ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

律儀な認知症、ゴトウショウコ

2018-03-31 22:21:37 | 日記
ゴトウさんのことは前にも書いたことがある。

毎日夕方の4時か5時になると決まって事務所をノックし
「こんにちは、わたくしゴトウショウコと申します。
今日からこちらでお世話になります。
どうかよろしくお願いいたします」
と、丁寧なご挨拶。

かれこれ3年もこれを続けているのだから
認知症とはいえ、なかなかに律儀な老女である。

きのうもそのゴトウさんがやってきた。

トントントン
ドアを開けるといつものように笑顔で佇んでいる。

はあい、いつものご挨拶ですね?
ところが、いつもと台詞が違った。
「わたくしゴトウショウコと申します」
は、いつもとオンナジだ。
しかしそのあとが
「いよいよ帰ることにいたしました。
今日までお世話になりました」と、きた。

あらあら、それは残念です。
どうかお気をつけて。

相対した職員が、彼女のとぼけた挨拶に合わせる。

ドアを閉めてから、事務所内は大爆笑。
いや~、ゴトウさん、今日は新しいパターンで攻めてきたね。
ウケるわあ。

しかしそれから2時間後
私たち職員は慌てふためくことになる。

食事がはじまるころ、ゴトウさんの嫁から電話が。
「あの、義母が突然ウチに帰ってきたんですけど…」

3年前の入居以来
一人で外に出たことのないゴトウさんが、
会話は3パターンほどしかない認知症のゴトウさんが、
誰にも気づかれることなく
(いや、挨拶はしていったのだけれど)
バスに乗って一人で家に帰ってしまったのだ。

認知症の高齢者様
あなた方のスイッチがいつどこで入るのか
本当に予測不能です(冷や汗)。

ハルオとケイコの深夜劇場

2018-03-26 23:06:25 | 日記
「お~い、お~い、助けてくれ~!」

夜間、ハルオが大声で叫んでいる。

難聴のハルオは声が大きく
寝たきり生活でよく腹から声が出るものだと感心するほど
野太い声で叫ぶ。

エレベーターから降りた途端その声に驚いた私は
迷わず彼の部屋に向かって走る。

どーした、ハルオさん!?

すると
ベッドで寝ている彼の傍らに立っていたのは、妻のケイコ。
ケイコ日記でお馴染みの
悲しいほど認知症が進んでしまったケイコであった。

え? いったい何があったのか!?

戸惑う私の顔を見て、ケイコはすかさず言った。

「今、大きな男がパパを襲ってきて
私が助けに来たら慌てて逃げていったんです」

な、ばかな。
またしてもお得意の作話である。
まったく、ケイコは瞬時に話を作る天才だ。

視線をハルオの方に向けると
彼は拘縮してグーのままの拳を顔の前で振り
違う、違うとアピールしている。

「ばあさんが、うちのばあさんが・・・」

暗がりの中で目を凝らせば
ハルオの口の周りはチョコレートだらけ。
どうやら夜中にふと目覚めたケイコが
夫に栄養をつけさせようと
隣室からチョコレートを持って訪ねてきて
それを無理やり口に入れられることに困惑したハルオが
「助けてくれ~!」と叫んだらしい。

夜中のケイコは職員にとっても恐怖だが
半身不随で逃げることのできない夫・ハルオにとっては
もっともっと、恐怖なのだろう。


私はエライ?

2018-03-25 00:18:52 | 日記
要支援のAさんの家に、掃除の援助で訪問した。

いつも行っている登録ヘルパーが休みだったので
ピンチヒッターだ。

ドアが開く。
すみませ~ん、今日はいつものヘルパーさんがお休みで…

言うなり、Aさんが後ずさる。

「え、あなたが!?
あなたのような偉い方にお掃除していただくなんて…」

は!?
とんでもありません。
私、偉くもありませんし。

しかし彼女は腰を低くして言う。
「いえいえいえ
あなたのような偉い方に来ていただくなんて申し訳ありません」

ナンでだ!?
他のスタッフより明らかに年輩だと思っているのか?
それとも、日ごろの態度がエラソーなのか?
(そんな態度はしていないつもりだが)

前にも同じようなことが何回かあった。

私、どうやらエライらしい。
年食ってるのも、悪くないね。笑

ああ、花火

2018-03-16 01:24:05 | 日記
久しぶりに夢の話。

千原ジュニアと二人で花火大会に行くことになった。

待ち合わせ場所に行ってみると
ジュニアの横に、なぜか兄ちゃんである千原せいじがいた。

そうそう、と私はせいじに言った。
「キワさんがね、アナタの悪口を言ってたわよ」。

キワさんとは、ここに何度も登場している
認知症の性悪女・キワである。

悪口を言われていたと聞いて、キレルせいじ。
「あのオバハン、そんなことゆーてたんか!?」

怒り心頭して、せいじはキワのもとへ走る。

「おい、オマエ!」

つかみかからんばかりの勢いでキワの前に立つ、せいじ。

しかし、キワは怯まない。
怯むどころか、いつも着ている花柄のパジャマのボタンを外しながら
妖艶なまなざしを向けてこう言った。

「私、一人で脱げるわ」

なんともオゾマシイ夢。

別にファンではないが
ジュニアと花火を観ることなく目覚めたことが
惜しくてならない。

白寿の女に翻弄された夜

2018-03-12 23:47:36 | 日記
トシ、99歳。
ウチでは最高齢の女性利用者である。

きのうの夜勤は彼女にやられた。

まず1つ目は
他の職員がみんな帰り私だけが残された午後9時。
1階に下りるエレベーターのドアが開いたとき
私は思わずヒッ!と声を上げて後ずさる。

車椅子に乗ったまま上半身をぐったりと横に倒し
片手をだらりと落としたままのトシが
そこにいたのである。

とっさによぎる、「死」の一文字。
「トシさん! トシさん!」
あわてて叫ぶ。

するとトシはヨダレをすすりながらおもむろに目を開け
「あれ、私寝てた?」と言う。

まったくもう、心配させよって!?
ま、こんな時間、こんなところで死なれるよりいいか。

続いて午前1時。
他の利用者をトイレに連れて行っている最中に
トシからコールが来た。

「すぐ来てください。大変なんです。すぐに来て!」
悲痛な声を上げている。
トシの「大変!」は、いつも大変なことではない。
それでも行かないわけにも行かず部屋を訪ねてみたら
ベッドで四つん這いの格好をしたトシが
私を振り返りつつ「ああ、来てくれてよかった」と安堵している。
どうしたの? 何が大変なの?
すると、数秒間私の顔を凝視した挙句、彼女は言った。

「なんで呼んだのか忘れちゃった」

はいはい。そういうこと、あるよね!って…
おい、こら、早く寝ろ!

締めくくりもコールだった。

午前2時半。休憩のど真ん中である。

「大変なの、トイレにいるんだけど、車が動かなくなっちゃって」

ああ、またかい?
貴重な休憩時間、ソファに横たわってウツラウツラしていたのだが
車椅子が動かないというのが本当なら大変だと、再び急行。

するとヤツは「ああ、すっきり、すっきり!」と
涼しい顔してトイレから出てくるではないか!?

おお、トシよ、トシ。
わたしの休憩時間を返しておくれ。