Why brain neurons in Parkinson's disease stop benefiting from levodopa
Essential mechanism of long-term memory for L-DOPA-induced-dyskinesia
July 28, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160728143608.htm
レボドパlevodopa/L-DOPA(3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)はパーキンソン病の症状を劇的に改善できるにもかかわらず、5年以内に2人に1人が『不可逆的な状態irreversible condition』を生じ、不随意involuntaryで繰り返されるrepetitive、急速rapidで痙攣性jerkyの動作が起きるようになる
この異常な運動行動motor behaviorはレボドパを摂取している間だけ現れ、薬をやめると異常も止まる
しかしながら、再びレボドパを摂取すると、多くの月日が経っていても急速に再発re-emergeする
このような副作用を防いでレボドパの有用性を延長するための研究の中で、アラバマ大学バーミングハム校(UAB)の研究者たちは『レボドパによって誘発されるジスキネジア/L-DOPA-induced-dyskinesia(LID)』が長期にわたって記憶されるために必須のメカニズムを明らかにした
彼らの報告によると、レボドパによって脳細胞内のDNAメチル化が広範囲にわたって再編成reorganizationされていたという(メチル化とはDNAの機能を調節するプロセスである)
また、DNAのメチル化を増やすか減らすような治療は、動物モデルでジスキネジアの症状を修正できることが明らかにされた
したがって、DNAメチル化の調整は、LIDを防ぐか覆すための新たな治療標的になるかもしれない
「レボドパはパーキンソン病にとって非常に有益な治療だが、多くの場合ジスキネジアによってレボドパの使用は制限される」
UABの神経学部長でありJohn N. Whitaker Professor教授職でもあるDavid Standaert, M.D., Ph.D.は言う
「LIDを予防するか覆す手段があれば、耐えられないような副作用を引き起こすことなくレボドパの使用期間をはるかに長く延ばせる可能性がある
我々が今回使った方法のメチオニンサプリメントやRG-108はヒトで使うには実用的ではないが、それらはメチル化を基盤としたエピジェネティックなパーキンソン病の治療法を開発する機会を指し示している」
研究には神経変性実験治療センター/Center for Neurodegeneration and Experimental TherapeuticsとUAB神経学部が参加し、成果はThe Journal of Neuroscience誌で発表された
研究の詳細
Research Details
LIDの動物モデルでの研究では遺伝子発現ならびに細胞シグナル伝達における変化が示されているものの、まだ重要な問題が未解決のまま残っている
「レボドパが神経に届くのは一時的transientなのに、なぜLIDで見られる感受性増感sensitizationは永続的persistentなのか?」
UABの研究者はDNAのメチル化、つまりDNAのヌクレオチドにメチル基が付け加えられるプロセスに変化が生じているのではないかと考えた
なぜならメチル化は細胞が成長して分化するにつれて遺伝子の発現を安定して変化させるからである
さらに、ニューロンにおけるメチル化の変化は 場所記憶place memoryの形成 ならびに コカイン使用後の常習行為addictive behaviorの発生に関与することが示されている
一般に、DNAメチル化の増加は近くの遺伝子の発現を沈黙silencingさせる効果があり、メチル基の除去は遺伝子の発現を促進する
研究者たちは次のようなことを発見した
・パーキンソン病モデルのげっ歯類へのレボドパの投与は、2つのDNA脱メチル化酵素の発現を促進した
・LIDモデルにおける背側線条体dorsal striatumの細胞は、広範囲の、そしてある箇所に特異的なDNAメチル化の変化を示し、それらのほとんどは脱メチル化として観察された
・DNAメチル化の変化は、LIDにおいて機能的重要性が確立された多数の遺伝子の近くで見られた
・DNAメチル化を全体的に調整すると、LIDのジスキネジア行動は修正された
メチオニンを注入してメチル化を増加させるとLIDのジスキネジア的行動は低下し、RG-108を線条体に投与してメチル化を阻害するとLIDのジスキネジアは増加した
「合わせて考えると、これらの結果はレボドパが線条体のDNAメチル化に広範囲の変化を誘発することを実証するものであり、LIDの発症と維持にはDNAの調整が必要である」
http://dx.doi.org/10.1523/JNEUROSCI.0683-16.2016
Dynamic DNA Methylation Regulates Levodopa-Induced Dyskinesia.
動的なDNAメチル化はレボドパによって誘発されるジスキネジアを調節する
Abstract
レボドパによって誘発されるジスキネジア/L-DOPA-induced-dyskinesia(LID)は永続的persistentな行動的感受性増感behavioral sensitizationであり、パーキンソン病患者がレボドパ/levodopa (l-DOPA) に繰り返しさらされることで発症する
LIDは、ドーパミン作動性の刺激後に 線条体ニューロンの転写的な振る舞いが 持続性の変化を生じた結果である
ニューロンにおける 動的なDNAメチル化 を通じての転写調節は、多くの長期的行動の調整にとってきわめて重要であることが示されている
しかしながら、そのLIDにおける役割はまだ調査されてはいない
我々はげっ歯類モデルを使い、LID発症がDNA脱メチル化酵素の異常な発現につながることを示す
遺伝子座locus特異的なDNAメチル化の変化は遺伝子プロモーター領域で生じ、レボドパ投与後に転写が異常になる
動的dynamicなDNAメチル化をLIDでゲノムワイドに探索すべく、『reduced representation bisulfite sequencing(RRBS)』を使った結果、背側線条体dorsal striatalのメチロームmethylomeに広範囲な再編成を発見した
※Reduced representation bisulfite sequencing (RRBS): 減少表示亜硫酸塩シーケンシング。制限酵素により解析部位を限定する
LIDの発症は、多くの重要な異常転写遺伝子の調節領域での有意な脱メチル化につながった
我々は薬理学的にDNAメチル化を変化させ、ジスキネジア的行動が調整可能であることを発見した
合わせて考えると、これらの結果はレボドパが線条体DNAメチル化に対して広範囲の変化を誘発することを実証し、そのようなDNA修飾がLIDの発症ならびに維持にとって必要であることを示す
SIGNIFICANCE STATEMENT
LIDは繰り返されるレボドパ曝露後にパーキンソン病患者で生じ、効果的な治療への主な障害の一つであり続けている
LID行動は 転写的な振る舞いの持続的な変化を原因とする 線条体ニューロンの感受性増感sensitizationである
しかしながら、この細胞的プライミングprimingが長期にわたって維持される原因となるメカニズムは不確かなままである
動的なDNAメチル化の調節は 複数の長期的な行動調整の維持にとって重要であることが示されているが、LIDにおけるその役割は調査されていない
この研究で我々はLID発症におけるDNAメチル化の再編成にとっての重要な役割を報告し、
DNAメチル化の調整が ジスキネジア的行動を予防または覆す際に利用できる新たな治療標的である可能性を示す
関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/69c9fa39bc1266df4293922450508bb2
レボドパによるドーパミン補充療法は自発的/非自発的振る舞いを悪化させうるが、その理由は『線条体に存在する投射ニューロン』におけるドーパミン受容体の感受性が促進されるためである
関連サイト
http://www.nanbyou.or.jp/entry/314
治療によりドパミンを補充したときに、ドパミン受容体が過剰に刺激を受けて意図せず勝手に体が動く不随意運動(ジスキネジア)が出現することがある。
L-dopa投与量の増加によって起こりやすくなるが、同量のL-dopa持続投与では減少するので、L-dopa経口服用によるパルス状の刺激がジスキネジアを起こりやすくしていると考えられている。
関連サイト
http://www.comtan.jp/effect/dyskinesias.html
ジスキネジア: レボドパが効き過ぎたときに出現しやすく、自分の意思とは無関係に頭(口)、手、足、体が不規則に動いてしまう症状
振戦: レボドパが効いていない時に出現しやすく、手や足が規則的に震える
関連記事
http://ta4000.exblog.jp/19133502/
ヒドララジンまたはプロカインアミドで治療された結核の患者は、SLEとリウマチのような症状を発症することが臨床経験から示されている。ヒドララジンとプロカインアミドはCpGのDNA配列を脱メチル化する。その機序は、
・DNMT1活性を直接障害する (ヒドララジン)
・細胞外シグナル制御キナーゼ (ERK) 経路を阻害する (プロカインアミド)
であり、特にERK経路はDNMT1とDNMT3の発現を誘導する。
Essential mechanism of long-term memory for L-DOPA-induced-dyskinesia
July 28, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160728143608.htm
レボドパlevodopa/L-DOPA(3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)はパーキンソン病の症状を劇的に改善できるにもかかわらず、5年以内に2人に1人が『不可逆的な状態irreversible condition』を生じ、不随意involuntaryで繰り返されるrepetitive、急速rapidで痙攣性jerkyの動作が起きるようになる
この異常な運動行動motor behaviorはレボドパを摂取している間だけ現れ、薬をやめると異常も止まる
しかしながら、再びレボドパを摂取すると、多くの月日が経っていても急速に再発re-emergeする
このような副作用を防いでレボドパの有用性を延長するための研究の中で、アラバマ大学バーミングハム校(UAB)の研究者たちは『レボドパによって誘発されるジスキネジア/L-DOPA-induced-dyskinesia(LID)』が長期にわたって記憶されるために必須のメカニズムを明らかにした
彼らの報告によると、レボドパによって脳細胞内のDNAメチル化が広範囲にわたって再編成reorganizationされていたという(メチル化とはDNAの機能を調節するプロセスである)
また、DNAのメチル化を増やすか減らすような治療は、動物モデルでジスキネジアの症状を修正できることが明らかにされた
したがって、DNAメチル化の調整は、LIDを防ぐか覆すための新たな治療標的になるかもしれない
「レボドパはパーキンソン病にとって非常に有益な治療だが、多くの場合ジスキネジアによってレボドパの使用は制限される」
UABの神経学部長でありJohn N. Whitaker Professor教授職でもあるDavid Standaert, M.D., Ph.D.は言う
「LIDを予防するか覆す手段があれば、耐えられないような副作用を引き起こすことなくレボドパの使用期間をはるかに長く延ばせる可能性がある
我々が今回使った方法のメチオニンサプリメントやRG-108はヒトで使うには実用的ではないが、それらはメチル化を基盤としたエピジェネティックなパーキンソン病の治療法を開発する機会を指し示している」
研究には神経変性実験治療センター/Center for Neurodegeneration and Experimental TherapeuticsとUAB神経学部が参加し、成果はThe Journal of Neuroscience誌で発表された
研究の詳細
Research Details
LIDの動物モデルでの研究では遺伝子発現ならびに細胞シグナル伝達における変化が示されているものの、まだ重要な問題が未解決のまま残っている
「レボドパが神経に届くのは一時的transientなのに、なぜLIDで見られる感受性増感sensitizationは永続的persistentなのか?」
UABの研究者はDNAのメチル化、つまりDNAのヌクレオチドにメチル基が付け加えられるプロセスに変化が生じているのではないかと考えた
なぜならメチル化は細胞が成長して分化するにつれて遺伝子の発現を安定して変化させるからである
さらに、ニューロンにおけるメチル化の変化は 場所記憶place memoryの形成 ならびに コカイン使用後の常習行為addictive behaviorの発生に関与することが示されている
一般に、DNAメチル化の増加は近くの遺伝子の発現を沈黙silencingさせる効果があり、メチル基の除去は遺伝子の発現を促進する
研究者たちは次のようなことを発見した
・パーキンソン病モデルのげっ歯類へのレボドパの投与は、2つのDNA脱メチル化酵素の発現を促進した
・LIDモデルにおける背側線条体dorsal striatumの細胞は、広範囲の、そしてある箇所に特異的なDNAメチル化の変化を示し、それらのほとんどは脱メチル化として観察された
・DNAメチル化の変化は、LIDにおいて機能的重要性が確立された多数の遺伝子の近くで見られた
・DNAメチル化を全体的に調整すると、LIDのジスキネジア行動は修正された
メチオニンを注入してメチル化を増加させるとLIDのジスキネジア的行動は低下し、RG-108を線条体に投与してメチル化を阻害するとLIDのジスキネジアは増加した
「合わせて考えると、これらの結果はレボドパが線条体のDNAメチル化に広範囲の変化を誘発することを実証するものであり、LIDの発症と維持にはDNAの調整が必要である」
http://dx.doi.org/10.1523/JNEUROSCI.0683-16.2016
Dynamic DNA Methylation Regulates Levodopa-Induced Dyskinesia.
動的なDNAメチル化はレボドパによって誘発されるジスキネジアを調節する
Abstract
レボドパによって誘発されるジスキネジア/L-DOPA-induced-dyskinesia(LID)は永続的persistentな行動的感受性増感behavioral sensitizationであり、パーキンソン病患者がレボドパ/levodopa (l-DOPA) に繰り返しさらされることで発症する
LIDは、ドーパミン作動性の刺激後に 線条体ニューロンの転写的な振る舞いが 持続性の変化を生じた結果である
ニューロンにおける 動的なDNAメチル化 を通じての転写調節は、多くの長期的行動の調整にとってきわめて重要であることが示されている
しかしながら、そのLIDにおける役割はまだ調査されてはいない
我々はげっ歯類モデルを使い、LID発症がDNA脱メチル化酵素の異常な発現につながることを示す
遺伝子座locus特異的なDNAメチル化の変化は遺伝子プロモーター領域で生じ、レボドパ投与後に転写が異常になる
動的dynamicなDNAメチル化をLIDでゲノムワイドに探索すべく、『reduced representation bisulfite sequencing(RRBS)』を使った結果、背側線条体dorsal striatalのメチロームmethylomeに広範囲な再編成を発見した
※Reduced representation bisulfite sequencing (RRBS): 減少表示亜硫酸塩シーケンシング。制限酵素により解析部位を限定する
LIDの発症は、多くの重要な異常転写遺伝子の調節領域での有意な脱メチル化につながった
我々は薬理学的にDNAメチル化を変化させ、ジスキネジア的行動が調整可能であることを発見した
合わせて考えると、これらの結果はレボドパが線条体DNAメチル化に対して広範囲の変化を誘発することを実証し、そのようなDNA修飾がLIDの発症ならびに維持にとって必要であることを示す
SIGNIFICANCE STATEMENT
LIDは繰り返されるレボドパ曝露後にパーキンソン病患者で生じ、効果的な治療への主な障害の一つであり続けている
LID行動は 転写的な振る舞いの持続的な変化を原因とする 線条体ニューロンの感受性増感sensitizationである
しかしながら、この細胞的プライミングprimingが長期にわたって維持される原因となるメカニズムは不確かなままである
動的なDNAメチル化の調節は 複数の長期的な行動調整の維持にとって重要であることが示されているが、LIDにおけるその役割は調査されていない
この研究で我々はLID発症におけるDNAメチル化の再編成にとっての重要な役割を報告し、
DNAメチル化の調整が ジスキネジア的行動を予防または覆す際に利用できる新たな治療標的である可能性を示す
関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/69c9fa39bc1266df4293922450508bb2
レボドパによるドーパミン補充療法は自発的/非自発的振る舞いを悪化させうるが、その理由は『線条体に存在する投射ニューロン』におけるドーパミン受容体の感受性が促進されるためである
関連サイト
http://www.nanbyou.or.jp/entry/314
治療によりドパミンを補充したときに、ドパミン受容体が過剰に刺激を受けて意図せず勝手に体が動く不随意運動(ジスキネジア)が出現することがある。
L-dopa投与量の増加によって起こりやすくなるが、同量のL-dopa持続投与では減少するので、L-dopa経口服用によるパルス状の刺激がジスキネジアを起こりやすくしていると考えられている。
関連サイト
http://www.comtan.jp/effect/dyskinesias.html
ジスキネジア: レボドパが効き過ぎたときに出現しやすく、自分の意思とは無関係に頭(口)、手、足、体が不規則に動いてしまう症状
振戦: レボドパが効いていない時に出現しやすく、手や足が規則的に震える
関連記事
http://ta4000.exblog.jp/19133502/
ヒドララジンまたはプロカインアミドで治療された結核の患者は、SLEとリウマチのような症状を発症することが臨床経験から示されている。ヒドララジンとプロカインアミドはCpGのDNA配列を脱メチル化する。その機序は、
・DNMT1活性を直接障害する (ヒドララジン)
・細胞外シグナル制御キナーゼ (ERK) 経路を阻害する (プロカインアミド)
であり、特にERK経路はDNMT1とDNMT3の発現を誘導する。