冬ごもりするつもりでいても、上との縁がなかなか切れない。炬燵から這い出し、背中をすぼめ、冷え切った車内で車を動かすのはそれなりの決断力が要る。きょうは午後になって天気は下り坂に向かい、夜は雨がふるようだ。そうなると入笠は、雪になるかも分からない。明後日は、天気さえ良ければ星の狩人が最低でも1名は来る。かんと氏である。もし今夜雪になっても、これまで12月中に伊那側より車で上がれなかったことはないから、まず大丈夫だろう。
芝平の数少ない住人の中には冬の間、どこか別の場所で暮らす人もいるようだが、それでもあの廃村に住み着いた10人にも満たない人たちがあそこで冬を越す。元住人の話を聞けば、とにかく寒いと言う。そうだろう、気温はここらよりもさらに低く、川は凍り、山は眠る。雪はいつまでも残り、さらに今では点在する廃屋が侘しさをより募らせる。本当に住めば都だったか分からないが、それでも芝平の歴史は古く、人々の営みの歴史は数百年を優に遡ることができる。きっと「都」だったのだろう。今となっては、どういう事情からあんな辺鄙な土地に人が住み着いたのかもう分からないが、そういうこともあって余計に関心を、土地にも、人にもずっと感じてきた。
今、F氏から預かった黒部の戦後間もないころの「伊藤正一写真集 源流の記録」を眺めていても、そこに写っている人々に親近感を覚える。特に、野生の人たちの中に女性が一人、両手を腰に当て堂々と立っている姿を目にすれば、できればその写真の中に入っていき、どんな事情があってそこにいるのかと尋ねてみたくなる。彼女が美人かどうかは分からないが、多分そうだろう。笑っているように見える。生きていれば90歳ぐらいだろうが、三俣小屋との関係や、どういう人生だったかを聞いてみたい。
自分の裡にある、平凡で変哲もない感覚を超えた人たちのことをあれこれと想像して、冬ごもりの無聊を癒している。芝平のかつての住人も、黒部の「山賊」と呼ばれた人々も、もちろん一緒にはしないが、幾冊かの面白い本にも負けないという気がする。
そういうわけで「冬の営業案内」をご覧ください(下線部を左クリックしてください)。予約は早めに頂ければさいわいです。