ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

ガッツポーズ!

2015-03-31 01:13:15 | 日記
面倒くさいと、毎晩、パジャマに着替えるのを拒むオバアチャマがいる。

うちは施設ではないから
何を着ようが、どう過ごそうが、本来自由である。
しかしこの方の日常着は
ボウタイ付きのブラウスとロングスカートかニットの上下。
その格好で寝るのはどうもねえ・・・
それに、足が弱ってほとんど引きこもり状態になっている彼女は
時間の感覚がまったくなくなっている。
着替えることで
せめて生活にメリハリをつけていただきたいよねえ・・・

そこで考えた。
パジャマに着替えるのがイヤなのは
もしかしたらズボンの上げ下ろしが面倒くさいのじゃないかしら?

だったら、ネグリジェ? 
いや、80歳を超えた年齢を考えたら、パジャマより浴衣?
うん、浴衣がいいかもしれない。

さっそく時々彼女を訪ねてくる息子さんをつかまえ
事情を説明して浴衣を持ってきていただくよう頼んだ。

いや~、これがドンピシャリ!
息子さんが4枚の浴衣を持ってきてくれたのは翌週のこと。
こちらの期待通り
その晩、彼女は喜んで浴衣に袖を通してくれた。

以来
「へえ、浴衣? 私こういうの似合うのよ」
「あらそう、息子が持ってきてくれたの? 気が利くわねえ、あの子も」
認知症でもある彼女は毎晩同じ台詞を繰り返しながら
新鮮な面持ちでこの寝巻きに着替えてくれている。

一人ひとりに見合った介護。
それは大変だけど、こういうことがあると思わずガッツポーズだ。


バアチャン想い・・・こその不幸

2015-03-30 00:44:01 | 日記
96歳のセツさんは、今にも死にそうだ。

どこが悪いというわけではないが
もはや身にも心にも、エネルギーが残っていない。

「私の処刑はいつですか?」

1日に何十回と非常ボタンを押しては
蚊の鳴くような声でその言葉を繰り返す。
そう問われても、「そろそろですよ」と答えられるわけもなく…。

しかしこのセツさん
なかなか死なない。いや、死ねない。
というか、死なせてもらえない。

セツさんにはパワフルな娘と孫娘がいる。
その二人が週に一度はやってきて
やれ、もっと食べさせろ!
やれ、立たせろ、歩かせろ!と
オバアチャンにとっては過酷な指示を私たちに与えるのだ。

食事介助でようやくソフト食をわずかに食べているセツさん
歩くどころか、立つだけで膝落ちしてしまうセツさん
訪問診療のドクターだって
もう生きているだけで精一杯、と言っている。

それを歩行器を使ってトイレに行かせろ!とは
私たちからしたら虐待としか思えない。

この間、セツさんがいよいよの時を迎えたかに思えた。
呼吸も微弱、何の反応もない。
もはやこれまで!
誰もがそう思ったそのとき、ごっつい孫息子がやってきた。

バアチャン、死ぬな~!!!
彼は叫びながら
ぶるんぶるんと、セツさんの肩を揺さぶった。

すると三途の川を渡ろうとしていたセツさん、
その叫びにうっかり振り返り、呼び戻されてしまったのであった。

娘や孫たちからこれほどま大切にされているらしいセツさんであるが
どう考えたって
もう、生きるエネルギーはないのである。
もう96歳で、しかもこんなに弱っているのだから
無理はさせずに穏やかで静かなときを過ごさせてあげればいいのに…。

家族の中でも一番パワフルで強引で磨きぬかれたクレーマーである60代の娘が
この間こんなことを言った。
「ここはいいとこよねえ。私もいつかお世話になろうかしら」

その言葉を人伝てに聞き、職員一同
筋を痛めるほど首を横に振る。
ジョーダンじゃないぜ!!!

大人しく、常に利用者のことを考えている優しいマネージャーが言った。

「あの人が入居してきたら
イヤだと言っても食べさせてやるし、歩かせてやりますから」

そーだ、そーだ、そーだー!!!







鬼のいぬ間

2015-03-22 00:15:41 | 日記
ユキオさんは、先月、奥様と一緒に入居された。

元お寺のご住職。
今のところ介護認定は受けておらず
軽度の認知症だが陽気でオシャベリな奥様とは対照的に
寡黙、そして孤高。
そんな空気を放っていた。

ところが先週、奥様が骨折して入院した。

さぞかし心細いのでは、と思ったら大間違いで
ユキオさん、俄然、元気で陽気で人づき合いのいい老人に変身した。

「いやぁ、しばらくは解放されます。
妻はうるさくて、うるさくて…」

まさか、あのもの静かな元ご住職から
そんな言葉が出てこようとは!?

絵や写真、折り紙、プラモデルなど多彩な趣味をお持ちらしく
女性職員をつかまえては
「写真を見せてあげましょう」
「部屋には私の絵がいっぱいあるので、見に来ませんか?」
と、ここでの“独り暮らし”を
それは満喫しておいでのようである。

老人といえども男。
住職といえども男。

ま、そりゃそうではあるが
1ヵ月後に予定されている奥様の退院時に
カレは果たして、寡黙な夫に戻れるのだろうか。


クレイジー・ナイト

2015-03-17 22:31:06 | 日記
休みでゴロゴロしていたところへ
仲のいい同僚Kからスカイプで夜勤明けの報告が。

その凄まじい内容に、思わず絶句した。

夜10時半ころの出来事である。

重度のSさんを手引きでトイレに誘導し
コトを終えてやっとベッドに入っていただいたと思ったら
今度は「便がしたくなった」と言われ
再び手引きでトイレへ。

長くかかりそうだからその間に別の援助を済ませてしまおうと
Sさんを便座に座らせたまま
妄想壁のミヨさんの部屋に行ってみたら
玄関は水浸し、テレビの前には割れたコップの破片が散らばっている。
例のごとく、見えない何かに向かって荒れまくったのだろう。

泣きたくなる思いで部屋を片付けていたそのとき
突然、館内にけたたましい火災報知機のサイレンがとどろいた。

車椅子に乗ったままのミヨさんも
便座に座ったままのSさんも放置し
小太りで運動嫌いなKは非常階段を全力で駆け上がる。

火元はどこだ!?

事務所の火災報知機で確認するまでもなく、犯人が割れた。

眠れないからと車椅子で館内をうろついていたおとぼけ爺・M三郎さんが
興味本位で非常ボタンを押してしまったのだ。

なにやってるの~、M三郎さん!!!

しかし怒っている余裕はない。早く対処しなければ。
そこへ消防署から電話が。
誤操作でした、心配いりません、大丈夫です。
そう言っても、消防車は念のため確認に行きます
われわれが到着するまで玄関の外で待っていてくださいとのこと。

そう言われても、対応すべき人間はKただ一人。
パニクるK。マネージャーに連絡することもできない。

そうだ、消防車が来るまでに
とにかく館内の利用者たちに説明し、落ち着かせなくては。

1階から3階まで、どのフロアの廊下にも
自分の足で歩ける要支援や介護度の軽い利用者たちがあふれかえっている。
中には早々と非常口から避難しようとしていた人もいたという。

落ち着いてくださ~い。誰かが間違って非常ボタンを押してしまっただけです。
心配ないのでお部屋にお戻りくださ~い。

しかしそこへ追い討ちをかけるように
物取られ妄想の利用者K子さんが叫びまくる。
「今、強盗が二人、向こうのほうに走っていくのを見ました!」

それを聞いて、ますます騒然となる利用者たち。
なおも鳴り止まぬ火災報知機のサイレン。

消防の人を出迎えに玄関に出なくてはいけない。
マネージャーに連絡しなくてはならない。
一人では動けない利用者の部屋を回って安心させなくてはいけない。
そうだそうだ
便座に座らせたままのSさんもなんとかしなくてはならない。

しかしそんな状況にありながら
認知症で寂しがりやのYさんから
「いま、ニュージーランドに行った夢を見ました」だなんて
とぼけたコールがかかってきたり
犯人・M三郎さんは他の利用者と一緒になって
「非常ボタンを押した犯人を捜そう」と談合をはじめたり・・・

わ~~~ん!!!
K子の奮闘振りを思うだけで、こっちまで泣けてきそうだ。

世にも怖ろしい一人夜勤。
ああ、明日は私の番である。


おっさん、ゴミ箱へ。

2015-03-14 19:26:18 | 日記
おっさんほど呆れた亭主がおろうか!?

恥ずかしいやら情けないやら馬鹿らしいやら
こうして公開するのもみっともない話なのであるが
書くことで気持ちを静めよう。

おとといの話である。

仕事仲間と4人で飲みに行った。
宴もたけなわ、の午後9時半。
隣に座っていた仲のいいK子のスマホに着信が。
会社からだ。
え、何があったの!? 緊急事態?
同じ職場の4人に緊張が走る。

出ると、夜勤をしていた男性同僚が言う。
「ちかさんがどこにいるか知りませんか?
今ご主人からこちらに電話があって
妻が夜勤明けからまだ帰ってきていないと
心配されているんですが…」

私はここで飲んでいる。
おっさんも知っているはずだ。
マナーモードにしておいた自分の携帯を見ると
なんとおっさんからの着信が14件も。

そんなに私を探し回っているということは
身内に何かあったに違いない。
私は大慌てで外に出ると、ドキドキしながらおっさんに電話した。

どーした? 何があった?

するとおっさん
「あ、飲み会だったんだっけ?
夜勤明けなのに帰ってきた形跡がなかったから
事故にでもあったんじゃないかと思って心配になっちゃって」

・・・・・
怒りと呆れとおっさんの脳を心配する気持ちが絡まりながら一気に膨らみ
気を失いそうだった。

今夜は飲み会だって、何度も言っただろーが!?
夜勤明けでもちろん家に帰ったさ。寝てから飲みに出かけたんだよ。
形跡がないって…仕事に持っていくバッグ、いつものところに置いてあるだろうよ!?
なんでそんなつまんない用件で、会社にまで電話すんだ!?
オマエは夫の帰りが遅いことを心配する昭和の新妻か!?

ウサを晴らすべく二次会のカラオケでも飲みまくり歌いまくり
深夜1時に帰宅。
いつもならとっくに寝ているおっさんが、起きていた。
小さくなって、「悪いことをした」と謝ってきた。

私に睨まれるほどに小さく小さくなっていくおっさんを
私は心の中で、ゴミ箱に捨てた。