ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

若き日の栄光は、老いてアダとなる。

2016-11-26 22:31:12 | 日記
11月10日のブログ「メンタルやられる」で紹介した
性格の悪いバアサン・リツの、イタイ話である。

リツはかつて、小学校の教師であった。
おそらく輝かしい過去の勲章なのだろう
2年前に入居してきたときからコトあるごとに自慢してきたから
それは誰もが知っている。
職員も利用者も
彼女が昔“先生”であったことはうんざりするほど知っている。

しかしその勲章が、その自慢が
骨折による入院治療後
「老人性精神病」などとバカみたいな病名をつけられて退院したいま
悲しいかな、アダとなってしまった。

「お腹が空いたから早くご飯もって来て!」
「ご飯食べ終わったのよ、早く部屋に連れてって!」
「まだなの? 早くしてよ! キ~~~ッ!!!」

はいはい、リツさん、待っててくださいね。
今、順番で回ってますから。

しかし“待つ”ことができないリツは
食堂で駄々っ子みたいに叫び続ける。

入院による環境の変化と
介護職員と車椅子の世話にならなければ食堂移動もできない苛立ちが
彼女の脳を破壊してしまった。
周囲は白い目で見るが、もはやそれにも気がつかないようである。

きのうの昼食時
隣のテーブルを囲んでいた自立のオバアチャマたちがコソコソと喋っていた。

「あの人、学校の先生をしていたっていうのに順番も守れないのね」
「ホントね。子どもたちには順番を守りなさいって教えてたはずなのにね」

言ってやれ、言ってやれ!
立場上、私たちは言えないが、胸の内では心底共感する。

あ、そういえば過去にも同じような思いを経験したっけ。

エロくて我がままで、職員からも利用者からも嫌われまくった男
ジジイX。

死者に鞭打つことはしたくないが
カレも「慶応大学出身」を鼻にかけたあまり
わけがわからなくなったころには
「あ~あ、慶大出身も地に落ちたわね」と
周りの利用者からさんざん陰口を叩かれたものだった。

若き日の栄光を鼻にかけすぎると、老いてから痛い目にあう。

教訓である。

レイさんの新鮮な毎日

2016-11-23 23:56:17 | 日記
北村薫の小説「ターン」を思い出した。

主人公は29歳の版画家・真希。
ダンプと衝突し、気がつくと
いつも自宅でまどろみから目覚める自分がいた。
3時15分。
今の事故は夢? 違う、実は1日前の出来事である。

彼女だけが時の流れから置き去りにされ
ある時間が来ると「3時15分」に戻ってしまうのだ。

さて、ここからは我が高齢者住宅でのお話。

夕方の4時から5時。
毎日決まって事務所を訪ねてくる住人がいる。

は~い、とドアを開けると
そこに立っているのは腰の曲がった白髪の老婆・岡本レイさん(仮称)。

「岡本レイと申します。
今日からこちらにお世話になることになったのでご挨拶にまいりました。
どうぞよろしくお願いいたします」

「私のお部屋はどちらになりますでしょうか。
はじめてお世話になるのでよくわからないんですが
お布団の用意はあるんでしょうか」

「まあまあ、ご飯まで用意してくださるの?
私、いいところに来たわ。ありがとうございます」

これを、かれこれ1年ほど前から続けている。
時刻はほぼ同じだし
ご挨拶の言葉にいたっては寸分たがわないので
職員の誰もがその言葉を諳(そら)んじることができるくらいだ。

レイさんは毎日毎日、ふと気づくと夕方に戻ってしまうのだろうか。
「ターン」の主人公・真希のように
一人、時の流れから置き去りにされているのだろうか。

しかし、彼女には真希のような悲壮感はない。

「家に帰りたい」
「子どもに捨てられてしまった」
そう嘆く高齢者が少なくない中で
レイさんだけは繰り返しの日常を新鮮に楽しんでいるように見える。

言うまでもなく、レイさんは認知症だ。
しかし職員の誰もが言う。
もし認知症になるとしたら、レイさんみたいなタイプがいいなあ、と。








バカ女

2016-11-19 00:09:13 | 日記
ちょっとした知り合いの女性について
驚愕のニュースが舞い込んできた。

きのう、共通の友人であるWのもとに
その女性ユウコ(仮称・35歳独身)からラインが届く。

半年振りの連絡。
喜んでメッセージを読んだWはあまりのことに思考が麻痺し
とりあえず私に電話してきた。

あのね、ユウコから連絡が来たんだけど
あのね、なんだかよくわからないけど
彼女、先週子どもを産んだらしい・・・

かいつまんで内容を書き記そう。

ユウコは男運が悪く、35まで“彼”と呼べる人に巡り会えなかった(本人談)。
カレがほしい、結婚したい。
そう願うあまり、彼女はナンパにも気安く応じ
間違い電話やメールを送ってくる相手とも
すぐに意気投合して会っていたのだという。
(それは詐欺だろうと誰でも思うところだが)。

それでもなかなか、いい人と巡り会うことができない。
思い余ったユウコは、一人旅をしてみることにした。
旅先でのアバンチュール(死語か?)に期待してのことである。

そーうまくはいかねーよ!という周囲の思いに反し
旅先で、ユウコはいい男と出会い、即、ホテルに行った。

2ヵ月後
Wはユウコから“素敵な出会い”について散々聞かされた。
そしてその半年後であるきのう
Wはユウコから、驚愕のニュースを聞くことになる。

「私、赤ちゃん産んじゃった」

その男とは旅先で夢のような一夜を過ごしただけで別れ
連絡先も聞いていない(自分の連絡先は伝えたらしいが)。
そしてさらに驚くことに
ユウコは腹痛で病院に行くまで自分が妊娠したことも知らず
駆け込んだ病院で未熟児出産!となったのだった。

「なんだかわからないけど、私、お母さんになったみたい」

Wに送ってきたラインに、そうあったという。

バカ?

ユウコ、アナタ小中学生じゃあないよね?
35歳の、ちゃんと仕事をして親元から独立してる女性だよね?

それでも頑張って生きていこう
一人で子どもを育てていこうというならまだしも
「いきなり親になんかなれないし、育てていくお金も自信もないから
とりあえず実家に帰ろうと思う」って。
あのなあ・・・。

開いた口がふさがらない。
心優しいWはユウコのために何かできることはないかと思案しているが
アタシャそんな気はさらさらない。悪いね。

生まれてきた赤ちゃんの幸せは祈るが
1300gで生まれてきた父親を知らない赤ちゃんが
せめてお母さんのオッパイをいっぱい飲んで
健やかに成長してくれることを心から願うが
ユウコに温かい言葉をかける気など微塵もない。

冷たいように思われるかもしれないが
こういうバカは、大嫌いだ。







ああ、コレステロール!!!

2016-11-16 22:56:44 | 日記
健康診断の結果が送られてきた。
視力とBMI以外はオールA。
(念のため言っておくが、BMIの判定は“太りすぎ”にあらず)
なんと優秀な58歳であろうか!?

しかし、それでも気になることはある。
Aとはいえ、コレステロール値がどんどん上がっている。
夜勤があるため半年に1回は健診を受けているのだが
その度に、少しずつ上がっているのだ。

40代の頃までは総コレステロール値が低く
善玉が高くて悪玉が低いというのが自慢の一つでもあった。
ところが総コレステロール値が高くなっているのみならず
善玉、悪玉の高低が逆転してしまった。

原因は明白。
喫煙と運動不足に違いない。
40代後半まではタバコを吸いつつも
バスケット、テニス、卓球、水泳とスポーツ三昧の生活をしていた。
だから健康を維持していたのだろう。

あ~あ、来年からまた泳ぎ始めるかなあ。
でも、スポーツクラブに行くほど余裕ないしなあ。
あ、でも、禁煙すればそのくらいの費用、ラクに捻出できるんだよなあ。

と、埒もないことを考えているところであるが
明日、新しい入居者がやってくる。

ざっくりと、彼のプロフィールを紹介しよう。
オクダさん、60歳、独身。
糖尿病の合併症により
目は網膜症を患いかなりの視力低下。
腎臓もダメージを受け週3回人工透析を受けている。

それでもこれまでは一人で何とか暮らしていたのだが
高血圧でもあったらしく
先月脳梗塞により緊急入院。
左麻痺となった彼の身を案じ
お兄さんが「もう一人暮らしは無理」とウチへの入居を勧めたらしい。

まだ見ぬ人だが
ここまで症状が悪化してしまったっつうことは
生活習慣がよほどひどかったのだろう。
そう思わざるを得ない。

60歳。私と2歳しか違わないじゃないか。
その若さで高齢者住宅に入居せざるを得なくなった彼も不幸だが
恐らく長年の悪しき生活習慣が引き起こした結果が、これだ。

こわいわぁ
心底ゾッとする。

タバコ、少しは減らさなくちゃね
そう思いつつ
今も紫煙をくゆらせながらブログを書いている私なのである。


メンタルやられる

2016-11-10 02:16:05 | 日記
私は悪い女である。

6日、そんな私よりさらに性格の悪い老婆・リツが
大腿部頚部骨折による手術・入院を経て戻ってきた。

もともと性質(タチ)が悪く
他の利用者からも激しく嫌われていた彼女。
入院先の病院でも我がままな言動によって
ナースステーションに一番近い病室で拘束されていたという。

退院時のカンファレンスで医師に告げられた病名は“老人性精神病”。
ありえないのだが
認知症診断を受けていない彼女には、そんな病名をつけるしかなかったのだろう。

そんなリツが帰ってきた。

しばらくは車椅子での移動介助が必要とはいえ
病院でしっかりリハビリを受けてきたし
検査の結果、他に悪いところはまったくない。

しかし
3週間の入院により彼女はおかしくなってしまった。
精神に異常を来たし、本来の性質の悪さに磨きがかかってしまったのだ。

24時間ひっきりなしの非常コール。

食事直後にもかかわらず
「お腹が空いてしょうがないのよ。早くご飯を食べさせて!」
「私はこんなに具合が悪いんだからご飯を食べなきゃいけないのよ!」

眠剤はしっかり飲んだというのに
「眠れないのよ。どーして眠剤をくれないの?」
「アンタたちは私の薬を隠して何が楽しいの!?」

そして、トイレに連れて行け! 話し相手をしろ! タオルを取れ! 娘に電話しろ!と
数分おきにコールで叫びまくり
仕方がないから部屋を訪ねると
「あ~、私はなんて不幸なの?」
「アンタみたいな健康な人に、私の不幸はわかりっこない」
「ああああ~、死んでしまいたい、死んでやる!」
と、臆面もなくむせび泣くのである。

ベッドの上で怒ったり泣いたりしているだけなら、まだいい。
すぐに駆けつけないと
這いずって部屋から廊下に出てきてしまう。
半分真っ白になった頭髪を振り乱し
眉間にくっきりとシワを寄せたもの凄い形相で
自立の人たちも歩く廊下に這いずって出てきてしまうのだ。

その対応によってこっちはノイローゼ寸前だというのに
リツは涙ながらに言う。
「なんでお金を払っている私がこんなに遠慮しなけりゃいけないの?」

お―――い、誰が遠慮してるって!???

勤務してから3年。いろんな人がいた。
介護者泣かせのジイチャン、バアチャンは決して少なくない。
でもみんな、どこかしら愛せる部分があった。
どかしら憎めないところがあった

だが、リツは違う。
だから今日までブログネタにもしたことがないのである。

私は悪い女だ。

リツが再び骨折して入院し
二度とウチに帰ってこないことを
心から、心から、祈らずにいられない。