ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

ヤスオ、笑う。

2018-02-23 18:47:41 | 日記
パーキンソン症状のヤスオは
この頃ますます発語が難しくなってきた。

息が漏れている程度の声だから
何度も聞き返さなければ
何を言っているのかさっぱりわからない。

夜間、ヤスオがコールボタンを押してきた。
スピーカーを通すとますます意味不明。
仕方がないので部屋に行ってみる。

ヤスオさん、どうかしましたか?

「こうふうひほひへ」

は?

「こほうふうひゃほ~ひへぇ」

え? 昆布茶を飲みたいんですか?
こんな真夜中に昆布茶飲むんですか?

するとヤスオ、ひいひいひいと
声にならない声で爆笑している。

だよね、そんなはずないよね?
明らかに私の聞き間違いだ。
もう一度、口元に耳を近づけて聞いてみた。

やっと、理解。
「空調機をみて」だ。
部屋が寒いから暖房の温度をみて!と
ヤスオは必死に訴えていたのだ。

いやだよ
まるで入れ歯を外したジイサンと
耳の遠いバアサンの会話じゃないか!?

しかし表情が乏しくなって笑うことも少ないヤスオを
ひいひい笑わせたことで
その日の介護は100点としよう。

グレイティスト!!!

2018-02-18 01:04:35 | 日記
映画「グレイティスト・ショーマン」を観にいってきた。

封切したばかり。しかも土曜日。
本来なら、今日という日は選ばない。
でも、それでも、どうしてもこの作品は観たかったのだ。

事前にチケットを予約しておいたから特等席に座れたものの
見渡せば周りは若いカップルだらけ。
両隣も息子より若いであろうカップルだ。

館内に漂う甘いポップコーンの匂い。

ゲッ、これ嫌なんだよ。
甘いものが苦手な私にとって、これは悪臭でしかない。

若いカップルと甘い匂いに包まれて
いよいよ映画が幕を開ける。
いよいよ、いよいよ。わくわく、わくわく。

申し訳ないが、肝心なところはザックリ割愛させていただこう。

9時間後。
今なお、私はあの映画の余韻に浸っている。

圧巻の歌とパフォーマンス。
感動という言葉を使うことさえ、安直ではないかと憚られる。

映画評論なんかしたくないのでクドクド言わないが
せめてひと言。

もう一度お金を払ってでも観たい映画である。

ごめん、もうひと言。

あの映画に携わったすべての人に、ありがとう。







心配性のサワコ、自分に怒る。

2018-02-14 16:55:24 | 日記
サワコはキチンとした人だ。

去年足を折って以来、自立歩行はできなくなってしまったが
人様に迷惑はかけられないと
91歳にして車椅子を自走することも覚えた。
着替えも排泄も人の手は借りない。

入浴だけは援助が入っているが
終了後にヘルパーさんが退室しようとすると
玄関まで見送りながら
「ありがたい、ありがたい。
皆さんのお陰で私は生かされています」と
手を合わせるのだそうだ。

さすがは住職の妻。
(住職だったご主人は去年ウチで静かに息を引き取られた)
こんなキチンとした女性高齢者になれるのだったら
私も仏門に入るか!(無理だ…)

しかしこのサワコには
認知症による激しい記憶障害と悲しい習性がある。

朝昼晩の食事時。
時間に関してはしっかりしているサワコは
毎日同じ時刻に部屋から出てくる。
しかし極度の心配性である彼女は
ちゃんと戸締りをしたか
水道の蛇口は閉めたか
トイレに行ったか
この3点が気になって気になって仕方ない。

だから玄関の鍵を閉めてから
何度もガチャガチャとドアノブを回して戸締りを確認し
さあ食堂へ!となってから
今度は窓が閉まっているか、水は止まっているか
そして自分はトイレに行ったか
そう思うと不安で不安でならなくなり
鍵を開けてもう一度窓と水道の蛇口を確認。
さらに今行ったばかりのトイレに入って
これで安心!と部屋を出る。

しかしドアの鍵を閉めたところで
再びよぎる戸締り、水道、トイレの不安。
仕方なくまたしてもドアを開けて確認行為をする。

これを延々、繰り返す。
だから彼女は、いつまでたっても食堂にたどり着けない。

この間他の方のお世話で
サワコの部屋と同じフロアを行き来していたときのこと。

何度も何度もそうして部屋を出たり入ったりしている彼女を見かけた。
またやってるわあ!と、笑いが込み上げる。
「もう大丈夫ですよ」と言って安心させてあげよう。
そう思って近づこうとしたら
サワコは「だから、私はもうトイレに行ったでしょうよ!」と
自分自身にキーッ!と腹を立てながら
部屋に入っていったのだった。

キチンとしたサワコは
自分が認知症であるとはもちろん認識していない。
けれども自分が極度の心配性であることに
時々イライラ~!!!とするのであろう。



ここは天国なんかじゃないのだから。

2018-02-12 00:32:17 | 日記
昨年秋から年末にかけて
重篤な方が相次いで亡くなった。

もちろん残念なことではあるが
看取りをするこちらからすれば
夜勤の日に一人でもそういう方がいるとシンドイ。

見回りで部屋を訪ねたときに
痰が絡まって苦しんでいるかもしれない。
いや、もはや呼吸が止まっているかもしれない。
そう思うと、朝を迎えるまで緊張感100%。
医療スタッフが常駐していないウチのような介護現場は
だから、イヤなのだ。

その不安と心配がいくらかでも少なくなった今
(突然亡くなる人もいるが、それは仕方ないわけで)
そして緊急でもないのにコールボタンを押す人がいない今
久しぶりに
忙しくも少しばかり落ち着いた夜勤が続いている。

しかし、今日ひとつ新たな契約がまとまった。
来月から、要介護5のオバアチャマが入居されるという。
聞けば、その夫も息子夫婦も
それはオバアチャマを大切にしていて
いろいろな施設を見学した結果、ウチを選んだのだという。

おいおい、家族たち
ウチを見学して、話を聞いて、どこが気に入ったのか!?
オバアチャマを大切にしてくれそう、だと?
はあい、それはとんだ勘違いです。

そりゃ、一生懸命介護しますよ。
できることは精一杯しますよ。
でも、これまでの経験から私は学んでいる。
大切なオジイチャマ、オバアチャマを入居させた心優しい家族ほど
厄介なものはないと。
入居後に、彼らは必ず言ってくるに違いない。
えーー、これもしてくれないの? あれもしてくれないの?と。

世間から非難を浴びるのを覚悟して言わせてもらおう。

家族が面倒見れないから
老人ホームやウチのような高齢者住宅に
父母や祖父母を入居させるわけでしょ?
それは、いい。
家族の介護負担って、殺人事件を起こすほど大変なものだから。

ただ、言わせてもらおう。
預ければ大切なオジイチャマ、オバアチャマが少しでも長生きできる
幸せな末期を送れる
微塵の苦しみもなくあの世に旅立てる
そんな妄想は、どうか捨てていただきたい。

ここは天国ではないんだから。







ヤな人、ヤナギ

2018-02-09 00:04:03 | 日記
今日は悪口。

80を超えているのに時事問題を語りスマホを自在に操る
ヤナギという自立組の婆さんのことだ。

彼女は超ど級のクレーマー。

料理を焦がして火災警報器を鳴らしてしまった人がいると
名指しで、その人を退去させろと言って来る。
(まあ、消防車騒ぎはホントに困りものだが)

映画鑑賞会で邦画や
「ローマの休日」など昔の名作を取り上げると
「こんな古いもんしか見せないなんて
私たちを年寄りだと思ってバカにしている!」
と、烈火のごとく文句を言って来る。
(仕方ないだろ? 認知症の人や理解力の乏しくなった人にも
楽しんでほしいと思って作品を選んでるんだから)

大人しいヘルパーをつかまえては他の利用者の情報を聞き出し
「あのヘルパーは口が軽い」と
ご親切にも事務所まで告げ口しにやってくる。
(お前が無理やり聞き出したんだろーが!?)

ああ、うざいよ、ヤナギ。

そして、きのうのこと。

新しい女性入居者がやってきた。
私たちが真っ先に心配するのは食堂の座席である。

どこに座っていただこうか?
前日から思い悩んでいたが結論は見出せず
ついに、彼女がはじめて食堂へ。

職員がうっかりしている間に
その新人さんはよりによって、ヤナギのグループ席に座ってしまった。

これこそ、オーマイガー!!!

あとからやってきたヤナギは当然怒る。
「そこは○○さんのお席なんです。他に行ってください」
容赦なく、そう言った。

新人さんはオロオロ。周りもオロオロ。

近くにいた私が間に入ってなんとか場を収めたが
ヤナギの怒りはその後も続く。

あとで聞いた話によると
ヤナギは口角から泡を吹き飛ばす勢いで周囲に文句を言っていたそうだ。
「あの新しい人は常識を知らないのよ。
私は育ちがいいけど、あの人はお育ちが悪いんでしょうね?
だいたい、こういうところに入ってきたら
まず、挨拶するのが当たり前でしょう?
そういうことも知らないんだから、頭が悪いのかしらね?」

バーカ、バーカ、バーカ!!!
事務所にいた職員は一丸となってヤナギをなじる。

ヤナギは知るヨシもないが
この新人さん、私がここで出会った中でもっとも知的で社交的。
実は去年まで大舞台に立っていた
芸歴70年の舞台女優さんなのである。

お育ちのよろしいらしいヤナギよ
あの新人さんをいじめたこと、あとで後悔するなよ。