ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

狩野川薪能、大成功で終了しました!(その7)

2008-08-31 16:44:17 | 能楽

さて『嵐山』ですが、さすがに声がややかすれていたかも? でしたが、最後まで気持ちよく舞う事ができました。この画像はやはり山口宏子さんに撮って頂いたものですが、まさにベストショット! 「同体異名」を表す型で、この型があるから ぬえは『嵐山』を上演曲に選んだようなものです。もとよりシテより子方の方が目立つ曲で、後シテが出演している時間よりも子方が舞っている時間の方が長いという。。(^◇^;) その中で、唯一子方と一緒にやる型がこれなのです。

三人の前には大きな桜の立木の作物が置かれているのに、よくまあ、この角度から、これだけアップの写真を撮ったものです。。数ある ぬえの舞台写真の中でも一、二を争う良い写真ですね~。綸子ちゃんにも送ってあげたし、自分の分はさっそくA4の写真用紙にプリントして飾ってあります。

それにしても豪華絢爛な舞台です。華やかで動きもあり、子方の舞も豪快な神の舞もある。それぞれの役が能の場面を構成するのに最も華やかに見えるように考えられて登場しますね。前シテが定型の脇能の尉と姥であるのに、その演技は地謡も徹頭徹尾ヨワ吟で謡うように作られている非定型。そして桜の立木の作物。子方も桜の枝を持って登場します。およそ神々しい神の来現という印象とは違って、華やかで美しい舞台が繰り広げられる『嵐山』は極楽浄土や高天原を舞台上に再現するのを目的として作られた能であるかのようです。ああ、面白い能だな~。お客さまも楽しめたと思います。シテはあまりやる事がないけれどね。シテ一人を中心に据えてはいるものの、シテに一極集中させていないところが、作者の面目躍如たるところなのでしょう。脇能なのにレビュー的ですらある。観阿弥や世阿弥の時代の能とはまた違った、おおらかでこだわりのない作風が禅鳳のよさなのでしょうね。

じつは『嵐山』は、ぬえは本当は来年の狩野川薪能で上演しようと思っていたのです。来年は薪能もついに10周年を迎えます。その記念の催しにこの華やかな能を上演したら、さぞや華やぐだろうと。でもいろいろな事情もあって、また何といっても今年は綸子ちゃんという子方を得て、この子ならば『嵐山』には似合うだろう、と思って今年の上演に決めたのでした。結果的には予想通りの大成功だったですし、それにも増して稽古の段階から綸子ちゃんは ぬえの予想を超えて進歩したのでした。やはり ぬえの見る眼は正しかった。

綸子ちゃん、当日は緊張しなかったそうです。楽屋でも落ち着いていましたね。「もう『嵐山』を舞うの、飽きちゃった、というぐらいが丁度いいんだよ」と ぬえも常々言っていましたが、それぐらい本人も稽古を積んでいましたですしね。成功は当然の結果でもありました。ただ。。終演後は笑顔で帰った綸子ちゃん、翌日には熱を出しちゃったんだそうです。。やっぱり気が張っていたのねえ。。

ただねえ。。ここまでの完成度を見せられちゃうと、来年の薪能の人選が困ります。。これまでは毎年小学校6年生からすべて「子ども創作能」の主要な役と、玄人能の子方を選んでいました。「子ども創作能」は役割を説明して希望者に挙手をさせて選んでいるのですが、玄人能の子方はそうはいかないです。やりたいという希望だけでは。。そこで ぬえが前年から子どもたちの様子を見ていて、翌年の子方を選び出すのですが。。もちろん、いつか「該当者ナシ」という年だって来ることも覚悟してはいます。そうした場合のその年の6年生の保護者から反発が出ることも予想はしています。

ただ。。今のところ ぬえは来年も綸子ちゃんに子方での出演をお願いしたいなあ、という気持ちを持っています。あれほどの完成度はなかなか一般の小学生に期待するのは難しい。。それがプロとしての ぬえの偽らざる実感です。玄人能はお客さまのためにある。子どもたちのためじゃない。そうであれば舞台の完成度を第一義に考えるのは致し方がないし、むしろそうあるべきでしょう。ぬえも自分の舞台だけは責任をしっかり果たしたいのです。。まあ、これから1年かけて、ゆっくり考えていきましょう。

終演後、子どもたちとの最後のミーティングで ぬえは全員に「100点」をあげる宣言をしました。みんなも ぬえに寄せ書きをくれて。。主催者の大倉正之助さんは子どもたちに、薪能に出演する機会を頂いたことをご両親に感謝するよう言いつけ、生活の中に「感謝」と「礼」を活かすことを語りました。とても良い言葉だと思います。ぬえも「創作能」で小四郎役を勤めた千早ちゃんに、帰宅したらその後見を勤めてくれたお兄さんの義成くんに、ちゃんと手をついて「ありがとうございました」と言うよう申しつけました。義成くんは受験を控えた中学3年生なのに、わざわざ時間を割いて薪能に参加を希望し、小四郎役の妹の世話役の後見を舞台上で勤めてもらったのです。

さてみんなも帰宅し、ぬえも装束を片づけて東京に帰るとき、ふと会場の「アクシスかつらぎ」の正面玄関を出ると。。あれあれ、そこに備えられていて誰でも自由に利用できる「姫の足湯」の方から声が聞こえてきます。行ってみると、綸子ちゃん、千早ちゃん、義成くん。。まさに薪能の主要メンバーがみんなで仲良く足湯につかってる~~(^_^) ぬえも早速混ぜてもらって足湯につかりました。あ~~シテを終えて汗だくなんだけどいい気持ち~。

そんなこんなで伊豆の国の薪能は大成功で終了しました。もうしばらく彼らに会えなくなると思うとさびしいですが。。また来年、新たな気持ちで薪能10周年に向けて、今からもう走り出して行こうと思います!

最後に! 子ども創作能の主要な役を演じた子どもたちの勇姿をご紹介して、このたびの狩野川薪能のご報告を終わらせて頂きます~

      
       <大蛇> =隆貴

      
       <安千代> =真澄

      
       <小四郎> =千早


【おしらせ】
「狩野川薪能」につきましては能楽雑誌の「DEN」より報告記事の寄稿のご依頼を頂戴し、当該誌は渡辺国茂さん撮影の写真入りで10月に発売されるようです。編集部からはお声を掛けて頂き、まことにありがとうございました~。

また ぬえの師家の機関誌「橘香」(きっこう)にも写真と、ひょっとすると報告文を掲載するかもで、これも10月に刊行される予定です。併せてご期待ください~~

                               <了>


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