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量子コンピュータ(量子論5)

2003-10-27 | 科学
量子論の実用面で最先端の話題といえば量子コンピュータと量子暗号が挙げられる。

現在のコンピュータはあらゆる情報を二進数の数字に置き換えて計算・処理している、「0」か「1」かがすべての世界。これに対して量子コンピュータは量子論の重ね合わせの原理を用いることで従来のコンピュータには出来ない「並行処理」が行える。従来のが0か1の二種類で判断するのに対し、量子コンピュータは0と1が重ね合わさった状態(0と1の中間の状態、0.5ではないよ)を無数に用意しそれぞれに情報を持たせて計算することで膨大な量の計算を可能にする。

この概念を考えた物理学者ドイチェは「量子コンピュータが並行処理を行えるのは、同時並行して存在する複数の世界で計算が実施されるから。つまり量子コンピュータが完成すれば多世界解釈の正しさが証明される」と述べている。まあ、この概念には反論も多いそうなので鵜呑みできないし、第一量子コンピュータはまだアイデアとごく基本の部品ができただけで完成にはまだ相当の時間がかかるそうだから。

とにかくこの量子コンピュータの高い能力のひとつに「素因数分解」を高速で行えるというものがある。例えば851を素因数分解すると23×37になる。23と37をかけると851になることは誰でもすぐに計算できるが851を素因数分解するには1から851までの数で一つ一つ割っていくよりも早い方法がないとされている。
ところで、現代において最も解読が難しい暗号に「公開鍵方式」がある、公開鍵と呼ばれる素数によって解読できる仕組みで、この素数が何かを調べるには大きな桁の数を素因数分解しなくてはならない。スーパーコンピュータで何千年もかかるので他者が暗号を解読するのは事実上不可能とされている。

だが並行処理が可能な量子コンピュータなら素因数分解を一瞬で行えるので現在のセキュリティシステムが無力化してしまう。そして逆に量子論を用いた量子暗号によってもっと厳重なセキュリティが実現する。
量子暗号はミクロの世界の物質が「観測されると状態が変わってしまう」事を利用したもので、送られる情報を重ね合わせの状態にしたもの。これを盗み見ると重ね合わせの状態が解消されてしまうため誰かが盗み見た痕跡が残りこれを確実にチェックできる。この暗号は量子コンピュータよりも一足早く実用段階の研究に入っている。

5回に渡っていろいろ書いてきたけど、ざっとこんなとこかな。量子論自体を理解するのは大変なことというより素人には不可能に近いけど、最先端の物理学はこんな不可思議なことになっているというのはお分かりいただけたと思う。

最後に物理学者ファインマンの言葉で閉めよう。
「量子論を利用できる人はたくさんいるが、量子論を理解している人は一人もいないだろう」