あれやらこれやら いろいろ沖縄

沖縄に住み30数年の県外居住者が見た沖縄の生活や人情・自然や文化、観光。「あれやらこれやら」気ままに。

沖縄の人情 ~ うるま市石川で出会った素敵な女性 ~ 「育ちがいい人ね」

2020年11月03日 15時55分11秒 | Weblog


 10月29日木曜日。
朝から秋晴れの乾いた風が吹く昼下がり、突然、電話がなった。
「出かけてみる?きょう、休みだから」
これといって用事がある身でもない。
「行く!」即答である。
「家を出たから5、6分くらいで着く。大丈夫?」
「ああ、着替えるだけだから」
「沖銀の前で待っている」
 半袖シャツとズボンを穿き替え、盛夏用の薄手の上着を羽織って外に出る。
待ち合わせ場所は100mほど位しか離れていない。
何処に行くのかな?
聞いてみたところで別にこれという行きたい場所はなかった。
車を手放して、遠出をすることはなくなったので、どこでもいい遠くの景色を見たかったし、
充分に新しい空気が吸えるだけでもありがたかった。
 「最近オープンした<『うるマルシェ』へ行ってみよう」ということになった。
変哲もない高速道は使わずに一般道を石川に向かう。
「地図をプリントしているけれど、大体、記憶しているからいいだろう」
取りに帰ったって5分もかからないが戻らなかった。このちょっとした面倒臭さがとんでもないことになる。
「石川市の真ん中の海よりの道だ」案内する私には迷いがない。
1時間ほどで目安の場所に着いたが、ショッピングセンターらしき建物がない。
すぐに見つけられると思っていたが、20分ほど車で探すが見つからない。
 ローソンをみつけて、車を停めた。
タバコを買った。
「この近くのはずなんだが、『うるマルシェ』は知らない?」
小太りの締りのない風体の若い店員に尋ねた。
「え?知りません」と素っ気ない。
「店長に聞いてみます」くらい気を利かせろよ、と思いつつ客が途切れるのを待っていた。
 ふと、コーヒーメーカーからコーヒーをコップに入れている30過ぎの清楚な女性が目に止まった。
「すみません。お尋ねしますが、『うるマルシェ』はこの近くだと思ったのですが・・・」
「えっ?ちょっと待って下さい」
コップにコーヒーを満たすと支払いを済ませ。
「『うるマルシェ』ですか?全然、場所が違いますよ」
彼女に促されて店の外へ出た。
白の中型車のセダンからスマートホンを持ち出してきた。
白い細い指がスマートホンの上を滑るように、踊るように目まぐるしく走る。
時には場面に向かって「うるマルシェ!」といっている。
音声で探しているのだな。
「全く違う方向です。どちらから見えました」操作の合間に、じっと佇むわたしを気遣うように目を上げた。
「浦添です」
「ずいぶん遠くに来ていますよ。30分くらい離れています」
連れも車から出て来て二人のそばに立っていた。
「『栄野比』分かりますか」と地名を言うが私にはわからない。咄嗟に、連れが
「わかります」
「それから左に曲がるのですが、道順が難しいですね」とスマートホーンを操作する。
「う~ん、この道じゃ分かり辛いでしょう」と、天を仰いだ。
「ちょっと待っててください。お店に」といって店に入って行った。
しばらくして出てくると、再び、スマートホンの操作を始めた。
ズボンのポケットに入れていた私のスマートホンが鳴った。
取り出すと時報であった。
それをみるなり、彼女の顔がぱっと明るくなった。
「スマートホンをお持ちですか、ちょっと貸してください」
昨年、DOCOMOで高齢者用という売り文句に誘われて、ガラケイから替えたばかりである。
「高齢者用で買ったものです」
スマートホンを渡しながら、彼女のスマートンをみたら、最近、アメリカで販売停止になった中国製のメーカーの名があった。
「あっ、ソフトが入っている!」と言いながら検索を始めた。
目の前で操作してくれているが、何をどう操作しているのかさっぱりわからない。
どうもインターネットを操作しているらしい。
インターネットはパソコンで間に合うからとスマートホンのインターネットは使うことはなかった。
「うるマルシェ!」とスマートホンに向かって話しかけると
画面が変わった。
音声で検索できるんだと内心驚いた。
しばらくして
「設定できました。スマホの支持に従って行ってください」
と安堵した顔で、にっこり微笑みながらスマートホンを手渡してくれた。
「カーナビできるのですか!」驚いた。
「ええ、音声で誘導するようにしていますから」
あっけにとられていると
「ありがとうございました」と連れが丁寧にお礼を言った。
「お手数をかけました。助かりました」私も丁寧にお礼を言って車に向かった。
  しばらく連れと何事か話していた。
連れが帰って来るまで、ひとり車でスマートホンの画面を見ていた。
「いい人に出会ってよかったね。なぜか幸せな気分になる」
そう言いながら車に運転席に座った。
「すごいなあ。こんな機能があるなんて驚いたよ」
「そう、とっても便利だということは知っていたよ」
道案内は適確であった。右折、左折を音声で誘導してくれた。
画面には、方向転換するまでの距離が表示される。それが、実に、正確であった。
地図にはないだろうと思われる路地へも誘導する。
方向転換地点を誤って通り過ぎても、修正し、誘導してくれるのだ。
かれこれ30分余り走って「うるマルシェ」に着いた。
 とんでもない方向に来ていたもんだと連れには平謝りした。
現在では合併してうるま市になっているが、目指したのは旧石川市の中心街。
目的地は旧具志川市の東の泡瀬の埋立地沿いにあった。
出発点からみれば、まるで方向が違う。
真北に向かって出発したが、北東に向かわねばならなかったのだ。
 小腹が空いてきたので、軽く食事をした。
車の中でも、食事中も、件の女性の話ばかり。
「いい人だったあ。あんな人に出会うと一日中が明るい気分で過ごせる」
「ほんとうだ。得した気分になるよ。
沖縄に来た当初、本部(もとぶ)で道を訪ねたら、歩いて来た方向に500mほど戻りして
その場所まで連れて行ってくれたよ。20歳くらいの若い女性だったなあ」
暑い夏の陽を背に受けながら、小走りにあと戻る娘の姿が目に浮かんだ。
「携帯番号を聞いとけばよかった。無事に着きましたって連絡してあげられるのに」
「そうだね。でも、今の若い子にしたら怖がられるかもしれないよ」
「そうね。あの人、きっと育ちがいいのでしょうね」

 「育ちがいい」
久しぶりに聞く言葉だった。
今の世に。この言葉の意味やイメージが分かる人たちがどのくらいいるだろう。
裕福な家、高学歴の家庭、地位ある両親などをイメージするくらいに違いない。
「愛の鞭」なんて言ったら、嘲笑される昨今、
「三尺離れて師の影を踏まず」なんて言おうものなら、罵倒されるに違いない。
こういう世界にしたのは誰あろう。
「猛烈社員」、「滅私奉公」が男の仕事と、家庭を一瞥だにしなかった我々世代の責任だ。

 帰りは30分ほどで着いた。
行きの一時間を考えれば、倍近くの時間を浪費したことになる。
数カ月ぶりに居酒屋でたのしいひと時を過した。
「一旦、コンビニを出て彼女は引き返したよね。何のために引き返したのかなあ」
「地図を探しに行ったのよ」
そうだったのか、ひとり苦が笑いした。


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