ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

続・チャバネとサチの共同生活

2017-02-27 23:35:01 | 日記
それは2月に入って間もない日のこと。

夜勤者しかいなくなった時間帯に、サチさんからコールがあった。
「電気がつかないんです」という。
懐中電灯を持って駆けつけた職員は
とりあえず電気のブレーカーを見てみましょうと
天井近くに据え付けられたその蓋を開けた。

ギャ~~~!!!

蓋を開けた途端、バラバラと落ちてきたのはカレラ
そう、数え切れぬほどのチャバネゴキブリだった。

電気でほどよく温まったブレーカーのボックスは
どうやらカレラの御殿になっていたらしい。

コトの重大さに改めて慌てふためいた管理責任者は
翌日さっそく家族に連絡し、本人を説き伏せて
ゴキブリ駆除のプロにおいでいただくことにした。

すぐに飛んできたプロ。
しかしそのプロの経験をもってしても、これは尋常ではなかった。

「いますね。相当いますね」
ドアを開けるなり、プロは言ったという。
そして部屋を調べ始めて5分も経たぬうちに
プロはこう言ったそうだ。
「推定、1万匹・・・」

聞けば、普通チャバネゴキブリは巣窟とした部屋から出ないのだが
飽和状態になると部屋から外に飛び出していくらしい。
サチさんの部屋の玄関からちょろちょろとカレラが顔を出していたのは
つまり、飽和状態になっていたって事のようである。

プロが仕掛けた薬によって
カレラは今、ばったばったと息絶えているようだが
(それはサチさんが毎朝出すゴミ袋に
絶命した無数のカレラがいることでわかった)
元祖・片付けられない女がその生活を改めない限り
カノジョとカレラの共同生活は果てしなく続くことだろう。

ああ、厄介事が絶えないわが高齢者住宅よ。


チャバネとサチの共同生活

2017-02-26 00:09:56 | 日記
事件である。
介護サービス付き高齢者住宅ならではの事件である。

介護サービスを利用しない自立の利用者サチさん(85歳)は
かつて編集者として忙しく働き
もう悔いはないというほど海外旅行を楽しみ
今も食堂を利用することなく3食とも居室のキッチンで自炊する
現役バリバリの高齢者である。

しかしこのサチさんには、とんでもない癖(へき)があった。

実はこの人、元祖・片付けられない女なのである。

彼女の部屋の玄関からチャバネゴキブリが出入りすることは
おととしから知れ渡っていた。
しかしここは仮にも賃貸契約を結んでいる住宅であり
高齢者とはいえ自立している方の生活に
ズカズカと介入することはできない。

この時点ではまだチャバネたちが居室と廊下を
ちょろちょろと出入りするぐらいで、他に被害はなかった。
だから“家宅捜査”まではできなかったのだ。

さて、去年から彼女は私の担当になった。
そしてモニタリングのため訪室するたび
私はチャバネゴキブリたちの歓迎を受けることになった。

友人たちが送ってくれるお菓子や果物が段ボウルごと詰まれ
生協から配達される生鮮食品や冷凍食品が冷蔵庫に入りきらずに放置され…
部屋は、足の踏み場もない。

どうぞと促されてテーブルに座ると
目に入ってくるのは床どころか壁や冷蔵庫のドアを歩き回るカレラ。
供されたお菓子や紅茶のカップの周りを
我が物顔で走り回るカレラ。

サチさんが立ち上がった瞬間を狙って
あわててお菓子をポケットに押し込む。
戻ってきた彼女は「そんなにおいしかったのならもっと召し上がって」と
おかわりを運んでこようとするが
めっそうもございません!と、いつも頑なにお断りしたものだった。

この状況は逐一上司に報告しており
迷惑がるサチさんを説き伏せて
掃除のサービスもこれまで2回ほど入らせてもらってきた。

しかし、それだけでは何も解決するはずがなく
いよいよ、事件が起こってしまったのである。

つづく。



おっさんの幸せな人生

2017-02-19 00:18:30 | 日記
おっさん、人生最大のモテ期である。

バレンタインデー前日から3日間
おっさんは両手にあふれるほどのチョコレートを抱えて帰ってきた。

すべて彼が勤めているデイサービスの利用者
そう、おばあちゃまたちからの贈り物なのだが
驚くことにどれもこれも本命チョコばりの豪華な代物なのだ。
他の若い男性職員はもらえなかったらしいから
おっさん、聞いている以上の人気者なのだろう。

これはチヨちゃんからで、こっちはサッちゃん
で、え~と、この赤いのがトミさんだったかな。

一つ一つ、くれた人の名前を呼びながら
私にそれらを見せるおっさん。

幸せそうだなあ。

今日は息子と、同棲中のカノジョの誕生日を祝うため
4人でご飯を食べに行く。

どんなくだらないギャグを飛ばしてもコロコロと笑ってくれるカノジョに
おっさん、相好を崩しっぱなし。
「いい息子を持ったよなあ。アイツは本当にいい娘と出会ったよなあ。
オレ、本当に幸せだよなあ」
帰りの電車でも、ほろ酔い加減のおっさんは最高の幸せを噛みしめていた。

そして明日は、彼が講師を務める折り紙教室の第2回目。
女性ばかり、10数名の生徒が集まるという。

縁起でもないが
おっさんよ、今ポックリ逝ってしまったら
アンタはきっと、誰よりも幸せな男だろう。


ケイコ日記ーその8

2017-02-17 00:38:18 | 日記
認知症治療薬アリセプトの量を調整したことが功を奏したのか
ケイコの様子がずいぶん落ち着いている。

鏡の中の“女の子”は今でも存在しているが
話しかける言葉も表情もいたって柔和。
攻撃的な言動は一切見られない。

気持ちが落ち着いてきたせいだろう、
ケイコは最近、しきりに生きがいを求めている。

「私、こんな生活をしていたらボケてしまうと思うんです。
だから何でもいいからお仕事がしたい。
たとえば、ここでトイレの掃除をしたりお皿を洗ったり
そんなことでもいいんです。
何か私にお仕事はないでしょうか」

ケイコ~、立派じゃねぇか!

だがしかし
彼女はこのところ排泄が間に合わないらしく
部屋のトイレの床には尿溜まりができていたり
便が転がっていたりする。

夜中に起き出して物を食べることも多く
ベッドや床にはお煎餅や海苔、チョコレートの欠片が散乱している。

ケイコよお~
そんなに勤労意欲があるのなら
まずは自分の部屋の掃除からはじめてはくれまいか!?

ただね、こう思いもする。
専業主婦が誰からも評価されない家事労働より
社会で働き、対価を得たい、認めてもらいたい!と考えるように
ケイコも外の世界で認められたい、自分が生きていることを実感したい
そう考えているんだろうな、と。

あ、だったらこんな方法はどうだ?
彼女はかつて某宗教団体の幹部として
多くの信者から相談を持ちかけられていたらしい。

職員がケイコ教の信者になりすまし
代わる代わる人生相談をしにケイコの部屋を訪れたら
彼女は自分が求められる存在であることを喜び
トイレ掃除に見出す以上の
生きがいや張り合いを持ってくれるに違いない。

……いろいろ、いろいろ考えたら
やっぱり無理があるよねえ。







58歳の利用者様

2017-02-14 23:19:14 | 日記
この話はまだしていなかったと思うのだが
去年の11月に、58歳の男性(独身、巨漢)が入居してきた。

まだそんなに若いのに
なぜ介護サービス付き高齢者住宅に入ってきたか?

知らない方のために一応説明すると
年齢的に介護保険の第2号被保険者に当たり
網膜症、腎症、神経障害という糖尿病性三大合併症をもつ彼は
介護サービスを受ける資格を有しているのである。

腎症により週2回透析を受けており
ウチの食堂で提供しているのも塩分、水分、カリウムなどの制限食。
見た目にも悲しい食事で
食堂に案内する私たちも思わず同情せずにいられなかった。

しかし、気の毒だね、とささやきあっていたのも最初の頃だけ。
今では職員の心に
彼を温かくお世話しようという気持ちがなくなっている。

というのも、ヤツは(ここからはヤツと呼ばせていただこう)
私たちが食事に気を配り、透析のための通院を介助しているというのに
早朝からコンビニに行ってサンドイッチや唐揚げ、コロッケを買いあさり
部屋で好き放題に食べているのだ。

さらに
コンビニでエロ本も買いあさる、
お兄さんが運んでくれたパソコンで
1日中「人妻温泉××」とか「熟女が××」といった映像を見る
といった具合に
介護保険料を使ってエロい生活を満喫しているのである。

お兄さんによれば
ヤツは若くして糖尿病の合併症を患ってしまったがために
仕事もせず、人とも関わらず
ひたすらパソコンと向き合う生活を続けてきたらしい。

どーりで!

私たちが話しかけても、返ってくる言葉は「すみませ~ん」だけ。
人と、目をあわすこともできない。

だけどね
そこまで病気を進行させてしまったのは
自己管理ができなかったってことで
現に今も、視力減退、透析治療、足も腐りかけてるほど
症状が進んでいるにもかかわらず
こっそり(いや、実はみんな知ってるけど)
コンビニで好きな食べ物を買って食べてるわけでしょ?

自分で生きようとしない58歳の男を
なんで私たちが世話しなきゃならんのか?
なんでみんなが払っている介護保険料が
ヤツの快適&快楽生活にあてがわれているのか?

腹が立つったらありゃしない。

ウチにとっては大切なお客様に違いないが
私はここで叫ぶ。
お前、出て行け~~~!!!