作成日:2020.09.14|更新日:2021.06.05
:
“地域循環共生圏概論特集編”
『眼の前に有る環境変動影響①』
🚲 平均気温、21世紀末には4℃上昇
滋賀県はこのほど、地球温暖化が県内に与える影響を
予測した「県の気 候変動影響等とりまとめ」の素案
を、有識者でつくる県気候変動適応推 進懇話会に示
した。温暖化対策が現状のまま強化されない場合、
20世 紀末(1980~99年)に比べ、今世紀末(2076
~95年)の県 内の年平均気温が4.3℃度上昇し、農林
漁業や県民の健康に大きく影響するとしている。素案
は気象庁の「地球温暖化予測情報第9巻」(2017年)
のデータを県が整理して作成。20世紀末に14.4怒℃
だった年平均気温は、今世紀末には現在の鹿児島県並
みの 18.7度になるとしている。季節別では 夏が 4.1
℃、冬が4.9℃がる。1.25日だった年間の猛暑日は 25
日増えて26~47日になると予測している。(平均気温
21世紀末には4度上昇!? 滋賀県予測、農林漁業や健
康に影響,京都新聞,2020.9.14).
今回の県の報告をもとに人為的気候変動がもたらす危
機を考え深掘りする。
2020年7月の記録的大雨
気象庁は、今年8月20日に開催した異常気象分析検討
会の検討結果を踏まえ、7月の記録的大雨や日照不足な
ど顕著な天候不順の要因についてとりまとめ公表。そ
れによると「アメダス年最大72時間降水量の基準値
過去30年で約10%の増加傾向」ある。つまり、2020年
7月は「令和2年7月豪雨」(7月3日~31日)が発生する
など、東北地方から西日本にかけて記録的な大雨や日
照不足など顕著な天候不順となった。特に7月3日~
4日には熊本県を中心に線状降水帯が発生し記録的な
大雨となるなど、各地で大雨による甚大な被害が発生。
また東北地方、東日本太平洋側、西日本日本海側・太
平洋側では、1946年の統計開始以降、7月として降水
量の多い記録を更新し、これらの地域に加え東日本の
日本海側も日照時間の少ない記録を更新。気象庁は、
7月の記録的大雨や日照不足など顕著な天候不順の要
因についてのレポートを公表。今回の一連の大雨は、
地球温暖化の進行に伴う長期的な大気中の水蒸気の増
加し降水量が増加した可能性があると指摘。アメダス
(地域気象観測システム/640地点)地点の年最大72時間
降水量の基準値との比には、過去30年で約10%の増加
傾向がみられた。
⏩その背景要因として、地球温暖化による気温の長期的
な上昇傾向とともに大気中の水蒸気量も長期的に増加
傾向にあることが考えられ、理論上気温が1°C上昇す
ると、飽和水蒸気量が7%程度増加する。大雨の発生
確率も含めた定量的な評価は、イベントアトリビューシ
ョン等の研究成果を待つ必要があるが、今回の-連の
大雨においては地球温暖化による長期的水蒸気量の増
加が降水量を増やした可能性がある。なお、イベントア
トリビューションは気候モデルを用いて「過去の気候
を模した大量の実験」と「人間活動による温暖化がな
い設定での大量の実験」を行い、両者の比較から個々
の異常気象の発生が温暖化によりどれだけ変わったか
を確率的に推定する手法をさす。(下図参照)
滋賀県のこれまでの気象の変化
1 気温
(1)年平均気温:滋賀県内(彦根)の年平均気温は、
100 年あたり約 1.38℃の割合(統計期間 1894~6 20
19 年)で上昇が見られる。
(2)その他の主な気温の変化傾向(統計期間:1894
~2018)
年平均最高気温・・・100 年あたり0.90℃の上昇
年平均最低気温・・・100 年あたり1.87℃の上昇
猛暑日(日最高気温が35℃以上の日)10年で0.3日増加
真夏日(日最高気温が30℃以上の日)10年で0.8日増加
熱帯夜(日最低気温が25℃以上の日)10年で1.6 日増加
冬日(日最低気温が0℃未満の日)10年で2.6 日減少
〇 年平均最高・最低気温
彦根の年平均日最高気温は 100 年あたり 0.90℃の割
合で上昇傾向が見られ、彦根の年平均日最低気温は
100 年あたり1.87℃の割合で上昇が見られる。
〇 年間真夏日・猛暑日・熱帯夜・冬日日数
根の年間真夏日日数は 10 年で 0.8 日の割合で増加
傾向が見られる。年間猛暑16 日日数は10 年で 0.3
日の割合で増加傾向が見られる。年間熱帯夜日数は10
年で約1.6 日の割合で増加傾向が見られる。年間冬日
日数は 10 年で約 2.6 日の割合で減少が見られる。
2 降水量
(1)年間降水量:滋賀県内(彦根)の年降水量には、
統計的に有意な増加は確認されていない(?)
(2)その他の主な気温の変化傾向
短時間強雨の発生日数(日降水量30mm 以上の日数)・
・増加傾向は見られない
無降水日数(日降水量1mm 未満の日数)100年で7.3日
増加年降雪量(彦根)10年で約13cm減少
(長浜市柳ケ瀬)10年で約92cm減少
〇 短時間強雨の発生回数(年間日降水量30mm以上、
50mm以上、100mm以上)・年間
無降水日数:彦根の短時間強雨の発生回数(日降水量
30mm以上、50mm 以上、100mm 以上)は、いずれも有意
な変化傾向は見られないが、年間無降水日数(日降水
量)は100年あたり 7.3日増加している。
【参考】 近畿地方での短時間強雨の発生日数の変化
1 時間降水量 30mm以上の年間発生回数は、統計期間
の最初の10 年間(1979~19883 年)と直近 10 年間(
2009~2018 年)の比較で約 1.7 倍に増加(年間約
1.27 回→年間約 2.2回)。1 時間降水量 50mm 以上
の年間発生回数は約 1.8 倍に増加(年間約 0.15 回
→年間約 0.27回)。
〇 降雪量・最深積雪
彦根の年降雪量は、2005年から測定方法が変更されて
いるが、それ以前(1953 年~2004 年)の統計期間で
は、10 年で約 13cm の割合で減少している。また、
長浜市柳ケ瀬の年降雪量は、1982 年から 2018年の統
計期間で、10 年で約 92cm の割合で減少している。
彦根の最深積雪に変化傾向は確認されていない。
(省略)
3 滋賀県の気候の将来予測
1 地球温暖化予測情報第9巻による予測
「地球温暖化予測情報第9巻」(気象庁、平成 29年)
は、気象研究所の非静力学地域気候モデルを用いた予
測で、IPCC の第 5 次報告書で用いられた RCP シナリ
オ(Representative Concentration Pathways:代表
濃度経路)のうちRCP8.5(現在以上の政策的な緩和策
が実施されない場合。21世紀末の世界平均気温上昇が
約 2.6~4.8℃ (平均約 3.7℃))での予測である。「
将来気候」として 21世紀末(2076~2095 年)を想定
している。
(1)年平均気温
21 世紀末の県内の年平均気温は、今以上の緩和策を
積極的に講じない場合、最大で約 4.3℃上昇が予測さ
れている。特に冬季の気温上昇の割合が大きい。
(2)その他の主な気温の変化傾向
日最高気温・・約3.9℃の上昇(春3.27℃、夏3.90℃、
秋4.03℃、冬4.48℃)
日最低気温・・約4.6℃の上昇(春4.10℃、夏4.24℃、
秋4.87℃、冬5.25℃)
猛暑日・・年間約25 日増加(春0.01 日、夏23.87 日、
秋1.34 日、冬±0 日)
真夏日・・年間約56 日増加(春2.00 日、夏39.16 日、
秋15.03 日、冬±0 日)
熱帯夜・・年間約53 日増加(春0.01 日、夏43.65 日、
秋9.13 日、冬±0 日)
冬 日・・年間約48 日減少(春-9.6 日、夏±0 日、
秋-2.86 日、冬-35.33 日)
〇 日最高気温の年平均値・日最低気温の年平均値
21 世紀末には、日最高気温で約3.9℃、日最低気温で
約4.6℃、年平均での上昇が予測されており、いずれ
も冬の上昇が大きいと予測されている。
〇 真夏日・猛暑日・熱帯夜・冬日日数
21 世紀末の滋賀県の真夏日、猛暑日および熱帯夜は
大幅に増加することが予測されており、特に真夏日お
よび熱帯夜は年間で50日以上の増加が予測されている。
また、冬日は年間で50日近く減少することが予測され
ている。
(3)降水量
年降水量は全国的には有意に増加しているが、滋賀県
の年降水量は 21 世紀後半にかけて減少傾向するとの
予測である。ただし、ばらつきの範囲も大きい。
(4)その他の主な降水量等の変化傾向
短時間強雨の発生頻度
時間30mm 以上:年0.51 回増加(春0.05 回、夏0.12
回、秋0.33 回、冬0.01 回)
時間50mm 以上:年0.15 回増加(春±0 回、夏0.04
回、秋0.11 回、冬±0 回)
無降水日数:15.39 日増加(春2.77 回、夏5.73 回、
秋1.66 回、冬5.24 回)
降雪量:年-173.33cm(12 月-49.82cm、1月-57.30cm、
2月-36.12cm、3月-12.90cm)
2 地球温暖化予測情報第8巻による予測
「地球温暖化予測情報第8巻」(気象庁、平成 25年)
は、IPCC の温室効果ガス排出シナリオ A1B(21世紀
末の世界平均気温上昇が約2.8℃)を用いた非静力学
地域気候モデルによるもの。
(1)年平均気温
21 世紀末の県内の年平均気温は、将来気候で 約 2.9
℃の上昇が予測されている。季節で比較すると、冬は
3℃を超え上昇が最も大きく、夏の上昇が最も小さい。
(2)その他の主な気温の変化傾向
日最高気温・・約2.9℃の上昇(春2.80℃、夏2.61℃、
秋2.97℃、冬3.38℃)
日最低気温・・約2.9℃の上昇(春2.71℃、夏2.72℃、
秋3.07℃、冬3.11℃)
猛暑日・・(将 来)年間約15 日増加
真夏日・・(近未来)年間約11 日増加
(将 来)年間約34 日増加
熱帯夜・・(近未来)年間約11 日増加
(将 来)年間約33 日増加
冬 日・・(近未来)年間約15 日減少
(将 来)年間約36 日減少
〇 日最高気温の年平均値・日最低気温の年平均値
日最高気温、日最低気温ともに 21 世紀末に約 2.9℃
の上昇が予測されている。季節で比較すると、冬の上
昇が大きくなっている。
〇 真夏日・猛暑日・熱帯夜・冬日
真夏日、猛暑日および熱帯夜は、近未来気候、21 世
紀末ともに夏から秋にかけて増加が予測される。
(3)降水量
県の年降水量は統計的に有意でないものの増加が見ら
れる。季節別に見ると秋に降水量減少が予測されてい
る。なお、年降水量は全国的に増加している。
(4)その他の主な降水量の変化傾向
短時間強雨の発生頻度
時間30mm 以上:年0.42 回増加(春0.08 回、夏0.29
回、秋0.02 回、冬0.04 回)
時間50mm 以上:(近未来)年0.09 回増加 (将 来)
年0.12 回増加
無降水日数:年間約9.8 日増加
降雪量(近未来)年-36.41cm(12 月 1月 2月 3月)
(将 来)年-89.66cm(12 月 1月 2月 3月)
3 参考:地球温暖化予測モデルについて
(1)IPCC 第5次評価報告書「RCP シナリオ」の地
球温暖化予測
4 これまでに生じた気候変動影響・生じた変化
1 農林水産業
(概要)本県は、水田率が92%(全国第2位)と高く、
水稲を中心に麦類や大豆等を組み合わせた水田農業が
盛んに行われている。基幹作物である水稲は、主力品
種である 「コシヒカリ」、「キヌヒカリ」をはじめ、
県が育成した「みずかがみ」や「秋の詩」等が、農薬
や化学肥料を少なくする環境こだわり米として生産(
H30作付割合:44%)されている。近年の気候変動の影
響としては、登熟期の気温上昇により、特に「コシヒ
カリ」、「キヌヒカリ」の早生品種において、白未熟
粒や胴割米の発生による外観品質の低下が目立ってい
る。麦類は、米の生産調整を進めるうえでの中心的な
作物で、団地化などの農地利用によって生産が行われ
ているが、近年では暖冬によって生育が前進すること
で、凍霜害や雪害に遭遇したり、黒節病の発生を助長
するケースが見られる。大豆は国産の需要の高まりに
伴い、水田の高度利用の面から、麦類の跡作として生
産が増加しているが、近年では集中豪雨による発芽不
良や開花期以降の高温等による青立ち(成熟不整合)
による減収が見られる。
野菜については、露地では、キャベツ、はくさい、か
ぶ類など、ビニールハウス等の施設では、ほうれんそ
う、いちご、トマト、メロンなどが栽培されているが、
高温等による減収や品質低下が生じている。また、水
産資源では、秋にも河川水温が高いことでアユの産卵
期の遅れと集中を招き、成長不良を介して漁期前半の
不漁につながった事例や、全層循環の遅滞に伴う底層
の貧酸素化が、イサザやスジエビの斃死を招いた事例
が確認されている。
事例:【水産】
平成30 年12 月から翌年春にかけての暖冬により琵琶
湖北湖の一部で全層循環が未完了であったことにより、
北湖90m 以深の湖底では貧酸素化が確認され、同時期
にイサザやスジエビの死亡が同所的に見られた。ただ
し、琵琶湖の90m 以深の面積はイサザの生息範囲の約
8%であり、漁業への影響は見られなかった。平成28
年のアユの産卵時期である8-9 月にかけて、河川水温
がアユの産卵適水温を超える事象が確認され、産卵時
期の遅れが生じ、その後のシーズンのアユの不漁につ
ながったと指摘されている。
📝 気候変動が大きくなることは、耐性強化の品種
改良工学や従来からの自然・露地農法やハウス農法か
ら植物工場農法栽培工学化することを意味し、同時に
その基盤整備及び環境精密制御など全国的に行政支援
を必要とする時代に突入する。
2 水環境・水資源
(概要)琵琶湖や河川の水質は、流入汚濁負荷の減少
により、改善傾向が見られるものの、在来魚介類の減
少等、生態系の課題が顕在化している。その原因の1
つとして、外来種の増加や生息環境の悪化等の直接的
な影響のほか、気候変動も含めた様々な環境の変化に
より、栄養塩バランスやプランクトン種組成の変化と
いった琵琶湖の生態系バランスの変化が食物連鎖を通
じて生き物に影響を与えている可能性も指摘されてい
る。琵琶湖の水温(表層年平均)は、40年間で約1
度上昇しており、また、気候変動の影響として懸念さ
れている琵琶湖北湖の全層循環の未完了とそれに伴う
北湖深水層の貧酸素状態の長期化が、近年現実に見ら
れている。
湖沼と地球温暖化の関係として、一般的にアオコの発
生が増える可能性が指摘されているが、琵琶湖では
平成 27 年(2015年)に、高温少雨等の影響で晩秋の11
月にアオコが発生し、植物プランクトンの特異的な増
殖が、琵琶湖下流域の水質にも影響を与えかねない規
模で発生している。このように琵琶湖においては、気
候変動の影響と考えられる現象が既に生じていること
から、今後、より一層の気候変動の影響の把握とその
対策の検討が必要となってきている。そのために、琵
琶湖の水質モニタリング等による過去からの継続した
水質データの収集や、集水域も含めた琵琶湖の変化に
関する情報を把握していくことが重要である。
【水環境】
・琵琶湖表層の水温は、気温と同様に上昇傾向にあり、
約40年間で約1℃の上昇が見られている。また、北湖
今津沖中央の底層の水温は、これまで概ね7~8℃台
で推移していたが、近年9℃を上回るなど、上昇傾向
が見られる。
・暖冬などにより琵琶湖の全層循環が極端に遅れる年
や、完了しない年が発生している。平成30 年(2018年)
冬~平成31 年(2019年)春、令和元年(2019年)冬~
令和2年(2020年)春にかけては、2年連続で北湖の
一部水域で全層循環が完了しなかった。
・平成27 年(2015 年)には、晩秋の11 月にアオコ
の発生が見られた。
・平成30 年度の夏には、7月の豪雨の後、8月には少
雨酷暑となるような極端な降雨の影響により、琵琶湖
の水が停滞したことが原因で、南湖で植物プランクト
ンが大増殖し、CODや窒素が観測史上最高濃度を記
録するなど、琵琶湖南湖の水質が悪化した。
・また、植物プランクトンの大量発生に伴うアオコの
発生により原水中の異臭味原因物質濃度が上昇し、水
道水中に異臭味が残存した年もあった。
📝 水温が上昇し、それに比例し汚染物質流入量が増
加し悪影響も大きくなる。例えば、9月21日、アフ
リカ南部ボツワナで謎のゾウ大量死が発生したが、光
合成を行う細菌「シアノバクテリア(藍藻)」が作り
出す毒素が原因だと報道されているが(藍藻の毒が原
因か 謎のゾウ大量死―ボツワナ:時事ドットコム)、
水性植物及びプランクトンの繁殖よる溶存酸素酸濃度
の低下、琵琶湖生態系の変化が奧影響し、悪臭、水資
源の涸渇などの悪影響を与え、例えばマイクロバブル
による水質の精密制御などが必要になると考えられる。
3 自然生態系
(概要)森林では、全国的に降雪量減少する地域では
越冬可能なニホンジカなどの個体が増加することが指
摘され、本県では、ニホンジカの被害が平成12 年(2
000年)頃から急増し 幼齢木の食害や成木の剥皮被害、
森林の下層植生の衰退が生じているが、気候変動が野
生動物への変化につながっているか否かは定かではな
い。本県では、手つかずで、管理が行き届かなくなっ
た森林が増加しているとも指摘されており、このよう
な変化には、森林に適切に人の手が入らなくなったこ
と、暮らしの変化により起きていること等が複雑に絡
み合っているものと考えられる。
【生息域の変化】
・クマゼミについては、全国的に南から北へ分布域が
広がってきており、県内でもそれに伴い個体数が増加
。現在では県内全域に分布している。南方系の蝶「ツ
マグロヒョウモン」は1990 年頃から急激に増加し、現
在では県内で最も見かける機会の多い種の一つになっ
ている。なお、これらは、都市化によるものとも指摘
されている。
・南方系の蝶「ナガサキアゲハ」が2000 年以降、県中
南部で急激に増加し、県内各地に定着したとされてい
る。前掲写真の図4-11 (左)ナガサキアゲハ・(右)
ツマグロヒョウモン
4 自然災害
・全国各地で、時間雨量50mm を超える短時間強雨や総
雨量が数百mm から千mmを超えるような大雨が発生し、
毎年のように甚大な水害、土砂災害が発生している。
本県でも近年、異常気象による被害が発生している。
5 健康
【熱中症】
・全国的な猛暑に見舞われた平成30 年(2018 年)は、
本県でも7月だけで熱中症搬送患者数が例年の3倍に
なる等の事態が生じた。夏期を通じては人口10万人当
たり77.5人となった(下図参照)。
・特に、最高気温が35℃を超えると搬送者数が多くな
る傾向が見られている。
【感染症】
・近年、国内で感染例がある蚊媒介感染症であるデン
グ熱は、滋賀県内では海外感染例が見られるものの、
県内感染例は報告されていない。
6 産業・経済活動
【商業】高温により涼しく過ごせる衣服の需要が増大
する可能性が指摘されている
【観光業】びわ湖花火大会では、熱中症の症状を訴え
る来場者が多数いるが、当日の天候等に大きく左右さ
れるため、経年変化を評価することが難しい。
7 県民生活・都市生活
【都市インフラ・ライフライン】県の流域下水道は汚
水のみを処理する分流式であるが、雨どいから汚水マ
スへの誤接続や下水管等の水密性部への浸水等が原因
となり、豪雨時の浸入水(不明水)が大きな問題とな
っている。平成25 年(2013 年)の台風18 号では、
県流域下水道の供用開始以来、初めて不明水による施
設被害が発生し、平成29 年(2017 年)、30 年(201
8 年)にも不明水による溢水等の被害が発生。上水道
では、豪雨による土砂流出等で、山間部にある水道施
設の取水口が閉塞し、取水不能となる事例や洪水によ
り水道施設が水没する事例が発生している。
【暮らし】彦根地方気象台の観測によると、県内での
さくらの開花日は、50 年で約4.0 日早くなっている。
一方で、イロハカエデの紅葉日は、50年で約12.4日遅
くなっている。県民からは、ツバメの初見日の変化や
複数のキノコの北上等について意見が寄せられたが、
関連する観測データ等は確認できなかった。特に、キ
ノコに関しては毒キノコでないと分布情報が公開され
ておらず、確認は困難な印象である。
5 今後想定される影響
滋賀県で今後生じる可能性のある影響(気候変動との
因果関係が不明のものも含む)について、滋賀県低炭
素社会づくり推進計画(平成29年3月改定)「第5章
適応策の取組」の構成に基づき7分野に整理を行った。
影響に関する記述の出典は以下のとおりである。
①政府「気候変動適応計画」(平成 30年 11月 27日
閣議決定)、②気候変動の観測・予測及び影響評価統
合レポート2018、③庁内照会結果および県民や農林水
産漁業者等の意見交換結果(中略)
6 今後の適応策の推進について
(1)各分野の適応策 ※滋賀県低炭素社会づくり推
進計画(平成 29 年3月策定)に記載のもの(未更新。
今後関係課と調整しながら更新。)
1)農業、森林・林業、水産業
<農業・水産業>
〇 「滋賀県農業・水産業温暖化対策行動計画(平成
29 年(2017 年)3月策定」 に基づき、今後、予測
される地球温暖化等の気候変動に適応し、本県の農業・
水産業の持続的発展を図るとともに、低炭素社会の実
現に貢献する農業・水産業の推進を図る。
<水稲>
〇 高温登熟性に優れた水稲品種「みずかがみ」の作
付を拡大するとともに温暖化に対応した水稲の新品種
を育成。
〇 温暖化に対応しうる高品質近江米生産のための栽
培管理技術の確立と普及を図る。
<土地利用型作物(麦、大豆)>
〇 麦については、秋播性が高く、かつ成熟期が梅雨
期に重ならない品種の選定を行う。
〇 大豆については、気象や土壌条件の変動が品質や
収量に及ぼす影響の解明と対応技術の検討を行います。
<畜産>
〇 大型ファン、細霧冷房装置の導入、屋根への遮熱
塗料、屋根裏発泡ウレタンの吹き付け等による畜舎の
暑熱対策を推進。
〇飼槽やウォーターカップの改善による摂食量の低
下抑制や乳牛の毛刈り励行など、夏季の暑熱負荷軽減
の普及を図る。
<病害虫(森林)>
〇 森林病害虫等防除法に基づき防除を行うとともに、
森林被害のモニタリングを継続して実施。
<水産業>
〇 琵琶湖水温等の観測による温暖化状況のモニタリン
グを実施。
〇 水産資源に対する水温上昇の生理的・生態的影響に
ついての調査研究を行いう。
2)水環境・水資源
〇 琵琶湖および河川の水質定期モニタリング調査を実
施。
〇 冬季の全循環に着目した、底層 DO のモニタリング
調査を実施。
〇 琵琶湖のプランクトン調査や赤潮、アオコの発生状
況の把握を行う。
〇 保安林において、浸透・保水能力の高い森林土壌を
有する森林の維持・造成を図るとともに、渇水の発生
リスク等を踏まえ、森林の水源涵養機能が適切に発揮
されるよう、流域特性に応じた森林の整備・保全、そ
れらの整備に必要な林道施設の整備を推進。
〇 琵琶湖の水質や生態系に関する継続的な監視や調
査を行い、琵琶湖の保全および再生を図る上での課題
や突発的な事象に対して気候変動に関する知見も考慮
しつつ総合的な視点で課題の要因を解明し、対策を検
討する。
3)自然生態系
〇 地球規模の気候変動は、生物多様性の脅威の一つと
しても位置づけられており、2015 年(平成 27年)3月
に策定した「生物多様性しが戦略」に基づき、生物多
様性の保全と生態系サービスの持続可能な利用の観点
から、地球温暖化の影響への適応策の検討などを行い
う。
〇 捕獲の更なる強化によるニホンジカの生息頭数の減
少取組を実施
〇 野生動物の行動圏や生息分布状況の調査を実施
〇 渡り鳥の飛来状況調査を実施します。
〇 動植物の生息・生育状況を的確に把握するため、県
内の動植物の調査を実施し、おおむね5年ごとにその
結果を公表。
4)自然災害
<災害全般>
自助・共助の考え方に基づく防災思想、防災知識の
普及、自主防災組織の育成、防災訓練の実施、災害ボ
ランティア活動のための環境整備を図る。
〇 住民等の迅速かつ円滑な避難が可能となるよう警戒
避難情報の伝達方法や避難体制の充実を図る。
<土砂災害>
〇 土砂災害対策施設の整備(ハード対策)と、大雨時
の警戒避難体制の整備(ソフト対策)を両輪に、土砂
災害防止の取組を推進。
〇 保安林の配備、治山施設の整備や森林の整備等を推
進し、山地災害を防止するとともに、被害を最小限に
とどめ、地域の安全性の向上を図る。
〇 インフラ長寿命化計画による、治山・林道施設の適
切な維持管理・更新等を図る。
<水害>
ながす・ためる・そなえる・とどめるの4つの対策を
推進し、どのような洪水からも人の命を守ることを目
し、しがの流域治水を推進。
5)健康
<熱中症>
〇 熱中症予防にかかる啓発を実施。
<感染症>
〇 蚊やダニなどの節足動物が繁殖しにくい環境の整備
(発生源対策)について
啓発を行います。
〇 感染を予防する対策として、蚊やダニなどの節足動
物が多くいる場所に行かないことや対策をした服装を
すること等の啓発を行う。(中略)
(2)今後、適応策や気候変動影響評価・予測等に加
えていく必要がありそうな視点
※前回の懇話会でのご意見をもとに作成。前回の懇話
会では農林水産事業者との意見交換結果を報告したの
で、農林水産業分野が多くなっている。
①影響評価や予測など
〇 気候変動の影響評価や予測を精緻に進めるという視
点が必要であるが、既に21 生じている影響をモニタリ
ングにより把握していくこと、既に生じた影響に目を
向けることが重要になる。具体的には、2018 年度に発
生した猛暑では、滋賀県でも多くの熱中症搬送患者が
発生している。これまでにも様々な分野で気候変動が
要因の1つとして考えられる影響等が生じていると考
えられ、適応策の推進には、これまでに生じた変化に
対応していくという視点が重要である。
〇 その際、県民やステークホルダーからの声を恒常的
に受け付けられる仕組みをつくり、暮らしの変化との
因果関係を整理していくべきである。そのうえで滋賀
の将来像を明確にすれば今後必要な適応策の道筋も見
えてくる。その際、過去の事例から将来の予測を学ぶ
ことも必要。
〇 農作物については、一般的に、気候変動により農作
物の生育する期間が短くなり収穫量も低下する可能性
がある。また、品質の低下につながる可能性も指摘さ
れている。加えて、虫や病気の分布が変化する可能性
があり、これらが複合的な要因として影響を与える可
能性がある。
〇 滋賀県は水田率が全国2番目に高く、水資源管理が
重要になる。農業者からも「冬の雪の減少により春先に
水が不足する」という意見が出されていたが、今後、
影響評価をする際は、用水まで言及して評価をしてい
く必要がある。また、単に水があれば良いという訳で
は無いと思うので、洪水・湿害も心配される。特に湿
害は滋賀県の基幹作物である麦、大豆にも影響を与え
るため、農用地にどう水が来るのか評価するのも必要
な視点である。
〇 洪水被害軽減の観点から、水田の持つ貯水機能を考
慮すると耕作放棄地の増加(表6-1)を食い止め1
ていくことが適応策としても重要になる。
〇 これまで滋賀県が進めてきた水源林の保全や持続可
能な農業の推進は、保水力を高め災害時の緩衝作用を
果たしている。そのような観点から、今後適応策を推
進していくうえでも、耕作放棄地の増加をいかにして
食い止めるかを含め、一次産業の経済的アウトプット
をしっかりと確保していくこと、森から湖までのつな
がりの中で横断的な考えの下対応していくことが、滋
賀らしい適応策としても重要である。
表6-1 滋賀県の耕作放棄地率の推移
(注1)経営耕地とは農家が経営している耕地をいい、
自家で所有し耕作している耕地(自作地)と他から借
りて耕作している耕地(借入耕地)の合算値。
(注2)耕作放棄率=耕作放棄地面積/(経営耕地面
積+耕作放棄地面積)×100
【データ出典】農林水産省:農業センサス 1990-2015
②気候変動に適応したまちづくりの推進
〇 今後、下水道施設や治山施設など環境インフラの老
朽化が進むと予想され、気候変動に伴う自然災害の増
加も念頭に置きながら、環境インフラの維持管19 理を
着実に進めつつ、持続可能で魅力ある県土づくりを進
める必要がある。
〇 適応策には「まちづくり」という視点が重要であり、
植生を活用した水回りを作る(グリーンストリート)
事例も世界では見られている。国内での事例は少ない
が、グリーンインフラの導入に成功している都市では、
防災機能を高めるだけでなく都市としての魅力向上に
もつながってくる。
③住民主体の取組の促進
〇 滋賀県では、流域治水条例を制定し「ながす・ため
る・そなえる・とどめる」の4つの対策を総合的に推
進。今後、気候変動により増加する可能性のある災害
に対応していくためには行政の取組はさることながら
住民主体の取組も重要。
〇 また、災害対策以外にも、適応策には個人で取り組
めるものも多く存在しており、気候変動影響情報を広
く発信し、適応策の実施を促すことが必要である。
〇 その際、発信した情報がきちんと受け入れられ、実
際の行動変容にどの程度繋がっているのか、把握を進
めていくことも重要になる。
以上、個人的な注釈も加えてざっとこのようにまとめ
てみたが、わたしたちの身近な周辺環境の変化情報の
ネットワーク化と収集・解析が今以上大切となってい
るのではないかとの想いに至る。
✋ 生物多様性の危機は、人間存続の危機
図 生態系ピラミッドの崩壊
このまま、人間が人口の膨張と、自然から収奪し続け
れば、生物多様性の劣化が加速し、生態系システムの
崩壊は避けられない。そのとき真っ先にその存続が危
うくなるのは生態系サービスにもっとも依存して生き
ている人間自身なのだ。重要な点は、生物多楡既にと
って、人間の存在は、不要か、もしくは、有害な存在に
過ぎず、人間にとって生物多様性は、なくてはならな
い存在だという意識。ヒトの生命活動に必須の酸素や
水の供給、農作物の新しい品種や医薬品の素材となる
植物・微生物などの遺伝子資源や、レクリエーション、
野外活動の場となるフィールド、美しい風景といった
観光資源などなど、人間社会になくてはならない資源と
機能を提供しているのは自然生態系...自然生態系の恩
恵なくしては、ヒトの生命と社会の存続は成り立たな
い。現在の人間を頂点とした不安定な生態系ピラミッ
ドはいつ崩壊するか分からない。これ以上の生物多様
性減少を食い止めるための策を講じることは、安心で
安全で豊かな人間社会を持続するための「安全保障」
であると理解しなくてはならない。(五箇公一 国立
環境研究所 生物・生態系環境研究センタ生態リスク
評価・対策研究室室長、参考出展:環境ビジネス
2020 AU )
この項つづく
【エピソード】
柳本さんから非定期的な食事会開催提案の℡があった。
こちらの事情をお伝えするとともに近況を交換。この
"この新型コロナパンデミック"でだれもが予定変更で
振り回されている。皆様方のご健勝を祈念する。佐々
木さん、辻さん、芝原さん、吉田さんは仕事と家庭事
情で忙殺中 ⁉ 以上
【脚注及びリンク】
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- ESG地域金融』で地域を元気にする 環境ビジ
ネス - 『環境ビジネス 2020年夏季号』
- 滋賀県に根づく『三方よし』の経営を実現,
環境ビジネス,2020年冬季号 - 環境への取り組み CSR(企業の社会的責任)
佐川急便株式会社 - 気候変動が生む、新たな「アパルトヘイト」,
GNV,2019.12.15 - 滋賀県出身の人物一覧 Wikipedia
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