久しぶりに、ジジイⅩの話をしよう。
「素手で股間を洗え!」事件で世間を騒がせたジジイⅩだが
その後お気に入りのヘルパーさんの出入りを一切禁じられ
さらに他の住人たちから白い目で見られるようになって
すっかり萎んでしまった。
いや、萎んでしまったかに見えた。
しかし性欲を封印せざるを得ない生活の中で
ヤツの溜まりに溜まったストレスは
違う形で爆発するようになった。
ケンカである。
この1、2ヶ月で
ヤツはどれだけケンカを売ってきたことか。
食堂で、廊下で、エレベーターで
少しでも気に入らないことがあると
すぐに大声で「なんだとお~!?」と切れる。
カッと目を見開き、杖を振り上げる。
誰かが止めに入ると、今度はその人に向かって牙をむく。
ますます嫌なジジイになって
ますます孤独なジジイになって
誰も彼を救えない状況なのである。
そんなジジイⅩが、きのうも事件を起こした。
夕食時の食堂でのこと。
いつも自分が見下して、まるで子分扱いしているキヨシさんに向かって
「おい、あそこのオバアチャンにお茶を持っていってやれ!」と命令した。
「なんで俺が?」と思いながらも
気持ちの優しいキヨシさんはやつが指差したテーブルに向かって
お茶を運んでいった。
すると突然、ジジイが怒鳴った。
「そこじゃない! そっちだ、そっちのオバアチャンだ!
お前はなんて頭が悪いんだ!」
おろおろしながら、キヨシさんはようやく
ヤツが言っている席に行き着いた。
「ここ?」
「そうだ、そこのオバアチャンだ」
しかし、そこにいたのは御歳96歳のオジイチャン。
小柄でいつも歩行器を使ってよちよちと歩いており
しかも声が甲高いから、いくらか女性的ではある。
しかし、れっきとしたオジイチャンなのだ。
そういえば、ヤツは最近そのオジイチャンに向かって
「大丈夫?」「ご飯はちゃんと食べなきゃダメだよ」と
猫なで声で話しかけている。
もしかして、オジイチャンをオバアチャンと勘違いして恋をした!?
まあ、そこまでいかなくとも
勘違いしているのは間違いなさそうだ。
「この人はオジイチャンだよ」
と間違いを指摘するキヨシさん。
しかし耳がかなり遠いジジイに、その声は届かず
ヤツはますます声を荒げて
「お前は本当に使えないやつだ」と、キヨシさんを罵倒し続ける。
険悪な空気に包まれる食堂。どの利用者の顔にも、露骨な不快感が浮かぶ。
しかしオバアチャンと間違われているオジイチャンはというと
これまた耳が遠いので
周囲が自分をめぐってざわついているのもまったくご存じないまま
こじんまりと、かわいらしく、ご飯を食べ続けているのであった。
ジジイⅩ、消えてくれ。
「素手で股間を洗え!」事件で世間を騒がせたジジイⅩだが
その後お気に入りのヘルパーさんの出入りを一切禁じられ
さらに他の住人たちから白い目で見られるようになって
すっかり萎んでしまった。
いや、萎んでしまったかに見えた。
しかし性欲を封印せざるを得ない生活の中で
ヤツの溜まりに溜まったストレスは
違う形で爆発するようになった。
ケンカである。
この1、2ヶ月で
ヤツはどれだけケンカを売ってきたことか。
食堂で、廊下で、エレベーターで
少しでも気に入らないことがあると
すぐに大声で「なんだとお~!?」と切れる。
カッと目を見開き、杖を振り上げる。
誰かが止めに入ると、今度はその人に向かって牙をむく。
ますます嫌なジジイになって
ますます孤独なジジイになって
誰も彼を救えない状況なのである。
そんなジジイⅩが、きのうも事件を起こした。
夕食時の食堂でのこと。
いつも自分が見下して、まるで子分扱いしているキヨシさんに向かって
「おい、あそこのオバアチャンにお茶を持っていってやれ!」と命令した。
「なんで俺が?」と思いながらも
気持ちの優しいキヨシさんはやつが指差したテーブルに向かって
お茶を運んでいった。
すると突然、ジジイが怒鳴った。
「そこじゃない! そっちだ、そっちのオバアチャンだ!
お前はなんて頭が悪いんだ!」
おろおろしながら、キヨシさんはようやく
ヤツが言っている席に行き着いた。
「ここ?」
「そうだ、そこのオバアチャンだ」
しかし、そこにいたのは御歳96歳のオジイチャン。
小柄でいつも歩行器を使ってよちよちと歩いており
しかも声が甲高いから、いくらか女性的ではある。
しかし、れっきとしたオジイチャンなのだ。
そういえば、ヤツは最近そのオジイチャンに向かって
「大丈夫?」「ご飯はちゃんと食べなきゃダメだよ」と
猫なで声で話しかけている。
もしかして、オジイチャンをオバアチャンと勘違いして恋をした!?
まあ、そこまでいかなくとも
勘違いしているのは間違いなさそうだ。
「この人はオジイチャンだよ」
と間違いを指摘するキヨシさん。
しかし耳がかなり遠いジジイに、その声は届かず
ヤツはますます声を荒げて
「お前は本当に使えないやつだ」と、キヨシさんを罵倒し続ける。
険悪な空気に包まれる食堂。どの利用者の顔にも、露骨な不快感が浮かぶ。
しかしオバアチャンと間違われているオジイチャンはというと
これまた耳が遠いので
周囲が自分をめぐってざわついているのもまったくご存じないまま
こじんまりと、かわいらしく、ご飯を食べ続けているのであった。
ジジイⅩ、消えてくれ。