ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

その方は男性です。

2015-10-30 23:02:31 | 日記
久しぶりに、ジジイⅩの話をしよう。

「素手で股間を洗え!」事件で世間を騒がせたジジイⅩだが
その後お気に入りのヘルパーさんの出入りを一切禁じられ
さらに他の住人たちから白い目で見られるようになって
すっかり萎んでしまった。
いや、萎んでしまったかに見えた。

しかし性欲を封印せざるを得ない生活の中で
ヤツの溜まりに溜まったストレスは
違う形で爆発するようになった。

ケンカである。

この1、2ヶ月で
ヤツはどれだけケンカを売ってきたことか。

食堂で、廊下で、エレベーターで
少しでも気に入らないことがあると
すぐに大声で「なんだとお~!?」と切れる。
カッと目を見開き、杖を振り上げる。
誰かが止めに入ると、今度はその人に向かって牙をむく。

ますます嫌なジジイになって
ますます孤独なジジイになって
誰も彼を救えない状況なのである。

そんなジジイⅩが、きのうも事件を起こした。

夕食時の食堂でのこと。
いつも自分が見下して、まるで子分扱いしているキヨシさんに向かって
「おい、あそこのオバアチャンにお茶を持っていってやれ!」と命令した。
「なんで俺が?」と思いながらも
気持ちの優しいキヨシさんはやつが指差したテーブルに向かって
お茶を運んでいった。

すると突然、ジジイが怒鳴った。
「そこじゃない! そっちだ、そっちのオバアチャンだ!
お前はなんて頭が悪いんだ!」

おろおろしながら、キヨシさんはようやく
ヤツが言っている席に行き着いた。
「ここ?」
「そうだ、そこのオバアチャンだ」

しかし、そこにいたのは御歳96歳のオジイチャン。
小柄でいつも歩行器を使ってよちよちと歩いており
しかも声が甲高いから、いくらか女性的ではある。
しかし、れっきとしたオジイチャンなのだ。

そういえば、ヤツは最近そのオジイチャンに向かって
「大丈夫?」「ご飯はちゃんと食べなきゃダメだよ」と
猫なで声で話しかけている。

もしかして、オジイチャンをオバアチャンと勘違いして恋をした!?
まあ、そこまでいかなくとも
勘違いしているのは間違いなさそうだ。

「この人はオジイチャンだよ」
と間違いを指摘するキヨシさん。
しかし耳がかなり遠いジジイに、その声は届かず
ヤツはますます声を荒げて
「お前は本当に使えないやつだ」と、キヨシさんを罵倒し続ける。

険悪な空気に包まれる食堂。どの利用者の顔にも、露骨な不快感が浮かぶ。
しかしオバアチャンと間違われているオジイチャンはというと
これまた耳が遠いので
周囲が自分をめぐってざわついているのもまったくご存じないまま
こじんまりと、かわいらしく、ご飯を食べ続けているのであった。

ジジイⅩ、消えてくれ。









これは笑える映画ではなく、泣けてくる映画だった。

2015-10-29 00:58:33 | 日記
友人に誘われて、久しぶりに映画館に足を運んだ。
何年か前までは自称“映画好き”として
週に2本は映画館で映画を見ていた。
もちろん当たり外れはあったが
それでも自分なりに厳選して、見に行っていたつもりだ。

しかし介護職に就いて以来、映画を見る体力が失われ
たまに見に行ってもすぐに夢の中。
いつしか映画館への思いも薄らいで
ついには今日のような大失敗を引き起こす。

誘われるがままに見た映画『ギャラクシー街道』
あ~~~、なんてひどいもんを見てしまったんだ!!!

三谷作品は好き、だった。
『12人の優しい日本人』、『ラヂオの時間』は傑作!
『笑いの大学』、『有頂天ホテル』くらいまでは笑えたなあ。

しかし、どんどんエスカレートするバカ騒ぎ。
だんだんイヤになってきた。

それが・・・
映画音痴になってきたところへ映画好きでもない友人からの誘い、
これにふらふらと乗ってしまった私がバカだった。

帰ってきてネットで見てみたら
この『ギャラクシー街道』、とんでもなく悪評である。
三谷幸喜さん、かなり叩かれているようである。

しかし三谷さんが悪いのではないのです。
ふらふらと誘いに乗るほど映画音痴になった私が
イケナカッタのです。(涙)

幸せのハーモニカ

2015-10-25 00:39:49 | 日記
ミネさんの記憶障害は、我が高齢者住宅でピカイチである。

身の回りのことは何でも自分でできるが
立ち上がった途端、座っていたときの記憶が抜ける。
箸を老いた途端、食べていたときの記憶が抜ける。
潔くて気持ちいいくらいの記憶障害だ。

しかしそんなミネさんに、素晴らしい特技があった。
ハーモニカ演奏である。

ハーモニカ演奏なら丸夫の得意芸。
(丸夫については10/12付のブログにエロジイサンとして紹介している)
食堂で丸夫の前に座ることの多いミネさんは
彼が得意そうにハーモニカを吹くのを見ていて
ムラムラと意欲が湧き上がったらしい。

それはきのうのことだった。

昼食時を終えた食堂から、美しいハーモニカの音が聞こえる。
のぞいてみたら、演奏者は丸夫ではなくミネさんだ。
曲は「故郷」。
それは見事な演奏である。

聞き惚れていたほかの利用者たちもいつしか曲に合わせて歌い始め
食堂中が「故郷」の大合唱となった。

ありえない。
介護職員が企画しても恐らくここまでうまくはいかないだろう。
自然発生的に生まれた老人たちの大コーラス。
感動! なんて豊かな時間なんだ!?

曲が終わると、いっせいに拍手が起こる。
もちろん端っこで一緒に歌っていた私も拍手喝采である。

何曲か歌ったところで老人たちの歌声喫茶はお開きとなり
自分の部屋がわからないミネさんを私が道案内した。

食堂のある3階からミネさんが住む1階まで歩く道すがら
たくさんの人が彼女に声をかけてきた。
「素晴らしかったわ、今の演奏」
「お上手ねえ、ハーモニカ」

しかし当の本人はその都度、びっくりする。
「へっ? ハーモニカ? 私、そんなもん吹けんよ」
「それにハーモニカなんか、私、持ってないし」
けれども彼女の手にはしっかり、黒いケースに入ったハーモニカが。
「へっ、なんで私、こんなもん持ってるんやろ?」

実は前日、丸夫のハーモニカを勝手に借りて吹いていたのを見たので
これは衛生上よろしくないぞ!と思った私が
食事に案内するとき、無理やり彼女自身のハーモニカを持たせたのだ。
そのときも
「なんでこれを持っていかなきゃいけんの?」と
ミネさんはとっても不思議そうだったっけ。

明日の朝もハーモニカを持たせてねと、同僚に伝えてある。
おそらくミネさんは、またしても戸惑うのだろう。
それでも食後にハーモニカ演奏を披露し
みんなに褒め称えられて
同じように
「へっ? ハーモニカなんか、私、吹けんよ」
「へっ? なんでこんなもん持ってるんやろ?」
と、びっくりするのだろう。

いいなあ、ミネさん。
あなたの記憶障害が認知症のモデルスタイルだとしたら
私もいつか、そうなりたいものである。





忘れっぽい元・乙女たちの喧嘩

2015-10-23 01:49:30 | 日記
ゆきえさんとキワさん。
この2人、ケンカばかりしている。

わが身の不幸を嘆くゆきえさんに
「あんた、ぐちぐち言ってんじゃないわよ!」とキワさんが切れる。
すると、「あんたの顔なんか見たくない!!」と
ゆきえさんがテーブルを叩いて立ち上がる。
ケンカはいつもこのパターンだ。

しかしこの2人
実はとても仲がよく
実は、ともに著しい記憶障害のある70代。

和やかに食事をしている周りの雰囲気をぶち壊すほど
激しい言い争いをしても
幸せなことに
次の食事時間にはケンカしたこともすっかり忘れて
「あら、元気?」と屈託のない笑顔で挨拶を交わし
ケンカが勃発する寸前まで
まるで女学校からの親友のごとく
楽しげにオシャベリしているのである。

過去の恨みつらみは覚えておいでのようだが
ついさっきの諍いはすぐに忘れる認知症の元・乙女たち。
彼女たちにとって記憶障害は
今を生きるための術なのかもしれない。


高級の意味がわからん!!!

2015-10-17 00:45:10 | 日記
介護学校で一緒だった友人が
入所金3000万円の高級有料老人ホームで働いている。

彼女と飲むとき、いつも尋ねる。
高級有料老人ホームの“高級”とはなんぞや!?
入所金3000万円の意味とはなんぞや!?

数ヶ月前に彼女がそこへ転職したばかりのころ
その答えは
「働いている人たちの意識が違う」
「ご家族が使う応接間が立派」
であった。

けっ!と思った。
友人はとても魅力的な女性であるが
“3000万も払わなければ入れない高級老人ホーム”には
平民根性ゆえか、どうにも反発心が募るのである。

そして先週の飲み会でも
性懲りもなく私は同じ事を尋ねた。

いくつかの答えの中で、何さ、それ!?と思ったものが2つ。

まずは、食事がいい。
月に1度は“お寿司の日”があり
嚥下(飲み込み)困難な高齢者には
そのお寿司が
ミキサーにかけられ、形だけは原型に作り変えられて供されるのだと言う。

酢飯の上に中トロやらウニやらが乗った握り寿司が
一つ一つソフト食に姿を変えて供される
……おいしいのか、それ!?
いや、おいしいんだろう、きっと。
長年、高齢者の食事を研究してきた方々の努力の成果なのだ
間違いなくおいしいのだろう。
というか
普通のシャリを噛んだり飲み込んだりする力のない高齢者に
食の楽しさを味わっていただくための一番の方法なのだろう。

そうね、そうねと、己に言い聞かせる。
そんなことで牙をむくこともあるまい。

しかしもう一つの高級たるゆえんは
1日2回のティータイムには
職員が白いシャツにギャルソン風の黒いエプロンをつけて
給仕すること、なのだという。

そりゃあ、小汚い格好をしたオバチャンが
出がらしのほうじ茶を入れてくれるより
きれいなナリをした女性たちがドリップコーヒーを運んでくれたほうが
気持ちはいいのだろうと思うけれど
……やりすぎじゃねっ!?

どんな老後になるか
その人の性格や健康状態や残したお金によって
あるいは子供の労力や経済力、優しさによって
それぞれだとは思うが
今の私としては
酢飯のソフト食とギャルソンが運んでくるドリップコーヒーなんぞ
クソ食らえ~!である。

(不適切な表現がありましたことをお詫びいたします)