機械翻訳2

興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

2014年12月11日

2014-12-31 23:37:18 | 天文

研究者はダーク・マターからのシグナルを検出した可能性がある
Researchers detect possible signal from dark matter



結局、ダーク・マターが存在する具体的な証拠はこの宇宙に存在するのだろうか?

EPFLの素粒子物理学宇宙論研究所(LPPC)とライデン大学の科学者はおびただしい量のX線データを厳密に調査し、ダーク・マターの粒子のシグナルを特定した可能性があると考えている。ダーク・マターは現在は全くの仮説であり、重力を除く物理学の標準的なモデルの何によっても作用を受けない。彼らの研究は次週のフィジカル・レビュー・レターズで発表される。

http://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.113.251301


銀河の力学と星の運動を研究する物理学者は、謎に直面する。彼らが目に見える物質だけを考慮する時、彼らの方程式は単純な合計にはならない。観察されうる要素は物体の回転と既存の重力を説明するためには不十分であり、そこには失われた何かが存在する。

このことから彼らは「光とは相互作用しないが全体としては重力と相互作用する見えない物質があるにちがいない」と推論した。この「ダーク・マター」と呼ばれる物質は、宇宙の少なくとも80%を構成するようである。

最近、Oleg RuchayskiyたちEPFLの科学者と、オランダのライデン大学の教授Alexey Boyarskyは、ペルセウス座銀河団アンドロメダ銀河が発するX線を分析することによりずっと探し求められてきたシグナルを検出したと発表した。

ESA(欧州宇宙機関)のXMM-ニュートンX線衛星から得られた何千というシグナルから既知の粒子と原子に由来するすべてのシグナルを消去し、さらに機器と測定の誤差の可能性を考慮した後に検出された異常が、彼らの注目をとらえた。そのシグナルは弱く、そして非典型的な光子の放出としてX線スペクトルで現れ、これまで知られているどんな種類の物質にも由来しない。

とりわけ「それらの銀河の中のシグナル分布は、我々がダークマターを予測していたものとまさしく対応するものだ。つまり天体の中央にシグナルは強く集中し、縁に近いほど弱くなり拡散する」、Ruchayskiyは説明する。

「我々は次に我々自身の銀河である天の川のデータを分析して、同じシグナル分布を観察した」、Boyarskyは言う。

このシグナルは宇宙できわめてまれな出来事、つまり仮説の粒子である「ステライルニュートリノ」の崩壊によって発された光子であると思われる。もしこの発見が確認されれば、粒子物理学の研究に新しい道が開けるだろう。

「この発見が確定すれば、ダークマター粒子のシグナルを研究する望遠鏡の新しい構造の設計に通じるかもしれない」、Boyarskyは言う。

ビデオ:
https://www.youtube.com/watch?v=aogKkzESbgs&feature=youtu.be

記事供給源:
上記の記事は、スイス連邦工科大学ローザンヌ校によって提供される素材に基づく。

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141211115520.htm



<コメント>
ダークマターの候補とされる「ステライルニュートリノ」が崩壊するシグナルを捕らえたかもしれないという記事です。

去年6月のNASAESAからの発表を訳して要約したAstroartsさんの記事の中に、

>ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのEsra Bulbulさんらの論文公開を受けて他の研究者からも同様の輝線を見つけたとの報告があり、誤検出の可能性は小さくなった。

とありますが、この「他の研究者」が今回の記事のAlexey Boyarsky氏です(Bulbul氏の論文の公開を受けて報告したというわけではないと思いますが)。

>Only a week after Bulbul et al. placed their paper on the arXiv, a different group, led by Alexey Boyarsky of Leiden University in the Netherlands, placed a paper on the arXiv reporting evidence for an emission line at the same energy in XMM-Newton observations of the galaxy M31 and the outskirts of the Perseus cluster. This strengthens the evidence that the emission line is real and not an instrumental artifact.


2014年12月29日

2014-12-30 21:52:06 | 

糖分子はマウスで赤身肉の消費と高い癌リスクを関連づける
Sugar molecule links red meat consumption and elevated cancer risk in mice



多くの赤身肉を食べる人は特定の癌のリスクが高くなることが知られているが、他の肉食動物はそうではない。そのような観察から、カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部の研究者はNeu5Gcという糖分子が腫瘍の形成に関与する可能性を調査するに至った。Neu5Gcはほとんどの哺乳類で自然に見られる分子だが、ヒトには存在しない。

PNASの12月29日のオンライン速報版で発表される研究によれば、ヒトと同様に糖分子Neu5Gcが欠けるよう設計されたマウスにNeu5Gcを与えたところ、自然発生癌(spontaneous cancer)が著しく促進された。

※自然発生癌: 誘発癌(induced tumor)に対応する言葉

この研究は発癌物質、つまり人工的に癌を引き起こす物質への曝露はしておらず、Neu5Gcを赤身肉消費と癌との間の重要なつながりとしてさらに関連づけるものである。

「これまで、Neu5Gcと癌を関連づける我々の証拠の全ては、状況証拠かまたはいくぶん人為的な実験的構成から間接的に予測されたものだった」、医学部・細胞分子医学の特別教授(Distinguished Professor)で主任研究員のAjit Varki医学博士は言う。彼はカリフォルニア大学サンディエゴ校ムーアズがんセンターの一員である。

「ヒト以外のNeu5Gcを与えて抗Neu5Gc抗体を誘導するという『ヒトの正確な状況』を模倣することが、マウスで自然発生癌を増加させることを直接示したのはこれが初めてである。」



Varkiの研究チームは初めに一般的な食品のシステマティックな調査を実施し、赤身肉(牛肉、ポーク、ラム)にはNeu5Gcが豊富であり、そのような哺乳類由来の食品がヒトの食事におけるNeu5Gcの主な供給源であることを確認した。

この分子は生物が利用可能(bio-available)であることも明らかにした。それはつまり体内に吸収されて血流に乗り、体全体の組織に分配されることを意味する。研究者は以前、ヒトの組織は動物のNeu5Gcを吸収できることを発見している。

今回の研究で彼らは、もし食べた動物に由来する異質な分子であるNeu5Gcに対して体の免疫システムが常に抗体を生じると、赤身肉が炎症の原因になり得ると仮定した。慢性的な炎症は腫瘍形成を促進することが知られている。

この仮説を確かめるため、研究チームは自身のNeu5Gcを持たないという点でヒトを模倣するマウスを設計した。このマウスはNeu5Gcに対する抗体を産生する。このマウスにNeu5Gcを与えると、全身性の炎症が引き起こされた。自然発生腫瘍の形成は5倍に増加し、Neu5Gcは腫瘍に蓄積した。

「ヒトにおける最終的な証明を得るのはずっと難しいだろう」、Varkiは言う。

「しかしより一般的な注釈(general note)をすると、本研究は赤身肉の消費と他の(腫瘍以外の)疾患との潜在的な関係を説明するのを助けるかもしれない。疾患とは例えばアテローム性動脈硬化症と2型糖尿病のような、慢性炎症によって悪化するような疾患である。

「もちろん、適度な量の赤身肉は若者にとって優れた栄養の供給源となるだろう。我々の研究が、この八方ふさがりの状態(catch-22)にとって実際的な解決策へと最終的につながることを我々は望んでいる。」

記事供給源:
上記の記事は、カリフォルニア大学サンディエゴ校健康科学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.赤身肉由来の多糖(glycan)は、炎症と癌進行を促進する。

PNAS、2014年12月;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141229152226.htm

<コメント>
赤身肉(red meat)は哺乳類の成体(adult mammal)の肉のことです。牛や豚の肉に含まれているNeu5Gcという分子はヒトには存在しないため、体内に入ってくると抗体が作られて炎症が生じ、マウスの実験では癌の自然発生が促進されたという記事です。

Wikipediaを見ると、世界がん研究基金(WCRF)とアメリカがん研究協会は赤身肉を腸癌リスクの増加につながるとして、WCRFは赤身肉を「週」あたり300グラム未満(調理後の重さ)にするよう推奨しています。

実際、Cancer Research UKにも同様のことが書かれています

関連記事を見ると、赤身肉と関連する直結腸癌のリスクをレジスタントスターチが低下させるかもしれないという記事があります。レジスタントスターチは冷えたご飯やポテトサラダに多く含まれる炭水化物です。

日本の疫学研究でも上記の内容を支持する結果が出ているようです。

http://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/3452.html
>赤肉と加工肉について、各研究を総合して摂取量最低群に対する最高群の相対リスクを推計するメタアナリシスを行ってみました。
>すると、赤肉摂取による大腸がんのリスクはOR=1.16(95%信頼区間1.001-1.34)、同じく結腸がんのリスクはOR=1.21(95%信頼区間1.03-1.43)となり、有意なリスクの上昇が見られました。
>また、加工肉摂取による大腸がんのリスクはOR=1.17(95%信頼区間1.02-1.35)、同じく結腸がんのリスクはOR=1.23(95%信頼区間1.03-1.47)となり、やはり有意なリスクの上昇が見られました。

2014年12月22日

2014-12-28 22:41:05 | 代謝

レスベラトロールが健康への効果を発揮するための基本的なメカニズムが新たに発見される
New, fundamental mechanism for how resveratrol provides health benefits uncovered



スクリップス研究所(The Scripps Research Institute; TSRI)の科学者は、かつては若さの万能薬(elixir of youth)として宣伝された赤ワインの成分レスベラトロールが、ヒトの細胞で進化的に古くから存在するストレス応答経路を強力に活性化することを発見した。この発見は、レスベラトロルが本当はどのように作用するかという謎と論争の多くを追い払うはずである。

「このストレス応答経路は、これまでほとんど見のがされてきた生物学の階層を示す。レスベラトロールは以前の研究と比べて非常に低い濃度でもその応答を活性化することが判明した」、TSRIのSkaggs化学生物学研究所の一員で、シニア研究員のPaul Schimmel教授は言う。

「レスベラトロールのこれまで知られてきた有益な作用には、未知の根源的なメカニズムがある。」

この発見は12月22日のNatureオンライン先行版で報告される。



レスベラトロールはブドウやカカオ豆、日本のタデ(knotweed)などの植物から得られる化合物であり、病原体への感染やかんばつ、紫外線放射などのストレスに反応して作られる。

レスベラトロールは過去10年間、広範囲にわたって科学と大衆の関心を引きつけてきた。その理由は、レスベラトロールが肥満のマウスで寿命を延長して糖尿病を抑制し、通常のマウスでは車輪の上でのランニングのスタミナを上げたと研究者が報告したことによる。

しかし最近、レスベラトロールが健康を促進するために活性化するシグナル経路に関してこの分野の科学者の意見は一致せず、想定されている健康効果のいくつかは疑問視された。特に、非現実的なほど高い投与量を与えた実験に関して。


SchimmelとSajishは、この論争については『部外者』だった。Schimmelの研究室はレスベラトロールではなく、古くから存在する酵素のファミリーであるtRNA合成酵素に関する研究で知られている。この不可欠な酵素が果たす主な機能は、遺伝子の配列をアミノ酸へと翻訳してタンパク質を作るのを助けることである。しかしSchimmelたちが1990年代後半から示してきたように、tRNA合成酵素は哺乳類において広範な追加機能を獲得した。

以前TSRIで化学生理学と細胞分子生物学部の教授でSchimmelの研究室の一員だったXiang-Lei Yangは、いくつかのヒントを見つけた。アミノ酸のチロシンを運ぶtRNAにチロシンを結合させる「TyrRS」というtRNA合成酵素はストレスの多い状態下で細胞核に移動することが可能であり、それは一見するとストレスに応答する保護的な役割に関与するようだった。

Sajishは、レスベラトロールにもTyrRSと同様のストレスに応答する特性が広範囲に見られることに注目した。更に、レスベラトロールはTyrRSの正常な結合パートナーであるチロシンに似ていた。

「私はレスベラトロールの潜在的な標的としてTyrRSを調べ始めた」、彼は言った。

今回の新しい研究でSajishとSchimmelはTyrRSとレスベラトロールを共に配置してX線結晶構造解析を含む試験を行い、レスベラトロールは実際にTyrRSのチロシン結合ポケットにぴったり適合するほど非常にチロシンに似ていることを示した。

TyrRSはレスベラトロールに結合すると、そのタンパク質を翻訳する役割から離れて細胞核での機能に向かう。研究者は核内でレスベラトロールと結合したTyrRSを追跡して、PARP-1というタンパク質をつかまえて活性化することを確認した。PARP-1は寿命に対する重要な影響を持つと考えられる主要なストレス応答・DNA修復因子である。

TyrRSによるPARP-1の活性化は、次に宿主保護的な遺伝子の活性化につながった。その遺伝子には癌抑制遺伝子p53遺伝子、長寿遺伝子FOXO3AとSIRT6が含まれる。



2000年代前半のレスベラトロールに関する最初の研究では、その健康に対するプラスの効果の一部はSIRT1を活性化することによって発揮されることが示唆された。そしてSIRT1は長寿遺伝子であるとも考えられた。しかし最近になって、これまで報告されてきたレスベラトロールの健康を促進する効果に対して、SIRT1が特定の役割を果たしているのかが疑われるようになった。

しかしながら、TyrRS-PARP-1経路は、以前の有名な研究のいくつか(SIRT1に焦点を合わせた研究を含めて)で用いられた用量より1,000倍も低い量のレスベラトロールによって明確に活性化されることを研究チームの実験は示した。

「これらの結果に基づくと、レスベラトロールが豊富な赤ワインを2グラス適度に消費すれば、この経路によって保護的な効果を引き起こすのに十分なレスベラトロールが得られると考えられる」、Sajishは言う。非現実的なほど高い投与量だけに現れたレスベラトロールの効果は、いくつかの先行発見を混同したのかもしれないと彼は考えている。



なぜレスベラトロールは植物で作られるにもかかわらず、ヒトのストレス応答経路を強力に、しかも特異的に活性化するのだろう?

その理由はおそらく、植物の細胞においてもほぼ同じだからである。そしてその理由はおそらく、またもTyrRSによる。

TyrRSはアミノ酸に結合するという生命にとって非常に根源的なタンパク質であり、動物と植物が進化的に独立した道のりを別々に進み始めた時から何億年たってもあまり変化しなかった。

「我々は、TyrRSが根源的な細胞保護メカニズムのトップレベルのスイッチ、つまり活性化因子として作用するように進化したと考えている。それは生命のほとんど全てのタイプで作用する」、Sajishは言う。

レスベラトールが哺乳類において自然に持つどんな活性であれ、それはホルメシス(hormesis; 毒物が毒にならない程度で刺激効果を示すこと)の例であるかもしれない: 健康を促進する程度の、ストレス応答経路の軽度の自然な活性化。

「もしレスベラトロールが重要な利益を哺乳類にもたらすならば、哺乳類はレスベラトロールを作る植物との共生関係(symbiotic relationship)を進化させたのかもしれない」、Sajishは言う。



「我々はこれが氷山の一角でしかないと考えている」、Schimmelは言った。

「レスベラトロールのような有益な効果を持つアミノ酸の『模造品』がもっとたくさんあると考えられる。我々は今それに取り組んでいる。」

Schimmelと彼の研究室は、レスベラトロールよりもさらに強力にTyrRSストレス応答経路を活性化できる分子も捜している。

記事供給源:
上記の記事は、スクリップス研究所によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.ヒトtRNA合成酵素は、レスベラトロールにとって強力なPARP1活性化エフェクター標的である。

Nature、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141222111940.htm

<コメント>
レスベラトロールはチロシンtRNA合成酵素のTyrRSの活性部位に対してチロシンの代わりに結合して核に移行させ、PARP-1と結合してp53、FOX3A、SIRT6を活性化させるという記事です。

Natureではチロシンとレスベラトロールを並べた図を見ることができます。






2012年1月26日

2014-12-28 00:23:47 | 代謝

手術前のタンパク質またはアミノ酸の制限は、外科合併症のリスクを低下させる可能性がある
Limiting protein or certain amino acids before surgery may reduce risk of surgical complications



ハーバード公衆衛生大学院(HSPH)の研究結果によると、手術前の数日間に特定の必須栄養素(タンパク質またはアミノ酸のどちらか)を制限すると、深刻な外科合併症(例えば心発作または脳卒中)のリスクを低下させる可能性がある。この研究はScience Translational Medicineの2012年1月25日号で出版される。

「ストレスへの抵抗性を上げる方法として食品を制限するのは、直観に反するように見えるかもしれない。しかし実際には、栄養が十分な状態はこの種の傷害に対して影響を受けやすくすることを我々のデータは示す」、HSPHで遺伝学と複合性疾患の助教授であるジェームズ・ミッチェルは言う。

ミッチェルと、HSPHで以前ポストドクターだったWei Pengたち研究者は、マウスを2つのグループに分けて分析した。1つ目のグループは6日~14日間普通に食べさせた; もう1つのグループにはタンパク質を含まないか、アミノ酸の1つであるトリプトファンが欠けた食事を与えた。次に双方のグループは、腎臓または肝臓を害する可能性がある外科的侵襲(surgical stress)を受けた。その結果、通常通り食べることを許されたマウスは約40パーセントが死亡した。タンパク質とアミノ酸を含まない食事のマウスはすべて生き残った。

さらに、アミノ酸の濃度を感知する遺伝子を除去するとこの保護的な作用は打ち消された。このことは、特定のアミノ酸の欠乏よりも、むしろ欠乏によって活性化される経路こそが、実験で観察された有益性の要因であることを示唆し、その経路を標的にする薬への可能性を開くものである。

この結果が重要である理由は、合併症を避けるために手術前の食事から除去する成分としてタンパク質を特定したためである。心臓血管外科に関連した脳卒中リスクは手法によるが0.8%から9.7%の範囲であり、心発作リスクは3%~4%である。



数十年にわたる多くの動物実験で、科学者は長期の食事制限が健康状態を改善して寿命を長くする可能性があることを発見してきた。この恩恵にはストレス抵抗性の増加、炎症の減少、血糖調節と心血管健康の改善が含まれ、その多くはヒトにも当てはまる。しかしながら、恩恵がカロリーの供給源のどれか(脂肪、糖質、タンパク質)を制限していることによって生じているのか、または単純に総カロリーの制限から生じるのかについては議論がある。

ショウジョウバエに関する最近の研究は、タンパク質を限定する恩恵を証明した。HSPHの研究は、齧歯動物においてタンパク質またはアミノ酸制限の恩恵を確定することによってさらに利益を明快にすることを目指したものである。

次のステップとしてミッチェルは、食事前処理(dietary preconditioning)がマウスと同様にヒトでも作用して手術関連のリスクを低下させるかを確かめようとしている。彼らはボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院の同僚たちと共に、手術前のタンパク質を含まない食事での臨床試験の計画を実施している。

本研究は、米国国立衛生研究所の米国立老化研究所と米国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所、Ellison Medical Foundation、アメリカ老化問題研究連盟(American Federation for Aging Research)、そして、William F. Milton Fundによって支援された。

記事出典:
上記の記事は、ハーバード公衆衛生大学院によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.マウスでの単一のアミノ酸欠乏によって誘導される手術侵襲抵抗性は、Gcn2を必要とする。

Science Translational Medicine、2012;

http://www.sciencedaily.com/releases/2012/01/120125143113.htm

<コメント>
前回の関連記事です。トリプトファンを制限すると外科的侵襲から保護されますが、それにはアミノ酸の不足を感知してタンパク質の翻訳を阻害するGcn2というキナーゼが必要であるという内容です。

http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/08ef498cd34459a32830865d82343ed1
メチオニンとシステインを制限すると硫化水素の産生が増加して、虚血後の再灌流障害から保護する

http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/a851c519fb9007934c774d69a3e99e79
イブプロフェンはトリプトファンの取り込みを阻害して、寿命を延長する

2014年12月23日

2014-12-26 16:21:22 | 代謝

食事制限による健康的な効果の分子メカニズムが特定される
Molecular mechanism behind health benefits of dietary restriction identified



ハーバード公衆衛生大学院(Harvard School of Public Health; HSPH)の研究者は、食事制限による健康効果の背後にある重要な分子メカニズムを特定した。ここでいう食事制限とは栄養失調にならない程度に食品の摂取を減らすことであり、カロリー制限とも呼ばれる。

食事制限が実験動物の加齢を遅らせることはよく知られているが、今回の研究でメチオニンとシステインという2つのアミノ酸を制限すると硫化水素(H2S)の産生が増加して、虚血後の再灌流障害(ischemia reperfusion injury)に対して保護されることが示された。再灌流障害とは、臓器移植や脳卒中の間に起きるような血流の中断の後に生じる組織の損傷である。

食事制限に応じて増加するH2S産生は、ワームとハエ、そして酵母での寿命の延長とも関連していた。



大量のH2Sガスは非常に有毒であるが、自然に生じる硫黄泉に存在する程度のH2Sは健康効果と長い間関連していた。哺乳動物の細胞も少量のH2Sを生じるが、しかしこの分子が直接食事制限の健康効果へ関連づけられたのはこれが初めてである。

「今回の発見は、H2Sが食事制限による有益性の一因となる重要な分子の1つであることを示唆する。それは哺乳類でも下等動物でも同様である」、シニア・オーサーであり遺伝学と複合性疾患(complex diseases)の准教授でもあるジェームズ・ミッチェルは言う。

「H2Sがどのようにその有益な作用を発揮するかを理解するためにはもっと多くの実験が必要ではあるが、この結果はヒト疾患と加齢を防ぐための我々の努力においてどの分子を治療的な標的とすればいいのかについての新しい見通しを我々に与える。」

この研究は2014年12月23日のCellオンライン版で公開される。



食事制限とは食事への介入であり、それには食品摂取全体の減少、タンパク質のような特定の多量栄養素(macronutrients)の消費の減少、または間欠的な一定期間の絶食などが含まれる。

食事制限は組織傷害からの保護や代謝の改善といった有益な健康作用を持つことが知られ、酵母から霊長類まで複数のモデル生物の寿命を延長することも示されている。これらの作用の分子的な説明は完全には理解されていないが、それには食事制限それ自体に起因する軽度の酸化ストレスによって活性化される保護的な抗酸化応答が必要であると考えられた。

ファースト・オーサーであり遺伝学と複合性疾患学部のリサーチ・フェローでもあるChristopher Hineたちは、1週間の食事制限が抗酸化応答を上昇させ、マウスを肝臓虚血再灌流障害から保護することを証明した。

しかし驚くべきことに、この保護的な作用は、そのような抗酸化応答を持たない動物でも損なわれなかった。その代わりにこの保護はH2Sの産生の増加を必要とすることを研究者は発見した。そしてそれは2つの含硫アミノ酸、メチオニンとシステインの食事摂取量の減少によって生じた。食事にこれらの2つのアミノ酸を補うとH2Sの産生は増加せず、食事制限による有益性も消失した。

さらに、酵母とワーム、ハエなど他の生物での食事制限による寿命延長のためには、H2S産生に関与する遺伝子が必要であることも明らかになった。

「これらの発見は、食事介入がどのように寿命を延長して組織傷害から保護するかについての我々の理解を深めるものである。臨床的にすぐに活かすとすれば、手術のように虚血性傷害のリスクが比較的高く、計画された急性ストレスの前に、何を食べるべきで何を食べないべきかについて重要な影響を持つ可能性がある」、Hineは言う。

記事出典:
上記の記事は、ハーバード公衆衛生大学院によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.内因性の硫化水素産生は、食事制限の有益性のために必須である。

Cell、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141223122220.htm



<コメント>
食事制限でメチオニン(methionine)とシステイン(cystein)の摂取を減らすと、体内での硫化水素(H2S)の産生が増加して、「虚血後の再灌流による傷害」に対する保護が得られるという記事です。

Abstractにはこう書かれています。

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食事制限 (DR) によるストレス抵抗マウスモデルにおける含硫アミノ酸 (sulfur amino acid; SAA) の制限は、含硫置換基移動(transsulfuration)経路 (TSP) のシスタチオニンγ-リアーゼ (CGL) を増加させ、その結果として硫化水素 (H2S) 産生が増加して肝臓での虚血再灌流による傷害 (ischemia reperfusion injury) から保護する。

SAAの補足/mTORC1の活性化、または化学的/遺伝的なCGLの阻害はH2S産生を減少させ、DRによるストレス抵抗性を阻害した。In vitroではミトコンドリアタンパク質のSQR (succinate-coenzyme Q reductase; コハク酸CoQレダクターゼ/複合体II) が、栄養/酸素の不足している間のH2Sによる保護に必要である。

含硫置換基移動/TSP経路に依存的なH2S産生は、酵母、ワーム、ショウジョウバエ、げっ歯類を含む食事制限/長寿動物モデルで観察される。
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虚血性心疾患の再灌流による傷害はコハク酸の蓄積によるという研究が最近ありました。今回の研究もコハク酸が関係しているようです。


食事制限により増加するというシスタチオニンγ-リアーゼ(Cystathionine gamma-lyase)は、ビタミンB6の活性体であるピリドキサールリン酸を補酵素として、L-システインからピルビン酸+NH3+H2Sを生じるなどの反応を触媒する酵素です。以前ハンチントン病と関連があるという記事が掲載されました。

イブプロフェンが酵母におけるトリプトファンの取り込みを阻害して寿命を延長するという記事が少し前にありましたが、今記事の関連記事にも手術前のタンパク質/トリプトファンの制限は手術後の合併症のリスクを低下させるという記事があります。今回と同じハーバード公衆衛生大学院のジェームズ・ミッチェルたちの研究グループによるもので、マウスでトリプトファンを欠乏させることで手術によるストレスへの抵抗が誘導され、そのためにはGcn2が必要という研究です。

Gcn2は、アミノ酸の不足またはTORC1の不活化により活性化して、翻訳開始因子のeIF2αをリン酸化してタンパク質の生合成を阻害するキナーゼです。


2014年12月18日

2014-12-24 23:53:05 | 代謝

イブプロフェンはいくつかの種で寿命を伸ばす
Ibuprofen use leads to extended lifespan in several species, study shows



Texas A&M(agricultural and mechanical)AgriLife Researchの科学者によると、薬局で普通に買うことができる解熱鎮痛剤は長寿と健康の鍵を握るかもしれないという。PLOS Genetics誌で発表される研究でイブプロフェンは標準的な投与量で複数の種の寿命を延長した。

「我々は最初に加齢モデルとして確立されているパン酵母を用いて、イブプロフェンを投与した酵母の寿命が長くなることに気がついた」、カレッジ・ステーションのAgriLife Researchの生化学者であるMichael Polymenis博士は言う。

「次に我々はワームとハエで同じプロセスを試みて、同じように寿命の延長を観察した。さらにこれらの生物はより長く生きるだけでなく健康そうに見えた。」

ヒトで推奨される投与量に相当する量を与えられた生物は、約15パーセント寿命が延長した。ヒトで言えばそれは健康な人生が十数年ほど増えることに等しいだろう。



イブプロフェンは1960年代の前半にイギリスで生み出された比較的安全な薬である。最初は処方箋が必要だったが、1980年代には世界中でOTCで購入できるようになった。WHOの基本的な健康システムのために必要とされる「必須の薬剤のリスト」にはイブプロフェンが含まれる。イブプロフェンには解熱鎮痛作用があり、炎症を抑制するための「非ステロイド系抗炎症薬」と説明される。

Texas A&M 大学の生化学と生物物理学部の教授でもあるPolymenisは、Buck Institute for Research on Aging(カリフォルニア州ノヴァト)の社長兼CEOであるBrian Kennedy博士と、さらにロシアとワシントン大学の研究者たちと共に研究を進めた。Polymenisたちの3年をかけたプロジェクトにより、イブプロフェンはトリプトファンを取り込む酵母の能力に干渉することが示された。トリプトファンはあらゆる生命が利用し、ヒトにとっても必須のアミノ酸である。我々はそれを食事中のタンパク質から得ている。

「これがなぜ作用するかについては不明だが、これはさらに調べるに値する。本研究は、ヒトにおける一般的で比較的安全な薬がきわめて多様な生物の寿命を延長することができることを示す原理証明(proof of principle)であった。ゆえに、イブプロフェンのような他の薬が見つかる可能性は存在するはずである。それは寿命を延長する能力がさらに高く、健康に過ごす時間を増やす目的で使うことができる。」

記事出典:
上記の記事は、Texas A&M AgriLife Communicationsによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.イブプロフェンによる寿命の延長は複数の種で保存され、それは酵母ではトリプトファン取り込みの阻害を通して生じる。

PLoS Genetics、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141218141004.htm

<コメント>
解熱鎮痛剤のイブプロフェンが長寿の薬のヒントになるかもしれないという記事です。

本文によれば、イブプロフェンはトリプトファンに親和性が高い輸送体(aromatic amino acid transporter/permease)を不安定にして分解させることで作用します。

ただしイブプロフェンによって寿命が延長した酵母のトリプトファン濃度の低下は15%から20%で、細胞内のアミノ酸が極端に欠乏する程ではありません。

>Finally, we would like to note that when ibuprofen was added at the dose that extended RLS (replicative lifespan), the drop in tryptophan levels was 15–20% (Fig. 2B and S3 Table).
>Hence, the cells were not severely limited for tryptophan, or any other amino acid (Fig. 2B and S3 Table),

少ない投与量での細胞周期(G1)の適度な遅れが、寿命の延長に効果があると推測されているようです。

>Perhaps a moderate delay in G1 progression produces such beneficial effects in lifespan.

>At low doses, ibuprofen causes a moderate cell cycle delay, mimicking the profile of LL mutants (Fig. 5), and extends lifespan (Fig. 1A).

>At higher doses, however, ibuprofen delays cell proliferation more severely (Fig. 5).

過剰なタンパク質の摂取は癌や糖尿病のリスクを高めるという記事や、トリプトファンから変換されるキヌレニンがうつ病の一因になり得るという記事が過去にありました。タンパク質の摂取は控え目にしておくのが今のところは良いと思われます。


2014年12月18日

2014-12-23 23:46:17 | 

神経腫瘍学者は、癌細胞が酢酸を燃料として使えることを発見する
Neuro-oncologists discover cancer cells can burn acetate for fuel



テキサス大学サウスウエスタン・メディカル・センターの研究者は、脳腫瘍は燃料として酢酸を燃焼できることを発見した。この研究結果は腫瘍増殖を止めるための新しい潜在的な標的を提供する。



何が癌細胞の成長に燃料を供給するのか?

この疑問に対して研究者はずっと奮闘してきた。癌細胞が主な燃料としてブドウ糖を用いることは75年以上も前から知られていたが、脳でグルコースレベルを制御することにより癌成長を停止させる努力はうまくいかなかった。

「がん細胞の燃料はブドウ糖だけではないことを我々は特定した」、シニア著者のRobert Bachoo博士は言う。彼は神経学、神経医療、内科学の助教授であり、そしてハロルド C.シモンズがんセンターのメンバーでもある。

「酢酸は燃料と代謝産物を作り出すために用いられ、代謝産物は細胞が生き残って増殖するために必要なものを作るために使われる。」



今回の研究ではまず最初に、特別に設計されたマウス・モデルが使われた。このマウスの脳腫瘍が増殖する様子は、特に分子および代謝性特性に関してヒトの脳腫瘍にきわめて類似している。彼らはマウスに13C-酢酸と13C-ブドウ糖を共に注入し、腫瘍が燃料として酢酸を燃焼させることを示した。

「これは、酢酸がこうして細胞によって用いられることを示す初めての証拠である。印象的だったのは、我々が研究した全ての癌細胞が同じように酢酸を燃焼できる能力を持つということだった」、Elizabeth Maher博士は言う。彼女はハロルド C.シモンズがんセンターならびにアネットG.シュトラウス神経腫瘍学センターの一員であり、神経腫瘍学のセオドアH.シュトラウス教授職を保持する。

「我々が調査した全ての腫瘍は酢酸を代謝する酵素であるACSS2の発現を上昇させた。そして神経膠腫は成長するために酢酸に依存的であるようだ。」

研究者はさらに、2例の神経膠芽腫患者と、乳癌と肺癌の外科的切除を受けた2例の脳転移患者において、彼らの発見を実証した。

「その分析はヒトの腫瘍が酢酸を強く燃焼させることを示した」、神経腫瘍学アネットG.シュトラウス・センターの一員であり、神経腫瘍学でミラー・ファミリー教授職を保持するBachoo博士は言う。

「したがって、ACSS2は利用できる治療法が限られたこれらのきわめて悪性の腫瘍にとって治療学的な標的となる可能性がある。」

関連した研究と組み合わせたCell誌の添付のプレビュー論文は、「本研究によって提供される洞察は、癌代謝における潜在的に利用可能な脆弱性として酢酸代謝を位置づける」ことを示した。

記事出典:
上記の記事は、テキサス大学サウスウエスタン・メディカル・センターによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.酢酸は、ヒトの神経膠芽腫と脳転移のための生体エネルギー的な基質である。

Cell、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141218140845.htm

<コメント>
癌細胞はブドウ糖だけでなく酢酸も燃やせるという記事です。

アル中の人の脳は酢酸を燃料にできるというJCIでの論文があったので驚くよりもむしろ納得したのですが、やはり癌細胞は人体のあらゆるプログラムを利用できるのだなと実感します。

癌幹細胞はケトン体も使えるという記事が最近ありました。



2014年12月18日

2014-12-22 22:41:31 | 免疫

免疫応答における内因性レトロウイルスの新しく有益な機能を特定する
Scientists identify new, beneficial function of endogenous retroviruses in immune response



レトロウイルスは、AIDSのような伝染性疾患や散発的ながんを引き起こすことが知られている。しかしテキサス大学サウスウエスタン・メディカル・センターの研究者とスウェーデンのカロリンスカ研究所の新しい研究によれば、内因性レトロウイルス(endogenous retroviruses; ERV)は一般的な細菌およびウイルス病原体に対する免疫においても重要な役割を果たす。

「ほとんどの科学者はレトロウイルスが概して有害であるという見方に慣れている」、2011年のノーベル賞受賞者、Bruce Beutler博士は言う。彼はテキサス大学サウスウエスタン宿主防御遺伝学センターのディレクターでもある。

「しかしERVは、少なくとも防御抗体の産生にとって重要な機能を果たすことが明らかになった。」



レトロウイルスは生殖細胞を含めた感染細胞のゲノムDNAの中に入りこむことができる。そうしたDNAへの挿入やレトロトランスポジションと呼ばれるプロセスにより、レトロウイルスはヒトのゲノムの大半を占めるようになった。人間のDNAの約45パーセントはレトロウイルスが起源であり、良く保存されたコピーのいくつかは「内因性レトロウイルス」(ERV)と名づけられている。

B細胞は細菌の多糖類のような大きい重合体抗原によって活性化されるとT非依存性タイプ2抗体産生応答(T-independent antibody response Type II; TI-2)により素早く防御抗体を生じるが、この応答はERVに依存的であることを研究者は発見した。

活性化したB細胞内ではERVのRNAコピーの発現は促進され、RNAは次に逆転写酵素という酵素によってDNAに複製される。ERVのRNAコピーはRIG-Iによって検出され、DNAコピーはcGASによって検出される。これらの2つのタンパク質はB細胞にシグナルを伝えて、活性化状態を維持して増殖し、抗体を産生し続けることを可能にする。

宿主防御遺伝学センターの分子生物学教授でハワード・ヒューズ医学研究所の研究員でもあるZhijian "James" Chen博士は、今回の研究で重要な2つのタンパク質、MAVSとcGASを発見した。

「これらの発見は、RNAとDNAを感知する経路が、ERVの検出ならびに適応免疫応答の活性化において重要な役割を果たすことを示唆する」、Chen博士は言う。

RIG-IまたはcGAS経路の要素を欠くマウスは、T細胞非依存性抗原タイプIIに対する応答の減少を示す。この2つの経路がどちらもないマウスは、抗体産生応答をほとんど全く示さない。さらに、逆転写酵素阻害剤もT非依存性タイプII抗体産生応答を部分的に阻害する。

宿主防御遺伝学センターのポストドクター研究者であり研究の筆頭著者でもあるMing Zeng博士は、通常は細胞質でレトロウイルスのDNAコピーを分解させるTREX1という酵素の突然変異が自己免疫疾患を引き起こすことを強調する。

「しかし、このB細胞を活性化するERV DNAの能力は生理的なようである: この種のT非依存性抗体産生応答は(常に)起こっているはずである。」




「いったんレトロウイルスが宿主の生殖細胞系の一部になると、ゲノムのあらゆる部分がそうであるようにそれが有益であるかどうかの「選択」を受ける。そして、自然免疫応答を活性化するウイルスの能力は宿主に利用されたようだ」、カロリンスカ研究所で微生物学・腫瘍・細胞生物学の教授であるGunilla Karlsson Hedestam博士は言う。

Beutler博士は、これが「良い」目的のために使われるERVの独立したケースであると証明されるかは疑問に思っている。そして実際には、そのすべてが良いとは限らない。

「おそらく、B細胞のERVの『生理的な』活性化は、炎症とがんの新しい関連を示す可能性がある。」

重要な受容体ファミリーを発見することにより2011年のノーベル医学・生理学賞を受賞したBeutler博士は言う。

学術誌参照:
1.T非依存性B細胞応答におけるMAVS、cGASと内因性レトロウイルス。

Science、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141218141057.htm

<コメント>
内因性レトロウイルス(ERV)はT非依存性抗原(TI-2)によるB細胞の免疫応答を増幅するために必要であるという記事です。

Abstractによれば、まずT非依存性抗原により刺激されて活性化したB細胞ではERVのRNAコピーが上方調節されます。そのRNAはRIG-Iまたはその下流のMAVS(mitochondrial antiviral signaling protein)によって検知され、次にRNAからDNAに逆転写されるとcGAS-cGAMP-STING経路によって検知されます。それによりB細胞はさらに活性化して増殖し、IgMの産生が増加します。つまり、ERVは生理的な機能の一部として組み込まれていることになります。

SLE患者のCD4陽性Tリンパ球、CD8陽性Tリンパ球、そしてBリンパ球では、ヒト内在性レトロウイルス(HERV)の中でも長い散在性反復配列 (LINE) のL1のメチル化のレベルが低下していることが報告され、自己免疫疾患の発症に寄与する可能性が知られています。


2014年12月17日

2014-12-20 22:55:01 | 癌の治療法

抗体を模倣する新しい種類の分子の合成
New class of synthetic molecules mimics antibodies



エール大学の研究室は、抗体のターゲッティング機能と応答機能を持つ分子を世界で初めて合成した。この合成擬似抗体(synthetic antibody mimics; SyAM)と呼ばれる新しい分子は、癌細胞と免疫細胞に対して同時にくっつく。その結果として起きる免疫応答は、ヒトの抗体と同様に標的に対して非常に特異的である。

「しかしながら、我々の開発した合成有機化合物は抗体とは異なる。この分子のサイズは抗体の約20分の1である」、エール大学ラボのDavid A. Spiegel教授は言う。

「この分子は不必要な免疫反応を引き起こす可能性は低く、その構造のために熱的に安定であり、経口で投与できる可能性がある。」



Journal of the American Chemical Societyのオンライン版で12月16日に発表された論文では、SyAM分子を特に前立腺癌(prostate cancer)を攻撃するのに用いた(SyAM-P)。このSyAM-P分子はまず最初に癌細胞の表面の特異的なタンパク質を認識して結合し、次に免疫細胞の受容体とも結合する。この結合により標的に対して特異的な免疫応答が生じて、癌細胞は破壊される。

分子を合成して構造を最適化するプロセスはかなりの時間と努力を必要としたとSpiegelは言う。

「この適度なサイズの合成分子は、標的を捉えて、免疫細胞を刺激するという、おそらく抗体の最も重要な機能的特性を備えている。」

「このような小さいサイズの分子が細胞ほども大きい2つの物体を接触させることが可能であり、完全に特異的な受容体の相互作用の結果として機能的応答を引き起こしたことは注目に値する」、Spiegelは付け加えた。

SyAMは前立腺癌の治療だけでなく、他のタイプの癌やHIV、さまざまな細菌を治療するために応用できるかもしれない。Spiegelはエール大学がんセンターのメンバーでもある。

記事出典:
上記の記事は、エール大学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.抗体のターゲッティング機能とエフェクター機能を持つ化学合成分子。

Journal of the American Chemical Society、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141217113656.htm

<コメント>
抗体と同様の機能を持ちながら、大きさは20分の1しかなく経口投与が可能かもしれないという合成擬似抗体の開発に成功したという記事です。



2014年12月16日

2014-12-19 23:56:38 | 腸内細菌

遺伝子は『腸』の細菌に影響して、クローン病と潰瘍性大腸炎を引き起こすかもしれない
People's genes may influence 'gut' bacteria that cause Crohn's disease, ulcerative colitis



Genome Medicineで発表された国際チームによる新しい研究によると、ヒトの遺伝子はクローン病と潰瘍性大腸炎(炎症性腸疾患; IBD)を引き起こす腸内細菌の一部に影響する可能性がある。抗生物質は腸微生物のアンバランスを悪化させ得ることも確かめられた。



アメリカのクローン病大腸炎財団によれば、およそ160万人のアメリカ人がクローン病または潰瘍性大腸炎を患う。これらの疾患の原因を理解することは、予防と処置に向けた新たなステップである。

「腸内細菌(腸マイクロバイオーム)は若い時に形成され、生きている間ずっと健康に大きな影響を及ぼし続ける」、ミネソタ大学のコンピュータサイエンス・エンジニアリング学部、バイオテクノロジー研究所の助教授で、研究の筆頭著者でもあるDan Knightsは言った。

「我々は、不均衡な腸微生物の発達の形成に関与する可能性がある遺伝子のグループを発見した。」

ミネソタ大学のKnightsたちは、ハーバード、MIT、トロント大学、フローニンゲン大学医療センターと協力して研究を実施した。これはこの種の研究では最大規模のものである。今回の研究では、マサチューセッツ州ボストン(米国)、オンタリオ州トロント(カナダ)、フローニンゲン(オランダ)に住む合計474人の成人IBD患者から成る3つの独立したコホートを調査した。医師と看護婦は被験者のDNAと腸内細菌のDNAを約2年間採取し、何千もの微生物とヒトの遺伝子を調べた。

その結果、ヒト被験者のDNAは腸内細菌と関連があることが示され、それは二つまたは全てのコホートで再現された。IBD患者は細菌の生物多様性(biodiversity)が低く、そして日和見性の細菌が多かった。

細菌の腸内コミュニティは複雑であり、ヒトの遺伝的性質だけでなく、年齢、性別、薬剤など他の様々な因子によって影響を受ける。例えば本研究では、抗生物質の使用が腸内細菌コミュニティのアンバランスさと関連することを確認した。先行研究では、腸内細菌と多種多様な疾患リスクの増加との間の関連が示されてきた。例えば糖尿病や自閉症、心疾患、そしていくつかのタイプの癌もである。

「多くの場合、我々はこれらの細菌がどのように疾患の我々のリスクに影響するかについて今もなお学んでいる、しかし、ヒトの遺伝の構成要素を理解することは謎を解明することにおける必要なステップである」、Knightsは言う。

学術誌参照:
1.複雑な宿主遺伝は、炎症性腸疾患におけるマイクロバイオームに影響する。

Genome Medicine、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141216123831.htm



<コメント>
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease; IBD)の患者の腸内は生物多様性(biodiversity)が低く、その一部は遺伝子の多型によるというものです。

Abstractを見ると、前回の記事にも登場した腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の相対存在量(relative abundance)は、NOD2のリスク多型と関連が見られたとあります。腸内細菌科には、大腸菌が属するエシェリキア属、腸チフスや急性胃腸炎を起こすサルモネラ属、細菌性赤痢を起こすシゲラ属、ペストや結節性紅斑を起こすエルシニア属などが含まれます。実際、ガンマプロテオバクテリア綱(Gammaproteobacteria)は炎症を引き起こしてCDとUCでの腸管上皮の通過が増加するとされています。

>We identified increased Enterobacteriaceae in subjects with higher NOD2 risk allele dosage (FDR = 0.11, controlling for multiple taxa tested) (Figure 2b; Additional file 7).

>An increase in Gammaproteobacteria is a known component of IBD dysbiosis and is associated with inflammation in mice and humans [4,33] and with increased epithelial penetration in CD and UC [34].

さらに、NOD2はクローン病のリスク増加にのみ関連するにもかかわらず、NOD2と細菌叢の関連はクローン病/潰瘍性大腸炎の診断とは独立していたそうです。

>NOD2 also had one of the most strongly reproducible associations with microbiome composition when comparing cohorts.

>Although NOD2 is only associated with increased risk of CD, NOD2-microbiome associations we observed were generally independent of CD/UC diagnosis, with high overlap between CD and UC when tested separately.

>This implies that the association may be disease-independent, and may play a role in pathogenesis only in subjects with other risk factors.

>For example, NOD2 SNP rs5743293 is associated with complications in ileo-anal pouch patients despite their original diagnosis being UC [35-38].

他にもIL-12、IL-23、JAK2-STAT3経路といったTh17などとの関連が示されたようです。こちらの動画を見ると理解しやすいと思います。



2014年12月11日

2014-12-18 22:33:38 | 腸内細菌

腸内微生物叢とパーキンソン病疾患: 関連が発見される
Gut microbiota and Parkinson’s disease: Connection made



ヘルシンキ大学とヘルシンキ大学中央病院で実施された研究によると、パーキンソン病の患者の腸の微生物叢は健康な人のそれとは異なる。研究者たちは現在、腸の微生物とパーキンソン病にはどんな関係があるのかを確かめようと努力している。

「我々の最も重要な観察は、パーキンソン病の患者の腸内にはプレボテラ科(Prevotellaceae family)の細菌が非常に少ないということである; 対照群とは異なり、患者のほとんど誰もこの科の細菌の量は多くなかった」、ヘルシンキ大学病院(HUCH)神経学臨床講義の神経学者、Filip Scheperjans医学博士は言う。この研究は国際パーキンソン運動障害学会の臨床学術誌であるMovement Disordersで発表された。

パーキンソン病患者におけるプレボテラ科細菌の欠乏が何を意味するのかについて、研究者はまだ結論を出していない。これらの細菌には宿主を疾患から保護する特性があるのか? それともこの発見は、ただ単に腸の機能不全が病理の一部であることを示すだけなのか?

「それは我々が答えようと努力している興味深い質問である」、Sheperjansは言う。



さらに興味深いことに、腸内細菌科(Enterobacteriaceae family)の細菌の量は、患者のバランスと歩行の問題の重症度と関連していた。患者がより多くの腸内細菌科を持つほど、症状はより重度である。

「現在我々は被験者を再検討しているところだ。この違いは永続的なのか、そして腸内細菌は疾患とその予後の進行と関連するのか」、Sheperjansは説明する。

「加えて、細菌の生態系のこれらの変化は運動症状(motor symptoms)が現れる前から存在するのかどうかを観察しなければならないだろう。我々はもちろん、腸内微生物叢とパーキンソン病疾患の関係の基礎も確認しようとしている。どんなメカニズムがそれらを結びつけているのか。」

記事出典:
上記の記事は、Helsingin yliopisto(ヘルシンキ大学)によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.腸内微生物叢は、パーキンソン病ならびに臨床表現型と関連がある。

Movement Disorders、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141211081120.htm

<コメント>
パーキンソン病の腸内細菌は健康な人とは異なるという記事です。

Abstractには、パーキンソン病患者の糞便中のプレボテラ科(Prevotellaceae)が平均して77.6%減少していたとあります。ただしプレボテラ科の相対存在量(relative abundance)だけでは感度は高いものの(86.1%)特異度は低く(38.9%)、パーキンソン病を見分けるためには使えないようです。

腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の相対存在量は、症状の重症度(体位不安定性postural instability、歩行困難gait difficulty)と関連したとあります。

以前からパーキンソン病の原因は腸にあるという仮説があり、今回の研究結果もそれを補強するものになりそうです。


2014年12月16日

2014-12-17 21:58:43 | 医学

白皮症の謎を明らかにする新しい研究
New research unlocks a mystery of albinism



「パッチクランプ法」を使った研究により、白皮症albinism)におけるメラニン産生の欠乏の根底にはメラノソームのイオンチャネルに関する問題があることが示唆された。新しく発表された研究は、よくある種類の白皮症と関連する遺伝子突然変異がどのようにメラニンの欠乏に通じるかという最初の証拠を提供する。

世界では約40,000人に1人が2型の眼皮膚白皮症(type 2 oculocutaneous albinism)である。彼らは異常に明るい毛髪と皮膚の色合い、そして視力の問題があり、日光に関連する皮膚や眼の癌になりやすい。この病態がOCA2という遺伝子の突然変異と関連することは約20年前から知られていたが、その突然変異がどのようにメラニンの欠損につながるかについては理解されていなかった。

今回の新しい研究でブラウン大学の生物学者Nicholas BellonoとElena Oanceaの研究チームは、メラノソーム上に存在するイオンチャネルが適切に機能するためにOCA2タンパク質が必要であることを示した。メラノソームはメラニンが作られて貯蔵される細胞内の小器官である。

このイオンチャネルは、帯電した塩素イオン分子をメラノソームから出入りさせる通路のようである。メラノソームにOCA2が存在しないか、OCA2に白皮症と関連する突然変異があると、塩素イオンの流れが生じない。それによりおそらく酸性度の高さが持続して、メラノソームはメラニンを産生しなくなる。



これまでメラノソームの適切な機能にとってイオンチャネルが重要であることは不明だった。その理由はメラノソームが一般にあまりに小さく、「パッチクランプ法」により電気的性質を正確に計測することができなかったためである。OanceaとBellonoはメラノソームと同類のエンドリソソーム(エンドソーム+リソソーム)のような小器官から研究を開始したが、それはパッチクランプ法で研究するには十分なくらいまで大きくできるからである。

彼らはエンドリソソームにOCA2を発現させて、塩素イオンの通過に関する電流を測定した。この実験は、OCA2タンパク質がイオンチャネルと関連するという最初の重要な証拠を提供した。

エンドリソソームを使った実験ではさらに、OCA2の突然変異V443I(443番目のバリンがイソロイシンに変わる変異)が特にイオンチャネルに影響した。その突然変異は、タンパク質の正常なバージョンと比較して塩素イオンの電流を85パーセント減少させた。

エンドリソソームは酸性の小器官だが、正常なOCA2を発現させると酸性度は減少してpHは6を超えた。この数字は、チロシナーゼtyrosinase)というタンパク質がメラノソームでメラニンを産生するために必要とされるpHである。



白皮症でOCA2のV443I突然変異の役割を本当に理解するためには直接メラノソームを見る必要があったため、彼らは有能な同僚に助けを求めた。

ペンシルベニア大学の共著者マイケル・マークスは、異常に大きいメラノソームを生じる突然変異のマウス皮膚細胞を彼らに紹介した。同じブラウン大学で研究する(works down the hall)医科学教授のAnita Zimmermanは、ウシガエルの網膜は特に大きいメラノソームを持つという情報を提供した。大きいメラノソームを使ったパッチクランプ実験により、彼らは塩素イオンチャネルが機能しないV443I突然変異の役割を確認した。

さらに彼らは、正常なメラノソームと、干渉RNAでOCA2産生を阻害したメラノソームとで塩素イオン流を比較して、OCA2の存在しないメラノソームでは塩素イオンの流れが非常に小さく、メラニンの産生も少ないことを発見した。彼らが正常なOCA2またはOCA2のV443I変異体を加えると、正常なOCA2タンパク質だけがイオンの流れとメラニン産生を回復した。

メラノソームのイオンチャネルでのOCA2タンパク質の役割の多くの詳細は依然として不明だが、この研究はメラノソームの産生を維持するための重要なメカニズムを示していると著者は言う。

記事出典:
上記の記事は、ブラウン大学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.色素形成のために重要な、細胞内の陰イオン・チャネル。

eLife、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141216100636.htm


<コメント>
アルビノの一種ではメラニンを生成するメラノソーム内部のpHを保つために必要なOCA2が機能していないという記事です。

数年前、メラノサイト内のpHを酸性にすることでチロシナーゼ活性を低下させる化粧品がポーラから発売されていたようです。


2014年12月15日

2014-12-17 16:36:04 | 

小児期の神経障害の治療方針
Therapeutic strategy may treat childhood neurological disorder



テキサス大学サウスウエスタン・メディカル・センター研究者は、神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1; NF1)を治療し得る治療法を特定した。NF1は学習障害と自閉症が特徴の小児期の神経疾患であり、ニューロフィブロミンneurofibromin)というタンパク質をコードする遺伝子の突然変異に起因する。

研究者は、マウスにおけるニューロフィブロミンの喪失が小脳の一部の発達に影響を及ぼすことをまず最初に確かめた。小脳の機能は、バランス感覚、会話、記憶、学習である。発生生物学の主任教授であるLuis F. Parada博士が率いる研究チームは、NF1のマウスモデルで生じる小脳の解剖学的異常は、ニューロフィブロミンの喪失を打ち消す分子で処置することによって覆すことができることを発見した。



NF1はフォン・レックリングハウゼン病としても知られ、3,000人に1人がかかるまれな遺伝的障害である。NF1は行動と学習の障害、自閉症スペクトラム障害が特徴であり、神経に沿ってコントロールできない腫瘍の成長が生じる。

アメリカ国立衛生研究所によれば、ニューロフィブロミンは通常、腫瘍抑制因子として作用する。NF1遺伝子の突然変異はニューロフィブロミンの機能しないバージョンを生じ、細胞の成長と分裂が調節できなくなる。

小脳は様々な層の異なる細胞タイプから形成され、出生後も発達を続ける。小脳が完全に形成される前に、「未発達」の神経細胞は増殖して適切な部分に移動し、そこで別々の神経細胞タイプに「成熟」して小脳の層を形成する必要がある。

テキサス大学サウスウエスタンの研究者は、ニューロフィブロミンの喪失がこのプロセスに干渉して小脳の奇形につながることを発見した。ニューロフィブロミンがない小脳ではERKというシグナル経路には常に活性があり、それは正常な脳の発達に干渉する。この新しく得た知見を元に彼らはERK経路の阻害剤を生まれてすぐのマウスに投与して、小脳の解剖学的異常(anatomical defects)を覆せることが判明した。この発見はGenes and Development誌で発表される。

学術誌参照:
1.NF1によるRAS/ERKシグナルの調節は、小脳の発達における適切な顆粒ニューロン前駆体の増殖と移動のために必要である。

Genes & Development、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141215122929.htm

<コメント>
神経線維腫症1型という疾患ではニューロフィブロミンという腫瘍抑制因子に変異が生じ、RAS-ERK経路による細胞の増殖と神経の移動が制御できなくなるという記事です。

ニューロフィブロミンneurofibromin)にはGTPase活性化タンパク質(GTPase activating protein; GAP)の触媒部位と相同性があり、GTPをGDPに分解することでRASを負に制御して細胞増殖を抑制しています。


2014年12月10日

2014-12-15 23:22:55 | 

ホリデー・ターキーを分解する経路は、トリプルネガティブ乳癌の転移に燃料を供給する
Pathway that degrades holiday turkey fuels metastasis of triple negative breast cancer



サンアントニオ・乳がんシンポジウムで発表されるコロラド大学がんセンターの研究によれば、トリプルネガティブ乳癌細胞はトリプトファンの加工処理を加速して、体内を移動して新しい種をばらまく転移の間の生存を促進する。

「私は、転移性乳癌の患者が休日にターキーを食べるべきではないとは言っていない。しかし、トリプルネガティブ乳癌はより速くトリプトファンを加工処理して、体内を循環している間も生き残れる準備をする方法を発見するようだ。それにより乳癌細胞は転移することが可能になる」、論文のファースト・オーサーであるThomas Rogersは言う。



健康な細胞の場合、もともといた組織から分離するとアノイキス(anoikis; ギリシア語で「家なし」の意)というプロセスが開始され、細胞死するようにプログラムされる。これはつまりがん細胞が転移するためにはアノイキスを回避しなければならず、浮遊している間も組織から分離したまま生き残る必要があるということである。

今回の研究では遺伝子アレイを使用して、組織に付着したままの細胞と比較して、浮遊したままでも成長できるトリプルネガティブ乳癌細胞ではどの遺伝子が上向き調節されるかについて調べた。

「要するに、引き離されても生き残ることができる細胞では何が異なるかを我々は調べた」、Rogersは言う。



分離して生き残ることを学んだトリプルネガティブ乳癌細胞で起きた遺伝子発現の変化の多くはただ一つの代謝経路、キヌレニン経路に関するものだった。キヌレニン経路は必須アミノ酸のトリプトファンを分解する経路である。キヌレニン経路が速いほど、トリプトファンは速く分解される。

そしてキヌレニン経路の速度を制御するのはTDO2という酵素であり、分離していないトリプルネガティブ乳癌細胞と比較して、分離した細胞では偶然にもそれが最も上向き調節された遺伝子だった。

言い換えれば、がん細胞はTDO2を過剰発現させてキヌレニン経路の全体の速度を上げる可能性がある。トリプトファンの分解は加速され、その全てはアノイキスを免れるのを助ける。アノイキスを逃れた癌細胞は自らの「根っこを引っこ抜い」て、体内の他の場所へ転移するために十分に長く生き残れるようになる。

「癌細胞が分離してこの異化経路を開始するとトリプトファンの代謝は速くなり、癌細胞の生存を促進する」、Rogersは言う。

現在、キヌレニン経路の複雑な連鎖反応の他の酵素を標的にした薬がすでに臨床試験中である。例えばNew Link Genetics社のindoximodは、転移性乳癌に対して化学療法と組み合わせた試験が実施されている。この薬はキヌレニン経路内の機能を調整して、免疫システムが効果的に癌細胞を標的にするのを助ける。

記事出典:
上記の記事は、コロラド大学がんセンターによって提供される物質に基づく。

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141210131051.htm

<コメント>
転移するトリプルネガティブ乳癌ではTDO2(tryptophan 2,3-dioxygenase)という酵素の発現が上方調節されていて、トリプトファン分解からのキヌレニン経路を加速してアノイキスを回避するという記事です。


2014年12月9日

2014-12-13 23:44:23 | 

脳の免疫細胞の受容体を阻害することで、アルツハイマー病に対抗する
Blocking receptor in brain's immune cells counters Alzheimer's in mice



スタンフォード医科大学の研究者による新しい研究によれば、アルツハイマー病の神経細胞が大量に死ぬ原因は主にミクログリアという細胞が仕事をしなくなることから起きるのかもしれない。

マウスのミクログリアの細胞膜表面の分子の作用を阻害すると、仕事を片づける能力が回復することを研究者は発見した。それはマウスの記憶喪失と、他の多くのアルツハイマー病的な特徴を取り消した。12月8日にJCIのオンライン版で発表される今回の研究はミクログリアの重要性を示すものであり、アルツハイマー病の発症を防ぐ新しい方法に通じる可能性がある。それはまた、アスピリンとアルツハイマー病の発症率の減少との間の興味深い関連を説明するかもしれない。




脳の細胞のおよそ10-15パーセントを占めるミクログリアは、神経細胞よりも免疫細胞にかなり似ている。

「ミクログリアは脳の巡回警察官である」、研究のシニア・オーサーであり神経学と神経科学の教授であるKatrin Andreasson博士は言う。

「それらを正しく保つことは記憶喪失に対抗して健康な脳を保つことを、我々の実験は示す。」



ミクログリア細胞は最前線の手ごわい衛兵であり、周囲の環境を探査して疑わしい活動や物質を監視する。侵入してきた細菌とウイルスをむさぼり食うことによって脳を保護し、さらに別のミクログリアを呼び寄せる物質を分泌する。彼らはものを静めることの達人でもある。もし炎症が手に負えなくなると、炎症の取り締まりを強化する。

さらに彼らはごみ収集人としても働き、死んだ細胞や分子のゴミを噛み砕いて食べてしまう。そのゴミにはアミロイドベータと呼ばれるタンパク質クラスターが含まれる。アミロイドベータは粘着性の沈着物として凝集して、アルツハイマー病の解剖学的特徴であるプラークを形成する。

アミロイドベータは体の至る所で作られるが、いくつかの分子からなる可溶性のクラスターとして凝集すると神経細胞にとってきわめて有害な存在となる。このクラスターは、アルツハイマー病の発症において重要な役割を果たすと考えられている。

「ミクログリアは常にアミロイドベータを掃除して、炎症を抑制し続けていると考えられている」、Andreassonは言う。

「彼らが仕事をする能力を失うと、物事の制御は失われる。アミロイドベータは脳で蓄積して有毒な炎症を引き起こす。」

スタンフォードの研究は、このミクログリアの機能の悪化が主にミクログリアおよび神経細胞の表面にある「EP2」という単一の分子のシグナルの促進によって引き起こされるという有力なエビデンスを提供する。



Andreassonと他のラボによる以前の研究で、このEP2と呼ばれる受容体タンパク質はプロスタグランジンE2(PGE2)と結合して活性化されると、炎症を引き起こす強い潜在性があることが示されていた。

「我々の以前の研究では、マウスの脳細胞がこの受容体を持たないように生体工学によって変更すると、炎症性の活動が大幅に減少した。」

しかし研究者は、その炎症の低下の原因が神経細胞なのかミクログリアなのか、その正確な結果が何なのかが分からなかったため、実験して確かめることにした。



生存可能なミクログリアを脳から分離することは非常に難しい。しかしその同類であるマクロファージを大量に収穫することは簡単である。お互いに完全なコピーというわけではないが、ミクログリアとマクロファージは多くの遺伝子的、生化学的、行動的な特徴を共有する。

若いマウスから抽出されたマクロファージを可溶性のアミロイドベータ・クラスターと一緒にシャーレに入れると、反応は静かであった。他の細胞を呼び寄せる化学物質は生み出したが、炎症性分子の産生は増加しなかった。特に、この若い細胞のアミロイドベータを分解する酵素の産出は活発だった。

しかし、年老いたマウスから抽出したマクロファージは異なっていた: アミロイドベータはEP2の活性を大幅に増加させ、炎症性分子の産生は増強され、他を呼び寄せる化学物質ならびにアミロイドベータ消化酵素の産生は減少した。ミクログリアのEP2シグナルのこのような加齢に伴う変化は、アルツハイマー病に関係する神経病理学的特徴のいくつかを促進する可能性がある。この研究の前半でのヒントは、その後、次のような実験で裏づけられた。

Andreassonの研究チームは、ヒトのアルツハイマー病と似た状態(the mouse equivalent of Alzheimer's)になりやすい傾向を遺伝的に持つマウスに加えて、アミロイドベータまたはコントロール溶液を脳へ注入したマウスを使用した。

遺伝子操作でミクログリアのEP2を欠損させると、マウスのどちらのグループでも記憶と学習に対するアミロイドベータの悪影響は生じなかった。ミクログリアのEP2活性の阻害は、2種類の標準的なマウスの記憶検査の成績を著しく改善した。

アミロイドベータを加えた脳では、生体工学によってEP2がないマウス・ミクログリアは通常のミクログリアを大きく上回った。具体的には、他を呼び寄せる化学物質の分泌や、神経細胞に利益をもたらす因子の分泌、そして炎症を刺激するタンパク質よりも炎症に対抗するタンパク質を産生するというような重要な仕事においてである。



疫学的報告では、非ステロイド系抗炎症薬(例えばアスピリン)の使用はアルツハイマー病の発症を阻止できることが示唆される。ただし、疾患のどんな徴候でも示し始める十分に前から飲み始めた場合だけである、とAndreassonは言う。

「いったん記憶喪失のどんな気配(whiff)でも出てしまうと、これらの薬は効き目がない。」



NSAIDはCOX-1とCOX-2という2つの酵素を阻害することによって主に作用する; これらの酵素が作る分子はいくつかの別の物質に変換され、その中にはEP2に作用するPGE2が含まれる。PGE2は脳で炎症性の変化を調節し、体内でも様々な作用がある。さらに問題を難しくするのは、PGE2はCOX-1とCOX-2から生じる5つのプロスタグランジンの内のたった1つであるということだ。

したがってアスピリンと他のCOX-1/COX-2を阻害する薬には無数の作用があり、そしてそれらのすべてが有益なわけではない。ミクログリアのEP2だけ、またはその下流を阻害する化合物が、副作用のないアルツハイマー病の予防薬として適したものになるだろうとAndreassonは言う。

一方で彼女のグループは、EP2シグナルがミクログリアをダーク・サイドに過剰に突き動かす生物学的メカニズムを調べている。

記事出典:
上記の記事は、スタンフォード大学メディカル・センターによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.プロスタグランジン・シグナル伝達は、アルツハイマー病モデルにおいて有益なミクログリアの機能を抑制する。

JCI、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141209082149.htm

<コメント>
アルツハイマーの予防にNSAIDs(特にイブプロフェン)が効くことが以前から示唆されていましたが、その分子的な機序を説明する記事です。

記事中の「神経細胞に利益をもたらす因子」ですが、本文を見るとIGF-1だと分かります。

>Validation of the EP2-dependent regulation of IGF1 was carried out in aged primary macrophages, where Igf1 mRNA expression was found to be suppressed by the EP2 agonist butaprost (Figure 4F).

活性化したミクログリアは抑制性シナプスを引き剥がして保護するという記事が以前にもありました。

そんなすごい作用があるらしいNSAIDsですが、本文にもあるように「少しでも徴候が出ていると効き目がない」のが残念です。だからといって必要な用量もわからないまま予防のために何十年も飲み続けるのは、副作用(消化管粘膜の傷害等)を考えると難しいです。

PGE2はオメガ6のアラキドン酸から変換されるので、とりあえずオメガ6が多い植物油を摂り過ぎるのは控え、オメガ6の変換と拮抗するオメガ3の適度な摂取を心がけた方がいいでしょう。