ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

ヨシダ君

2016-08-31 00:20:04 | 日記
またまた、カヨコの話である。
(前々回のブログ「心は折れるが…」参照)

夜間のオムツ交換に抵抗して
職員の手をつねったり引っかいたり罵詈雑言を吐いたりと
さんざん暴れるカヨコであるが
30歳の青年介護職員・ヨシダ君に対しては特に
憎悪感・嫌悪感を募らせているらしい。

ヨシダ君は、デッカくてハンサムではなくて
雑でマザコンで
残業と休日出勤の時間を密かにメモし
通帳の記帳を一番の喜びとしているドケチな野郎だが
そう悪い男でもない。
(私の言うことはよく聞くので、という意味で。笑)

しかしカヨコは彼以外の職員に訴える。
「ヨシダが夜中に私の股間をまさぐるんだよ。
アイツ、大嫌いだ。アイツ、来させないで!」

股間を、ま、まさぐる~!?

濡れ衣であることは、もちろんわかっている。
オムツ交換をしただけの話だろう。
面白くない男だが
ヘンな性癖を持っていないことは
3年間一緒に働いてきた私にはわかる。
(ババ専であったら私もヤラれてた)

だが、カヨコに言ったところで理解はできない。
女性職員がどんなに優しく接しても
「助けて~! 虐待されてる~!!!」と叫ぶのだから。

ああ、かわいそうなヨシダ君、不幸なヨシダ君。
でも、彼が利用者から嫌われたのは
今回が初めてではない。

でっかい図体と、イケメンとは程遠い風貌。
それは仕方ない。
しかし、どケチなキミは
金にならない笑顔ややさしさを絶対に提供しようとしないでしょう?
そういうキミの打算的なところ
特に認知症のオジイチャン、オバアチャンには伝わるのよ。

気の毒だが
それがわからないようだったら
キミの将来はないわねえ。
ふっふっふ。ないわねえ。



阿波おどり

2016-08-29 01:25:48 | 日記
東京・高円寺の名物、阿波おどりを見に行ってきた。

子どものころ高円寺のそばに住んでいたので
母に手を引かれて何度か行ったことがあるらしい。
でも、まるで覚えていない。

初めて気分で行ってみたら
なんとまあ、賑やかなこと、楽しいこと!

人が踊っている様を見るだけで
人の心はこうも高揚するものだろうか!?

音楽療法ってのがあるけれど
私はここで提案したい。
“祭り療法”を。

お世話しているジイチャン、バアチャンも
近くの公園で毎年行われる盆踊り大会を
ことのほか楽しみにしている。

やぐらは小さく、屋台も4つほどしか出ていない。
へっ、これが祭りか?と毒舌を吐きたくなる。
けれどもジイチャン、バアチャンにとっては
年に一度の心躍るイベントであるようだ。

そういえば私も…

無口で自己主張などまったくなかった幼き日
盆踊りで当時流行っていてオバQ音頭がかかると
母の手を振りほどいて踊りの輪の中に消えたという。

そうそう、東京音頭も好きだったけれど
オバQ音頭は幼く恥ずかしがり屋だった私の心に
摩訶不思議なエネルギーを与えてくれたのだった。

ウチのジイチャン、バアチャンたちにも
阿波おどりや、よさこい祭りなんかをを
生で見せてあげたいわ~。

あの笑顔で踊る様、疲れ知らずの軽快な足裁きを見たら
表情の乏しくなったKさんも笑うかもしれない。
寝たきりのMさんも、もしかしたら足でリズムを踏むかもしれない。

利用者ばかりじゃない。
3年前に死んだ父、あのお祭り男にも
原宿のよさこい祭りや高円寺の阿波おどりを見せててやりたかった。
パーキンソン病で歩行も不自由だったけれど
車椅子に乗せて
いろいろな夏祭りやディズニーランドのパレードを
見せてやりたかった。
きっと、ふぉっふぉっふぉ!と
お得意の笑い声を発しながら踊りや唄を楽しみ
もしかしたら、車椅子から立ち上がって陽気に踊り始めたかも知れない。

ま、ね。
墓に布団は着せられぬ…というわね。

天国の父へ。
生まれ変わって出会ったとしたら
一緒に“よさこい”か阿波おどり、踊ってみませんか?

心は折れるが・・・

2016-08-27 01:21:10 | 日記
久しぶりに、カヨコの話である。

「おめでとうございます。新しい時代が来ました」
と、新年でもない時期に祝賀コールしてきたり
排泄介助に行くと
「この新聞をスイスに届けなければなりません」
と、意味不明な発言をしたり
日に日にぶっ壊れていく老女、カヨコ。

いよいよ起立も歩行も難しくなり
夜間は紙おむつをつけてベッド上でのパッド交換となった。

そしてきのうの、私の夜勤。

認知症が進んでも羞恥心だけは残っているカヨコ。
ベッドに寝たままオムツ交換をされることに
激しく抵抗する。

「言ってやる、みんなにアンタのこと言ってやる!」
「アンタは頭がおかしい。狂ってる!」
「アンタの親は教育を間違ったんだ!」
「これは、ギャ、ギャ、虐待だあ!」

激しい罵倒。
しかし、それでもオムツ交換をしないわけにないかない。

はあい、はい。
そうですね、私が悪かった。ごめんなさ~い。
ベッド上でのオムツ交換なんて
そりゃ、いやでしょう? 耐え難いでしょう?
わかるよ、わかりますとも。
でもね、だからといって交換しないわけにはいかないの。
アナタのためなのよ~~~。

しかし散々に罵倒されて、いい加減、こっちも凹む。
深夜に尿まみれ、便まみれになって働いているのに
なんでこんな罵詈雑言を浴びなくてはならないのか???

悪態をつくカヨコに腹を立て居室から出ようとしたとき
彼女が渾身の力をこめて叫んだ。

「白状しなさいよ。
アンタ、どこからの流れ者なのさ???」

流れ者~?
あはははは、面白いこと言ってくれるねえ、カヨコさん。
私、腹を抱えて笑ってしまった。

ワタクシ、姓は車、名は寅次郎。東京は葛飾・柴又の生まれでござんす。

思わずそう答えようかと思ったが
今の彼女の脳に、そんな冗談は届くはずもない。

罵倒されて怒り心頭した私だったが
彼女の計算なしのジョークに思いっきり笑わされて
はい、はあい、またあとで来ますねえ
まだまだ生きててねえ
と、笑顔で退室したのだった。

心が折れることも多いけど
傷つくことも少なくないけど
彼女のような無垢でぶっ壊れた高齢者のお世話をすることが
介護職の本懐ってことなんだろうなあ。




ケイコ日記―その3

2016-08-22 22:50:19 | 日記
赤ちゃんとして世話を焼いたテディベアは
事務所預かりから実の娘のもとへわたった。

敬愛する教祖様の写真は
こっそり箪笥の上に伏せられた。

混乱の要因は次々に排除されるが
敵もさるもの
次から次へと新しい混乱要因を見つけていく。

きのうからケイコの混乱のタネとなっているのが
一緒に入居している夫のハルオだ。

ハルオについてもここでさんざん取り上げている。
拘縮によって手足は曲がったまま固まり
立つことも歩くことも、顔を洗うことも自力ではかなわない。
どんなにリハビリをしても
今はなんとか曲がった右手でスプーンを握り
こぼしながら口元にご飯を運ぶのが精一杯、の身体である。

ここまで拘縮がすすんでいなかったとはいえ
3年前の入居当時から
ハルオはしっかり車椅子生活だった。

しかしケイコは昨日の朝
自分とは別に食堂へ連れてこられた車椅子姿の夫を見て
驚愕の声を上がる。

「うちのパパは足が悪いんですか!?」
「いったいいつからそんなことになってしまったんですか!?」
「お医者様には診せたんでしょうか!?」

そしてしまいには顔を覆って泣きじゃくりはじめた。
「ああ、一緒にいながら全然気がつかなかった。
私はこの人のどこを見てきたのか。
妻として失格だわ。
ごめんなさい、パパ、ごめんなさい」

穏やかな時間が日に日に少なくなってきているケイコ。
ドロボーやら赤ちゃんやら教祖様やら足の不自由なパパやら・・・
夜間、そうした心配事から開放されてイビキをかいている彼女の寝顔を見ると
不謹慎にも
このままずっと眠らせてあげたい、と思ってしまう私である。