入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’20年「冬」(51)

2021年01月05日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など






 写真はどれも他の牛が山を下りた後も1ヶ月も残留を決めて、大いに手こずらせてくれた2頭の和牛たちで、そのうちの1頭は15歳という老牛だったとすでに紹介した。この2頭の間にははっきりとした長幼の序があり、最後までそれが守られていた。3枚目の写真のように、餌鉢の餌を独占しているのがその老牛で、若い方の牛はその近くの草の上の餌を食べている。そのようにしないと、若い牛は餌になかなかありつけない。老牛は自分の分を食べ終えれば、今度はどけとばかりに頭で若牛の腹を突く。すると突かれた若い方は素直に老牛に自分の分を譲るのだ。
 よく牛は愚鈍な動物のように思われているが、実は決してそうではない。走りだせばとても人間の敵ではなくなる。だからこそ下牧の日、20人もの人間が必死で捕まえようとしても、その度に振り切って逃げてしまったのだ。それも驀進を重ねて。
 そんな牛たちだったが、やがて近付いても2頭の牛は逃げないどころか、触れることさえ許すようになった。そうなればと場所を決め、給餌するようにした。そして檻を作り、そこに入れるまでは上手くいった。ところが他の人間が姿を見せた途端に暴れ出し、ついには若い牛は檻を破り、老牛は紐を付けたまま遁走してしまった。 
 これで2頭の牛を手なずけることはもう無理だと思ったのだが、再び接近を試みたら逃げもせず、それで給餌を続け、最後にはなんとか2頭とも確保することができた。結局、2頭の牛を2度も裏切ったことでそれができたわけだが、"裏切り者"に牛たちが敵対しなかったのは意外だった。いつの間にか人との間に紐帯のような物ができていたのかも分からない。
 暴れて角を折って血を流した老牛、その老牛に付き従った若い牛、今は狭い畜舎で何を思い暮らしているのだろうか。もしかすればだが、いくら不自由でも先の不安のない畜舎暮らしがいいと思っているかも知れない。いやいやそうではなくて、やはりあの牛たちだって、広々とした放牧地で過ごせた日々を記憶のどこかに留めているような気がする。
 そろそろあの40頭ばかりの牛たちの中には、元気な雌牛を産んで蓄主を喜ばせた乳牛もいるだろう。
 本日はこの辺で。
 
コメント
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