ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

消防士さん、ごめんなさい。

2016-02-28 02:41:56 | 日記
夕方、火災報知機が鳴った。
開設2年で5回目だ。

いずれも火事ではない。
M三郎が興味本位でボタンを押してしまったのと
調理中の“焦げ”が4回。

今回も要支援のカナエさんが
かぼちゃを煮ている最中に便意を催し
ちょっとだけなら…
のつもりでトイレに行っているときにかぼちゃが焦げ
その煙に火災報知機が反応してしまったのであった。

けたたましく鳴り響く火災報知機。
あわてふためいて出てくる入居者。
原因を突き止め、「大丈夫です、火事ではありません」と
廊下を走り、階段を上り下りしながら
入居者の興奮を鎮める私たち職員。
そうこうするうちに到着した消防車。
そして、無駄足となった消防士さんたちに
ペコペコと頭を下げる、私たち職員。

当のカナエさんは、焦げたかぼちゃの鍋を持って
「上のほう、食べられるかしら?」
なんて涼しげに言っているし
去年ボタンを押して消防車を呼んでしまったM三郎は
「誰かが面白半分に押したんじぇね―のか!?」と
己の前科を忘れて息巻いているし・・・

ああもう、やってられないぜ!!!

どんなキツイ介護も引き受けます。
でも、どうか、どうか、消防車だけは呼ばないで。


キヨシをめぐる、熱い冬

2016-02-26 23:50:30 | 日記
キヨシの周辺が、今、熱い。

キヨシについては19日付のブログで紹介したが
彼をめぐり、なんだかおかしなことになっている。

80を超えた今はもちろん
若き日も“イケメン”という言葉とは縁遠かったであろうキヨシは
その代わりに
人懐っこい性格と愛嬌、花と笑いをこよなく愛する優しさを
神様から授かった(と、思う)。

だから脳梗塞で倒れ、言語や歩行が少しばかり怪しくても
他の住人や職員たちから好かれているのである。

そんな彼の部屋を掃除するヘルパーのあおいちゃん。
若くかわいい彼女もまた、誰にでも好かれる娘(こ)だ。

毎週花屋さんからお花を届けてもらっているキヨシは
ある日、よくしてくれているあおいちゃんの分も花を注文した。
ありがたいが、断るのが規則。
あおいちゃんは彼を傷つけないように
「花をもらっても花瓶がないから」と
やんわり断って帰ってきた。

すると優しいキヨシは、バスに乗って近隣のショッピングモールまで出かけ
あおいちゃんのために花瓶を買ってきた。

「うへへ、これ、プレゼント!」
背中に隠し持った花瓶を差し出したキヨシの心は
どんなに弾んでいたことだろう。

そこまでされてどうしても断りきれなかったあおいちゃんは
花瓶を事務所に持って帰ってきた。
話を聞いた私は断腸の思いで没収。
カクカクシカジカで…と経緯を説明し
上司に渡したのだった。

そこまでだったら、何の問題も起きなかっただろう。
しかし、気のいいキヨシは
すべてを保佐人に話してしまう。
注)保佐人とは、精神障害により判断力が不十分になった人につけられる保護者。
 身よりのいないキヨシには、レイコさんという60代女性の保佐人がおり
 彼の財産管理や生活の手助けなどを行っている。

コトは、そこからはじまった。

事務所に電話を掛けてきたレイコさんは
失神しそうな勢いでまくしたてた。

「花をあげるといったら花瓶まで要求したヘルパーがいるらしい」
「なんて図々しい女を雇っているのだ!?」
「だいたいオタクはヘルパーたちが彼に優しすぎる」
「下心があるに違いない!!!」

責任者がどんなに丁寧に説明しても、レイコさんの怒りは収まらない。

そしてとうとう、彼女は狂う。

どうやらキヨシに内緒で、他に転居させようとしているらしいのだ。

いくら保佐人といえども、本人の同意を得ないまま転居させるなんて
ありえない話である。
しかし10年以上、保佐人であるレイコさんを頼って生きてきたキヨシ。
「あの人のお陰で今の俺があるんだよね」というほどに
彼女を信頼している。

ウチでの今の暮らしがどんなに楽しかろうとも
恩義を感じているレイコさんに歯向かうことはできないかもしれない。

どうするキヨシ!?

優しい職員やヘルパーに囲まれた自由な生活を採るのか
保佐人・レイコさんへの恩義を採るのか・・・

今日、彼と話をしていたら、こんなことを言っていた。
「この歳だけどさ、三味線とか落語を勉強したいんだよね」

素敵だよ、キヨシさん。
だけどね
レイコさんがアナタを転居させようとしている特養じゃ
そんな自由な暮らし、できないんだよ。

私たちが口を挟むことは決してできないけれど
あの無垢な笑顔を思うと
彼が気の毒でならない。



愛おしい人たち

2016-02-23 19:38:43 | 日記
脊椎損傷のH(本日より改め、ハルオ)から
コールがあった。
耳が遠いため大声でがなるので
何を言っているのかさっぱりわからない。

部屋に行くと
ベッドに横たわったハルオは自分の耳を指差して言った。

「補聴器、全然聴こえねーんだよ。
壊れちゃったのかなあ」

去年新しくしたばかりの補聴器は片耳20万円。
紛失したら大変だから
車椅子で食事をするとき以外は
外してテーブルの上のケースにしまうことになっている。

ハルオさん、補聴器ならここよ、と
ケースを開いて見せた。

きょとんとするハルオ。
そして耳たぶをつまんで言った。

「じゃあ、これはナンなんだ!?」
「あ・・・耳か」

そのあとの彼の気まずそうな顔がかわいかった。

そしてもう一つ。

「トイレはまだ?」「食事はいつ?」と
ひどいときには分刻みでコールを鳴らしてくる
わがまま老女・カヨコ。

お陰で夜勤も休みが取れないのだが
きのうはこんなコールがかかってきた。

「突然ですが、私、人を殺すことになりました」

なんのこっちゃ!?

しかしその答えが得られぬままコールは続く。

「お忙しいところ申し訳ありませんが
私、人を殺すことになりました」

問答しても仕方がないので、とりあえず
「わかりました。のちほどゆっくりお話を伺います」
そう答えてコールを切った。

やれやれ、と、仕事の切りのいいところで訪室してみると
カヨコはコールボタンを握り締めたまま爆睡している。

ヘンな夢でも見たのだろう。

寝惚けてコールしてくんじゃねーよ!
と苛立ちながら
義歯を外した穢れない寝顔を見ていると
憤怒を忘れて抱きしめたくなる。

高齢者を慈しむ心なんぞ持ち合わせちゃいない私
の、はずが
なぜだろう、あいつらが愛おしい。






H わがまま老婆・カヨコ

ほのぼのキヨシ

2016-02-19 19:48:18 | 日記
キヨシはかつて、ジジイXの子分だった。

というか、ジジイXが気のいいキヨシを
勝手に子分扱いしていただけであり
ヤツの根性の悪さ、横暴ぶりに
ついに堪忍袋の緒が切れたキヨシは
去年の秋、食堂でヤツの隣の席から巣立つこととなる。

ジジイXの不人気により
職員や登録ヘルパーからの人気票を集める結果となったキヨシ。
花と絵とオルガンを趣味とする優しい性格
そして元来のホノボノ・キャラ…
思い出したように杖を振り回して激怒することさえなければ
存在感さえ闇に葬られた観のあるジジイとは対照的に
今やキヨシの人気は不動のものになったのである。

そのキヨシが、足の骨にひびが入って絶対安静の身となった。

これまで掃除・洗濯こそヘルパーの世話になっていたが
身体的にはたいした問題を抱えていなかったキヨシ。
当然、着替え、入浴は自分でできる。
もちろん排泄だって、誰の手を借りずともやってきたわけである。

それが、誰かの手を借りなければならなくなった。
ベッドに安静にしていなくてはならないから
悲しいかな、ついにオムツというわけだ。

しかし優しく愛らしく照れ屋の老人・キヨシは
“素手で股間を洗え!”と言って
ヘルパーの出入り禁止を食らったジジイXと違い
下半身をさらすだけで恥ずかしくて恥ずかしくてならない。

排泄介助の生活が始まって1週間にもなるというのに
オムツ交換のたび
いまだに「恥ずかしい」と、両手で顔を覆うのである。

 キヨシさん、そんなに恥ずかしがらないで。
 そんなに恥ずかしがられると
 なんだかこっちまで恥ずかしくなってくるよ。

「だってさ、こういうのやっぱり慣れないよ、恥ずかしいよ」

 わかった、じゃ、私も目をつぶるから。

いやいや
ヘルパーが目をつぶったまま手探りでオムツ交換したら
それ、あやしすぎるでしょ。

こんなかわいいオジイチャンばかりだったら
介護現場はもっと明るく楽しくなるに違いない。








弱った夫の蘇生術

2016-02-12 23:59:56 | 日記
奇跡の4連休を手にした。

希望したわけではない。
10日は継母の入院に付き添うため休みを取ったが
あとの3日は上司からのプレゼントだ。

ありがたいが、こんなに休みをもらってもなぁ…
1月の末に知らされたこのプレゼントに戸惑う私だったが
いやいや、これを無駄にするのはあまりにももったいない。

さっそく中学からの親友を誘い
バタバタと旅行の計画を立てる。

この時期どこへ行っても春は探せないのだから
いっそ真冬の日本情緒を味わおう。
というわけで、行き先は信州、テーマは“星と雪”。

そして行ってきました
長野県上田の標高1500メートルに建つ高原ホテルへ。
窓から見える白銀の世界
雪を愛で、はるか遠くに浅間山を仰ぎながら浸かる露天風呂
そして手を伸ばせば届きそうな、満天の星…

最高に贅沢な旅だった。

こんなに幸せでいいの?
何年か前には
もう友だちと遊ぶこともできないだろうと絶望していた私が
こんなに幸せでいいの?

ごめんね、おっさん。
私は少ないながらもボーナスがあるから
こうして勝手気ままに遊んでいるけれど
私が贅沢な旅を楽しんでいる間
あなたは恐らく
ズルズルと具のないインスタントラーメンをすすっているのだろう。

旅行2日目の今日は
信州そばの手打ち体験を楽しんできたのだが
その場で全部食べてもいいところを半分残し
おっさんへのお土産に持って帰ってきた。

おっさ~ん、私の打った信州そばよ。
ささ、お食べ。

彼はもういいよ、というくらい「うまい!」を連発ながら
長さも太さも不揃いな私の芸術作品を平らげた。

「ああ、ホントにうまかった」
そう言って汁まで残さず食べたあと
彼は驚愕のひとことを放った。

「きのうは一人で焼肉屋に行ってきたんだよね」

ええっ? 一人焼肉?

人気の深夜番組「孤独のグルメ」で以前紹介されていた焼肉屋。
こういう店があるらしいよと、私は彼に教えたことがある。
まさかと思ったが、そこへ一人で行ってみたというのだ。

うっそだろ?
ついこの間まで、女房がいないとナンにもできなかった男が、か?
4連休中3日間も女房が家を不在にしたから
もしかしたら孤独死するんじゃないかと心配されていた男が、か?

おっさん、アナタの成長、凄すぎるわ!!!

去年の夏あたりからすこぶる元気になってきて
最近じゃ「ただいま~。今日も楽しかったよ!」と
陽気に仕事から帰ってくるようになってきた。

しかしここまで逞しくなるとは…
かあさん、泣けてくる。
(いやいや、私は彼の母ではなかった)

かわいい子には旅をさせよと言うけれど
ポンコツ夫にも旅をさせよ!だ。

弱った夫の蘇生術、大成功!と言ってもいいかしら?