ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

シュガー

2020-11-29 01:30:00 | 日記
ニューヨーク帰りの婆さんがいる。

若い頃からニューヨークでファッションの仕事をしていたが
老いて認知症になってしまった彼女は
やがてゴミとゴキブリとネズミの天下となった独居マンションから
追い出されてしまう。

それを知った弟二人が大慌てで日本に連れ戻し
ウチに入居させた、というわけである。

そこまでの話を、ずいぶん前に書いた。
この先ブログのネタになるだろうと思っていたが
やっぱり、だ。

認知症に加えて、もともと自分の生活を管理できなかったらしい彼女は
悪魔に導かれるまま、糖尿病になってしまった。
それも、かなり重症である。

毎日のインスリン注射が必要。
しかし、彼女自身にそれが出来るはずもなく
だからといってそれは医療行為であるため
介護職員がやってはならない。

というわけで、私たちが“補助”する形で
毎日昼食前、彼女自身にインスリン注射を打ってもらうことになった。

「インスリン注射のお時間ですよ」と居室を訪ねると
彼女は笑顔満面で言う。
「Oh Thank You! シュガーのお注射ね?」

シュガー?
糖尿病のことを英語でシュガーというのか?と思って調べてみたが
全然違う。
しかし彼女は糖尿病を“シュガー”と呼ぶのだ。

まぁいいか、名前なんかどうでもいいから、とっとと注射を打ってくれ。

はい、これを消毒して!
はい、このダイヤルを回して!
毎日毎日丁寧に教えるのだが、当然彼女は覚えない。
ただでさえ忙しいのに、これでどれだけ時間を食うことか。

イヤになる。

さらに、さらにだ。
何が頭にくるかというと…

食堂の朝食では満たされないらしい彼女は
毎朝近くのコンビニでポテトチップスと肉まん(あるいはスイーツ)
そしてお砂糖たっぷりのミルクティーを買ってくる。

「シュガーには毒よ」と注意すると、こう言い返してくる。
「シュガー、シュガーってみんな言うけど
私は残りの人生、好きなものを食べて生きるって決めたの。
人生は楽しまなくちゃ!」

はいはい、結構ですよ。
人生を楽しむ。それは大賛成ですよ。
でもね、それじゃあ私たちが忙しい時間を縫って
あなたがインスリン注射を打つ手伝いをする手間ひまに
何の意味があるの?

いい加減にしろ、このシュガーババア!!!

介護のやるせなさを、痛烈に思う。


そこは覚えなくてよろしい!!!

2020-11-17 23:47:00 | 日記
何を覚えていて、何を忘れてしまうか
認知症といってもそこは人によって全く異なるのだが
私が思うに
一つだけ共通していることがある。

それは、覚えいてほしいことは忘れ
覚えてほしくないことだけはしっかり覚える、ということだ。

例えば
骨折していることを忘れて歩こうとする。
ズボンを履くのを忘れて食堂に来る。
自分の部屋を忘れて他の人の部屋に入ってしまう。
エレベーターに乗るには乗るがボタンの押し方を忘れて
ずーっとエレベーターの中に立ちすくんでいる。

ま、仕方ない。
それがしっかり覚えられるくらいだったら
家族もウチには入居させないだろう。

しかし、だ。

アナタたちはどーして
「困ったら事務所を訪ねる」ということだけ覚えてしまうのか!?

毎日ひっきりなしに
トントンと事務所のドアをノックする彼女たち。

「大変!お米がないの。買いに行かなくちゃ」
ーー大丈夫ですよ、ご飯は三食とも食堂で食べますからね。
「すみません、赤ちゃんにお乳をあげたいんですけど」
ーーアナタに赤ちゃんはいませんよぉ。
「テレビが映らないの。壊れちゃったみたい」
ーーはいはい、見てみましょうね。
(部屋に行って見てみると、大概、延長コードのコンセントが
同じ延長コードのソケットに差し込まれている。
これじゃ映るはずがない!)

訴えの内容は日によって少し違うが
だいたいのパターンがあるので
こちらもそれほど対応に苦慮しない。

しかし入れ替わり立ち替わりやってくると、さすがに発狂寸前。
たとえ認知症の方であっても“接遇”を大切に、と教育されているけれど
高齢者の“尊厳”を大切に、と叩き込まれているけれど
こんな毎日じゃこっちの精神が破壊するわ!!!

ねえ、色々なことを忘れてしまうのは仕方ないけれど
どーしてアナタたちは事務所の存在だけは忘れないの?
自分の部屋を忘れてしまうのに
どーして事務所の場所だけは忘れないの?

どーか、どーか
困ったときに事務所を訪ねてくることは覚えないでくれ!



ワタシノコトヲ、シッテイマスカ?

2020-11-07 00:33:00 | 日記
もし
知らない人たちに囲まれて
朝も昼も夜もない
色も音も匂いもない世界で
自分の存在さえわからなくなってしまったら…
それはどんなに怖いことだろう。

チエミは今、そんな世界にいるのかもしれない。

チエミは80歳。
2年前にウチに入居してきたときは軽い認知症を患う程度だったが
大腿骨を骨折して入院してからというもの
坂道を転がるがの如く崩壊しはじめた。

言葉は支離滅裂で、字も読めない。
昼夜を問わず裸足で建物内を徘徊し
自分の名前すら忘れてしまった。

周囲は彼女の奇異な言動を嘲り、ときに怒鳴りつける。
それがますます、症状を加速させてしまったのだろう。

認知症の進行過程でよく見られる、不安と恐怖。

チエミも人を捕まえては
「ワタシハドウシタライイノ?」
「ワタシハバカニナッチャッタノ?」と問いかけるようになった。

なんとかしてあげたい。

話を聞いたりアクティビティに参加させたり
かつて趣味としていた編み物をさせてみたり
出来る限りのことはやっている。
でも、どれも効果なし。
夫もすでに亡くなり、もともと子供もいなかったので
家族の支援すら受けられない。

彼女を救う手立てが見つからないのだ。

そしてきのうのこと。

唯一の救いらしい事務所の扉を叩いて、彼女が言った。

「ワタシノコトヲ、シッテイマスカ?」

勤めはじめてから8年。
こんなに悲しい言葉を聞いたことはない。
彼女は人に尋ねることで
自分の存在を確かめようとしているのだ。

知らない人たちに囲まれて
朝も昼も夜もない
色も音も匂いもない世界で
自分の存在さえわからなくなってしまったら…
それはどんなに怖いことだろう。

不謹慎であると承知で神様に願う。

チエミを天国に連れて行ってあげてください。








ヤバイっす

2020-11-05 02:42:00 | 日記
一昨日の帰り道。
Spotifyで大好きな米津玄師の曲を聴きながら
気持ちよ〜く土手を歩いていた。

ふと、めっちゃくちゃ面白かったことを思い出し
思わず声を上げて笑う。

幸いなことに近くに人はいなかったし
マスクもしていたから
一人で爆笑する私に奇異な視線は向けられなかったが・・・。

そして私は、きのうから悶々としている。
あのとき、いったい何を思い出して一人爆笑したのか⁉︎

思い出そうとすればするほど、遠ざかっていく記憶。

思い出し笑いしたことだけは、確かに覚えている。
でも、その内容がいまだに思い出せない。

おーい、お前は何がそんなに面白かったのか!?

ヤバイぜ、私、

一方おっさんは…

3、4日前、おっさんが肩を落として言う。
「ショックだったよ。俺、電車で若い女の子から席を譲られちゃったんだ」

その日のコーデを確認する。
白いニットのジャケットにジーンズ、そして黒のニット帽。
別にジジ臭くはない。
むしろセンスのないおっさんにしてみたら上等だ。

なのに、席を譲られた。

原因は目尻の笑い皺か?
それとも女房には気づかなかった加齢臭か?

深く傷つくおっさん。
夫がジジイ扱いされたことで、私も少し傷つく。

ヤバイぜ、私たち。

脳のシワが伸びるのを防ぎ
お肌のシワがたるむのを防ぎ、と
少しでも努力していかないとなあ。