機械翻訳2

興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

ニューロンのゴミ処理には機能するタウが必要

2016-07-31 06:06:22 | 
Tau, not amyloid-beta, triggers neuronal death process in Alzheimer's, new research shows

November 1, 2014

https://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141101173217.htm

ジョージタウン大学メディカルセンター/Georgetown University Medical Center (GUMC) の新たな研究によると、アルツハイマー病のような疾患でニューロンの細胞死を刺激するために大きな影響力を持つイベントseminal eventなのはアミロイドベータのプラークではなく、タウタンパク質であることが示されたという
この研究はMolecular Neurodegeneration誌のオンライン版で発表された


ニューロンの細胞死はニューロンの中に存在するタウが機能しなくなった時に起きる
タウの役割はニューロンの内部に線路train trackのような構造を供給することであり、この構造によって細胞は 不要で有害なタンパク質の蓄積物を除去できるようになる

「タウに異常が起きると、アミロイドベータを含む有害なタンパク質がニューロン内部に蓄積する」
研究の首席調査員senior investigator、Charbel E-H Moussa, MB, PhDは言う
彼はGUMCで神経学の助教授assistant professorである

「細胞は細胞外の空間へ、できるだけas best they canタンパク質を吐き出し始め、細胞内で有害な影響を発揮できないようにする
アミロイドベータは粘着性stickyなので、互いに凝集してプラークを形成する」


Moussaによると、細胞を破壊するのは『放出されずにニューロン内部に残ったアミロイドベータ』であり、細胞外に形成されるプラークではないことが研究からは示唆されるという

「タウが機能しないと、細胞はがらくたgarbageを除去できない
その時点での『がらくた』にはアミロイドベータや機能しなくなったタウのもつれが含まれ、やがて細胞は死ぬ
死んだニューロンから放出されたアミロイドベータは、形成されつつあったプラークにくっつくstick」

動物モデルでの実験では、タウが機能していると細胞外に蓄積するプラークが少なく、タウを持たないニューロンに再びタウを挿入するとプラークは育たなかった


タウの機能不全は、遺伝子の異常や加齢を通じて起きる可能性がある
個々人が年を取るにつれてタウの中には機能不全を起こすものがあり、一方でがらくたの除去を助ける正常なタウも十分に残っているような場合、ニューロンは死なないとMoussaは言う

「プラークは蓄積しているが認知症はまったくない年老いた人々という混乱させる臨床的な観察は、それで説明できる」


Moussaは長い間、ニューロンに強制的にがらくたを除去させるような方法を探してきた
彼は今回の研究で抗癌剤のニロチニブがこのプロセスを手助けしうることを示す
ニロチニブはニューロンががらくたを除去するのを助けるが、しかしそれには機能するタウがいくらかは必要だと彼は言う

「ニロチニブは、機能しないタウよりも機能するタウの割合が高ければ作用することができる」
Moussaは言う

「タウが機能しない一方でプラークは蓄積しないような認知症、例えばパーキンソン症候群と関連する前頭側頭型認知症/frontotemporal dementia(FTD)のような疾患は多い
それらに共通する元凶culpritはタウであり、タウの仕事を助ける薬剤は疾患の進行から脳を保護するのを助けるかもしれない」


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25384392
Tau deletion impairs intracellular β-amyloid-42 clearance and leads to more extracellular plaque deposition in gene transfer models
タウの削除は細胞内のベータアミロイド42の除去を損ない、遺伝子導入モデルにおける細胞外プラークの蓄積につながる


Abstract

背景:
タウは軸索axonalのタンパク質であり、微小管に結合してその機能を調節する
タウの過剰なリン酸化は微小管への結合を低下させ、アルツハイマー病におけるベータアミロイドの蓄積depositionと関連する

逆説的だが、タウの減少はベータアミロイド病理を防ぎ、タウは細胞内Aβの除去を仲介する

今回の研究では、Aβ1-42のオートファジーによる除去ならびにプロテオソームによる除去におけるタウの役割を調査し、その後に起きるプラーク蓄積への影響を調べた


結果:
タウの消去はオートファジーを介するAβ除去を損なったが、プロテオソームによる除去は損なわれなかった

Tau-/-マウスに 野生型のヒトのタウを導入したところ、オートファジーによるAβ除去は部分的に回復した
このことは、外因的exogenousなタウ発現がオートファジーによるAβ1-42の除去を補助しうることを示唆する

タウの消去はオートファジーの流れを損ない、リソソーム前オートファジー空胞/pre-lysosomal autophagic vacuoleにおけるAβ1-42蓄積という結果になり、リソソーム内へのAβ1-42の蓄積depositionに影響した

Tau-/-マウスにおけるこのオートファジーの機能不全は細胞内Aβ1-42の減少ならびにプラーク負荷の増加と関連し、マウスは細胞死の減少を示した(細胞外プラークは増えたが細胞死は減少した)

Ablチロシンキナーゼ阻害剤のニロチニブはオートファジー除去メカニズムを促進し、Tau-/-マウスにヒトのタウを発現させた時のみAβ1-42を減少させた


結論:
タウの消去は細胞内Aβ1-42の除去に影響し、細胞外プラークにつながることをこれらの結果は実証する



関連記事
http://newsroom.cumc.columbia.edu/blog/2015/12/21/improving-brains-garbage-disposal-may-slow-alzheimers-disease/
タウはプロテアソームに接着してタンパク質分解を遅くするが、抗鬱剤として使われるロリプラムはcAMP-PKAを介してプロテアソーム機能を促進する




<コメント>
「タウはプロテアソームを阻害する」
「タウはオートファジーに必要」

 

抗癌剤でアルツハイマー病を治療する

2016-07-30 06:06:47 | 
More evidence in quest to repurpose cancer drugs for Alzheimer's disease

July 27, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160727100824.htm

腎細胞癌の治療用としてFDAに承認された薬剤は、アルツハイマー病とパーキンソン病の認知症と関連する脳内の有害なタンパク質のレベルを動物モデルで減少させるようである
この発見はジョージタウン大学メディカルセンター/Georgetown University Medical Center (GUMC) のトランスレーショナル神経治療プログラム/Translational Neurotherapeutics Program(TNP)で実施された最新の研究によるもので、研究者たちは神経変性疾患の治療におけるチロシンキナーゼ阻害剤/tyrosine kinase inhibitorsの効果について調査している

トロントで開催される国際アルツハイマー病会議/Alzheimer's Association International Conference(AAIC 2016)で発表される今回の研究では、パゾパニブpazopanibという薬剤が 脳全体でヒトのタウ変異体mutant tauを作るように遺伝子を操作した動物モデルにおいて リン酸化タウ/phosphorylated Tau (p-Tau)のレベルを低下させることが明らかになった

TNPのラボは以前、タウが『廃棄物処理システム/garbage disposal system』の重要criticalな一部であることを動物モデルで実証し、このシステムによって動物は蓄積した有害なタンパク質を除去できるようになる
ヒトにおいてリン酸化タウは異常な修飾を受けたタウであることを示し、修飾されたタウは『仕事』の実行が不可能なままになる

GUMCの薬理学博士号取得候補者doctoral candidateであるMonica Javidniaが次のように説明する
「我々のラボは、機能するタウがアミロイドベータ(Aβ)の除去clearanceに必要であることを以前示している
アミロイドベータは蓄積してプラークという粘着性の凝集塊sticky clumpsを形成する
もしタウが機能しなくなると、アミロイドベータが蓄積して細胞死につながる」

「タウが異常な修飾を受けるとニューロン内部で粘着性のもつれsticky tanglesを形成し、細胞が死ぬと修飾されたタウとアミロイドベータは脳内にまき散らされるspill out
これらがアルツハイマー病の特徴であるプラークともつれである」

リン酸化したタウは他の神経変性疾患にも関与している(FTDなど)


TNPによる以前の研究では、チロシンキナーゼが阻害されると廃棄物処理システムが働き始めて、細胞は再び有害なタンパク質を除去できるようになることが示されている
そしてパゾパニブはチロシンキナーゼ阻害剤であることが知られている

TNPはCharbel Moussa, MD, PhDを中心とする研究で複数のチロシンキナーゼが神経変性疾患やタンパク質除去、炎症などに関与するようだということを突き止めており、その研究が抗癌剤のニロチニブによるパーキンソン病とアルツハイマー病での今夏の臨床試験につながっている
(Moussaは、ジョージタウン大学が出願したニロチニブなどチロシンキナーゼ阻害剤の神経変性疾患への使用に関する特許の考案者として発表されているlisted as an inventor)

※file an application for a patent on~: ~の特許を出願する


アルツハイマー病の分野では、主な原因がタウなのかアミロイドベータなのかという2つの学派が存在するとJavidniaは説明する
「我々のラボや他のグループの研究ではタウ病理がアミロイドベータに先行することが示されている
我々は認知症の主な原因がタウで、タウがアミロイドベータ病理を悪化させると考えている
しかしながら、我々はどのようにしてパゾパニブが作用するのか、それがどんな病気の治療として潜在的に使えるのかをさらに理解するため、パゾパニブのアミロイドベータへの影響も研究している」


Javidniaによると、今回の研究での分析ではパゾパニブは腎細胞癌の治療で投与される用量の半分に相当する量でマウスの血液脳関門(BBB)を通過することが示されたという
治療後の動物モデルはリン酸化タウレベルの著しい低下を示した

「加えてこの薬剤は安全であり、十分な忍容性があるwell-tolerated」
Javidniaは言う

「我々の次の研究ではパゾパニブが標的にする受容体のそれぞれに焦点を当て、タンパク質除去と炎症におけるそれら受容体の役割をさらに理解すべく研究を進める予定である」



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160216142835.htm
ノルエピネフリンを脳全体に分泌する青斑にはタウのもつれによる病理が真っ先に現れる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/6dcaf6ed70f9d942cb066045b0d029cb
ニロチニブはパーキンソン病で低下したドーパミンを回復する

>脳脊髄液中の細胞死のマーカーを示すタウなどのレベルが著しく低下していた
>これはニューロンの細胞死が減少したことを示唆する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/2f69e68999aaf91e1daa22758545d605
タウの凝集による核膜の乱れが脳細胞を殺す



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/2eed1af5a640a3c03687d4ce78607041
Aβの蓄積と病理学的なタウ変換が両方とも必要なマウスモデル



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/04/160420120601.htm
Aβとリン酸化タウは両方ともアルツハイマー病の早期から代謝の低下に関与する
 

LRRK2の突然変異は微小管による軸索輸送を阻害する

2016-07-28 06:06:02 | 
Effects of high-risk Parkinson's mutation are reversible, study in animal model suggests

October 15, 2014

https://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141015090446.htm


(A microscope image of a cultured cell.

Credit: Image courtesy of University of Sheffield)

シェフィールド大学の研究者は、パーキンソン病の遺伝的な原因としては最も一般的なLRRK2によって引き起こされる影響についての重要な証拠を新たに発見した
今回の研究結果は、そのような影響を標的として無効化する方法を明らかにする可能性がある


LRRK2という遺伝子の突然変異はパーキンソン病のリスクをもたらすことが確立well-establishedされているが、そのつながりの根本となる部分についてはわかっていなかった

シェフィールド神経科学部のKurt De Vos博士と生物医科学部のAlex Whitworth博士を中心としたチームは Parkinson's UKの出資による研究の中で、LRRK2のRoc-CORドメインにパーキンソン病と関連する突然変異を持たせたショウジョウバエで観察される運動障害movement problemsを 特定の薬剤によって完全に回復できることを明らかにした

薬剤は脱アセチル化酵素阻害剤deacetylase inhibitorsというもので、輸送システムを標的とすることによって 神経細胞内のLRRK2変異体によって引き起こされる欠陥を回復reverseした
この研究は本日(2014年10月15日)Nature Communications誌で発表された


世界有数world-leadingの研究所、シェフィールド神経科学トランスレーショナル研究所/Sheffield Institute of Translational Neuroscience (SITraN) でトランスレーショナル神経科学の講師LecturerであるDe Vos博士は言う

「我々の研究は、
神経細胞内部の輸送の欠陥defective transportと
パーキンソン病と関連するLRRK2変異体によってショウジョウバエで起きる運動障害movement problemsとの間には
直接のつながりが存在するという説得力のあるcompellingエビデンスを提供する」


共同研究者co-investigatorのAlex Whitworth博士が次のように説明する
「我々はLRRK2変異によって起きるニューロン輸送の欠陥が可逆的reversibleであることも示す
我々は薬剤で輸送系transport systemを標的とすることにより運動障害を防ぐことができただけでなく、上昇能力ならびに飛行能力が著しく低下することを特徴とする運動障害impaired movementを既に示していたショウジョウバエにおける運動能力を完全に回復した」


LRRK2遺伝子は細胞内の数多くのプロセスに影響するタンパク質を作り出す
LRRK2は細胞の輸送路transport trackである微小管microtubuleにも結合することが知られ、この輸送システムにおける欠陥はパーキンソン病に寄与することが示唆されてきた
シェフィールドの研究者たちはこの二つのつながりを調査し、LRRK2の特定の変異が神経細胞の輸送に影響してショウジョウバエの運動障害につながるという証拠を発見した

研究チームは次に、LRRK2変異体タンパク質の微小管輸送システムへの結合associationを防ぐことによって神経細胞の輸送系の欠陥を回復rescueし、ショウジョウバエの運動障害movement deficitsから解放できることをいくつかのアプローチを用いて示した


De Vos博士は言う
「我々は脱アセチル化酵素阻害剤という薬剤を使って微小管microtubuleの中でアセチル化したα-チューブリンα-tubulinを増加させることに成功した
アセチル化したα-チューブリンはLRRK2タンパク質の変異体とは結合しない
微小管のアセチル化の増加は細胞の軸索輸送axonal transportに直接影響することを我々は明らかにした」

※軸索輸送にはATPが必要

「これらは潜在的なパーキンソン病の治療を指し示す非常に有望な結果である
しかしながら、この回復効果がヒトにも当てはまるかを確かめるためにはさらなる研究が必要である」


Beckie Port博士(出資を手助けしたParkinson's UKのResearch Communications Officer)は言う
「この研究は遺伝子に特定の変異を持つ人々にとって、いつの日かパーキンソン病の進行に介入して止める治療法の開発につながるかもしれないという希望を与える
しかし研究はショウジョウバエで実施されているに過ぎず、この発見が新たな治療のアプローチにつながりうるかどうかを知るためにはもっと多くの研究が必要である」


http://dx.doi.org/10.1038/ncomms6245
Increasing microtubule acetylation rescues axonal transport and locomotor deficits caused by LRRK2 Roc-COR domain mutations.


Abstract
ロイシンリッチリピートキナーゼ2/Leucine-rich repeat kinase 2 (LRRK2; ラーク2) の突然変異は、パーキンソン病の最も一般的な遺伝的原因である
LRRK2は多機能なタンパク質であり、微小管にも結合することが記述されている
微小管をベースとする軸索輸送の欠陥がパーキンソン病に寄与すると仮説が立てられているが、このプロセスにLRRK2の変異が影響して病理発生pathogenesisを仲介するのかどうかは不明である

今回我々は、Roc-CORドメインに病原性の突然変異 (R1441C, Y1699C) を持つLRRK2が優先的/選択的preferentiallyに『脱アセチル化された微小管』に結合し、初代ニューロンprimary neuronならびにショウジョウバエの軸索輸送を阻害して、in vivoで運動障害locomotor deficitsを引き起こすことを示す

in vitroでは、脱アセチル化酵素阻害剤deacetylase inhibitorsを使って微小管のアセチル化を増加させるか、チューブリンアセチル化酵素αTAT1はLRRK2変異体と微小管との結合を防ぎ、
脱アセチル化酵素阻害剤deacetylase inhibitorのトリコスタチンA/trichostatin A (TSA) は軸索輸送を回復する

in vivoでの脱アセチル化酵素deacetylasesのHDAC6ならびにSirt2のノックダウン、またはTSAの投与は、軸索輸送ならびに運動的振る舞いlocomotor behaviorを両方とも回復する

したがって、この研究はパーキンソン病の病原性メカニズムpathogenic mechanismならびに潜在的な介入法を明らかにするものである


Introducion
LRRK2で同定されている優性dominantの突然変異
・Ras of complex (Roc) GTPアーゼタンパク質ドメイン (R1441C, R1441G, R1441H)
・Rocカルボキシル末端 (COR) ドメイン (Y1699C)
・キナーゼドメイン (G2019S, I2020T)

RocドメインとCORドメインの突然変異はGTPアーゼ活性を低下させるが(6, 7、G2019Sの突然変異はキナーゼ活性を上昇させる(6, 8, 9

LRRK2の突然変異がどのようにして有害になるのかは不明だが、しかしおそらくLRRK2の生理的機能の中には軸索の完全性axonal integrityの維持が含まれる
事実、LRRK2の過剰発現は神経突起neurite(軸索と樹状突起)の短縮を引き起こす一方で、マウスニューロンにおけるLRRK2の機能喪失はニューロン突起neuronal processesの伸長ならびに分岐の増加という結果になる(10, 11, 12, 13
 

白血病の癌幹細胞は脂肪組織に隠れる

2016-07-26 06:06:18 | 
Cancer stem cells in 'robbers cave' may explain poor prognosis for obese patients

July 20, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160720132343.htm


(癌幹細胞は脂肪組織に隠れ、しかも脂肪組織の性質を変化させて化学療法に抵抗できるようにする

Credit: University of Colorado Cancer Center)

様々な種類の癌で肥満の患者は痩せている人よりも悪い結果になるfare worseが、それについてコロラド大学がんセンターは説得力のあるcompelling研究をCell Stem Cell誌で発表した
それによると、白血病の幹細胞leukemia stem cellsは脂肪組織に『隠れ』、化学療法に耐えられるよう生存をサポートさせるのだという
それはまるで白血病幹細胞が治療から隠れるために脂肪組織を『盗賊の洞窟/robbers' cave』として使うだけでなく、その洞窟を彼らの好みに合うように積極的に改造adapt this cave to their likingするかのようである

「癌は幹細胞から生じるということが最近ますます認識appreciateされるようになっており、癌幹細胞を殺すことに失敗すると再発につながりうると考えられている
また、研究者たちは周囲の組織の重要性についても認識appreciateするようになった
それは『ニッチniche』または『腫瘍微小環境tumor microenvironment』と呼ばれ、癌幹細胞をサポートする
白血病leukemiaでニッチとして明白なのは骨髄だが、その他の組織についてはこれまであまり注意が払われてこなかった
今回の研究は腫瘍をサポートするニッチとして脂肪組織adipose tissueを初めて評価する一つである」
コロラド大学がんセンターの研究者、Craig Jordan, PhDは言う
彼はコロラド大学医学部の血液学でNancy Carroll Allen Professor教授職でもある


Jordanは、筆頭著者のHaobin Ye, PhDによる『独特originalで洞察に満ちたinsightful』論理の道筋line of reasoningが 今回の研究にとってどれほど必要だったかについて述べている

一つ、「肥満の白血病患者は予後が悪い」
二つ目、「幹細胞は増殖のドライバであり、治療に抵抗し、白血病の再発を生じさせる」
三つ目、「腫瘍の微小環境は癌幹細胞にとって重要である」

肥満、幹細胞、腫瘍微小環境、この三つが交わる交差点は脂肪組織である
では、脂肪組織の幹細胞は肥満の患者の予後の悪さの原因になりうるだろうか?


研究グループはまず白血病マウスモデルの脂肪組織で見つかる癌細胞を調べることから始めた
すると、普通の癌細胞と癌幹細胞の混合したものが見つかるだろうという予想に反して、脂肪組織からは癌幹細胞が豊富に見つかったenriched
そこには『ケチなコソ泥sneak-thief』は一人もおらず、癌幹細胞という『大泥棒master thief』が脂肪組織を『盗賊の洞窟/robbers' cave』のように利用していたのである

さらに、脂肪組織には不釣り合いにdisproportionately高い割合の幹細胞が存在していただけでなく、これらの幹細胞は骨髄微小環境の幹細胞とは異なるエネルギー源を使用していた
適切なことにappropriately、脂肪組織にいた幹細胞は脂肪酸によって生存と増殖を強めておりpower、エネルギーは脂肪酸の酸化によって製造していた
事実、これらの脂肪組織にいた幹細胞は脂肪に対して積極的にシグナルを送ることで脂肪分解lipolysisというプロセスを実行させ、脂肪酸を微小環境にリリースさせていた

※appropriate: adj「適切である」、v.t.「無断占用する」

「この基礎生物学basic biologyは魅力的fascinatingである
腫瘍は局所的な環境local environmentを自らに適したように改造adaptしていたのだ」
Jordanは言う


最後に、研究グループが脂肪組織にいる幹細胞に化学療法を実施すると、エネルギー源を脂肪酸に切り替えていた幹細胞は脂肪組織の外側の幹細胞よりも化学療法に抵抗性であることが判明した
YeとJordanたちがヒトの白血病サンプルを検討したところ、マウスモデルと似たような特徴、つまりエネルギー源として脂肪酸を使うように特化した細胞は化学療法に対してさらに抵抗性であることが明らかになった

「おそらく、化学療法で脂肪組織にいる幹細胞を殺すのは骨髄の幹細胞よりも難しいかもしれない」
Yeは言う


この仮説がさらなる研究で実証bear outされれば、肥満の患者の方が予後が悪いという事実を説明する助けとなる可能性がある

研究グループは肥満の度合いに変化をつけたマウスモデルでの研究の継続を計画しており、脂肪組織が多いほど癌幹細胞へのエネルギーが多く生じるのかどうか、または治療を回避する癌幹細胞のための『盗賊の洞窟』が大きくなるのかどうかを潜在的に調べることになるだろうという


http://dx.doi.org/10.1016/j.stem.2016.06.001
Leukemic Stem Cells Evade Chemotherapy by Metabolic Adaptation to an Adipose Tissue Niche.



Highlights
・生殖腺脂肪組織/gonadal adipose tissue (GAT) は、白血病幹細胞/leukemic stem cells (LSCs) のリザーバーreservoirとして働く
・白血病細胞とGATとの間の相互作用は、白血病細胞の脂肪酸代謝に燃料を供給するfuel
・CD36は、LSCsを代謝的かつ機能的に異なる2つのサブセットに分けるsegregates
・GATは、CD36陽性のLSCsのために化学療法への抵抗性を与えるニッチnicheをもたらす


Summary
以前、脂肪組織/adipose tissue (AT) は 正常な造血幹細胞/hematopoietic stem cells (HSCs) のための 髄外extra-medullaryのリザーバーであり、腫瘍の発達も促進する可能性が突き止められている

今回我々は白血病幹細胞のサブ集団が生殖腺脂肪組織(GAT)を代謝を支えて化学療法を回避するためのニッチとして利用しうることを示す

急性転化/芽球クリーゼblast crisisした慢性骨髄性白血病/chronic myeloid leukemia (CML) のマウスモデルにおいて、脂肪組織に存在するLSCsは炎症促進性の表現型pro-inflammatory phenotypeを示し、GATの脂肪分解lipolysisを誘導する
GATの脂肪分解はLSCsの脂肪酸酸化に燃料を供給し、特に脂肪酸トランスポーターのCD36を発現するサブ集団内部ではそうである
CD36陽性のLSCsは独特な代謝的性質を持ち、脂肪組織で著しく豊富であり、GAT微小環境によって化学療法から保護される
また、ヒトの急性転化CMLの一部ならびに急性骨髄性白血病/acute myeloid leukemia (AML) 細胞で 同様の生物学的な特徴として共通するのはCD36である

これらの発見は、明確に異なる白血病幹細胞サブ集団の代謝的な需要ならびに生存を支えるための独特の微小環境を作り出す 白血病細胞と脂肪組織との間の印象的な相互作用を示唆している


Results
白血病の生殖腺脂肪組織(GAT)では、脂肪分解を負に調節する因子である『リポ蛋白質リパーゼ/lipoprotein lipase(LPL)』 ならびに 細胞死を活性化する因子である『CIDE-A (CIDEA)』の発現が低下していた (Figures 3C and 3D)

LPLは脂肪細胞の遊離脂肪酸(FFAs)の流入を制御し (Ebadi and Mazurak, 2014)、
CIDEAは脂肪滴/lipid droplet (LD) と結合するタンパク質であり、リパーゼからLDを保護し、したがって脂肪分解を阻害する (Nordström et al., 2005)

 LPL,CIDEA─┤脂肪分解

Figures 3EとS3Bで示したように、TNF-α、IL-1α、IL-1β、CSF2は脂肪分解を誘発することが可能である
さらに、これら4つのサイトカインは GATの体外培養explantならびに3T3-L1脂肪細胞におけるLPLとCIDEAの発現を 両方とも低下させる (Figures 3F and S3C)

 TNF-α,IL-1α,IL-1β,CSF2↑─┤LPL,CIDEA↓─┤脂肪分解↑

上記の炎症性サイトカインに加えて、脂肪酸はそれ自体が強力な炎症促進性の物質pro-inflammatory agentであることにも我々は言及する (Snodgrass et al., 2013)


Reference
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15919794
A human-specific role of "cell death-inducing DFFA (DNA fragmentation factor-alpha)-like effector A (CIDEA)" in adipocyte lipolysis and obesity.
脂肪細胞の脂肪分解ならびに肥満におけるCIDEAのヒト特異的な役割

http://diabetes.diabetesjournals.org/content/54/6/1726.long
Figure 6
ヒト脂肪組織におけるCIDEAとTNF-αとの間のクロストーク


TNF-αは、MAPKsのp44/42とJNKを介して基礎的な脂肪細胞の脂肪分解を刺激し、JNKを介してCIDEAの発現を阻害する
CIDEAはTNF-αの分泌を阻害するが、それはTNF-αが転写された後のメカニズムによる




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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/06/160629221742.htm
悪性神経膠腫の呼吸と増殖には脂肪酸の酸化が必要



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160512084551.htm
MYCをドライバとするトリプルネガティブ乳癌では脂肪酸の酸化が上方調節される



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/fc78a587666f5d741b6289fb57c367f2
腫瘍へと変化する幹細胞にとってミトコンドリアの代謝経路はエネルギー源であり、NANOGは細胞を再プログラムして燃料としてグルコースの代わりに脂肪酸を使うように命令する



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https://www.sciencedaily.com/releases/2015/04/150413130526.htm
メラノーマは周囲の細胞を「BRAF阻害剤からの避難所」として利用する



関連記事
http://ta4000.exblog.jp/18404873/
脂肪酸輸送タンパク質のCD36は、骨格筋への脂肪酸の取り込みを促進する



参考サイト
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3545.html
>実は、がん細胞はブドウ糖しかエネルギー源として使えないことがわかっているのです。

はぁ?
 

LDL/アポEとアルツハイマー病の関係が明らかにされる

2016-07-24 06:06:35 | 
Three Alzheimer's genetic risk factors linked to immune cell dysfunction

July 20, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160720122834.htm


(共焦点顕微鏡confocal microscopeによる画像
細胞は緑色で、それらの細胞に取り込まれたリポタンパク質は赤色で示されている
TREM2の野生型(WT)の細胞と比べて、TREM2の変異体mutantであるY38C、R47H、R62Hを持つ細胞はリポタンパク質をそれほど取り込んでいない

Credit: Felix Yeh, PhD, et al.)

TREM2に特定の変異を持つ人はアルツハイマー病を発症するリスクが高い
しかし、研究者たちはその理由を理解し始めたばかりである

Genentech社の研究によって、ある免疫細胞がどのようにして凝集したアミロイドベータの除去を助けるのかについての詳細が明らかにされた
アミロイドベータは互いに凝集し、アルツハイマー病の特徴であるプラークを形成する可能性がある


7月28日Neuron誌での彼らの報告によると、TREM2の変異は免疫細胞のプラークを除去する活性を狂わせるのだというderail
これは既にアルツハイマー病のリスクを増すことが知られている2つの遺伝子、APOEならびにAPOJ(クラステリン/clusterin)と同様である

※クラステリン/clusterin: アポリポタンパク質J(APOJ)。ヘテロ二量体の分泌型糖タンパク質。脂質輸送だけでなく、アポトーシスなど多くの生理的過程に関わる

「私はTREM2がやっていることのほんの一部に触れたに過ぎないと考えている」
論文の首席著者senior authorであり、ジェネンテック社/Genentechの神経科学で副部長Vice-PresidentのMorgan Shengは言う


健康な人の脳ではミクログリアという免疫細胞が脳内をパトロールしていて、潜在的な脅威を取り囲んで飲み込んでいる

5月に発表された研究では、TREM2遺伝子に変異を持つマウスのミクログリアはアミロイドの沈着amyloid depositsをうまく取り囲むことができないことが判明した (DOI: 10.1016/j.neuron.2016.05.003). (※)

http://dx.doi.org/10.1016/j.neuron.2016.05.003
"TREM2 Haplodeficiency in Mice and Humans Impairs the Microglia Barrier Function Leading to Decreased Amyloid Compaction and Severe Axonal Dystrophy"

TREM2遺伝子はミクログリア細胞表面の受容体タンパク質をコードし、特定の分子がTREM2に結合するとミクログリアの活性を刺激できることが既に知られている

今回のShengたちの研究ではバイアスのないマイクロアレイによる タンパク質のスクリーニングを実施し、
1,559の細胞外タンパク質の内どれがTREM2に結合して相互作用する可能性があるのかを調査した

分析の結果、リポタンパク質の中でも特にLDL (low density lipoprotein) とアポリポタンパク質のAPOEとAPOJがTREM2に結合することが明らかになった
APOEとAPOJはどちらもアルツハイマー病のリスク因子である

「リポタンパク質は血液中に存在し、その目的はコレステロールや脂質を細胞から細胞へと運ぶことだ
そしてよく知られるように過剰なLDLは高コレステロールや、心血管疾患のリスク上昇と関連する」
Shengは言う

「リポタンパク質は脳内にも存在するが、その脳での役割についてはほとんど理解されていなかった」

マウスから精製purifiedした細胞を使ってミクログリアが様々な状況でどのようにしてアミロイドベータの凝集物に対して反応するのかを調べた結果、
LDLとAPOJが存在するとミクログリアのアミロイドベータを飲み込む効率はさらに上昇し、
その理由はリポタンパク質がアミロイドベータ凝集物と複合体を形成するためであることが明らかになった
そしてミクログリアによるリポタンパク質-アミロイドベータ複合体の取り込みは、TREM2に依存していた

「遊離した裸のアミロイドベータ凝集物よりも、リポタンパク質複合体と結合した方がはるかに効率的に飲み込まれるというのは驚きだった」
Shengは言う


別の実験で彼らはボランティアからの血液サンプルを集め、
TREM2遺伝子の多様体variantsが細胞によるリポタンパク質-アミロイドベータの扱い方をどのように変えるのかテストした
ボランティアの脳内からミクログリアは得られなかったので、研究者たちはマクロファージの細胞表面にあるTREM2について調べた
マクロファージはミクログリアと似た免疫細胞で、血液中から取り出すことが可能である

実験の結果、アルツハイマー病と関連するTREM2の多様体variantを持つ人のマクロファージは、リポタンパク質-アミロイドベータ複合体を飲み込む能力が低いことが明らかになった
さらに、この能力低下にはTREM2遺伝子の多様体のコピーが(2つではなく)1つだけで十分だということも判明した


「全体的に見て、これらの研究結果は、アルツハイマー病の病理発生においてミクログリアが重要な役割を演じるという方向性をさらに指し示すものだ」
Shengは言う

Shengは、TREM2のリポタンパク質-アミロイドベータを除去する作用が今回のような培養皿での実験を越えて将来の研究で確認されることを望んでいる


http://dx.doi.org/10.1016/j.neuron.2016.06.015
TREM2 Binds to Apolipoproteins, Including APOE and CLU/APOJ, and Thereby Facilitates Uptake of Amyloid-Beta by Microglia.
TREM2はAPOEとCLU/APOJを含めたアポリポタンパク質に結合し、それによってミクログリアによるアミロイドベータの取り込みを促進する


Video Abstract
http://www.cell.com/cms/attachment/2062189975/2063774068/mmc4.mp4



関連サイト
http://dx.doi.org/10.1016/j.neuron.2016.05.003
Haplodeficiency in Mice and Humans Impairs the Microglia Barrier Function Leading to Decreased Amyloid Compaction and Severe Axonal Dystrophy
マウスとヒトにおいてTREM2ハプロ不全はミクログリアのバリア機能を損ない、アミロイド圧縮の減少ならびに重度の軸索萎縮につながる



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/7c164e3a90679c635d0d2d5aaf92717a
ミクログリアは放出された脂質をTREM2によって感知してAβの周りに集まる



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/b17271081045552783a35515421b8015
脳内のコレステロール排出が認知症に重要



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/adac22c976bba78be3239de9833a3cbf
アポE4は転写因子として働き、その標的はサーチュイン、加齢、インスリン抵抗性、炎症と酸化によるダメージ、アミロイドプラークの蓄積、タウのもつれと関連する遺伝子である
 

LRRK2の突然変異は封入体の形成を促進する

2016-07-22 06:06:08 | 
Discovery may lead to a treatment to slow Parkinson's disease

July 19, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160719173458.htm


(Primary hippocampal neurons from mice express G2019S-LRRK2. The neurons were treated with alpha-synuclein fibrils,
and 18 days later immunofluorescence was performed.

The magenta shows phospho-alpha-synuclein inclusions in the cell bodies and throughout the axons, which are visualized as green.

Credit: UAB)

アラバマ大学バーミングハム校の研究者たちは、しっかりしたrobustパーキンソン病モデルを使ってニューロンの中の相互作用を明らかにした
その相互作用はパーキンソン病の一因となるもので、研究者らは現在開発中の薬剤がそのプロセスを停止させる可能性を示した
研究の中心となったのは責任著者corresponding authorのLaura A. Volpicelli-Daley, Ph.D.と首席著者senior authorのAndrew B. West, Ph.D.で、
彼らはUAB神経学部の神経変性実験治療学センター/Center for Neurodegeneration and Experimental Therapeuticsのメンバーである

研究チームは、パーキンソン病で最も一般的に見られる遺伝的な原因であるLRRK2キナーゼの変異体がニューロンの封入体形成の一因であることを示した
この封入体はパーキンソン病で観察される特徴の一つに似たものだった

封入体は凝集したα-シヌクレインタンパク質からできており、その形成は2つのLRRK2キナーゼ阻害剤によって阻止が可能であることを研究者は示した
それらは臨床での利用を目指して現在開発されている薬剤である


「LRRK2キナーゼの変異体とα-シヌクレインとの間の相互作用を突き止めることは、神経を保護するための新たなメカニズムと標的を明らかにするかもしれない」
最近Journal of Neuroscience誌で発表された論文で研究者らは言う

「今回の研究結果は、ニューロンのα-シヌクレイン封入体形成が阻止可能であり、このプロセスを標的とする新規の治療用化合物がLRRK2キナーゼ活性を阻害することによりパーキンソン病と関連する病理の進行を遅くする可能性を実証する」


LRRK2と関連するパーキンソン病において新しい神経保護戦略を潜在的に臨床応用するには、パーキンソン病の他の前臨床モデルでテストされる必要があると研究者は言う

「これらのデータは我々にLRRK2阻害剤がパーキンソン病の効果的な治療法としての臨床的な潜在性を持つという希望を与える」
Volpicelli-Daleyは言う

「LRRK2キナーゼ阻害剤は、LRRK2に突然変異を持つ患者だけでなくすべてのパーキンソン病患者で病的なα-シヌクレインの拡散を阻害するかもしれない
しかしながら、ヒトの臨床試験で阻害剤をテストする前に、LRRK2阻害剤の安全性と効能を確認するための研究が将来必要だろう」

α-シヌクレインはパーキンソン病だけでなくレヴィ小体認知症や多系統萎縮症で重要な役割を演じ、アルツハイマー病など他の神経変性疾患にも関与する


研究の詳細
Research Details

Volpicelli-Daleyによって開発されたパーキンソン病モデルに対して、既に形成されたα-シヌクレインの原繊維fibrilsを非常に低濃度で in vitroまたはin vivoで ニューロンに投与した
これにより修飾modifiedされたα-シヌクレイン封入体が形成され、この封入体はパーキンソン病患者の死後の脳で見られるものと形態と構造morphologyを共有する

彼らはこのモデルを使い、LRRK2キナーゼ変異体(G2019S-LRRK2)をニューロンに発現させ、封入体病理形成に対する影響をテストした

発見された内容は以下のようなものだった

・脳の海馬領域から得られた海馬ニューロンの初代培養において、
正常なLRRK2を過剰発現する海馬ニューロンと比較して G2019S-LRRK2のニューロンは 原繊維にさらしてから18日後のα-シヌクレイン封入体形成を促進した

・原繊維にさらされたニューロンにおけるG2019S-LRRK2発現の影響は、LRRK2キナーゼを阻害する強力かつ選択的な前臨床薬剤を非常に低濃度で投与することにより 減少した
このことは タンパク質にリン酸基を付加するG2019S-LRRK2のキナーゼ活性は 病理学的pathologicなα-シヌクレイン封入体の より早い形成の根底にあることを示唆する

・G2019S-LRRK2の発現は 黒質緻密部/substantia nigra pars compactaと呼ばれる脳領域から得られたドーパミンニューロンにおいて α-シヌクレインの封入体形成を促進した
黒質緻密部はパーキンソン病で細胞が死んでいく領域であり、今回の実験はG2019S-LRRK2の変異とパーキンソン病の病理発生pathogenesisとの間の関連をさらに支持するものだ

対照群controlとして、G2019S-LRRK2を発現するニューロンでアンチセンスオリゴヌクレオチドanti-sense oligonucleotideを使って内因性endogenousのα-シヌクレインをノックダウンしたところ、やはり封入体の形成は阻害された


蛍光退色回復法/fluorescence recovery after photobleaching(FRAP)の実験を実施したところ、
G2019S-LRRK2を発現するニューロンでは 膜に固定されたα-シヌクレインとは反対opposedに 移動性mobileのα-シヌクレインの大きなよどみ/プールpoolが存在することを発見した

他のグループによる最近の研究では移動性のα-シヌクレインは折りたたみに失敗misfoldingして凝集aggregationしやすいことが既に示されており、
研究者たちはG2019S-LRRK2の変異がニューロンの移動性α-シヌクレインの量を引き上げるboostことによってパーキンソン病の感受性に寄与するという仮説を立てている


http://dx.doi.org/10.1523/JNEUROSCI.3642-15.2016
G2019S-LRRK2 Expression Augments α-Synuclein Sequestration into Inclusions in Neurons.

病理学的な封入体はパーキンソン病(PD)を含めたα-シヌクレイノパチー/α-synucleinopathyの顕著な特性であるdefine
そしてPDの最も一般的な遺伝的原因はLRRK2キナーゼ活性を上方調節するG2019S LRRK2突然変異だが、α-シヌクレインとLRRK2、そしてα-シヌクレイン封入体形成との間の相互作用の詳細はいまだに不明である

今回我々は 培養ニューロンならびにラット黒質緻密部ドーパミン作動性ニューロンの両方で G2019S-LRRK2発現が α-シヌクレイン原繊維への曝露に応じて 内因性α-シヌクレインの封入体へのリクルートを増加させることを示す
これはG2019S-LRRK2変異体の発現によって生じたものであり、野生型-LRRK2を過剰発現させても封入体の形成は増加しなかっただけでなく、封入体の量は減少した

加えて、初代マウスニューロンにLRRK2キナーゼ阻害剤のPF-06447475ならびにMLi-2を投与したところ、G2019S-LRRK2の影響は阻止された
このことは、G2019S-LRRK2による封入体形成の増強potentiationがそのキナーゼ活性に依存することを示唆する

G2019S-LRRK2の過剰発現はα-シヌクレインの総レベルtotal levelをわずかslightlyに増加させたが、野生型-LRRKでは減少した

G2019S-LRRK2を発現するニューロンにおいて 強力なアンチセンスオリゴヌクレオチドにより全てtotalのα-シヌクレインをノックダウンすると 封入体形成は大幅にsubstantially減少した
これはLRRK2がα-シヌクレインレベルを変えることによりα-シヌクレイン封入体形成に影響することを示唆する

これらの研究結果は、G2019S-LRRK2が α-シヌクレイン病理が最初に形成された後に 封入体を形成されやすくするsusceptible to forming inclusionsようなα-シヌクレインのプールpoolを増加させることにより 病理学的なα-シヌクレイン封入体の進行を増大させる可能性があるという仮説を支持する


SIGNIFICANCE STATEMENT
今回我々はG2019S-LRRK2の発現がα-シヌクレインの移動性/流動性mobilityを増大させて、
初代培養ニューロンならびにPDで影響を受けやすいsusceptible脳領域である黒質緻密部のドーパミン作動性ニューロンにおいてα-シヌクレインの凝集を促進することを示す



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160705135353.htm
尿中のエキソソーム中に含まれる自己リン酸化LRRK2を計測してパーキンソン病のバイオマーカーとして使う



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/735d3e7de5b11b1efa84ce4c20e84d37
LRRK2キナーゼは特定のRabタンパク質(Rab3、Rab8、Rab10、Rab12)の不活化により細胞内輸送を調節する



関連サイト
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6527
Rab7L1とLRRK2は協調してニューロンにおける細胞内輸送を制御するとともにパーキンソン病の発症リスクを決定する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/ebf906f9e93b0a48796e5407ef8438b3
ニューロンのシナプス小胞の膜を貫通してその動きに関与するTMEM230の変異はパーキンソン病の原因となる



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2011/03/110325102145.htm
LRRK2は14-3-3に結合するが、突然変異によって結合は破綻してパーキンソン病につながる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/d767e31c42120fa516d441dc31ab0e33
ウルソデオキシコール酸は、LRRK2に変異があるパーキンソン病患者のミトコンドリア機能を改善する



関連サイト
http://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/40655
パーキンソン病と関連するLRRK2のG2019S変異を持つニューロンは核膜に重大な異常が見られる




関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/2f69e68999aaf91e1daa22758545d605
アルツハイマー病患者の脳細胞の核には正常な脳細胞には見られないトンネルが発見された

 

タンパク質凝集はどのようにして急速に進行するようになるのか

2016-07-20 06:06:20 | 
Scientists discover how proteins in the brain build-up rapidly in Alzheimer's

July 18, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160718133005.htm



Artist's rendering of protein fibrils (in blue) and healthy proteins from computer simulations.

Credit: Ivan Barun)

ケンブリッジ大学の研究者は、アルツハイマー病の特徴であり疾患を引き起こすとされる『斑点/プラークplaque』が急速に蓄積build-upするメカニズムを突き止め、それが制御可能であるという可能性を示した


生物学的な分子、例えばDNAのような分子が持つ自己を複製する能力は生命の基盤foundationであり、そのプロセスにはたいてい複雑な細胞機構が携わっている
しかしながら、特定のタンパク質構造の中にはそのような補助を何ら必要とせず、どうにかしてmanage自己を複製するものがある
それは例えばアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患に関与するタンパク質の微小繊維(原繊維fibril)である

原繊維はアミロイドとしても知られ、お互いに絡み合ってintertwinedもつれるentangledようになり、アルツハイマー病患者の脳内で見られる『プラークplaque』が形成される
初めのアミロイド原繊維amyloid fibrilsの自発的な形成は非常にゆっくりで、典型的には数十年かかるとされ、これはアルツハイマー病にかかるのが一般に年老いた人々であることの説明になる可能性がある
しかしながら、いったん最初の原繊維が形成されると、それらは勝手にひとりでに複製して非常に急速に拡散し始める

しかし、その重要性にもかかわらずタンパク質原繊維がどのようにして何の助けも借りずに自己複製を可能にするのかという根本的なメカニズムは十分に理解されていない

本日7月18日にNature Physics誌で発表された研究でケンブリッジ大学化学部の研究者を中心とするチームは、コンピュータシミュレーションと研究室での実験を組み合わせた強力な手法により、タンパク質原繊維の自己複製に必要な条件necessary requirementsを突き止めた
原繊維の自己複製は一見すると複雑なプロセスだが、実際にはシンプルな物理学的メカニズムによって支配されていることを彼らは発見した
つまり『正常なタンパク質は既存の原繊維の表面上に蓄積build-upする』だけだという

アルツハイマー病の脳内で見られるアミロイドプラークを主に構成するアミロイドベータ(Aβ)という分子を使った研究で、既存の原繊維の上に沈着depositedする正常なタンパク質の量と
原繊維の自己複製の速度との間には関連があることを彼らは発見した
言い換えると、タンパク質が原繊維の上に蓄積すれば蓄積するほど、自己複製は速くなるのである

また、彼らは原理証明proof of principleとして、正常なタンパク質がどのようにして原繊維の表面と相互作用するのかを変化させることによって原繊維の自己複製をコントロール可能であることも示した


研究の筆頭著者であるAndela Saric博士は言う
「アミロイドプラーク形成の謎の一つは、その長くて遅い形成過程の後にどうやったら進行スピードが速くなるのかということだ
我々はその要素を突き止めたが、それは一部の要素にもかかわらず実際にはシステム全体にその自己活性を触媒させ、やがて暴走プロセスrunaway processとなる
しかし今回の発見は、もし原繊維上への正常タンパク質の蓄積build-upをコントロールできれば、プラークの凝集と拡散を制限できるのかもしれないことを示唆している」


Saric博士はこの研究結果がナノテクノロジーの分野においても非常に興味深いと論じる
「ナノテクノロジーにおいていまだ満たされていない目標の一つはナノマテリアルの製造における効率的な自己複製の獲得であり、それはまさに今回我々が原繊維上で観察した出来事である
もしこのプロセスから設計のルールを学ぶことができれば、我々は目標を達成できるのかもしれない」


http://dx.doi.org/10.1038/NPHYS3828
Physical determinants of the self-replication of protein fibrils.
タンパク質原繊維の自己複製を物理的に決定する要因



Abstract
生物学的分子の自己複製能力は生命の基盤であり、それには完全な細胞機構を必要とする
しかしながら、様々な異常プロセスで そのような機構による補助をまったく必要としない、タンパク質構造の病的な自己複製を生じることがある
その例の一つは、神経変性疾患に関与するアミロイド原繊維のような、タンパク質病的凝集の自触媒的な生成autocatalytic generationである

今回我々はコンピュータシミュレーションを使い タンパク質原繊維形成の自己複製に必要な条件necessary requirementsを明らかにした
我々は このプロセスにとって鍵となる物理的な決定要因physical determinantが 原繊維表面へのタンパク質の親和性affinityであることを確証する

我々は 自己複製が 非常に狭いタンパク質間相互作用の状況regimeにおいてのみ起きることを発見した
このことはシステムのパラメーターならびに実験コンディションの高レベルな感受性を暗示する

我々は次に、我々の理論上の予測を アルツハイマー病関連のAβペプチドから形成される原繊維の動力学的な計測ならびにバイオセンサーによる計測と比較した

我々の結果は 自己複製の動力学the kinetics of self-replication と 単一分子による原繊維表面の被覆範囲the surface coverage of fibrils by monomeric proteins との間の量的なつながりを示す

※coverage: 何かの表面を占める範囲、被覆の度合い

これらの研究結果は、自己複製を可能にする 分子上位構造supra-molecular structuresが形成されるために必要な根本的な物理的条件を明らかにし、また自然のタンパク質凝集の増幅において演じられるメカニズムに光を当てるものである



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/4489cc5b1e62d53015ae6308cff85370
α-シヌクレインの凝集しやすい領域(NAC)はどのように保護されているのか



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/2eed1af5a640a3c03687d4ce78607041
アミロイドベータの蓄積とタウの病理的な変換が両方とも必要なマウス



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/4f45339247c461908bced75811084a23
短いAβ4-42は長いAβ1-42と比べて銅と結合する能力が1000倍も強く、フリーラジカルを生じないようにする



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/06/160610173603.htm
Aβ42の22番目のL-グルタミン酸をD-グルタミン酸に変更すると毒性が高まる
遺伝性若年性アルツハイマー病と関連するいくつかの突然変異は22番目のグルタミン酸に影響し、他のアミノ酸に入れ替わったり消失する

※Aβ42の配列
1-DAEFR HDSGY EVHHQ KLVFF AE(※)DVG SNKGA IIGLM VGGVV IA-42



関連サイト
http://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%AD
※Aβの凝集性を変化させる遺伝子変異
 Arctic変異(E693G(Aβ配列としてE22G)
 Osaka変異(ΔE693(Aβ配列としてΔE22)
 Dutch変異(E693Q(Aβ配列としてE22Q)

Arctic変異とDutch変異はともにin vitroでアミロイド線維形成能が高い[38]。
Arctic変異はAβ線維形成過程の中間段階で生じるプロトフィブリルの形成を亢進・安定化する[39]。
Osaka変異をもつAβはアミロイド線維を形成せずオリゴマーの形で留まり、シナプス毒性を示す[40]。
 

脳を透明にしてプラークを立体的に観察する

2016-07-19 06:06:21 | 
3-D imaging reveals unexpected arrangement of plaques in Alzheimer's-afflicted brains

July 14, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160714134750.htm


(脳内の血管、グリア細胞、プラークを三重に染色した画像

Credit: Dr. Thomas Liebmann, The Rockefeller University)

ロックフェラー大学の研究者は、最近開発された『組織を透明にする』画像化技術を使ってアルツハイマー病の脳組織を可視化し、
ベータアミロイドプラークの高度に秩序立った非ランダムな構造を明らかにしたexpose
アミロイドベータプラークはアルツハイマー病の脳内で典型的に見られ、有害なタンパク質が凝集した粘着性の塊である
この研究結果は7月14日のCell Reports誌で発表された

「今まで我々は2次元のスライスを使って脳を研究してきたが、私はそれが不適切だといつも感じていた
なぜなら脳は複雑な3次元の構造体であって、相互に連結interlockした多くの要素を持つからだ」
首席著者senior authorのMarc Flajoletは言う
彼はロックフェラーの分子細胞神経科学研究室/Laboratory of Molecular and Cellular Neuroscienceの助教授assistant professorである

「スライスには時間がかかり、それを3次元に再構築するのは骨が折れる作業だというだけではなく、
たとえ間違いはなくてもそこからは限られた視点しか得られない
どうにかして3次元構造を全ての次元から (脳をスライスするような準備をすることなく) 観察する方法が我々には必要だった」

彼らは伝統的な脳の3次元画像化(PETやfMRI)を越える方法を望んでいた
それらは脳の活動を広範囲に示すものの、全体的に解像度が低い
この問題を回避するため、研究チームは最近開発された方法の『iDISCO』に着目した
この方法は脳を溶液にひたしてsoak、脳内の脂肪に染み込ませるように電荷を付加しimbue 、次に正反対の電荷を持った電場にさらす
これが磁石のように働いて、脳内の脂肪を全て脳の外へと追い出すのである
結果として脳は硬くて透明な、ほとんど『ガラス』のようになり、アミロイドのプラークを非常に詳細にそして3次元で観察することが可能になる
マウスの脳ならば半球hemisphere全体を、ヒトでは小さいながらもブロック単位を3次元で観察可能である

「マウスモデルではプラークは少々小さく、サイズと形状は均質的homogenousで、どうやってもグループ化はされない/not grouped in any specific way」とFlajoletは言う

「しかしヒトの脳では、より不均一で、より大きなプラークが見られ、今回のような新しい複雑なパターンが観察された」

彼らはこの構造をTAPs (three dimensional amyloid patterns/3次元アミロイドパターン) と呼び、TAPsが将来アルツハイマー病の治療に役立つかもしれないという
医師からの患者の症状の報告を患者の死語の脳画像と比較することによって、アルツハイマー病を異なるカテゴリーに分類できる可能性がある

「脳内がプラークでいっぱいでも、まったく認知症にならない人たちがいる」
彼は言う

「そして、プラークが存在しないのに症状の多くを示す患者がいる」

それらを考慮すると、現在の臨床試験がアルツハイマー病を一つのカテゴリーとして見なすやり方は正しくないのかもしれないと彼は言う

おそらく既存の薬剤はアルツハイマー病患者の一部のサブセットにしか有益ではないかもしれないが、現在の我々にはそれを見分ける方法はない

Flajoletが強調するのは、我々に必要なのはプラークやアルツハイマー病の特徴の全般的な理解だということである
それらの存在と疾患の重症度との間の関係はいまだに明快ではないnot clear-cut

「そのような理解はおそらく新しく、そしてより良い標的治療や、既存の薬剤の再考につながるだろう
それこそが我々の望むものだ」


http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.06.060
Three-Dimensional Study of Alzheimer’s Disease Hallmarks Using the iDISCO Clearing Method.


iDISCO: immunolabeling-enabled three-dimensional imaging of solvent-cleared organs/「免疫によってラベル化することが可能な、溶剤によって透明化された臓器の三次元画像化」


Figure 5




関連サイト
http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2014.10.010
iDISCO: A Simple, Rapid Method to Immunolabel Large Tissue Samples for Volume Imaging




関連サイト
http://tak38waki.hatenablog.com/entry/2015/09/16/100709
各透明化手法の原理と欠点
 

Aβの蓄積と病理学的なタウ変換が両方とも必要なマウスモデル

2016-07-18 06:06:15 | 
Genetically engineered mice suggest new model for how Alzheimer's causes dementia

Experiments shed light on how 'plaques,' 'tangles' interact and take hold

July 4, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160704082655.htm

ジョンズ・ホプキンズの研究者は新たに開発したヒトのアルツハイマー病の発症を真似る全く新しいマウスモデルを使い、アルツハイマー病の特徴である認知症を引き起こすためには脳内で『ワンツー・パンチ』の重大な生物学的傷害が生じなければならないことを突き止めたと言う
彼らの実験の詳細はオンラインの学術誌Nature Communications誌上で発表される


何十年もの間、認知症の最も一般的な原因であるアルツハイマー病はいわゆる『神経原線維のもつれ/neurofibrillary tangles』の蓄積accumulationと関連することが知られてきた
このもつれは脳の神経細胞内でのタウというタンパク質の異常な凝集clumpから構成され、その神経細胞の外側の組織には『神経突起斑/neuritic plaques』というベータアミロイドタンパク質が死んだ神経細胞と共に蓄積depositする

※神経突起斑 (neuritic plaque): いわゆる典型的な老人斑 (typical plaque) の別名。アミロイド線維の芯を中心として腫大変性神経突起が周囲を環状に取り巻いたもの。neuriticはneuritis「神経炎」ではなくneurite「神経突起」の形容詞形


ジョンズホプキンス大学医学部の病理学教授であるPhilip C. Wong, Ph.D.によると、アルツハイマー病では神経細胞の内部でタウが1か所に固まりbunch up、細胞の外側にはベータアミロイドが凝集してclump up、それらが神経細胞による記憶のコントロールをめちゃめちゃにするmuck upのだという

いまだに明らかになっていないのは、一方が細胞内でもう一方が細胞外というそれら2つの凝集プロセスの『関係』であり『タイミング』であると、筆頭著者であり責任著者corresponding authorでもあるTong Li, Ph.D.は言う


早発性アルツハイマー病についての以前の研究では、ベータアミロイドの脳内での異常な蓄積accumulationはどうにかしてsomehowタウの凝集aggregationを引き起こし、認知症と脳細胞変性に直接つながることが示唆されている

しかしLiとWongたちによる今回の研究で、ベータアミロイドの蓄積は、それ自体がin itself ひとりでにof itself 蓄積したものは、タウの正常な状態から異常な状態への変換conversionを引き起こすには不十分であることが示唆された

代わりにそれは一連の化学的なシグナル伝達イベントを開始する可能性があり、そのイベントがタウの『変換conversion』につながって、その後に続けて症状の発症に至るのだという

「アミロイドプラークの蓄積だけで脳にダメージを与えることはできるが、しかしそれは実際には神経細胞の喪失を促すには十分ではなく、行動や認知の変化を引き起こすこともできないということを、我々は初めて理解したのだと考えている」
Wongは言う

「必要であると思われるのは、『二番目の原因/second insult』だ
つまりタウの変換/conversion of tauもまた必要である」


ベータアミロイドプラークの発生と脳神経細胞内でタウのもつれが生じる間の時期のずれlagは、ヒトでは10年から15年以上であるとLiは言う
しかしマウスの寿命はわずか2年から3年であり、ベータアミロイドプラークの出現をうまく真似ることに成功している現在のマウスモデルでは、タウの変化を観察するのに十分な時間がない

この問題に対処すべく、ジョンズ・ホプキンスの研究者たちは遺伝学的に操作したマウスモデルを開発し、タウタンパク質の断片を使って正常なタウタンパク質の凝集を促進させた
彼らは次に、ベータアミロイドを蓄積するように操作したマウスとタウ凝集促進マウスとを異種交配させたcross-breed
その結果、ヒトで起きるのと似たように認知症を発症するマウスモデルが生まれたとLiは言う

マウスの脳を解剖すると、次のようなことが明らかになった
・ベータアミロイドプラークが存在するだけでは、タウの生化学的な変換を引き起こすには十分ではない
・タウのリピートドメイン(正常なタウを異常な状態に変換する原因となるタウタンパク質の一部)だけでは、タウの変換には不十分である
・タウが変換されるためにはベータアミロイドプラークが脳内に存在しなければならず、そしてタウの断片は プラーク依存的なタウの病的変換の『種』となりうる


この新たな研究が暗示することの一つは、なぜ『タウの変換が起きた後に』アルツハイマー病を攻撃するように設計されたいくつかの薬剤が上手くいかなかったのかについてのおそらく説明になるだろうとWongは言う

「タイミングが外れているoffのかもしれない、」
と彼は言う

「もしタウの変換が起きる前の期間に介入できるとすれば、欠陥を修正し、脳細胞の喪失とそれに続いて起きるensuing疾患の結果を改善ameliorateする見込みは十分あるだろう」

また、この研究からは ベータアミロイドプラークの形成と病理学的なタウの変換をどちらも阻害するように設計された組み合わせ療法がアルツハイマー病にとって最適な結果をもたらす可能性が示唆されるという
彼らのマウスモデルは新たな治療法をテストするために使われる可能性がある

アルツハイマー病協会/Alzheimer's Associationの2016年の統計によると、アメリカでは推定540万人がアルツハイマー病である
治療法cureはなく、限られた時間だけ認知の安定を助けるか、疾患と関連する鬱病、不安、幻覚に役立つかもしれないといういくつかの薬物療法medicationsが存在するだけである


http://dx.doi.org/10.1038/ncomms12082
The neuritic plaque facilitates pathological conversion of tau in an Alzheimer’s disease mouse model.
アルツハイマー病マウスモデルにおいて神経突起斑はタウの病理学的な変換を促進する


Abstract
アルツハイマー病(AD)の中心的な疑問は、タウ病理の発症にとって神経突起斑neuritic plaqueの存在は必要かつ十分なのかということである
ADマウスモデルでは、ベータアミロイド(Aβ)の蓄積を囲んでいる変性神経突起dystrophic neuritesの内部で タウの過剰なリン酸化は観察されるが、しかし病理学的なタウの変換pathological conversion of tauは存在しない
同様に、ヒトのタウタンパク質のリピートドメインをマウスで発現させても、タウの病理学的な変換を促進するには不十分である

今回我々は、ヒトのタウタンパク質のリピートドメインを発現する Aβアミロイドーシスamyloidosisのマウスモデルを開発した
このマウスでは神経突起斑が野生型タウの病理学的な変換を促進することを我々は示す

我々はこのタウ断片が神経突起斑依存的な野生型タウの病理学的変換の種となり、
それ(病理学的変換)が 大脳皮質と海馬から 脳幹brain stemへと広がることを示す

これらの結果は、野生型タウの変換を促進するためには 神経突起斑に加えて二番目の決定要素が必要であることを確定するものである


Introduction
早発性の家族性ADはAPPやPresenilinと関連し、Aβの蓄積がタウの凝集を引き起こすという考えを支持するが、
晩発性のLOADはApoEやTrem2と関連し、Aβは認知低下を引き起こすには十分ではないという考えが強く支持される
実際、LOADではAβプラークと認知は相関せず、タウの凝集が認知低下と相関する

タウの病理の研究で使われる現在のマウスモデルは、主にFTDP-17と関連するタウ変異体を発現する導入遺伝子transgeneをベースとしている (refs 9, 10, 11, 35, 36, 37, 42)
しかし、FTDP-17と関連するタウモデルで起きる病理はAβプラークに依存せず細胞死を促進するのに十分であり、FTDP-17の良いモデルではあるかもしれないが、ADのモデルではない


http://www.nature.com/ncomms/2016/160704/ncomms12082/fig_tab/ncomms12082_F10.html
Figure 10: A multifactorial Model for LOAD.
晩発性アルツハイマー病(LOAD)の多因性モデル


タウの病理学的変換には神経突起斑は必要だが不十分であることを示した図
二番目の『ヒット』には様々なリスクアレルや要因が含まれ、それらはLOADにおける神経突起斑依存的な野生型タウの病理学的変換の促進に必要である


Reference
43 Distinct Tau Prion Strains Propagate in Cells and Mice and Define Different Tauopathies
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24857020

「プリオンprion」



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Aβとリン酸化タウは両方ともアルツハイマー病の早期から代謝の低下に関与する



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症状が出る前からPET画像化によりAβとタウの両方をステージ化して比較する



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アルツハイマー病とFTDは誤診されやすいが、FTDにはAβがまったくないので画像化して区別できる




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ノルエピネフリンを脳全体に分泌する青斑locus coeruleusには、タウのもつれによる病理が真っ先に現れ、ノルエピネフリン分泌が低下する
興奮したりチャレンジすると分泌されるノルエピネフリンはニューロンを保護する



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これまでの研究ではAβが細胞外に出てからタウタンパク質に変化が生じるとされていたが、ヒトの皮膚からiPS細胞を作成してニューロンに分化させて、APPからAβを切り出すセクレターゼの速度を変化させると、それに伴ってタウタンパク質のレベルも変化した
 

タウの凝集による核膜の乱れが脳細胞を殺す

2016-07-17 06:06:31 | 
Brain cell death in Alzheimer's linked to structural flaw

Study reveals multiple new leads for pursuing potential treatments

July 13, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160713100909.htm


(アルツハイマー病患者の脳細胞の核には、正常な脳細胞には見られないトンネルが発見された(矢印)

Credit: Image courtesy of Bess Frost, Ph.D., assistant professor, Barshop Institute for Longevity and Aging Studies, University of Texas Health Science Center at San Antonio)

テキサス大学サンアントニオ校保健学センター・バーショップ加齢長寿研究所の研究者は、アルツハイマー病に関与する新たな生物学的経路を明らかにした
ショウジョウバエを使った実験でこの経路を阻害すると脳の細胞死が減少し、この経路への干渉がヒトの患者でも脳の疾患を治療するための有望な新戦略の代表となりうることが示唆された


アメリカでは約540万人がアルツハイマー病であり、記憶と思考、そして行動に問題が生じている

アルツハイマー病の特徴の一つはタウというタンパク質が脳内で凝集する(clump/aggregate)ことである

「我々はアルツハイマー病で病的なタウpathological tauによって異常をきたす複数の細胞内プロセスを新たに明らかにした」
バーショップで助教授のBess Frost, Ph.D.は言う

「タウを細胞死へとつなげるこれらのプロセスのそれぞれは潜在的な薬剤の標的である
この新しい知識から、より多くの情報を基にした治療法の開発が可能になるだろう」

Frostは今回の発見を、オーランドでアメリカ遺伝学会/Genetics Society of Americaが主催する米国遺伝学会議/The Allied Genetics Conference(TAGC 2016)で発表する予定である


「合理的な薬剤設計のために重要なのは、細胞内の多くのイベントの中から実際に疾患を引き起こしているものを正しく識別するdiscriminateことである
それは良い薬剤の標的となりうるが、それ以外は単に疾患の付随的な影響side effectに過ぎない」
Frostは言う

「それはショウジョウバエを使うことで素早く達成することが可能となる
なぜならヒトのアルツハイマー病患者の脳内で起きる何かのプロセスを観察した際に、ハエのアルツハイマー病モデルでもそれと同様のプロセスを阻害することが可能であり、それによりハエの状態が良くなるかどうかを観察し、脳の細胞死が少なくなるかどうかを確認することができるからである」


以前Frostと彼女の同僚たちはアルツハイマー病患者の死後の脳から得られた細胞を研究し、典型的には細胞の核内で『きつく巻き取られたtightly wound』状態であるはずのDNAの領域が アルツハイマー病の脳細胞では弛緩relaxedして『巻かれていないunwound』状態であることを発見している
そしてDNAが巻かれていない状態unwoundだと、オフになっているべき遺伝子のスイッチが入ってしまう可能性がある

今回の新たな研究で彼女らはアルツハイマー病患者の脳細胞の核をさらに詳しく調べ、DNAがどのようにして巻かれていない状態unwoundになるのかを明らかにしようとした

研究者たちは非常に高解像度の顕微鏡技術を使うことで核全体entire nucleusを観察することを可能にした
その結果、驚くべきことにアルツハイマー病の脳細胞の核には通常は存在しない『トンネルtunnels』が貫通していたのである

「我々はこれらのトンネルが実際にニューロンの細胞死を引き起こすのか、それとも単にアルツハイマー病に付随する副次的な作用side effectに過ぎないのかを明らかにしたいと考えた」
Frostは言う

「ショウジョウバエのアルツハイマー病モデルを使って遺伝学的にトンネル形成プロセスを阻害した結果、実際に脳の細胞死は少なくなり、ハエの寿命は長くなった
我々は現在このプロセスを薬剤で阻害できるかについての実験もラボで実施している」


この初となる潜在的な薬剤標的を新たに突き止めた後、生物学的経路をさらに明らかにすべく研究者たちは実験を継続した

細胞の核はラミンlaminという核の骨格を形成するタンパク質によって取り囲まれ、ラミンは構造的な足場scaffoldを形成している
研究者たちはラミンの核骨格nucleoskeletonが破れてdisruptトンネルが形成されると 核内部のDNAはもはや核骨格に固定できなくなり、ほどけてしまうbecomes unraveledことを発見した
言い換えると、DNAの全体的な3次元構造を維持するためには、きつく巻かれたDNAとラミン核骨格との間の相互作用が必要だということである

※ラミン: 核ラミナを構成するラミンには3種類あり、ラミンAとラミンCはクロマチンと結合に関与し、ラミンBは核膜との結合に関与する


また、彼らはアルツハイマー病患者の脳内で凝集するタウタンパク質が
細胞核の外側の細胞質に存在するアクチン細胞骨格actin cytoskeletonを過剰に安定化overstabilizeさせることにより
ラミン核骨格lamin nucleoskeletonを混乱disruptさせることを明らかにした

これはアクチン細胞骨格とラミン核骨格との間の正常な連結couplingを妨げinterrupt、それが次に、きつく巻かれたDNAを弛緩させる
この弛緩によって想定外not supposedの遺伝子のスイッチがオンになり、結果として脳細胞は死ぬ


タウの凝集とそれによる最終的な細胞死とを連結させる細胞内プロセスを突き止めたことにより、研究者たちは治療的介入の目標となる数多くの標的への道を新しく開いた

加えて、この研究は脳がラミンの問題に脆弱であることが明らかになった初めての例の一つである

科学者たちの中には脳は加齢に対して他の組織とは異なる応答をすると考える者がいる
なぜなら、ラミンを含む遺伝子に突然変異を持つ『早老症progeria』の人々は体全体の組織に影響するように早く年老いていくが、脳だけは例外だからである


「我々は脳がラミン核骨格の機能不全に脆弱であり、その乱れは脳の細胞死を引き起こすことを発見した」
Frostは言う

「これらの研究結果は加齢の基本的なメカニズムが脳と他の組織の間で維持されていることを示唆する」


この研究はフロリダ・オーランドのオーランド・ワールド・センター・マリオットで開催されるTAGC 2016で、『ヒトの疾患のハエモデル I /Drosophila Models of Human Disease I』のセッション内、7月15日金曜日午後4時から15分間にわたって発表される

この研究は国立神経疾患・脳卒中研究所/National Institute for Neurological Disorders and Stroke(NINDS)の出資によって実施された(グラントK99NS088429)


<コメント>
タウタンパク質の凝集→アクチン細胞骨格の過剰な安定化→ラミン核骨格の破綻→ヘテロクロマチンの弛緩→遺伝子の異常発現→ニューロンの細胞死



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タウタンパク質をコードする遺伝子MAPTの多型はアルツハイマー病と関連する



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アルツハイマー病で認知低下の発症年齢、疾患の期間、精神の荒廃を予測するのは、アミロイドではなくタウの蓄積度である



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アルツハイマー病とパーキンソン病の患者で皮膚の生検をしたところ、健康な人と比較してタウタンパク質のレベルが7倍高く、パーキンソン患者はα-シヌクレインのレベルが8倍高かった



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これまでの研究ではAβが細胞外に出てからタウタンパク質に変化が生じるとされていたが、
ヒトの皮膚からiPS細胞を作成してニューロンに分化させ、APPからアミロイドベータ(Aβ)を切り出すセクレターゼの速度を変化させると、それに伴ってタウタンパク質のレベルも変化した



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普段は核内に存在するRNA結合タンパク質TIA1はストレス状態になると細胞質に現れ、タウタンパク質はTIA1と相互作用する
タウはストレス顆粒タンパク質を促進する一方で、TIA1はタウの折りたたみ失敗と不溶性を促進する



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アルツハイマー病の初期にはp300が上昇してタウタンパク質のアセチル化を引き起こし、タウの蓄積と毒性を促進するドライバとして働く
FTDのマウスモデルではタウがアセチル化するとニューロンのタンパク質を分解する能力が低下するが、サザピリンでp300を阻害してタウのアセチル化を抑制するとタウのターンオーバーが促進され、脳内のタウレベルが低下した



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マウスにヒトのFTDと関連する変異(V337M)を持つタウタンパク質を発現させると、腹側線条体(ventral striatum; 側坐核と嗅結節)ならびに島(insula)において選択的にシナプスが障害され、PSD-95が枯渇してシナプス後肥厚が縮小し、シナプスでのNMDARの局在が障害された
PSD-95はシナプス後肥厚を構成する足場タンパク質で、NMDARのカルボキシル末端に結合する



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タウタンパク質は長期抑圧/long-term depression(LTD)の過程で重要な生理学的役割を持ち、タウが機能する場所はシナプスである
そしてタウは凝集してアルツハイマーの特徴である「もつれ」を形成することから、アルツハイマー病は正常なシナプスメカニズムの異常調節によって引き起こされる可能性がある
また、我々は最近、アミロイドβのシナプスに対する非常に急激な作用を突き止めた



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カフェインはアデノシン受容体と拮抗し、アデノシンによって活性化される脳内の様々な受容体を阻害するが、ボン大学のMüller教授たちの研究チームは以前アデノシン受容体のサブタイプの一つであるA2Aの阻害が特に重要な役割を演ずる可能性を既に示している
今回彼女らは超高純度ultrapureで、水に可溶性のA2AアンタゴニストMSX-3を開発した
この化合物は副作用がカフェインよりも少ないが、その理由はA2Aだけを阻害し、同時にそれが著しく効率的だからである
変化したタウタンパク質を持ち、治療しなければアルツハイマー病の症状を早くに発症するよう遺伝子を操作したマウスに対して数週にわたってこのA2Aアンタゴニストを投与したところ、記憶テストではプラセボ群と比較して著しく良い結果が得られた
このA2Aアンタゴニストは空間記憶で特に良好な結果を示し、脳内で記憶を司る領域である海馬では病理発生的なプロセスの改善が実証された



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Aβペプチドには抗菌作用があり、Aβのオリゴマー化はAβペプチドの抗菌作用に必須である



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Aβオリゴマーは補体分子のC1qとC3を活性化し、C3はミクログリアの受容体CR3を通じてシグナルを伝達して、ミクログリアが脆弱なシナプスを飲み込むように刺激する



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マラリア原虫の遺伝子発現は細胞核内の3次元構造によって調節されている



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アルツハイマー病では核膜の裏打ちタンパク質であるラミンが消失する


http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2015.11.039
Lamin Dysfunction Mediates Neurodegeneration in Tauopathies.

Highlights
・核骨格であるラミンの崩壊は、タウオパチーtauopathyにおけるニューロン細胞死を促進する
・ラミンの機能不全はヘテロクロマチンを弛緩させ、ニューロン細胞死を引き起こす
・不適切な細胞骨格/核骨格の結合couplingは、タウオパチーにおいてラミンを崩壊させる
・ラミンの病理は、アルツハイマー患者の死後脳で保存されている

Summary
我々は以前、タウオパチーにおけるヘテロクロマチンの広範囲な弛緩を報告した
タウオパチーにはアルツハイマー病のような加齢と関連して進行する神経変性疾患が含まれ、リン酸化タウタンパク質の凝集がタウオパチーの病理的な特徴である
ここに我々は神経変性性タウオパチーにおいて/タウオパチーのin vivoモデルにおいて 細胞骨格-核骨格の異常な結合によるラミンの調節不全が ヘテロクロマチン弛緩ならびにニューロン細胞死を促進することを実証する
 

運動と報酬にはそれぞれ異なるドーパミンニューロンの集団が関わる

2016-07-16 06:06:11 | 
Scientists identify neurochemical signal likely missing in Parkinson's

Two distinct populations of dopamine neurons discovered

July 11, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160711155821.htm

パーキンソン病で失われるらしいlikely神経化学的なシグナルがノースウェスタン大学の神経科学者たちにより突き止められた
彼らは運動ならびに学習/報酬行動の両方に対応する脳の重要な領域にドーパミンを送り届ける、明確にdistinctly異なる2種類のニューロンを初めて発見した


「何十年もの間ずっと定説dogmaとされてきたのは、ドーパミンニューロンはそのすべてが、どうにかしてsomehow運動movementと報酬rewardの両方に関与するというものだった
しかしこれはまったく道理にかなっていなかった」
ノースウェスタン大学ワインバーグ教養学部/Weinberg College of Arts and Sciencesの神経学助教授assistant professorで、研究の首席著者senior authorであるDaniel A. Dombeckは言う

「今回の我々の記録では、ニューロンには異なる種類が存在することが非常に明らかである
我々は運動する動物でそれを文字通りliterally『見る』ことが可能だった
我々の研究結果はパーキンソン病や他の神経学的な疑問についての多くの疑問に対する答えの助けとなりそうだ」

今回の研究結果は運動制御と学習/報酬におけるドーパミンシステムを理解するための新しい枠組みを提供し、ドーパミンシステムの機能障害がどのようにして広範囲な神経疾患につながりうるのかを考える基盤となる
『素早い動きrapid movementに固定lockedされた脳内ドーパミンシグナル伝達』に関するエビデンスは今回の研究以前にはほとんど存在しなかった
この研究結果は本日7月11日にNature誌で発表された


ワインバーグの科学者たちはこれまで誰も見たことがないもの、つまり脳の線条体striatum領域における2つの異なるドーパミンニューロンの集団を観察するための、洗練された画像化技術を開発した
1つは『運動制御motor control and movement』のシグナルを伝え、もう1つは『思いがけない(サプライズの)報酬/unpredicted (surprise) reward』についてのシグナルを伝える
この発見はドーパミンニューロンがどのようにして行動behaviorに影響するのかについての現在のモデルを覆すものだ

「ドーパミンがどのようにして『運動movement』と『報酬を基にした行動reward-based behavior』の両方に働くのかというパラドックスはこれまで常に存在し続けていた」
ポスドクpostdoctoral fellowのMark W. Howeは言う

「我々が明らかにしたのは、ドーパミンが実際に両方で働き、そしてそれぞれを別のニューロンの集団が行うということである
さらに、運動に作用するニューロンは非常に高速なタイムスケールvery rapid timescaleでそれを行う
これらはおそらくパーキンソン病で影響を受ける動力学dynamicsであるようだlikely」


この研究は、より標的をしぼったパーキンソン病の治療を開発するための重要な情報を提供する
パーキンソン病はドーパミンニューロンの細胞死が原因となって起きる神経変性疾患である

現在の治療は脳の全体的なドーパミンの総量/ambient pools of brain-wide dopamineを補充replaceすることに焦点を合わせている
今回の研究は将来の治療が、運動の制御に最も関与するように思われる特定の細胞タイプや脳の領域、タイムスケールtimescalesを標的とすることによってさらに効率的になりうる可能性を示唆する


DombeckとHoweらの開発した高解像度の画像化ツールは、ドーパミンシステムの動力学dynamicsを前例のない詳細なレベルで、そして活動するマウスで観察することを可能にした

回し車を走っているマウス、または思いがけない報酬/unpredicted rewardを受け取ったマウスについて、それらの活動中に線条体でのドーパミンニューロンの軸索axonを画像化することによって異なるドーパミンの軸索を解きほぐすように分離しtease apart、ドーパミンニューロンには2つの異なる集団が存在することを明らかにした

彼らは幾ダースもの対となる軸索を一度に画像化し、軸索の活動がどのように見えるのかを観察した
その結果、運動やパーキンソン病に関連がある軸索はマウスが走っている時は活性化していたが、報酬を得た時には活性化していなかった

また、彼らは光遺伝学optogeneticsを使い、遺伝学的にラベルを付けた運動軸索movement axonに光を当ててマウスの運動が制御可能であることを示し、ドーパミンが移動運動locomotionの引き金を引くことが可能だと示した


「この研究は、運動movementにおけるドーパミンニューロンの役割についての我々の考え方を変化させる」
ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部/Feinberg School of Medicineで神経学の助教授associate professorであるRaj Awatramaniは言う

「これは当分野では非常に重要な研究である」

Awatramaniはドーパミンニューロンの多様性の元となる分子的な基盤についての専門家である
彼は最近Dombeckたちのグループと協力してドーパミンニューロンの機能と分子的な構造についてのさらなる研究を開始した


Nature誌での最重要点/Highlightを以下に挙げる

・運動の制御にとって重要な領域である線条体で終わるドーパミン軸索からのシグナルは、マウスが運動し始めた時に強くそして急速に活性化し、マウスが移動運動locomotionする間に加速するにつれて、進行中の活動ongoing activityがバースト発火burstを示した

・(光で活性化するイオンチャンネルを発現する)線条体のドーパミン軸索を光でオンにすると、移動運動locomotionを急速に誘発することが可能である
これは観察されるシグナルと、その運動movementを生成する機能的な役割との一致correspondenceを示す

・思いがけない報酬/unpredicted rewardをシグナル伝達する軸索は 運動movementをシグナル伝達する軸索とは大きく異なっており、線条体の異なる領域、つまり目標志向的な学習/goal-directed learningに関与する領域で主に終結していた


http://dx.doi.org/10.1038/nature18942
Rapid signalling in distinct dopaminergic axons during locomotion and reward.
移動運動の間のドーパミン作動性の軸索における高速なシグナル伝達は、報酬のシグナル伝達とは異なる


中脳を起点として線条体へとドーパミン作動性の投射をする軸索/dopaminergic projection axons from the midbrain to the striatum は運動の制御にとって重要である
なぜならパーキンソン病におけるそれらの変性は結果として深刻な運動の欠陥につながるからである

逆説的にparadoxically、ほとんどの記録方法で
思いがけない報酬unpredicted rewardsに応答して
高速で一過性のドーパミンシグナル伝達/rapid phasic dopamine signalling(100ミリ秒までのバースト発火bursts)が報告されているが、
運動と関連するシグナル伝達に関してはほとんどエビデンスが存在しない

一般に有力とされるモデルleading modelでは
線条体を標的とするドーパミンニューロンにおける一過性のシグナル伝達phasic signallingは
報酬を基にした学習reward-based learningを促進driveすると断定positされる一方で、

これらの同じニューロンにおける
発火のゆっくりとした変化/slow variations in firing (数十秒から数分/tens of seconds to minutes) は
動物を運動に向かわせるか運動から遠ざけるように偏向させるとされている/bias animals towards movement or away from movement

しかしながら、現在の方法ではこのモデルを支持または否定するエビデンスがほとんど何も提供されていない

今回我々は新しい光記録法/optical recording methodsを使い、
線条体を標的とするドーパミン作動性軸索の
高速かつ一過性のシグナル伝達/rapid phasic signallingを発見したことを報告する
このシグナル伝達はマウスの移動運動locomotionと関連し、そして移動運動を引き起こすことが可能である

これらのシグナルを示す軸索は、思いがけない報酬に応答する軸索とは大きく異なる

これらの結果は
ドーパミン作動性の神経調節/dopaminergic neuromodulationが
『1秒未満の正確さ/sub-second precision』で
運動制御と報酬学習に異なったインパクトを与えることを示唆し、

ドーパミンと関連する疾患の治療を考慮する上で
シグナルの正確なタイミングprecise signal timingとニューロンのサブタイプneuronal subtypeの両方が
重要なパラメーターであることを示す


http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/fig_tab/nature18942_SF10.html
Extended Data Figure 10:
Dopamine axon locomotion signalling measured by fibre photometry from different striatal sub-regions.

移動運動をシグナル伝達するドーパミン軸索を、線条体の異なるサブ領域でファイバー測光する


※SNc(赤色): substantia nigra pars compacta/黒質緻密部(A9)

※VTA(青色): ventral tegmental area/腹側被蓋野(A10)

※Dorsal(赤色): dorsal striatum/背側線条体。被殻putamenと尾状核caudate nucleusからなる

※Ventral(青色): ventral striatum/腹側線条体。側坐核nucleus accumbensと嗅結節olfactory tubercleを合わせたもの

※パーキンソン病は黒質緻密部から投射されるニューロンの脱落により線条体でドパミンが低下するためとされている

jは、現在主流の同種同質homogenousなドーパミンシグナル伝達モデルを矢状sagittalに図示したもの
kは、機能的な不均質性heterogeneityを組み入れた我々の新たなモデルである



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/00f9bdacc5fee082eb60dda6170341fb
オリゴマーのα-シヌクレインやドーパミンで修飾されたα-シヌクレインは高い親和性でミトコンドリアのTOM20という受容体に結合し、ミトコンドリアが機能するために必要なタンパク質のインポートが損なわれ、ミトコンドリアの老化につながり、呼吸の低下と活性酸素種(ROS)の増加を示す



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http://ta4000.exblog.jp/19041760/
哺乳類のGABA作動性介在ニューロンの25パーセントがパルブアルブミン (PV) 陽性の介在ニューロン (PVI) で、その86パーセントが高速発火PVI (FS PVI)。FS PVIはγ波を生成するが、γ波の生成には高いエネルギーが必要であり、ミトコンドリア/電子伝達系複合体が多く酸化ストレスを生じやすい



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酸化ストレスに応じてAblは活性化し、DJ-1は上方調節される
 

ニロチニブはパーキンソン病で低下したドーパミンを回復する

2016-07-14 06:06:40 | 
Cancer drug restores brain dopamine, reduces toxic proteins in Parkinson, dementia

July 12, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160712101230.htm

パーキンソン病またはレヴィ小体認知症患者での小規模な第一相試験は、FDAによって承認された白血病の薬が患者の脳のドーパミンを著しく増加させ、そして進行と関連する有害なタンパク質を減少させたという分子的なエビデンスを提供する
脳内の化学物質であるドーパミンは神経伝達物質neurotransmitterと呼ばれ、パーキンソン病などの神経変性疾患ではドーパミンを作るニューロンが死ぬために失われる

ジョージタウン大学メディカルセンター/Georgetown University Medical Center (GUMC) の研究者が2015年10月の北米神経科学学会/Society for Neuroscienceの年次総会で最初に報告し、今回Journal of Parkinson's Disease誌で発表する研究結果は、臨床的な転帰outcomeの改善を支持するものだという

この研究ではニロチニブを試験し、慢性骨髄性白血病/chronic myelogenous leukemia(CML)で使われる用量(300~400mgを1日2回)と比較してかなり少ない用量(1日150mgか300mg)を毎日6ヶ月間投与した
12人の患者が試験に登録され、うち1人は有害事象adverse eventのため打ち切られたwithdraw
研究者によると、試験を完了した残り11人の参加者ではニロチニブが安全かつ十分に忍容性well toleratedがあるようだったという

研究では安全性に加えて、認知機能、運動症状、非運動症状の改善度はもちろん、血液中ならびに脳脊髄液/cerebral spinal fluid(CSF)中の生物学的マーカーも調査され、これらの神経変性疾患の患者にニロチニブが恩恵をもたらすという顕著な徴候が観察された

「この研究は小規模であり、患者はお互いに非常に異なっていて、さらにプラセボ群も存在しないため、これらの結果は注意深く考察viewする必要があり、大規模なプラセボ対照試験/placebo controlled trialsでさらに確認validateされなければならない」
治験責任医師senior investigatorのCharbel Moussa, MD, PhDは言う
彼はGUMCトランスレーショナル神経治療プログラム/Translational Neurotherapeutics Programの科学/臨床の研究部長research directorである

※principal investigator: 治験責任者


バイオマーカーとしては以下のような状態が観察された

・ドーパミンの代謝産物であるホモバニリン酸/homovanillic acid(HVA)のレベルはドーパミン産生の指標だが、ドーパミンニューロンがほとんど失われていてさえ安定して2倍の数値を示した
研究参加者のほとんどはドーパミン補充療法replacement therapyの利用を止めるか減らすことが可能だった

・パーキンソン病と関連する酸化ストレスのマーカーであるDJ-1は、ドーパミン産生ニューロンの細胞死の指標でもあるが、ニロチニブの投与後のDJ-1レベルは50パーセント以上低下した

※DJ-1は酸化ストレスを抑制するとされ、酸化ストレスに応じて上昇するようだ。論文の本文にはこう書かれている
「酸化ストレスに応じてAblは活性化し、DJ-1は上方調節される [25–27] が、
 6ヶ月時点でベースライン時と比較して/ 6ヶ月時点で2ヶ月時点と比較して、
 CSFのDJ-1が150 mgのグループで減少の傾向を示しtrended towards a decrease、
 300mgのグループでは有意に減少したsignificantly reduced (Supplementary Table 5)」


・脳脊髄液(CSF)中の細胞死のマーカー(NSE, S100B, タウ)のレベルは著しく低下していた
これはニューロンの細胞死が減少したことを示唆する

NSE: neuron-specific enolase/神経特異性エノラーゼ

S100B: S100 Calcium Binding Protein B/ S100カルシウム結合タンパク質B


加えて、ニロチニブはCSF中のα-シヌクレイン(ニューロンに蓄積する有害なタンパク質)の喪失lossを薄めてattenuate、その結果としてパーキンソン病とレヴィ小体認知症の両方でCSFレベルは低下したようだとMoussaは付け加える

彼は薬剤に忍容性があった11人の全てが有意meaningfulな臨床的改善を報告したとも言う
全ての参加者は中度~進行したステージのパーキンソン症候群/Parkinsonismであり、彼らは全て軽度mildから重度severeの認知障害cognitive impairmentを持っていた

※mild cognitive impairment(MCI): 軽度認知障害

「パーキンソン病とレヴィ小体認知症の参加者たちの運動機能と認知機能は、薬を続けている限り徐々に改善した
ドーパミン補充療法の使用は減少したにもかかわらずである」
筆頭著者lead authorのFernando Pagan, MDは言う
彼はGUMCトランスレーショナル神経治療プログラムの医学部長medical directorで、MedStar Georgetown University Hospitalでは運動障害プログラム/Movement Disorders Program のディレクターでもある
Paganによると、薬を止めて3ヶ月後には参加者たちの認知機能、運動機能は研究開始前の低い状態に戻ったという


いくつかの深刻な副作用side effectsが報告され、一人が薬の投与から4週目で心臓発作heart attackのために中止、そして3件の尿道感染または肺炎が生じた
これらのイベントはこの患者の集団では珍しいものではなくnot uncommon、ニロチニブの使用に関連する有害事象adverse eventsなのかどうかを決定するためのさらなる研究が必要であるという

「ニロチニブの長期使用の安全性が優先であり、
パーキンソン病における最も安全で最も効果的な用量を決定するためのさらなる研究が必要だ」


研究者は臨床試験を設計する際にラボでのいくつかの注目に値する観察をトランスレートtranslateさせようとした
Moussaを中心として実施された前臨床試験では、チロシンキナーゼ阻害剤のニロチニブが効果的に血液脳関門を通過し、
ニューロンの『ゴミ処理装置/garbage disposal machinery』のスイッチを入れることにより
パーキンソン病や認知症で蓄積する有害なタンパク質を破壊することが示された

以前彼らが発表した研究では、ニロチニブがパーキンソン病とアルツハイマー病の動物モデルにおいて神経伝達物質のドーパミンのレベルを上昇させ、運動ならびに認知的な転帰outcomes を改善することも示された
ドーパミンは有害なタンパク質の蓄積でニューロンが破壊される結果として失われる化学物質である

「我々はニロチニブの患者への有益さがさらに大きく十分にコントロールされた研究で確かめられることを望んでいる
今回の結果はとても有望な一歩である」
Moussaは言う

「これらの結果が以降の研究でも持ちこたえるhold outならば、ニロチニブは約50年前のレボドパの発見以来のパーキンソン症候群の患者にとって最も重要な治療法になるだろう」

彼はさらに続ける
「加えて、もし近い将来upcomingのより大規模なプラセボ対照試験でニロチニブが認知に対して効果が確かめられれば、この薬はレヴィ小体認知症への初めての治療法の一つとなりうるだろう
現在レヴィ小体認知症や、そしておそらく他の認知症には、何ら有効な治療法が存在しない」


アルツハイマー病とパーキンソン病への2つのプラセボ対照・第二相臨床試験が、夏/秋に計画されている
GUMCトランスレーショナル神経治療プログラムでは、ALSでの小規模な試験も計画されている

ノバルティスNovartisによると(2015年10月現在as of)、1日800mgでのニロチニブによるCMLの治療にかかるコストは月当たり約10,360ドルである
今回の研究ではそれよりは低く、1日当たり150か300 mgの用量だった


http://dx.doi.org/10.3233/JPD-160867
Nilotinib Effects in Parkinson’s disease and Dementia with Lewy bodies.
パーキンソン病ならびにレヴィ小体認知症におけるニロチニブの効果


要旨Abstract

背景Background:
我々はチロシンキナーゼのAbelson (Abl) を阻害するニロチニブの低用量での影響を、安全性と薬物動態pharmacokineticsについてパーキンソン病またはレヴィ小体認知症において評価した

目的Objectives:
この研究の主要評価項目/一次転帰primary outcomesは、安全性と忍容性tolerabilityである
薬物動態、標的との結合target engagemenは副次的な評価secondaryだが、臨床的な転帰は探求するexploratory

方法Methods:
12人の被験者subjectを150mg (n = 5) または 300mg (n = 7) のグループにランダムに割り振り、ニロチニブを経口で毎日24週間投与させた

結果Results:
進行したパーキンソン病の被験者において、150mg と 300mg の用量は安全safeで、忍容性toleratedが示された
ニロチニブは脳脊髄液(CSF)で検出され、標的であるAblと結合するように思われる
運動ならびに認知的な転帰outcomesから、臨床的転帰に対する潜在的に有益な効果が示唆された
ベースライン時と24週時との間でホモバニリン酸のCSFレベルは有意に増加した
調査のためのCSFバイオマーカーを計測した


結論Conclusions:
この小規模だが概念実証proof-of-concept的な研究ではプラセボ群を欠き、参加者は均質homogenousではない
その結果としてベースライン時でのグループ間の、そしてグループ内での違いが生じた
このことはバイオマーカーならびに臨床データの解釈interpretationを制限し、どんな結論であれ注意深く引き出されるべきである/any conclusions should be drawn cautiously
にもかかわらず、今回の共通した観察は、ニロチニブの安全性と効能をさらに大規模なランダム化、二重盲検、プラセボ対照試験で評価するための根拠となることを示唆する



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オリゴマーのα-シヌクレインやドーパミンで修飾されたα-シヌクレインは高い親和性でミトコンドリアのTOM20という受容体に結合し、ミトコンドリアが機能するために必要なタンパク質のインポートが損なわれ、ミトコンドリアの老化につながり、呼吸の低下と活性酸素種(ROS)の増加を示す



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フマル酸ジメチル(DMF)と代謝産物フマル酸モノメチル(MMF)はNrf2の活性を上昇させるが、DMFはグルタチオンを枯渇させて酸化ストレスを生じ、MMFはより直接Nrf2を活性化するので、パーキンソン病の治療としてはMMFの方がいいかもしれない
 

卵巣癌にMET阻害剤が効かない理由

2016-07-12 06:06:00 | 癌の治療法
Discovery of new ovarian cancer signaling hub points to target for limiting metastasis

July 10, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160710212811.htm

Discovery of new ovarian cancer signaling hub points to target for limiting metastasis

July 10, 2016

膵臓癌と同様に、卵巣癌は比較的遅いステージで発見されることが知られている
診断時には体内の別の箇所に広がっていることが多く、だてに『サイレント・キラー』と呼ばれてはいない
It is not called "the silent killer" for nothing.

診断時に少なくとも3分の2の女性がステージ3以降で、転移は既に始まっている
そのような女性たちで5年間生存するのは25%未満である一方、
幸運にもステージ1か2で診断されて癌が留まっている女性では70%から90%の間である


コールド・スプリング・ハーバー研究所/Cold Spring Harbor Laboratory(CSHL)の研究チームは、卵巣癌細胞の転移の根本にあるシグナル伝達イベントへの新たな洞察に至ったとGenes & Development誌で報告した

「統計学的な資料からは進行した卵巣癌、つまり転移に対して早急に対処する必要性が指摘される」
今回の研究でほとんどの実験を実施したGaofeng Fan, Ph.D.は言う
彼の指導者mentorはCSHLのNicholas K. Tonks教授である

「この問題は特に難しく、その理由はこのタイプの癌の特殊性にある
卵巣の細胞は腹腔液を介して容易に腹腔を動き回り、それは正常時でも癌の存在下でも同じである
したがって、卵巣癌の細胞は血管に加えてもう一つの方法でも移動して転移する
患者から手術で完全に取り除くのが難しい理由は、この卵巣癌の拡散的な特徴による」


FanとTonksたちは、卵巣細胞が卵巣癌へと形質転換する際に経由するこれまで未発見だった経路を明らかにした
これは新薬で標的にする絶好の機会excellent opportunityをもたらすと彼らは考えており、
現在開発中の他の薬剤と組み合わせることで転移を食い止めるstave offことも可能かもしれないという

今回新たに発見された経路はFERというタンパク質の活性に依存する
FERは非受容体型チロシンキナーゼ/non-receptor tyrosine kinaseというタンパク質ファミリーの一員で、FERは細胞質に浮いているように存在してリン酸基phosphate groupを他のタンパク質に付加することができる

Fanたちが一連の実験で実証したように卵巣癌細胞ではFERが『上方調節(つまり過剰に産生)』されており、
そして重要なことに、卵巣癌細胞の運動性motilityと浸潤性invasivenessの原因だった
これらはヒトの培養された卵巣癌細胞ならびにマウスモデルで観察された

CSHLチームによる鍵となる重要な発見は、FERが卵巣細胞の表面にある受容体を『下から』活性化できるということである

受容体は細胞の膜を貫通して細胞質に突き出しているが、FERはその細胞質側の一部と相互作用をする
その受容体は卵巣癌ではよく知られた標的のMET受容体であり、METは典型的には成長因子のHGFが細胞の表面で結合することによって活性化される
METは卵巣腫瘍の最大60%で過剰に発現し、その活性化は癌の開始ならびに予後の悪い進行癌の両方と関連する

※METは受容体型チロシンキナーゼ/receptor tyrosine kinase(RTK)

驚くことではないが、METは数多くの薬剤開発の標的であり、それらの共通した目的はMETの活性化の阻害である
しかし、これまでのMET阻害剤の候補は単独で投与しても弱い抗腫瘍効果しか見られなかった

「どうやら卵巣癌細胞は別の方法を見つけて、癌を促進するMETのシグナル伝達の『下流』を活性化しているようだ」
Fanは言う

FanとTonksのFERに関する研究の重要性/意義significanceは、HGF成長因子がMET受容体の表面に連結dockingすることなくFERがどのようにしてMETを『下から』活性化するのかを明らかにしたことにある

彼らはこのFERが細胞内でMETに結合して一連の細胞シグナル伝達イベントを開始するという経路を『非リガンド依存的/non-ligand-dependent』と呼び、一連の複雑な生化学的な実験および動物実験で追跡した
それらの経路はすべて以前の研究において
RAC1/PAK1やSHP2-ERKを含めた癌の開始cancer initiationと直接関連付けられてきたconnectedものだった


FERは単にMET受容体にリン酸基を付け加えるだけでこれらの発癌性のカスケードoncogenic cascadesを開始することから、FERそれ自体が潜在的に魅力的な薬剤の標的になる
FanたちはFERを抑制することが癌細胞の運動性motilityを低下させ、転移を明確sharplyに減少させることを卵巣癌の動物モデルで実証し、薬剤の標的たりうることを証明した

「我々はFERが卵巣癌細胞の運動性と浸潤性にとって必須であることをin vitroとin vivoの両方で示した」
Tonksは言う

「METの頻繁な増幅が現在開発中の治療への抵抗性の原因であり予後の悪さにつながることを考慮すれば、我々の研究結果は卵巣癌だけでなく他の癌でも、MET活性化におけるFERの役割を含むシグナル伝達 の中心となる重要なハブを新たに示すものだ
これは治療的介入の新しい戦略をもたらす可能性があり、それはおそらくMET阻害剤と共にFERを抑制する薬剤を投与するようなものになるだろう」


http://www.cshl.edu/news-and-features/discovery-of-new-ovarian-cancer-signaling-hub-points-to-target-for-limiting-metastasis.html
HGF-independent Regulation of MET and GAB1 by Non-Receptor Tyrosine Kinase FER Potentiates Metastasis in Ovarian Cancer.
非受容体型チロシンキナーゼFERによるMETとGAB1の調節はHGFには依存せずに卵巣癌の転移を助長する




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カプマチニブというMET阻害剤はメラノーマに単独で使っても一時的な効果しかないが、BRAF阻害剤のエンコラフェニブとMEK阻害剤のビニメチニブに組み合わせて患者由来の異種移植マウスモデルに投与すると完全かつ持続的な腫瘍退縮が観察された



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卵巣癌に対するCSF1R阻害剤はマクロファージの数と腹水を減少させる
 

ミトコンドリアのストレスが癌の代謝的な移行を引き起こす

2016-07-10 06:06:32 | 
Mitochondrial stress induces cancer-related metabolic shifts

July 7, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160707083121.htm


(ミトコンドリアのストレスはカルシウムイオン/カルシニューリンを介して120近い遺伝子の発現を誘発する
それらの遺伝子は細胞の代謝、形態、アポトーシスへの抵抗性、細胞の浸潤に関与し、さらにMDM2の発現低下によってp53が上方調節される
p53レベルの上昇は物理的結合とユビキチン化によってHif-1aレベルを負に調節し、Hif-1aは急速に分解される
まとめると、この研究はミトコンドリアのストレスはHif-1a経路の活性化に依存せず単独で細胞の代謝の変化を誘発することを示す

Credit: University of Pennsylvania)

癌の腫瘍が育つためにはエサを食べなければならず、無調整の増殖には安定した血流と栄養を必要とする
したがって、癌を一掃しようと試みる研究者が取る方法の一つは、
腫瘍の急速な成長を可能にするような代謝的移行をしている細胞を標的とすることである

しかし、ペンシルベニア大学の新たな研究結果は、そのような努力が『腫瘍に役立つ代謝的変化を可能にするために鍵となる重要な経路』を見落としてきたことを示唆する

彼らはミトコンドリアのストレスだけでp53を含む経路を通じて代謝的な移行を引き起こすことを発見した
p53は癌において多くの重要な役割を演じることが知られるタンパク質である

「我々が調べた5つの癌細胞の系統の全てで、ミトコンドリアの機能が影響を受けると p53が誘導された」
首席著者senior authorのNarayan Avadhaniは言う
彼はペンシルベニア獣医学校の生医科学部において生化学のHarriet Ellison Woodward Professor教授職である

「ここから我々は、HIF-1α経路からは独立して腫瘍の増殖を促進する可能性を発見するに至った
HIF-1αはこれまで治療的な介入の主な標的とされてきた経路である」

この研究は癌がどのようにして進行するのかについての我々の理解を深める新たな要素を指し示す
代謝的ストレスのマーカーは、癌の悪制度や転移のしやすさを示すバイオマーカーとして使える可能性すらある
この研究はOncogene誌で発表される


Avadhaniたちは以前の研究で、ミトコンドリアの破綻が腫瘍の成長につながることを示している
ミトコンドリアはしばしば『細胞の発電所』と呼ばれるが、その理由はミトコンドリアが細胞のエネルギーの『通貨』であるATPを作り出すからであり、細胞はこのATPを利用して様々な機能を実行する

彼らは関連する研究で、ミトコンドリアをストレスにさらすとp53の増加が引き起こされることも観察していた
しかし、その発見についてこれまで追跡調査はしていなかった

p53はヒトの癌の約5割で変異していることから、腫瘍を抑制する機能があると広く信じられている
彼らはミトコンドリアのストレスとp53との間のつながりについて詳しく調べようと決めた


彼らが癌細胞を含む6つの細胞系統で実験的にミトコンドリアDNA(mtDNA)を枯渇させてミトコンドリアにストレスを与えたところ、枯渇に応じてp53レベルが増加した

癌ではHIF-1αの活性がp53に対して『補足的な役割』と『正反対の役割』の両方を演じることが知られているため、p53の増大に対してHIF-1αがどのようにして反応するのかを調べたところ、p53はHIF-1αの活性を阻害していることが判明した

細胞系統の中からヒトの結腸癌の細胞系統を特に選んでp53を実験的に消去すると、彼らは再びHIF-1αとの関連を発見した
p53を消去した結腸癌の細胞系統は、野生型の結腸癌細胞系統よりもHIF-1αの活性が6倍も高かったのである
これもまたp53がHIF-1αを阻害することを示していた

この結果がミトコンドリアDNAの枯渇と厳密には関連しないことを確かめるため、研究者はミトコンドリアのストレスを別の手段で誘発させた
化学物質を使い、ミトコンドリアの膜を破綻させることにより、それが全てp53を誘導することを明らかにした

さらなる研究により、p53はHIF-1αレベルを核と細胞質の両方で低下させることが分かった
ミトコンドリアDNAが枯渇すると、HIF-1αに応答する遺伝子が鈍くなるbluntedことも明らかになった

特筆すべきこととして、細胞がブドウ糖を分解してエネルギーを作る解糖系という代謝プロセスに関与する複数の遺伝子の発現が、ミトコンドリアDNAを枯渇させると劇的に上昇したjumped dramatically
これらの中のいくつかは通常はHIF-1αによって調節されているのと同じ遺伝子であり、これはつまりミトコンドリアのストレスは、HIF-1α経路と似てはいるが完全に異なる経路として癌細胞に代謝的な移行を引き起こすことを示している

最後に、研究チームはmtDNAが枯渇した細胞ではp53が物理的にHIF-1αへ干渉することを実証した
p53はHIF-1αが通常結合する遺伝子のプロモーターに結合できないように妨害し、
そしてHIF-1αのユビキチン化プロセスを促進して分解される目印となるタグを付けていた


今回の発見は、癌の成長を支える環境を育む代謝的な移行を妨げるための新たな方向性と標的を指し示すものだ

「我々はミトコンドリアのストレスも、考慮すべき『力force 』であることを示す」
Avadhaniは言う

「代謝的な変化を防ぐために HIF-1αにのみ焦点を合わせても、それではおそらく十分ではない
ミトコンドリアのストレスも、それらと全て同じ変化を誘発する」

Avadhaniたちはこれらの先端的な研究を追求する中で、
ミトコンドリアストレスの分子的なマーカーを標的にするような治療的介入を設計すべく研究を続け、
充実性腫瘍の『食事feed』を助ける代謝的な移行を阻止head offしようと試みている


http://dx.doi.org/10.1038/onc.2016.211
Mitochondrial stress-induced p53 attenuates HIF-1α activity by physical association and enhanced ubiquitination.
ミトコンドリアストレスによって誘導されるp53は物理的結合ならびにユビキチン化促進によりHIF-1αの活性を弱める

Abstract
逆行性シグナル伝達retrograde signalingは、ミトコンドリアの機能不全を核に伝えて細胞の生存に必要な代謝的移行metabolic shiftを誘導するためのメカニズムである

我々は以前、様々な細胞タイプにおいてミトコンドリアDNA(mtDNA)の一部を枯渇させるとミトコンドリアから核への逆行性シグナル伝達経路/mitochondrial retrograde signaling pathway (MtRS) が誘導されることを示した
この経路にはカルシウムイオン(Ca2+)に感受性のカルシニューリンcalcineurin(Cn)の活性化が含まれ、即時に起きるストレス応答の上流イベントである

多くの細胞タイプで、このストレスシグナル伝達は不死化細胞において腫瘍形成性の表現型を誘導することが示された

この研究で我々は、MtRSがp53の発現も誘導することを示す
p53の発現はCa2+のキレート化剤chelatorsによって阻害され、そしてショートヘアピンRNA(shRNA)を介するCnAβ mRNAのノックダウンによっても抑制された

※CnAβ: カルシニューリンcalcineurin(Cn)は触媒サブユニットのCnAと調節サブユニットのCnBからなるヘテロダイマーで、CnAには
という3つのアイソザイムが、CnBにはという2つのアイソザイムがある

ミトコンドリアのイオノフォアionophoreである『カルボニルシアニドm-クロロフェニルヒドラゾン/carbonyl cyanide m-chlorophenyl hydrazone』によって誘発されるミトコンドリアの機能不全は
膜貫通/膜内外電位差transmembrane potentialを破綻させ、p53の発現誘導ならびにMDM2の下方調節に等しく有効だった

ストレスによって誘導されるp53は、物理的に低酸素誘導因子/hypoxia-inducible factor-1α (HIF-1α) と相互作用して、後者のプロモーターDNAモチーフへの結合を抑制する

加えて、一部のmtDNAが枯渇した細胞においてp53はHIF-1αのユビキチン化と分解を促進した

mtDNAが枯渇した細胞ではHIF-1αが阻害されていながら、解糖系経路の遺伝子であるグルコーストランスポーターの1から4(Glut1, Glut2, Glut3, Glut4)、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1)、グルコキナーゼが上方調節されていたが、プロリン水酸化酵素アイソフォームはそうではなかった

この点で、我々の結果は MtRSがHIF-1α経路とは独立して腫瘍の成長を誘発することを示す



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/dfcb999fdeae70ab72096799bc592d75
ミトコンドリアの電子伝達系の異常は核への逆行性シグナルを介して癌のような変化を起こさせる



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/b3cae58e45c1c6f2092ed2cf3408b90e
非定型カドヘリンのFatカドヘリンが失われるとミトコンドリアは不安定になり、細胞は必要とするエネルギーを発生するために解糖系へと切り替える
 

癌はミトコンドリアを利用して運動性と転移能を得る

2016-07-09 06:06:29 | 
Mitochondria are exploited in cancer for tumor cell motility, metastatic competence

A newly identified pathway for this mechanism also provides a viable, 'drugable' target for many different types of tumors

July 7, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160707151117.htm

細胞の発電所powerhouseであるミトコンドリアはあらゆる生き物にとって重要だが、その理由はエネルギーを作るだけではなく細胞の生存をコントロールするからである
しかし、癌においてミトコンドリアがどのように機能しているのかはまだ完全には理解されていない

このことは特に重要である
なぜなら一般的に腫瘍細胞は正常な組織と比べて急速に増殖proliferateするため、科学者たちはミトコンドリアの機能を保存するメカニズムが腫瘍の増殖expansionを支える原因ではないかと疑ってきたからである


今回ウィスター研究所の科学者は、腫瘍細胞のミトコンドリア内に存在する特有specificのタンパク質ネットワークを突き止めた
このネットワークはミトコンドリアの『故障のない/完全なclean』機能を維持するために必要であり、腫瘍細胞の増殖を可能にするだけでなく遠隔臓器に移動して浸潤できるようにする

関与する要素を理解したことによりウィスターの科学者はネットワーク内の個々のサブユニットをオフにすることが可能となり、癌細胞の増殖して転移する能力を大幅に低下させた
PLOS Biology誌で発表された彼らの研究結果はそれが魅力的な治療標的になりうることを示唆する

「これは生合成の高い必要性に対処すべく腫瘍がどのようにして急速に適応するかという一例である」
ウィスター研究所の所長Presidentであり最高経営責任者/Chief Executive Officer(CEO)のDario C. Altieri, M.D.は言う
今回の論文の首席著者lead authorの彼はウィスター癌研究センターでは部長directorであり、特別教授職のRobert & Penny Fox Distinguished Professorでもある

「ミトコンドリアは、増殖と転移に必要なエネルギーを加工処理processする腫瘍の能力に強く関与する
そのため、異常な増殖と転移を支えるために腫瘍がどのようにしてミトコンドリアの機能を維持して利用するのかというメカニズムを突き止めることは、様々な癌における新たな治療標的を明らかにする可能性がある」


以前の研究で、タンパク質を折りたたんで安定化する能力、つまりタンパク質恒常性proteostasisは、細胞のストレスを減らすために重要であるという証拠がもたらされていた
加えて、腫瘍はタンパク質恒常性のメカニズムを自分に有利なように乗っ取ることが知られていたが、それがミトコンドリアでどのようにして起きるのかはほとんど知られていないままである
ウィスター研究所によって記述されるネットワークはこの疑問に答え、その重要な役割を立証した

さらに、そのネットワークの中でも特にClpPがヒトの原発癌と転移性の癌において全般的に過剰発現しており、生存の短さと相関することが明らかになった
科学者は今回の研究だけで乳癌、前立腺癌、結腸癌、肺癌、メラノーマ、リンパ腫の全てでClpPサブユニットが過剰発現していることを突き止めた


「ミトコンドリア機能に関与する経路を標的とした少なくない関心が存在し、我々はそのような経路の一つを明らかにした
それは様々な癌に共通し、創薬可能な(druggable)標的をもたらす」
ウィスターのAltieriラボでpostdoctoral fellowであり、研究の筆頭著者first authorであるJae Ho Seo, Ph.D.は言う

「他の研究でミトコンドリアタンパク質の標的化が実現可能であることが前臨床モデルで示されてきた
そのため、我々が今回の研究で明らかにしたネットワークを乱すことは腫瘍の進行につながる重要なプロセスを停止させる可能性がある」


http://dx.doi.org/10.1371/journal.pbio.1002507
The Mitochondrial Unfoldase-Peptidase Complex ClpXP Controls Bioenergetics Stress and Metastasis.
ミトコンドリアのアンフォールダーゼ-ペプチダーゼ複合体であるClpXPは生体エネルギーストレスと転移を制御する

Abstract
ミトコンドリアは、タンパク質毒性的なストレスproteotoxic stressのリスクから生体エネルギーbioenergeticsを存続させるための緩衝剤bufferとして働く
しかし、疾患におけるこれらのメカニズムの役割はほとんど理解されていない

我々はプロテオミクススクリーニングを用いて、ミトコンドリアのアンフォールダーゼとペプチダーゼの複合体であるClpXPが腫瘍細胞のミトコンドリアにおいて癌タンパク質のサーバイビンsurvivin(BIRC5)ならびに呼吸鎖の複合体IIサブユニットであるコハク酸デヒドロゲナーゼB/succinate dehydrogenase B(SDHB)と結合することを示す

ClpXPのサブユニットであるClpP(Caseinolytic Protease, ATP-Dependent, Proteolytic Subunit Homolog)またはClpX(Caseinolytic Mitochondrial Matrix Peptidase Chaperone Subunit)のノックダウンはミスフォールドしたSDHBの蓄積を誘発し、酸化的リン酸化とATP産生を損ない、『ストレス』シグナルである『5′アデノシン一リン酸/5′ adenosine monophosphate(AMP)によって活性化されるタンパク質キナーゼ(AMPK)』のリン酸化とオートファジーを活性化する

ClpXPを標的とすることによって誘発されるミトコンドリア呼吸の調節不全はin vivoで酸化ストレスを引き起こし、それは続けて腫瘍細胞の増殖を低下させ、細胞の運動性motilityを抑制し、転移性の播種metastatic disseminationを無効化した
さらに、ClpPは原発癌と転移性の癌で全般的に過剰発現し、患者の生存の短さと相関する

したがって、腫瘍はClpXPによって方向づけられるタンパク質恒常性/ClpXP-directed proteostasisを利用してミトコンドリアの生体エネルギーbioenergeticsを維持し、酸化ストレスを緩衝し、転移する能力を可能にする
この経路は癌における『新薬の開発につながる/druggable』な治療標的をもたらす可能性がある


Author Summary
細胞の発電所であり酸化ストレスの中枢ハブであるミトコンドリアは、ミトコンドリアに含まれるタンパク質の状態を厳密に制御する必要があり、きちんと折りたたまれなかった/ミスフォールドmisfoldedしたタンパク質、凝集したタンパク質、さもなくば損傷したタンパク質は急速に除去される

今回我々は腫瘍のミトコンドリアが『タンパク質恒常性protein homeostasis/proteostasis』の統合ネットワークを組み立てることによりタンパク質セットを管理し、それによりタンパク質の折りたたみfoldingと分解degradationを制御することを示す
このタンパク質複合体は、アンフォールダーゼとペプチダーゼであるClpXP、サーバイビンsurvivin、Hsp90様シャペロンのTRAP-1から形成され、酸化的リン酸化の複合体IIサブユニットであるsuccinate dehydrogenase B (SDHB) の機能を調節する

我々はこのプロセスへの干渉がエネルギー産生を損ない、酸化ストレスを促進し、重要な下流のシグナルを停止させることを発見した
このシグナルはin vivoでの腫瘍細胞の増殖、浸潤、転移性播種にとって重要である

我々の結果はミトコンドリアのタンパク質恒常性ネットワークが進行した癌における治療の機会をもたらす可能性を示唆する



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