ」というフレーズを覚えさせよう。



ドライ&タフ

2019-03-16 01:05:37 | 日記
月1回開催する
ウチのじいさん、ばあさんのための映画鑑賞会。

上映作品のチョイスに役立っているのが
私がかつて書いていた映画ノートである。

監督から出演者、あらすじ、自分自身の評価まで
びっしり書き込んであるそのノート。
よく書き込んだなあと思う一方
ヒマだったんだなあと思わざるを得ないのだが…

さてさて

泣けた~!
笑えた~!
★45

そんな感想が書いてあったりするものを
映画鑑賞会で上映しようと思うのだが
ちょっと待て!とブレーキがかかる。

上映する前に、もう一度観ておこう。

30代、40代のときに高評価を下した映画を改めて観てみると
え? 私はこの映画のどこに笑ったのか、泣いたのか!?
ちっとも面白くないじゃん!!!

と、愕然とすることが少なくない。

きのうも浅田次郎原作の「天国までの百マイル」を観た。
映画ノートには「泣けた」と書いてあったのに
全然泣けない。
悪くはないが、なんか退屈。

私の感性は、瑞々しさを失ってしまったのか!?

今日は休みだったので
スポーツクラブに行ってから夜は友人と酒。

スポーツクラブで、マシンを独り占めしているジジイがいた。
「そろそろ替わっていただいていいですか?」と言って
そのジジイをどかせた。
(若い頃だったら、そんなこと言えなかったのに)

酒を飲んだ帰りの電車。
空いている一人分の座席スペースをめぐって
私と、40代と思しき男がバチッと目を合わせた。
ほんの2、3秒のことだったと思うが
男は、すごすごと立ち去った。
私は目を合わせた、と表現するが
彼からしたら、睨まれたと思ったのかもしれない。
(若い頃だったら、すごすごと立ち去るのは私の方だったのに)

女60。
どんどん乾いていく。
どんどんタフになっていく。

はっはっは。
歳を重ねるってのも、悪くないねえ。






赤いショルダーバッグ

2019-03-09 23:05:49 | 日記
「わたくし、ゴトウショウコと申します。
今日からこちらでお世話になりますので
よろしくお願いいたします」

毎日黄昏時になると
ショウコはそうして事務所にやってくる。

そう、その記事を書いたのは去年の春のことだった。

あれから1年近く…。
毎日のご挨拶は相変わらずだが
この1年間で変化したことが二つある。

尿失禁がひどくなって
私たちの日々の仕事に彼女のトイレ誘導が日中3回追加されたこと。
そして、彼女が赤いショルダーバッグを持ち歩くようになったこと。

朝、トイレ誘導のために訪問すると
たいがいショウコは布団の中にいる。

朝ですよ~、トイレに行きましょうl

するとショウコは
寝ているときでも下げている赤いショルダーバッグをおろし
起き上がっておもむろにそれを下ろすと
丁寧に布団の中にしまいこむ。

え? 布団の中にバッグをしまっておくの?
「そうよ。だって泥棒が入ってきたら大変でしょう?」

ショウコはわかっていない。
そのショルダーバッグにはお金が入っていると信じているようだが
だからこそ24時間大切に抱えているようだが
実は
交換用のリハパンとパッドしか入っていないのである。





温度計をください。

2019-03-06 23:30:40 | 日記
だいたいにして、男は気が小さい。
身体が弱るとことさらに、気が小さくなる。

ウチのおっさんなんかその典型で
以前、風邪で8度ちょっとの熱が出たときに
あんまりグッタリしているので
からかい半分で「一緒に病院に行ってあげようか?」
と声を掛けたら
なんと、「頼む!」と言ってきた。

まあ、気の小さいこと、小さいこと。

さてさて、我が高齢者住宅の住人、カンジ(87歳)。
優しくて穏やか、しかも頭もしっかりしているので
女性職員は競い合うように彼とのオシャベリを楽しんでいた。

そのカンジが近頃、少々弱ってきている。
いや、もともと高血圧で心臓に問題を抱えているのではあるが
歳を重ねるごとに
自分の病気や動悸、息切れといった症状を
くよくよ、くよくよと思い煩うようになってきたのだ。

そうなると男は手に負えない。

「動悸が激しいんで、ご飯、運んでもらえますか」
「熱っぽいんで、病院に連れて行ってもらえませんか」
「体調が優れないんで、娘を呼んでもらえませんか」
と、いちいちコール。

食事を持って部屋を訪ねると
「この分じゃ、もう長くはないと思うんです」と
蚊の鳴くような声で言う。

担当ケアマネージャーによれば
「身体よりメンタルが弱い人」なのだそうである。

今日もカンジからコールがきた。
何かと思えば、温度計を貸してほしいのだとか。
体温計の間違いかと思ったが、そうではなく
部屋の温度を計りたいのだと。

事務所に温度計なんぞない。
そう伝えると、カンジは切羽詰ったように言い始めた。
「困ったなあ、それは困ったなあ。
実は温度計が壊れてちゃって
部屋の温度がわからないんです。
事務所にないなら、誰か温度計を持っている人を知りませんか?」

なんだかかなり困っているようだ。
仕方ないから部屋まで様子を見に行った。

カンジさん、温度計がなくてどうしてそんなに困ってるの?

「だって、あれがないと部屋の温度がわからないでしょう?」
エアコンに表示されてますよ。
「あれは信用できないじゃないですか!」
そんなことないですよ、みなさんそうしてますし。
「え? みんな温度計なしで暮らしてるんですか?」
え、まあ。あとはご自分の感覚で…
「え、部屋が暑いとか寒いとか、みんな感覚でわかるんですか?
は、はあ。

とにかく家族に電話して温度計を買ってきてもらう
ということで、どうにか話はおさまった。

高齢になると、暑い寒いがわからないことが多く
訪室のたびに「この部屋、暑い?寒い?」と
聞いてくる利用者も確かにいる。
しかし、ここまで温度計に固執する人ははじめてだ。

勤務時間が終わったのでそのまま帰ってきたが
カンジは今ごろ
温度計がないことが心配で心配で
ますます動悸が激しくなって
眠れない夜を過ごしているかもしれない。

いやはや、男は本当に…