オオダオ(芝平峠)にまで出た時、また、時間によっては帰る時、どうしてもこの光景を無視することができない。しかしその都度、この八ヶ岳の目の覚めるような眺めは、実際に見るしかないと痛感する。写真では、撮りようによっては実景をもっと美しく表現することもできるだろうが、それでも、ここで一息ついて眺める雪の峰々と、牧場に入ってから目に入ってくる乗鞍岳の秀麗とも言える山容は、自分の目で見るしかないと思っている。腕に自信の向きには、ぜひ挑戦をお勧めする。
今年は、秋から冬にかけて、自然の移ろいの中でも落葉後の風景に親しむことが多く、あの冬枯れの寒々しい印象ばかりの森や草原を、お蔭で見直すことができた。例年なら、11月の20日で一応契約は終わり、その後は用事ができたり、気が向いた時に上がるだけだったから、そんなに意識しなかったのかも知れない。それがこの冬は、12月に入ってもずっと牧場や入笠との縁が切れなかった。
あの葉を落として、静かに眠りに入った晩秋の落葉樹の森には心惹かれる。ミズナラ、ケヤキ、クヌギ、シラカバ、ダケカンバ・・・。愛想のない、媚もしない森の、それでいてなんと端正な姿、趣を感じさせることか。もっともシラカバだけは、遠くからでもやたらに目に付く白と黒の樹幹を、控え目とは言えない。
「千軒平」と呼ばれる、昔は金山だった山の中には、シラカバの林が目立つ場所がある。そこにはなぜか落葉松のような針葉樹は少なく、多くの自然林が残っている。湿地帯で、植林には向かないと判断されたのか、はたまた金山と何か関係でもあったのか。いや、それにしては鉱山の跡の多くは樹齢のいったヒノキのような針葉樹の森の中にある。
それはともかく「千軒平」などという地名は、1000軒の家を建てることもできるくらい広い平地というほどの意味だろうが、今では、金鉱堀りに携った人の眠る墓も、誰かに墓石を持ち去られてしまったようで数えるほどもない。遺族が別に移したとも考えられなくはないが、恐らく違うだろう。
そういう忘れかけたうら寂しい歴史のことも、沈黙した落葉樹の森に相応しい気がする。
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