ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

残像のように、薄れていく記憶

2014-02-27 00:06:09 | 日記
大好きな利用者さんが亡くなられた。

はるか岐阜から
娘さん夫婦の家に近いウチの施設に
ご夫婦で引っ越してこられたTさん。
亡くなったのは、ご主人の方である。

末期ガンで余命宣告されていたが
痛い、辛いと嘆くことなく
車椅子を押したり、手をさすったり
職員のそんな小さな行為にもいちいち手を合わせ
細い声で「ありがたいことです」と繰り返しておられた。

呼吸困難で深夜に緊急搬送されたときは
「死にとうない。まだ死にとうない。
こんな苦しい顔で死んだら
残ったもんがみんな悲しむやろ。
だから苦しがって死ぬことはできませんのや」
夜勤の職員の手を握り締めながら、そう仰ったそうだ。

それから2日後に、息を引き取られた。

この仕事をしている以上、そういうことは珍しくないし
就職してからわずか4ヶ月で
すでに4人の方とお別れしている。
けれども、生前のTさんの穏やかで謙虚なお人柄を思うと
やはり胸が詰まる。

Tさん、お世話させていただいて
ありがとうございました。

そして今日
葬儀を終えて3日ぶりに戻られた奥様K子さんを
食事のお誘いに伺う。

K子さんは抱きしめたくなるほど愛らしいオバアチャマ。
身体的な問題こそないが、認知はかなり進んでいる。

K子さん、お食事ですよ。
声を掛けると、いつもどおりふっくらとした笑顔で応対してくださった。
けれども
ご主人が寝ていたベッドをじっと見つめて仰る。
「私は誰かと一緒に暮らしておったんですかの?」
「はて、私には結婚しとる人はおったんかいの?」

玄関で靴を履こうとしたときも、首をかしげて仰る。
「なんだかここにもう一つ
大きな靴があったような気がするんやけどねえ」

ご主人が亡くなったことを知らせてもいいという通達を
ご家族から受ける前のことだった。
だから私は「ご主人は入院中で・・・」と言うべきところだったのだが
ウソも、事実も、口にすることができず
ぐっと涙をこらえながら
一緒に首をかしげる振りをするしかできなかった。

しんどいのぉ。


オジサンの如き休日

2014-02-25 23:40:28 | 日記
休みだ~!

午前3時に寝たのに、パチリと9時に目が覚める。
そうだ、今日は一人でスパに行こう!
そう決めたらチャチャッと動く私。

午前中に掃除も買い物も夕食の準備も済ませ
昼から自転車で15分ほどのスパに出かけた。

風呂と岩盤浴を往復し
お次はリラグゼーションルームでのんびり。
リクライニングチェアに風呂上りの身体を横たえ
暗がりでも読める電子書籍を開く。
う~ん、いい気分だ。

あ、贅沢ついでにビールでも飲んじゃうか。

こういうところで一人でビールを飲むの初めてだ。
傍らの電話で注文するのだが、これがなかなか緊張モノ。
音といったらオジサンたちのイビキくらいしかない空間で
女性の声で「ビールください!」はいかがなものか。
でも、いいよ、いいよ。
たまにはそんな楽しみ方もいいじゃないか。

風呂上りにビールを飲みながら本を読んでいれば
当然、眠くなる。
かくして落ちた私は、一時間ほど惰眠を貪ったのだった。

なあんか、オジサンみたい。
こういうことができるくらい、私、いい歳になったんだなあ。
昼からビールを飲む人を白い目で見ていた2、30代の自分が
懐かしく、ほほえましく思い出される。

追伸
本日は我が家のおっさんの初給料日。
「オレの人生で最低の給料だけど
この仕事は天職だ!」
そうだね、よかったね。本当によかったね。
これでようやく
我が家の家計が低空飛行ながらもきちんと回り始めます。
バンザイ!!!

頑張りすぎは不幸の素

2014-02-25 01:16:05 | 日記
脳梗塞によって右マヒを抱え
歩行も、会話も難しい73歳の女性Tさん。
彼女には、実に親孝行の娘がいる。

アパレルのデザイナーをしているということで
とても華やかでキレイな独身40代。
忙しいだろうに、毎晩遅くに必ず
お菓子やお惣菜をいっぱい買ってタクシーでやってくる。

25キロしかない小さな母親に太って体力をつけさせたいらしく
Tさんの冷蔵庫は彼女が持ってくるお菓子や乳製品
そしてお刺身や小さなおかずで満載だ。

なんて親孝行な娘だろうと、最初は思っていた。
ところが彼女の思いが、最近空回りしている。

夜勤で深夜の見回りをしていると
Tさんの居室から娘さんの怒声、罵声が廊下中に轟いてくる。

枯れかかったプランターを見咎め
「アンタは花一つ育てられないの!?
そこまでバカなの!?」
冷蔵庫の中で賞味期限を過ぎてしまった食べ物を見咎め
「どうして腐る前に処分できないの!?
いらなきゃいらないって、いえばいいじゃないよ!」
そして昨夜も
前日、娘に怒られると思ってプランターを手入れしようと
ヨロヨロとつたい歩きをした際
転倒して足と肩を痛めてしまった母親に、娘は切れた。
「へ~っ、歩けるの?
じゃあ、立ってみなさいよ、歩いてみなさいよ!!!」

同じフロアの利用者さんが皆起きてしまうのでは心配になるくらい
大きなキンキン声で、娘は怒鳴っていた。

何かに八つ当たりしているのか
パシンパシン、ドタンバタンと
物騒な音も響いている。

廊下を通り過ぎようとしていた私も
あまりのことに胸が締め付けられて
思わず耳を覆う。

介入したくてもできない。
だって、ここはサービス付き高齢者向け住宅。
施設ではなく、そこはTさんの個人宅だから。

Tさんの話によれば
娘には、三歳上の姉がいるという。
しかし家庭を持って
母親の面倒を蔑(ないがし)ろにしている姉に腹を立て
癇癪持ちの次女は「私がお母さんの面倒を見る!」と
意地になっているらしい。
(だいたいにして、この姉妹は昔から仲が悪かったのだとか)

この娘、頑張りすぎちゃってるんだ。

毎晩のように虐待にも近い叱られ方をしているTさんもかわいそうだが
この娘もなんだか気の毒である。



物盗られ妄想

2014-02-23 00:57:23 | 日記
認知症の症状の一つに妄想があり
妄想の代表的なものとして物盗られ妄想がある。

信心深く、謙虚で穏やかなA子さん(85歳)は
このところその症状が顕著になってきた。

物盗りの犯人にされてしまったのは
同僚のO(ブログ2013.11.24参照)。
表情や言動がなんとも言えず気味悪いと
彼は同じ職員からも、利用者さんからも
敬遠されている。

今月入居された傍若無人な女性利用者も彼だけは遠ざけたいらしく
Oのシフトを確認し
彼が来る前になんとか排泄を済ませてしまおうと必死だ。
(この凄まじい努力には笑えたが)

それほどまでに、敬遠されているO。
しかし、決して人のものを盗むような男ではない。
私自身彼のことを好ましく思ってはいないが
それでも悪人でないと信じている。
(だいたいにして
私たちはA子さんのお部屋の鍵を預かっていないのだから)

ところが物盗られ妄想に取り付かれたA子さんが抱いた悪人・Oの印象は
拭い去られるどころかどんどん強くなってくる。

「あの背の高い頭の毛の薄い男の人が
きのうもウチに入ってこっそりお菓子を食べていました」
そう、職員に言っていたときはまだよかった。
それが
「お金を盗られました」
「部屋を荒らされました」
と、A子さんの妄想は日増しにエスカレートしていく。

そしてついにきのうのこと。

夜勤だったOは、深夜、A子さんから呼び出しを食らう。
「あなたがウチのお菓子を食べ、お金を盗んでいることは
わかっています」
他の職員から聞いた話だが
彼は延々1時間も説教され、夜勤の他の援助ができなかったらしい。

遅番で出勤した私は、A子さんから直接その話を聞かされた。
「私はここが好きだから大事にはしたくない。
だから彼を呼び出して、改心してもらおうと努めたのに
彼は謝るどころか、帰るときにまたカステラを盗んでいった。
もう我慢の限界です」
というのである。

さすがに、Oが気の毒になった。
あらぬ疑いを掛けられて、どんなに傷ついたことだろう。

マネージャーもご家族もA子さんの妄想については理解されているので
大きな問題に発展することはないと思うが
もし疑いを掛けられたのが自分であったら・・・
そう思うと心が寒くなってくる。

物盗られ妄想で辞める介護職員が一番多いんだって。
さっき、女性同僚からそう聞かされた。

明日の夜勤を控えて
深~い溜息をつく私である。

壊れゆく人

2014-02-22 00:26:33 | 日記
認知症のMさん(女性)は、このところ崩壊が著しい。

先日の夜勤のことだ。
夜10時ころ、Mさんのお部屋の玄関付近から何やら物音が。
どうかされましたか?と少しばかり開いたドアから声を掛けると
クイックルワイパーを持った彼女が言う。
「ちっちゃな虫がゾロゾロ這い出てきたから退治しているの」

虫など、どこにもいない。
はは~ん、幻視が始まったか。

同じ夜の深まったころ、トイレ誘導のためMさんを訪問。
しかし、寝ているはずのベッドにご本人がいない。
どうしたのかと部屋中を見回すと
いらした。窓際にへたりこんで、怯えるような目をしたMさんがいらした。
「来てくれたのね」
どうされました!?
「家がわからなくなっちゃったの。迷子になっちゃったの」
駆け寄ると、すがり付いてきたMさん。
3時間も電車に乗って出かけたら迷子になってしまい
道を聞いても誰も薄情で教えてくれない。
お金も持っていないから、どうしたらいいんだろうと
途方に暮れていた、というのだ。

妄想の中を一人彷徨い、どれほど不安だっただろう。
抱きかかえてベッドに誘(いざな)ってもなお
Mさんの震えはしばらく止まらなかった。

ようやく落ち着きを取り戻して横になられたMさんを残し
では、ゆっくりお休みになってくださいねと退室しかけたそのときだ。
私の左後方を指差したMさんは恐怖に引きつった声を上げた。

「その人は誰!!!???」

ひっ、ひぇ~~~!!!

もちろん、誰もいない。いるはずがない。
叫びそうになるのを咄嗟にこらえ
私はMさんを落ち着かせるために言った。
「ウチの職員が顔を出したんです。驚かせてごめんなさい」

Mさんの幻視か、それとも本当に何かいたのか
真相はわからない。

でも、頼むよお。
こっちは60室以上ある3階建てのコミュニティで
たった一人夜勤をしているんだから
幻もオバケも見ないで、どうかしっかり寝てください。