機械翻訳2

興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

2014年11月26日

2014-11-30 22:39:33 | 免疫

重要な免疫タンパク質の二面性の基礎が明らかになる
Study unlocks basis of key immune protein's two-faced role



ブリガム・アンド・ウィメンズ病院主導の研究チームは、長い間求められていた重要な免疫性タンパク質であるTIM-3のパートナーを特定した。このパートナーの存在は、免疫システムでのTIM-3の二面性を説明するのを助ける。

TIM-3は時には免疫を低下させ、別の時には免疫を刺激する。この新しく特定されたTIM-3のパートナーはHIVや自己免疫、癌のような疾患における免疫システムの内部の働きを明らかにするだけでなく、TIM-3を標的にする新しい治療薬の開発への道を開く。

「TIM-3に関する多くの混乱があった。TIM-3はどのようにして免疫システムを阻害しながら、活性化もするのか」、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(BWH)の胃腸病学・肝臓学・内視鏡検査部のチーフで、論文のシニア・オーサーのRichard Blumbergは言う。



薬の標的としてのTIM-3に対する重要性は、ほとんどがその免疫を抑制する役割から生じる(特に癌において)。

免疫細胞は長い間刺激されるとTIM-3のようなシグナルのスイッチを入れて、自分自身の活性を低下させるのを補助する。この慢性的な活性化状態とそれによる「疲弊(exhaustion)」は、HIVのような慢性的なウイルス感染によって生じる免疫学的特質である。

そして「疲弊」は、癌にも共通である。もし薬理学的にTIM-3を阻害する方法があれば、それは免疫システムを解放して腫瘍を攻撃させることができるかもしれない。

このような重要性にもかかわらず、TIM-3がどのように作用するかについての詳細はこれまで不明だった。



Blumbergと、ハーバード医科大学院とBWHの免疫疾患EvergrandeセンターのディレクターであるVijay Kuchroo博士、そしてファースト・オーサーのYu- Hwa Huangによって指揮される同僚たちは、TIM-3の重要なパートナーであるCEACAM-1を特定した。

CEACAM-1の存在はTIM-3がどのようにふるまうかを決定する。CEACAM-1が存在すると、TIM-3は免疫を阻害するように作用する。CEACAM-1が存在しなければ、TIM-3は活性化因子としての特性を帯びる。

これらの2つの分子は協力して、これまで知られていなかった完全に新しい構造を形成する。加えてそれらは構造的にも機能的にもお互いにきわめて類似している。そして事実、この類似性によって、CEACAM-1は長い間探し求められていたTIM-3のパートナーであるとHuangが初めて提唱するに至った。



Blumbergと彼の研究チームは様々なアプローチを使用して、CEACAM-1の役割の本質を明らかにした。重要なことに、CEACAM-1を欠失するように設計された免疫細胞は炎症の増加を示す。結腸直腸癌のマウス・モデルにおいてCEACAM-1とTIM-3を両方とも同時に阻害すると、腫瘍に対する免疫応答が強化された。

「我々のデータはどのようにTIM-3を標的にするべきかについて示す。これは非常にエキサイティングだ」、Blumbergは言う。

「これは癌を治療するための完全に新しいパラダイムへと至る真の道筋を指し示す。もちろん、HIVのような他の疾患もである。」

記事出典:
上記の記事は、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.CEACAM1は、TIM-3によって媒介される寛容(tolerance)と疲弊(exhaustion)を調節する。

Nature、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141126094246.htm

<コメント>
TIM-3(T-cell immunoglobulin domain and mucin domain-3)が慢性的な感染でT細胞の疲弊(T-cell exhaustion)を引き起こして免疫を阻害したり、別の状況では免疫を活性化するようにも見えたのは、パートナーであるCEACAM-1(carcinoembryonic antigen cell adhesion molecule 1)の調節によることが明らかになったという記事です。

Abstractによると、CEACAM1はTIM-3とヘテロ二量体を形成して相互作用することでT細胞膜の表面にTIM-3を表出させ、炎症を抑制するように作用します。癌や慢性的なウイルス感染で疲弊したT細胞は細胞表面のCEACAM1とTIM-3が特徴であるようです。

逆にCEACAM-1とTIM-3を欠失させると過剰な炎症が生じて、癌に対する免疫が強化されます。



2014年11月25日

2014-11-28 23:32:18 | 

乳癌浸潤に対する新しい洞察は、優れた試験と治療薬をもたらす可能性がある
New insights into breast cancer spread could yield better tests and treatments



乳癌患者の腫瘍細胞を研究室の血管内層モデルと組み合わせた研究により、乳癌の浸潤には「三つの特定の細胞」が必要であるという動かぬ証拠が示された。今回の発見は、乳癌が転移するかどうかを予測する優れた検査ならびに新しい抗癌療法につながる可能性がある。

この研究はNCI(米国国立癌研究所)指定のアルバート・アインシュタインがんセンターとモンテフィオーリ・アインシュタインがんケアセンター(MECCC)によって実施されたもので、Science Signalingのオンライン版で発表された。



米国国立癌研究所によれば、昨年アメリカでは23万2千人以上の女性が乳癌を発病し、約4万人の女性が死亡した。乳癌による死亡はほとんどの場合、癌の転移によって生じる。転移とは一次性の腫瘍細胞が血管に侵入して血流に乗り、体内の別の場所に腫瘍を形成することを意味する。

動物モデルとヒト癌細胞による以前の研究で、3つの特定の細胞が直接接触するときに乳癌は転移することが明らかになっていた: その3つの細胞とは、血管内皮細胞、血管周囲マクロファージ、そして高レベルのMenaを産生する腫瘍細胞である。Mena(Mammalian Enabled)は、癌細胞の浸潤する能力を強化するタンパク質である。

これら3つの細胞が接触する場所で、腫瘍細胞は血管に入ることができる。このような場所を「腫瘍転移微小環境(tumor microenvironment of metastasis; TMEM)」と呼ぶ。TMEMの箇所が多い、つまりTMEM「スコア」が高い腫瘍は、TMEMスコアが低い腫瘍よりも転移する可能性が高かった。

加えて、Menaの一種であるMenaINVの高い癌組織は特に転移しそうであることを研究者は発見した(MenaINVのINVは侵襲性(invasive)を指す)。

「それらの研究は癌がどのように蔓延するかについての新しい洞察を明らかにしたが、それは必ずしも何が患者に起こっているかについて示すわけではなかった」、イェシーバー大学アルバート・アインシュタイン医科大学の病理学の准教授で研究リーダーのMaja Oktay医学博士は言う。



科学者は研究を拡大して、乳癌の患者を分析した。2011年、彼らは40例の患者について、高いMenaINVレベルと高いTMEMスコアの間に相関を示すという研究を発表した。

今回の研究では40例の患者に加えて、さらに60例の患者の結果を組み合わせた。100例の患者は全て浸潤性乳管癌と診断された女性たちで、MECCCで治療を受けていた。浸潤性乳管癌は浸潤乳癌で最も一般的なタイプで、全乳癌患者の80パーセントを占める。この疾患で癌細胞は血管の内壁を通り過ぎて、周囲の胸部組織へと浸潤していた。

より最近の患者のサブセット60例に関して、研究者は腫瘍細胞のふるまいを調べた。特に、血管の内皮を越える癌細胞の能力についてである。

彼らは細い針による吸引(fine-needle aspiration; FNA)で腫瘍細胞を得て、新しく設計された組織分析アッセイの中にそれらを配置した。その分析装置は血管内皮を再現するように作られていた。血管内皮は、腫瘍細胞が一次性の腫瘍から遠くまで転移するために越えなければならないバリアである。

新しい60例の患者の生検で得られた腫瘍組織はホルマリンで固定されてパラフィンに包埋され、TMEM箇所を数えられるようにした。その結果、この分析アッセイで血管内皮を越えることができた乳癌細胞は、MenaINVレベルが他の全ての腫瘍細胞の集団よりも高いことが判明した。

加えて、同じ患者から得られたパラフィン生検標本では、MenaINVのレベルの高さは、TMEMの箇所の多さと相関した。



研究者は100例の患者の全ての結果を組み合わせて、今回の発見は浸潤性乳管癌の最も一般的な3つの臨床サブタイプ全体で一貫していることを示した。

※3つの臨床サブタイプ: 日本乳癌学会の規約によれば、浸潤性乳管癌は構造的な特徴から、乳頭腺管癌(papillotubular carcinoma)、充実腺管癌(solid-tubular carcinoma)、硬癌(scirrhous carcinoma)の3型に分けられる

「これらの結果により、TMEM箇所とMenaINVがヒトの乳癌の浸潤に必須であることが確認される」、Oktay博士は言う。

「それらはまた、MenaINV発現とTMEMスコア測定が、ヒト乳癌が転移するために広く使われるメカニズムのいくつかの面を関連づけることも意味する。」

Oktay博士は次の点を強調した。

「転移性乳癌の結果は、分子標的治療などの発達にもかかわらず過去30年改善しなかった。転移のプロセスについてより多くを知ることはひどく重要である。それにより我々は癌が転移するかどうかを予測する新しい方法を開発し、新しい治療薬を特定できるようになるからである。」

記事出典:
上記の記事は、イェシーバー大学アルバート・アインシュタイン医科大学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.患者から得られた浸潤性の乳癌細胞は、MenaINV依存的かつマクロファージ依存的な経内皮移動(transendothelial migration)を示す。

Science Signaling、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141125180317.htm

<コメント>
乳癌細胞の血管内皮を越える転移はMenaINVを多く産生しているほど可能性が高くなり、そのような浸潤は血管周囲マクロファージの近くで起きるという記事です。

Abstractによれば、乳癌細胞の血管への侵入は、癌細胞とマクロファージとの間のCSF-1R(colony-stimulating factor-1 receptor)を介するシグナルを抗体によって阻害することで抑制される可能性が示されたようです。


2014年11月25日

2014-11-27 23:33:35 | 

癌の『燃料タンク』を枯渇させる新しい方法が発見される
New ways to drain cancer's 'fuel tank' discovered



癌はしばしば再発し、治療薬に対して抵抗する能力がある。そのような癌の潜在的な弱点が発見された。それは癌幹細胞の『燃料』部分である。

マンチェスター大学の科学者はラボ環境で癌幹細胞を観察することにより、特にミトコンドリアが癌幹細胞の増殖と生存にとって重要であることを発見した。癌幹細胞は『腫瘍を開始する細胞』として知られ、治療薬への抵抗性を促進する可能性がある。



癌幹細胞は根絶するのが特に困難であり、癌を効果的に治療するのが非常に難しい理由の中心である。癌幹細胞は治療後も生存して再発を引き起こし、全身に浸潤して、最終的に治療は失敗する。

マンチェスター大学Institute of Cancer Sciencesと、Cancer Research UKマンチェスター研究所(どちらもマンチェスター癌研究センターの一部である)に拠点を置く研究者は、細胞内のエネルギーを生み出すミトコンドリアの役割を調査した。新しく設立されたマンチェスター細胞代謝センター(Manchester Centre for Cellular Metabolism; MCCM)も、本研究において重要な役割を果たした。

ラボ環境で癌幹細胞を観察することにより、彼らはミトコンドリアが癌幹細胞の増殖的な拡大と生存にとって特に重要であり、おそらく治療薬への抵抗性を促進することを発見した。

研究はラボの乳癌幹細胞で実施されたが、理論は患者から提供されたヒト乳癌細胞でも確認された。両方で細胞内のタンパク質を調べたところ、ミトコンドリアと関連する62のタンパク質が著しく増加していた。その変化の状態から、特にケトンとL-乳酸のような燃料が重要であると思われた。それらは過去に腫瘍の成長を加速することが示されていた。

研究を指揮したMichael P. Lisanti教授は以下のように述べた:

「基本的にミトコンドリアは癌幹細胞のエンジンであり、ケトンとL-乳酸は癌の成長を促進するハイオク燃料である。今回の結果は、ハイオクの燃料タンクを枯渇させるという新しい方法を示唆する。それは治療の後に復活する癌の能力を限定する。」

現在、MCT阻害剤による試験がCancer Research UKによって進行中である。MCT阻害剤も癌細胞のミトコンドリアを標的にする。

記事出典:
上記の記事は、マンチェスター大学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.癌幹細胞を根絶するための新しい治療学的な目標としてのミトコンドリア:
MCT1/2阻害による定量的プロテオミクスと機能的な検証。

Oncotarget、2014年11月;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141125074747.htm



<コメント>
癌幹細胞はケトン体や乳酸を使えるという記事です。

癌細胞はケトン体を使えないから安全と主張する人がいるようですが、本当に大丈夫なんでしょうか。

Referenceの19が興味深いです。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21512313

>Ketones and lactate increase cancer cell “stemness,” driving recurrence, metastasis and poor clinical outcome in breast cancer: achieving personalized medicine via MetaboloGenomics.

>The lactate-specific gene profile was most similar to neural stem cells, while the ketone-specific gene profile was most similar to hematopoietic stem cells.
>The genes commonly upregulated by both lactate and ketones were most similar to embryonic stem cells.

2014年11月20日

2014-11-26 15:55:55 | 感染症

広範囲の炎症を生じさせ、血管を漏れやすくするエボラウイルス蛋白質
An Ebola virus protein can cause massive inflammation and leaky blood vessels



エボラウイルスEbola virus)の表面を覆うGPタンパク質は、感染細胞からも排出される。PLOS Pathogensで11月20日に発表される研究では、排出されるGPタンパク質が広範囲にわたって免疫応答の調節不全を引き起こし、血管の透過性に影響を及ぼすことを報告する。

エボラウイルスには7つの遺伝子がある。その1つであるGPは、2つの関連するタンパク質をコード化する: より短い方は分泌される(secreted)。長い方はウイルスの表面全体から突き出し、その表面のGPの一部はヒトの酵素によって切り離されて、その後感染細胞から排出される(shed)。排出GP(shed GP)、分泌GP(secreted GP)は、感染したヒトと動物の血液中に高濃度で見られる。

クロード・ベルナール・リヨン第1大学と、フランスの国立保健医学研究所(INSERM)の病原制御学研究国際センター(International Center for Infectiology Research; Centre International de Recherche en Infectiologie; CIRI)の研究者であるViktor Volchkovたちは、完全なエボラウイルスは使わず、組織培養により排出GP・分泌GPを産生し、これらのタンパク質を使用してヒト細胞に対する影響をテストした。

分析の結果、排出GPはマクロファージならびに樹状細胞と結合できることが判明した。そのどちらもエボラウイルス感染の標的となる免疫細胞である。これらの免疫細胞は、排出GPと結合するとすぐに莫大な量の免疫変調成分(immune-modulators)を放出し始める。排出GPとこれらの免疫変調成分は可溶性タンパク質であり、血流に乗って移動する。このことは、ウイルスに対する初期免疫応答が、排出GPの継続的な産生と放出によってどのように増幅されるかを説明するかもしれない。免疫応答はらせん降下するように制御できなくなり、高熱、広範囲の炎症、そしておそらくショック死に至る。

科学者はさらに、排出GPの免疫細胞に対する影響がTLR-4に依存的であることも発見した。特異的な抗体でTLR-4を阻害すると、免疫細胞の反応は弱まり、免疫変調成分の放出の多くは消去された。

広範囲かつ破壊的な炎症の他に、エボラ出血熱は血管の完全性(blood vessel integrity)の喪失とも関連がある。研究者は血管を形成する内皮細胞の透過性(permeability)に対する分泌GPと排出GPの影響を調べ、排出GPは内皮細胞の透過性を直接増加させることができることを発見した。排出GPと結合した免疫細胞によって作られる様々な免疫変調成分も、同様に透過性を増加させる。



研究の結果は動物またはヒトで確認される必要はあるものの、著者は次のように結論する。

エボラウイルスの排出GPは、過剰かつ調節が破綻した宿主の炎症反応、ならびに血管の透過性の増大に関与することを研究データは裏づける。

さらに、抗TLR4抗体は排出GPによって引き起こされる炎症性反応を抑制するために用いることができると思われる。

記事出典:
上記の記事は、PLOSによって提供される素材に基づく。


学術誌参照:
1.エボラウイルスの排出GPは、免疫活性化と血管透過性の増大を引き起こす。

PLoS Pathogens、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141120141654.htm

<コメント>
Shed GPの訳が見つからないので、とりあえず「排出GP」と訳しておきます。

エボラウイルスの表面糖蛋白質であるGP(glycoprotein)は、感染細胞のTNFα変換酵素(TNFα-converting enzyme; TACE/ADAM17)によって切断されて排出され、様々な影響を引き起こすという記事です。

GPはD637(アスパラギン酸637)とQ638(グルタミン638)の間でTACEによって切断されることが2004年に報告されています



2014年11月24日

2014-11-25 23:23:25 | 代謝

まれなタイプの糖尿病の治療薬として見込みがある筋弛緩薬
Muscle relaxant may be viable treatment for rare form of diabetes



筋弛緩薬のダントロレンは、ウォルフラム症候群の動物モデルならびに症候群の患者から得られた細胞モデルにおいて、インスリン産生ベータ細胞の破壊を阻止する。この結果は11月24日のPNASオンライン版で発表される。

ウォルフラム症候群は50万人に1人がかかる病気であり、多くの患者は40歳までに死亡する。一般にウォルフラム症候群患者は幼い子どもの頃に1型糖尿病を発病する。この症候群は聴力と視力の障害、そしてバランスの障害も引き起こす。

研究者は、カルパイン2という酵素の高いレベルが脳細胞とインスリン産生細胞の主な死因であることを発見した。ダントロレンはその酵素を阻害して、更に障害の動物と細胞モデルで脳細胞死を阻止した。

この薬は食品医薬品局(FDA)の承認を得ているので、ウォルフラム患者の臨床試験は比較的急速に進ませることができるだろうとシニア研究員の浦野文彦医学博士は言う。

「我々はまず成人のウォルフラム症候群の患者で薬を試験したいと思う。もしポジティブな結果が得られれば、子供でも試験をするだろう。」



ダントロレンは脳性麻痺または多発性硬化症の筋肉の痙縮(けいしゅく)を治療するためにしばしば処方される。もしウォルフラム症候群患者で効果があれば、ダントロレンはより一般的なタイプの糖尿病患者でも使える治療薬になるかもしれない。カルシウム代謝に関与するカルパイン2は、糖尿病のより一般的なタイプの患者の細胞モデルでも過剰に活性化している。

浦野たち研究チームは、ウォルフラム症候群の患者と彼らの近親(両親または兄弟)の幹細胞に対するダントロレンの影響を研究した。臍帯血から採取される成人の幹細胞や胚から作成される幹細胞とは異なり、本研究の幹細胞は皮膚細胞から育成された。研究者は幹細胞に成長因子を投与して特異的な細胞(ニューロンとインスリン産生細胞)に分化させた。

その結果、ウォルフラム患者に由来する細胞はカルパイン2の産生レベルが高く、細胞死を引き起こした。しかし研究者が細胞にダントロレンを投与すると何もかもが変化した。酵素のレベルは低下して、細胞は死ぬのを止めた。

研究者はダントロレンが1型と2型糖尿病にも効果があることを期待している。

「ウォルフラムは最も難しい種類の糖尿病である。彼らは血糖に関する問題と、非常に多くの他の課題を抱えているためだ」、浦野博士は言う。

記事出典:
上記の記事は、ワシントン大学医学部によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.カルシウム依存性プロテアーゼ(カルパイン)は、ウォルフラム症候群の潜在的な治療目標である。

PNAS、2014年11月;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141124152604.htm

<コメント>
少し前に抗不整脈薬のベラパミルが糖尿病に有効かもしれないという記事がありましたが、今回は抗痙攣薬のダントロレンについてです。ベラパミルはカルシウムチャネル遮断薬でしたが、ダントロレンは筋小胞体からのカルシウムイオン遊離を抑制することでこむら返りなどを抑制します。

ウォルフラム症候群は糖尿病と神経変性が特徴で、その原因はWFS1WFS2/CISD2という2つの遺伝子の変異による機能不全です。

Abstractによれば、カルシウム依存性プロテアーゼのカルパイン2はWFS2との相互作用により抑制的に調節され、WFS1の機能喪失を介する細胞質の高いカルシウム濃度によってカルパインの活性化が誘導されます。高濃度のカルパイン2はウォルフラム症候群でのβ細胞と神経細胞の細胞死の主な原因です。そしてカルパイン2はウォルフラム症候群だけでなく、一般的な糖尿病でも過剰に活性化しているということのようです。

カルパインの1と2の違いは、活性の発現に必要なカルシウムの濃度によります(カルパイン2は1よりも高濃度で活性化する)。カルパイン2は、触媒サブユニットのCAPN2と、調節サブユニットのCAPNS1から構成されるヘテロ二量体です。小胞体のWFS2は細胞質のCAPN2と相互作用し、さらにCAPNS1のユビキチン-プロテアソームによる分解を促進します(WFS2の機能変異によりCAPNS1が分解されなくなる)。

WFS2をノックダウンしたマウスではカルパイン2が過剰に活性化され、それにより基質であるカスパーゼ3の切断が増加してアポトーシスが促進されました(特に小胞体ストレス時)。

ダントロレン(dantrolene)は小胞体に局在するリアノジン(ryanodine)受容体の阻害剤で、小胞体から細胞質へのカルシウムイオンの漏出を阻害する作用があります。WFS1は、筋小胞体カルシウム輸送ATPアーゼ(sarco/endoplasmic reticulum calcium transport ATPase; SERCA)の活性化の調節などに関与するイオンチャネル調節因子であることが示されています。

WFS1をノックダウンした細胞では細胞質のカルシウム濃度が上昇しましたが、ダントロレンの投与は上昇したカルシウム濃度を低下させました。

本文を見ると、ピオグリタゾン、DHA、GLP-1等でも細胞死が回避されたとあります。これらは小胞体ストレスによる糖尿病の治療や予防に役立つとされています。


2014年11月20日

2014-11-23 16:12:47 | 

ALSを治療するための新しいアプローチ: 古い薬の再評価?
New approach for treating ALS: Re-evaluation of older drugs?



筋萎縮性側索硬化症(ALS)は主にモーター・ニューロンを殺して麻痺につながる神経変性疾患であり、診断から2~5年後に死に至る。

現在ALSには治療法がなく、昔の有望だった薬の大多数は失敗した。今回、研究者はその説明となり得る発見をした。Annals of Clinical and Translational Neurologyで11月20日に発表される研究において研究者は、脳の毒素を大量に排出するための機構がALS患者で増加し続けることを示す。この機構はALSを治療する薬も大量に排出し、それによって薬の効き目を減少させる。

マウス・モデルでこれらのポンプが阻害されると、薬はより効果的に疾患の進行を遅らせることを示した。

「通常は環境の毒素による障害から脳と脊髄を保護するこのメカニズムは治療薬も脅威として扱い、排出してしまう」、共シニア・オーサーのPiera Pasinelli博士は言う。

「ポンプ、つまり輸送蛋白質を阻害することは、ALS薬のマウスでの適切な作用を改善した。この種の薬剤ポンプによる薬剤耐性は新しいものではない」、共シニア・オーサーのDavide Trotti博士は言う。

「実際、製薬会社は新しく開発した化合物と、これらの輸送蛋白質との相互作用を日常的に確認している。しかしそれは健康な動物や人間で調べるのが普通である。」

研究者は疾患のマウス・モデルで、これらの相互作用が時間とともにどのように変化するのかを観察した。以前の研究で彼らは、疾患がマウスで進行するにつれてポンプの機能が変化することを示した。症状がより重度になるにつれて、ポンプの活性は上昇した。

「ALSの脳と脊髄は、これらのポンプをより多く生じることによって疾患を補おうと試みているかもしれない」、Trotti博士は言う。

しかし、このポンプの増大が本当に治療薬に影響を与えているかどうかは不明だった。この問題に取り組むために、PasinelliとTrottiたち研究者はALS治療薬として承認されている唯一の薬であるリルゾールをALSのマウス・モデルでテストした。

以前の研究でこの薬は疾患が進行するにつれて効果を失い、全体としてALS患者の生存期間を3ヶ月から6ヵ月間延長するだけであることが示されていた。研究者がリルゾールを選択した理由は、P糖タンパク質/ABCB1(P-gp)ならびに乳癌耐性タンパク質/ABCG2(BCRP)という2つのポンプと相互作用することが知られていたからである。

これらの2つのポンプはエラクリダル(elacridar)という実験的化合物によって選択的に阻害することが可能であり、エラクリダルは脳の他のポンプに影響を与えない。研究チームはマウスにALS薬(リルゾール)とポンプ-ブロッカー(エラクリダル)の組合せで投与して、リルゾールだけを投与したマウスと比較して生命期間を延長することを示した。重要なことにこの組合せは症状のいくつかも軽減し、マウスの筋肉の強さと他の測定値を改善した。

ALSマウスにおけるほとんどの実験では発症を遅延させる目的で薬が投与されるが、PasinelliとTrottiたちはそれとは異なり、患者の実際の経験を反映させたモデルで彼らの仮説をテストした。つまり、ALSの症状が明らかになってから治療を開始した。

実際に症状が出現したときにリルゾールでALSマウスを治療すると、効果が全くないかほとんど見られなかった(little to no)が、エラクリダルと共に投与すると著しい改善を示した。

「エラクリダルが選択的であるという事実は、明白な副作用が見られないことについて説明する可能性がある: 脳の他の輸送蛋白質は依然として活性があり、毒素を除去していた。我々はリルゾールが漏れる穴を単にふさいだだけである」、Pasinelliは言った。

今回の研究結果は、初めは作用すると思われたALS薬が疾患が進行するにつれて失敗する理由を説明するかもしれない: モーター・ニューロンが損傷を受けるにつれて、脳はより多くのポンプを作ることで障害を除去しようと試みる。それはALS薬を排除する効率も上げる。

記事出典:
上記の記事は、トーマス・ジェファーソン大学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.薬を排出する輸送体の阻害は、ALS治療の効力を改善する。

Ann Clin Transl neurol、2014年11月;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141120081750.htm

<コメント>
筋萎縮性側索硬化症(ALS)では毒物(薬物)を排出するポンプが癌細胞と同じように活性化していて薬が効きにくくなっており、ポンプを阻害するエラクリダル(elacridar)によって生存期間が延長したという記事です。

延長したといっても、リルゾールとプラセボの約160日が、リルゾールとエラクリダルの組み合わせで165日に伸びたというレベルです(コントロール+プラセボは約157日前後)。

リルゾール(riluzole)の作用として、グルタミン酸の遊離の阻害、興奮性アミノ酸受容体の阻害、電位依存性Na+チャネルの阻害などがあり、ニューロンを保護するとされています。

最近、乳癌耐性タンパク質/ABCG2(BCRP)は痛風の原因タンパク質であることが東大によって明らかにされています

以前、星状膠細胞(astrocyte)のネクロプトーシス(プログラム壊死)が、近くの運動ニューロンを殺すという記事がありました


2014年11月18日

2014-11-21 12:12:49 | 

断眠によって引き起こされる記憶障害を阻止する
Scientists prevent memory problems caused by sleep deprivation



睡眠は記憶固定のための重要な時間である。そしてほとんどの人は睡眠を十分に取っていない。今回の研究は、短期間の断眠さえ記憶形成における障害につながり得ることを示す。

Journal of Neuroscienceで発表された新しい研究で、ペンシルベニア大学の科学者は脳の小さい領域(海馬)の特定の神経細胞が不眠の後の記憶障害の原因となることを発見した。この神経細胞でのシグナル分子のレベルを選択的に増やすことによって、研究者はマウスの記憶障害を阻止した。

研究の筆頭著者のRobbert Havekesはシニア・オーサーであるテッド・アベルのラボの助教であり、ペンシルベニアの教養学部(School of Arts & Sciences)で生物学のBrushファミリー教授である。



2009年、アベルのラボの研究グループは、環状AMP/cAMPシグナル経路が不眠と関連する記憶障害に関与するという研究をNatureで発表した。マウスから睡眠を奪うことが空間記憶を損なったのに対して、マウスの脳でcAMPのレベルを回復すると、この影響は抑制された。

「この重要な研究の後のチャレンジは」、アベルは言う。「断眠の影響が、脳の特定の領域、特定の神経回路によって仲介されるかどうかを決定することだった。我々は海馬が重要であると考えた。海馬は空間ナビゲーションと前後関係の記憶を仲介する脳領域だからである。」

今回の研究で彼らはこれらの質問に答えようと試みた。研究グループは興奮性ニューロンに焦点をしぼった。その理由は、脳のシグナル伝達における重要性と、その機能がcAMPシグナル伝達に依存するという事実による。

先行研究の限界は、脳のただ1つの領域のcAMPを、細胞タイプ特異的に増加させる方法が無かったということだった。それに対してHavekesとアベルたちは、遺伝子的な修飾と薬剤投与を混合する「薬理遺伝学的」アプローチを考案した。

彼らはオクトパミンをリガンドとする受容体をコードする遺伝子を持つ非病原性ウイルスを設計した。オクトパミン受容体はショウジョウバエでcAMP経路の活性化を引き起こすが、この受容体はマウスの脳には存在しない。研究者はマウスの海馬にこのウイルスを注入し、海馬の領域だけで興奮性ニューロンがオクトパミン受容体を発現するようにした。

研究チームは海馬の興奮性ニューロンだけが受容体を発現して、マウスへのオクトパミンの注射がそのニューロンだけでcAMPレベルを選択的に上昇させることができることを確認した。

学術誌参照:
1.睡眠を妨害したマウスの海馬の興奮性ニューロンで選択的にcAMPレベルを一過性に増やすことは、不眠によって引き起こされる記憶障害を阻止する。

The Journal of Neuroscience;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141118182458.htm

<コメント>
実験内容の部分は割愛しますが、空間記憶に関与する海馬の興奮性ニューロンは睡眠の影響を受けやすく、それはcAMPの濃度によるという記事です。

2009年のNatureの論文では、睡眠を阻害するとPDE4の発現と活性が上昇して、cAMPとPKA依存的にマウスの海馬シナプスの可塑性(synaptic plasticity)が障害されたとあります。



2014年11月17日

2014-11-20 23:32:11 | 感染症

科学者はエボラの防御の弱点を明らかにする
Scientists Reveal Weak Spots in Ebola's Defenses



スクリップス研究所(The Scripps Research Institute; TSRI)の科学者は、エボラウイルスの表面でZMappの抗体が標的にする弱点を特定した。ZMappは最近のエボラ大発生で数人の患者に投与された試験的な抗体カクテルである。

この研究はTSRIの構造生物学者Andrew WardとErica Ollmann Saphireによって指揮されたもので、ZMapp抗体がどのようにエボラウイルスと結合するのかを三次元画像によって明らかにした。

Wardは言う。

「ZMappがどのようにエボラを標的にするかについて知った今、我々は新しく開発された全ての抗エボラ抗体を比較することができる。」

Mappバイオファーマシューティカル(サンディエゴ)によって開発されたZMappは、進行中のエボラウイルス大発生において数人の患者を治療するために8月に用いられた。ZMappを投与した7例のうちの5例が生き残ったが、研究者はZMappが患者の回復において効果を生じたかはまだ確実には言えないという。

新しい研究はZMappがなぜ効果的でありえたかについて説明する。電子顕微鏡画像を分析したところ、ZMappの2つの抗体はウイルスの底部近くで結合していた。それはウイルスが細胞に侵入することを阻止すると思われる。第3の抗体はウイルスの最上部付近に結合し、それはおそらく感染箇所に免疫システムを呼び寄せるビーコンとして作用する。

このZMappの新しい画像では、ウイルスの底部近くの2つの抗体は結合する部分(エピトープ)が重複して競合しているように見える。この箇所は先行試験で特定されたエボラウイルスの表面の弱点であると思われるが、これから先もこの2つの抗体を使用し続けるべきか、それとも第3の角度からウイルスを攻撃するべきかという疑問が生じた。

8月に学術誌Scienceで発表された研究によれば、エボラウイルスは現在の大発生中に300以上の遺伝子的な変化を経験した。しかし幸いなことに、新しい研究はZMapp抗体が結合する部位がこれまで影響を受けなかったことを示す。



今回の新しい研究は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)により資金助成されたウイルス性出血熱免疫療法コンソーシアムの一部である。コンソーシアムはエボラウイルスならびに他の密接に関連する出血熱ウイルスを中和する最善の抗体カクテルを開発することを目的として、世界中の25の研究室からの抗体をテストしている。

コンソーシアムのための次の段階は現在の大発生の生存者からの新しい抗体を調査することである。コンソーシアムを指揮するSaphireは、ウイルスが変異して治療薬に抵抗性になる場合に備えてバックアップ・カクテルの開発に成功することを望んでいる。

ZMappは、2015年の初めに臨床試験に入るのを期待されている。カクテル抗体は、元はカナダの衛生行政機関と感染症の米陸軍医学研究所によって分離されたものである。

記事出典:
上記の記事は、スクリップス研究所によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.保護的抗体の構造は、エボラウイルス上の脆弱な部位を明らかにする。

PNAS、2014年11月17日;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141117154608.htm



<コメント>
ZMappに含まれる3つの抗体のうち2つはウイルスの基部に結合して細胞への侵入を阻止し、もう1つはウイルスの上部に結合して免疫を誘導しているようだという記事です。

エボラウイルスは免疫を抑制する仕組みを持っているため、免疫を刺激することも重要になってくるのでしょう。


2014年11月17日

2014-11-20 06:15:34 | 

石鹸の『汚れた』側面:
個人衛生用の製品として一般的な抗菌物質であるトリクロサンは、マウスにおいて肝線維症と癌を促進する

The 'dirty' side of soap: Triclosan, a common antimicrobial in personal hygiene products, causes liver fibrosis and cancer in mice



トリクロサンは、石鹸、シャンプー、歯みがきなどで広く使われている抗菌物質である。カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部の研究者は、この化学物質への長期の曝露が潜在的に深刻な結果を与える可能性を報告する。PNASの11月17日号で発表された研究は、トリクロサンがマウスで肝線維症と癌を促進することを示す。その分子メカニズムはヒトにも関連がある。

「トリクロサンは環境中のサンプルで検出されることが増えている。その増えつつある消費は利点を圧倒して、肝臓への毒性のリスクを示す可能性がある。マウスではトリクロサンと類似した作用をもつ他の化合物と組み合わせると毒性を示すからである」、化学・生化学・薬理学部の教授であるRobert H. Tukey博士は言う。



Tukeyたちの研究チームは、トリクロサンがマウス・モデルで肝臓の健全性を阻害して、肝機能を損なうことを発見した。6ヵ月間(ヒトのおよそ18年に相当する)トリクロサンにさらされたマウスは、化学物質によって引き起こされる肝腫瘍に対して感受性が増大した。その腫瘍は、トリクロサンにさらされないマウスよりも大きく、そしてより頻度が高まった。

彼らの研究によれば、トリクロサンは構成的アンドロスタン受容体(CAR)に干渉する可能性がある。CARは体内の異質な化学物質を解毒するタンパク質である。このストレスを補償するために肝細胞は増殖し、やがて線維症になる。繰り返されるトリクロサン曝露と継続的な肝線維症は、最終的に腫瘍形成を促進する。

トリクロサンは広く使われている抗菌剤であり、研究では母乳サンプルの97パーセントから、そしとて人々の尿サンプルの約75パーセントから検出された。アメリカの河川で最も検出の頻度が高かった7つの化合物の1つである。

「我々は液体石鹸のように量は多いが有益性が低いトリクロサンの使用を排除することによって、ほとんどのヒトおよび環境への曝露を抑制することができる」、Hammockは言う。

「それでも、歯みがきのように使われる量が少なく、健康的価値を持つことが示されている使用は今のところ維持しても良いと思われる。」

トリクロサンはその広範囲にわたる利用と、ホルモンの作用を阻害しさらに筋収縮を阻害するという最近の報告により、すでにFDAによって詳細な調査が実施されている。

記事出典:
上記の記事は、カリフォルニア大学サンディエゴ校健康科学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.広く使われる抗菌作用のあるトリクロサンは、肝腫瘍プロモーターである。

PNAS、2014年11月17日;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141117154612.htm

<コメント>
トリクロサンTriclosan)は、マウスの核受容体である構成的アンドロスタン受容体(constitutive androstane receptor; CAR)を活性化する(※アンドロスタン: C19ステロイド)ことにより肝細胞の増殖を促進する可能性があるという記事です。

Abstractによれば、前発癌物質(procarcinogen)のジエチルニトロソアミン(diethylnitrosamine)による肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)の発達を促進したということのようです。

ヒトへの発癌性に直接的な関係はほとんど無さそうですが、トリクロサンが使われていると言われるミューズの商品サイトに殺菌成分書かれていないのは何なんですかね。隠してるとは思いたくありませんが。


2014年11月12日

2014-11-17 22:03:32 | 感染症

HIVの毒性は、ウイルスが宿主DNAのどこに挿入されるか次第である
HIV virulence depends on where virus inserts itself in host DNA



ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、宿主であるヒトDNAの異なる位置にウイルス自身を挿入することが可能である。KU Leuvenの分子ウイルス学・遺伝子治療学の研究者の報告によれば、この特定の組込み部位(integration site)は疾患がどのような早さで進行するかを決定する。彼らの研究は本日、学術誌のCell Host & Microbeでオンラインにて発表された。



HIVは免疫細胞を乗っ取り、新しいHIV粒子を作るようにプログラムを作り直す。このプロセスでHIVタンパク質インテグラーゼ(integrase)は重要な役割を果たす。インテグラーゼは宿主のDNAに存在する短いセグメントを認識して、ウイルスDNAが宿主DNAに挿入されるプロセスを触媒する。

インテグラーゼはヒトDNAのさまざまな場所にウイルスDNAを挿入することができるが、ウイルスがその挿入位置をどのように選択するかは20年以上も謎のままであった。

今回の研究でKU Leuvenの研究者はその謎を解明した。答えは2つのアミノ酸にある。Jonas Demeulemeester博士は次のように説明する:

「HIVインテグラーゼは200以上のアミノ酸から構成され、一定の構造に折り畳まれる。この構造をモデル化することにより、我々はインテグラーゼが宿主のDNAと直接接触する2つのアミノ酸の位置を特定した。この2つのアミノ酸がHIVの組込み部位を決定する。これはHIVだけでなく、関連する動物由来のウイルスにも当てはまる。」



研究ではさらに、HIVの組込み部位の選択に手を加えることが可能だったとRik Gijsbers教授は説明する。

「我々は特定のHIVインテグラーゼ・アミノ酸を動物由来のウイルスのそれと取り替えて、動物由来のウイルスが通常は統合するであろう位置でHIVのDNAが宿主DNAに統合されることを発見した。」

「HIVインテグラーゼは変異する場合があることも我々は示した」、Rik Gijsbers教授は言う。

「その2箇所には時々異なるアミノ酸が出現する。これらのバリアント・ウイルスは通常とは異なる箇所で宿主DNAに統合される。」



研究チームはクワズールー大学-ネイトル(南アフリカ国ダーバン)のThumbi Ndung'u博士と共に、これらのウイルスバリアントのAIDSへの進行に対する影響をアフリカのHIV患者のコホートで研究した。

Zeger Debyser教授は続ける:

「驚いたことに、組込み部位が変更されると疾患はより急速に進行した。言い換えれば、バリアント・ウイルスはより急速に免疫システムを破壊した。この洞察は疾患についての我々の知識を増やして、新しい展望を開く。宿主DNAの組込みを『より安全な』部位へと標的を変更させることにより最終的に新しい治療法を開発したいと思う。」

学術誌参照:
1.HIV-1インテグラーゼのバリアントはウイルス組込みの標的を変更し、それは慢性的な感染コホートで疾患進行と関連している。

Cell Host & Microbe、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141112132103.htm



<コメント>
HIVインテグラーゼのアミノ酸の変異がAIDSへの進行に影響するという記事です。

下の画像の青色がHIVインテグラーゼ、赤がHIVウイルスDNA、オレンジがヒトDNAです。



2007年5月

2014-11-17 12:20:28 | 代謝

TXNIPはヒトの末梢グルコース代謝を調節する
TXNIP regulates peripheral glucose metabolism in humans.



要約

背景:
2型糖尿病(T2DM)の特徴はインスリンの分泌と作用における障害である。骨格筋のブドウ糖取り込みの障害はT2DMの自然経過における早期の特徴の1つであると考えられているが、その根底にあるメカニズムは不明瞭なままである。

方法と結果:
我々はヒトインスリン/ブドウ糖クランプ生理学的研究をゲノム全体の発現プロファイルと組み合わせ、チオレドキシン相互作用タンパク質(TXNIP)の遺伝子の発現がインスリンによって強力に抑制され、しかしブドウ糖によって刺激されることを特定した。

健康な個人におけるTXNIPの発現は、全身でのブドウ糖取り込みと逆相関していた。培養脂肪細胞におけるTXNIPの強制的発現はブドウ糖の取り込みを著しく低下させた一方で、脂肪細胞ならびに骨格筋においてRNA干渉によりサイレンシングするとブドウ糖の取り込みは促進された。これによりTXNIPの遺伝子産物はブドウ糖取り込みの調節因子でもあることを確認した。

TXNIPの発現は糖尿病前症と糖尿病の患者の筋肉で一貫して上昇するが、しかし4,450人のスカンジナビア人パネルではTXNIP遺伝子の一般的な遺伝子的な変異とT2DMの間に関連は見られなかった。

結論:
TXNIPは、ヒト骨格筋におけるブドウ糖取り込みのインスリン依存性の経路およびインスリンとは独立した経路を調節する。TXNIPがグルコースによる膵β細胞の障害に関与することを示す最近の研究と合わせて考えると、我々のデータは、T2DMの発症に先行するブドウ糖ホメオスタシスの障害においてTXNIPが重要な役割を果たす可能性を示唆する。

学術誌参照:
PLoS Med. 2007 May;

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17472435

<コメント>
TXNIPに関する以前の記事と関係がありそうな論文を見つけたので、Abstractを訳しておきます。




2014年11月13日

2014-11-15 23:14:01 | 癌の治療法

研究者は最も重要な発癌遺伝子をサイレンシングする
Researchers silence leading cancer-causing gene



ノースカロライナヘルスケア大学(UNC)医学部とテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者は、KRAS癌遺伝子を阻害する新しいアプローチを開発した。KRASはヒトの癌で最も頻繁に変異する遺伝子の1つである。Chad Pecot博士たちによるこの新しいアプローチはスモール干渉リボ核酸(siRNA)を利用する。

「KRASは創薬が困難な(undruggable)タンパク質と広く考えられていた。しかし我々は、事実はまったくそうではないことを示す」、研究の筆頭著者でありUNCラインバーガー総合癌センターの一員でもあるPecotは言う。

KRASはシグナル分子であり、細胞が成長して生き残るための分子イベント・カスケードを引き起こす「スイッチ」である。KRAS遺伝子の突然変異はスイッチを永久に「オン」のままにして、細胞分裂の制御を失わせる。KRAS突然変異はヒト癌のおよそ30パーセントに生じ、特に肺癌、結腸癌、膵臓癌、甲状腺癌に見られる。



KRASには小さい分子や薬剤が結合できるポケットや間隙が存在しないため、そのシグナルを阻害するのはトリッキーであった。研究者の中にはKRASの代わりにシグナルカスケードの下流を標的にしようと試みた者もいた。その試みは成功したが、限定的なものであった。

Pecotは旧来の方法ではなく、RNA干渉(RNA interference; RNAi)という新しい遺伝子ツールを使用することに決めた。RNAiは設計により合成される小さい一本鎖のRNA分子を使う。このRNAの小片は細胞のmRNAと結合して酵素を導いて「敵」として認識させ、特定の遺伝子をサイレンシングして、タンパク質が完全に形成される前に破壊する。

今回の場合、その酵素はKRASのmRNAを破壊してKRASが作られないようにした。その結果、細胞は成長も複製もしなくなり、ほとんど移動もしなくなった。彼らが組織培養細胞にsiRNA配列を投与するとKRASのmRNAは90パーセント以上が破壊され、癌細胞系統の成長は著しく損なわれた。RNAiはpERKとpMEK(リン酸化ERKとリン酸化MEK)という2つのシグナル分子も著しく減少させた。それらはKRASの下流に存在し、癌細胞の増殖と腫瘍の増殖に関与する。

次にPecotと彼の同僚は、肺癌と大腸癌のマウス・モデルでsiRNAsをテストした。彼らは脂質で構成されるナノ粒子でRNA配列を包んで保護し、そのsiRNA溶液をマウスに与えた。その結果、この治療薬は一次性腫瘍の成長を著しく遅らせた。例えばKRASのsiRNAsを投与した大腸癌モデル由来の腫瘍は、対照群のsiRNAを与えた腫瘍より69パーセント小さかった。

研究者はさらに、KRASのサイレンシングが他の臓器への癌細胞の浸潤を止めることを発見した。

「現在、siRNAでKRASを標的にするためのプラットフォームが基本的に3つ存在する。そのどれかがクリニックで利用されることになるだろう。」

Pecotによれば、この結果は有望ではあるが、この発癌遺伝子と戦うための最初の段階に過ぎないという。最終的に、siRNA配列は正常なKRAS遺伝子を阻害することなく、KRASの突然変異だけを特に標的にするように設計されていなければならないだろう。それは健康な細胞の正常な成長を維持するために必要である。

学術誌参照:
1.siRNAsの全身投与によるKRASの治療学的サイレンシング。

Molecular Cancer Therapeutics、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141113123320.htm



<コメント>
RNA干渉技術(RNAi)を癌の治療にも応用しようという記事です。

Pecot氏はRNAiのプラットフォーム(システム展開の基盤)が3つあると言っています。その3つの内の1つが「脂質ナノ粒子」で、今回はDOPC(dioleoyl phosphatidylcholine; ジオレオイル ホスファチジルコリン)を使っています。

開発中の脂質ナノ粒子としてアルナイラム(Alnylam)のパチシラン(Patisiran)が有名です。


2014年11月12日

2014-11-14 23:25:50 | 感染症

口の発癌性HPVは、口と生殖器から伝染するかもしれない
Oral cancer-causing HPV may spread through oral, genital routes



口と生殖器のどちらか、または両方がヒト・パピローマウイルス(HPV)に感染している女性パートナーがいる男性は、そうでない男性よりも口のHPV感染が広く見られた。これはHPVの感染が口から口、または性器から口(オーラルセックス)により生じることを示唆する。

このマギル大学によって実施された研究は、アメリカ癌学会(AACR)の学術誌Cancer Epidemiology, Biomarkers & Preventionで発表される。



「HPVは世界で最もありふれた性感染病であり、いくつかの癌の危険因子である。例えば子宮頸癌、膣癌、外陰癌、口腔咽頭癌[喉頭がん/扁桃腺癌]、肛門癌と陰茎癌などである」、マギル大学のエドゥアルド L.フランコ教授は言う。

「HPVの感染経路を理解することは重要である。なぜならそれはHPV感染の危険が最も高い人たちを特定し、彼らとそのパートナーの保護を助けることができるからである」、医学部の腫瘍学部の主任教授でもあるフランコは、そう付け加えた。

「我々の研究は、HPVが口から口、および性器から口というオーラルセックスのような性的接触によって口腔に感染するという付加的なエビデンスを提供する。」



年齢18~24歳の若い女性学生とその男性パートナーは2005年から2011年の間にリクルートされた。フランコが率いる研究チームが222人の男性とその女性パートナーでのHPV感染を観察した結果、男性222人のうち130人は生殖器がHPVに感染した女性パートナーがおり、男性の口中HPVの感染率は7.2パーセントであった。

感染率は喫煙者の男性で高く(12.2パーセント)、そして一夫一婦制の関係ではない(non-monogamous relationships)男性で高かった(17.9パーセント)。また、口中にHPVが感染した女性パートナーを持つ男性(28.6パーセント)、口中と生殖器の両方または生殖器のみがHPVに感染した女性パートナーのいる男性(11.5パーセント)でも高かった。

最も一般的な発癌性HPVタイプの1つであるHPV16の感染率は研究に参加した全男性の2.3パーセント(5人)であり、生殖器にHPV16が感染した女性パートナーがいる男性33人の6.1パーセント(2人)であった。

女性パートナーに対するオーラルセックスの頻度が増加するごとに(全くない/まれに、時には、ほとんど/常に)、女性パートナーの性器に存在する特定のHPVタイプへの男性の感染率は2倍以上増加した。

それとは逆に、タバコを決して吸わず、一夫一婦制の関係であり、口または生殖器がHPVに感染していない女性がパートナーの52人の男性は、誰もHPVに感染していなかった。

学術誌参照:
1.ヒトパピローマウイルスの男性の口への性的な感染。

Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention、2014年11月;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141112083843.htm

<コメント>
口と口の接触またはオーラルセックスの頻度が高いほどヒトパピローマウイルスが伝染しやすいという記事です。

タバコを吸う男性は特に注意が必要なようです。


2014年11月12日

2014-11-13 10:30:45 | 天文

木星の大赤斑は、おそらく日焼けである
Jupiter's Great Red Spot is likely a sunburn, not a blush



NASAのカッシーニ・ミッションの最新の分析によれば、木星の大赤斑の赤い色は、おそらく惑星の高層大気で日光によって分解された単純な化学物質の産物である。これは赤斑の印象的な色の起源に関する他の主要な理論、つまり「赤みがかった化学物質は雲の下に由来する」という主張と矛盾する。

この結果はアリゾナ州トゥーソンで開かれているアメリカ天文学会の惑星科学部会(Division for Planetary Science)ミーティングでKevin Bainesにより今週発表されたものである。彼はカリフォルニア州パサデナのNASAジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory; JPL)に拠点を置くカッシーニ研究チームの科学者である。



BainesとJPLの同僚Bob CarlsonとTom Momaryは、カッシーニの2000年12月の木星接近通過と研究室実験から得られたデータを組み合せることでこの結論に到達した。

研究者は大赤斑の雲の最大高度に存在する物質に対する太陽の影響をシミュレーションするため、アンモニアとアセチレン・ガスを紫外線とともに吹き付けた。これらは木星に存在することが知られている化学物質である。

結果として生じた赤みがかった物質を、研究チームはカッシーニの可視光・赤外線マッピング分光計(Visible and Infrared Mapping Spectrometer; VIMS)によって観察された大赤斑のものと比較した。彼らが得た赤い混合物の光散乱特性は、「赤い物質が巨大低気圧のような特徴の最上部の領域(uppermost reaches)に閉じ込められる」という大赤斑モデルにうまくマッチした。

「大赤斑の赤みがかった物質の雲の上層部の下では、実際にはほとんどが、赤色は非常に穏やかであることを我々のモデルは示唆する。」、Bainesは言う。

「赤みがかった『日焼け』の下で、雲は多分白っぽいか、灰色がかっているだろう。」



木星はほとんどが水素とヘリウムから構成され、他の元素はわずかである。科学者は元素のどんな組合せが木星の雲の中で観察される色の原因であるかを理解することに関心があるが、それは巨大惑星の構造に対する洞察を提供すると思われるためである。

Bainesたちは初めに大赤斑の色が複雑な分子、硫化水素アンモニウムが太陽により分解された物に由来するかどうかを決定しようとした。硫化水素アンモニウムは木星の主な雲層を構成する物質の1つである。

しかし彼らの実験が生み出した産物は赤色ではなく、鮮やかな緑の色合いであった。この驚くべきネガティブな結果は、研究者に木星の高い高度で一般的な炭化水素とアンモニアの単純な組合せを試みさせた。紫外線でアンモニアとアセチレンを分解することは、カッシーニによって集められたデータに最も適合することが分かった。

木星は3層の主な雲の層を持つ。それは木星大気で特定の高度を占める; 最も高い高度から、アンモニア、硫化水素アンモニウム、そして水雲(water clouds)である。



強い赤色が大赤斑といくつかのやや小さい斑だけで観察される理由に関しては、研究者は高度が重要な役割を演じると考えている。

「大赤斑は非常に高い」、Bainesは言う。

「大赤斑の雲は、木星上の他の場所の雲よりも高いところまで届く。」

研究チームは赤斑の高度が、赤い色を発色し、さらにそれを強めることを可能にすると考える。木星の風はアンモニアの氷粒子を通常よりも大気の高い所へと運び、そこで太陽の紫外線にずっと多くさらされる。加えて赤斑の渦の性質が粒子を閉じ込め、逃げられないように阻止する。

木星の他の領域はオレンジ、茶色、赤い色合いの混合パレットを示すが、Bainesが言うには、これらは高く明るい雲が、より薄いことを知られている場所である。その薄さは、よりカラフルな物質が存在する大気圏深部への視界を許す。

記事出典:
上記の記事は、NASAによって提供される素材に基づく。

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141112133207.htm

<コメント>
木星の大赤斑の色は「日焼け」であるかもしれないという記事です。

2014年11月7日

2014-11-12 13:43:30 | 感染症

ヒトの細胞でノロウイルスを培養する方法が発見される
Researchers discover how to cultivate norovirus in human cells



ノロウイルスは激しい嘔吐と下痢を引き起こす悪質な腸ウイルスである。回復したように見えても、最大で3日後まではウイルス保菌者のままである。ノロウイルスは多くの一般的な消毒薬に抵抗性であり、しかもウイルス感染に必要な量はきわめて少ない。そのため、綺麗に掃除した後も感染に十分なだけのウイルスがまだ残っている可能性がある。

ワクチンは臨床試験中だが、現在のところウイルスと戦う薬は存在しない。その理由の一部は、研究者がヒトのノロウイルスを培養することができなかったからである。

しかし、フロリダ健康大学のStephanie Karst博士はノロウイルスが腸で標的にする細胞を特定し、それによりヒトのノロウイルスを培養する方法を発見した。

「ノロウイルスは1972年に発見されたが、その研究には大きなハードルが存在した。ヒトのノロウイルスはシャーレで培養することができなかった」、分子遺伝学と微生物学部の准教授、Karstは言う。



これまで研究者は、ノロウイルスが主に腸の上皮細胞を標的にするだろうと推測していた。しかし今回の新しい研究によれば、ウイルスはB細胞を標的にする。

「この結果には非常に驚いた」、Karstは言う。

Karstはさらに、腸内細菌に存在する細菌がノロウイルスのB細胞への感染を助けたことにも驚いたという。彼女によれば、ノロウイルスは細胞に感染するために特定の種類の炭水化物(糖鎖)を必要とすることを科学者は以前から知っていたという。

「ノロウイルスは共生細菌上に発現する炭水化物に付着し、この相互作用はB細胞へのウイルス感染を刺激する」、Karstは言う。

「これは本当にエキサイティングで新しいテーマである。様々な腸ウイルスがしばしば我々の腸に存在する細菌を利用するようである。これらのウイルス感染は、腸にいる細菌の存在によって増強される。」

UF科学者はパイエル板でウイルスを検出した。パイエル板は腸の内側を覆うリンパ小節のポケットであり、病原体を探査する場所である。

記事出典:
上記の記事は、フロリダ大学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.腸内細菌は、ヒトおよびマウスノロウイルスのB細胞への感染を促進する。

Science、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141107154732.htm

<コメント>
ノロウイルスは腸管の上皮細胞ではなく、B細胞を標的としていることが明らかになったという記事です。

Abstractによれば、種々のノロウイルス株への感受性は個々人の血液型抗原(histo-blood group antigen; HBGA)と相関するとあります。以前からノロウイルスは血液型の糖鎖を認識すると言われていました(ウイルス株によってはB型が感染しにくい)。

今回の研究でノロウイルスの感染は、その血液型抗原を発現する腸内細菌の存在が必要であることが明らかになりました。実際、マウスのノロウイルスは抗生物質の経口投与で腸内細菌が枯渇するとウイルス複製が減少したようです。腸内細菌に対する免疫寛容が関与するのかもしれません。

糖鎖の形成と感染症の感受性との関連を示す報告がつい最近もありました。

http://first.lifesciencedb.jp/archives/9269
>腸管上皮細胞はさまざまな糖鎖および糖転移酵素を発現しており,それらのなかでは糖鎖の末端にフコースを付加する2型フコース転移酵素も発現している.

>この研究では,腸管上皮細胞における2型フコース転移酵素の発現にセグメント細菌を含む腸内細菌,および,インターロイキン22やリンホトキシンを産生する3型自然リンパ球が関与していることが見い出された.さらに,2型フコース転移酵素のノックアウトマウスはSalmonella typhimurium(ネズミチフス菌)に感染しやすいことが示された.