新しい癌治療としての抗生物質? 女子学生との対話が考えをスパークさせる
Antibiotics as new cancer treatments? Conversation with schoolgirl sparks idea
一般に使われている抗生物質の『副作用』を用いて癌幹細胞を根絶する方法が、マンチェスター大学の研究者が娘と会話することによって発見された。
研究を指揮したのは、ブレークスルー乳がんユニットのディレクターであるMichael P. Lisanti教授である。彼は自分の娘との会話から、癌幹細胞のミトコンドリアに対する抗生物質の影響を見るようヒントをもらった。Oncotargetで発表される彼の新しい論文は癌治療の新しい可能性を開く。それは非常に効果的であり、そして何十年も安全に用いられてきた薬を再利用する。
ミトコンドリアは細胞の『エンジン』であり、突然変異した幹細胞が分裂して腫瘍を生じる際のエネルギー源である。癌幹細胞は全ての癌の増殖と再発に強く関連し、通常の治療では根絶するのが特に困難であるために腫瘍は他のタイプの治療にも抵抗するようになる。
Lisanti教授は以下のように述べた:
「私が癌を治療する方法について娘のCamillaと会話していたとき、娘はこう尋ねた。『どうして私たちは他の病気のように抗生物質を使わないの?』と。私は抗生物質がミトコンドリアに影響し得ることを知っていて、そして最近の私は腫瘍の増殖に対するミトコンドリアの重要性について多くの研究をしていた。しかしこの会話は、それらを直接つなげるために役立った。」
Lisanti教授は、ニューヨークのアルバート・アインシュタイン医科大学、フィラデルフィアのキンメルがんセンターと共に研究を開始した。研究チームはにきびを治療するために用いられるドキシサイクリンなど5種類の抗生物質を、8タイプの腫瘍細胞系列に対して使用した。
その結果、5種類の抗生物質のうち4つは、あらゆる試験で癌幹細胞を根絶した。癌の中には脳腫瘍で最も悪性である神経膠芽腫が含まれ、他は肺癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、非浸潤性乳管癌(DCIS)、膵臓癌、皮膚癌だった。
ミトコンドリアは、生命の進化の初期に細胞に取り込まれた細菌に由来すると考えられている。そういうわけで細菌を破壊するために用いられる抗生物質のいくつかがミトコンドリアにも作用するが、人体に危険という程ではない。
幹細胞に存在するミトコンドリアは増殖のためのエネルギーを供給するが、重要なことはそれが細胞分裂のためのエネルギーだということである。分裂のプロセスが間違った方向に進むと癌につながる。
これらの抗生物質は研究室の試験では通常の細胞に対する有害な影響はなく、そして薬としてすでに承認されている。臨床試験は簡潔なものになると思われ、それは時間とお金を節約する。
重要なことに、以前にも抗生物質による臨床試験が実施されている。それは癌細胞に対してではなく、癌と関連する感染の治療を目的としたものだったが、それらは癌患者に対する肯定的な治療効果をすでに示している。これらの試験は進行している患者か治療抵抗性の患者に対して実施された。
肺癌患者に対してアジスロマイシンを用いた試験では、患者の1年生存率を45%から75%まで増加させた。『細菌に感染していなかった』リンパ腫の患者でさえ恩恵があり、ドキシサイクリンの3週間1クール投与により完全寛解を示した。これらの結果は、抗生物質の治療効果が実際に感染から独立していたことを示唆する。
記事出典:
上記の記事は、マンチェスター大学に提供される素材に基づく。
学術誌参照:
1.抗生物質は効果的にミトコンドリアを標的にして、複数の腫瘍タイプにわたって癌幹細胞を根絶する:
感染症のように癌を治療する。
Oncotarget、2015年1月
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150128081957.htm
<コメント>
細菌を殺すために使われる抗生物質の「副作用」が、もともとは細菌だったミトコンドリアに作用して癌の幹細胞も殺すという記事です。
Abstractによると、研究に使われた薬剤はエリスロマイシン(erythromycins)を改良したアジスロマイシン(azithromycin)、テトラサイクリン系(tetracyclines)のドキシサイクリン(doxycycline)、グリシルサイクリン系(glycylcyclines)のチゲサイクリン(tigecycline)、抗寄生虫剤(anti-parasitic drug)のパモ酸ピルビニウム(pyrvinium pamoate)、そしてクロラムフェニコール(chloramphenicol)の5種類です。
Wikipediaのクロラムフェニコールの項には「ミトコンドリアのリボソームが阻害される」と書かれていますが、英語版のChloramphenicolの項にはReferenceが一つ挙げられていて、パラ位の二酸化窒素基(p-NO2)が代謝により置換(metabolic transformation)されることで有害な中間体を生じるとあります。
過去にもいくつか同様の記事がありました。
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/10d4194b9596925844c27c67a317975a
>ミトコンドリアは癌幹細胞のエンジンであり、ケトンとL-乳酸は癌の成長を促進するハイオク燃料
http://www.sciencedaily.com/releases/2011/04/110405084928.htm
>メトホルミンが、子宮内膜癌の予防に効くかもしれない
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/c3124edbd023ba26daebb2aaa35f2939
>ニトログリセリン(狭心症)、イトラコナゾール(抗真菌薬)、ジクロフェナク(鎮痛剤)、クラリスロマイシン(抗生物質)の潜在的な抗がん剤としての作用
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/2534679e8f1f367e92c83d2a62d453ff
>ビスホスホネートがマウスの腫瘍で微小なカルシウム沈着(tiny calcifications)に付着し、これらのカルシウムと薬の複合体はマクロファージによって貪食される
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/8aaf41f7667a0bbe7bcd4f546da9af00
>頭頚部癌の治療を受けて診断後に制酸薬を服用した患者は、服用しなかった患者よりも全生存期間が著しく優れていた