人並みの苦労を味わいながら、62年間生きてきた。
満ち足りていたし、幸せだった。
息子には彼が小さいときから
「人生を楽しめ」と伝えてきた。
その唯一の教えを守って、彼は人生を楽しんでいる。
うん、悪くない。
私は自分の人生をとことん楽しんできたと思う。
なんだか最期の言葉みたいになってしまったけれど
夕べ、ふと思ったのだ。
幼い子供を抱えながら
コロナに感染して途方に暮れるシングルマザーがいるという。
入院しなければならないが
子供を預けることもできない。
いや、子供もすでに感染しているかもしれない。
どんな地獄だろう。
私がもしコロナに感染し、治療が必要になったとしたら
それにかかる費用と労力を
こういう母子に提供してほしい。
つまりは医療放棄。
人生を楽しんできた私が入院や治療を拒むことで
これからの命、そしてそれを育てる命を救えないものかと。
そうすべきだと決意したところで眠りに落ち
朝を迎えてはたと気づく。
そうは言っても呼吸ができなくなって
苦しみもがきながら死ぬのはイヤだ。
安楽死を望んでも無理な話なわけだから
医療を放棄したら
私は壮絶な死を遂げることになるのだろう。
医療放棄を宣言して他の誰かの命を救い
そして静かに幕を下ろせる方法…
うーん、私なんぞが考えたって
答えが見つかるはずもないのけれど。