ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

腐っても鯛

2014-10-15 00:11:47 | 日記
Åさん(74歳・男性)は
経管栄養と喀痰吸引を必要とする介護度の高い利用者である。

(ウチには医師も看護師もいないので
そうした医療は訪問診療という形で行っている)

入居第1号のÅさんは
はじめ、小言の多い、怒りっぽい人だった。
しかし度々の転倒と骨折によりすっかり弱ってしまい
医療のお世話になるどころか
今では話すことすらこら容易ではない。

あんなに小言の多かったクレーマー爺さんが
寝たきりになってしまったかと思うと
なんだか寂しい。

おむつ交換のたびに蚊の鳴くような声で
「ありがとう」と言ってくれるが
そんな言葉より、以前のような小言を言ってほしい。
枯れ枝のようになってしまった彼の腕をとり
日ごと萎んでいくその生命力を思って涙する毎日である。

しかし、私は甘かった。

おとといのこと。
先月から働いてくれている20代のかわいいヘルパーが
Åさんの着替えとおむつ交換を終えて
事務所に戻ってきた。

「Åさんって、かわいいですね。私大好きです」

うんうん、私も好きよ。
ま、最近はほとんどお話もできないけどね。

すると彼女
「声はあんまり出せないけれど
この間なんか手招きされて、何かなと思って耳を近づけたら
電話番号教えて!なんて言うんですよ~」

うそだ! あのÅさんが若い女を口説いた!?
あの野郎…
と、思わず汚い言葉が口からこぼれそうになる。

しかし…
腐っても鯛。
いやいや、衰えても男。
若い女子(おなご)のエキスが彼を命を永らえさせるのなら
おばさんは喜んで見守ることにしよう。





愛おしい人

2014-10-12 23:09:18 | 日記
愛すべきおトボケ爺・M三郎さん。

5月24日付けのブログ「髪切ってくんない?」でも紹介したが
そのおトボケ振りは今も毎日のように発揮されている。

おとといの夜勤時
確か夜の9時ころだったと思うが
「ちょっと来てくれませんか」と彼から非常コールがあった。

トイレか緊急時以外の非常コールは困るのだが
ほかならぬM三郎さんであり
たまたま時間に余裕のあるときでもあったので
すぐに居室を訪ねた。

どうしました? トイレですか?

気のせいか力なく
うなだれ気味にベッドに座っていたM三郎さんだったが
やおら顔を上げると、一言。

「おせんべい、ない?」

はあ~~~?

あのね、M三郎さん、私はおせんべい持ってないの。
事務所にもないの。ごめんね。

「じゃ、買ってきてくんない?」

あ、あのね、M三郎さん
私いま、仕事中なの。
夜だから私一人で、その私がお出かけするわけにはいかないの。

「どうしても無理?」

うん、どうしても無理。

そういえば彼が入居したばかりのころも
まったく同じことがあった。
やはり私の夜勤中、突然事務所の戸をたたき
こんな夜更けにいったい誰!?と恐々開けてみると
車椅子に乗ったM三郎さんが
「おせんべい、な~い?」と言って来たのだっけ。

あの時、なんて愛おしいオジイチャンだろうかと思った。
そしておとといも、やっぱり愛おしいと思った。
私だけではない。
人気者・M三郎さんの介助はスタッフの奪い合いである。

金さえ積めば手厚い介護が受けられると思ったら大きな間違い。
介護職員も生身の人間。
年寄りだから、身体が不自由だからと
我がまま放題を言う老人より
どうしたって、性格のいい、愛おしい老人の方を
心をこめて介護したくなるのだる。

あはっ、同業者が読んだら怒るかな?
すみません、私まだまだ未熟者でして…



人を羨むなら・・・

2014-10-10 00:25:23 | 日記
――人を羨むなら、その人の苦労をも羨みなさい。

ずいぶん前に読んだ江原啓之さんの著書に
そんな一節があった。
忘れっぽい私が記憶している、貴重な言葉だ。

さて、同じ職場にいるケア・マネージャーのSが
明日からマレーシアに旅行するという。

仲間そろって「いいなあ!」。

一緒になってその言葉を口にした私だが
言った後で、ふと、江原さんのあの一節が脳裏によみがえる。

現在50歳のSは
5年前に大好きな大好きなご主人と死別した。
遺された息子は対人恐怖症でなかなか定職につくことができない。
娘はご主人が健在なころに家を飛び出し、キャバ嬢になった。

生活のために猛勉強してケア・マネージャーの資格を取った彼女だが
心の穴は仕事では埋められなかった。

娘がキャバ嬢をやめて家に戻ってきたのは3年前のことだった。
「もう一度勉強しなおして看護師になる」
高校中退の娘は新たな道を歩み始めたばかりか
いまだに亡き夫を想って沈みがちな母にプレゼントを差し出す。

「海外旅行に連れて行ってあげる!」

キャバ嬢時代に貯めこんだお金で
母親を海外旅行に連れて行ってやろうというのだ。

1回目に行ったのは
ご主人が生前「一生に一度は行ってみたい」と言っていた“オーロラを見る旅”。
そして今回が、3回目の母娘海外旅行となるのである。

「もうお金がなくなるから、今回で最後だよ。
次からはワリカンね」

そう言われたらしいが、それでも彼女は嬉しい。
もちろん、来年からは自分の分は自分で払ってでも
娘と海外を旅したいと願っている。

今年に入って、彼女はリュウマチで苦しんでいる。
仕事中も、時折、身体のこわばりによって机に突っ伏している姿を見かける。

そんなSの明日からの旅行。
事情を知っていれば、羨ましい!だなんて、軽々しくは言えないわけで…。

帰り際、バタバタしていて彼女に「行ってらっしゃい」が言えなかった。
だから今ここで
「行ってらっしゃ~い。どうかどうか、楽しんでおいで~」。

キング

2014-10-06 23:57:53 | 日記
Nさん(90代・男性)はエロイ。

60歳くらいの息子が毎日食事の世話にやってくるため
食堂の利用もなく
足腰はまだしっかりしているので
常勤職員があたる定時の排泄介助もなく
だから、私はほとんどご縁がない。

「毎日エロ・ビデオ観て過ごしていて
話もスケベなことばかり」

そんな情報をもたらしてくれたのは
週に何度か掃除や入浴の援助で訪ねているヘルパーのHだった。

今日残業している私のところへ
そのHが嬉しそうに走り寄ってきた。

「来てますよ、Nさんの愛人」

愛人? そりゃ初耳だ。
そんなもんまでいたのか?

Hの話によると
Nさんは愛人がいること、そしてそれが85歳であることを
常日頃話しているという。
その愛人が来た~っというので
Hは噂の有名人に出会ったように喜んだわけだ。

で、で、どんな人だった?
利用者さんのプライバシーに首を突っ込んではならぬ!
という決まりごとなぞ蹴散らかし
思わず身を乗り出す。

「いや~、派手な人!
おっきなサングラスかけて、ロングスカートはいて
とても85歳には見えませんでした」

なんでも、エントランスからこそこそと小走りで入ってきて
エレベーターに乗るのかと思わせながら乗らずに廊下を戻る。
かと思えば食堂に入りかけてサッと身を翻し
キョロキョロと辺りをうかがって再び廊下を歩き出す…
つまりまあ、いかにも“お忍び”といわんばかりの挙動不審な行動をとった挙句
やっとこさたどり着いた彼氏の部屋の前で再度辺りをうかがってから
大慌てで鍵を開けて中に入っていったのだと言う。

凄い、凄すぎる。
愛人に会うためにここまでエネルギーを使う85歳がいるのか!?

彼女も凄いが、そんなエネルギッシュな老愛人を迎える90代の男って、いったい…?

ただのエロジジイと思っていたが
明日から彼を“キング”と呼ばせていただこう。

ミヨの、生きる力

2014-10-04 00:33:21 | 日記
月が隠れるころ、ミヨは横暴な老婆に変身する。

日中は上品で優しい人なのに
明け方になると実に高圧的な態度でコールしてくるのだ。

今朝もそうだった。

朝5時。ミヨからのコールが。
「ねえ、この部屋にはお茶もないの?」
ゆっくりと低い声。
「ほほほ」と口元を押さえる穏やかな笑顔も
「ありがとうございます」を繰り返す腰の低さも
どこに消えてしまうのやら…である。

ミヨさぁん、お水が飲みたいんですか~?

また始まったわ!と思いながら、対応する。

すると電話の向こう側から激しい言葉が飛んできた。

「そうよ。だって私、生きているんだもの!!!」

う、すごい説得力。
わかりました、すぐに伺います。

「のどが渇いて死にそうです」なんてコールだったら
死にゃしないぜ!と、後回しにするところかもしれないが
「生きてるんだもの!」と言われたら
反対に「もっともだ、すぐに参りやしょう!」という気になる。

ミヨ、92歳。生きる力を見せつけられた。