ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

ミチコは女喜劇役者

2020-02-26 00:41:00 | 日記
ブログの更新頻度があきれるくらい低くなっている。

なぜか?

ウチ(高齢者住宅)に
面白いジイサン、バアサンがいないのだ。
1、2年前までなら
さんざん世話を焼かせながらも
どこか憎めないジイサン、バアサンがいた。
笑わせてくれるジイサン、バアサンがいた。
それが、みんな逝ってしまった。

つまらん時代になったもんである。

あ、でも一人だけいた。
12/13付のブログ「ここは駆け込み寺ではありません」にも登場した
ミチコ、89歳。
認知症による短期記憶の抜け落ちが凄まじい
現在のスーパースターだ。

きのうも彼女は事務所を訪ねてきた。
気になることがあると誰かに聞かずにいられないのだろう。
事務所訪問回数は
多い時で1日に何十回にも及ぶ。

ミチコは先月やってきた息子と喧嘩したらしいのだが
それが今になっても気になって仕方ない。

「私は息子にひどいことを言ってしまったようです。
私はいったい何と言ったのでしょう?」

担当のケアマネージャーが優しく対応する。
「あのね、息子さんは怒っていないから大丈夫」。

エントランスのソファに腰掛けて話すこと30分。
「ああ、そういうことだったんですね。
わかりました、ありがとうございます」
ミチコはモヤモヤを払拭して帰って行った。

帰っていく姿を近くで確認した私は
ケアマネージャーがミチコから解放されたことに安堵しつつ
その後ろ姿を追うように
彼女の居室がある1階までエレベーターで降りた。

すると、1階のエレベーターホールにミチコが立っている。
え? 今帰ったっばかりだよね?

「ミチコさん、どちらへ?」
恐る恐る尋ねると、彼女は言った。
「息子と喧嘩したんで、事務所に行って話を聞こうかと…」

たった今事務所に行って、ケアマネージャーと30分もその件で
話をしたのだと、私は根気強く伝えた。

すると彼女は言った。
「そうなんですか? 覚えてませんけど。
わかりました。では、事務所に行って
私がケアマネージャーさんとどんな話をしたのか聞いてきます」

その日、ケアマネージャーは一日中
ミチコの訪問に振り回されたのだった。

病気も介護も笑い話に変えてくれるミチコ。
面倒臭いが、アナタの存在は癒しです。



介護業界もペーパーレス時代

2020-02-16 23:25:00 | 日記
ウチの会社でも
いよいよ4月からスマホ導入となる。

介護ヘルパー全員が
援助の記録を紙ではなくスマホに入力。
申し送りもスマホから拾わなくてはならない。

今年に入ってから全員にスマホを渡して
操作方法の練習をしているのだが
この練習段階から
早くもスッタモンダ!が始まっている。

他でもそうらしいが
ウチの登録ヘルパーさんもみんないいお年。
毎日のように援助をとってくれるのは
60代ばかりだ。

スマホで電話やラインやゲームをしたり
写真を撮ったり
調べものをしたり
まあ、それくらいは日常的にやっているだろう。
しかし仕事用のアプリを使って
記録したり情報を受けたり送ったり…
若者がフツーにやっていることも
オバチャンたちには至難の技なのだ。

スマホを使っての仕事。
使いこなしたら便利だろうけれど
私たちは今
介護以上のストレスを抱え始めている。


天国へのお散歩

2020-02-09 22:58:00 | 日記
お散歩に行ってきます。

そう言って出かけて行ったユイは
そのまま天国に旅立ってしまった。

ユイは今年、100歳を迎えるところだった。
盛大な誕生日会をしてあげようと
職員同士で密かに話し合っていた。

軽度の認知症はあるが
その治療薬以外は何の薬も飲んでいない健康体。
暮らしぶりは驚くほどきちんとしていて
毎朝
廊下を何往復かウォーキングする、
居室を掃除する、
きれいに眉墨を描く、
これを日課としていたっけ。

近所の公園とコンビニくらいなら
一人でも行って帰ってこられるので
今朝も、誰も止めることはなかった。

「行ってらっしゃい、気をつけてね」
そう、送り出したのだった。

しかし、昼食時間になっても戻ってこない。
職員総出で近所を探しても見つからない。

110番に電話すると
まもなく警官がやってきた。

「この方ではありませんか?」
警官から見せられた写真は、確かにユイだ。

警官の話によれば
散歩の途中で道に迷ったユイは
近隣の人からの通報によって警察に保護された。
いや、正確に言えば保護されるところだった。
しかし警官が駆けつけたときにはすでに
ユイはバス停のベンチに座ったまま
事切れていたのだという。

お散歩に行ってきますと言い残して
そのまま天国に行ってしまった99歳のユイ。

あやかりたいと
多くの高齢者が思うのではないだろうか。








往年の乙女たち

2020-02-02 23:50:00 | 日記
そのとき、バアさんたちは乙女に還った。

施設のイベントとして
グッディーズという4人組の若いバンドを招き
ミニライブをやってもらった日のことである。

グッディーズは普段は今どきの音楽をやっているが
求められればボランティアで介護施設を回ることもあるらしく
そんな時は昭和歌謡のオンパレードを披露してくれる。

五番街のマリー
愛燦燦
津軽海峡冬景色
釜山港へ帰れ

バイオリンを含めた演奏もなかなかだし
ヴォーカルの甘い歌声も昭和歌謡によくハマる。
何よりバアさんたちに向けるかわいくて人懐こい笑顔
これがなんとも魅力的だ。

私は記録係として動画撮影をしていたのだが
その被写体は、途中から
グッディーズではなくバアさんたちになる。

だって、普段は無表情のカヨコも
寂しそうにしている認知症のレイコも
認知症を虐めている偉そうなサツキも
みんな、その目が恋する乙女になっているんだもの。

こんな表情、見たことない!
こんな輝いた目、見たことない!

嬉しくて嬉しくて、私は彼女たちの笑顔を撮影し続けたのだった。

段取りでは
いったんはけた彼らがアンコールで再び登場する時
バアさんたちの席を回ることになっており
その時、直前に持たせておいた花を
バアさんたちが彼らに手渡すことになっていた。

いい? お兄さんたちが戻ってきて席に近づいてきたら
この花を渡してね。

ところが感極まったバアさんたちはすっかり段取りを忘れ
アンコールが始まる前に立ち上がってしまう。
仮設ステージからいったん去ろうとしている彼らを追いかけるように
花を持って立ち上がってしまう。
車椅子のタエコやトシコまで
思わずヨロヨロ立ち上がろうとしてしまう。

バンドの追っかけをする女子と同じような行動をするバアさんたちに
戸惑いながらも胸を熱くした。

ああ、この人たち、ときめいてるんだ。
この人たちの心に、まだ、乙女が残っているんだ。

グッディーズの皆さん、本当にありがとう。
あなたたちの歌と演奏で
ウチのバアさんたち
1時間だけ乙女に還ることができました。