ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

まったくどっちが介護しているのやら・・・

2014-08-30 23:07:51 | 日記
私も相当、ガタがきている。

認知症で、しかも歩行のふらつきが激しいY子さんを
身体を支えながら食堂まで連れて行こうとしたとき
フラットな廊下でおっとっと!とコケそうになった。

「しっかり~!」
コロコロと笑いながらY子さんに励まされ、ややへこむ。

やはり認知症で
5分前のことすら記憶にとどめないK子さんを
1階のお部屋に連れて行こうとしたら
その手をしっかりとつなぎならが2階の廊下を歩いていた。

「大丈夫よぉ、私もよく間違えるから」
K子さんにやさしく慰められ、ズコンとへこむ。

つま先が上がらず、場所の認識ができない。
まずい兆候だ。


ミヨの復活祭

2014-08-27 00:32:45 | 日記
ミヨ(仮称)はほとんど寝たきりの老婆だった。

風呂嫌いゆえに白髪頭はいつも雨にぬれたマントヒヒのようだが
若かりしころの美貌を今も残し
認知症がひどくなっても
礼儀正しさと美しい言葉遣いが育ちのよさを感じさせる。

しかしほとんど寝たきりで
たまに車椅子に座ってテレビを見ては「ふふふ」と笑うくらいの毎日。
もう92歳だ、このまま静かにお迎えを迎えるのだろうと
誰もが思っていた。

ところが、ミヨに何かが起こった。

この夏、彼女は猛烈な勢いで空腹を訴えはじめ
車椅子に乗っても自走する力などなかったはずが
自力で居室内の冷蔵庫まで行き
身内の方があふれんばかりに入れておいてくれる好物のスイーツを
1日に3個以上食べるのだ。

最初はなぜ冷蔵庫のスイーツがなくなるのか
みんなで首をかしげていた。
どうして?
自分で冷蔵庫を開けて食べてる? 
まっさかね。

しかしある日その現場を目撃した職員の証言により
奇怪な真相が明るみになったのだった。

なんだかミヨが元気だ。どうしちゃったんだ!?
そんな話で持ちきりのところへ
今日の事件である。

同僚と二人で廊下を歩いていたとき
ゆるゆると、ミヨの居室の玄関が開いた。
なに? 立ち止まり、顔を合わせる私たち。

ゆっくりと扉の下方から車椅子の車輪が現れ
続いてそれを自走するミヨが現れた。

う、うそだ!?

立ち尽くす私たちに気づいて、ミヨが言う。
「誰かが私を閉じ込めたの。
でも私、ちゃんと自分でドアを開けられるのよ。ふふふ」

びっくりしたなんてものではない。
自走していることも驚きだが
なんといったって
ミヨは人と触れ合うのが嫌で
入居から今日までの9ヶ月間
散歩も、食堂で食事することも拒んで
一歩ありとも居室から出たことがなかったのだから。

ど、どうなさったの、ミヨさん。
「ふふふ、ちょっとお出かけ」
ならば行きましょ、行きましょ!
驚きながらもこの快挙に喜んだ私たちは
車椅子を押して館内を、そして勢いに乗って屋外へ
ミヨを連れ出す。

「風が気持ちいいわ」
「ああ、このお花、なんてかわいいんでしょう?」

ミヨから発せられる言葉一つ一つが
私たちにとっては大感動である。
奇跡や~~~!!!

92歳の復活か?
はたまた最期の打ち上げ花火か?

なんだか狐につままれたような思いである。


しぶとい。

2014-08-21 23:58:23 | 日記
「水ください」
「電気つけてください」
「今何時ですか?」
「リモコン落としたから拾ってください」
「眠れません」
「足が痛いので何とかしてください」

非常ボタンを押してはなんやかんやと要望する
介護度5の爺様がいる。

「何度も言うように、これは非常ボタンですから
具合が悪くなったり本当にお困りのとき意外は
なるべく押さないでくださいね」

難聴の耳に口を近づけて、言う。
しかし何を言っても「聴こえませーん!」と、とぼけた顔でのたまう。
くそっ…
少ない髪の毛、むしっちゃうぞ!

さて、そのTさんが車椅子から前のめりに転倒し
頭からだらだらと血を流した。

登録ヘルパーからのSOSで現場に急行した私は
迷わず救急車を要請。
「呼吸はあります。意識もかろうじてあります」
119に電話してそう告げながら、思った。

これは死ぬ―と。

しかし、彼は帰ってきた。
しかも、その日のうちに。

聞けば、転倒した際、掛けていた眼鏡が額に当たって切れ
そこから流血したものの、5針縫っただけで済んだのだそうだ。

しぶとい…
彼の帰還を知って思わず心でつぶやく。

しかも転倒の理由は
「新聞が落ちたから何度も電話(非常ボタン)をしたのに
なかなか人が来てくれなかった。
だから頭にきて自分で拾おうとした」だと!?

まだくっついていない額の傷、抜糸したろーか!!!

もう一人のS子

2014-08-18 23:07:57 | 日記
ずいぶん前
「ビリー・ミリガン」という実在する多重人格者について書かれた本を読んだ。
本人が人格交代する瞬間を捉えたドキュメンタリー番組も見たことがある。
同じ人物とは思えないほど顔つきを変える様に、驚愕したものだ。

さて、ここは時に哀しく、時に微笑ましい高齢者住宅。
浮世からややかけ離れた観のある世界だが
犯罪と人格交代の起こる瞬間を
実は今日、私はこの目で見たのであった。

S子さん(88歳)は認知症による物盗られ妄想がエスカレートしており
以前も書いたが
うちの男性職員を泥棒と決め込んでいる。

今日はそのS子さんの買い物代行の日だった。
しかし居室を訪ねると
買い物の日であることはすっかり忘れていた様子。
忘れているだろうとこちらもわかっていたから
丁寧に説明し、何を買ってきましょうかとお伺いする。
「じゃあ、おいしそうなおせんべいとティッシュペーパーと…」
とりあえず、リストはできた。
問題はそのあとだ。

「え~っと、お金を渡さなくちゃ。ちょっと待っていてちょうだいね。
お金、お金…あら?お財布はどこにやったかしら」

さあて、それからが大変だ。
バッグや手提げ袋をひっくり返し
テーブルの上を引っ掻き回し
ベッドの布団をめくり枕を放り投げ
ない、ない、ない、ない、お財布がな~い!

信心深いいつもの柔和な顔つきが恐ろしく変貌していく。

そして叫ぶ。
「泥棒だわ、大変よ、泥棒が入ったんだわ!
見てちょうだい、こんなに部屋が荒らされているのよ!!!」

人格の交代?
自作自演の泥棒劇?

こうなったらもう手がつけられない。
「部屋を荒らしたのはアナタです」なんて言ったら
矛先はこちらに向けられるだろう。

“泥棒に荒らされた部屋”を片付けながら、お財布を捜す。
あった、あった。ちゃあんとバッグの中に入っていた。
がしかし、そのときすでに時間は30分経過している。
あ~あ、今日も援助時間の超過だわ。

私が必死に片付けたことで泥棒の痕跡は消え
S子さんも本来の人格に戻った。

「じゃ、お願いします。気をつけていっていらしてね」
何事もなかったように私を見送る優しいS子さんであったが
私は、疲れ果てた。

クソババアども

2014-08-13 00:36:07 | 日記
ひでー話だ。

2週間前に入居されたUさんは
酸素ボンベを使っている。
肺の病気のせいで
絶えず鼻に挿入した管(カニューレ)から酸素を取り込んで
生命を維持させていらっしゃるのだ。

そんな彼女を食堂にお連れした。
どこに座りますかと尋ねたら
「私は呼吸が苦しいせいでご飯を食べるのが遅いから
迎えに来る職員さんに迷惑がかからないよう
時計の見えるところに座りたいんですけど…」
そんな謙虚なことをおっしゃる。

ならば中央のお席がいいわ!と
まだ誰も座っていない4人がけのテーブルにご案内した。

と、そこへずかずかと登場したマダム4人組。
まだ介護サービスを必要としない
お達者でかしましい老婆たちである。

Uさんを見て1人が言う。
「えっ、そこは私たちの指定席なんだけど!?」
残りの3人がわめく。
「そーよ、そーよ!」

作り話ではない。バカみたいだが本当の話である。

この食堂に指定席はありません。
どなたも、お好きなところに座っていただいていいんですよ。

私は笑顔を引きつらせながら抵抗を試みる。
負けちゃなんねえ。

しかし
「それはわかっているけれど、いつもここだし
私たちどうしてもここがいいのよ」
と言って譲らず
それどころか
「あっちが空いてるから、ね、あっちにお連れするわ」と
Uさんの車椅子を押し始めるではないか!?

こら、何すんだ、このクソババアども!!!

しかしここで騒動になったら
気の毒なのはおとなしいUさんだ。
当人は苦しそうな呼吸で「私はここでなくてもいいですから」と
トラブルを回避しようとしているのに
職員である私が
まさか二の腕の桜吹雪を見せるわけにもいかない。

「じゃあUさん、もっと静かなところに座りましょう」
せめてもの嫌味を一つ残して場を離れたが
キーーーッ!!! 腹が立つ。

事務所に戻り、この話をみんなに。
みんなもキーーーッ!!!
さっそくその夜残ったスタッフで
“指定席”がどこだかわからなくなるほど
食堂のテーブルの配置を変えてやったのだった。

クソババアどもめ
来世も人間に生まれ変われるなんて思うなよ!