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興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

メラノーマはどのようにしてイピリムマブに抵抗するのか

2016-09-26 06:06:12 | 癌の治療法
Melanoma tumors use interferon-gamma mutations to fight immunotherapy

September 22, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/09/160922125433.htm

メラノーマの腫瘍は、免疫療法のイピリムマブipilimumabに抵抗するために『免疫応答経路の遺伝子』を突然変異させることがテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの報告により明らかになった

「このような突然変異によるインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)シグナル伝達の喪失は、イピリムマブに対して抵抗するための経路としては初めて明確に腫瘍内で明確になった」
研究のリーダーであるPadmanee Sharma, M.D., Ph.D.が言う

彼女は泌尿生殖器腫瘍内科学・免疫学/Genitourinary Medical Oncology and Immunologyの教授であり、MDアンダーソンの『月ロケット発射計画/Moon Shots Program』の一部である『免疫療法プラットフォーム/Immunotherapy Platform』の科学顧問scientific directorでもある
この『月ロケット計画』は科学的な発見による人命を救う新機軸の開発を加速するよう設計されている

※platform: 宇宙船の位置を制御する装置

彼らの研究結果は、イピリムマブへの応答を前向きに予測するために、そしてIFN-γと関連する抵抗性を打ち破るための新たな治療の組み合わせを探求する目的で、一連のIFN-γ遺伝子をテストすることへの扉を開く


イピリムマブIpilimumab(商品名: ヤーボイYervoy)は、T細胞表面のブレーキとして働くタンパク質のCTLA-4を阻害することで癌に対する免疫の攻撃を解放する初めての薬剤である(T細胞とは適応免疫系の誘導ミサイルとして働く白血球である)
CTLA-4を阻害する薬剤は2011年に転移性メラノーマの治療薬として承認され、他の多くの癌でも単一の薬剤または他の薬剤との組み合わせで臨床試験中である


「これまでの研究で、イピリムマブによる治療が著しい延命効果/生存率の上昇significant survival benefitをもたらすのはメラノーマ患者の約20パーセントということが示されてきた」
Sharmaは言う

「患者の大半で臨床的な奏効/clinical responseが低いことのメカニズムは不明のままである」


患者の応答と生存への影響
Impact on patients, response and survival

インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)は免疫応答を刺激するサイトカインで、つまり免疫細胞の活性化にとって重要なシグナル伝達分子である
加えてIFN-γは細胞表面の受容体に結合し、細胞増殖を阻害して腫瘍細胞の死を促進する一連のイベントを開始することにより腫瘍細胞を直接攻撃する

しかし、この直接的な細胞殺傷の役割は遺伝子の変異によって阻害されるかもしれないとSharmaは言う
Sharmaたちによる以前の研究で、イピリムマブの治療はT細胞によるIFN-γの産生の増大につながることが示されていた
そこから研究チームは、IFN-γ経路に欠陥がある腫瘍細胞がイピリムマブに抵抗するかもしれないという仮説を立てた

まず最初に、イピリムマブの治療を受けた16人のメラノーマ患者から得られた腫瘍サンプル内のIFN-γ経路遺伝子に関して全エキソームシーケンシングデータを評価した
治療に対して4人が応答し、12人が応答していなかった

分析の結果、応答しなかった患者の腫瘍からは合計184の変異が検出され、その内142がコピー数の変化/copy number alteration(欠失または増幅)で、42が一塩基の変化/single nucleotide variantだった
応答した患者respondersでは4つの変異しか見つからなかった
さらに分析したところ、応答しなかった患者はIFN-γ経路の遺伝子に平均15.33の変異があり、コピー数変化が著しい違いを生じていた

応答しなかった12人の内9人でコピー数の変化があり、中でも最も重要significantだったものは、IFN-γの二つの受容体であるIFNGR1とIFNGR2のゲノム喪失、そして二つの重要な下流の遺伝子であるIRF-1とJAK2の喪失だった
経路を阻害することが知られている二つの遺伝子、SOCS1とPIAS4は増幅されていた

TCGAデータベースを使った367人のメラノーマ患者の生存データの分析からは、変異のない患者が48.2ヶ月だったのと比較して、コピー数が変化した患者は40ヶ月という有意にsignificantly短い生存期間だったことが示された


細胞系統とマウスモデルによる確認
Cell line and mouse model confirmation

IFN-γの攻撃に脆弱なメラノーマ細胞系統の実験では、このサイトカインの受容体であるIFNGR1をノックアウトすると、IFN-γが存在していても腫瘍細胞の増殖が可能になった

同じ細胞系統(B16/BL6)を使ってマウスにメラノーマを生じさせてイピリムマブを投与したところ、
IFN-γの完全な受容体を持つマウスでは24匹中4匹しか癌を発症しなかったが、
受容体をノックダウンしたマウスは25匹中12匹で腫瘍が発生した

未治療のマウスは全て腫瘍の増殖で死亡した
イピリムマブを投与したマウスでは完全なIFN-γ受容体を持っていると80パーセントが生き残ったが、
受容体をノックダウンしたマウスは約半分しか生き残らなかった


次の段階
Next steps

今回のチームの研究結果は、IFN-γ経路の11の遺伝子のシグネチャーがイピリムマブの応答を予測するものとして前向き臨床試験でテスト可能であるという見込みを示す
もし予測因子predictorとして確認されればイピリムマブ単独または組み合わせによる治療をガイドするために利用可能である


今回とは別の研究領域として、IFN-γ経路の喪失を乗り越えるための組み合わせ治療の探索がある

「IFN-γ経路の遺伝子が停止した腫瘍に打ち勝つために、免疫系を刺激して他のサイトカインを作らせることが可能かもしれない」
Sharmaは言う

IFN-γシグナル伝達経路の欠陥は、CTLA-4とは別の免疫チェックポイントであるPD-1阻害に対する抵抗性を引き起こす一因であることが他の研究者によって既に発見されている

IFN-γは重要ではあるものの、腫瘍には免疫療法への抵抗を助ける他のメカニズムが存在する可能性についてもSharmaは言及している


http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2016.08.069
Loss of IFN-γ Pathway Genes in Tumor Cells as a Mechanism of Resistance to Anti-CTLA-4 Therapy.
抗CTLA-4療法に対する抵抗性のメカニズムとしての、腫瘍細胞内のIFN-γ経路遺伝子の喪失




関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/532f5008161c8bf2e3aad801fa7d002d
アザシチジン癌細胞のウイルス防御経路のスイッチを入れることでインターフェロンを分泌させ、免疫細胞を目覚めさせる




関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141104163019.htm
遺伝子組み換えGM-CSFのサルグラモスチムsargramostimとイピリムマブの組み合わせは、イピリムマブ単独よりも全生存を改善した



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/10/151007135708.htm
Her2+乳癌に対してハーセプチンやラパチニブのような抗erbB2抗体とIFN-γを組み合わせて使うことで、マウスの腫瘍を劇的に縮小させる
IFN-γ→KLF4─┤Snail
 

HER2乳癌はどのようにしてトラスツズマブを回避するのか

2016-08-16 06:06:10 | 癌の治療法
Drug sensitivity restored in breast cancer tumors

Findings confirmed in patient biopsies and laboratory models

August 11, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160811142627.htm

ケース・ウエスタン・リザーブ大学(CWRU)医学部の研究チームは、HER2陽性の腫瘍が薬剤に抵抗する方法の一つを明らかにしてOncotarget誌で発表した

今回の研究では、HER2陽性の乳癌で主力go-toの抗癌剤であるトラスツズマブtrastuzumab(ハーセプチンとしても知られる)の治療前と治療後の腫瘍の生検を調査した
トラスツズマブで治療可能な乳癌とそうではない乳癌があるが、研究者はトラスツズマブに応答した腫瘍で活性化した遺伝子を応答しなかった腫瘍の遺伝子と比較することにより、いくつかの遺伝子が腫瘍の薬剤抵抗性を助けることを明らかにした
研究者がそれらの遺伝子の一つであるS100Pを阻害したところ、トラスツズマブに抵抗性だった腫瘍は再び感受性を回復した


今回の研究では、遺伝物質genetic materialの小さな部品であるmRNAと、非コードRNA/noncoding RNAの一種である『長鎖遺伝子間ノンコーディングRNA/ long intergenic noncoding RNA(lincRNA)』に焦点を当てた
これらの小さな断片は正常な細胞でもDNAから作られているが、腫瘍では調節が破綻dysregulatedしている

※ncRNA: noncoding RNAノンコーディングRNA
※lncRNA: long noncoding RNA(長鎖ノンコーディングRNA)
※lincRNA: long intergenic noncoding RNA(長鎖遺伝子間ノンコーディングRNA)


研究チームはまず最初にトラスツズマブに応答した腫瘍と応答しなかった腫瘍の細胞の間で異なっているRNAを分析し、1542のmRNAと371のlincRNAを突き止めた
これらの違いから、それぞれの腫瘍ではお互いに関連がない独自の細胞シグナルネットワークが活性化していると研究者は推測した

彼らはラボで培養した細胞を使い、RNAのリストを絞りこんでいった
彼らが関心を持っていたのは、トラスツズマブへの抵抗性と関連するシグナルを治療的に操作して乱すことが可能なRNA分子を発見することだった


研究を主導したAhmad Khalil, PhDは、ケース・ウェスタンで遺伝学部の助教授Assistant Professorである
彼の説明によると、
「我々の仮説は、トラスツズマブに応答した患者の腫瘍とそうでなかった腫瘍との間にはmRNAとlincRNAの両方に遺伝子発現の違いが存在するというものだった」

乳癌早期の腫瘍細胞の25から30パーセントの表面にはHER2というタンパク質が見られ、トラスツズマブはそのHER2に接着して固定することにより働く
トラスツズマブはHER2が活性化することを妨害し、HER2が遺伝子をコントロールできないようにする

研究チームはHER2を表面に持つ腫瘍細胞を培養し、腫瘍の生検での発見を立証validateしようとした
この細胞をトラスツズマブに長期間さらしてexposure癌の治療計画を再現したところ、乳癌細胞の中には患者の生検とちょうど同じようにトラスツズマブに抵抗する細胞が現れた

彼らはラボで培養したHER2癌細胞でトラスツズマブ抵抗性とトラスツズマブ感受性の癌細胞の間で異なるmRNAとlincRNAを突き止め、腫瘍の生検とラボの培養でそれぞれ判明したRNAから重複するものを探したところ、18のmRNAと7つのlincRNAを同定した
それらは生検と培養の両方で、トラスツズマブへの抵抗性と関連があった

研究チームはさらに、この抵抗性の中心となる一つの遺伝子、S100Pに焦点を絞った
S100Pという遺伝子はトラスツズマブに抵抗する乳癌細胞で高度に活性化している

他の研究でS100Pは前立腺癌と膵臓癌に関連付けられている
S100Pは腫瘍の成長をサポートする遺伝子ファミリーに属し、癌細胞の内部では複数の区画に存在することがわかっている

「S100Pは、著しい発現の違いを示す鍵となる遺伝子の一つである」
Khalilは言う
「大規模なデータセットのコンピュータによる複数の独立した分析から現れてきた経路の一部であるという理由からも、この遺伝子は突出している」


研究者はS100Pを阻害する遺伝物質の小片をデザインし、このS100Pの阻害剤によりトラスツズマブに抵抗性だった培養細胞は感受性を回復した

さらなる分析からS100Pは乳癌細胞内の重要なタンパク質を活性化することが示され、トラスツズマブがHER2を阻害した時にスイッチが切られるタンパク質の機能を補うcompensateことが判明した
この活性化されたタンパク質は、薬剤に応答した腫瘍細胞がその環境内で遺伝子発現を適応させるのを助ける可能性があるという

「我々のデータは、癌細胞がトラスツズマブに抵抗するためにはS100Pの高い発現レベルが必要だということを実証する」とKhalilは結論付ける


このエキサイティングな発見は、S100Pを枯渇させることがトラスツズマブへの感受性を回復する方法の一つになるかもしれないことを示す
次のステップでは抵抗性メカニズムをさらに調査し、ヒトの腫瘍でS100Pを阻害するために利用可能な薬剤をスクリーニングすることになるだろう
また、彼らはトラスツズマブへの抵抗性を調節する他のmRNAとlincRNAの役割をさらに調査する予定である


早期ステージ乳癌患者の約3分の1は、トラスツズマブの治療が最初は有効でもしばらく後に再発する
再発した患者の腫瘍はトラスツズマブに抵抗性であり、その後の治療オプションが限られることになる
トラスツズマブ抵抗性の背後にあるメカニズムは、これまで突き止めるのが容易ではなかった

いくつかの研究ではトラスツズマブ抵抗性のメカニズムが細胞培養モデルを使って提案されているが、今回の研究ではラボの細胞培養と患者で増殖する腫瘍の両方に存在するメカニズムを初めて発見した


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27449296
http://dx.doi.org/10.18632/oncotarget.10637
Transcriptome-wide identification of mRNAs and lincRNAs associated with trastuzumab-resistance in HER2-positive breast cancer.

機構的に見ると、S100PはRAS/MEK/MAPK経路を活性化し、トラスツズマブによるHER2阻害を相殺するように補正する
我々はS100Pの上方調節がエンハンサーレベルでのエピゲノムの変化epigenomic changesによって促進されるようだということを実証する



関連サイト
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=S100P
Entrez Gene Summary for S100P Gene
この遺伝子によってコードされるタンパク質はS100ファミリーのメンバーであり、カルシウム結合モチーフのEFハンドを2つ持つ
S100タンパク質は細胞質と核のどちらかまたは両方に局在し、細胞周期の進行や分化など様々なプロセスの調節に関与する
他のS100遺伝子は染色体1q21に13存在するが、S100Pは4p16に存在する
S100PはカルシウムイオンCa2+に加えて亜鉛イオンZn2+やマグネシウムイオンMg2+にも結合する

UniProtKB/Swiss-Prot for S100P Gene
S100P_HUMAN,P25815
カルシウムセンサーとして働き、カルシウムシグナル伝達に寄与する
カルシウム依存的な方法で他のタンパク質(EZRやPPP5Cなど)と相互作用し、上皮細胞の微絨毛microvilliの形成のような生理学的な役割を間接的に演じる
細胞周期を刺激する可能性があり、それはオートクリン的にRAGE受容体を活性化することによって仲介される



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160519100604.htm
トリプルネガティブ乳癌のネオアジュバント(術前)化学療法への応答は、メチル化によって制御されるJタンパク質/methylation-controlled J protein(MCJ)タンパク質の発現と相関する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/29756e384e0389f3f8ba464f7c046de5
HER2乳癌の抵抗性を回避する新たなタンパク質化合物DARPins




関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/06/160623122948.htm
CBX8はエピジェネティックにNotch経路を上方調節し、腫瘍形成を促進する
Notchは予後の悪さと関連し、その上方調節は特にトリプルネガティブ乳癌で薬剤抵抗性をもたらす
うまいことに、CBX8はERやHER2のようなサブタイプと関係がない

http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.06.002
http://www.cell.com/cell-reports/abstract/S2211-1247(16)30721-5
古典的にはCbx8はH3K27トリメチルを認識するPRC1の一部とされるが、今回我々はH3K4トリメチルを認識する非古典的な複合体Cbx8-Wdr5を発見した
Cbx8-Wdr5複合体はH3K4me3レベルを維持することでNotch経路を促進する




<コメント>
エピジェネシスepigenesis
エピジェネティクスepigenetics
エピジェネティックな変化epigenetic changes

エピゲノムepigenome
エピゲノミクスepigenomics
エピゲノムの変化(?)epigenomic changes



日本語
エピジェネシスの変化」4件
エピジェネティックな変化」180件

エピゲノムの変化」123件
エピゲノミックな変化」10件


英語
"epigenetic changes" 537000件
"epigenomic changes" 13600件


 

卵巣癌にMET阻害剤が効かない理由

2016-07-12 06:06:00 | 癌の治療法
Discovery of new ovarian cancer signaling hub points to target for limiting metastasis

July 10, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160710212811.htm

Discovery of new ovarian cancer signaling hub points to target for limiting metastasis

July 10, 2016

膵臓癌と同様に、卵巣癌は比較的遅いステージで発見されることが知られている
診断時には体内の別の箇所に広がっていることが多く、だてに『サイレント・キラー』と呼ばれてはいない
It is not called "the silent killer" for nothing.

診断時に少なくとも3分の2の女性がステージ3以降で、転移は既に始まっている
そのような女性たちで5年間生存するのは25%未満である一方、
幸運にもステージ1か2で診断されて癌が留まっている女性では70%から90%の間である


コールド・スプリング・ハーバー研究所/Cold Spring Harbor Laboratory(CSHL)の研究チームは、卵巣癌細胞の転移の根本にあるシグナル伝達イベントへの新たな洞察に至ったとGenes & Development誌で報告した

「統計学的な資料からは進行した卵巣癌、つまり転移に対して早急に対処する必要性が指摘される」
今回の研究でほとんどの実験を実施したGaofeng Fan, Ph.D.は言う
彼の指導者mentorはCSHLのNicholas K. Tonks教授である

「この問題は特に難しく、その理由はこのタイプの癌の特殊性にある
卵巣の細胞は腹腔液を介して容易に腹腔を動き回り、それは正常時でも癌の存在下でも同じである
したがって、卵巣癌の細胞は血管に加えてもう一つの方法でも移動して転移する
患者から手術で完全に取り除くのが難しい理由は、この卵巣癌の拡散的な特徴による」


FanとTonksたちは、卵巣細胞が卵巣癌へと形質転換する際に経由するこれまで未発見だった経路を明らかにした
これは新薬で標的にする絶好の機会excellent opportunityをもたらすと彼らは考えており、
現在開発中の他の薬剤と組み合わせることで転移を食い止めるstave offことも可能かもしれないという

今回新たに発見された経路はFERというタンパク質の活性に依存する
FERは非受容体型チロシンキナーゼ/non-receptor tyrosine kinaseというタンパク質ファミリーの一員で、FERは細胞質に浮いているように存在してリン酸基phosphate groupを他のタンパク質に付加することができる

Fanたちが一連の実験で実証したように卵巣癌細胞ではFERが『上方調節(つまり過剰に産生)』されており、
そして重要なことに、卵巣癌細胞の運動性motilityと浸潤性invasivenessの原因だった
これらはヒトの培養された卵巣癌細胞ならびにマウスモデルで観察された

CSHLチームによる鍵となる重要な発見は、FERが卵巣細胞の表面にある受容体を『下から』活性化できるということである

受容体は細胞の膜を貫通して細胞質に突き出しているが、FERはその細胞質側の一部と相互作用をする
その受容体は卵巣癌ではよく知られた標的のMET受容体であり、METは典型的には成長因子のHGFが細胞の表面で結合することによって活性化される
METは卵巣腫瘍の最大60%で過剰に発現し、その活性化は癌の開始ならびに予後の悪い進行癌の両方と関連する

※METは受容体型チロシンキナーゼ/receptor tyrosine kinase(RTK)

驚くことではないが、METは数多くの薬剤開発の標的であり、それらの共通した目的はMETの活性化の阻害である
しかし、これまでのMET阻害剤の候補は単独で投与しても弱い抗腫瘍効果しか見られなかった

「どうやら卵巣癌細胞は別の方法を見つけて、癌を促進するMETのシグナル伝達の『下流』を活性化しているようだ」
Fanは言う

FanとTonksのFERに関する研究の重要性/意義significanceは、HGF成長因子がMET受容体の表面に連結dockingすることなくFERがどのようにしてMETを『下から』活性化するのかを明らかにしたことにある

彼らはこのFERが細胞内でMETに結合して一連の細胞シグナル伝達イベントを開始するという経路を『非リガンド依存的/non-ligand-dependent』と呼び、一連の複雑な生化学的な実験および動物実験で追跡した
それらの経路はすべて以前の研究において
RAC1/PAK1やSHP2-ERKを含めた癌の開始cancer initiationと直接関連付けられてきたconnectedものだった


FERは単にMET受容体にリン酸基を付け加えるだけでこれらの発癌性のカスケードoncogenic cascadesを開始することから、FERそれ自体が潜在的に魅力的な薬剤の標的になる
FanたちはFERを抑制することが癌細胞の運動性motilityを低下させ、転移を明確sharplyに減少させることを卵巣癌の動物モデルで実証し、薬剤の標的たりうることを証明した

「我々はFERが卵巣癌細胞の運動性と浸潤性にとって必須であることをin vitroとin vivoの両方で示した」
Tonksは言う

「METの頻繁な増幅が現在開発中の治療への抵抗性の原因であり予後の悪さにつながることを考慮すれば、我々の研究結果は卵巣癌だけでなく他の癌でも、MET活性化におけるFERの役割を含むシグナル伝達 の中心となる重要なハブを新たに示すものだ
これは治療的介入の新しい戦略をもたらす可能性があり、それはおそらくMET阻害剤と共にFERを抑制する薬剤を投与するようなものになるだろう」


http://www.cshl.edu/news-and-features/discovery-of-new-ovarian-cancer-signaling-hub-points-to-target-for-limiting-metastasis.html
HGF-independent Regulation of MET and GAB1 by Non-Receptor Tyrosine Kinase FER Potentiates Metastasis in Ovarian Cancer.
非受容体型チロシンキナーゼFERによるMETとGAB1の調節はHGFには依存せずに卵巣癌の転移を助長する




関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/ff1b393c3ae61fc80da5b76b70840dc7
カプマチニブというMET阻害剤はメラノーマに単独で使っても一時的な効果しかないが、BRAF阻害剤のエンコラフェニブとMEK阻害剤のビニメチニブに組み合わせて患者由来の異種移植マウスモデルに投与すると完全かつ持続的な腫瘍退縮が観察された



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/0d6c4d5b3164482e86df3d268e50a70c
キナーゼ阻害剤を無効にするバックアップシステム



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/e66f633e000a98c97c5e8bddfa27ba74
TKIで解糖系を制限しても、腫瘍はミトコンドリア代謝に依存する



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https://www.sciencedaily.com/releases/2015/11/151117093325.htm
卵巣癌に対するCSF1R阻害剤はマクロファージの数と腹水を減少させる
 

サリドマイドの催奇形性と抗腫瘍効果に共通するメカニズム

2016-06-22 06:06:56 | 癌の治療法
Scientists discover mechanism of thalidomide

Malformations, anti-cancer effects have a common mechanism

June 17, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/06/160617104926.htm


(サリドマイドは腫瘍細胞内で特定のタンパク質複合体(黄色で強調されている)を消滅させる
同じメカニズムが胎児には深刻な奇形を引き起こす


Credit: Bassermann/TUM)

1950年代にサリドマイドthalidomideは鎮静剤sedative drugとして妊婦に処方され、結果として深刻な奇形malformationの幼児が数多く生まれることとなった
その悲惨な先天的欠陥birth defectの理由は現在まで不明のままだった

そんなサリドマイドの分子メカニズムを、ミュンヘン工科大学/Technical University of Munich (TUM) の研究者はとうとう明らかにした
彼らの研究結果は現在の癌の治療法に強い関連がある
なぜなら、それと関連する物質が現在の癌治療の処方に必須の要素だからである


サリドマイドは西ドイツで鎮静剤として発売され、他の国では『コンテルガン/Contergan』というブランド名で市場に出た
しかし55年前の1961年、胎児unborn childrenにぞっとするような恐ろしい奇形deformationを引き起こして大ニュースになった
全世界で5千から1万人の子どもが奇形を生じ、今日に至るまで世界中で2千人以上の犠牲者がいまだにこの悲劇の結果と共に生きている
この破壊的devastatingな副作用が明らかになってすぐにサリドマイドは市場から回収された

しかし最近になってサリドマイドthalidomideは特定の腫瘍の増殖を阻害することが偶然発見されたことから復活を遂げ、後継となるレナリドミドlenalidomideとポマリドミドpomalidomideという2つの物質が癌の治療薬として承認されている
このサリドマイドの派生物はどちらも多発性骨髄腫のような骨髄のがんの治療に使われて成功を収めた

それらは腫瘍に対する強い可能性を示しつつサリドマイドより副作用も少ないが、それらはいまなお深刻な先天的欠陥を引き起こすリスクがあり、妊娠中に服用してはならない


複数のタンパク質が関与
Several proteins involved

サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド、これらは『免疫調整薬/immunomodulatory drug (IMiD)』としても知られる
その名の通り、それらには免疫応答を調整する能力がある

TUM大学病院の内科学IIIで教授のFlorian Bassermannと彼のチームは免疫調整薬の分子メカニズムを研究し、その成果がNature Medicine誌で発表されている
Bassermannはトランスレーショナルがん研究ドイツコンソーシアム/German Consortium for Translational Cancer Research (DKTK) の主任研究員Principle Investigatorでもある


以前、別の研究チームはセレブロンcereblonというタンパク質がIMiDの機能において重要な役割を果たすことを明らかにしていた(※)

※Reference
5. Cereblon expression is required for the anti-myeloma activity of lenalidomide and pomalidomide. Blood 118, 4771–4779 (2011)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21860026

6. Lopez-Girona, A. et al. Cereblon is a direct protein target for immunomodulatory and antiproliferative activities of lenalidomide and pomalidomide. Leukemia 26, 2326–2335 (2012)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22552008

しかしながら、セレブロンがどのようにしてIMiDの影響を仲介するのかについての正確な詳細は、Bassermann教授らによって今回初めて解き明かされたworked out
それによると、細胞内でのセレブロンはCD147とMCT1というタンパク質と常に結合している
これら2つのタンパク質は典型的には造血細胞blood buildingや免疫細胞で生じ、役割としては特にamongst other thingsそれらの増殖と代謝を促進して、新しい血管の形成を促す
多発性骨髄腫のような癌では腫瘍細胞にCD147とMCT1が特に高レベルで存在している


IMiDはタンパク質を『(競合して)打ち破る』
IMiDs "outcompete" proteins

CD147とMCT1は常にペアで存在し、いわゆる複合体を形成している
しかしながら、それらがもう片方を見つけて活性化するためには、セレブロンの助けが必要である
セレブロンに結合すると複合体の形成と安定性が促進promoteされ、そうして活性化した複合体は細胞の増殖を刺激して、乳酸のような代謝産物の排泄を促進facilitateする

多発性骨髄腫のような疾患ではこのタンパク質複合体の量が増加し、腫瘍細胞は増殖して急速に拡散することが可能になる
そのような癌にIMiDを投与すると、この薬はタンパク質複合体をセレブロンとの結合からほとんど追い出すdisplaces the complex from its binding to cereblon
結果として、CD147とMCT1という複合体はもはや活性化することができずに消え失せ、最終的に腫瘍細胞は死ぬことになる

印象的なこととして、TUMの科学者と神経変性疾患ドイツセンター/German Centre for Neurodegenerative Diseases (DNZE) の研究チームは、このタンパク質複合体の破綻が破壊的な先天的欠陥も引き起こすことの実証にも成功した

「メカニズムは全く同一identicalだ」
Bassermann教授が説明する

「このタンパク質複合体を特異的に不活化することで、サリドマイド治療後に観察されるのと同じ発達上の欠陥が引き起こされた」

これら2つのタンパク質がないと、血管は適切に発達することができない
このことはコンテルガンによる典型的な奇形が新たな血管の減少または異常形成と関連するという有力な仮説を立証confirmする


新たな治療アプローチ
New treatment approaches

IMiD治療の臨床的な効果と、観察される分子的な影響の完全な相関から、直接の臨床的結果が引き出される


「このタンパク質複合体の消失は、この種の治療に十分反応した患者でのみ観察される」
Florian Bassermannは言う

これは実際の治療を開始する前に患者の応答を評価する際の助けになりうる
つまり患者の腫瘍細胞のサンプルを取り出して培養し、IMiDで処理するのである
もし培養でタンパク質複合体が破綻するなら、その患者でIMiD治療が有効である可能性は非常に高いだろう


今回の研究結果はIMiDを使わない新しい治療法の根拠となる
このタンパク質複合体は腫瘍の治療にとって特に魅力的な標的である
なぜならこの複合体は細胞表面で主に見られ、細胞の内部から外部へ事実上結びつけているからである
したがって、複合体の不活化は特定の抗体や他の特別な薬によって容易に達成される可能性がある
その可能性が現在、Bassermann教授たちによって探し求められている


http://dx.doi.org/10.1038/nm.4128
Immunomodulatory drugs disrupt the cereblon–CD147–MCT1 axis to exert antitumor activity and teratogenicity.
免疫調整薬はセレブロン-CD147-MCT1複合体を破綻させ、抗腫瘍活性ならびに催奇形性を発揮する

Abstract
サリドマイドとその誘導体derivativeのレナリドミドやポマリドミドのような免疫調整薬/immunomodulatory drugs (IMiDs) は、血液系腫瘍hematologic malignancy、特に多発性骨髄腫/multiple myeloma (MM) や 5番染色体長腕欠損/del(5q) の骨髄異形性症候群/myelodysplastic syndrome (MDS) の治療法として重要である

CRL4ユビキチンリガーゼ複合体の基質受容体であるセレブロン/cereblon (CRBN) は、IMiDが抗癌効果ならびに催奇形性を仲介するための主な標的である

今回我々はユビキチンとは独立したCRBNの生理学的シャペロン様機能を同定した
CRBNは、ベイシジン/basigin(BSG; CD147としても知られる)と、溶質輸送体solute carrierファミリー16メンバー1(SLC16A1; MCT1とも)というタンパク質の成熟を促進する

このプロセスによりCD147–MCT1という膜貫通複合体が形成されて活性化できるようになる
CD147–MCT1複合体は様々な生理的な機能を促進し、それは例えば血管形成angiogenesis、増殖、浸潤、乳酸排出などである

我々はIMiDがCD147とMCT1への結合に関してCRBNを打ち破りoutcompete、CD147-MCT1複合体の安定性が失われることを発見した

それと一致して、IMiDに感受性の多発性骨髄腫(MM)の細胞はIMiDに曝露した後にCD147とMCT1の発現を失い、一方でIMiDに抵抗性の細胞ではそれらの発現が保持された

さらに、del(5q) のMDS細胞ではCD147の発現が上昇し、この発現はIMiD治療後に弱まったattenuated

最後に、
ゼブラフィッシュにおけるベイシジンのノックダウンは
サリドマイド曝露による催奇形性の影響と見かけ上は同じ表現型になるphenocopyことを
我々は示す

これらの研究結果は、IMiDによる催奇形性と多面的抗腫瘍効果の両者を説明するための共通の機構的枠組みmechanistic frameworkを提供する



関連サイト(pdf)
http://www.jsm.gr.jp/files/shourokupdf/jsm39.pdf
レナリドミド投与によるcereblonの活性変化がどのように骨髄腫細胞に細胞死を誘導するのかが精力的に研究されている。



関連サイト
http://beautiful-nature.net/
私はこれをbasic immunoglobulin superfamilyの意味でベイシジン(basigin)と命名した。
彼らはベイシジンがMCT1とMCT4に結合すること、さらMCT1, MCT4を細胞膜へ運ぶ役割をすることを明らかにした。



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/662fdc857d52a82f163891c81e7bc3c2
多発性骨髄腫にサリドマイド誘導体が効かなくなる理由



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141117164409.htm
多発性骨髄腫に対して、レナリドミドとイクサゾミブ(経口プロテアーゼ阻害剤)、デキサメタゾンを組み合わせるフェーズI/II試験



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/12/151207165330.htm
レナリドミドとデキサメタゾンに加えて、抗ヒトCD38モノクローナル抗体のダラツムマブ(フェーズI/II)、プロテアソーム阻害剤のイクサゾミブ(フェーズIII)、骨髄腫細胞や限定的にナチュラルキラー細胞上に発現する細胞表面糖タンパク質のCS1を標的するヒト化モノクローナル抗体のエロツズマブ(フェーズIII)をそれぞれ追加併用する臨床試験



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/11/151112123700.htm
マントル細胞リンパ腫に対して、レナリドミドとリツキシマブ(B細胞のCD20を標的にする抗体)を組み合わせるフェーズII試験



関連サイト
http://dx.doi.org/10.1038/onc.2013.454
グルコース欠乏はMCT1発現を増加させ、MCT1依存的な腫瘍細胞の移動を増大させる

Abstract
解糖系の最終産物である乳酸は、腫瘍増殖を多面的に促進する要因である
その働きは主に細胞による取り込みに依存し、その取り込みプロセスは 乳酸とプロトンを共輸送symportするシンポーターsymporter である『モノカルボン酸輸送体1/monocarboxylate transporter 1(MCT1)』によって促進される
したがって、この輸送体またはそのシャペロンタンパク質である『ベイシジン/basigin(BSG; CD147)』を標的にすることは癌の魅力的な治療オプションである(MCT1それ自体が悪性腫瘍の表現型に関与する)が、その発現の調節ならびに両タンパク質の相互作用と活性に関する基本的な情報がまだ欠けている

今回の研究で我々は 酸化力のある腫瘍細胞oxidative tumor cellにおいて グルコース欠乏が用量依存的に MCT1とCD147タンパク質の発現とそれらの相互作用を上方調節することを明らかにした
このような翻訳後の誘導は、解糖系阻害、低酸素、酸化的リン酸化(OXPHOS)阻害剤のロテノン、または過酸化水素を用いて再現可能だった一方で、酸化的な基質oxidative substrateならびに特定の抗酸化剤によって阻害された
このことは、それがミトコンドリアによる制御であることを示す

事実、グルコースを除去した上でのMCT1とCD147タンパク質の安定は ミトコンドリア不全とそれに関連する活性酸素種の生成に依存することを我々は発見した

グルコースの供給が限られていると(これは自然に生じるか、または腫瘍への多くの治療中に起きる状況である)、MCT1とCD147のヘテロ複合体が集積した(その集積する場所は細胞膜の突出protrusionも含まれる)
これにより、酸化力のある腫瘍細胞oxidative tumor cellがグルコースに向かって移動する能力は増加する

MCT1とCD147を過剰発現する細胞の移動は増加したが、それは グルコースが欠乏していても代わりの酸化的燃料を提供された細胞では阻害された
同様に、抗酸化剤を投与するか、MCT1の発現を欠損させる、または薬理学的にMCT1を阻害しても阻害された

我々の研究は 腫瘍細胞の移動を促進するグルコースセンサーとしてミトコンドリアを同定した一方で、MCT1もこの応答の変換器transducerであることを明らかにした
これはMCT1阻害剤を癌で使用する新たな根拠rationaleを提供する
 

抗血管新生薬とミトコンドリア阻害剤を組み合わせて癌を殺す

2016-06-19 06:06:55 | 癌の治療法
Researchers discover a mechanism that reverses resistance to antiangiogenic drugs

Antiangiogenics like TKIs are one of the most widely used cancer treatments but patients eventually develop resistance.
Adding an antidiabetic to the drug regimen eliminates resistance to TKIs and inhibits tumor growth up to 92 percent in animal models

June 9, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/06/160609134303.htm

スペイン国立がん研究センター(CNIO)の乳癌臨床研究ユニットは、癌の治療で広く使われる薬の一つである抗血管新生薬antiangiogenic drugに関する重要な発見をCell Reports誌で発表した
彼らはこれらの阻害剤に対する抵抗性のメカニズムと、それを無効化する方法について記述する
乳癌と肺癌モデルのマウスに対して抗血管新生薬に加えて抗糖尿病薬を足すことで、腫瘍の増殖は92パーセント阻害されたという


抗血管新生薬への抵抗性は上皮性腫瘍epithelial tumourに共通の問題であり、それが乳癌、肺癌、結腸直腸癌、卵巣癌、腎臓癌、肝臓癌など癌の治療で広く使われていることを考慮すれば、抵抗性についての研究は特に有意義である
チロシンキナーゼ阻害剤/Tyrosine Kinase Inhibitors (TKIs) は抗血管新生薬の一つであり、ソラフェニブsorafenibやスニチニブsunitinibよりも効果が高いとされる新しいTKIのニンテダニブnintedanibが、進行した肺癌の治療用としてFDAとEMEAによって最近承認された
ゆえに、治療が患者の利益になる時間を延ばすために「TKIへの抵抗性を獲得するメカニズムを明らかにすることは重要である」と著者は言う


細胞の代謝の変化
Changes in Cell Metabolism

異常な血管は腫瘍の発達を支え、組織に酸素の不足(低酸素hypoxia)を引き起こす
酸素の欠乏は細胞代謝の変化の引き金となる(ワールブルク効果として知られる現象)
癌細胞は通常の細胞よりも最大で20倍も多くグルコースを消費し、したがって通常の細胞がエネルギーを得るための『発電所』であるミトコンドリアよりも優勢になる

CNIOの乳癌臨床研究ユニットの所長であるMiguel Quintela-Fandinoによると、TKIによる治療は癌細胞の制御不能なグルコース代謝を阻害するという
しかしながら、癌細胞が飢えて死ぬはずのTKIの治療では望んだような致死的効果が常に得られるわけではなく、腫瘍の多くは抵抗性を獲得する

それがどのようにして起きるのか?
今回の論文はそれに答える
『エネルギー源を変更してミトコンドリア呼吸に逆戻りrevertすることによる』

しかしながら、腫瘍が生き残るために使うこのような適応メカニズムは癌細胞を攻撃するための機会をもたらすことをCNIOの研究者は発見した


癌と戦うために糖尿病の薬を使う
An Antidiabetic Agent to Combat Cancer

「エネルギー源の一つである解糖系glycolysisを薬理学的に制限すると、腫瘍はもう一つのエネルギー源であるミトコンドリア代謝に依存するようになり、その阻害に対して脆弱になる」と論文で著者は指摘する

仮説をテストすべく乳癌のモデルマウスにTKIのニンテダニブを投与したところ、癌細胞によるグルコースの消費は激しく低下した一方で、ミトコンドリアの呼吸から生まれる代謝産物が増加した

彼らが次にミトコンドリアの阻害剤であり糖尿病薬として使われるフェンホルミンphenforminを処方に加えると、マウスの腫瘍の成長は最大で92パーセント低下した
特にフェンホルミンをTKIと同時simultaneouslyではなく、TKIの次に順を追ってsequentially投与した時に強い効果が見られた

彼らが『代謝性合成致死/metabolic synthetic lethality』と名付けたこのような効果は、他のタイプのTKIであるレゴラフェニブregorafenibとミトコンドリア阻害剤ME344を組み合わせた時にも生じた
この治療は肺癌モデルで全生存中央値median overall survivalを40パーセント以上も延長した


このプロジェクトの最も興味深い側面は、それが即座に応用可能だということである

「フェンホルミンは糖尿病患者に対してまれに副作用を引き起こすために市場から回収されたが、この薬は糖尿病ではない患者には安全である」
Quintelaは言う
彼のグループはこの相乗的な薬剤の組合せが抗血管新生薬に対する抵抗性を反転できるかどうかを研究するために独立した/独自independentの臨床試験を6ヶ月以内に始める予定である


http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.05.052
Targeting Tumor Mitochondrial Metabolism Overcomes Resistance to Antiangiogenics.
腫瘍のミトコンドリア代謝を標的にすることで抗血管新生薬への抵抗性を克服する


Highlights
・抗血管新生薬は乳癌と肺腫瘍の低酸素hypoxicを修正する
・酸素が正常normoxicな腫瘍は解糖系を停止させてミトコンドリアの代謝に依存する
・ミトコンドリア代謝は正常な酸素下での腫瘍の生存に必須である
・ミトコンドリア代謝を標的にすることは抗血管新生と相乗作用を示す

Summary
上皮性の悪性腫瘍epithelial malignanciesには抗血管新生薬による治療が効果的だが、抵抗性の獲得が治療上の大きな問題である
上皮性腫瘍は一般にMAPK/Pi3K-AKT経路に突然変異を持ち、結果として高速high-rateの好気的解糖aerobic glycolysisにつながる

今回我々はマルチキナーゼ阻害による抗血管新生薬(TKI)がどのようにして突発性spontaneousの乳癌モデルならびに肺腫瘍モデルにおいて低酸素を修正correctするのかを示す
低酸素が修正されると、腫瘍は解糖系を下方調節し、スイッチを切り替えてミトコンドリア呼吸に長期にわたって依存するようになる

トランスクリプトーム、メタボローム、ホスホプロテオミクスを組み合わせた研究から、この代謝的な切替えはHIF1αとAKTの下方調節ならびにAMPKの上方調節によって仲介されることが明らかになった
それにより脂肪酸とケトン体の取り込みと分解が可能になる

この切替えはミトコンドリア呼吸を腫瘍の生存に必須にさせる
フェンホルミンやME344のような薬剤はTKIと組み合わせた時に相乗作用的な腫瘍コントロールをもたらし、代謝性合成致死metabolic synthetic lethalityにつながる

我々の研究はTKIに対する腫瘍の抵抗性プロセスにおける機構的な洞察を明らかにするとともに、臨床的な実用性applicabilityを持つ可能性がある



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/376dfb2aab5a42cecc481473d2a05750
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癌はJaggedで血管形成を操る



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/85fe8a6481054efd3d7171c53e752dad
脳腫瘍は血管壁の細胞をバラバラにするが、抗血管新生薬は小血管の壁を安定させ、脳の中心にある溝さえも横断する「ハイウェイ」を腫瘍に与える



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膵臓癌の癌幹細胞はメトホルミンの標的となる酸化的リン酸化を利用できるが、癌幹細胞の中には代謝をより柔軟に順応させてメトホルミンを回避するものがある



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/991a30f257378e25e2ce5b7d9b0a0bf7
癌細胞は本当にグルコースで増殖するのか?



参考サイト
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3545.html
>実は、がん細胞はブドウ糖しかエネルギー源として使えないことがわかっているのです。

は?
 

HER2乳癌の抵抗性を回避する新たなタンパク質化合物

2016-06-12 06:06:13 | 癌の治療法
Promising treatment prospects for invasive breast cancer

June 3, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/06/160603071704.htm


(有効成分のDARPins(赤とオレンジ)は HER2受容体(青色)を屈曲させてbend、増殖シグナルが細胞内部(黄色の線から下)に伝達されなくなる

Credit: (c)UZH)

スイスだけで毎年5700人以上の女性が乳癌と診断され、約1400人がこの病気のために死亡する
非常に浸潤性の乳癌の多くでは細胞が表面上にHER2という受容体を持ち、その結果として制御不能の細胞増殖が生じる
HER2受容体を認識するトラスツズマブtrastuzumabやペルツズマブpertuzumabのような様々な抗体が長年乳癌の治療で使われてきた
しかしながら、これらの抗体は癌細胞を絶滅させることはない
そのような治療法は癌細胞を休止状態にして、いつでも再活性化が可能である


なぜ乳癌細胞は抗体による治療に抵抗するようになるのか
Why breast cancer cells become resistant to antibody therapy

今回チューリヒ大学生化学部のディレクターAndreas Plückthunたちが率いる研究チームは、なぜトラスツズマブのような抗体が癌細胞を全滅させるどころか腫瘍の増殖を遅くするだけなのかを発見した

HER2受容体は複数のシグナル伝達経路を同時に使い、成長して分裂すべきだという情報を細胞に伝える
しかし現在利用できる抗体はシグナル伝達経路のたった一つ(PI3K-AKT)を阻害するだけで、残り(RAS-RAF-MEK-ERK)は活性化したままである
そしてこれらの開いた経路で最も重要なものは、RASという中心となるハブを通じてつながっている(RAS-PI3K)

「HER2受容体から発せemitられた成長シグナルを再び活性化する原因は、このRASタンパク質である
抗体は効果を失い、癌細胞は増殖を続ける」
初めて詳細が明らかにされたメカニズムをAndreas Plückthunはそのように説明する


チューリヒ大学の科学者は、癌細胞でHER2から同時に発せemanateられた複数のシグナル全てのスイッチを切るための驚くほど効果的な解決法を発見した
彼らは同時に2つのHER2受容体に対して標的を定めて結合し、そしてそれらtheirの空間的構造を変化させるようにタンパク質化合物protein compoundをデザインした
この『受容体屈曲/receptor bending』は細胞内部に伝えられるはずのあらゆる成長シグナルを阻害し、結果として癌細胞は全滅する

もう一つの利点はこの物質の効果が非常に選択的であるということで、癌細胞は効果的に全滅させるが正常な体細胞は傷つけないまま残すことを保証する
この革新的なタンパク質物質protein substanceはマウスの腫瘍を退縮させ、しかしマウスの健康を危険にさらすことはなかった


非常に効果的なタンパク質化合物はまもなく患者で試験される予定である
Very effective protein compound soon to be tested on patients

この化合物の有効成分active ingredientは、複数の『DARPins(designed ankyrin repeat proteins/デザインされたアンキリンリピートタンパク質)』から構成されている

この生産が容易でかつ多くの望ましい結合性質を持つ新しい種類のタンパク質化合物はPlückthunの生化学ラボで考案されて生み出された
これと非常に似た物質が分割独立spin-offしたチューリヒ大学の企業であるMolecular Partnersによって現在開発されており、その目的はこのメカニズムによって機能する初めての薬剤をできるだけ早く一連の臨床試験で試験することである

Andreas Plückthunは楽観的である
「HER2陽性の癌細胞の『アキレスの踵』が明らかになった今、乳癌のような浸潤性の腫瘍を将来効果的に治療するための新たな機会が訪れつつある」


http://dx.doi.org/10.1038/ncomms11672
Intermolecular biparatopic trapping of ErbB2 prevents compensatory activation of PI3K/AKT via RAS–p110 crosstalk.
ErbB2分子間の二重パラトープ的な捕捉は、RAS–p110クロストークを介するPI3K/AKTの補償的活性化を妨害する

Abstract
AKT-ErbB3ネガティブフィードバックのような補償的メカニズムは、ErbB2依存的な腫瘍の標的治療への感受性を低下させることが知られている

今回我々はトラスツズマブ治療中のPI3K/AKT経路の再活性化につながる適応メカニズムを記述する
これはErbB3の再リン酸化とは独立して起きる

リン酸-ErbB3シグナルの迂回は、ErbB2が過剰発現する細胞ではRAS-PI3Kクロストークを介して作動し、このシグナル迂回は活性化したErbB2ホモ二量体が原因であるattributable

薬理学的な阻害やRNA干渉といった方法によるErbB2/RASとErbB3の二重阻害や、RAS-p110α相互作用を妨害する特定のタンパク質結合によって実証されるように、PI3K/AKT経路の再活性化を防ぐためには両方の経路を阻害しなければならない

※ErbB2/HER2の下流には RAS-RAF-MEK-ERKと PI3K-AKTという2つの経路があり、PI3Kというキナーゼは110kDaの触媒サブユニット(p110)と85kDaの制御サブユニット(p85)から成る

これらの一般的な原則を適用し、我々は二重パラトープの『designed ankyrin repeat proteins(DARPins)』を開発した
これは二量体化する能力がない状態でErbB2を捕捉し/閉じ込めtrap、ErbB2だけでなくErbBの全体的な阻害を引き起こしてentail、発癌シグナル伝達における永続的なオフの状態を作り出す
それにより、ErbB2に依存する腫瘍に大規模な/広範囲extensiveのアポトーシスを引き起こす

このように、ネットワークの頑強さrobustnessの根本にあるメカニズムへのこれらの新たな洞察は、ErbB2/ErbB3を標的とする治療に対する適応応答を克服するためのガイドを提供する


http://www.nature.com/ncomms/2016/160603/ncomms11672/fig_tab/ncomms11672_F10.html
Figure 10: Model of induction of apoptosis and adaptive resistance in response to ErbB2 blockade.
ErbB2阻害に対する適応的抵抗性とアポトーシス誘発のモデル


(a) ErbB2の過剰発現はリガンドがなくてもErbB2とErbB3を活性化するのに十分であり、主にErbB2/ErbB3-PI3K/AKTというシグナル軸により腫瘍の成長を駆動する

このシグナル伝達経路はAKTとErbB3との間のネガティブフィードバックな調節を構成的に抑制する
しかしながら、このシグナル経路はErbB2/ErbB3受容体または下流のシグナル伝達経路の阻害によって軽減されるrelieved

(b) トラスツズマブによる治療は リガンドに依存しないErbB2/ErbB3ヘテロ二量体化に対して選択的に干渉することによって 部分的なErbB2阻害を誘導し、それによりErbB3をPI3K/AKT再活性化から分離する

今回我々はErbB2/RASから生じるemanate新たな適応応答を明らかにした
この応答では、PI3K/AKTシグナル伝達を活性化させるErbB3は迂回される
(AKT↓─┤RAF↑,FOXO↑→ERK↑,ADAM17↑,p27Kip1↑→ErbB3,EGFR転写↑,ADAM17切断によるheregulin/ERG↑)

(c) 二重パラトープのDARPins(6L1G)は、ErbB2のリガンド依存的な複合体ならびにリガンドには依存しない複合体、その全てを妨害する

そのようなあらゆるErbB2の阻害は、PI3K/AKTシグナル伝達カスケードならびに引き続く適応応答を阻害し、ErbB発癌ネットワークを安定したオフの状態にする
結果として、本来備わっているintrinsicアポトーシスが誘発され、適応的な抵抗性の発生を阻害する



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/06/150630122404.htm
ヒトの乳癌は、以下のような少なくとも6つの異なる臨床的に関連する分子サブタイプに分類される
luminal A、luminal B、HER2+/ER-、basal-like、normal breast-like、claudin-low



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160510084159.htm
乳癌には10のサブタイプがある
PIK3CAは10の内3つしか影響がなく、PIK3CA阻害剤が一部にしか効果がない理由だろう



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/12/151230143816.htm
HER2を認識するT細胞がHER2陽性乳癌の再発を防ぐかもしれない
再発した患者は10分の1しか抗HER2応答がなかった



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/11/151125143739.htm
トラスツズマブエムタンシン(T-DM1)という抗体-薬物複合体は、CTLA-4/PD-1阻害療法に対する強い感受性をHER2乳癌に持たせる
 

治療法の組合せが膵癌患者の生存を加速する

2016-06-05 06:06:56 | 癌の治療法
Chemo, radiation, surgery combo boosts survival for pancreatic cancer patients

May 24, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160524163803.htm



膵癌患者の約3分の1で腫瘍は膵臓の周囲まで成長し、重要な血管を取り囲んでいる
一般通念conventional wisdomとしてそのような状態の腫瘍を取り除く手術が選択肢になることはまれで、寿命の見込みは数ヶ月であると考えられてきた

メイヨークリニックの腫瘍学者や胃腸と血管の外科医を中心としたチームは、これらの患者の多くが実は手術の候補であることを明らかにした
メイヨーでは治療計画protocolを微調整してきており、2つの研究で生存が数年まで延長されている
この研究結果はサンディエゴで開かれているPancreas Club(膵臓クラブ)とSociety for Surgery of the Alimentary Tract(SSAT; 消化管外科学会)の年次総会で発表される

「我々は決定的な変革revolutionを目にしている」
メイヨークリニック(ミネソタ州ロチェスター)の胃腸外科腫瘍学者/gastrointestinal surgical oncologistであるMark Truty, M.D.は言う
彼は一方の研究発表では要旨abstractの筆頭著者first authorであり、もう一つの方では首席著者senior authorである

「この結果の多くは、化学療法薬の改善と、そしていわゆる『集学的治療/multimodal therapy』に関連がある
集学的治療とはこの場合、化学療法と放射線療法を実施して、その後thenに積極的aggressiveな手術をするというものだ
今や我々は、これまで治療の選択肢がまったくないと言われてきた患者に、これらの治療を提供することができるかもしれない」

アメリカでは毎年約5万人が膵臓癌と診断され、診断後に少なくとも5年間生存する患者はわずかに7パーセントでしかなかった
この癌は症状が現れる前に広がる傾向があるため、手術で完全に切除するclear-cut選択が可能なぐらい十分早く診断されるのは患者の約15パーセントに過ぎない
患者の約半分は診断されるまでに癌が体中に広がっていて、手術の可能性は排除されるrule out

患者の3分の1では癌は体中に広がってはいないが、膵臓の周囲と、そして動脈と静脈の周囲まで成長している
数十年もの間、そのような患者のほとんどで手術は危険過ぎる上に実施しても効果がないと考えられていた
メイヨーの研究は、これらの患者の治療の転換transformationを歴史に刻むchronicleことになる


消化管外科学会(SSAT)年次総会の発表で研究者は、動脈の除去と再建reconstructionの手術を受けたステージ3患者の間で過去25年間の結果を分析した
このグループの過去5年で実施された手術のほとんどは、改善された化学療法と放射線療法の出現以降のものだった

これらの手術は動脈の除去と再建を必要としない手術よりもリスクが高いにもかかわらず、化学療法と放射線療法の後にそのような積極的aggressiveな手術を受けた患者には、著しくsignificantly長期の生存アドバンテージが存在するようだった
初めに化学療法または放射線療法を受けずに手術を受けた患者は長期的にはうまくいかず、一方で化学療法と放射線療法の両方または片方を手術の前に受けた患者は著しくsignificantly長期にわたって成功していたdid well
短期的な結果を調べると、合併症complicationの割合は時が経つにつれて低下することが明らかになった

Trutyは言う
「全般的に見てall in all、この分析結果は、典型的には手術されなかったであろうこれらの患者は、適切な計画protocolと治療順序sequenceによって短期的にも長期的にも良い結果になりうる可能性を示す」


膵臓クラブミーティングで発表される研究では、腫瘍が血管を包んでいてinvolve、かつ化学療法・放射線療法・積極的手術aggressive surgeryの特定specificの計画protocolを実施したステージ3患者に関する最新modernの手術結果を分析した

現在80パーセントの患者がメイヨーの計画protocolを完了go throughしてデータがレビューに利用可能である

この研究では、患者が計画protocolを完了した後の生存期間中央値/median survival time(MST)は4年に届こうとしていることが明らかになった
これは手術を受けない患者のそれと比較して約4倍の数値である


うまくいったdo well患者は次のような人たちである
・手術の前に、より多くの化学療法を受けた患者
・CA19-9という特定の腫瘍マーカーが化学療法後に正常値まで戻った患者
・腫瘍の除去後に分析を受けた際、癌が最低限しか残っていないことが判明した患者

また、この研究では、化学療法後で手術前のCTスキャンでは患者の大多数で腫瘍が縮小を示さなかったが、腫瘍が手術で取り除かれると、癌のほとんどが死んでいたことが判明した


「我々はこの分析データがアメリカ全てにすぐにnow広まることを望んでいる
これらの患者をどのようにして治療するのか、そしてこの複合的な施術が有効な患者をどのようにして選ぶのかに関するロードマップを人々/国民peopleが持つことになるだろう」
Trutyは言う
彼は患者たちに楽観的意識を感じて欲しいと期待している
選択肢は存在するのだ、と

「全ての人がこのような大きな手術や、化学療法と放射線療法も含めた長い治療計画に参加しようと望むわけではない
しかし今や彼らは利用可能な選択肢を持っており、これが有益なものなのかどうかについて知識を基にそのような決断を下す/make that educated decisionことができる」

「これまでずっと無視されてきたかなりの数の患者にとって、我々は小さいながらもさらなる希望をもたらす」


<コメント>
メイヨークリニックMark Truty氏の動画はこちら



トリプルネガティブ乳癌をホルモンで治療する

2016-05-30 06:06:04 | 癌の治療法
Researchers identify novel treatment for aggressive form of breast cancer

Researchers discover hormone receptor-based treatment approach to triple-negative breast cancer

May 23, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160523125905.htm


(アンドロゲン受容体(赤色)とビタミンD受容体(緑色)は、乳癌の特定のサブセットでは核内に存在する(赤+緑色=黄色)

Credit: Sylvester Comprehensive Cancer Center)

マイアミ大学ミラー医学部シルベスター総合がんセンターの最近の研究によると、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)が実はビタミンD受容体・アンドロゲン受容体を標的とする治療法で治療可能であることが明らかになったという
Breast Cancer Research and Treatment誌で発表された今回の発見は、この悪性の乳癌に対して化学療法以外の新たな治療オプションをもたらす

「乳癌で最も成功した治療はホルモン受容体を標的としている
ホルモンを除去するか阻害すると、癌細胞は生き残るのが難しくなる」
シルベスターの乳癌病理学者であり筆頭著者のTan A. Ince, M.D., Ph.D.は言う

「しかしながら、トリプルネガティブの腫瘍は受容体を標的とする治療に応答しない
だから、ホルモン受容体を標的とするアプローチを使って腫瘍を治療するのは我々が初めてだ
我々はトリプルネガティブ乳癌の3分の2がビタミンD受容体とアンドロゲン受容体を発現するのを発見した」


ホルモン受容体が陽性の乳癌 vs 陰性の乳癌
Hormone-receptor positive vs. negative breast cancer

乳癌はホルモン受容体が陽性と陰性という2つのサブタイプに分類することができる
受容体が陽性の乳癌は受容体を標的とする治療法を使って細胞の増殖など全般的なホルモンの機能を妨害することができるが、TNBCに関しては受容体がないためにこの種の治療法は選択肢optionに入らない
加えて、TNBCの患者の予後は他のタイプの乳癌よりも一般に良くない

Inceと彼のチームは、TNBCがエストロゲン受容体・プロゲステロン受容体・HER2受容体という3つの受容体を欠くにもかかわらず、実はアンドロゲン受容体(AR)とビタミンD受容体(VDR)を発現することを明らかにした
これが今回の研究の基礎となり、研究者はアゴニストホルモンを使ってARとVDRを共に標的とすることが癌細胞の持続力sustainabilityを低下させるために有効な戦略であることを発見した
これはTNBCの治療で受容体への標的療法と予後の改善につながる可能性がある


乳癌幹細胞
Breast cancer stem cells

「乳癌は異なるサブタイプの細胞から構成されるというエビデンスが増えつつある
つまり、癌幹細胞と、それ以外の細胞だ」
ミラー医学部で病理学の助教授でもあるInceは言う

「癌幹細胞は自己再生する能力を持ち、標準治療への抵抗性や転移とも関連すると考えられている
癌幹細胞を標的とすることは完全な癌の寛解を得るために重要である可能性がある」

今回の研究はTNBCの治療に新たな選択肢と、癌の転移における幹細胞の役割への洞察をもたらす
ホルモン受容体療法はTNBCの治療で重要な役割を演じるものの、化学療法と組み合わせたアプローチが最良の結果を生じるだろう


http://dx.doi.org/10.1007/s10549-016-3807-y
Vitamin D and androgen receptor-targeted therapy for triple-negative breast cancer.
VDRとARを標的とするTNBCの治療法

Abstract
抗エストロゲン/抗HER2療法は乳癌(BC)の標的療法で最も早くからの、そして最も成功した例である
しかしながら、エストロゲン受容体の発現またはHER2増幅を欠くトリプルネガティブ乳癌(TNBC)の治療は難題のままである

我々は以前、TNBCの約3分の2がVDRとARを同時に発現するか、そのどちらかを発現することを発見した
そこから我々はARとVDR(av)という2つのホルモン受容体(HR2)をどちらも発現するTNBC(HR2-av TNBC)はそれらを両方とも標的とすることにより治療できるかもしれないという仮説を立てた

VDR/AR標的療法の実現可能性feasibilityを評価すべく我々は15の異なるBC細胞系統の特徴を調べ、2つのHR2-av TNBC系統を明らかにした上で、VDR/AR標的療法後の表現型・生存能力viability・増殖に関する変化を調査した

BC細胞系統にVDRまたはARのアゴニストを投与すると細胞の生存能力は受容体依存的な方法で阻害され、そしてVDRとARを組み合わせることで加法的additivelyに阻害されるように思われた
AR/VDRアゴニストホルモンを化学療法薬と組み合わせると、細胞の生存能力はさらに低下した

TNBC細胞系統におけるAR/VDRアゴニストホルモンによる阻害のメカニズムには、細胞周期の停止とアポトーシスが含まれていた

加えて、AR/VDRアゴニストホルモンは分化を誘導して癌幹細胞(CSC)を阻害した
これは腫瘍スフィアtumorsphereの形成効率/tumorsphere formation efficiency(TFE)の低下や、ALDH活性、CSCマーカーによって計測した

驚くべきことに、ARアンタゴニストはほとんどのBC細胞系統の増殖をAR依存的な方法で阻害した
これはARアンタゴニストの作用メカニズムに関して疑問を生じるものだ

まとめると、AR/VDRを標的とするアゴニストホルモン療法は受容体依存的な方法で多くのメカニズムを通じてHR2-av TNBCを阻害する可能性があり、化学療法と組み合わせることが可能である


Discussion
我々はARとVDRを同時にホルモンで刺激することが癌幹細胞集団の減少につながることを発見した
これは腫瘍スフィア形成効率TFEの減少、ALDH活性の低下、CSC表現型と関連するマーカーの下方調節によって証明される

CD49fの高い発現は OCT4やSOX2のような多分化能pluripotencyの因子を調節し [84]、
MusashiはNotchを調節する
Notchは細胞の自己再生能を調節する鍵となる経路である [85, 86]

したがって、CD49f・SOX2・Notchシグナル伝達の不活化は、AR/VDR療法がCSC集団を減少させうるメカニズムを提供する可能性がある



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150224131201.htm
一部のトリプルネガティブ乳癌に、抗アンドロゲンのエンザルタミドが有効
管腔luminalタイプのトリプルネガティブ乳癌細胞はアンドロゲン受容体が多い傾向がある
非管腔タイプのトリプルネガティブ乳癌細胞系統はアンドロゲン受容体がはるかに少ない



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/a69029577edef0355dd6787bf4ea2bd8
エンザルタミドはアンドロゲン受容体を発現するタイプのトリプル・ネガティブ乳癌の増殖・移動・浸潤能を低下させるだけではなく、アンドロゲン受容体は乳癌細胞の生存に必須のようだ
これらの細胞でアンドロゲン受容体をブロックすると細胞は死んだが、しかし影響を受けたのはアンドロゲン受容体の発現が高い細胞だけではなかった



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/528247388cbcb08ff7e66ca233b8ec7f
タモキシフェンは腫瘍の増殖を抑え、NOTCH阻害剤は癌幹細胞の数を減らす



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160519220539.htm
トリプルネガティブ乳癌に対して、ドキソルビシン(D)、オールトランスレチノイン酸(ATRA)、そしてレチノイン酸への感受性を上昇させるエンチノスタット(E)を組み合わせるトリプル療法(EAD)
ドキソルビシン単体では腫瘍スフィアの形成(癌幹細胞の指標)が32%減少し、ATRA、またはエンチノスタット単独では18%減少したが、EAD組み合わせトリプル療法だと90%減少する



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/12/151214130400.htm
ビタミンAの一種であるレチノイドはHOXA5を再活性化し、HOXA5は幹細胞の数を抑制する
癌幹細胞はHOXA5を阻害する生物学的メカニズムを使う
HOXA5を元に戻すと癌幹細胞は消滅し、転移を防いだ



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160519220535.htm

HOXA5は分化を促進し、CD24とE-カドヘリンを調節する
HOXA5が失われることで幹細胞性と自己再生が増す
多くの癌でHOXA5が失われ、CD24がないと細胞は幹細胞の状態へ逆戻りrevertし、E-カドヘリンがないと細胞は『糊』を失い他の細胞への結合を失う



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/b83fcd1f83b816bd98dc2ddaa06e1693
乳癌幹細胞にはEMT(CD24-,CD44+)とMET(ALDH+)という2つの状態がある



関連サイト
http://blog.goo.ne.jp/kfukuda_ginzaclinic/e/d5f40bc1aea2f3ad4b2e14e66fd2e49b
ビタミンA/レチノールはIGF-1受容体を活性化する



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http://ta4000.exblog.jp/17936543
ヒトの真皮乳頭細胞では、ATRA によって IGFBP-3 が著しく増加し、IGF-1 / IGF-1Rシグナルに必要な遊離 IGF-1 の生物学的利用能を減少させる



関連記事
http://ta4000.exblog.jp/17969137
ATRAのアポトーシス促進活性は主にRARとCRABP-2、そして同系統の細胞内脂質結合タンパク質によって介在され、それらはATRAをRARへと運ぶ。
一方、脂肪酸結合タンパク質5 (FABP-5) は、このホルモン (ATRA) をPPARβ/δへと運ぶことで、角化細胞で観察される 「増殖を促進する応答」 を引き出す。
 

膠芽腫のCSF-1阻害剤への抵抗性を克服する

2016-05-27 06:06:45 | 癌の治療法
Resistance mechanism of aggressive brain tumors revealed

May 19, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160519144538.htm

脳腫瘍の患者は治療に対して抵抗性になりうるが、それは腫瘍それ自体に備わる内因性の何かが原因というよりむしろ、腫瘍微小環境との相互作用を通じてであることが、マウスを使った研究によって示唆された
今回の研究で説明される抵抗性メカニズムには特定の酵素が含まれ、この新たに明らかにされたシグナル伝達経路を標的とする他の薬剤を使うことで克服可能である


多形膠芽腫/glioblastoma multiforme (GBM) は成人で一般的に見られる悪性の脳腫瘍で、現在の標準治療はごくわずかに寿命を延ばすだけである
GBMの腫瘍内にはマクロファージという破片や残骸debrisを取り込む白血球が大量に存在し、コロニー刺激因子/colony stimulating factor-1 (CSF-1) の発現が高い傾向がある

Daniela QuailらはBLZ945という薬剤によるCSF-1の阻害がマウスで腫瘍の退縮regressionを引き起こすことを示したが、結局はGBM腫瘍の大部分がBLZ945への抵抗性を生じた
この現象が興味深いのは、現在CSF-1を標的とする抗癌剤が多くの状況で臨床試験中だからである


さらなる調査から、GBMの再発recurrenceは腫瘍のPI3-Kという酵素の活性上昇と相関することが明らかになった
PI3-Kは環境の影響によって促進されており、それはマクロファージが分泌するIGF-1によるものだった

CSF-1阻害剤のBLZ945に加えて、PI3-K阻害剤またはIGF-1阻害剤を投与したマウスは、対照群よりも著しく生存が延びることを研究者は示した

BLZ945に抵抗性のGBM腫瘍を無投薬だったマウス/naïve miceに移植したところ、この腫瘍はPI3-K/IGF-1メカニズムを使って自分の有利になるように周囲の微小環境を操ることが実証された

このように、腫瘍は腫瘍それ自体には依存しない、微小環境に依存的なメカニズムを通じて抵抗性を生じうるのだと研究者は言う

この研究結果がヒトの神経膠腫gliomaモデルに応用translateされるかどうかは、さらなる研究が必要である


http://dx.doi.org/10.1126/science.aad3018
The tumor microenvironment underlies acquired resistance to CSF-1R inhibition in gliomas.
神経膠腫におけるCSF-1R阻害への抵抗性獲得の根底には腫瘍微小環境が存在する

Structured Abstract
RESULTS
我々は多形膠芽腫/glioblastoma multiforme(GBM)の遺伝学的マウスモデルを使い、CSF-1R阻害への応答として全生存が有意に延長するにもかかわらず、腫瘍は結局マウスの50%以上で再発することを示す

再発した腫瘍細胞を分離してナイーブマウスに移植したところ、神経膠腫gliomaはCSF-1R阻害への感受性を回復した
これは抵抗性が微小環境によって促進されるdrivenことを示す

阻害剤を投与した腫瘍から取り出して精製purifyした神経膠腫細胞ならびにマクロファージのRNAシーケンシングとex vivo細胞培養アッセイを通じて、我々はCSF-1R阻害後の再発GBMにおけるPI3K経路の活性が上昇していることを発見した
これはマクロファージ由来のIGF-1と腫瘍細胞のIGF-1Rによって促進されていたdriven

その結果として、再発した腫瘍において、連続的なCSF-1R阻害と、IGF-1R阻害またはPI3K阻害を組み合わせることは、有意に全生存を延長した

対照的に、IGF-1R阻害またはPI3K阻害のどちらか単一での治療は、再発reboundした腫瘍、または治療していない腫瘍、そのどちらにもあまり有効ではなかった
このことは、CSF-1R阻害に対して再発した腫瘍で生じるPI3Kシグナル伝達への依存に対して組み合わせ療法をしなければならないという必要性を示す


機構的に見ると、再発した腫瘍におけるマクロファージの活性化はIL-4によるものであり、それがStat6とNFATシグナル伝達の上昇につながる(Igf1の上流)
in vivoでこれらの経路のどちらかを阻害することはマウスの生存を有意に延長するのに十分だった

※NFAT: 通常は活性化したT細胞で検出される、IL-2プロモータの転写を活性化する転写因子。カルシニューリンにより活性化され、プロトピックにより阻害される



Figure 1
Resistance to CSF-1R inhibition in glioma.
(A) マクロファージはM2様の遺伝子発現と関連する腫瘍促進的ニッチを形成することによりGBMの進行に寄与する
CSF-1Rはマクロファージ生物学にとって決定的な受容体であり、神経膠腫gliomaにおける治療標的として臨床評価中である

(B) 神経膠腫発生glioma­genesisの早期にCSF-1Rを標的とすることは、マウスモデルで生存を延長する
CSF-1R阻害はマクロファージを再プログラムして、M2様の遺伝子を下方調節し、食作用phagocytosisを促進することにより、抗腫瘍形成性antitumorigenicにする

しかし、CSF-1R阻害にもかかわらず、腫瘍に由来する生存因子は、マクロファージの生存能力を維持するsustain

(C) 治療を続けると、GBMのサブセットがCSF-1R阻害への抵抗性を獲得し、腫瘍は再発する
これはマクロファージ由来のIGF-1の上昇と腫瘍細胞のIGF-1Rの高さによって促進されるdriven
結果として、PI3K経路が活性化し、神経膠腫細胞の生存と浸潤が促進されるenhanced

前臨床試験でこの経路とCSF-1Rを阻害したところ、かなりsubstantialの生存的利益がもたらされた



<コメント>
腫瘍内にCSF-1を発現するマクロファージが多いので阻害してみると、マクロファージはIGF-1を発現するようになった



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/305eb8758c89181480425e88fcdd8783
診断から20年前のIL-4レベルの高さは神経膠腫を発症する可能性の減少と関連することを分析は示した
今回の結果は、アレルギーが神経膠腫リスクを実際に低下させることを示唆する発見を支持するものである
これらの脳腫瘍は免疫系に影響するので、研究者はまだ「アレルギーが脳腫瘍リスクを低下させるのか」、それとも「アレルゲンに対する過剰に敏感な免疫応答にこれらの腫瘍が診断前に干渉しているかどうか」を確信していない



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160108084437.htm
アルツハイマーモデルマウス(APP)でCSF1Rを阻害すると、ミクログリアの増殖は阻止され、ミクログリアは炎症性から抗炎症性に変化して、アルツハイマー病は軽減した
このアルツハイマー病の軽減は、Aβプラークの量とは相関しなかった



関連サイト
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/200805/506592.html
グリオーマの腫瘍組織内に浸潤しているM2マクロファージ数が多いほど、グリオーマの悪性度が高くなる



関連サイト
http://www.cancerit.jp/9574.html
GBMマウスモデルで放射線治療後に腫瘍が再発するのは、腫瘍が産生するSDF-1によって動員されたマクロファージ等が一因
 

癌細胞のEGFR阻害剤への防御を打ち破る

2016-05-26 06:06:06 | 癌の治療法
Breaking down cancer cell defenses

Inhibiting membrane enzyme may make some cancer cells more vulnerable to chemotherapy

May 21, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160521071209.htm

細胞表面の特定の受容体の誤った活性化は、ヒトの様々な癌の一因である
その活性化のプロセスについて多く知ることにより、EGFRという受容体がドライバである癌(主に肺癌)に対して既存の第一選択療法first-line treatmentへの脆弱性を誘発することが可能である

ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院で癌生物学部の助教授であるEric Witze, PhDを中心とする研究チームは、研究結果を今月のMolecular Cell誌で発表した

「パルミチン酸という脂肪酸をタンパク質に付加する酵素を阻害すると、癌細胞は生存のためにEGFRシグナル伝達に依存するようになることを我々は発見した」
Witzeは言う

2-ブロモパルミチン酸/2-bromo-palmitate (2BP) という小さい分子を使うことにより、EGFR阻害剤に対して癌細胞を脆弱にすることができるかもしれないと研究者は推測するsurmise


パルミチン酸/palmitateは動物・植物・微生物で最も一般的に見られる脂肪酸だが、十分には研究されていない

パルミチン酸が結合したタンパク質は、常に細胞膜に結合しているassociate
パルミチン酸により膜に結合したタンパク質は、化学的シグナルを細胞外から細胞内へ伝えることが可能になる

EGF受容体 (EGFR) は細胞膜を貫通するタンパク質で、本来itselfはパルミチン酸と結合しているが、パルミチン酸を阻害するとEGFRは過剰に活性化するようになる

「我々はこの発見が癌にとっては『良い』が、癌患者にとっては『悪い』だろうと思う」
Witzeは言う

EGFRシグナル伝達と関連しない癌では、この関係は正しい
EGFRが活性化すれば、細胞の増殖は促進されるからだ

しかしながら、EGFRと関連する癌では、パルミチン酸を付加する酵素が阻害されるとEGFRは活性化するが、しかし癌細胞の増殖は遅くなる

加えて、肺癌の治療用として売られているEGFRの阻害剤であるゲフィチニブ/gefitinibをこの状態の癌細胞に投与すると、癌細胞は死ぬ

EGFR活性化は正の細胞増殖シグナルとして機能するので、この発見は細胞増殖に関する直感にやや反しているsomewhat counterintuitive

しかし、EGFRが阻害されると細胞が死ぬという事実は、直感に反しないnot counterintuitive
今や癌細胞はEGFRシグナルに依存addictするようになっているのである

「それはまるで、スイッチがオンに固定されるstuck onようなものである
それにより細胞は増殖シグナルの制御を失う」
Witzeは言う

「もしパルミチン酸がEGFRと結合しないと癌細胞はシグナルの制御を失い、EGFR阻害剤が加えられると細胞は死ぬ」


EGFRをパルミチン酸で可逆的に修飾することはEGFRの『尾tail』を細胞膜に『ピンで留め』ることになり、EGFRの活性化を妨げるimpedeことを研究者は示す
EGFRの『尾』が細胞膜にピンで留められなくなると、スイッチが『オン』のままになるのだろうと研究者は考えている

現在のところ、実験的な2BP化合物はパルミチン酸を基質として使うあらゆる酵素を阻害するため、ほとんどの細胞にとって有害である

「パルミチン酸を付加する酵素だけに特異的な化合物を見つけるか、2BPを修正して不要な副作用を低下させるか、そのどちらかまたは両方をする必要がある」
Witzeは言う

この研究は、アメリカ国立衛生研究所/NIH、米国癌学会/American Cancer Society、国防総省/Department of Defenseから研究資金を受けた


http://dx.doi.org/10.1016/j.molcel.2016.04.003
Inhibition of DHHC20-Mediated EGFR Palmitoylation Creates a Dependence on EGFR Signaling
DHHC20を介するEGFRパルミトイル化の阻害は、EGFRシグナル伝達への依存状態を生み出す


Highlights
・パルミトイル転移酵素/palmitoyltransferaseであるDHHC20の阻害は、EGFR阻害剤への感受性を生み出す
・EGFRはC末端の尾部内のシステイン残基がパルミトイル化/palmitoylatedされる
・パルミトイル化/palmitoylationは、構造化されていないC末端尾部を細胞膜に『ピンで留める』
・パルミトイル化の喪失は、EGFRシグナル活性化の持続を増大させる

Summary
受容体チロシンキナーゼであるEGFRの不適切な活性化は、様々なヒトの悪性腫瘍の一因である

ここに我々はEGFRがドライバの癌に対する既存の第一線治療に対して脆弱性を誘導するメカニズムを示す
我々はパルミトイル転移酵素のDHHC20を阻害することで癌細胞が生存のためにEGFRシグナル伝達への依存状態を生み出すことを発見した
パルミトイル化の喪失はEGFRシグナル活性化の持続sustainedを増大させ、EGFRチロシンキナーゼ阻害に対して細胞を感受性にする

我々の研究はパルミチン酸によるEGFRの可逆的な修飾が構造化されていないC末端尾部を細胞膜へと『ピンで留め』てEGFR活性化を妨げるimpedeことを示す
我々は質量分析により、C末端尾部内のパルミトイル化されるシステイン残基のシステインからアラニンへの突然変異が、細胞の移動と形質転換を促進するEGFRシグナル伝達の活性化に十分であることを確認した

EGFRシグナル伝達の末梢的peripheralな調節者modulatorであるDHHC20を標的とすることでシグナル調節を失わせ、EGFR阻害剤による細胞死への感受性を惹起することを我々の結果は明らかにする



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/05/150508140258.htm
膠芽腫は半分にEGFRという受容体に変異がある
しかし、EGFRへの阻害剤は別の受容体をオンにしてしまい、腫瘍は阻害剤を迂回する
EGFR阻害剤に抵抗する膠芽腫はPLK1に依存する
膠芽腫のストレスを調節するPLK1は生存に必要

EGFR阻害剤のゲフィチニブ/Gefitnib、PLK1阻害剤のBI2536、DNA損傷剤/DNA-damaging agentのテモゾロミド/TMZを組み合わせて膠芽腫のマウスモデルに投与すると、検出できるような再発は観察されず、明らかな副作用もなかった
 

コレステロールエステル化の阻害で膵臓癌の転移を抑制する

2016-05-12 06:06:09 | 癌の治療法
Research points to a new treatment for pancreatic cancer

May 3, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160503161425.htm


(Researchers have shown how controlling cholesterol metabolism in pancreatic cancer cells reduces metastasis to other organs, pointing to a potential new treatment. Findings showed a higher number of metastatic lesions in organs of untreated and treated mice, shown at top and bottom, respectively.

Credit: Purdue University image/Junjie Li)

パーデュー大学(インディアナ州)の研究者は、膵臓癌の細胞内のコレステロール代謝を制御することがどのようにして転移を抑制するかを示した
これは以前アテローム性動脈硬化症のために開発された薬剤を使った新たな潜在的治療への道を指し示すものである
膵癌は診断から数ヶ月以内に死亡するため、膵癌患者の寿命を延ばす新たな治療が望まれている

「コレステロール代謝を制御すると膵臓癌が他の臓器へ転移するのを減少させうることを我々は初めて示す」
パーデュー大学のWeldon School of Biomedical Engineeringと化学部で教授を務めるJi-Xin Chengは言う

「我々はこのアプローチをテストするために膵臓癌を選んだ
なぜなら全ての癌の中で最も悪性の疾患だからである」


以前Chengは研究チームを率いてコレステロールが細胞によって代謝された際に作られる化合物(コレステリルエステル)と前立腺癌の悪性度との間のつながりを発見しており、その発見は新たな診断と治療の方法をもたらしうるものだった

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24606897



今回の研究チームにはパーデュー大学がん研究センター、バイオメディカル・エンジニアリングスクール、
パーデュー大学生物科学部、比較病理生物学、生化学部、
そしてインディアナ大学医学部、サイモンがんセンターの研究者が含まれる

Oncogene誌で詳細が発表された今回の研究結果は、以前アテローム性動脈硬化症を治療するために開発された薬剤が膵臓癌などの癌の治療のために再利用repurposeされうることを示唆する
アテローム性動脈硬化とは脂肪やコレステロールなどの物質が動脈に蓄積して血流が制限される状態である

今回の研究ではヒト膵臓癌の標本specimenならびに細胞系統ではコレステリルエステルcholesteryl esterという化合物の蓄積が明らかになり、コレステロールのエステル化cholesterol esterificationと転移との間のつながりが実証された


エステル化はコレステロールを細胞に蓄積するための生化学的なプロセスである
コレステロールの量が過剰だと、コレステリルエステルが癌細胞内の脂肪滴lipid droplet内に蓄積される結果になる

「今回の研究結果は、コレステロールのエステル化を阻害することで転移性の膵臓癌を治療するという新たな戦略を実証する」
インディアナ大学でJonathan and Jennifer Simmons Professor教授職であり、Melvin and Bren Simon Cancer Centerの研究者でもあるJingwu Xieは言う

論文の筆頭著者lead authorでパーデューのpost-doctoral fellowのJunjie Liを含めた研究者たちはラマン顕微分光法/Raman spectromicroscopyという分析ツールを開発し、それにより生きた細胞の単一の脂肪滴がどのような成分から構成されているかを調べることが可能になった

「我々はヒト膵臓癌の標本ならびに細胞系統におけるコレステリルエステルの異常な蓄積を確認した」
Liは言う

「マウスの膵臓でコレステロールのエステル化を枯渇させると、腫瘍の増殖と転移は著しく抑制された」


研究結果はアテローム性動脈硬化症を治療するために以前開発されたアバシミベ/avasimibeのようなACAT阻害剤がコレステリルエステルの蓄積を減少させることを示す

※ACAT: アシルCoA コレステロールアシル基転移酵素。アシル基をコレステロールに転移させる

コレステリルエステルの蓄積はACAT-1のような酵素によって制御され、
この酵素の発現の高さと患者の生存率の悪さとの相関関係が研究により証明された

研究者たちは膵癌患者の組織サンプルを分析し、加えてインディアナ大学医学部によって開発された同所性マウスモデル/orthotopic mouse modelと呼ばれる実験用マウスで薬剤による治療をテストした
ヒト膵癌組織の標本はSimon Cancer CenterのSolid Tissue Bankから提供された

※orthotopic graft: 同所移植。ある組織を移植する際に、それが正常に存在するべき解剖学的部位に移植すること

実験の結果、画像では脂肪滴の数の減少が示され、ラマン分光による分析では脂肪滴内部のコレステリルエステルの著しい減少が立証された
これはアバシミベavasimibeがコレステロールのエステル化を阻害することにより作用したことを示唆する
この薬は体重を減少させず、肝臓、腎臓、肺、脾臓のような臓器への明らかな毒性も見られなかったとChengは言う

また、実験ではコレステリルエステルの貯蔵の阻害が癌細胞を殺すことが示された
その原因は特に小胞体/endoplasmic reticulum(ER)に対してダメージを与えたことによるもので、ERはタンパク質と脂質の合成のために働く器官である

「ACAT-1の強力な阻害剤であるアバシミベを使うことで我々は膵癌の細胞が通常の細胞よりもACAT-1阻害に感受性があるsensitiveことを明らかにした」

さらなる研究でアバシミベの抗癌効果は特にACAT-1阻害によることが確かめられた
研究者は様々な生化学的な分析と『遺伝子除去genetic ablation』を実施して薬剤の抗癌効果を確認した

「実験結果では4週間のアバシミベによる治療が腫瘍のサイズを顕著に抑制して腫瘍の成長速度を大幅に低下させることが示された」
論文の共著者coauthorであるTimothy Ratliffは言う
彼はパーデューのがん研究センターでRobert Wallace Miller Directorである

「研究の最後にリンパ節と遠隔臓器の転移病巣metastatic lesionsを評価した
アバシミベによる治療群と比較して、対照群ではリンパ節で非常に多くの転移病巣が検出された」

対照群の8匹のマウスはそれぞれ肝臓に少なくとも一つ以上の転移病巣を示したが、
アバシミベでの治療群は9匹中わずか3匹のマウスが肝臓に一つの転移病巣を示しただけだった

※記事にはそれぞれの群groupの数が書かれていない。論文にはこう書かれている。
"Much higher number of metastatic lesions in lymph nodes were detected in the control group (15.0±2.2, n=8) than the avasimibe-treated group (4.4±1.7, n=9). "
"Each mouse in the control group showed, at least, one metastatic lesion in the liver. In contrast, only three mice in the avasimibe-treated group showed single lesion in liver (Figure 5d). "


Cheng, LiとRatliffは、ヒトの癌患者のための薬の調剤formulationの開発に向けて、Purdue Research ParkにResarci Therapeutics LLCを設立した

「我々はこれを臨床に持って行きたいと考えている」
Chengは言う

彼らはインディアナ大学のXieと共に治療の可能性についてさらに研究を進めていく予定である


http://dx.doi.org/10.1038/onc.2016.168
Abrogating cholesterol esterification suppresses growth and metastasis of pancreatic cancer.
コレステロールエステル化の阻害は膵癌の増殖と転移を抑制する

Abstract
癌細胞はグルコース・アミノ酸・脂質の代謝を再プログラム化することが知られている

今回我々は、癌の転移におけるコレステロール代謝の重要な役割を報告する

我々は標識を用いないラマン顕微分光法label-free Raman spectromicroscopyを使い、ヒトの膵癌の標本と細胞系統においてコレステリルエステルの異常な蓄積が見られることを明らかにした
これはアシルCoA コレステロールアシル基転移酵素/acyl-CoA cholesterol acyltransferase-1 (ACAT-1) によって仲介されるものであり、ACAT-1の発現は患者の生存の悪さと相関を示した

コレステロールエステル化の阻害は、ACAT-1阻害剤またはスモールヘアピンRNA(shRNA)ノックダウンのどちらであっても、膵癌の同所性マウスモデル/orthotopic mouse modelにおいて腫瘍の増殖と転移を有意に抑制した

機構的にはMechanically、ACAT-1阻害は細胞内の遊離コレステロールfree cholesterolのレベルを増加させた
これは小胞体ストレスの上昇と関連し、癌細胞のアポトーシスを引き起こした

まとめると、我々の結果はコレステロールエステル化の阻害によって転移性の膵癌を治療するための新たな戦略を実証する


Results
膵癌におけるコレステリルエステルの蓄積はPTENによって調節され、新規のコレステロール合成とLDL取り込みの両方によって仲介される

合わせて考えると、我々の結果は膵癌におけるコレステリルエステルの蓄積は新規合成とLDL取り込みの両方から生じることを示し、そしてどちらもACAT-1酵素によって仲介される (Figure 3h)


http://www.nature.com/onc/journal/vaop/ncurrent/fig_tab/onc2016168f7.html
Figure 7
Inhibition of ACAT-1 induces ER stress and apoptosis in pancreatic cancer
ACAT-1の阻害は膵癌にERストレスとアポトーシスを誘発する


ACAT-1酵素は遊離コレステロールをエステル化し、エステル化されたコレステロールは脂肪滴(LD)に貯蔵されてコレステロール恒常性を維持する

我々はコレステロールのエステル化が新規コレステロール合成/LDL取り込みによって引き起こされる過剰な遊離コレステロールの毒性を最小化する方法をもたらすのではと仮説を立てた

我々が予想した通り、遊離コレステロール濃度はアバシミベ投与と共に徐々に増大して高くなった (Figure 7a)

遊離コレステロールの増加は、アバシミベを投与した膵癌マウスの腫瘍組織でも検出された (Supplementary Figure S7A).

細胞内の遊離コレステロールレベルの上昇はマクロファージにERストレスを引き起こし、アポトーシスを誘発することにより有害であることが以前報告されている (33

アバシミベ投与が膵癌細胞におけるERストレスと関連するかどうかをテストするため、我々は3つのERストレスマーカーを使って調べた
78 kDa glucose-regulated protein (GRP78)、activating transcription factor 4 (ATF4)、C/EBP homologous protein (CHOP) である (34

免疫ブロット法/immunoblottingによる分析で、アバシミベ投与後に時間が経つにつれてGRP78発現レベルが徐々に上昇することが示された
これはERシャペロンであるGRP78が放出releaseされたことを示す (34

GRP78の放出は小胞体ストレス応答/unfolded protein response(UPR)経路を活性化し、投与から12時間後以内の転写因子ATF4の増大につながる

ATF4は、アポトーシスを促進する因子であるCHOPの発現を誘導する
この発現はアバシミベ投与の12時間後に現れ、12時間後から48時間後まで増大していた (Figure 7b)

我々はさらに、アバシミベを低濃度~高濃度で投与したMIA PaCa-2細胞でERストレスの程度を評価した
これはGRP78が徐々に増大することにより示された (Figure 7c)

GRP78発現の上昇は、アバシミベによるACAT-1阻害だけでなく、ACAT-1がノックダウンされたMIA PaCa-2細胞でも観察された (Supplementary Figure S7B)

ACAT-1阻害によって誘発されたERストレス と 上昇した遊離コレステロールレベル との間の関連を実証すべく、
アバシミベを投与した細胞に リポタンパク質を欠乏させて外因性コレステロールを除去した血清 または コレステロール新規合成を阻害するシンバスタチン を使用した

この実験により、リポタンパク質を欠乏させた血清、シンバスタチン、そのどちらもGRP78レベルを低下させることが示された (Figure 7d)
これは細胞を特にアバシミベによって誘発されたERストレスから救った


Discussion
今回の研究から示された『コレステリルエステル/cholesteryl ester(CE)の蓄積を癌の悪性度へと関連付ける分子メカニズム』にはさらなる研究が必要である

※cholesteryl ester: "-yl"は『…基』のこと。ある物質からH原子が失われる(alkyl, methyl, phenyl)かOH基が失われる(acyl, acetyl, carbamoyl)ことにより生成される基であることを示す


考えられる可能性の一つは、コレステロールのエステル化esterificationが
遊離コレステロールの少ない環境を維持することにより
シグナル伝達経路を活性化した状態に保つというメカニズムである

可能性のある標的の一つは、カベオリン1/caveolin-1シグナル伝達経路である
One of the possible targets is the caveolin-1 signaling pathway.

細胞コレステロール恒常性の調節因子であるカベオリン1は、膵癌の進行のマーカーであると考えられている (11

特に、カベオリン1は膵癌の転移の促進で役割を果たすことがこれまで報告されている (40

我々の予備研究preliminary studiesでは、ACAT-1の阻害は SREBP1・カベオリン1・リン酸化ERK1/2 の発現レベルを低下させることが示された (未発表データ)

カベオリン1の影響はおそらくSREBP1によって仲介されるものであり、SREBP1は細胞内コレステロール恒常性を感知する (41

一方で、カベオリン1はSREBP1からMAPK経路への作用を仲介する際に重要な役割を演じるかもしれない (42, 43
MAPKは癌細胞の転移において極めて重要な役割を持つことが知られている (44

 細胞内コレステロール恒常性/SREBP1→(カベオリン1)→MAPK→転移

ゆえに、ACAT-1阻害によって生じる遊離コレステロールレベル増加は、SREBP1を不活化してカベオリン1・MAPK経路の下方調節につながり、これが癌の悪性度の低下に寄与する可能性がある

 遊離コレステロール↑/SREBP1↓→(カベオリン1↓)→MAPK↓→転移↓


カベオリン1/MAPKシグナル伝達以外では、脂質ラフト/lipid raftのような膜構成がACAT-1の阻害によって潜在的に変化する可能性がある
脂質ラフトは多種多様な細胞シグナル伝達経路のプラットフォームを提供することが知られている

したがってコレステロール代謝の調整は他のシグナル伝達経路を経てさらに深い影響を与える可能性が高い
分子メカニズムを完全に明瞭にするための研究が将来必要である






関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160216180248.htm
ERストレスによるUPR応答ではATF4が誘導される
ONC201という臨床試験中の抗癌剤によってもATF4が誘導され、p53には依存しない細胞死や細胞周期停止が起きる



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/04/160426144737.htm
コレステロールが高いほど結腸直腸癌リスクは低下する(オッズ比0.95)
スタチン使用もリスク低下と関連したが、それはindication biasである



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/3787e596bc6ddff6d2af0918968ced08
コレステロールは細胞の移動で重要な役割を果たす



関連サイト
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20428172
同じコレステロールでも、ACATによってエステル化されたものは結晶になりにくい
NLRP3インフラマソームはアテロームの生成に必要であり、コレステロール結晶により活性化される



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/6089be975c0cf32996447e33323a6ece
癌はLDLのコレステロールをエサにして増殖する
 

2つの化学療法薬の組み合わせで癌幹細胞を標的にする

2016-05-05 06:06:31 | 癌の治療法
Two known chemotherapy agents effectively target breast cancer stem cells

May 2, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160502131417.htm


(Puttur D. Prasad博士 (左) とMuthusamy Thangaraju博士

Credit: Phil Jones)

既存の2つの化学療法薬は、乳癌を作り出す異常な幹細胞を標的とするための強力な組み合わせとなるようである
5-アザシチジンと酪酸という2つの薬剤は乳癌の転移と再発の原因である癌幹細胞の数を減少させ、乳癌の動物モデルで生存を改善することがCancer Research誌で報告された
報告によるとどちらも単独では効果がなかったという

※アザ/aza-: 「炭素の代わりに窒素を含む」の意

「現在のほとんどの化学療法は癌幹細胞を殺さず、腫瘍の容積massを減らすだけである」
ジョージア医科大学/Medical College of Georgia(MCG)とオーガスタ大学ジョージアがんセンター/Georgia Cancer Center at Augusta Universityの生化学分子生物学部で生化学者のMuthusamy Thangaraju博士は言う

※ジョージア医科大学はオーガスタ大学(ジョージア州)が設立した
※『Georgia Regents University (GRU) Cancer Center』から『Georgia Cancer Center at Augusta University』に改名した

「この組み合わせは全ての乳癌患者が検討する必要がある
なぜなら、彼女たちに共通する特徴denominatorは癌幹細胞だからである」
責任著者corresponding authorのThangarajuは言う


この2つの薬は現在、エストロゲン受容体が陽性の乳癌を治療するために一般に用いられるタモキシフェンという薬剤の有効性effectivenessを加速するために共に使われている
この性ホルモン受容体は乳癌の約70パーセントで陽性である
タモキシフェンはその受容体を阻害することによりエストロゲンレベルを低下させ、臨床的な経験からこの薬の追加により癌の再発が減少することが示されている

Thangarajuのラボは、この2つの薬剤の追加は幹細胞が乳癌を形成可能にするために重要な経路の少なくとも2つに直接影響するという証拠evidenceを得ている
それには乳癌を骨や肺に転移させることができる筋上皮細胞myoepithelial cellが含まれる


それら薬剤は、変化した遺伝子発現を正常化して増殖促進シグナルを阻害するのを助けるようである

5-アザシチジンはDNMT1遺伝子の阻害剤である
Thangarajuの研究チームは以前、DNMT1遺伝子が正常で健康な胸部の幹細胞と組織の維持だけでなく、癌幹細胞の維持にも必要であることをNature Communications誌で報告しているSciencedialy記事

DNMT1は正常な成人の胸と比較して乳癌で非常に発現が高い
高レベルのDNMT1は通常存在する腫瘍抑制因子であるISL1遺伝子の発現を低下させ、DNMT1は幹細胞のメカニズムを制御する
事実、ジョージア医科大学(MCG)の科学者が乳癌モデルでDNMT1遺伝子を阻害したところ、乳癌腫瘍の80パーセントが除去eliminateされ、特に最も悪性の腫瘍が除去された


また、乳癌ではシグナル伝達分子のRAD51AP1とSPC25も過剰発現する
それらは正常ならば癌を引き起こしうるタイプのDNA損傷の修復を助けるが、どちらも癌に直面するかいくつかの癌の治療にさらされると、癌細胞の増殖と転移を可能にする
母乳に多く含まれる酪酸butyrateは、増殖を支えるために癌が使うこれらの分子が過度に増加し過ぎるのを防ぐ
彼らの研究は乳癌のマウスモデルで行われ、研究結果はヒトの乳癌細胞系統によって支持される

※母乳育児は乳癌リスクの低下と関連があるとされる


今回の研究は「なぜ幹細胞が重要な標的なのか?」についてのさらなる根拠evidenceを(少なくとも彼らの動物モデルでは)もたらす
通常の幹細胞は前駆細胞progenitor cellを作り、前駆細胞は胸を構成する特定の細胞を生み出す
しかし、癌に至るようなダイナミクスdynamicsの変化、例えば遺伝子発現の変化は、自然に起きたり加齢に伴って生じ、または煙草の煙や他の発癌物質、ウイルス疾患などの環境要因によって生まれる
そのような変化は癌幹細胞が腫瘍と筋上皮細胞のどちらも作り出すことを意味し(通常は幹細胞→前駆細胞→筋上皮細胞だが、癌幹細胞→筋上皮細胞)、この筋書きscenarioでは筋上皮細胞が転移を可能にする
腫瘍では前駆細胞はこの異常なタイプの筋肉様細胞を直接は作らなかった

興味深いことに、これらのいわゆる『エピジェネティックな変化/epigenetic change』は癌を作り出すと同時に、癌幹細胞を5-アザシチジン/酪酸の組み合わせ療法に対して脆弱にする可能性が高いlikelyとThangarajuは言う

Thangarajuによると再発は患者の約20%から45%で生じ、最初の診断から数十年経って起きることさえあると言う
再発リスクが最も重大な患者は、乳癌が診断時に既にステージが進行していたかHER2が陽性の乳癌の女性である
それは癌の増殖を助ける成長因子の受容体HER2を癌が持つことを意味する


http://dx.doi.org/10.1158/0008-5472.CAN-15-2249
Combined inhibition of DNMT and HDAC blocks the tumorigenicity of cancer stem-like cells and attenuates mammary tumor growth.
DNMT阻害とHDAC阻害の組み合わせは癌幹細胞様細胞の腫瘍形成性を阻止して乳腺腫瘍の増殖を減じる

最近乳腺幹細胞と癌幹細胞(CSC)の単離と検証において印象的な技術的進歩が為されたが、幹細胞の自己再生self-renewalを調節するシグナル伝達経路はほとんど知られていない
さらに、CSCは化学療法と放射線療法への抵抗性の一因であると考えられている

今回の研究で我々はMMTV-Neu-Tgという乳腺腫瘍モデルのマウスを使い、潜在的なCSCを除去するための新たな戦略を同定した

※MMTV: murine mammary tumor virus
※Neu: Her2のこと
※Tg: Transgenic

我々は管腔前駆細胞luminal progenitorと基底幹細胞basal stem cellのどちらもが遺伝子的な・エピジェネティックな修飾genetic and epigenetic modificationsに脆弱であり、それが発癌性の形質転換oncogenic transformationと腫瘍形成性の潜在性tumorigenic potentialを促進することを発見した

DNMT阻害剤の5-アザシチジンとHDAC阻害剤の酪酸の組み合わせはCSCの量を著しく減少させ、マウスモデルの全生存を増加させた

5-アザシチジンと酪酸の組み合わせで処理したCSCをRNA配列決定/RNA-seqで分析したところ、クロマチン修飾因子modifierの阻害はRAD51AP1SPC25のような増殖促進シグナル伝達分子を阻止するというエビデンスがもたらされた
これらはDNA損傷の修復ならびに動原体の組み立てkinetochore assemblyで重要な役割を演じる分子である

さらに、RAD51AP1とSPC25は有意にヒト乳癌腫瘍組織で過剰発現し、患者の全生存の低下と関連した

結論。我々の研究は乳癌CSCが遺伝子的・エピジェネティック的な修飾に対して内因性的intrinsicallyに感受性があることを示唆し、難治性または薬剤抵抗性の乳癌におけるDNMT阻害とHDAC阻害の組み合わせをさらに調査するための根拠となるwarrant



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https://www.sciencedaily.com/releases/2015/05/150511163014.htm
妊娠時の正常かつ急速な胸の成長を維持させる幹細胞と、乳癌を引き起こす乳癌幹細胞、その両方の維持にDNMT1は必要
逆に腫瘍抑制遺伝子のISL1は乳癌で抑制されており、これは5種類の乳癌で同様だった
化学療法と組み合わせて既に使われているバルプロ酸valproic acidは、ISL1の発現を増大させた
DNMT1は造血幹細胞の維持にも必要




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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/04/160404152906.htm
iPSC/induced pluripotent stem cellは現在のところ組織修復の客観的証拠が何もない
PDGF-ABと5-アザシチジンの組み合わせで作成できるiMSC/induced multipotent stem cellは組織修復が可能であり、それはサンショウウオの修復と似ている



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160202143739.htm
5-アザシチジンというRNAはHIVウイルスの変異を加速して自滅させる
5-アザデオキシシチジン/5-aza-deoxyCというDNAほど有効ではないが、RNAは安く作れるためにHIVが流行しているアフリカのような貧困地域で有用である




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免疫療法の限界をエピジェネティックに改善する



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Isl遺伝子がコードするIslet 1は膵臓の膵島細胞で転写因子として働くが、POMCニューロンでも発現することが判明した



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酪酸はHDAC1がFasプロモーターに結合する活性を阻害してFasプロモーターのアセチル化を誘導し、Fasを上方調節してT細胞のアポトーシスを促進する



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共生細菌の代謝産物である酪酸とナイアシンの受容体であるGpr109aの活性化は、結腸の炎症と発癌を抑制する



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癌細胞のウイルス防御経路のスイッチを入れることでインターフェロンを分泌させ、免疫細胞を目覚めさせる



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癌細胞にウイルス感染を擬似的にエピジェネティックで誘導することにより、癌幹細胞を標的にする
 

加齢がメラノーマの治療に与えるインパクト

2016-04-11 06:06:08 | 癌の治療法
Aging impacts therapeutic response of melanoma cells

April 4, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/04/160404134025.htm

癌のリスクは加齢により上昇するが、それは年を取るにつれて細胞にダメージが蓄積して慢性的な炎症が生じるようになるからである
今回ウィスター研究所を中心とする科学者の国際チームがNature誌で発表した研究結果によると、年老いたメラノーマの腫瘍細胞は、若い腫瘍細胞とは振る舞いが異なるという
微小環境microenvironmentの変化は、年老いた腫瘍細胞をより転移しやすく、そして標的治療に対して抵抗しやすくする
この研究結果の観点からin light of these findings、科学者たちは年老いたメラノーマ患者にとって抗酸化物質がどのようにしてより良い戦略として働くのかを実証した

「遺伝子変異を特に標的とする治療への応答ならびに転移、その両方に微小環境が深い影響を与えるという研究結果はとても魅力的だ
これは腫瘍が決して『島』ではなく/no tumor is an island、それだけで独立した存在ではないことを我々に教える
ドライバ変異に対する標的治療でさえ、腫瘍細胞がその微小環境とコミュニケーションすることにより影響を受ける」
ウィスターで腫瘍微小環境転移プログラムの準教授associate professorである筆頭著者lead authorのAshani Weeraratna, Ph.D.は言う

※No man is an island, entire of itself.(いかなる人も島ではなく、それ自体で独立してはいない; 人はみな持ちつ持たれつ(John Donne, 1624)


メラノーマは最も致死的なタイプの皮膚癌であり、進行した症例の患者が診断後に5年生き残れる可能性は20パーセントしかない
過去数年でメラノーマに対して複数の標的治療が承認されたが、これらの治療を受けた患者は結局は再発し、治療に抵抗するようになる


加齢と関連する癌の増加には複数の要因が寄与する可能性があるが、Weeraratnaのラボは特に腫瘍細胞の微小環境に生じる加齢に関する変化を初めて指摘した

皮膚の線維芽細胞dermal fibroblastは傷からの回復を助ける一方で、メラノーマ細胞の増殖と浸潤の一因ともなりうる
研究者は25歳~35歳または55歳~65歳の健康なドナーから得られた皮膚の線維芽細胞を使い、年老いた細胞集団におけるメラノーマ進行の違いにどのような要因が寄与するのかを理解しようとした


研究の結果、Weeraratnaたちは分泌される因子secreted factorの一つ、sFRP2が年老いた細胞中に存在することを特定した
sFRP2はβ-カテニンという別のタンパク質を負に調節し、通常β-カテニンはメラノーマ細胞の浸潤を妨げる

加えてβ-カテニンの喪失はいくつかのタイプの細胞で酸化ストレスを促進することがこれまで示されている
年老いた微小環境には遊離した酸素ラジカルを捕捉するスカベンジャーscavengerが少なく、活性酸素種(ROS)の活性が高くなることを研究者は示した

同時に、加齢によるβ-カテニンの喪失はメラノーマ細胞がROSを処理する能力を低下させ、遺伝子的に不安定な腫瘍になる

年老いたメラノーマ患者が経験するBRAF阻害剤のような薬剤への治療抵抗性は、ROS活性の増加ならびにβ-カテニンレベルの低下の両方とも抵抗性の増大に寄与することが判明した(BRAFはメラノーマ症例のほぼ半分で変異する遺伝子である)

また、ウィスターの科学者は抗酸化物質がどのようにして年老いたメラノーマ患者の治療にとって有効な戦略となりうるかを示した
N-アセチルシステイン/N-acetylcysteine (NAC) という抗酸化物質は、年老いた皮膚線維芽細胞の中にいるメラノーマ細胞を殺した

「我々の発見は加齢に適したやり方でメラノーマを治療することがどれほど重要かについて強調する」
Weeraratnaラボの大学院生graduate studentであり研究の筆頭著者first authorのAmanpreet Kaurは言う

「BRAFが変異した癌の治療に抗酸化物質が有効であることを確認した他の研究と一致して、この新たな治療戦略が年老いた集団にとってどれほど有益かというさらなるエビデンスを我々は得た」

ウィスターのビジネス開発チームは、標的治療に対する腫瘍微小環境の応答を包括的に問いただすためにバイオテクノロジー・製薬パートナーとの有意義なコラボレーションを積極的に探しているところである


http://dx.doi.org/10.1038/nature17392
sFRP2 in the aged microenvironment drives melanoma metastasis and therapy resistance

http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/fig_tab/nature17392_F3.html
Figure 3: Loss of APE1 renders melanoma cells more sensitive to oxidative stress in an aged microenvironment.
h, Schematic of sFRP2 effects in melanoma cells exposed to aged or young fibroblasts.


 [加齢線維芽細胞]sFRP2─┤Wnt↓─(Frizzled)→β-カテニン↓→TCF↓→MITF↓→APE1↓─┤ROS↑→DNAダメージ応答(DDR)→PPM1D,ATF2,ING1,p21,53BP1,γ-H2AX

 [若い線維芽細胞]SOD3─┤ROS



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/7375811853bf97f841338ba990da2cb5
抗酸化剤は癌の転移を促進するかもしれない



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/40e93d7550ffd29a7cf3d92a5aa7bcd2
抗酸化剤は悪性メラノーマの転移を加速する



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/ea5ba44b52c59d77bafb2571edfc908e
MEK阻害剤はT細胞の免疫応答を妨害する



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/a42f46f190c4e408448d70b0cd3aa91e
マトリックスから離れた通常の細胞はPPP低下によりROSが増大してアポトーシスする
 

MEK阻害剤はT細胞の免疫応答を妨害する

2016-03-26 06:06:18 | 癌の治療法
Many targeted cancer therapies suppress T cell immune responses

New 'superagonist' can help overcome these immunosuppressive effects while preserving the powerful anti-cancer benefits of these drugs

March 22, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/03/160322120045.htm


(José Conejo-Garcia, M.D., Ph.D.

Credit: The Wistar Institute)

癌への標的治療targeted therapiesは多くの場合化学療法や手術よりも好まれるが、その理由は標的治療が腫瘍を促進する変異を持つ特定の癌細胞を攻撃して殺す一方で、そのような変異を持たない通常の健康な細胞は残すからである
臨床試験では標的治療の腫瘍細胞への効果を調べることが強く強調されてきたが、しかしそれが免疫系に与える影響はまったく調査されてこなかった

しかしながら、ウィスター研究所の新たな研究により標的治療の多くはT細胞の活性を抑制することが実証された
T細胞は本来腫瘍と戦う細胞である

さらに、FDAによって承認された標的治療であるトラメチニブ/trametinibとシグナル伝達タンパク質『スーパーアゴニストsuperagonist』とを組み合わせることで、T細胞の活性を刺激しつつ癌を阻止する能力はそのまま保たれることを明らかにした


「腫瘍細胞に標的治療を使うと免疫系にどのような結果が起きるのか、我々は知りたかった」
首席著者のJosé R. Conejo-Garcia, M.D., Ph.D.は言う
彼はウィスター研究所の腫瘍微小環境・転移プログラムで教授でありプログラムリーダーでもある

「もし我々が標的治療と免疫療法の組み合わせまたは逐次的投与の効果を最大化するつもりならば、これらの薬が腫瘍細胞と白血球との間の相互作用に与える影響を理解しなければならない
白血球は免疫原性immunogenicの腫瘍細胞の増殖をコントロールするために必須の免疫細胞である」


Conejo-Garciaたちは様々な小分子の阻害剤41種類とそれがヒトT細胞に与える影響を調べた
T細胞は病原体や癌細胞から体を守る細胞である
そして研究でテストしたあらゆるevery標的治療がことごとくT細胞を阻害し、しかも癌細胞よりも強力potentlyに妨害した
研究者が注目したのはメラノーマの全患者のほぼ半数に見られるBRAFV600E/K突然変異を持つ転移性メラノーマの治療用としてFDAに承認されたトラメチニブ(メキニストMekinist)というMEK1/2阻害剤で、これが特に強くT細胞の活性を阻害した

研究者たちはもしサイトカインという細胞シグナル伝達タンパク質が免疫細胞へのシグナルだけを促進できればトラメチニブのネガティブな影響からT細胞を解放できると推測し、そして実際に一般に投与されるサイトカインがT細胞の活性を保護することを示した
中でもインターロイキン-15(IL-15)がトラメチニブと共に使うことが適切なサイトカインであることを彼らは明らかにした
IL-15はエフェクターT細胞のシグナル伝達活動をより強力に促進する一方で、エフェクターT細胞を抑制する可能性がある制御性T細胞の集団は増殖させなかった

Conejo-Garciaたちは現在第一相/第二相の臨床試験中であるIL-15の『スーパーアゴニストsuperagonist』、ALT-803を使ってトラメチニブによって抑制されたT細胞を解放rescueできるかどうかを調べた
彼らがin vivoでの効果をテストしたところ、T細胞の増殖proliferationはもはやトラメチニブによって影響を受けなかった
この結果はトラメチニブがT細胞を阻害する影響とIL-15がこの抑制を克服する能力、その両方を立証するものだった

※IL-15スーパーアゴニスト: IL-15と可溶性IL-15Rαを組み合わせた複合体を指す
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18458113
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26216888
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26567920


「トラメチニブのようなMEK阻害剤は様々な腫瘍で現在試験中であり、我々はこれらの薬剤がT細胞に与える影響を制御する効果的な方法を実証した
T細胞は癌との戦いでさらなる助けとなりうる細胞である」
Conejo-Garciaのラボでpredoctoral traineeであり筆頭著者のMichael Allegrezzaは言う

「我々は標的治療が腫瘍微小環境に与える影響を研究し続けたいと考えている
我々がエフェクターT細胞で観察したような影響が他の免疫細胞にも見られるかどうかを調べる計画だ」

ウィスター研究所のビジネス開発チームは現在MEK阻害剤とIL-15スーパーアゴニストの組み合わせから得られる臨床的な利益を実現すべく、開発パートナーを積極的に探しているところである


http://dx.doi.org/10.1158/0008-5472.CAN-15-2808
IL-15 AGONISTS OVERCOME THE IMMUNOSUPPRESSIVE EFFECTS OF MEK INHIBITORS.
IL-15アゴニストはMEK阻害剤の免疫抑制的効果を克服する

Abstract
癌の治療法として開発されている多くのシグナル伝達阻害剤は腫瘍を攻撃する白血球の適切な機能にとっても重要な経路を標的とするため、その治療効果を弱める可能性がある

今回我々は複数のシグナル伝達経路を標的とするほとんどの阻害剤が、癌細胞に有効な容量で特に強い負の影響をT細胞の活性化に与えることを示す
我々は特に最近承認されたMEK阻害剤がT細胞に対してin vitroで強力な抑制効果を示すことを発見した

しかしながら、この影響は癌患者に投与することが可能な特定のサイトカインによって弱められる可能性がある

T細胞選択的にPI3Kを活性化させるIL-15スーパーアゴニストが現在臨床的に利用可能だが、これが特にMEK阻害剤との相乗効果をin vivoで発揮し、強力かつ永続的durableな抗腫瘍応答を引き出す
その応答には腫瘍の再負荷re-challengeに対する抵抗性をもたらすというワクチンのような効果も含まれる

我々の研究はMEK阻害剤がT細胞に与える抑制的な影響を克服するための臨床的にすぐにも使用可能actionableなアプローチを明らかにし、加えてin vivoでの望ましい免疫効果を妨害するシグナル伝達阻害剤による欠陥をどのようにして両立reconcileさせるかを実証するillustrate



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/c13f9b05824cf1ff4aa3e1996a2f9912
エイズウイルスの薬でメラノーマの薬剤耐性を回避する



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https://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150317122801.htm
BRAF V600E/KメラノーマのBRAF阻害剤への抵抗性と、マクロファージとの関連
マクロファージはメラノーマで最も多く見られる炎症性細胞で、その存在は患者の予後と全てのステージで逆相関する
BRAF阻害剤はマクロファージのMAPKを活性化してVEGFを分泌させ、これがメラノーマのMAPKを活性化して増殖を促進する



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https://www.sciencedaily.com/releases/2015/05/150528123853.htm
メラノーマのBRAF阻害剤への抵抗性はJAK1経路による
BRAF抵抗性のメラノーマでJAK1はEGFRの発現を増大させる
JAK1の増大は、JAK1を調節するユビキチンリガーゼRNF125のレベル低下による



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https://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141211124530.htm
メラノーマはBRAF阻害剤やMEK阻害剤に対して抵抗性が生じることが多いが、
その原因は、チロシンキナーゼ受容体(RTK)やSRCファミリーキナーゼ(SFK)シグナル、または変異NRASによる
汎RAF阻害剤のCCT196969とCCT241161は、RAFもSFKも阻害して抵抗性が起きない



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https://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150112110401.htm
メラノーマの抵抗性は、細胞表面のEphA2による
EphA2は膠芽腫の幹細胞でも見られる

http://dx.doi.org/10.1158/2159-8290.CD-14-0293
Ligand independent EphA2 signaling drives the adoption of a targeted therapy-mediated metastatic melanoma phenotype
リガンドとは独立したEphA2シグナル伝達は、標的治療を介する転移性表現型メラノーマの選定を促進する

BRAF阻害剤に抵抗性を生じた多くの患者は新しい箇所でも疾患を発症するが、これは阻害剤による選択圧が転移を促進していることを示唆する
今回我々は質量分析を用いてリン酸化タンパク質スクリーニングを実施し、リガンド非依存的なEphA2シグナル伝達がBRAF阻害療法への適応として生じることを明らかにした
BRAF阻害の結果として転移性の表現型が選択adoptionされる
EphA2シグナルはリガンドに依存せず、そしてAKT/PI3Kに依存的である
 

エイズウイルスの薬でメラノーマの薬剤耐性を回避する

2016-03-23 06:06:52 | 癌の治療法
HIV drug could stop skin cancer becoming drug-resistant

March 14, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/03/160314140114.htm

Cancer Research UKが資金を提供した研究によると、抗エイズウイルス薬は皮膚癌細胞の治療抵抗性につながる早くからの変化の一つを止める可能性があるという
この研究はCancer Cell誌で発表された


メラノーマに対する標準治療を開始していた11人の患者から得られたメラノーマ皮膚癌をマンチェスター大学の研究者が調べたところ、癌細胞は『分子スイッチ』を切り替えて一時的に自身の配線を組み直していた
それにより癌細胞は治療を始めて最初の2週間で抗癌剤に抵抗できるようになり、その後に遺伝子の変化により永続的な抵抗性を獲得した

エイズウイルス(HIV)への薬であるネルフィナビルnelfinavirは、細胞が治療を生き残る能力を加速する『分子スイッチ』を阻害することにより作用する
今回の研究はマウスで実施されたものだが、ネルフィナビルと皮膚癌への標準治療とを組み合わせて使うことで治療をさらに強力にすることに加えて薬剤抵抗性を遅らせる可能性が示唆される


筆頭著者、マンチェスター大学のClaudia Wellbrock教授は言う
「皮膚癌への標準治療で癌細胞は最初の数週間でより強く丈夫になり、治療に抵抗するようになる
しかし、完全に抵抗性になる前に皮膚癌細胞を標的とすれば、そのような回避を阻止するチャンスが得られるだろう
我々はこの研究がそれを現実とする方へ一歩さらに近づけると考えている」


Cancer Research UKのマンチェスターがん研究センターのディレクターであるNic Jones教授は言う
「メラノーマは治療が難しいが、その理由は癌細胞が極めて早く薬剤抵抗性を獲得するためである
しかし、今回の刺激的な研究は抵抗性への初めの一歩を阻止することにより治療をより長く有効にして、
我々が反撃fight backできるようになることを意味する」


「薬剤抵抗性は非常に難題だが、我々は大きく進歩しつつある
皮膚癌後期の薬剤抵抗性はいまだに我々が取り組まなければならない大きな問題だ
最近の免疫療法の開発で我々は大きく前進したが、
今回の刺激的なアプローチは皮膚癌が抵抗性を生じるのをより早い段階で止めることができるだろう」


http://dx.doi.org/10.1016/j.ccell.2016.02.003
Inhibiting Drivers of Non-mutational Drug Tolerance Is a Salvage Strategy for Targeted Melanoma Therapy.
突然変異によらない薬剤耐性ドライバを阻害することはメラノーマ標的治療への救済戦略である


[メラノーマ]
 BRAF↑→MEK↑→ERK→SKI,SMAD2─┤PAX3↓→MITF↓→薬剤耐性↓

[阻害剤投与]
 MAPK阻害剤─┤BRAF↓→MEK↓→ERK→SKI,SMAD2↓─┤PAX3↑→MITF↑→薬剤耐性↑


Highlights
MITFは、非突然変異的で可逆的な薬剤耐性の段階drug-tolerance phaseのドライバである

※薬物耐性/drug toleranceは、不可逆的な抵抗性を獲得する薬物抵抗性/drug resistanceとは異なる

・薬剤再利用/drug repositioningにより、メシル酸ネルフィナビル/nelfinavir mesylateをMITF発現の抑制因子として同定する
・ネルフィナビルは、BRAF・NRAS突然変異メラノーマをMAPK阻害剤による治療に対して感受性にする
・ネルフィナビルの組み合わせ療法は、NRASをドライバとして獲得される抵抗性に打ち勝つ


Summary
MAPKを標的とする治療に対してメラノーマがいったん薬剤抵抗性を獲得するまでに進行するとonce melanomas have progressed with acquired resistance、変異の不均一性は大きな難題をもたらすpresent a major challenge

ゆえに薬剤抵抗性の獲得が生じる前の治療段階を調査した結果、メラノーマ生存癌遺伝子melanoma survival oncogeneのMITFが、変異によらず可逆的な初期の薬剤耐性状態のドライバであることを発見した
この薬剤耐性はPAX3を介したMITFの上方調節によって誘導される

薬剤を再利用するスクリーニングdrug-repositioning screenにより、
エイズウイルスHIV1のプロテアーゼを阻害するネルフィナビルを PAX3とMITFの発現を強力potentに抑制する阻害剤として同定した
ネルフィナビルは、BRAF/NRAS突然変異メラノーマ細胞をMAPK経路阻害剤へと深く感受性にする

さらに、
ネルフィナビルは
MAPK阻害剤療法が進行した患者から単離されたBRAF/NRAS突然変異メラノーマ細胞ならびにBRAF/NRAS/PTEN突然変異メラノーマ腫瘍に有効である

我々は
MAPK阻害剤によって誘導される薬剤耐性のドライバの阻害が
メラノーマの標的療法に対する現在のアプローチを改善しうることを実証する



関連サイト
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=MITF
UniProtKB/Swiss-Prot for MITF Gene
MITFは細胞の分化、増殖、生存において必須の役割を演じる遺伝子発現を調節する転写因子で、BCL2とチロシナーゼのような標的遺伝子のプロモーターに見られる対称的なDNA配列(E-box)(5-CACGTG-3)に結合する
チロシナーゼtyrosinaseとチロシナーゼ関連タンパク質/tyrosinase-related protein 1(TYRP1)の発現を調節することにより、メラノサイトの発達において重要な役割を演じる

※チロシナーゼ: チロシンをドパキノン(DOPA quinone)に変換する。ドパキノンは非酵素的に重合してメラニンとなる

MITFは様々なタイプの細胞の分化に関与する
例えば、神経堤neural crestに由来するメラノサイト、肥満細胞、破骨細胞、
眼杯optic cupに由来する網膜色素上皮層retinal pigment epitheliumである



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メラノーマやトリプルネガティブ乳癌はバックアップシステムでキナーゼ阻害剤を回避する