機械翻訳2

興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

α-シヌクレイン凝集物はオートファジーを阻害する

2016-08-29 06:06:00 | 
Parkinson's disease protein gums up garbage disposal system in cells

March 28, 2013

https://www.sciencedaily.com/releases/2013/03/130328125232.htm


(レヴィ小体を示す画像
茶色の染みspotは異常な形態のα-シヌクレインを認識する抗体を使った免疫染色によるもの

Credit:
Kelvin C. Luk, Ph.D.,
Perelman School of Medicine, University of Pennsylvania)

神経細胞内にα-シヌクレインというタンパク質が凝集することは多くの神経変性疾患の特徴であり、それは特にパーキンソン病で顕著である


「レヴィ小体/Lewy bodyとレヴィ神経突起/Lewy neuritesはパーキンソン病の特徴的な病理だが、それらが分解可能なのかどうかは、これまで誰も明らかにすることはできなかった」
Virginia Lee, PhDは言う
彼はペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院の神経変性疾患研究センター長directorである

「我々の研究室は最近パーキンソン病の病理を表す新たなニューロンモデルシステムを開発し、そのモデルを使うことによりこれら細胞内の異常な凝集物が分解に抵抗し、マクロオートファジーシステムmacroautophagy systemの機能をも損なうことを実証した
マクロオートファジーシステムは細胞内の廃棄物を処理する主なシステムの一つである」

マクロオートファジーmacroautophagyは文字通りliterally自分を食べることself eatingで、リソソームと呼ばれる細胞の一区画によって、不必要になったり機能しなくなった細胞のがらくたbits and piecesを分解する
病理・臨床検査医学/Pathology and Laboratory Medicineの教授でもあるLeeたちは、今回の研究をJournal of Biological Chemistry誌のオンライン版で発表した


α-シヌクレイン病/alpha-synuclein diseasesには全てα-シヌクレインというタンパク質の凝集があり、具体的にはパーキンソン病や他の関連する疾患、つまり痴呆症を伴うパーキンソン病、レヴィ小体認知症、多系統萎縮症が含まれる
それらのほとんどでα-シヌクレインは不溶性で繊維状の、原繊維の凝集物 insoluble aggregates of stringy fibrils を形成し、ニューロンの細胞体や突起に蓄積する

そのような望ましくないα-シヌクレインの凝集物clumpsは、多くのリン酸基や、分解の対象であることを示す目印のユビキチンタンパク質などによって異常に修飾されている
それら凝集物は中枢神経系 central nervous system に広く分布し、ニューロンの喪失と関連する


研究者たちは合成α-シヌクレイン原繊維を取り込んで細胞内に凝集物が蓄積する細胞モデルを使うことにより、α-シヌクレインの封入体inclusionsが分解できないことを示した
また、たとえそれがリソソームやプロテアソームの近くに位置していても分解はされなかった
(プロテアソームはリソソームとは別のゴミ処理法である)

このα-シヌクレインの凝集物は、
細胞内の可溶性α-シヌクレインレベルがかなり低下した後でさえも持続persistし続けた
このことが示唆しているのは、封入体がいったん形成されるとそれは除去に抵抗するということである

さらに重要なことに、α-シヌクレインの凝集物はオートファゴソームautophagosomeというオートファジー機構の成熟を遅らせることによりオートファジーの分解プロセス全体を損なうことが明らかになった
これがおそらく、凝集物でいっぱいになった神経細胞で観察される細胞死の増加の一因なのかもしれないという

α-シヌクレイン凝集物がオートファジーに与えるこのような影響を理解することは、α-シヌクレインと関連する神経変性の治療を明らかにするために役立つかもしれない


http://dx.doi.org/10.1074/jbc.M113.457408
Lewy body-like α-synuclein aggregates resist degradation and impair macroautophagy.
レヴィ小体様のα-シヌクレイン凝集物は分解に抵抗しマクロオートファジーを損なう

要約Capsule

背景Background:
α-シヌクレイン凝集物とマクロオートファジーは、神経変性と関連がある


結果Results:
マクロオートファジー活性の調整 modulationはα-シヌクレイン凝集レベルに影響しないが、
これらの凝集物は未成熟なオートファゴソームの蓄積を引き起こす


結論Conclusion:
α-シヌクレイン凝集物は分解に抵抗性であり、オートファゴソーム成熟を遅らせることによりオートファジーを損なう


Abstract
Here, we examined this issue
by utilizing cellular models
in which
intracellular Lewy body-like α-syn inclusions accumulate
after internalization of pre-formed α-syn fibrils
into α-syn-expressing HEK293 cells
or cultured primary neurons.



関連サイト
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18172548
ドーパミン修飾α-シヌクレインはシャペロンを介するオートファジー(CMA)を阻害する



関連サイト
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15817478
ドーパミンが自己酸化して形成されるドーパミノクロームはα-シヌクレインの125-129残基(YEMPS配列)との相互作用により立体構造を変化させて微小繊維化を可逆的に阻害し、球状のオリゴマーを形成する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/00f9bdacc5fee082eb60dda6170341fb
α-シヌクレインのオリゴマーやドーパミンで修飾された形態は高い親和性でミトコンドリアのTOM20に結合してタンパク質のインポートを損ない、ミトコンドリアの老化、呼吸の低下、活性酸素種(ROS)の増加を示す
 

リソソーム内のα-シヌクレイン原繊維はチューブを通じて伝わる

2016-08-24 06:06:00 | 
Tunneling nanotubes between neurons enable the spread of Parkinson's disease via lysosomes

August 22, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160822111818.htm


(TNTによって繋がっているニューロン細胞
TNT内部にはシヌクレインの原繊維synuclein fibrils (赤色の凝集物) が含まれる

Credit: Copyright Institut Pasteur)

パスツール研究所/Institut Pasteurの科学者は、α-シヌクレインというタンパク質の凝集物aggregatesがニューロン間を輸送される際に『リソソーム小胞/lysosomal vesicle』が果たす役割を実証した
このタンパク質の凝集はパーキンソン病や他の神経変性疾患の原因である

α-シヌクレインがニューロンからニューロンへと移動するのは、細胞間の『細胞膜ナノチューブ/tunneling nanotube(TNT)』に沿って移動するリソソーム小胞によるものだという
この研究結果は8月22日にThe EMBO Journalで発表される


シヌクレイノパチー/synucleinopathyはパーキンソン病を含めた神経変性疾患のグループの一つであり、その特徴は中枢系から末梢の神経系に至るまで『折りたたみに失敗misfoldedしたα-シヌクレインタンパク質』の凝集物が封入体inclusionの中へと病的に蓄積することである
α-シヌクレイン凝集物の細胞間の伝達propagation(ニューロンから隣のニューロンへの)は神経病理が進行する一因だが、そのような拡散が生じるメカニズムはほとんどわかっていなかった


Chiara Zurzoloが率いる膜輸送病理発生ユニット/Membrane Traffic and Pathogenesis Unit(パスツール研究所)の科学者たちは、病原性のα-シヌクレイン原繊維がニューロン間を移動するのはリソソーム小胞の中に入ったまま細胞膜ナノチューブ/tunneling nanotube(TNT)を通ってであることを蛍光顕微鏡を使って培養細胞で実証した
TNTは最近発見された細胞間コミュニケーションのメカニズムである

TNTで移動したα-シヌクレイン原繊維は、受け取った側の細胞質にある可溶性のα-シヌクレインを呼び集めてrecruit凝集させるaggregationことが可能であり、これは疾患が拡散する説明になる

科学者たちの考えによると、リソソーム内のα-シヌクレイン凝集物で過剰な負荷overloadedを受けた細胞は、TNTを介する細胞間輸送を乗っ取ることによりそれらを処分dispose of するのだろうという
しかしながら、その結果として疾患は『ナイーブなニューロンnaive neurons』へと拡大していく


今回の研究はTNTがα-シヌクレイン原繊維の細胞間輸送で重要な部分を演じることを実証し、このプロセスではリソソームが特別な役割を持つことを明らかにした
これはシヌクレイノパチーの進行の根底にあるメカニズムの理解における象徴的な大発見である

これらの説得力のあるcompelling 発見は、同チームによる以前の報告と合わせて、神経変性疾患でのプリオン様タンパク質の拡散においてTNTが果たす全体的な役割を指し示し、治療不可能なこれらの疾患の進行と戦うための新たな治療標的がTNTであることを明らかにした


http://dx.doi.org/10.15252/embj.201593411
Tunneling nanotubes spread fibrillar α-synuclein by intercellular trafficking of lysosomes.
細胞膜ナノチューブはリソソーム細胞間輸送により原繊維α-シヌクレインを広める


Abstract
パーキンソン病のようなシヌクレイノパチーは、中枢から末梢神経系にわたってミスフォールドしたα-シヌクレイン凝集物が封入体へ病理学的に集積することを特徴とする
集積しつつある証拠はα-シヌクレインの細胞間伝播intercellular propagationが神経病理neuropathologyに寄与することを示唆するが、拡散が起きるメカニズムは完全には理解されていない

今回我々は共培養co-culturedしたニューロンで定量的な蛍光顕微鏡を使い、リソソーム小胞内のα-シヌクレイン原繊維が細胞膜ナノチューブ/tunneling nanotube(TNT)を通じてドナー細胞からアクセプター細胞へと効率的に移行することを示す
TNTでの移行後、α-シヌクレイン原繊維はアクセプター側の細胞質で可溶性α-シヌクレイン凝集の核となるseedことが可能である

リソソーム内のα-シヌクレイン凝集物が過負荷になったドナー細胞は、TNTを介する細胞間輸送を乗っ取り、この物質を処分することを我々は提案する

ゆえに、我々の発見はシヌクレイノパチーの進行におけるTNTとリソソームの全く新しい役割の可能性を明らかにするものである


Synopsis

Early endosome/初期エンドソーム
Recycling endosome/リサイクリングエンドソーム
Lysosomal vesicles/リソソーム小胞
Damaged lysosomal vesicles/損傷したリソソーム小胞
Oxidative stress(Reactive oxygen species)/酸化ストレス(活性酸素種)

Soluble α-synuclein/可溶性α-シヌクレイン
Misfolded α-synuclein/折りたたみに失敗したα-シヌクレイン
Recombinant α-synuclein fibrils/組み換えα-シヌクレイン原繊維
De novo α-synuclein aggregates derived from recombinant α-synuclein fibrils/組み換えα-シヌクレイン原繊維に由来する新規のα-シヌクレイン凝集物

・α-シヌクレイン原繊維はリソソームによって分解の標的にされる

・α-シヌクレイン原繊維は隣接する細胞間のTNTの形成を促進し、それはおそらく酸化ストレスの増加による

・α-シヌクレイン原繊維の負荷量が過剰overloadedになったリソソームは、ドナー細胞と隣接するアクセプター細胞をつなぐTNTの中を移行する

・いったんアクセプター細胞内に入ると、おそらくリソソームから脱したα-シヌクレイン原繊維は、細胞質に存在する内因性の可溶性α-シヌクレインの凝集核となることが可能である



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/1d20ea3a1746202fc52edade6f3da2be
パーキンソン病ではリソソームによるオートファジーが低下する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/e85b18da730d8dc42021e862f73efce8
VPS35を欠損するマウスではドーパミンニューロン内のリソソームが適切に機能しない



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/5dc8d2df5cf3c367e14b14a84eac884e
GBA1突然変異はERストレスとオートファジーを破綻させてα-シヌクレインを細胞外へ放出させる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/db6cd3ef00d05c4d60094106fdbd459e
アンブロキソールはリソソーム酵素であるグルコセレブロシダーゼの活性を増大させる
 

アポE4はタウタンパク質やAPPの切断を阻害する

2016-08-21 06:06:33 | 
New mechanism discovered for Alzheimer's risk gene

August 17, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160817163749.htm

(画像はHtrA1。セリンプロテアーゼ活性部位active siteの触媒三残基/serine protease catalytic triadであるヒスチジン220(H220)、アスパラギン酸250(I250)、セリン328(S328)という3つのアミノ酸残基が示されている
※HtrA1のS328Aは機能喪失変異


ソーク研究所の科学者たちは、HtrA1という酵素がアポE4を分解することを突き止めた
アポE4はアルツハイマー病の最も強い遺伝リスク要因であり、この発見は最終的にアルツハイマー病という神経変性疾患の新たな治療につながるかもしれない新しい情報をもたらす

Credit: Salk Institute)


数十年もの間、アポリポタンパク質E4(アポE4)という遺伝子を2コピー持つ人々は65歳時点でアルツハイマー病である可能性が一般よりも高いことが知られていた

今回の研究でソーク研究所の科学者たちは、アポE4と、アルツハイマー病と関連するタンパク質の蓄積との間のつながりを突き止めた
これは余分なアポE4がどのようにしてアルツハイマー病を引き起こすのかに関する生化学的な説明をもたらすのかもしれない

「今回の研究の全体像としては、アルツハイマー病ではタンパク質がどのようにして調節されているのかについて、これまでとはまったく異なる考え方を我々は発見したということだ」
Alan Saghatelianは言う
彼はソーク研究所の教授であり、ソークのクレイトン財団ペプチド生物学研究室ではDr. Frederik Paulsen Chairの保持者でもある
2016年8月号の米国化学会誌/Journal of the American Chemical Society(JACS)で発表される彼らの研究結果は、疾患の理解を進めるためには伝統的にアルツハイマー病と関連がないとされていた遺伝子とタンパク質を調べることが重要であるということを強調する


遅発性アルツハイマー病/Late-onset Alzheimer's disease(LOAD)は65歳かそれ以上で起きる疾患サブセットで、アメリカだけでも500万人以上が罹患しており、その特徴は進行性の記憶喪失と痴呆である
その原因について、脳内のベータアミロイドプラークと呼ばれるタンパク質のクラスターclusterやタウタンパク質のもつれtangleなど様々な仮説が提案put forthされてきた

アポリポタンパク質E/ apolipoprotein Eには3つのバージョン(多様体variant)があり、それぞれアポE2、アポE3、アポE4と呼ばれる
これらのアポEタンパク質はすべて同じ機能を持つ
つまり、脂肪、コレステロール、ビタミンを体中に運び、そして脳内にもそれらを運んでいる

アポE2はLOADに対して保護的であり、アポE3は影響がないように見える
そしてアポE4の突然変異mutationはLOADの遺伝的リスク要因として十分に確立されているwell-established

以前の報告では、アポE4は脳がベータアミロイドを除去する方法に影響することが示唆されていたが、分子レベルで何が起きているのかは不明だった

「アポE4はLOADの予言に最も役立つpredictive遺伝子の変化だが、分子レベルで何が起こっているのかは誰も本当には理解していなかった」
Saghatelianは言う

しかしながら、科学者たちは以前ヒントを発見していた
それによると、アポE4は他の多様体variantsとは『分解のされ方が異なるdegrade differently』のかもしれないという
しかし、このアポE4の分解を実行するタンパク質はわかっていなかった


アポE4を分解するタンパク質を明らかにすべく、Saghatelianと彼の研究仲間research associateであり論文の筆頭著者first authorでもあるQian Chuは疑いのある候補potential suspectsについて組織をスクリーニングにかけ、HtrA1という酵素の一つに焦点を絞った

HtrA1: high-temperature requirement serine peptidase A1「高温で必要条件のセリンペプチダーゼA1」


彼らがHtrA1がどのようにしてアポE4を分解するのかをアポE3と比較したところ、HtrA1はアポE3よりもアポE4をより多くプロセシングし、アポE4をより小さく、より不安定な断片へと噛み砕くchewことが明らかになった
彼らはこの観察を単離したタンパク質とヒトの細胞の両方で確認した

この発見はアポE4を持つ人々の脳細胞内にはアポEが全体的に少ないことを示唆し、加えてタンパク質の分解産物breakdown productsもより多く存在することが考えられる

「アポE4の分解産物は有害でありうるという考えideaはこれまでも存在し、それはとことんまで論じられてきたtossed around」
Saghatelianは言う

「今回HtrA1がアポE4を分解することが判明し、我々はこの考えを実際にテストすることができるようになった」


しかし、アポE4を持つ人々でアルツハイマー病を引き起こすのは、ただ単に完全長full-lengthのアポEを欠くためではなく、その断片の増加でもなかった

SaghatelianとChuは、アポE4がHtrA1に対して十分強く結合してしまうため、HtrA1が(アポE4によって占有されて)タウタンパク質を分解できないようにすることを発見した
タウはアルツハイマー病と関連するタウのもつれtanglesの原因となるタンパク質である


Saghatelianは言う
「タウまたはアミロイドベータはアルツハイマー病を引き起こすものとして考えられてきた
しかし、今回の結果は、生化学的な経路を通じてタウまたはアミロイドに影響しうるタンパク質について、我々はもっと全体的に考える必要があることを示唆している」

ヒトにおいてもアポE4をアルツハイマー病につなげるのがHtrA1であるかどうかを確信する前に、今回の結果は動物研究でテストされて確認される必要がある
しかし、もし彼らが正しければ、それらは疾患のより良い理解ならびに新たな治療戦略への道を指し示すのかもしれない


http://dx.doi.org/10.1021/jacs.6b03463
HtrA1 Proteolysis of ApoE In Vitro Is Allele Selective.
in vitroでのHtrA1によるアポEのタンパク質分解は対立遺伝子選択的である


Abstract
アポリポタンパク質E/apolipoprotein E (ApoE) は、脂質の生理的な輸送をするために可溶化するタンパク質の大きな分類に属する
ヒトにはAPOE ε2、APOE ε3、APOE ε4という3つのアポE対立遺伝子alleleがあり、遺伝学研究によりアポE4がアルツハイマー病の最も強い遺伝リスク要因であることが同定された

アポE4がホモ接合体homozygousの人々(つまりアポE4/E4)は、アポE3/E3キャリアよりも遅発性アルツハイマー病(LOAD)を発症する可能性が1桁高い
ApoE4/E4 are an order of magnitude more likely to develop LOAD than ApoE3/E3.

※the resistance is an order of magnitude larger「抵抗が1桁大きい」

アポE3とアポE4との間のいくつかの違いは(ヒトの脳ではアポE4はアポE3よりも分解される度合いが高いという観察を含めて)、ADに寄与する可能性がある

高温要件セリンペプチダーゼA1/high-temperature requirement serine peptidase A1 (HtrA1) は神経系で見られるが、我々は実験によりHtrA1がアポE3よりも素早くアポE4を分解するという対立遺伝子allele選択的なアポE分解酵素であることを実証する

この活性はHtrA1に特異的である
なぜなら、HtrA2を使った同様の分析/アッセイassayではアポE4タンパク質分解proteolysisは最低限minimalの活性しか示さず、トリプシンはアポE4とアポE3との間に何ら選択性を示さなかったからである

また、HtrA1はタウタンパク質(Tau)とアミロイド前駆体タンパク質(APP)を切断することが報告されており、特にAPPについてはアルツハイマー病と関連する有害なアミロイド沈着の形成を『邪魔hinder』するように切断する
アポE4とアポE3、タウタンパク質の競合アッセイcompetition assayでは、アポE4はタウ分解を阻害することが明らかになった

ゆえに、アポE4がペプチダーゼHtrA1の基質であるとin vitroで同定したことは、タウのようなAD関連タンパク質のアポE4による調節を関連付ける潜在的な生化学的メカニズムを示唆するものである




関連サイト
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=HTRA1
High-Temperature Requirement A Serine Peptidase 1



関連サイト
http://bsw3.naist.jp/ishida/?page=1050
バクテリアのHtrAはバクテリアが高温化で生存するために必須の遺伝子で、高温によって異常になった蛋白質の構造を修正(Refolding)したり分解する機能を持つHeat shock proteinをコードしています。



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/2f69e68999aaf91e1daa22758545d605
タウの凝集による核膜の乱れが脳細胞を殺す



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/b42d9618ca1ed178759eeabb2ed70437
APP─(βセクレターゼ)→ CTF-β + sAPPβ ─(γセクレターゼ)→ Aβ + AICD



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/adac22c976bba78be3239de9833a3cbf
アポE4は転写因子として働き、その標的はサーチュイン、加齢、インスリン抵抗性、炎症と酸化によるダメージ、アミロイドプラークの蓄積、タウのもつれと関連する遺伝子である



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/b17271081045552783a35515421b8015
脳内のコレステロール排出が認知症に重要



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/06/160628114612.htm
抗HIV薬のエファビレンツは低用量でCYP46A1を活性化して脳内のコレステロールを除去し、Aβによるプラーク形成をマウスで抑制する



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/7c164e3a90679c635d0d2d5aaf92717a
ミクログリアは放出された脂質をTREM2によって感知してAβの周りに集まる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/39fb7580cfaf1dd51d0ac23e6cc2bd55
アルツハイマー病と関連するTREM2の多様体を持つ人のマクロファージは、リポタンパク質-アミロイドベータ複合体を飲み込む能力が低い



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/04/160413084728.htm
PITPNC1はゴルジネットワークへRAB1Bをリクルートし、RAB1BはGOLPH3をリクルートすることで分泌を増加させ、癌の転移を促進する
この分泌には成長因子やプロテアーゼ(HTRA1, MMP1, FAM3C, PDGFA, ADAM10など)が含まれる
 

ウイルス感染とアレルゲンは相乗作用で喘息の発症につながる

2016-08-19 06:06:56 | 免疫
Laboratory drug trials could lead to asthma treatment breakthrough

June 27, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/06/160627095019.htm

喘息の発症を無効化するか遅くするポテンシャルを持つ新薬が、クイーンズランド大学(オーストラリア)の研究者たちによってテストされている
研究チームのリーダーである準教授Associate ProfessorのSimon Phippsは、この新薬がIL-33というタンパク質を標的にするものだと言う

「このテストは我々の最近の研究成果、つまりIL-33が喘息の発症において重要な役割を演じるという発見を基にしたものだ
IL-33は喘息患者asthmaticsの気管支に炎症bronchial inflammationを引き起こすことが知られているが、我々の調査によりIL-33は呼吸器のウイルス感染から防御する能力を弱めることが初めて実証された
呼吸器のウイルス感染は喘息の発病/発作attacksの一般的な引き金である」

「我々はこの新薬がIL-33を阻害することにより喘息の発症を覆すか遅くすることができると期待している」


今回のマウスモデルによる研究は、喘息とアレルギー研究に関する一流の学術誌であるJournal of Allergy and Clinical Immunology誌で発表された
筆頭著者lead authorsは研究チームのポスドクpostdoctoral fellowのJason Lynch博士と、PhD studentのRhiannon Werderである
Lynch博士によると、今回の発見は呼吸器ウイルスとアレルゲン、両者への曝露がなぜ人生早期における喘息発症の重要なドライバなのかを理解するために彼が確立した前臨床モデルに由来するものだという

「呼吸器系ウイルスへの曝露と、その後の直近very closelyのアレルゲンへの曝露が、IL-33の放出を誘発することを我々は発見した」
Lynch博士は言う

「過剰なIL-33タンパク質はウイルスからの回復を妨害するだけでなく、より重度で持続的な喘息症状の発症を促進することが判明した
しかしながら、マウスがウイルス罹患の前に一度にアレルゲンに曝露すると、回復プロセスには何ら違いを生じなかった」


Miss WerderはPhDリサーチの一部としてラボで新薬のテストを実施した
「我々の最終的な目標は、喘息の症状をただ単に軽くするだけでなく、発症を覆すか遅くするためのより優れた治療を見つけることだ」


http://dx.doi.org/10.1016/j.jaci.2016.02.039
Aeroallergen-induced IL-33 predisposes to respiratory virus–induced asthma by dampening antiviral immunity.
空中アレルゲンによって誘発されるIL-33は呼吸器系ウイルスによる喘息にかかりやすくするが、それは抗ウイルス免疫を弱体化させることによる


背景
人生早期における頻繁な下気道へのウイルス感染viral lower respiratory infectionsは、喘息発症の独立したリスク要因である
この持続性喘息のリスクと発症は、後に感受性となった子どもにおいて有意に大きい


目的
アレルゲン曝露とウイルス感染との間の相乗的な相互作用の根底にある病原性プロセスを明らかにする


方法
ネズミ科に特異的な肺炎ウイルス種Pneumovirus speciesであるマウス肺炎ウイルス/pneumonia virus of mice(PVM)をマウスに接種inoculateし、低用量のゴキブリ抽出物/cockroach extract (CRE) に曝露させた
時期は寿命の早期と後期in early and later lifeである
気道炎症、リモデリング、過剰反応性hyperreactivityを評価した

マウスには抗IL-33抗体を投与するか、またはIL-33放出を中和するか阻止するためにアピラーゼapyraseを投与した

※アピラーゼ: ATPを加水分解してAMPにする反応を触媒する酵素


結果
PVM感染またはCRE曝露はそれぞれ単独では疾患を誘発しなかったが、PVM/CREの共曝露coexposureは相乗作用して喘息の特徴を誘発した

寿命早期におけるウイルス感染中のCREへの曝露は二相性biphasicのIL-33反応を誘発し、IFN-αならびにIFN-λの産生を損なった
続けてそれは上皮のウイルス負荷量viral burdenを増大させ、気道平滑筋の成長を促進し、タイプ2の炎症を増大させた

CREによって誘発されたIL-33の放出を阻止するか中和した時にこれらの特徴は軽減されたが、CREを外因性IL-33で置き換えると、PVM/CREを共曝露させたマウスで観察された表現型が再現された

機構的に見ると、IL-33はin vivoとin vitroの両方で、形質細胞様樹状細胞/plasmacytoid dendritic cell(pDC)において、viperinとIRF7遺伝子の発現を下方調節し、急速にIRAK1発現を分解した
その結果としてTLR7の応答低下hyporesponsivenessにつながり、IFN-α産生は損なわれた

viperin: Virus Inhibitory Protein, Endoplasmic Reticulum-Associated, Interferon-Inducible(ウイルス阻害タンパク質、ER関連、インターフェロン誘導性)

IRF7: interferon regulatory factor 7(インターフェロン調節因子7)

IRAK1: IL-1 receptor–associated kinase 1(IL-1受容体関連キナーゼ1)


結論
我々はこれまで認識されていなかった抗ウイルス自然免疫を強力に抑制する因子としてのIL-33の機能を同定し、喘息の発症ならびに進行において呼吸器ウイルスとアレルゲン曝露との間の相乗的な相互作用にIL-33が有意に寄与することを実証する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/233a1d0dbc1db96bcc3899d00625122e
マウスをブタクサ花粉の抽出物に曝露させると、気道へ好中球を引き寄せるケモカインの合成が促進されて(花粉─TLR4→CXCL→CXCR4)持続的な酸化ストレスの状態を誘導し、アレルギー感作が増幅された



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2014/01/140106094430.htm
食物繊維は喘息から保護する



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/06/160621121700.htm
食物繊維を多く食べたマウスほど食物アレルギーの重症度は低い



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/37e5826c4c2cb549eed786524b6b002b
腸内の微生物の攻撃で活性化されたタイプ3の細胞は直接タイプ2細胞に作用してその活動を阻害し、その結果タイプ2はアレルギー性の免疫応答ができなくなる



関連サイト
http://www.taiyou-clinic.jp/blog/archives/2251
フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)、ラクノスピラ(Lachnospira)、ベイロネラ(Veillonella)、ロシア(Rothia)という腸内細菌4種の便サンプル中の細菌濃度が低い生後3か月の幼児は、喘息の発症リスクが高い



関連サイト
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/09/150903144647.htm
農場で育つとアレルギーに抵抗力がつく理由はA20タンパク質によるもので、A20は体が農場ダストに接触することによって作り出される
肺粘膜中のA20タンパク質を不活化すると、農場ダストのアレルギー反応を減少させる効果はなくなった
アレルギーまたは喘息患者にはA20たんぱく質が欠損していた



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160715113600.htm
喘息で入院する子どもの50%から85%の原因であるライノウイルスCの構造を低温電子顕微鏡で明らかにした
ライノウイルスCの30%が空っぽで「デコイ」だった

 

癌細胞はアミロイド前駆体タンパク質で血管を殺す

2016-08-17 06:06:28 | 
Loophole for cancer cells found

Cancer cells kill blood vessel cells so that they can slip through the vascular wall, form metastases

August 10, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160810104248.htm


(Diagram of the mechanism by which metastatic cancer cells exit blood vessels.
The APP molecule on cancer cells activates the DR6 receptor on vascular wall cells (endothelial cells).
As a result, the endothelial cell is selectively killed (through a process called necroptosis).
In this way, the cancer cell creates an escape route from the bloodstream.
It then either slips directly through the resulting gap (1) or interferes with chemical messengers from neighbouring cells around the dead endothelial cell, causing a gap to form between them (2).)

多くの癌が致死的なほど危険になるのは、体内のどこかに転移を形成した時だけである
そのような二つ目の腫瘍は個々の細胞が元の腫瘍から逃れ、血流を通じて遠くまで移動すると形成され、移動するためにはまず血管の壁を通り抜けなければならない

バート・ナウハイムのマックス・プランク心肺研究所とゲーテ大学フランクフルトの研究者たちは、腫瘍細胞が血管壁の細胞を殺すことを研究で示した
これにより腫瘍細胞は血管から離れて転移を確立することが可能になり、このプロセスはAPPとDR6という分子によって促進される


癌で死ぬ最も大きな原因は元の腫瘍それ自体ではなく、その後に形成される転移である
ほとんどの腫瘍細胞は血流を通じて広がるため、個々の腫瘍細胞は血管に入り、元の腫瘍から離れた場所で血流から外へ出なければならない


ケルン大学University of Cologneとハイデルベルク大学University of Heidelbergの研究者たちと共に、
マックス・プランク心肺研究所の薬理学部の部長でありゲーテ大学フランクフルトの教授でもあるStefan Offermanns率いる研究グループは、血管を通じた転移の根底にあるメカニズムを明らかにすることに成功した

彼らは細胞培養を使った研究で、個々の腫瘍細胞がどのようにして血管壁の内皮細胞endothelial cellを殺すのかを初めて観察した
このネクロプトーシスnecroptosisとして知られるプロセスは、癌細胞が内皮細胞の層を越えることを可能にした

「我々は次に、同じプロセスが生体内でも起きることをマウスで示すことができた」
筆頭著者first authorのBoris Strilicは言う


また、科学者たちは内皮細胞それ自体が自らの死についてのシグナルを発することを発見した
血管壁の細胞はその表面に『死の受容体/Death Receptor 6 (DR6)』という受容体を持ち、癌細胞の表面には『アミロイド前駆体タンパク質/amyloid precursor protein(APP)』というタンパク質が存在する

Strilicが次のように説明する
「癌細胞が内皮細胞と接触すると、癌細胞のAPPが内皮細胞のDR6を活性化する
これが癌細胞による血管壁への攻撃の開始の合図となりmarks the start、最終的にネクロプトーシスという血管壁の細胞死によって終わる」


細胞膜の『死の受容体』
Death Receptor in the cell membrane

次にマックス・プランクの研究者は、死の受容体6/Death Receptor 6が使えないように遺伝子を操作したマウスでは内皮細胞のネクロプトーシスが少なく、転移の発生も少ないことを示した

「この影響はDR6を阻害、またはAPPを阻害した後にも見られ、したがって我々の以前の観察を裏付けるものである」
Strilicは言う


しかし、結果として生じた血管壁の割れ目gapを通じて直接癌細胞が移動するのか、それとも他に間接的な影響が存在するのかどうかはまだ完全には明らかではない

「血管壁の細胞が死ぬ時にさらに多くの分子が放出され、それらが周囲の領域を通過しやすくするという証拠evidenceを我々は持っている」
Offermannsは言う

「このメカニズムは、転移の形成を防ぐための治療の有望な出発点になりうる」

しかしながら、DR6の阻害が望ましくない副作用を引き起こすかどうかをまず確定しなければならない
また、この観察がどの程度までヒトに移し替えることができるかについても確かめる必要があるだろう


http://dx.doi.org/10.1038/nature19076
Tumour-cell-induced endothelial cell necroptosis via death receptor 6 promotes metastasis.
腫瘍細胞によって誘発されるDR6を介する内皮細胞のネクロプトーシスは転移を促進する

Abstract
転移は癌関連死の主な原因である
転移は複雑で多段階のプロセスであり、遠隔臓器に定着するcolonizeために個々の腫瘍細胞は主に循環系を通じて広まる (1, 2, 3.
いったん循環に入ると、腫瘍細胞は脆弱vulnerableなままであり、その転移ポテンシャルは内皮バリアを通過することによって血流から逃れるための急速かつ効率的な方法に強く依存する (4, 5, 6, 7, 8, 9.

腫瘍細胞の血管外遊出extravasationは、白血球の内皮細胞を通過する移動transendothelial migrationに似ているというエビデンスが提供されてきた (7, 8, 9.
しかしながら、腫瘍細胞が遊出する間どのようにして内皮細胞と相互作用し、これらのプロセスがどのようにして分子レベルで調節されるのかは不明のままである

今回我々はヒトとネズミmurineの腫瘍細胞が内皮細胞に『プログラム化されたネクローシス/programmed necrosis (ネクロプトーシスnecroptosis) 』を誘発し、それが腫瘍細胞の遊出と転移を促進することを示す

マウスに対してRIPK1阻害剤のnecrostatin-1を投与するか、内皮細胞特異的にRIPK3を削除すると、腫瘍細胞による内皮細胞のネクロプトーシスは減少し、腫瘍細胞の血管外遊出と転移も抑制された

※RIPK1: 受容体と相互作用するセリン/スレオニンタンパク質キナーゼ1/ receptor-interacting serine/threonine-protein kinase 1

対照的に、薬理学的なカスパーゼ阻害、または内皮細胞特異的なカスパーゼ8の欠損は、これらのプロセスを促進した

我々はさらに、遊出と転移につながる腫瘍細胞誘発ネクロプトーシスには 腫瘍細胞が発現するアミロイド前駆体タンパク質/amyloid precursor protein(APP)と、その受容体であるdeath receptor 6 (DR6) が内皮細胞上に存在することが これらの効果の主なメディエーターとして必要であることをin vitroとin vivoで示す

我々のデータは腫瘍細胞の遊出と転移の根底にある新たなメカニズムを同定し、そして内皮細胞のDR6を介するネクロプトーシスのシグナル伝達経路が転移を抑制する治療標的であることを示唆するものである



References
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19225519
APP binds DR6 to trigger axon pruning and neuron death via distinct caspases.
(APPはDR6に結合し、異なるカスパーゼを介して軸索の刈り込みとニューロンの細胞死を引き起こす)



Extended data figures and tables
http://www.nature.com/nature/journal/v536/n7615/fig_tab/nature19076_SF9.html
Extended Data Figure 9: APP is expressed in different murine and human TCs.


http://www.nature.com/nature/journal/v536/n7615/fig_tab/nature19076_SF10.html
Extended Data Figure 10: Effects of loss of APP on TCs and on metastasis formation.

h,
モデル:
腫瘍細胞はAPP-DR6を介して RIPK1/RIPK3/MLKLに依存するネクロプトーシスを内皮細胞に誘発し、腫瘍細胞は内皮細胞の死後に生じた割れ目gapを直接通過する
代わりにalternatively、または並行してin parallel、傷害関連分子パターン/damage-associated molecular pattern molecules (DAMPs) の分子がネクロプトーシスを起こした内皮細胞から分泌され、
それが腫瘍細胞と、ネクロプトーシスを起こしていない内皮細胞などの他の細胞のどちらかまたは両方に作用し、腫瘍細胞の遊出と転移を促進する



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HER2乳癌はどのようにしてトラスツズマブを回避するのか

2016-08-16 06:06:10 | 癌の治療法
Drug sensitivity restored in breast cancer tumors

Findings confirmed in patient biopsies and laboratory models

August 11, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160811142627.htm

ケース・ウエスタン・リザーブ大学(CWRU)医学部の研究チームは、HER2陽性の腫瘍が薬剤に抵抗する方法の一つを明らかにしてOncotarget誌で発表した

今回の研究では、HER2陽性の乳癌で主力go-toの抗癌剤であるトラスツズマブtrastuzumab(ハーセプチンとしても知られる)の治療前と治療後の腫瘍の生検を調査した
トラスツズマブで治療可能な乳癌とそうではない乳癌があるが、研究者はトラスツズマブに応答した腫瘍で活性化した遺伝子を応答しなかった腫瘍の遺伝子と比較することにより、いくつかの遺伝子が腫瘍の薬剤抵抗性を助けることを明らかにした
研究者がそれらの遺伝子の一つであるS100Pを阻害したところ、トラスツズマブに抵抗性だった腫瘍は再び感受性を回復した


今回の研究では、遺伝物質genetic materialの小さな部品であるmRNAと、非コードRNA/noncoding RNAの一種である『長鎖遺伝子間ノンコーディングRNA/ long intergenic noncoding RNA(lincRNA)』に焦点を当てた
これらの小さな断片は正常な細胞でもDNAから作られているが、腫瘍では調節が破綻dysregulatedしている

※ncRNA: noncoding RNAノンコーディングRNA
※lncRNA: long noncoding RNA(長鎖ノンコーディングRNA)
※lincRNA: long intergenic noncoding RNA(長鎖遺伝子間ノンコーディングRNA)


研究チームはまず最初にトラスツズマブに応答した腫瘍と応答しなかった腫瘍の細胞の間で異なっているRNAを分析し、1542のmRNAと371のlincRNAを突き止めた
これらの違いから、それぞれの腫瘍ではお互いに関連がない独自の細胞シグナルネットワークが活性化していると研究者は推測した

彼らはラボで培養した細胞を使い、RNAのリストを絞りこんでいった
彼らが関心を持っていたのは、トラスツズマブへの抵抗性と関連するシグナルを治療的に操作して乱すことが可能なRNA分子を発見することだった


研究を主導したAhmad Khalil, PhDは、ケース・ウェスタンで遺伝学部の助教授Assistant Professorである
彼の説明によると、
「我々の仮説は、トラスツズマブに応答した患者の腫瘍とそうでなかった腫瘍との間にはmRNAとlincRNAの両方に遺伝子発現の違いが存在するというものだった」

乳癌早期の腫瘍細胞の25から30パーセントの表面にはHER2というタンパク質が見られ、トラスツズマブはそのHER2に接着して固定することにより働く
トラスツズマブはHER2が活性化することを妨害し、HER2が遺伝子をコントロールできないようにする

研究チームはHER2を表面に持つ腫瘍細胞を培養し、腫瘍の生検での発見を立証validateしようとした
この細胞をトラスツズマブに長期間さらしてexposure癌の治療計画を再現したところ、乳癌細胞の中には患者の生検とちょうど同じようにトラスツズマブに抵抗する細胞が現れた

彼らはラボで培養したHER2癌細胞でトラスツズマブ抵抗性とトラスツズマブ感受性の癌細胞の間で異なるmRNAとlincRNAを突き止め、腫瘍の生検とラボの培養でそれぞれ判明したRNAから重複するものを探したところ、18のmRNAと7つのlincRNAを同定した
それらは生検と培養の両方で、トラスツズマブへの抵抗性と関連があった

研究チームはさらに、この抵抗性の中心となる一つの遺伝子、S100Pに焦点を絞った
S100Pという遺伝子はトラスツズマブに抵抗する乳癌細胞で高度に活性化している

他の研究でS100Pは前立腺癌と膵臓癌に関連付けられている
S100Pは腫瘍の成長をサポートする遺伝子ファミリーに属し、癌細胞の内部では複数の区画に存在することがわかっている

「S100Pは、著しい発現の違いを示す鍵となる遺伝子の一つである」
Khalilは言う
「大規模なデータセットのコンピュータによる複数の独立した分析から現れてきた経路の一部であるという理由からも、この遺伝子は突出している」


研究者はS100Pを阻害する遺伝物質の小片をデザインし、このS100Pの阻害剤によりトラスツズマブに抵抗性だった培養細胞は感受性を回復した

さらなる分析からS100Pは乳癌細胞内の重要なタンパク質を活性化することが示され、トラスツズマブがHER2を阻害した時にスイッチが切られるタンパク質の機能を補うcompensateことが判明した
この活性化されたタンパク質は、薬剤に応答した腫瘍細胞がその環境内で遺伝子発現を適応させるのを助ける可能性があるという

「我々のデータは、癌細胞がトラスツズマブに抵抗するためにはS100Pの高い発現レベルが必要だということを実証する」とKhalilは結論付ける


このエキサイティングな発見は、S100Pを枯渇させることがトラスツズマブへの感受性を回復する方法の一つになるかもしれないことを示す
次のステップでは抵抗性メカニズムをさらに調査し、ヒトの腫瘍でS100Pを阻害するために利用可能な薬剤をスクリーニングすることになるだろう
また、彼らはトラスツズマブへの抵抗性を調節する他のmRNAとlincRNAの役割をさらに調査する予定である


早期ステージ乳癌患者の約3分の1は、トラスツズマブの治療が最初は有効でもしばらく後に再発する
再発した患者の腫瘍はトラスツズマブに抵抗性であり、その後の治療オプションが限られることになる
トラスツズマブ抵抗性の背後にあるメカニズムは、これまで突き止めるのが容易ではなかった

いくつかの研究ではトラスツズマブ抵抗性のメカニズムが細胞培養モデルを使って提案されているが、今回の研究ではラボの細胞培養と患者で増殖する腫瘍の両方に存在するメカニズムを初めて発見した


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27449296
http://dx.doi.org/10.18632/oncotarget.10637
Transcriptome-wide identification of mRNAs and lincRNAs associated with trastuzumab-resistance in HER2-positive breast cancer.

機構的に見ると、S100PはRAS/MEK/MAPK経路を活性化し、トラスツズマブによるHER2阻害を相殺するように補正する
我々はS100Pの上方調節がエンハンサーレベルでのエピゲノムの変化epigenomic changesによって促進されるようだということを実証する



関連サイト
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=S100P
Entrez Gene Summary for S100P Gene
この遺伝子によってコードされるタンパク質はS100ファミリーのメンバーであり、カルシウム結合モチーフのEFハンドを2つ持つ
S100タンパク質は細胞質と核のどちらかまたは両方に局在し、細胞周期の進行や分化など様々なプロセスの調節に関与する
他のS100遺伝子は染色体1q21に13存在するが、S100Pは4p16に存在する
S100PはカルシウムイオンCa2+に加えて亜鉛イオンZn2+やマグネシウムイオンMg2+にも結合する

UniProtKB/Swiss-Prot for S100P Gene
S100P_HUMAN,P25815
カルシウムセンサーとして働き、カルシウムシグナル伝達に寄与する
カルシウム依存的な方法で他のタンパク質(EZRやPPP5Cなど)と相互作用し、上皮細胞の微絨毛microvilliの形成のような生理学的な役割を間接的に演じる
細胞周期を刺激する可能性があり、それはオートクリン的にRAGE受容体を活性化することによって仲介される



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160519100604.htm
トリプルネガティブ乳癌のネオアジュバント(術前)化学療法への応答は、メチル化によって制御されるJタンパク質/methylation-controlled J protein(MCJ)タンパク質の発現と相関する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/29756e384e0389f3f8ba464f7c046de5
HER2乳癌の抵抗性を回避する新たなタンパク質化合物DARPins




関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/06/160623122948.htm
CBX8はエピジェネティックにNotch経路を上方調節し、腫瘍形成を促進する
Notchは予後の悪さと関連し、その上方調節は特にトリプルネガティブ乳癌で薬剤抵抗性をもたらす
うまいことに、CBX8はERやHER2のようなサブタイプと関係がない

http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.06.002
http://www.cell.com/cell-reports/abstract/S2211-1247(16)30721-5
古典的にはCbx8はH3K27トリメチルを認識するPRC1の一部とされるが、今回我々はH3K4トリメチルを認識する非古典的な複合体Cbx8-Wdr5を発見した
Cbx8-Wdr5複合体はH3K4me3レベルを維持することでNotch経路を促進する




<コメント>
エピジェネシスepigenesis
エピジェネティクスepigenetics
エピジェネティックな変化epigenetic changes

エピゲノムepigenome
エピゲノミクスepigenomics
エピゲノムの変化(?)epigenomic changes



日本語
エピジェネシスの変化」4件
エピジェネティックな変化」180件

エピゲノムの変化」123件
エピゲノミックな変化」10件


英語
"epigenetic changes" 537000件
"epigenomic changes" 13600件


 

腫瘍はどのようにして低酸素に適応するのか

2016-08-15 06:06:16 | 
Low oxygen, high risk: How tumors adapt to become more aggressive

August 8, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160808124042.htm

腫瘍の治療が非常に難しいとされる理由の一つは、いつどんな時に不利な状況にさらされても腫瘍がそれに適応できるからであり、そのような例の一つが低酸素、つまり酸素の欠乏である
しかし、この腫瘍を弱体化するはずの現象を悪性の細胞は相殺compensateすることが可能であり、それはより悪性の疾患としてのふるまいを刺激する


ウィスター研究所の科学者たちは、低酸素の腫瘍内で選択的に働く全く新しいメカニズムを突き止めた
それにより腫瘍細胞は低酸素の環境にもかかわらず盛んに成長thriveして増殖し続けることが可能になる

ウィスターの所長Presidentであり最高経営責任者/Chief Executive Officer(CEO)でもある筆頭著者lead authorのDario C. Altieri, M.D.と同僚たちは、
この経路の活性化がどのようにして神経膠腫/グリオーマglioma患者の好ましくない予後につながるのか、
そしてこの経路がどのようにして癌の治療標的として役立つ可能性があるのかを示した
この研究結果はCancer Cell誌で発表された

「低酸素状態は悪性腫瘍の成長のほぼ全てに共通する特徴であり、
これまで我々はこのふるまいの原因となる経路に焦点を合わせることがまったくできなかった」
Altieriは言う
彼はウィスター研究所がんセンターの所長directorでもあり、特別教授職のRobert & Penny Fox Distinguished Professorでもある

「我々の研究は腫瘍細胞が低酸素の環境下にもかかわらず生き残るだけでなく、それどころか分裂を続けるための新たな方法を指し示す
本質的には、これはずっと待ち望まれてきた正確な答えを提供する
不利な状態に直面した際の存続するために必要なエネルギーを、腫瘍細胞はどのようにして獲得するのか?という問いに対する答えを」


ミトコンドリアは細胞のエネルギーを作ることから『発電所powerhouse』として知られるが、低酸素によって誘発される腫瘍再プログラムの主な源はそのミトコンドリアである

Aktというタンパク質は細胞のシグナル伝達と代謝において鍵となる重要な役割を演じるが、AltieriのラボはAktが低酸素の間ミトコンドリア内に蓄積することを明らかにした
Aktの蓄積が起きると、PDK1というタンパク質の特定の箇所がリン酸化され、細胞の呼吸に必要な複合体は停止させられる
この経路はグルコースを分解する腫瘍の代謝を使い、そのエネルギーを使って細胞死を減少させて増殖を維持する


PDK1(Pyruvate Dehydrogenase Kinase 1): PDHを不活化する

PDPK1(3-Phosphoinositide Dependent Protein Kinase 1): Aktを活性化する


このミトコンドリア内のAktとPKD1との間のシグナル伝達は、神経膠腫の患者116名のコホートで分析された
シグナル伝達経路の活性化は様々なタイプの神経膠腫で徐々に増大しており、最も高い活性は膠芽腫glioblastomaの患者で見られた
膠芽腫は全脳腫瘍の約15パーセントを代表する、特に治療が難しいタイプの脳腫瘍である


Altieriのラボのassociate staff scientistで筆頭著者first authorでもあるYoung Chan Chae, Ph.D.は次のように言う
「我々は自らの研究結果にとても興奮している
なぜなら癌のAktを特異的に標的とする薬剤が既に存在するからだ
それらの薬剤はこれまで限られた臨床的な応答しかもたらさなかったが、さらなる調査により腫瘍が低酸素に適応する能力を損なうための実用的viableなアプローチとして再利用repurposeできるかもしれないと我々は考えている」


http://dx.doi.org/10.1016/j.ccell.2016.07.004
Mitochondrial Akt Regulation of Hypoxic Tumor Reprogramming.
ミトコンドリア内Aktによる低酸素腫瘍の再プログラムの調節

Highlights
・低酸素の間、活性化したAktのプールが腫瘍ミトコンドリアにリクルートされる
・低酸素においてミトコンドリアAktはPDK-1のスレオニン346(T346)をリン酸化する
・Akt-PDK1経路の活性化は、低酸素での腫瘍細胞の増殖を維持する
・AktによるPDK1のリン酸化は神経膠腫のネガティブな予後因子prognostic factorである


Summary
低酸素hypoxiaは悪性腫瘍的ふるまいを促進する普遍的なドライバだが、根底にあるメカニズムについては完全には理解されていない

我々はリン酸化プロテオミクスphosphoproteomicsによるスクリーニングを実施し、活性化したAkt/active Aktが低酸素の間ミトコンドリア内に蓄積し、ピルビン酸脱水素酵素キナーゼ1/pyruvate dehydrogenase kinase 1 (PDK1) のスレオニン346の箇所をリン酸化して活性化し、ピルビン酸脱水素酵素複合体を不活性化することを示す

続いて、この経路は腫瘍の代謝を解糖系の方向へと切替えてswitch、アポトーシスとオートファジーに拮抗し、酸化ストレスを低下させ、厳しい低酸素に直面しても腫瘍細胞の増殖を維持する

ミトコンドリアのAkt-PDK1シグナル伝達は神経膠腫患者の好ましくない予後マーカーならびに生存の短さと相関し、癌における『すぐに使用可能なactionable』治療標的を提供する可能性がある



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/4662ff6f458e49b820cafd6a8c991b0e
乳癌が低酸素を生き残るための新たな経路(PTP1B─┤RNF213→α-KGDDs)が発見される



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/40a1659f8b47d4725ea2ad4c2583e549
癌細胞は低酸素などのストレスで休止状態に入り、脂肪を蓄積して転移に備える



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/e66f633e000a98c97c5e8bddfa27ba74
酸素が正常な腫瘍は解糖系を停止させてミトコンドリアの代謝に依存する



関連記事
https://blog.goo.ne.jp/news-t/e/cce233b5cfcfa9bc5ab09af62ccdcff6
低酸素ならびにアデノシンが多い微小環境ではT細胞はA2Aアデノシン受容体を介して阻害される



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/ce587959b3b5c648a5587f04ed677dac
低酸素になるとHIFがALKBH5を通じてNANOGのmRNAからm6Aを脱メチル化し、増加したNANOGが癌幹細胞を増加させる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/d16ba27c8f39c536b11eafaa6804ec93
脳腫瘍は低酸素になるとセリンからグリシンへの変換を促進するSHMT2の発現を上昇させてPKM2を抑制し、TCA回路に入るピルビン酸を減少させて酸素の消費を抑える



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/05/150507145325.htm
乳癌細胞は低酸素に曝露するとtRNAの断片を作り、特定のアミノ酸のtRNA断片(グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、チロシン)が多い癌細胞は転移しにくくなる
さらに、この断片を癌細胞に加えると増殖と進行が減少した
 

膵臓癌はグルコースの代わりにアラニンを使う

2016-08-14 06:06:33 | 
Pancreatic cancer cells find unique fuel sources to keep from starving

August 10, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160810141934.htm

膵臓の癌細胞は、周囲の『サポート細胞』にグルコースの代わりとなる栄養源を供給させるよう命令することによって密集した腫瘍内での飢餓を回避する
この発見は癌細胞とマウスで実施された研究によるもので、8月10日のNature本誌で発表された
研究を主導したのはニューヨーク大学ランゴンメディカルセンター、ハーバードのダナ・ファーバー癌研究所、そしてミシガン大学メディカルスクールの研究者たちである

この結果は膵臓癌の独特な能力に焦点を合わせたもので、血流から供給される酸素とグルコースが不足すると膵臓癌細胞は周囲からエネルギーを探し集めるscavenge for energy
腫瘍の内部では細胞の異常な増殖が利用可能なリソースを急速に消費し尽くすために、そのようなことが起きる

今回の研究では、膵臓癌細胞が膵星細胞/pancreatic stellate cell(PSC)にシグナルを送ることが初めて明らかになった
膵星細胞とは膵臓内で構造的なサポートを提供するために様々な物質を分泌する細胞である

このシグナルは膵星細胞を構成する細胞の一部を分解させて、アラニンなどのアミノ酸を分泌させる
このアラニンを癌細胞は取り込んでミトコンドリアへと送り、グルコースの代わりの燃料源として使うのである


「我々の研究は膵臓癌が燃料を別のやり方で使うだけでなく、その燃料を他の癌よりもはるかに効率的に周りから集めるscavengeというさらなる証拠をもたらす」
責任著者corresponding authorのAlec Kimmelman, MD, PhDは言う
彼はランゴンのローラ・アイザック・パールマターがんセンターで放射線腫瘍学部の部長chairである

「この研究は腫瘍と膵星細胞との間の新たな種類のクロストークの存在を確立する
この知識は、膵臓癌に独特な驚くべき代謝的な柔軟性に干渉する薬剤のデザインを助けるかもしれない」


飢餓に直面して
Faced with Starvation

膵臓癌細胞が低栄養な環境でも増殖し続けることから、研究チームは膵星細胞が腫瘍細胞に燃料を供給fuelしうるのかどうかを特定しようとした
実験の結果、実際に膵星細胞は代謝産物metabolitesを分泌しており、癌細胞のミトコンドリアの代謝は20から40パーセント増加し、癌細胞の増殖を増大させていた

チームは次に、分泌された代謝産物の内のどれが癌細胞によって取り込まれてミトコンドリアの代謝の増加を促進しているのかを解明しようとした
分析されたおよそ200の代謝産物の中で、アミノ酸のアラニンとアスパラギン酸だけがこのパターンに一致しており、そしてアラニンだけがミトコンドリアの代謝と腫瘍細胞の増殖を著しくsignificantly増加させていた

チームはさらに、アラニンを構成する炭素分子を標識することで癌細胞がどのようにしてアラニンを使っているのかを確認した
分析の結果、膵臓腺癌細胞pancreatic adenocarcinoma cellsはアラニンを関連する代謝産物に変換し、それをトリカルボン酸回路/tricarboxylic acid cycle(TCA回路)に供給feedしていた
TCA回路は別名クエン酸回路と呼ばれ、ミトコンドリアのエネルギー産生の最初の部分を構成する一連の反応のことである
重要なことに、アラニンをミトコンドリアで使うことによって腫瘍細胞はグルコースを別の重要な経路、例えばDNAの材料building blocksを作るような経路へと転用できるようになっていた

加えて、チームは癌細胞がまだ未知のファクターを分泌してシグナルを送り、膵星細胞にオートファジーというプロセスを促進させて、もっと多くのアラニンを供給するように指令を出していることを突き止めた

オートファジーは細胞の生命にとって基礎的なものであり、損傷した細胞の一部を小胞へと包んでリソソームへと向かわせて融合させる
この融合した小胞(オートリソソーム)でタンパク質と脂質は分解されて代謝産物に変化し、リサイクルされて新しいDNA鎖や細胞膜が作られる
癌細胞はこのような材料がなければ、手持ちの材料building blocks on handだけで増殖することは不可能である

研究グループはこの代謝的なクロストークの腫瘍の増殖に関する重要性をマウスでテストした
膵星細胞によるアラニンの分泌はオートファジーに依存しており、遺伝学的な技術を使って癌モデルのマウスの膵星細胞で選択的にオートファジーを阻害すると、腫瘍の成長は強く抑制された


NYUランゴンのDafna Bar-Sagi, PhDが率いた過去の研究では、膵臓癌細胞はその表面上に小胞vesiclesを形成して近くを浮遊するタンパク質を捉え、それをマクロピノサイトーシスmacropinocytosisというプロセスで細胞内に引き込むことが判明している(
Bar-SagiとKimmelmanは共同で研究を進めcollaborate、マクロピノサイトーシスとオートファジーという2つのプロセスが協力cooperateすることで 周りから集めたタンパク質と脂質を飢えた癌細胞のリソソームへと送り届けるのかどうかを解明しようとしている

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23665962
"Macropinocytosis of protein is an amino acid supply route in Ras-transformed cells."


「水酸化クロロキン/hydroxychloroquine(HCQ)という薬剤を使った臨床試験がいくつか進行中である
HCQはリソソームを阻害するとされ、これはオートファジーとマクロピノサイトーシスを両方とも抑えるかもしれない」
Kimmelmanは言う

「これら早期の試験からはいくつかの有望な結果が報告されているものの、我々はさらに強力で特異的なオートファジー・リソソーム阻害剤が開発されることを期待している」


http://dx.doi.org/10.1038/nature19084
Pancreatic stellate cells support tumour metabolism through autophagic alanine secretion.

Abstract
膵管腺癌/pancreatic ductal adenocarcinoma (PDAC) は悪性の疾患であり、ストロマの極度の線維症的な応答と代謝の調節異常が特徴である (1, 2, 3, 4
PDAC生物学におけるストロマの役割は複雑であり、生物学的な状況に依存して様々に異なる重要な役割を演じる (5, 6, 7, 8, 9, 10
また、ストロマの反応は脈管構造vasculatureも損ない、非常に低酸素で栄養の乏しい環境を作り出す (4, 11, 12
そのような腫瘍はas such、その代謝的な必要性を支えるためにどのようにして栄養素を捉えて使うのかを変えなければならない (11, 13

今回我々はストロマ関連膵星細胞/stroma-associated pancreatic stellate cells (PSCs) がPDACの代謝にとって重要であり、それは非必須アミノ酸/non-essential amino acids (NEAA) の分泌を通じてであることを示す

我々は特に、以前記述されてこなかったアラニンの役割を明らかにする
PDACにおいてアラニンはグルコースとグルタミン由来の炭素を上回ってoutcompeteTCA回路に燃料を供給し、それはしたがって非必須アミノ酸の生合成、脂質の生合成に使われる

この燃料源の移行は、腫瘍のグルコースへの依存、血清由来の栄養素への依存を低下させる
それらは膵臓腫瘍の微小環境では限られている (4,11

さらに、我々はPSCsによって分泌されるアラニンがPSCのオートファジーに依存し、このオートファジーのプロセスが癌細胞によって刺激されることを実証する

ゆえに、我々の結果はPSCsと癌細胞との間の新たな代謝的な相互作用を明らかにする
この相互作用ではPSC由来のアラニンが代わりの炭素源として働く
この発見はこれまで評価されてこなかった膵臓腫瘍内部の代謝ネットワークを強調するものであり、そこでは厳しいaustere腫瘍微小環境における増殖を促進するために異なった燃料源が使われる


Figure 2: Alanine is secreted by stellate cells and is used by PDAC to fuel biosynthetic reactions.


a,
炭素代謝中心におけるアラニントランスアミナーゼ/alanine transaminases (GPT1/GPT2)の役割
グルコースglucose (Glc), ピルビン酸pyruvate (Pyr), 乳酸lactate (Lac), アセチルCoA/Ac–CoA, クエン酸citrate (Cit), α-ケトグルタル酸/α-ketoglutarate (αKG)



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/991a30f257378e25e2ce5b7d9b0a0bf7
癌細胞は本当にグルコースで増殖するのか?



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/f2c26e0f57a3ab816dc42885092e26cc
非小細胞肺癌はグルコースが欠乏すると代わりにPEPCKでグルタミンを使うようになる



関連サイト
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25511375
乳癌細胞は脳に転移するとグルコースに依存しない増殖を獲得する



参考サイト
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3545.html
>実は、がん細胞はブドウ糖しかエネルギー源として使えないことがわかっているのです。

は?
 

癌細胞は自分を消化して作ったアミノ酸で飢餓を生き残る

2016-08-12 06:06:00 | 
Cutting off the cancer fuel supply

August 10, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160810174355.htm

ニュージャージー州のラトガーズがん研究所/Rutgers Cancer Instituteとプリンストン大学の研究者は、オートファジーという細胞の生存メカニズムを標的とすることで癌細胞の『燃料供給fuel supply』を遮断するという、癌治療に向けた新たなアプローチを明らかにした

ラトガーズ研究所の副所長Deputy DirectorであるEileen P. White, PhDと彼女の同僚たちは、Genes & Development誌の8月10日版に発表された論文で (doi: 10.1101/gad.283416.116) Krasタンパク質をドライバとする肺癌に焦点を合わせた


Q: なぜこの主題が調査するほど重要なのか?
Q: Why is this topic important to explore?

A: 肺癌の85から90パーセントが非小細胞肺癌/non-small-cell lung cancer (NSCLC) であり、標準治療への反応は概して良くない
転位性NSCLCの患者でいくらかのサブセットでは、特定の突然変異(EGFR, MAPK, PI3Kシグナル伝達)を標的とする治療が開発されたおかげで生存の改善が見られている
KrasなどRasタンパク質ファミリーの突然変異もNSCLCでしばしば検出されるが、しかしRasの変異を直接標的とする薬剤で有効だったものは一つもない
オートファジーの重要な細胞プロセスを解明し、そしてKrasをドライバとする腫瘍細胞におけるオートファジーの役割を理解することはNSCLCへの新たな治療アプローチにつながる可能性がある


Q: オートファジーとは何? そしてこのプロセスがどのようにして我々が既に知ることと関連する?
Q: What is autophagy and how does this process relate to what we already know?

A: 細胞が飢餓やストレスに陥ると自分自身を『食べる』ことがあり、そのようなプロセスをオートファジーと呼ぶ
これまで長い間信じられていた考え方は、オートファジーは細胞が自分自身の一部を消化してリサイクルすることrecyclingであり、その目的は細胞の代謝のサポートで、栄養の供給が中断interruptionされても生き残るためだというものだった
しかしそれが本当なのか、そしてリサイクルすることが何のために必要なのかは分かっていなかった

癌細胞は通常の細胞以上にオートファジーのスイッチを入れ、オートファジーを生き残るためにも使う
以前Whiteたちのグループは、Rasタンパク質ファミリーによって活性化した癌細胞にはオートファジーが必要であり、細胞の維持管理cell maintenance、代謝的なストレスへの耐性metabolic stress tolerance、そして腫瘍の成長にとって必須だということを発見している
Rasタンパク質の『スイッチがオン』になると、細胞の増殖と生存を可能とする他のタンパク質のスイッチを入れる能力を獲得する
したがって、オートファジーが何をしているかを理解することは、癌の治療に利用可能な固有の弱点inherent weaknessを明らかにする可能性がある


Q: あなたのチームはどのようにして研究に取り組み、そして何を学んだ?
Q: How did your team approach the work and what did you learn?

A: ラトガーズのWhiteたちのグループはプリンストン大学のRabinowitzたちと共に研究を実施し、オートファジーはどのようにして癌細胞がストレスを生き残ることを可能にするのかを解明しようとした

我々は遺伝子工学で作成されたKrasをドライバとするNSCLCのマウスモデルから作られた腫瘍由来の細胞系統を使い、質量分析mass spectroscopyという分析技術を通じて、オートファジーによって消化される細胞内要素の経路を追跡した
分析の結果、癌細胞は実際に自分自身を分解してリサイクルし、飢餓を生き残っていた
細胞内の一部をバラすcannibalizationことは、細胞の発電所であるミトコンドリアに燃料を供給してエネルギーレベルを維持する
したがって、オートファジーを阻害することは発電所への燃料供給を遮断し、エネルギー危機の状態を作り出して最終的に癌細胞を殺す


Q: この発見の意味は?
Q: What is the implication of this finding?

A: この発見は、オートファジーの阻害により癌細胞への『燃料』を遮断することが、Krasをドライバとする肺癌に対する潜在的な治療戦略である可能性を示唆するものだ

Krasをドライバとする肺癌で明らかにされたオートファジー経路が他のタイプの癌にも当てはまるかどうかは、将来の研究により明確になるだろう


http://dx.doi.org/10.1101/gad.283416.116
Autophagy provides metabolic substrates to maintain energy charge and nucleotide pools in Ras-driven lung cancer cells.
オートファジーはRasをドライバとする肺癌細胞におけるエネルギーチャージとヌクレオチドプールを維持するための代謝の基質を提供する


Abstract
オートファジーはタンパク質や他の巨大分子macromolecules、小器官organellesを分解し、そして仮説としてそれらをリサイクルすると考えられている

Krasをドライバとする肺癌のモデルとして遺伝子工学で作成したマウスモデル/genetically engineered mouse models (GEMMs) では、オートファジーは欠陥のあるミトコンドリアの蓄積を防ぎ、悪性腫瘍malignancy を促進する
オートファジーを欠損する腫瘍由来細胞系統は、呼吸が損なわれrespiration-impaired、飢餓に感受性があるstarvation-sensitive
しかしながら、欠陥のあるミトコンドリアdefective mitochondria、または代謝的な基質の供給不全impaired supplyから起きる 飢餓への感受性がどの程度までなのかは不明なままである

今回我々は、Krasをドライバとする肺腫瘍(野性型と、オートファジーに欠陥があるAtg7−/−)のミトコンドリアゲノムを配列決定した

Atg7の削除はミトコンドリアゲノムの突然変異の増大という結果になったものの、
非同義の変異nonsynonymous mutationsの存在は少な過ぎて、全般的なミトコンドリア機能不全を引き起こすことはできなかった

対照的に、放射性同位体でラベル化した栄養素を用いたパルスチェイス実験/pulse-chase studyにより、
オートファジー欠陥細胞では飢餓の間の ミトコンドリアへの基質の供給が損なわれていることが明らかになった
このことは、活性酸素種/reactive oxygen species (ROS) の増加、エネルギーチャージenergy chargeの低下、総ヌクレオチドプールの劇的な低下と関連する

オートファジー欠陥細胞の飢餓での生存は、全般的な抗酸化剤であるN-アセチル-システインでは回復しなかった一方、
グルタミンまたはグルタミン酸(どちらもTCA回路/クエン酸回路に入りヌクレオチド合成nucleotide synthesisに使われる)、またはヌクレオシドnucleosidesによって完全に回復した

ゆえに、ヌクレオチドプールの維持は、Krasをドライバとする腫瘍細胞が飢えた時の決定的に重要な課題challengeである

オートファジーは、生体エネルギーの基質ならびに生合成の基質を提供することによって、ヌクレオチドプールとそれによる飢餓の生き残りをサポートする



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/281aae37e50f702fb8cee950d3ad6a58
癌細胞の移動にはオートファジー遺伝子のAtg5とAtg7が必要



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160125114106.htm
Atg5またはAtg7を抑制すると制御性T細胞(Treg)は機能しなくなる



参考サイト
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3545.html
>実は、がん細胞はブドウ糖しかエネルギー源として使えないことがわかっているのです。

は?

 

ブドウ糖がなくても癌細胞が生き残る方法

2016-08-10 06:06:17 | 
Researchers have discovered a mechanism that allows cancer to survive without glucose

August 8, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160808144859.htm

腫瘍細胞の主な目的は何よりもまず『生き残ること』である
たとえそれが、自らの属する生物の健康を犠牲にしてもである

生存を維持するために腫瘍細胞は通常の細胞が持たない能力を備えequipped、それは例えばグルコースのレベルが非常に低くても生き続ける能力である
そしてそれこそが、現在広く使われる血管形成の阻害剤がしばしば癌の除去に失敗する理由の可能性の一つである
血管の形成を阻害して栄養素全般、特にグルコースを遮断してどれほど飢えさせたとしても、腫瘍細胞は生き残る


今回スペインの国立がん研究所/Centro Nacional de Investigaciones Oncológicas(CNIO)の研究者たちは、癌細胞がグルコース無しでも生き残ることを可能にするための鍵となる生化学的なメカニズムの一つを突き止めた
彼らは特に、あるタンパク質のグループが『スイッチ』として働くことを明らかにした
グルコースが利用可能な時の腫瘍細胞は、生き残って増殖し続けるための特定の生化学経路を使う
しかしグルコースが使えない時、このスイッチは異なる経路の引き金を引いて同じ目的(つまり生き残ること)を達成する

Cancer Cell誌で発表された論文のintellectual authorであるCNIO研究員Nabil Djouderの説明によると、「腫瘍細胞はとても賢い
成長と増殖に必須であるように思われるドアが閉じると細胞は別のドアを開いて、どんなストレスであっても適応して生き残れるようにする
そのような理由で腫瘍細胞は高度に洗練されたメカニズムを発展させて 生き残るために学習し、
そしてそれこそが癌を治癒させるのが非常に難しい理由である」


この論文は基本的な性質を述べたもので、現時点では臨床的な応用からは程遠い
しかしながら、高インパクトな学術誌での今回の発表は、コミュニティーが癌を『高度に関連性のあるピースからなるパズル/a highly relevant piece of the puzzle 』であると見なすことを確認するものだ


研究者たちは腫瘍細胞がどうやって腫瘍の塊の中心部で生き残るのかをずっと不思議に思っていた
そこにはほとんど血管が届かないからである

加えて、抗血管形成薬anti-angiogenic agentsへの抵抗性を理解する必要もあった
抗血管形成薬は近年最も広く使われるようになった抗癌剤の一つで、
その有効性は腫瘍に栄養を供給する血管の成長を妨害し、癌細胞から栄養素を飢えさせることを基盤とする
しかし癌細胞はやがてこの薬剤に抵抗するようになり、飢えても死ぬことはない


グルコースを検出して、それに応じた行動をするための『スイッチ』
'Switches' to detect glucose and act accordingly

細胞内で起きることは全て(それが癌細胞であるかどうかは関係なく)、生化学的な反応の連鎖が基礎にある
タンパク質は様々な分子の付加によって修飾され、そのような変化が他のタンパク質に変化を誘発する

とてもシンプルな隠喩metaphorとしては、それはまるで多くのスイッチを持つ『回路』のようであり、それぞれのスイッチがつながったり切れたりする


Djouderたちは今回の研究で、グルコースが存在するかどうかを細胞が検出できるようにするためのスイッチのシステムを明らかにした
その検出の状態に照らして、癌細胞の究極の目的である『生き残ることsurvive』を達成するためにはどの生化学的経路をたどるべきかが決定される

この洗練されたシステムはURI、OGT、c-Mycという3つのタンパク質から構成され、3つのうちURIがスイッチとして働く
c-Mycは有名な癌遺伝子oncogeneであり、細胞の増殖と生存を促進する
しかしながら、Djouderのグループは癌細胞が栄養素ストレスの状態nutrient stressでも生き残るために重要matterなのもc-Mycタンパク質のレベルであることを発見した


一連のイベントは次のように起きる

・URIはOGTの活性をコントロールする

・OGTはグルコースを感知し、グルコースを利用してc-Mycレベルをコントロールする
 グルコースが存在する時のOGTはグルコースを使ってc-Mycのレベルを安定化させ、c-Mycが癌遺伝子としての役割を果たすことを可能にする

・これに反して、細胞がグルコースが不足するという状況に直面すると、URIはOGTを強力に阻害する
 OGTの活性は低下し、グルコースの消費は減少する

・OGTによるc-Mycの安定化は抑制され、c-Mycは分解されて排除される
 この結果、グルコースが不足すると細胞の生存はURIに依存するようになる(つまりURIは発癌性の活性を持つ)


「我々の発見は重要なグルコース感知メカニズムの存在を示唆している
URIは加減抵抗器rheostatとして働いてOGTの活性をコントロールし、したがってc-Mycレベルを変化させる
これが癌細胞に『選択的な性質selective traits』を与え、厳しい代謝的ストレスに耐えて攻撃的な環境から受ける選択圧下で生き残れるようにする」

「このメカニズムは一般的な腫瘍発生tumorigenesisにおいても重要である可能性があり、
グルコース欠乏にさらされた癌細胞がどのようにして後退regressどころか拡大expandできるのかについて説明するのを可能にするかもしれない」


この発見は今のところ実用化practical applicationからは程遠い
なぜなら、URIの作用を乗っ取るような単純な戦略は現在は単純に不可能だからである
URIの機能はまだ十分に理解されているとは言えず、実際、CNIOのNabil DjouderたちはURIの研究を続行する予定である


http://dx.doi.org/10.1016/j.ccell.2016.06.023
Regulation of OGT by URI in Response to Glucose Confers c-MYC-Dependent Survival Mechanisms.
グルコースに応じたURIによるOGTの調節はc-MYC依存的な生存メカニズムを与える



Highlights
・癌細胞においてURI/OGT/PP1γは機能的なヘテロ三量体の複合体を形成する
・グルコース欠乏はURIのセリン371をリン酸化させ、PP1γを解放してOGTを阻害する
・OGTの阻害はc-MYCを減少させ、代謝的ストレス下での癌細胞の生存を促進する
・URIのセリン371をアラニンに変化させると(S371A)、O-結合型β-N-アセチルグルコサミン付加(O-GlcNAcylation)が増加し、c-Mycレベルが増大して、肝臓の発癌hepatocarcinogenesisが促進される

※O-GlcNAcylation: O-結合型β-N-アセチルグルコサミン付加。O-GlcNAc転移酵素(O-結合型β-N-アセチルグルコサミン転移酵素)によって触媒される

URI1: unconventional prefoldin RPB5 interactor

OGT: O-Linked N-Acetylglucosamine (GlcNAc) Transferase

c-Myc: V-Myc Avian Myelocytomatosis Viral Oncogene Homolog

PP1γ: protein phosphatase 1γ


Summary
癌細胞は低栄養の状態下でも適応して生き残るが、根底にあるメカニズムはほとんど調査されていない

今回我々はグルコースが『コシャペロンco-chaperone(シャペロンを補助するタンパク質)であるURI』『PP1γ』『O-結合型β-N-アセチルグルコサミン付加(O-GlcNAcylation)を触媒する酵素のOGT』の機能的な複合体を維持することを実証する

グルコース欠乏はプロテインキナーゼA(PKA)の活性化を誘発し、PKAはURIのセリン371をリン酸化することで、結果としてPP1γが解放され、URIはOGTの阻害を仲介するようになる
OGTの活性の減少はO-GlcNAcylationを低下させてc-MYC分解を促進し、細胞の生存を維持する

グルコースが存在すると、PP1γと結合したURIは OGTとc-MYCレベルを増大させる

それらと一致して、セリン371がリン酸化されないようにしたURI(S371A)を肝細胞で発現するマウスは高いOGT活性を示し、c-MYCは安定化して肝臓の腫瘍発生tumorigenesisは加速され、それはc-MYCの発癌機能oncogenic functionsと一致する

我々の研究は、URIによって調節されるOGTが
グルコースが変動してもそれに応じたc-MYC依存的な生存機能を与えることを明らかにする


References

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25453901
Inhibition of de novo NAD(+) synthesis by oncogenic URI causes liver tumorigenesis through DNA damage.
発癌URIによる新規NAD+合成阻害はDNA損傷を通じて肝臓腫瘍発生を引き起こす


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19661383
Glucose deprivation contributes to the development of KRAS pathway mutations in tumor cells.
グルコース欠乏は腫瘍細胞におけるKRAS経路の突然変異に寄与する


<コメント>
2009年にScienceに掲載された論文では、一般的に信じられているような「グルコースが多いと癌になる」どころか、「グルコースが不足すると癌化する」という可能性が示唆されていた
これまでその理由はよくわからなかったが、どうやらグルコースは様々なタンパク質や複合体を安定させるために使われるのだという



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/2174442f0ceb3acce3c4a816f949b3db
糖分が少ない領域に適応した癌細胞はKRAS/GLUT1でブドウ糖をかき集めるようになる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/f2c26e0f57a3ab816dc42885092e26cc
グルコースによって発現が調節されるPCK2は、グルコースが少なくても解糖系の中間生成物の産生を助ける



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/886e4bba2af90bbc4bda6ab12d6caae1
癌細胞からPKCζが失われると、腫瘍は代わりの栄養分を用いることが可能になる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/e66f633e000a98c97c5e8bddfa27ba74
抗血管新生薬とミトコンドリア阻害剤を組み合わせて癌を殺す



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/3602a7dca002902cc23d302bfc4b6307
AMPKとPFKFB3が細胞分裂に応じたミトコンドリアへのダメージを検出すると、細胞はエネルギー源をグルコースに依存するようになる



参考サイト
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3545.html
>実は、がん細胞はブドウ糖しかエネルギー源として使えないことがわかっているのです。

はぁ?
 

KRAS突然変異による肺癌形成には脂肪酸の酸化が必要

2016-08-08 06:06:12 | 
Scientists discover new therapeutic target for lung cancer driven by KRAS

July 28, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160728125715.htm


(UT Southwestern researchers (left to right)
Dr. Mahesh Padanad,
Dr. Smita Rindhe,
Dr. Pier Paolo Scaglioni, and
Dr. Margherita Melegari
have found a new way
to target lung cancer through the KRAS gene, one of the most commonly mutated genes in human cancer.

Credit: Image courtesy of UT Southwestern Medical Center)


テキサス大学(UT)サウスウエスタン・メディカルセンターの研究者たちは、KRAS遺伝子を通じて肺癌を標的にする新たな方法を突き止めた
KRASはヒトの癌で最も一般的に変異している遺伝子の一つであり、これまで標的とすることが難しいとされてきた


肺癌でKRAS変異の根底にある生物学を調査していた研究者たちは、ACSL3遺伝子の結果として生じる活性は肺癌細胞が生き残るために必要であり、ACSL3を抑制すると肺癌細胞が死ぬことを突き止めた

この発見が重要である理由は肺癌の症例の約30パーセントでKRAS遺伝子の突然変異が起きるからであり、その変異は予後の悪い悪性度と治療抵抗性に関連するためである

国立癌研究所/National Cancer Institute (NCI) によると、肺癌は癌関連死の原因として第一位のままである

「最近いくつかの進歩があったものの、KRASの突然変異体は今でも非常に困難な標的のままである
この遺伝子から始まった腫瘍には治療の選択肢が欠乏dearthしている」
首席著者senior authorのPier Paolo Scaglioni博士は言う
彼は血液学・腫瘍学部において内科学の助教授Associate Professorであり、Harold C. Simmons総合がんセンターの一員でもある


KRAS遺伝子 (Kirsten rat sarcoma viral oncogene homolog) からはK-Rasというタンパク質が作られ、細胞の分裂時に影響を与える
K-Rasが変異を起こすと細胞分裂は制御不能になり、癌化する可能性がある

「KRASの変異体は腫瘍の成長を促すだけでなく、既に確立した肺癌の生存も促進する
現時点では臨床的に関連するrelevant効果的な阻害剤は何もないので、効果があると証明される治療の開発には強い臨床的な関心が存在する」
Scaglioni博士は言う
彼はSimmons Cancer Centerにある癌シグナル伝達研究室/Cancer Signaling Laboratoryのリーダーである

研究チームはACSL3 (Acyl-CoA synthetase long-chain family member 3) という酵素の活性が変異体KRAS遺伝子の肺癌形成促進にとって必要だということを発見し、
さらにACSL3酵素の基質substratesである脂肪酸が肺癌において臨床的な役割を持つことも実証した


「癌細胞の脂質代謝を阻害するためのさらなる標的、しかも標的治療につながりうるようなものを発見しなければならないという切迫した必要性が存在する
肺癌におけるACSL3の重要性の発見は、この対処されていない需要unmet needを満たす」
筆頭著者first authorであり研究チームの一員であるMahesh S. Padanad博士は言う


Cell Reports誌で発表された今回の研究では複数の相補的complementaryなアプローチ、つまり細胞系統、マウス、ヒトの患者の腫瘍サンプルを使い、肺癌におけるACSL3の生物学的な重要性を理解しようとした


http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.07.009
Fatty Acid Oxidation Mediated by Acyl-CoA Synthetase Long Chain 3 Is Required for Mutant KRAS Lung Tumorigenesis.
KRAS変異体の肺腫瘍発生にはACSL3によって仲介される脂肪酸酸化が必要である



Highlights
・肺癌細胞におけるACSL3の発現と活性は、変異体KRASによって上方調節される
・変異体KRAS肺癌細胞でACSL3を抑制すると、β酸化とATPレベルが低下する
・ACSL3は変異体KRAS肺癌細胞の生存と発癌能oncogenic capacityに必要である
・ACSL3はヒト肺癌の標本specimensで発現が高く、癌の開始/イニシエーションinitiationを促進する


Summary
KRASが変異した細胞では代謝ネットワークの調節が異常をきたす
しかしながら、細胞での代謝の変化が 変異体KRASの腫瘍発生tumorigenesisにどれほど寄与するのかは完全には理解されていない

今回我々は変異体KRASが
アシルCoAシンテターゼ長鎖ファミリーメンバー3/Acyl-coenzyme A (CoA) synthetase long-chain family member 3 (ACSL3) を通じて細胞内の脂肪酸代謝を調節することを報告する
ACSL3は脂肪酸を『脂肪酸アシルCoA/fatty Acyl-CoA』のエステルesterへと変換するが、これは脂肪合成とβ酸化の基質である

※脂肪酸アシルCoAシンテターゼ/fatty acyl-CoA synthetase: β酸化したり中性脂肪などを合成するために、脂肪酸をCoAと結合させて活性化する酵素

ACSL3の抑制は細胞内ATPの枯渇depletionと関連し、肺癌細胞の細胞死を引き起こす

さらに、変異体KRASは肺癌細胞の脂肪酸の取り込みuptake、維持retention、蓄積accumulation、β酸化を促進し、それはACSL3に依存的なやり方/ACSL3-dependent mannerである

我々のデータは変異体KRASが脂質の恒常性を再プログラムして代謝的な必要性を確立することを実証し、それは治療標的として利用されうることを示す


関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/910a0223f30d3b68e39d6905f1c05820
乳癌は増殖するために脂質を取り込む



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/4056326cf9626ead69dd90ab0886df52
白血病の癌幹細胞は脂肪組織に隠れる



参考サイト
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3545.html
>実は、がん細胞はブドウ糖しかエネルギー源として使えないことがわかっているのです。

は?
 

ALSではTDP-43によってミトコンドリア機能が破綻する

2016-08-06 06:06:02 | 
Scientists keep a molecule from moving inside nerve cells to prevent cell death

Findings may have implications for Lou Gehrig's, Alzheimer's, Parkinson's and Huntington's diseases

August 3, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160803124517.htm

筋萎縮性側索硬化症/amyotrophic lateral sclerosis(ALS)は、運動神経細胞を徹底的に破壊devastateする進行性の疾患である
ALSと診断された人々は筋肉の動きをコントロールする能力をゆっくりと失い、最終的には話したり食べたり動いたりすることも、息すらも不可能になる
ALSの背後にある細胞内のメカニズムは、ある種の認知症にも共通して見られる(前頭側頭型認知症/frontotemporal dementia(FTD)等

今回Nature Medicineで発表された革新的な科学研究によると、あるRNA結合タンパク質がどのようにしてALSの進行に寄与するのかが明らかにされたという


細胞はDNAから『タンパク質を作るための指示』をRNAへと転写し、タンパク質を製造する機械へと送る
ALSの元凶となるタンパク質TDP-43は正常な場合、新たに読み出されたRNAの小さな断片piecesに結合し、RNAが細胞核の内部を行ったり来たりするのを助けている

今回の研究ではTDP-43が神経細胞の内部で間違った場所に移動した/誤って配置されたmisplaced分子的な結果について初めて記述し、その位置locationを修正することにより神経細胞の機能は回復可能であることを実証する
TDP-43が神経細胞で間違った場所に移動すること/誤配置されることmisplacementはALSや他の神経疾患(FTDやアルツハイマー、パーキンソン病、ハンチントン病)の特徴である
これらの疾患に共通のメカニズムの特徴を調べる研究は広い範囲に様々な関連があり、広域的broad-basedな治療の開発を加速するかもしれない


誤って配置されたTDP-43を見つけるために研究者たちはALSまたはFTDで亡くなった人々から寄贈された献体の神経細胞を高性能/高倍率high poweredの顕微鏡で観察し、TDP-43は神経細胞のミトコンドリアに集積していることを突き止めた
ミトコンドリアは神経細胞が必要とする莫大な量のエネルギーを作り出す決定的に重要な構造物である

影響を受けたミトコンドリアを物理的に単離することにより、研究者はTDP-43の正確な場所を特定pinpointすることに成功した
彼らはさらに、誤配置されやすいタンパク質の多様性variationを特徴づけた

この重要な研究はケース・ウエスタン・リザーブ大学(CWRU)医学部の病理学部に属するXinglong Wang, PhDを中心とした彼のラボのチームによって実施された

Wangは次のように説明する
「我々は様々なアプローチにより、TDP-43の大部分がマトリックスに面するミトコンドリア内膜に位置することを特定した
多くの重要な神経変性疾患において、死滅するニューロンでミトコンドリアはTDP-43が蓄積する主な箇所であるかもしれない」


TDP-43はいったんミトコンドリアの中に入るとその『RNAと結合する役割』を再び開始resumeし、ミトコンドリアの遺伝物質genetic materialと結合する
このことがエネルギーを作り出すミトコンドリアの能力を破綻させるのだという
WangのチームはTDP-43が結合するミトコンドリアRNAを正確に特定し、その結果として生じるresultantミトコンドリアタンパク質複合体の分解disassemblyを観察した

今回の発見は神経細胞内部でTDP-43が間違った場所に移動した結果についての必要十分な明瞭さmuch needed clarityをもたらし、広範囲の神経疾患を含めたさらなる研究への扉を開くものだ

この研究ではALSとFTDに焦点を当てたが、Wangによると「TDP-43の誤った局在mislocalizationは アルツハイマー病患者の半分以上で 鍵となる病理学的な特徴を代表し、それは症状と強く相関する」という


TDP-43をコードする遺伝子の突然変異mutationsは、ALSやFTDのような神経変性疾患と長い間関連付けられてきた
Wangのチームは、疾患と関連するTDP-43遺伝子突然変異が神経細胞内部での誤配置を促進することを明らかにした

加えて、彼らはミトコンドリアによって認識されるTDP-43の一部sectionsを特定した
この部分がミトコンドリアの内部に入ることを許すシグナルとして働く

これらの部分sectionsは治療の標的となりうる
研究でそれらの部分を阻害すると、TDP-43がミトコンドリアの内部に局在することが妨げられた
重要なことに、小さいタンパク質を使ってTDP-43をマウスの神経細胞のミトコンドリアに入らせないようにすると、神経細胞への毒性と疾患の進行が『ほとんど完全にalmost completely』阻止できることが示された


「TDP-43のミトコンドリアへの局在の阻害はTDP-43と関連する神経変性を防ぐのに十分であるという、まったく新しいコンセプトを我々は初めて提供する」
Wangは言う

「ミトコンドリアのTDP-43を標的とすることは、ALSとFTD、そして他のTDP-43と関連する神経変性疾患に対する新たな治療アプローチになる可能性がある」


WangはTDP-43がヒトの神経細胞のミトコンドリアに到達できないよう防ぐための小分子タンパク質の開発を開始しており、この研究で使われた治療用の分子についても特許出願中patent pendingである

現在ALSやFTDで利用可能な治療は何も存在せず、ALS Associationによると新たにALSと診断された人々の平均寿命はわずか3年であるという


http://dx.doi.org/10.1038/nm.4130
The inhibition of TDP-43 mitochondrial localization blocks its neuronal toxicity.

Abstract
TAR DNA 結合タンパク質43/TAR DNA-binding protein 43 (TARDBP/TDP-43) の遺伝子突然変異は、ALSを引き起こす
TARDBPによってコードされるTDP-43タンパク質の細胞質での増大は、様々な神経変性疾患における変性ニューロンの組織病理学的histopathologicalに目立った特徴である
しかしながら、ALSの病態生理学pathophysiologyにTDP-43が寄与する分子メカニズムは分かりにくいままである

今回我々はTDP-43がALSまたはFTD患者のニューロンのミトコンドリアに蓄積することを発見した
疾患と関連する突然変異はTDP-43のミトコンドリアへの局在を増大させる

ミトコンドリア内では野生型(WT)ならびに変異体のTDP-43が
ミトコンドリアで転写された呼吸鎖の複合体IサブユニットND3とND6のmRNAと選択的に結合し、
それらの発現を損ない、特に複合体Iの分解を引き起こす

TDP-43のミトコンドリア局在の抑制は、
WTならびに変異体TDP-43によって誘発されるミトコンドリア機能不全ならびにニューロン喪失を無効化し、
TDP-43変異体のトランスジェニックマウスの表現型は改善される

したがって、我々の研究はTDP-43の毒性を直接ミトコンドリア生体エネルギーbioenergeticsに関連付けるものであり、神経変性に対する有望な治療アプローチとしてTDP-43のミトコンドリア局在を標的にすることを提案するものである



Figure 1: TDP-43 co-localizes with and accumulates in mitochondria in individuals with ALS and FTD.
TDP-43はALSとFTDの人々でミトコンドリアと共局在してその中に蓄積する

Figure 2: ALS-associated genetic mutations in TDP-43 increase its import into mitochondria.
ALSと関連するTDP-43遺伝子の突然変異はミトコンドリアへのインポートを増大させる

Figure 3: TDP-43 mitochondrial import depends on internal M1, M3 and M5 motifs.
TDP-43のミトコンドリアへのインポートは、TDP-43内部のM1、M3、M5モチーフによる

Figure 4: TDP-43 preferentially binds mitochondria-transcribed ND3 and ND6 mRNAs and inhibits their translation.
ミトコンドリアで転写されたND3とND6のmRNAに対してTDP-43は選択的に/優先的に結合し、その翻訳を阻害する

Figure 5: TDP-43 specifically reduces complex I assembly and impairs mitochondrial function and morphology.
TDP-43は特に複合体Iの組み立てを低下させ、ミトコンドリアの機能と形態構造morphologyを損なう

Figure 6: Suppression of TDP-43 mitochondrial localization abolishes TDP-43 neurotoxicity.
TDP-43のミトコンドリア局在を抑制するとTDP-43の神経毒性は無効化される



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160725151246.htm
ALSの3%にNEK1の突然変異
NEK1は、細胞骨格の維持、ミトコンドリア膜の調節、DNAの修復に関与する



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α-シヌクレインはTOM20に結合し、ミトコンドリアへのタンパク質インポートを阻害する



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/ed826987c5083df9db9a8729c7b72344
銅の欠乏によって弱ったミトコンドリアに銅を届けてALSを治療する



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/930858dc048a991d95b21a50be1ad103
ヒトの内因性レトロウイルス遺伝子の再活性化はTDP-43によって調節される



関連サイト
https://en.wikipedia.org/wiki/TARDBP
Function
TDP-43は染色体に組み込まれたTAR DNAに結合する転写抑制因子であり、HIV-1ウイルスの転写を抑制する
加えて、TDP-43はCFTR遺伝子の選択的スプライシングを調節する
特に、TDP-43はスプライシング因子であり、CFTR遺伝子のintron8/exon9 junctionに結合し、アポAII遺伝子のintron2/exon3領域に結合する [4]
TDP-43はDNAとRNAの両方に結合することが示され、転写抑制、プレmRNA/pre-mRNAのスプライシング、転写調節において多くの機能を持つ [6]

Clinical significance
過剰にリン酸化、ユビキチン化、切断された形態のTDP-43は、病的pathologicなTDP-43であることが知られ、FTLD-TDP [9] ならびにALS [10] の主な疾患タンパク質である
TDP-43の異常はアルツハイマー病の重要なサブセットでも生じ、それは臨床的ならびに神経病理学的な特徴のインデックスと相関する [12]
 

なぜ抗うつ薬は効くまでに時間がかかるのか

2016-08-04 06:06:49 | 
Why do antidepressants take so long to work?

July 28, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160728125256.htm


(Image: Molly Huttner.)

大うつ病のエピソードは手足の自由を奪うように力を失わせcrippling、睡眠や食事、労働する能力を損なう
アメリカでは生涯で6人に1人がうつ病になり、重症のケースでは気分障害により自殺に至る可能性がある
しかし、うつ病の治療で利用できる薬は効き始めるまでに数週間から数ヶ月もかかることがある

イリノイ大学シカゴ校(UIC)の研究者は、抗うつ病薬が効果を示すまで時間がかかる理由の一つを明らかにした
Journal of Biological Chemistry誌で発表された彼らの発見は、将来の早く効く薬の開発を助けるかもしれない


UIC医学部で神経科学者のMark Rasenickたちは、選択的セロトニン再取り込み阻害剤/selective serotonin reuptake inhibitors(SSRIs)のこれまで知られていなかった作用メカニズムを突き止めた
SSRIは最も広く処方されているタイプの抗うつ病薬である

SSRIは神経細胞によるセロトニンの再吸収を阻害することで作用すると長い間考えられてきた
しかしSSRIは細胞膜上に斑点のように存在する『脂質ラフト lipid raft』にも蓄積することがRasenickらによって発見され、SSRIの蓄積はラフト内の重要なシグナル分子のレベル低下と関連があった

※raft: いかだ、浮き台

「ずっと長い間の謎だったのは、なぜ抗うつ薬のSSRIは症状を抑え始めるまで2ヶ月はかかるのかということだった
(謎とされる理由はいくつかあるが)中でも特に、SSRIが標的と結合するのに数分とかからないからである」
UICで生理学と生体物理学、そして精神学の特別教授distinguished professorであるRasenickは言う

「おそらくSSRIは別の結合する箇所があり、それがうつ病の症状を減らす抗うつ薬の作用で重要なのだろうと我々は考えた」

シナプスからニューロン間の空間に放出されたセロトニンは、神経の細胞膜に埋め込まれているセロトニン輸送体transporterによって取り込まれる
うつ病の患者はセロトニンの供給が少ないと考えられており、SSRIはセロトニン輸送体に結合して阻害することによりセロトニンを取り込まれないようにして、利用可能なセロトニンの効果を増幅してうつ病の症状を減らすとされてきた


Rasenickは、薬の応答の遅れには神経細胞膜のシグナル伝達分子である『Gタンパク質』が関与するのではないかと長い間考えてきた
実際、以前の彼らによる研究で うつ病の人々はGタンパク質が脂質ラフトに集合congregateする傾向があると示されていた(脂質ラフトlipid raftとは、細胞膜内のコレステロールが豊富な斑点状の領域である)

※脂質ラフト: 論文によると脂質ラフトに豊富なのはコレステロールだけではなく『カベオリンcaveolin、スフィンゴ脂質sphingolipids、細胞骨格タンパク質とGPIアンカータンパク質cytoskeletal and GPI-anchored proteins (9,10)』も豊富であり、『シグナル伝達分子が集積clusteringまたは隔離sequestrationされうる領域 (11)』 であるという

※以前の彼らの研究: 論文のRefenece 15には "Postmortem brain tissue of depressed suicides reveals increased Gs alpha localization in lipid raft domains where it is less likely to activate adenylyl cyclase.(うつ病で自殺した死後脳組織の調査から、アデニリルシクラーゼを活性化しにくい場所である脂質ラフトドメインにGsαが局在していることが明らかにされる)" という2008年の論文が挙げられている


ラフト内に座礁strandedして取り残されたGタンパク質は『環状AMP/cyclic AMP(cAMP)』という分子へのアクセスを失い、結果としてcAMPが作られなくなる
cAMPはGタンパク質が機能するために必要な分子である
cAMPが低下してシグナル伝達の勢いが弱まるdampenedことは、なぜうつ病の人々が環境に対して『無感覚numb』なのかを説明する可能性があるとRasenickは推論reasonする

Rasenickはラットのグリア細胞という脳細胞を様々なSSRIの溶液に浸してbath、細胞膜内でのGタンパク質の位置を調査した
実験の結果、SSRIは時が経つにつれてover time 脂質ラフトに蓄積してゆき、蓄積するにつれてラフト内のGタンパク質は減少した

「このプロセスは、抗うつ薬の細胞への他の作用と一致するタイムラグを示す」
Rasenickは言う

「このようなGタンパク質の動き、つまり脂質ラフトの外へ出て Gタンパク質が機能可能な領域へ移動するという影響の仕方は、抗うつ薬が作用するまでにとても長い時間がかかる理由になりそうだ」


この発見は、抗うつ薬がどのようにして改善されうるのかという可能性を示唆すると彼は言う

「正確な結合箇所が特定されたことは、Gタンパク質の脂質ラフトの外への移動を早めて抗うつ薬の効果がより早く感じられるような 新たな抗うつ薬のデザインの助けになるかもしれない」

Rasenickは脂質ラフトが結合する箇所について、わずかながら既に理解している
彼がラットのニューロンをエスシタロプラムescitalopramというSSRIと、その鏡像mirror imageとなる分子の溶液に浸したところ、『右手の型right-handed form』だけが脂質ラフトに結合した

「この非常にわずかな分子の変化が結合を妨げる
ゆえに、結合箇所の特徴のいくつかを絞り込むnarrow downのを助けてくれる」


http://dx.doi.org/10.1074/jbc.M116.727263
Antidepressants Accumulate in Lipid Rafts Independent of Monoamine Transporters to Modulate Redistribution of the G protein, Gαs.
抗うつ薬はモノアミントランスポーターとは関係なく脂質ラフトに蓄積し、Gタンパク質Gαsの再分布を調整する

Abstract
うつ病は公衆衛生上の重大な問題であり、現在利用可能な薬物治療medicationは、効果があっても患者が反応するまでに数週から数ヶ月の治療が必要である

以前の研究では、cAMPを増加させるGタンパク質(Gαs)がうつ病患者では徐々に脂質ラフトに局在するようになり、抗うつ薬の慢性的な投与はGαsを脂質ラフトの中から外へ移動translocationさせることが示されている

ラットまたはC6グリオーマ細胞に対して慢性的に抗うつ薬を投与すると、Gαsの脂質ラフト外への移動は開始onsetの遅れを示すが、
それは抗うつ病薬の治療効果の開始の遅れと一致する

抗うつ病薬は脂質ラフトに局在するGαsを特に修正するようであるので、我々は構造的に様々な抗うつ病薬が脂質ラフトに蓄積するのかどうかを特定しようとした

5HTトランスポーターを持たないC6グリオーマ細胞への 継続的な投与sustained treatmentは、ラフト分画fractionにおける複数の抗うつ病薬の顕著な濃度上昇を示した
それは吸光度absorbanceの上昇ならびに質量フィンガープリントmass fingerprintによって明らかである

構造的にそっくり似たような関連性を持つclosely relatedが抗うつ病薬の効果は持たない分子は、ラフト分画への集中を示さなかった

よって、少なくとも2クラスの抗うつ病薬が脂質ラフトに蓄積し、cAMPシグナル伝達カスケードを活性化する非ラフト膜分画へのGαsの移動に影響する

ラフト局在の構造的な決定要素determinantの分析は、抗うつ薬の作用の履歴効果hysteresisの説明を助け、抗うつ治療の新たな基質のデザインと開発につながるかもしれない


Results
Gradual accumulation of antidepressant drugs in plasma membrane microdomains correlates with Gαs subcellular redistribution.


我々は複数の薬物クラスの代表的な薬剤の蓄積を評価した

・モノアミン酸化酵素阻害剤MAOI (フェネルジンphenelzine)
・三環系抗うつ薬TCA (デシプラミンdesipramine, イミプラミンimipramine, アミトリプチリンamitriptyline)
・選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRI (エスシタロプラムescitalopramとその不活性な立体異性体stereoisomerであるR-シタロプラム, フルオキセチンfluoxetine)
・非定型抗精神病薬atypical antipsychoticだが独立した抗うつの効能があるアリピプラゾールaripiprazole(エビリファイ)
・非定型抗精神病薬atypical antipsychoticで抗うつ作用がないオランザピンolanzapine(ジプレキサ)(26)

結果、時間経過による細胞膜脂質ラフト分画fractionsへの薬剤蓄積はクラス特異的(例えばSSRIとMAO阻害剤)なメカニズムのようだった (Figure 2A)

主な抗うつ作用は持たない抗精神病薬であるオランザピン (27) も脂質ラフトに蓄積するようだが、これはその強い疎水性の性質hydrophobic natureのためかもしれない (Figure 2B)
しかしながら、GC-MS質量分析によるラフト分画の分析では、ラフトへの薬剤蓄積は疎水性hydrophobicityからは独立しており、オランザピンとアリピプラゾールは蓄積しない

総イオンクロマトグラム/total ion chromatograms (TIC) による脂質ラフト抽出extractionsの分析では、フェネルジンphenelzine、フルオキセチンfluoxetine、エスシタロプラムescitalopramだけが投与72時間後に脂質ラフトに蓄積していた (Figure 3);

エスシタロプラム、フルオキセチン、フェネルジンの蓄積は、Gαsの脂質ラフトからの移動を仲介する能力と一致parallelしていたが、R-シタロプラムまたはオランザピンolanzapineはそうではなかった (20)
三環系抗うつ薬 (desipramine, imipramine, amitriptyline) もアリピプラゾールaripiprazoleも脂質ラフトに蓄積しなかったので、この現象は薬剤クラス特異的である可能性がある
さらに、蓄積は化合物の親油性lipophilicityからは独立している (Figure 2B)


Figure 2
Phenelzine 0.18 ***
Desipramine 0.05 **
Imipramine 0
Amitriptyline 0
Fluoxetine 0.19 ***
Escitalopram 0.5 ***
R-citalopram 0
Aripiprazole 0
Olanzapine 0.04 *




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うつ病の原因の一部はミクログリア
 

なぜレボドパでジスキネジアが起きるようになるのか

2016-08-02 06:06:01 | 
Why brain neurons in Parkinson's disease stop benefiting from levodopa

Essential mechanism of long-term memory for L-DOPA-induced-dyskinesia

July 28, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160728143608.htm

レボドパlevodopa/L-DOPA(3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)はパーキンソン病の症状を劇的に改善できるにもかかわらず、5年以内に2人に1人が『不可逆的な状態irreversible condition』を生じ、不随意involuntaryで繰り返されるrepetitive、急速rapidで痙攣性jerkyの動作が起きるようになる
この異常な運動行動motor behaviorはレボドパを摂取している間だけ現れ、薬をやめると異常も止まる
しかしながら、再びレボドパを摂取すると、多くの月日が経っていても急速に再発re-emergeする

このような副作用を防いでレボドパの有用性を延長するための研究の中で、アラバマ大学バーミングハム校(UAB)の研究者たちは『レボドパによって誘発されるジスキネジア/L-DOPA-induced-dyskinesia(LID)』が長期にわたって記憶されるために必須のメカニズムを明らかにした

彼らの報告によると、レボドパによって脳細胞内のDNAメチル化が広範囲にわたって再編成reorganizationされていたという(メチル化とはDNAの機能を調節するプロセスである)
また、DNAのメチル化を増やすか減らすような治療は、動物モデルでジスキネジアの症状を修正できることが明らかにされた
したがって、DNAメチル化の調整は、LIDを防ぐか覆すための新たな治療標的になるかもしれない

「レボドパはパーキンソン病にとって非常に有益な治療だが、多くの場合ジスキネジアによってレボドパの使用は制限される」
UABの神経学部長でありJohn N. Whitaker Professor教授職でもあるDavid Standaert, M.D., Ph.D.は言う

「LIDを予防するか覆す手段があれば、耐えられないような副作用を引き起こすことなくレボドパの使用期間をはるかに長く延ばせる可能性がある
我々が今回使った方法のメチオニンサプリメントやRG-108はヒトで使うには実用的ではないが、それらはメチル化を基盤としたエピジェネティックなパーキンソン病の治療法を開発する機会を指し示している」

研究には神経変性実験治療センター/Center for Neurodegeneration and Experimental TherapeuticsとUAB神経学部が参加し、成果はThe Journal of Neuroscience誌で発表された


研究の詳細
Research Details

LIDの動物モデルでの研究では遺伝子発現ならびに細胞シグナル伝達における変化が示されているものの、まだ重要な問題が未解決のまま残っている
「レボドパが神経に届くのは一時的transientなのに、なぜLIDで見られる感受性増感sensitizationは永続的persistentなのか?」

UABの研究者はDNAのメチル化、つまりDNAのヌクレオチドにメチル基が付け加えられるプロセスに変化が生じているのではないかと考えた
なぜならメチル化は細胞が成長して分化するにつれて遺伝子の発現を安定して変化させるからである
さらに、ニューロンにおけるメチル化の変化は 場所記憶place memoryの形成 ならびに コカイン使用後の常習行為addictive behaviorの発生に関与することが示されている
一般に、DNAメチル化の増加は近くの遺伝子の発現を沈黙silencingさせる効果があり、メチル基の除去は遺伝子の発現を促進する


研究者たちは次のようなことを発見した

・パーキンソン病モデルのげっ歯類へのレボドパの投与は、2つのDNA脱メチル化酵素の発現を促進した

・LIDモデルにおける背側線条体dorsal striatumの細胞は、広範囲の、そしてある箇所に特異的なDNAメチル化の変化を示し、それらのほとんどは脱メチル化として観察された

・DNAメチル化の変化は、LIDにおいて機能的重要性が確立された多数の遺伝子の近くで見られた

・DNAメチル化を全体的に調整すると、LIDのジスキネジア行動は修正された
 メチオニンを注入してメチル化を増加させるとLIDのジスキネジア的行動は低下し、RG-108を線条体に投与してメチル化を阻害するとLIDのジスキネジアは増加した


「合わせて考えると、これらの結果はレボドパが線条体のDNAメチル化に広範囲の変化を誘発することを実証するものであり、LIDの発症と維持にはDNAの調整が必要である」


http://dx.doi.org/10.1523/JNEUROSCI.0683-16.2016
Dynamic DNA Methylation Regulates Levodopa-Induced Dyskinesia.
動的なDNAメチル化はレボドパによって誘発されるジスキネジアを調節する

Abstract
レボドパによって誘発されるジスキネジア/L-DOPA-induced-dyskinesia(LID)は永続的persistentな行動的感受性増感behavioral sensitizationであり、パーキンソン病患者がレボドパ/levodopa (l-DOPA) に繰り返しさらされることで発症する

LIDは、ドーパミン作動性の刺激後に 線条体ニューロンの転写的な振る舞いが 持続性の変化を生じた結果である
ニューロンにおける 動的なDNAメチル化 を通じての転写調節は、多くの長期的行動の調整にとってきわめて重要であることが示されている
しかしながら、そのLIDにおける役割はまだ調査されてはいない

我々はげっ歯類モデルを使い、LID発症がDNA脱メチル化酵素の異常な発現につながることを示す
遺伝子座locus特異的なDNAメチル化の変化は遺伝子プロモーター領域で生じ、レボドパ投与後に転写が異常になる

動的dynamicなDNAメチル化をLIDでゲノムワイドに探索すべく、『reduced representation bisulfite sequencing(RRBS)』を使った結果、背側線条体dorsal striatalのメチロームmethylomeに広範囲な再編成を発見した

Reduced representation bisulfite sequencing (RRBS): 減少表示亜硫酸塩シーケンシング。制限酵素により解析部位を限定する

LIDの発症は、多くの重要な異常転写遺伝子の調節領域での有意な脱メチル化につながった

我々は薬理学的にDNAメチル化を変化させ、ジスキネジア的行動が調整可能であることを発見した

合わせて考えると、これらの結果はレボドパが線条体DNAメチル化に対して広範囲の変化を誘発することを実証し、そのようなDNA修飾がLIDの発症ならびに維持にとって必要であることを示す


SIGNIFICANCE STATEMENT
LIDは繰り返されるレボドパ曝露後にパーキンソン病患者で生じ、効果的な治療への主な障害の一つであり続けている

LID行動は 転写的な振る舞いの持続的な変化を原因とする 線条体ニューロンの感受性増感sensitizationである
しかしながら、この細胞的プライミングprimingが長期にわたって維持される原因となるメカニズムは不確かなままである

動的なDNAメチル化の調節は 複数の長期的な行動調整の維持にとって重要であることが示されているが、LIDにおけるその役割は調査されていない

この研究で我々はLID発症におけるDNAメチル化の再編成にとっての重要な役割を報告し、
DNAメチル化の調整が ジスキネジア的行動を予防または覆す際に利用できる新たな治療標的である可能性を示す



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/69c9fa39bc1266df4293922450508bb2
レボドパによるドーパミン補充療法は自発的/非自発的振る舞いを悪化させうるが、その理由は『線条体に存在する投射ニューロン』におけるドーパミン受容体の感受性が促進されるためである



関連サイト
http://www.nanbyou.or.jp/entry/314
治療によりドパミンを補充したときに、ドパミン受容体が過剰に刺激を受けて意図せず勝手に体が動く不随意運動(ジスキネジア)が出現することがある。
L-dopa投与量の増加によって起こりやすくなるが、同量のL-dopa持続投与では減少するので、L-dopa経口服用によるパルス状の刺激がジスキネジアを起こりやすくしていると考えられている。



関連サイト
http://www.comtan.jp/effect/dyskinesias.html
ジスキネジア: レボドパが効き過ぎたときに出現しやすく、自分の意思とは無関係に頭(口)、手、足、体が不規則に動いてしまう症状
振戦: レボドパが効いていない時に出現しやすく、手や足が規則的に震える



関連記事
http://ta4000.exblog.jp/19133502/
ヒドララジンまたはプロカインアミドで治療された結核の患者は、SLEとリウマチのような症状を発症することが臨床経験から示されている。ヒドララジンとプロカインアミドはCpGのDNA配列を脱メチル化する。その機序は、
・DNMT1活性を直接障害する (ヒドララジン)
・細胞外シグナル制御キナーゼ (ERK) 経路を阻害する (プロカインアミド)
であり、特にERK経路はDNMT1とDNMT3の発現を誘導する。
 

小麦感受性の生物学的な説明が明らかにされる

2016-08-01 06:06:00 | 免疫
Biological explanation for wheat sensitivity found

Weakened intestinal barrier, systemic immune activation may explain symptoms in people without celiac disease

July 26, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160726123632.htm


(セリアック病は自己免疫疾患であり、遺伝的に感受性のある人々が小麦やライ麦、大麦に含まれるグルテンを摂取することにより、免疫系が誤って小腸の内層を攻撃することで起きる
これは様々な胃腸の症状につながり、腹痛、下痢、膨満などが生じる

Credit: (c) Timmary / Fotolia)

なぜセリアック病や小麦アレルギーではない人たちが、小麦やその同類の穀物cerealの摂取後に胃腸や腸以外の症状を経験するのか?
新たな研究はその理由を説明するかもしれない
今回の研究結果からは、このような人々は腸のバリアが弱く/have a weakened intestinal barrier、それが体内の広範囲な炎症性の免疫応答につながることが示唆される
コロンビア大学メディカルセンター(CUMC)を中心とした今回の研究は、学術誌のGut誌で報告される


「我々の研究は、この病態の人々によって報告されている症状が想像上の産物imaginedではないことを示す」
共著者co-authorのPeter H. Green, MDは言う
彼はCUMCでPhyllis and Ivan Seidenberg Professor教授職であり、セリアック病センターのセンター長directorでもある

「患者はかなりの数が存在するが、彼らが示すそれらの症状には生物学的な基礎が存在することを実証する」


セリアック病は免疫系が誤って小腸の内層liningを攻撃する自己免疫疾患である
遺伝的に疾患の感受性がある人々が小麦wheatやライ麦rye、オオムギbarleyなどからグルテンを摂取した後に起きるもので、胃腸に広範囲の症状、例えば腹痛abdominal pain、下痢diarrhea、膨満bloatingなどを示す

しかし、セリアック病であることを示す血液・組織・遺伝子マーカーを持たない人々の中に、小麦類の摂取後にセリアック病のような胃腸症状を経験する人たちがいる
加えて彼らは胃腸以外の症状、例えば疲労fatigue、認知的困難cognitive difficulty、気分障害mood disturbanceも示す
研究者たちは人々がなぜそのような症状を示すのかを突き止めようと奮闘してきたstruggle

この『非セリアック病グルテン小麦感受性/non-celiac gluten or wheat sensitivity (NCWS)』と呼ばれる病態の一つの説明として、やっかいな穀物offending grainsにさらされることが、どういうわけかsomehow、『厳密に局所的な腸の免疫応答』よりもむしろ『全身の急激な免疫活性化』の引き金を引くというものである

NCWSのバイオマーカーはこれまで存在しなかったために正確な有病率prevalenceというものは利用できないが、人口の約1パーセント、アメリカでは300万人が罹患していると推定されており、これはおおよそroughlyセリアック病と同じ有病率である


今回の研究でCUMCのチームはNCWSの患者80人を調査し、セリアック病の40人、健康な対照群の40人と比較した

セリアック病のグループでは疾患と関連する腸の損傷が広い範囲で見られたにもかかわらず、自然免疫の全身的な活性化/innate systemic immune activationを示す血液中のマーカーは上昇していなかった
このことはセリアック病患者の腸の免疫応答が 損傷した腸のバリアを通過するかもしれない微生物や微生物を構成する物質を中和neutralizeできており、『高度に免疫刺激的な分子』に対する全身の炎症性の応答が防がれていることを示唆する

NCWSのグループでは顕著に異なっていた
彼らの腸にはセリアック病で見られるような細胞傷害性T細胞/cytotoxic T cellsはいなかったが、腸の細胞の損傷を示すマーカーが見られ、それは急性の全身での免疫活性化を示す血清マーカーと相関した

この結果はNCWSでの全身的な免疫活性化が 微生物の構成物や食事の成分/microbial and dietary componentsの腸から血液循環への移動の増加と関連し、その理由の一部が腸の細胞の損傷や腸のバリアの弱体化によるものであることを示唆する


「全身的な免疫活性化モデルは、非セリアック病の小麦感受性を持つ人々で報告される症状が概して急速な始まりrapid onsetを示すことと一致するだろう」
研究を主導したArmin Alaedini, PhDは言う
彼はCUMCで内科学の助教授assistant professor of medicineである
彼はコロンビア大学のヒト栄養学研究所/Institute of Human Nutritionにも就任しており、セリアック病センターの一員でもある

研究では、6ヶ月間小麦類を排除した食事を守っていたNCWS患者は 免疫活性化ならびに腸細胞の損傷を示すマーカーのレベルが正常化することも明らかになった
加えて、それらのマーカーの変化と、詳細な質問票questionnaireで患者によって報告されていた腸と腸以外の症状の両方の著しい改善との間には関連が見られた

Alaedini博士は次のように付け加えた
「今回のデータは、将来我々がバイオマーカーの組み合わせを使って非セリアック病小麦感受性の患者を突き止め、治療への応答をモニターできるかもしれないという可能性を示唆する


CUMCと協力して研究に当たったイタリアのボローニャ大学の内科学教授、Umberto Volta, MDは次のように言う
「これらの結果は非セリアック病小麦感受性の我々の認識と理解にパラダイムシフトを起こすものであり、将来の診断と治療にとっておそらく重要な関連がありそうに思われる」

「この病態に多くの人々が罹患し、その健康への重大な負の影響を考慮すると、これはもっと注目されて資金をかけるに値する重要な調査領域である」

Alaedini博士と彼のチームはNCWSに関する将来の研究で 腸の損傷と上皮バリアの破れを引き起こす原因となるメカニズムを調査し、免疫細胞の応答の特徴をさらに調べようと計画している


http://dx.doi.org/10.1136/gutjnl-2016-311964
Intestinal cell damage and systemic immune activation in individuals reporting sensitivity to wheat in the absence of coeliac disease.
セリアック病の徴候はないが小麦への感受性を報告する人々における腸細胞の損傷と全身の免疫活性化


Abstract
小麦のグルテンや関連タンパク質は自己免疫の腸疾患enteropathy、つまりセリアック病を遺伝的に感受性のある人々に引き起こしうる
しかしながら、小麦の摂取に応じて広範囲な症状を経験しながらもセリアック病の特徴である血清学的・組織学的なエビデンスを示さない人たちがいる
そのような症状の病因やメカニズムは不明であり、バイオマーカーは何も特定されていない

我々は セリアック病ではない小麦への感受性が全身の免疫活性化と関連し、それが腸疾患enteropathyにつながる可能性があるのかどうかを突き止めることを目的とした


Design
研究の参加者には、小麦の摂取に応じた症状を報告しているがセリアック病やアレルギーの可能性は除外された人々と、セリアック病の患者、そして健康な対照群が含まれた
血清で分析したマーカーとしては、腸細胞の損傷と、微生物の成分への反応による全身の免疫活性化を示すものが調べられた


Results
小麦への感受性を持つ人々は、血清中の可溶性CD14、ならびに『リポ多糖結合タンパク質/lipopolysaccharide (LPS) -binding protein』のレベルが有意に上昇していた
細菌のLPSならびにフラジェリンflagellinに対する抗体の反応性antibody reactivityも同様に上昇した

また、腸上皮細胞の損傷を示すマーカーである『脂肪酸結合タンパク質2/fatty acid-binding protein 2 (FABP2) 』の循環レベルも有意に上昇していた
FABP2レベルの上昇は、微生物の産物microbial productsに対する免疫応答と相関を示した

小麦への感受性を持つ人々の内、小麦ならびに関連する穀物を除去した食事を遵守observeしていたサブグループでは、FABP2レベルならびに免疫活性化マーカーレベルは正常化する方向への有意な変化が存在した


Conclusions
これらの結果は、セリアック病ではないが小麦への感受性を経験するというサブ集団の人々に影響する 全身の免疫活性化状態に加えて、腸上皮の損傷を明らかにする



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通常のエンドトキシン血症では血清中のLPS濃度は摂食すると増加し、絶食すると減少するが、4週間の高脂肪食では血漿中のLPS濃度が2倍から3倍まで慢性的に増加することが判明した。我々はこのような慢性的なLPS増加を「代謝性エンドトキシン血症」と定義した。重要なことは、高脂肪食が腸においてLPSを持つ微生物の割合を増加させるということである。
CD14が変異したマウスは、LPS投与と高脂肪食により誘導される代謝性疾患の特徴のほとんどに抵抗した。



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セリアック病と小麦アレルギーのほかにもグルテンに反応する症例はあるが、それにはアレルギー的な、もしくは自己免疫的なメカニズムは、どちらも関わっていない。それらは一般にグルテン感受性(GS)として定義される。
ここで我々は、グルテン関連疾患の範囲を体系的に検討し、一般に知られている疾患の分類の欠落を補うために新しい用語体系を提案する。