ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

狭量な男、吉田くん。

2018-08-29 01:14:35 | 日記
同僚の吉田くんについて書こう。

生まれて32年、彼女いない歴も32年。
25歳でマンションを買い、せっせと貯蓄に励んできたが
結婚の際にはもれなく溺愛する母がついてくるという
悲しいかな
生涯独身を約束されたような男である。
(実は東京理科大出身のエリートなんだけど)

それでも
私と、私と仲良しのナナミが
日々、パワハラか!?と思われるような説教をしているお陰で
彼はずいぶん成長した。
いや、少なくとも
私とナナミが使いやすい男になってきた。

よ~し、いいぞ、吉田。
このままうまくしつけて、管理職に育てよう。
そうすれば私とナナミの将来は安泰だ。

そんな画策をしていたところであったが
ヤツはその評価を地に落とすことになる。

きっかけは、彼が次の休みに池袋で友だちと飲むんです!
と、登録ヘルパーUに言ったことだった。

かねてから吉田くんをよく思っていなかったUは
矢継ぎ早に質問を浴びせる。

友だちって、いつの友だち?
男? 女?
仲良かったの?

そして
その友だちって、今、何の仕事してるの?

それまではきちんを答えていた吉田くんであったが
友だちの職業を聞かれて言葉を詰まらせる。

え?仕事ですか?
さあ、知りません。

そこで勢いに乗ったUがさらなる質問。

なんで? 飲みにいくほど仲のいい大学時代の同級生なのに
今なんの仕事をしてるか知らないのぉ???

オバサンの迫力に気圧され、吉田くんは小さな声で言った。

だって、仕事を聞いたら給料が気になっちゃうじゃないですか!?
もし僕よりたくさんもらっているとしたら、腹が立つじゃないですか!?
だから飲み友達でも、仕事は聞かないようにしてるんです。

は~? また金かい!?
Uは呆れた。
それを聞いた私も思いっきり呆れた。

ドケチ吉田、まさかそこまでとは…。
そんな狭量な心じゃ、女が寄ってるはずもない。
いやそれどころか、引くわぁ。

かわいい手駒として
私とナナミが将来を期待していた吉田くんであったが
残念。
彼の結婚式に招かれることは
おそらくないだろう。




ず~っと曇天。たまに晴れ。

2018-08-25 01:07:03 | 日記
あと2ヶ月で100歳となるタツから
夜間、コールがあった。

「大変なことが起こりました。来てください」

タツからの夜間のコールはいつものことだ。

「真っ暗です。目が見えなくなりました」(夜中ですよ~)
「男の子がさらわれました。助けないと」(夢ですよ~)
「泥棒です。入れ歯が盗まれました」
(そんなもん誰もほしくありませ~ん)

大概そんな内容であり、緊急性は微塵もない。
4年前にウチに入居したときから
記憶障害や見当識障害、妄想といった認知症症状はあったので
彼女が訴える“大変なこと”は
99パーセント、それによるものなのだ。

しかし歳が歳だから、とりあえず様子を見に行く。

おとといの夜もそうだった。

はあい、タツさん、何が大変なのぉ?

のんびりと部屋を訪ねた私に向かって
彼女は不安と恐怖に身を震わせながら言った。

「大変なの。私、記憶喪失になってしまったの」

は? 記憶を失ったって?
タツさ~ん、それはずいぶん前からですよ。

もちろんそうは言えないので
もう病院は閉まっているから
明日にでも家族に連絡して来てもらいましょうね。
と、その場しのぎの声を掛けて退室した。

ふふ、タツ婆さん
記憶喪失とは面白いことを言うなあ。
事務所への廊下を歩きながら、一人で笑う。

だが、笑ったことをすぐに反省。
タツはふとした拍子に頭の中の回線が繋がって
自分がいろいろなことを思い出せないことに
とてつもなく大きな不安と恐怖を感じたのだろう。
時間を割いて、もっと話を聞いてあげればよかった。

なんかの拍子に一時的に正常な機能を取り戻す
認知症の方の脳。

こんなイタズラな機能回復は
かえって気の毒だ。

1年間ず~っと曇っていた空から
突然、しかも10分だけ太陽が顔を出したって
洗濯物も干せやしないのだから。





生協ばあちゃん

2018-08-18 22:34:50 | 日記
歳を重ねれば、できないことが増えてくる。

たとえば
風呂で浴槽をまたぐ。
鍵をかける、開ける。
床に落ちたものを拾う。
足の爪を切る。

若いときには難なくやってきたこうした動作が難しくなる。
しかしそれは当然のことで
自分たちも
「こんなこともできなくなっちゃって。
歳はとりたくないものね」
と、悲しくも受け入る場合が多い。

身体の老いは、認めざるを得ないのだろう。

だが、問題は脳の機能。
それがいろいろなことをできなくなっていることに
気づかない(あるいは認めない)ことが多いのだ。

今ウチの高齢者住宅で問題になっていることの一つが
生協である。

“障害を負う前と同じ生活を提案する”と謳う
それは親切なサービス付き高齢者住宅なので
入居者はそれぞれ
外出はもちろん、新聞をとる、出前をとるなど
“自分らしい生活”をまっとうしている。

生協で食品や日用品を購入するのもその一つであり
それで少しでも日常生活が満たされればいいとは思うのだが…。

さてさて、困ったのは
ウチに来てから認知症症状が出始めたオバアチャマたち。

以前と同じように生協でいろいろ注文するのだが
その数が、半端じゃない。
注文表の記入方法や
注文するものの数、あるいは単位が
もはやわからなくなってしまったのだろう。
毎回、毎回、冷蔵庫やキッチンの棚には納まりきれないほどの食品が
彼女たちの部屋に届くのである。

それはやがて
消費期限を過ぎ、冷蔵庫の中で異臭を放ち
いずれゴキさんたちの巣窟になるだろうと思われ…。

幸い「一人暮らしにしては注文が多すぎるのでは?」という
生協さんからの連絡によって
ゴキさんの登場という最悪の事態には至っていないが…。

生協さんを責めるどころか
今回は連絡をくれてありがたく思っているし
その商品がいかに新鮮で、そのサービスがいかに良心的かも
人づてに聞いて知っている。

ただ、前々回のブログ「老女と携帯電話」で抱いた危機感を
今回も持つ。

一人暮らしの高齢者を見守る家族よ
生協さえあればウチのおじいちゃん、おばあちゃんの生活は安心!
などと勘違いなさるな。

利用できているうちは最強の助っ人。
しかし利用できる状態でなくなったら
本人も家族も、大変な目に遭いますぜ。





私は戦後生まれです。

2018-08-06 23:49:44 | 日記
「アナタは社交ダンスやってた?」
唐突に、そう聞かれた。

相手はキヨハル。
何かとダダをこねる、97歳のじいさんだ。

社交ダンスなんかやったことないと答えると
彼は妙なことを言うではないか。

「そうなの? 戦後あんない流行ったじゃない?」

戦後? は? 戦後?
あのねえ、キヨハルさん、私そのころまだ生まれてないから。

するとヤツはなぜか驚く。
「え---???」

マ、マジに私がそんな歳だと思っていたのか?
失礼極まりない。
私もたいがいイイ歳だが、そこまで老けてはいないはずだ。

本気で怒ると、ヤツはなんだか合点のいかない表情で言った。
「そっかあ。ここのヘルパーさんたちはみんな
ボクより年上だと思ってたんだけど…」

そういえばキヨハルが入居したばかりの頃
「アナタは戦時中どこにいらしたの?」
と、聞かれたことがある。
ヤツはあの頃から本気で
私たち職員のことを“面倒見てくれる優しいお姉さんたち”と
思っていたのかもしれない。

どうりで…と、得心した。

キヨハルの言葉はやたら子どもじみている。
「どーしてそんなこと言うんだよぉ」
「ちゃんと教えてくれなきゃわかんないよぉ」
「やだやだ。薬なんか飲みたくないよぉ」

大手企業の役員を勤め上げたという経歴にそぐわない
ちょっと気味の悪い赤ちゃん言葉。
それをずっと、不思議に思っていた。

そうか、幼児退行か!?

しかし、そうは納得しても
97歳のじいさんから年上だと思われていたことは
どうにも承服しがたいのである。

老婆と携帯

2018-08-04 23:06:48 | 日記
オバアチャンたちが携帯電話を持つことに
私はかねてから反対だった。

いや、語弊があるな。

施設に入れた親に
これがあれば安心でしょ? 寂しくないでしょ?と
まるでお守りのように携帯電話を持たせることに
私は反対だった。

使える人はいい。
使えるうちはいい。

確かに80過ぎてもスマホを操れるスーパー高齢者だって
いなくはないが
そんな人はほんの一握り。
また、入居時にそんなスーパー高齢者だったとしても
やがて理解力・判断力が落ちてくる。

ウチにもいた。

かかってきた電話を受けることができず、パニックに陥る。
使ってもいないのに
一日中、充電されているかが気になってしかたない。
娘から着信拒否されていることを忘れ
電話が壊れたと、毎日事務所にやってくる。

携帯電話にかかわるこうした混乱を
この5年間でどれだけ見てきたか。

持たせるな、とは言わないが
親を施設に入れる際に携帯電話を持たせるなら
ちょくちょく掛けてあげなさいよ。
ちゃんとフォローしてあげなさいよ。
と、私はずっと思ってきたのだ。

さて、そんな自分自身も60を超え…

買って1年も経たないスマホにちょっとしたトラブルが発生し
無償で交換してもらうことになった。

問題はデータの移行だ。

auショップのお兄ちゃんは
わかりやすい冊子がついてますからと、こともなげに言うが
それを開くのさえ面倒臭い。
わからない!のではなく
もはやわかろうとする気すらないのだ。

生前、父に携帯の使い方を覚えさせようとしたことがあった。
何度も噛み砕いて教え、図解までしたが
父は全然理解しない。
しまいには、もういいよ、あとで勉強するから
そう言って退散する父に苛立ちを募らせたものだ。

その年齢に、私も近づきつつある。
今になって、お父さん、ごめん。

今度息子に会ったら言っておこう。
私がちょっと怪しくなってきたら
無駄な努力はせず
容赦なくスマホとパソコンを取り上げておくれと。