ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

『氷室』。。本格的な脇能(その1)

2008-09-01 02:14:00 | 能楽
さてさて伊豆の薪能で『嵐山』を勤めたばかりの ぬえですが、もう2週間後には東京で、『嵐山』と同じ脇能の『氷室』(ひむろ)を勤めさせて頂きます。

じつは ぬえ、脇能はほとんど勤めたことがありませんで。。ずっと以前、千葉県の松戸市でのホール能で『高砂』を勤めた経験があるだけ。。ですから伊豆の国市での『嵐山』が二度目の脇能だったのです。あれ? ということは。。能楽堂で脇能を勤めるのはこの『氷室』が最初なのか。。!

おかげさまで、『嵐山』の稽古をしているときにも、脇能の決まり事や「真之一声」での前シテの登場の仕方など。。すっかり忘れている事に気づきました。。地謡としては脇能も何度となく出演しているので、脇能の囃子の構造とか、見慣れている、聞き慣れている部分はよく承知していたつもりなのですが、いざ自分がシテを舞うとなると、あれ? どっちの足からだっけ。。なんて思ったり。。(恥)

で『氷室』ですが、まずは遠い曲です(遠い、というのは楽屋用語で「上演頻度が少なくて珍しい曲」のこと)。「遠い」ということは文句をしっかり覚え直さなければならない曲ですが、それでも ぬえは『氷室』の地謡を2度だけ謡ったことがあるので、まあまあ地謡の文句は頭の中に残っていました。

ただ、『氷室』を稽古していて思うのは、約90分の上演時間に象徴されるように「長い曲」でもあります。で、よくよく謡本を眺めてみると、この曲、かなり脇能としては本格的な構成に作られていることに気づきました。脇能と言ってもいろいろあって、『高砂』や『弓八幡』のように後シテが「邯鄲男」の面を掛けて「神舞」を舞う曲は、なんというか脇能の中でも「本格」という意識が能楽師にはあります。また一方、『玉井』や『白鬚』など後シテが悪尉系の面を掛けるや、『老松』『白楽天』のようにシテが「真之序之舞」を舞う曲は荘重で、「邯鄲男」の曲よりもさらに「本式」。重厚で上演時間もどうしても「長く」なります。

それに対して後シテが「舞働」を舞ったり「早笛」で登場する曲は、「邯鄲男」や「悪尉」の面、あるいは「皺尉」を掛けて「真之序之舞」を舞う曲よりも、少し「軽い」というような印象があるのです。こういう曲には『竹生島』のような龍神が主人公の能とか、先日の『嵐山』のような曲がありますが、いずれも上演時間は1時間に足りないほどです。

ところが『氷室』は「小ベシ見」の面を掛けて「舞働」を舞っていながら、90分と上演時間の長い能です。地謡で謡っていて、さほど長い印象は ぬえにはなかった『氷室』ですが、それは見た目の舞台の華やかさに時を忘れていたのですね。たしかに地謡を覚えるたびに前シテの部分の長さに苦しんだ記憶はあるのですが、今回稽古をしていても、やはり前シテが長い。。すなわち、本格的な脇能としての格式を、略さずに貫いて作られている能なのだ、という事に気がつきました。同じ派手なアクションが見せ場の『嵐山』と『氷室』。それなのに上演時間は1.5倍の開きがあります。作者の個性の違いかもしれません。面白いことだと思いますね~。

今回の『氷室』の上演では、もう一つ面白いことも。

後ツレの天女ですが、じつは今回は師匠のお計らいで、小学4年生の チビぬえが勤めるのです。「天女之舞」を舞うのは先日の『嵐山』と同じで、言うなれば狩野川薪能が チビぬえにとって前哨戦だったのです。薪能では短く詰めた「天女之舞」を、今度は本式に舞わねばなりません。じつは、かくして チビぬえはこの夏は稽古三昧で、とても夏休みという雰囲気ではありませんでした。。


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