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興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

髄芽腫グループ4の源が明らかに

2016-01-31 06:06:14 | 
Researchers mine the epigenome to identify likely origins of childhood brain tumor subtype

January 27, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160127141948.htm

セントジュード子ども研究病院/St. Jude Children's Research Hospitalの研究者は、髄芽腫medulloblastomaのサブタイプの一つである『グループ4』が生じる源であるらしい細胞を明らかにした
この発見は脳腫瘍の髄芽腫で最も一般的なサブタイプに対する今より効果的な標的治療開発への障壁を取り除く
セントジュード子ども研究病院を中心とする今回の国際的な研究結果は、Natureオンライン版で先行出版される


髄芽腫は乳児infants、子どもchildren、成人adultsのいずれでも発症するが、小児で最も多く見られる悪性の脳腫瘍である
この疾患に含まれる生物学的・臨床的に異なる4つのサブタイプの中で最も多いのが『グループ4』で、子どもでは髄芽腫の約半分がグループ4である

患者の転帰、特にグループ4のハイリスク患者の転帰を改善するためのあらゆる努力にもかかわらず、これまで正確な動物モデルが存在しないためにその試みはうまくいかなかった

今回の研究から得られたエビデンスからグループ4は発達中の小脳cerebellumの『上菱脳唇(じょうりょうのうしん)/upper rhombic lip』という領域から生まれる神経幹細胞から発生することが示唆された
小脳は調和的な運動を助ける脳の一部で、髄芽腫が発生する場でもある

※菱脳: 発生中の神経管の一部で、後に小脳・橋・延髄に分化する領域


「髄芽腫グループ4の源となる細胞を特定することは正常な小脳発達の理解を助け、そして遺伝学的に忠実な前臨床マウスモデルを開発する見込みchancesを劇的に改善する
そのようなモデルは髄芽腫グループ4を生物学的に詳しく理解し、患者の転帰を改善するための合理的な分子標的治療を評価するために切望desperately neededされている」
セントジュードの発達神経生物学のPaul Northcott, Ph.D.は言う

腫瘍の増殖を加速する異常misstepに関する今回の発見はエピゲノムの研究によるものだ
エピゲノムというのはDNAに結合するタンパク質や化学物質のことで、それらは組織特異的なやり方で遺伝子発現の制御を調整するために協力して働く
DNAはゲノムをコード化し、ゲノムは生命の計画書である
エピゲノムは様々な細胞の種類ごとにゲノム中の指示がどのように実行されるかを決定する

研究者たちはクロマチン免疫沈降法/chromatin immunoprecipitation(ChIP)と次世代シーケンシング(next generation sequencing)を組み合わせたChIP-seqという分析ツールを使い、
エピジェネティックな調節因子の活性に基いて髄芽腫のサブタイプごとの違いを特定して追跡した

この調節因子regulatorsにはマスターレギュレーター転写因子master regulator transcription factorsという転写因子の一種が含まれ、それらはエンハンサーやスーパーエンハンサーというDNA配列に結合する
マスターレギュレーター転写因子とスーパーエンハンサー配列は、細胞のアイデンティティを決定するような重要遺伝子の発現を調節するために働く

そうした分析ツールなどの助けを借りて研究者は28の髄芽腫サンプルから3000を超えるスーパーエンハンサーを同定し、
加えてスーパーエンハンサー活性がサブタイプごとに異なることも明らかにした
スーパーエンハンサーはよく知られる癌遺伝子を活性化しており、その中には髄芽腫と関連するALK、MYC、SMO、OTX2が含まれていた

サブタイプごとのスーパーエンハンサーについての知識から彼らはそれらの活性を調節する転写因子を明らかにした上で、
コンピューターを使ってそれらの情報を応用することにより、髄芽腫サブタイプの多様性とアイデンティティの原因となる転写因子ネットワークを再構築した
それは様々な髄芽腫サブタイプの調節因子に関するランドスケープならびに転写的な産生についての新たな洞察をもたらした

これらのアプローチからLmx1Aが髄芽腫グループ4のマスターレギュレーター転写因子であることが発見され、
ここからグループ4の源が上菱脳唇/upper rhombic lip(uRL)である可能性が明らかにされた
Lmx1Aは上菱脳唇と小脳細胞の正常な発達に関与する

Lmx1Aを持つマウスまたは持たないマウスを使った研究からも、上菱脳唇の細胞がグループ4の源である可能性が支持された

「エピゲノムの研究から我々は新たな経路と分子的な依存性も明らかにした」
Northcottは言う

「この発見は新たな治療への道を開くものであり、
特に、患者の転帰が他よりも良くないサブタイムのグループ3とグループ4の治療につながる」

例えば研究者はTGFβ経路を標的とするエンハンサー活性が上昇することを明らかにしたが、この発見はTGFβ経路がグループ3を促進するというこれまでの証拠を補強するものだ
現在、グループ3の予後は最も悪い
TGFβ経路は細胞増殖と細胞死などの癌でしばしば妨害されている機能を調節するが、その髄芽腫における役割はほとんど理解されていない


今回の分析では4つのサブタイプを代表する28の髄芽腫サンプルが含まれる
これは単一の癌のタイプに関するエピジェネティックな分析としては過去最大のものであり、
重要なことにこれは研究室で培養した細胞系統ではなく、患者の腫瘍組織に由来する大規模なコホートを使った初めてのものである

以前の研究で細胞系統が腫瘍のエピゲノムの研究には限定的にしか役立たないことが示唆されていた
今回の研究ではグループ3髄芽腫の3つの細胞系統も分析され、エピジェネティックな調節因子の作用が細胞系統と腫瘍サンプルで著しく異なることが浮き彫りになったhighlight


http://dx.doi.org/10.1038/nature16546
Active medulloblastoma enhancers reveal subgroup-specific cellular origins.

Abstract
我々は28のプライマリーな髄芽腫の標本に対して
ヒストン3リジン27アセチル基とBRD4のクロマチン免疫沈降とシーケンシングを組み合わせ (ChIP-seq) 、
それをDNAメチル化と転写全体/トランスクリプトームのデータと統合して
アクティブなシス-調節的ランドスケープcis-regulatory landscapeを記述する

異なって調節されるエンハンサー・スーパーエンハンサーの分析から
サブグループ間の不均一性heterogeneityの違いが補強され、
髄芽腫の生物学への新しくかつ臨床的に関連がある洞察が明らかにされた

中心的な調節回路をコンピュータによって再構築することにより、転写因子のマスターセットを明らかにしてそれをChIP-seqで確認validateした
それらマスターセットは各サブグループの相違の原因であり、グループ4の源となる細胞の候補に影響する

大規模な初代腫瘍サンプルprimary tumour samplesにおけるエンハンサー配列についての統合的な分析から、
シス-調節的な構造cis-regulatory architectureならびにこれまで認識されていなかった依存性、そして細胞の源についての洞察が明らかになった


※St. Jude: 聖ユダ(タダイThaddeusのユダ)。セントジュード子ども研究病院はマロン派カトリック教徒だったDanny Thomasが1962年に設立した病院。コメディアンでその日暮らしpaycheck to paycheckだった彼は第一子が生まれる前にデトロイトでミサに参加し、最後の7ドルを献金箱に投じて新しい家族を迎える準備をしたいとSt. Jude Thaddeusに祈り、それが「叶った」ことからその名がついたとされる



関連記事
http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160111152825.htm
タンパク質相互作用が悪性脳腫瘍のサブタイプを定義する

Mycはグループ3(髄芽腫の25%を占める)、MycNはSHHという異なるサブタイプにつながる
その違いの原因はMiz1で、Miz1が腫瘍アイデンティティの決定に重要である
Miz1はMycとは結合するが、MycNとは結合しない
Miz1-Myc複合体はDNAに結合して遺伝子発現を変化させ、グループ3の髄芽腫の増殖と転移を促進する

http://dx.doi.org/10.1016/j.ccell.2015.12.003
The Interaction of Myc with Miz1 Defines Medulloblastoma Subgroup Identity.


Myc-Miz1は、Miz1/Ebox(nc)に結合して転写を抑制し、ニューロン分化をさせない(脱分化=悪性)

[グループ3]
 Myc↑→Miz1と共にMiz1/Ebox (nc)に結合して転写を抑制→ニューロンに分化しない,幹細胞性↑,ciliogenesis↓,TGF-β経路↑

[SHHサブタイプ]
 MycN↑→Miz1と相互作用せずMiz1/Ebox (nc)に結合しない→ニューロンに分化する



関連サイト
http://plaza.umin.ac.jp/sawamura/pediattumor/medullo/
髄芽腫の分子診断
1.WNT (wingless) 免疫組織染色で DKK1 (WNT)
2.SHH (sonic hedgehog) 免疫組織染色で SFRP1 (SHH)
3.グループ3 免疫組織染色で NPR3
4.グループ4 免疫組織染色で KCNA1

分類したあとの見込みは
1.ウイングレスはとても治りやすい
2.ソニックヘッジホッグとグループ4は中間くらい
3.グループ3は予後がとても悪い
 

凝集しやすい領域を保護する構造

2016-01-28 06:06:17 | 
Milestone for Parkinson's research: The amyloid protein α-synuclein has been visualised in the cell for the first time

January 26, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160126090055.htm


(生きた健康な細胞でのα-シヌクレインタンパク質の状態
中心のNAC領域は十分に保護されている(灰色の棒線)
この保護により細胞質(白)や他の成分との相互作用が確実に起きなくなる
神経変性的な変化の場合、灰色の領域はからみ合いgrow together、アミロイド構造を形成する
Credit: Philipp Selenko)

α-シヌクレインというタンパク質はパーキンソン病や他の神経変性疾患で重要な役割を演じる
パーキンソン病に典型的なアミロイド沈着内でのα-シヌクレインの構造についてはかなり知られているが、
健康な細胞での元々の状態についてはこれまでまったく知られていない

ドイツ・ベルリンのライプニッツ分子薬理学研究所/Leibniz-Institut für Molekulare Pharmakologie(FMP)の科学者は、高解像度の分光器spectroscopyを使って健康な細胞内におけるα-シヌクレインを初めて可視化した
驚いたことに、α-シヌクレインは構造化されていない状態unstructured stateだった

NatureとNature Communications誌で発表される今回の発見は世界中の研究にとって画期的な出来事milestoneである
疾患の経過を通じてこのα-シヌクレインタンパク質の構造が劇的に変化することはこれまで知られていなかった


パーキンソン病やアルツハイマー病、ハンチントン病のような神経変性疾患には一つの共通点があり、いわゆるアミロイドの凝集したものが脳に沈着している
アミロイドとは断片化したタンパク質の包括的umbrellaな用語であり、人体によって作られ最終的に神経細胞の死につながるものを指す
α-シヌクレインタンパク質はアミロイド凝集体の主な構成要素の一つであり、したがってパーキンソン病の発症に大きく関与する

凝集体の構造的な性質について知られていることは多い
例えばα-シヌクレインは非常に固体的な構造を持つが、これは特定のパターンに従った青写真/計画blueprintを基盤としていることを意味する
そしてそれとは対照的に、そこから分離して精製されたα-シヌクレインがまったくどんな構造も持たないno structure whatsoeverことが知られている

※whatsoever: whateverの強意形。否定+名詞+whatever「少しの~も(ない)」

しかしながら、これまでα-シヌクレインが健康な細胞の内部でどのような姿をしているかは知られていなかった
そして病理的な『変化』は、そのタンパク質の元々の状態がわからなければ完全には説明することはできない

ドイツ・ベルリンのライプニッツ分子薬理学研究所(FMP)の研究チームはα-シヌクレインタンパク質の構造を詳しく調べ、
ニューロンとそれ以外の細胞におけるα-シヌクレインを可視化して証明することに世界で初めて成功した

それを可能にしたのは核磁気共鳴分光学/nuclear magnetic resonance spectroscopy(NMR)と電子常磁性共鳴分光学/electron paramagnetic resonance spectroscopy(EPR)という二つの方法の組み合わせであり、原子レベルの解像度でタンパク質構造の相対的配置を記述することが可能になった


『我々は今、α-シヌクレインの原点を知る』
"Now we know the starting point of α-synuclein"

「我々はα-シヌクレインが精製した状態でも構造化されていない状態unstructured stateであることを発見した」
Philipp Selenko博士が説明する

「これは実際、かなり驚くべきことだ
なぜなら、そのような構造化されていない状態のタンパク質が細胞内の環境で存在し続けられるというのはこれまで思いもよらないことだったからだ」

しかしながら、見たところ細胞は実際、構造化されていないタンパク質を扱えているようである
Nature誌に発表された画像は、健康な細胞内でこのタンパク質がいわゆる『NAC領域』をどのようにして無関係の分子から保護するのかを示す

※NAC: non-amyloid-β component「非アミロイドβ成分」。凝集しやすい傾向を持つ領域

この中心領域は、高度に構造化されたアミロイド凝集体の発達において、決定的な役割を演じる
このα-シヌクレインの保護的な性質がなぜ神経変性疾患で失われるのかは、将来の研究で扱うであろう中核的な質問の一つである

「病的な状態では、NAC領域が他の分子にとってアクセス可能になる程度までα-シヌクレインは構造的に変化するはずだ
そうしてこの領域は凝集することが可能になり、成長してアミロイド構造を形成する」


タンパク質が構造を変化させるのを観察する
Watching the protein change its structure

このベルリンの研究チームの研究結果は、これらの構造変化を解明するための基礎を提供する
研究チームは既にこれから数ヶ月の具体的なプランを立てている

いくつかの巧みな方策tricksにより、人工的に老化した細胞を作成してアミロイドタンパク質を導入し、それを今回と同じ分光学的手法spectroscopic proceduresで観察する
パーキンソン病などの神経変性疾患は加齢と関連する疾患であるため加齢のシミュレーションを実施し、最終的には疾患の起源と一致する状態を構築したいと研究者は考えている

「我々はNAC領域の保護がだんだん失われるにつれてタンパク質がどのようにしてアミロイドのような構造を形成し始めるかを観察したいと考えている」
研究グループのリーダーSelenkoは言う


この面に関して、Nature Communications誌で発表された研究でチームは既に刺激的な発見をしている

彼らは年老いた細胞では普通に見られるようにα-シヌクレインの複数の箇所にダメージを与え、
それを若い健康な細胞に導入した

その結果、細胞がどのようにして欠陥を修復できたかを観察した
その修復はある領域では驚くべき完璧さだったが、別の領域ではそうではなかった
修復されなかった領域は、タンパク質の機能にとって非常に重要なものだった


パーキンソン病の原因の発見へと近づきつつある
The discovery of the cause of the disease is getting closer

彼らはこれからの研究で、どのような欠陥がこの修復メカニズムの失敗を引き起こし、それにより神経変性的なプロセスの基礎を形作るのかについての包括的な洞察を得たいと考えている

Philipp Selenkoによると、それにより疾患の原因の発見への鍵をとうとうつかむことができるという
それはいつの日か今回の研究結果を基礎として開発される有効な薬剤を使って、破壊的なプロセスへ介入することにつながる

「α-シヌクレインタンパク質の最初の状態を発見したことにより、我々はその方向へと決定的な一歩を進んだ」
Selenkoは言う


http://dx.doi.org/10.1038/nature16531
Structural disorder of monomeric α-synuclein persists in mammalian cells.


http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/fig_tab/nature16531_F4.html
Figure 4
αSyn interactions and conformations in cells.



http://dx.doi.org/10.1038/ncomms10251
Intracellular repair of oxidation-damaged α-synuclein fails to target C-terminal modification sites.
 



膵臓癌の代謝を『活性化』して増殖を止める

2016-01-26 06:08:16 | 癌の治療法
How certain drugs alter metabolism of pancreatic cancer cells

January 21, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160121150115.htm

CDK4/6阻害剤は癌の細胞分裂を止めるcytostatic が、止めるだけではやがて抵抗性になる
驚くべきことに、CDK4/6阻害剤は膵臓癌の代謝をむしろ『活性化』していた(mTOR↑)
この変化を別の薬剤(mTOR阻害剤など)で標的にすることで、CDK4/6阻害剤の効果をcytostaticからcytotoxicにできるかもしれない


テキサス大学サウスウエスタン・メディカルセンターの研究者は、
CDK4/6阻害剤という抗癌剤が膵臓癌細胞の代謝を変化させることを発見した
この発見は膵臓癌の生物学的脆弱性を明らかにし、治療効果を得るために利用可能となりうるものである


膵臓癌は最も予後が良くない癌の一つであり、国立癌研究所によるとアメリカでは癌で死ぬ理由として三番目に多い
そのため研究者は長い間、より良い治療オプションを見つけようと探している

去年FDAは進行乳癌の特定のタイプの治療用としてサイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害剤を初めて承認した
この種の薬剤は他の多くの癌に対して臨床試験で広く研究されており、膵臓癌もその内の一つである

CDK4/6阻害剤は『細胞分裂抑制剤/cytostatic』であり、その意味は癌細胞の成長と増殖の防止である

「腫瘍が増殖しないことは素晴らしいと言えるが、別の言い方をすれば患者の腫瘍はまだ残っており、結局は抵抗性になるだろう」
テキサス大学サウスウェスタン・ユージーンマクダーモット人類発育研究センター/Eugene McDermott Center for Human Growth and Developmentにおける内科の教授である首席著者のErik Knudsen博士は言う

マクダーモットセンターで病理学の准教授であるAgnieszka Witkiewiczは次のように付け加える
「CDK4/6阻害剤の背後にある生物学的な仕組みをより深く理解することに興味がある
つまり、ただ増殖を止めるだけでなく、その情報を使って腫瘍を殺すことが可能かどうかである」


今回の研究でチームはヒトの腫瘍癌細胞とマウスで成長させた腫瘍にCDK4/6阻害剤を投与した
驚いたことに、阻害剤を投与すると細胞の代謝(癌腫瘍がエネルギーを得る方法)はさらに活性化した

「CDK4/6阻害剤は膵臓癌の癌細胞に代謝的な再プログラムを誘導し、この特定の側面への攻撃を試すことが可能である」
Knudsenは言う

「例えば、腫瘍の変化した代謝を標的にすることによりCDK4/6阻害剤の効果を細胞分裂の抑制から細胞毒性へと変化させ、もしかするとpotentially本当に癌細胞を殺すことができるかもしれない」


結局のところ/The upshot is that、
腫瘍の細胞周期をCDK4/6阻害剤で妨害し、変化した代謝をさらにmTOR阻害剤のような別の薬剤で標的にすることにより
癌の治療に大きな影響を与えられるかもしれない

「これらのデータは膵臓癌におけるCDK阻害剤とシグナル伝達経路、そして腫瘍の代謝という三者間のクロストークに対する新たな価値ある洞察をもたらし、興味深い新たな治療の可能性を開く
それは臨床試験で評価することが可能だろう」
Witkiewicz博士は言う

「真の目的はこの研究が、そしてもちろん現在進行中の研究全てが、膵臓癌の患者に役立つということである」


http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2015.12.094
Metabolic Reprogramming of Pancreatic Cancer Mediated by CDK4/6 Inhibition Elicits Unique Vulnerabilities.
CDK4/6阻害によって仲介される膵臓癌の代謝的な再プログラムは独特な脆弱性を引き出す



Highlights
・CDK4/6阻害は、RB経路を通じて酸化的リン酸化を増大する
・CDK4/6阻害の下流で、mTORの補償的な活性化が起きる
・組み合わせ療法は細胞代謝に対してまったく異なる種類の効果をもたらす
・CDK4/6で停止した細胞の特徴を治療として選択的に標的化することは合理的である
Therapeutically targeting select features of CDK4/6 arrested cells is feasible


Summary
膵管腺癌/pancreatic ductal adenocarcinoma (PDA) ではp16ink4aが失われているため、薬理学的にCDK4/6を阻害することは強力な治療標的の代表となりうる

PDAモデルにおいてCDK4/6阻害は細胞周期に対して可変性variableの影響を与えたが、ATPとミトコンドリアの蓄積を生じた

薬理学的なCDK4/6阻害剤はサイクリンD1タンパク質レベルを誘導したが、それにはRB活性化が必要であり、RB活性化はミトコンドリア蓄積に十分だった

CDK4/6阻害は解糖的glycolytic・酸化的oxidativeな代謝を刺激し、mTORC1活性の増大と関連した

MTOR阻害剤とMEK阻害剤は、強力にCDK4/6阻害と協力して細胞周期脱出exitを誘発elicitした

しかしながら、異種移植モデルにおいてMTOR阻害は完全に代謝を抑制し、アポトーシスさせて腫瘍増殖を抑制した


CDK4/6阻害によって仲介される代謝状態は、ミトコンドリア数を増やして活性酸素種/reactive oxygen species (ROS) を増大させる

それらと一致して、ROSの捕捉の抑制/suppression of ROS scavengingまたはBCL2アンタゴニストは、CDK4/6阻害と協力して作用した

※ROS scavenger: ROSの捕捉。ROSの捕捉を抑制して、ROSを増大させる

合わせて考えると、これらのデータはCDK4/6阻害剤治療のPDA代謝に対する効果を明らかにし、細胞分裂抑制cytostaticを腫瘍細胞殺傷killingへと変化させるための戦略をもたらす
 

EBV感染により老化が引き起こされるスイッチ

2016-01-25 06:06:20 | 
Disrupting cell's supply chain freezes cancer virus

Drug shows promise for controlling Epstein-Barr virus

January 19, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160119153504.htm


(緑の蛍光染色は、リンパ芽球状の細胞表面上のグルコーストランスポーターGLUT1を示す
リンパ芽球状細胞はエプスタイン-バー・ウイルス感染によって引き起こされるリンパ腫形成に進行する
このウイルスはその感染経路を持続させるためにグルコースへの需要を増大させ、細胞を乗っ取ることによりGLUT1を表出させる

Credit: Amy Hafez, Duke University)

エプスタイン-バー・ウイルス/Epstein-Barr Virus(EBV)が免疫系のB細胞に入り込むとウイルスはB細胞をだまして急速に細胞自身のコピーを作らせ、増殖したB細胞はそれぞれウイルスを運ぶことになる
急速に増える細胞は、増殖のための材料building partsを大量に必要とする
その需要を満たすためにB細胞は自分自身の中身を食いつぶしchew up、アミノ酸や脂質、ヌクレオチドをバラバラにして解放するfree up

しかし、もし材料materialsの供給が低下するとrun low、
B細胞は『老化senescence』という休止状態になって細胞分裂は止まり、
ウイルスの進行を停止させることがデューク大学の研究チームによって明らかになった


EBVがヒトにがんを引き起こすウイルスであることが初めて示された時から、その存在は研究者を長い間悩ませ続けた
EBVは世界中の成人の90%に感染しているが、ウイルスが引き起こすリンパ腫や他のがんによって死ぬのはほんのわずかに過ぎない

デューク大学医学部で分子遺伝学と微生物学の准教授associate professorであり、
デューク大学ウイルス学センターの副所長deputy directorでもある筆頭著者のMicah Luftigは、
答えの大部分は人体の免疫系にあると言う

健康な免疫系はあらかたEBウイルスの進行を止めるとLuftigは言う
事実、EBVと関連する癌の多くはほとんどがウイルスを排除する能力が低下した免疫不全の患者で発見される
しかし、今回新しく発見された『老化のトリガー/senescence trigger』はもう一つの別の答えであるかもしれないとLuftigは言う


個々の細胞がどのような成熟状態にあるのかを調べることが可能となる新しい技術を使い、
研究チームは細胞ごとにfrom one cell to the nextウイルス遺伝子の活性の変化を調査した

その結果、EBVは細胞の燃料源fuel sourceを切り替えることが可能であり、
細胞が材料を供給しようと細胞自身の内部を食いつぶした時でさえ、細胞分裂を続けられることが判明した


そこで、研究チームはラパマイシンという薬剤を使いB細胞が「自分は飢えている」と感じさせようとした
この戦略はうまくいき、EBVに感染した細胞の老化のオンとオフを切り替えることに成功した


この研究の次の段階では、ヒトの免疫系を持つマウスを開発するノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究者が参加するだろう
EBVに感染したマウスで研究者は様々な薬剤をテストし、老化の応答を引き起こして制御可能かどうかを調べるつもりだとLuftigは言う


http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1517141113
Metabolic Stress is a Barrier to Epstein-Barr Virus-mediated B-cell Immortalization.
代謝ストレスは、エプスタイン-バー・ウイルスを介するB細胞不死化への障壁である


Significance
エプスタイン-バー・ウイルス/Epstein-Barr Virus(EBV)はヒトに腫瘍を引き起こすことが判明した初めてのウイルスである
ほぼすべての成人がEBVに感染しているが、癌に進行することはほとんどない
その理由を我々はやっと理解し始めたに過ぎない

EBV感染は非常に急速な細胞分裂を一定期間誘発するが、それにはヌクレオチド、アミノ酸、脂質のような代謝産物の供給の増大が必要である
この増大する代謝的な需要を満たすことができないEBV感染細胞は強制的に増殖が止められ、『老化senescence』という永久的な増殖の停止状態に入ることを我々は発見した


Abstract
EBVは発癌性のヘルペスウイルスであり、B細胞リンパ腫や上皮悪性腫瘍の発症の原因として関連付けられている

感染後早くにEBVは一時的に急速な増殖を誘発するが、DNA損傷応答damage responseの活性化ならびにG1/S期増殖停止により増殖は抑制される
この増殖停止により感染細胞のほとんどは長期の成長が阻止される

我々はこの早期の突発的に増殖した後の感染細胞を単離して特徴付けをする方法を開発し、
B細胞の不死化immortalizationを弱める経路をより理解するために遺伝子発現と代謝的プロファイリングを統合した

分析の結果、増殖が停止した細胞はミトコンドリア呼吸レベルが低下し、
TCA回路/クエン酸回路ならびに酸化的リン酸化/oxidative phosphorylationに関与する遺伝子の発現が低下することが判明した
事実、感染早期の細胞における増殖停止は、TCA回路を補うことにより回復した

停止細胞はp53経路の遺伝子標的の発現が増加しているのが特徴であり、この発現増加にはセストリンが含まれていた
セストリンの増加はAMPK活性化につながり、mTORシグナル伝達が低下し、結果として細胞の生存に重要なオートファジーが上昇した

[老化したEBV感染細胞]
 ミトコンドリア呼吸↓,TCA回路↓,酸化的リン酸化↓
 p53↑→セストリン↑→AMPK↑─┤mTORシグナル伝達↓─┤オートファジー↑↑

オートファジーは、代謝的なストレスの間の感染早期の過剰増殖を維持するためにも重要である


最後に、感染早期から長期成長への代謝的な変化を評価したところ、
それにはグルコース取り込みならびに細胞表面のGLUT1レベルの増大が伴い、
この増大が解糖系と酸化的リン酸化の上昇、基礎オートファジーbasal autophagyの抑制につながることが明らかになった

[老化しないEBV感染細胞]
 GLUT1↑→グルコース取り込み↑→解糖系↑,ミトコンドリア酸化的リン酸化↑,(AMPK↓,mTORシグナル伝達↑),オートファジー↓

我々の研究は
癌遺伝子によって誘発される老化が
代謝的ストレスmetabolic stressならびに遺伝毒性ストレスgenotoxic stressの組み合わせによって引き起こされ、
この老化はEBVを介する形質転換transformationに対する内因性の障壁として作用することを実証する


<コメント>
「ミトコンドリアを活発にすれば癌が治る」

『すべての癌』が治るのか?




関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/25975f05fc419689d413391e2d74ee6d
強制的に癌細胞にミトコンドリアを使わせるためには、ミトコンドリアピルビン酸担体/Mitochondrial Pyruvate Carrier(MPC)が機能しているかどうかを調べる必要がある
研究者が癌細胞の細胞質にピルビン酸を増加させた結果、正常なMPCの活性は回復した。このことは担体の異常ではなく『燃料の不足』がプロセスに影響することを示す



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/48c84908b3281faadd5097f99215b450
開発中の抗癌剤のFY26はミトコンドリアを強制的に癌細胞に使わせ、その作用はシスプラチンの49倍強力である



関連論文
http://dx.doi.org/10.1091/mbc.E15-05-0318
分裂酵母においてS期初めの複製ストレスは明らかな小核の形成ならびに染色体再編成につながる

http://dx.doi.org/10.1038/nature16139
複製ストレスが有糸分裂でのDNA修復合成を活性化する

http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2011.03.044
ヌクレオチド不足は初期ステージの癌増殖においてゲノム不安定性を促進する
Rb-E2F活性化は複製ストレスにつながり、DNAの傷害と形質転換を引き起こす

 

コレステロールとヒスタミンから自然に作られる抗癌剤

2016-01-24 06:06:16 | 癌の治療法
From tamoxifen to dendrogenin A: Discovery of a mammalian tumor suppressor metabolite

First comprehensive review on dendrogenin A

January 16, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160116214912.htm


(デンドロジェニンAは腫瘍抑制性の代謝産物である)

トゥールーズがん研究センターの研究者はデンドロジェニンA/dendrogenin A(DDA)についての包括的なレビューを初めて実施した
デンドロジェニンAはコレステロールとヒスタミンが代謝され結合cross-metabolizationしたステロイド系アルカロイド/steroidal alkaloidであり、重要なことにデンドロジェニンAは腫瘍を抑制する代謝産物である
デンドロジェニンAの発見は広範囲の基礎研究や臨床開発にとって有望なものとなるが、そのような例はヒトの代謝産物としてはまれであり、100年前のオールトランスレチノイン酸の発見以来である

査読者を招待して査読される(invited, peer-reviewed)Current Medicinal Chemistry誌で最近発表された「自然に生じる新たな抗がん剤/Novel anticancer drugs from nature」という論文で
トゥールーズのSandrine Silvente-Poirotたちは論理的根拠rationalを元に計画を考え出してデザインし、デンドロジェニンAを発見してその薬理学的な性質を説明した


彼らは最近、コレステロール代謝に関与する酵素の『コレステロール-5,6-エポキシドヒドロラーゼ/cholesterol-5,6-epoxide hydrolase』が、抗腫瘍剤タモキシフェンtamoxifenの標的であることを明らかにした

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20615952
"Identification and pharmacological characterization of cholesterol-5,6-epoxide hydrolase as a target for tamoxifen and AEBS ligands."


彼らは、コレステロールが酸化されて自然に生じる『5,6α-エポキシコレステロール/5,6α-epoxycholesterol (5,6α-EC) 』が代謝によって変換される新たな代謝経路が存在する可能性を仮定した

5,6α-ECとヒスタミンの結合の産物が合成されてデンドロジェニンA(DDA)が生じ、デンドロジェニンAは低用量で細胞の分化を誘導する能力を強く示した
低用量で作用するということは内因性の代謝産物として存在しうる可能性を示唆する


さらに、腫瘍ではデンドロジェニンAのレベルが非常に低下していることが明らかになり、癌ではデンドロジェニンAの代謝の調節が失われていることが示唆された
マウスに異種移植された腫瘍におけるデンドロジェニンAの欠乏を補うと、低用量で強力な抗癌作用を誘導した
これは細胞の完全性の分化と維持においてデンドロジェニンAが生理的な機能を果たしていることを示唆する

デンドロジェニンAは今までのところ哺乳類で発見された初めてのステロイド系アルカロイドである
この発見により、コレステロールとヒスタミン代謝の交わる場所にある哺乳類の新たな代謝経路の存在が明らかにされた
この経路は代謝により生じる腫瘍抑制因子の産生につながる


http://dx.doi.org/10.2174/0929867322666150716114912
Dendrogenin A: A Mammalian Metabolite of Cholesterol with Tumor Suppressor and Neurostimulating Properties.

Abstract
哺乳類の『コレステロール-5,6-エポキシドヒドロラーゼ/cholesterol-5,6-epoxide hydrolase(ChEH)』は、
発達プログラムを制御する2つのコレステロール産生酵素cholesterogenic enzymeのヘテロ重合複合体/heterooligomeric complexである

この複合体を同定した後、
5,6α-エポキシコレステロール/5,6α-epoxycholesterol (5,6α-EC) を中心とする新たな代謝経路の存在が仮定された

ChEHと相互作用することが知られている生体アミンbiogenic amineと、5,6-ECとが結合した産物が合成された

※生体アミン: アミノ酸が脱炭酸されて生じるアミン。例として「チロシン→アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン」「ヒスチジン→ヒスタミン」「トリプトファン→セロトニン」など

その構造に従ってaccording to their structures、
これらのステロイド系アルカロイドは低用量で細胞分化を誘導するという特殊な効能specific potencyを示した
このことはそれらが代謝産物として存在する可能性を示唆している


これらの化合物の一つであるデンドロジェニンA/dendrogenin A(DDA)は、最近哺乳類の組織中に発見された

デンドロジェニンAは酵素による立体選択的stereoselectiveな 5,6α-エポキシコレステロールとヒスタミンの結合conjugationから生じるが、
その酵素は今までのところ同定されていないas-yet-unidentified


デンドロジェニンAは複数の正常な臓器の組織から検出されたが癌細胞からは検出されず、
そのレベルは乳癌患者の腫瘍で低下していた
これは発癌におけるデンドロジェニンA代謝の調節異常を証明する

また、デンドロジェニンAはマウスにインプラントされた腫瘍細胞の増殖を制御し、その生存を改善することが可能である
加えて、デンドロジェニンAは難聴deafnessの前臨床モデルにおいて聴覚を回復した
デンドロジェニンAのこれらの生物学的な性質とその腫瘍でのレベル低下は、デンドロジェニンAが細胞の完全性と分化の維持において生理的機能を果たすことを示唆する


デンドロジェニンAはこれまでのところ哺乳類で見つかった初めてのステロイド系アルカロイドである
この発見は、コレステロールとヒスタミン代謝の交わるところに存在する新たな哺乳類の代謝経路の存在を明らかにする
その経路から腫瘍抑制因子や神経保護薬が代謝的に作られる


関連論文
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23673625
Dendrogenin A arises from cholesterol and histamine metabolism and shows cell differentiation and anti-tumour properties.
デンドロジェニンAはコレステロールとヒスタミンの代謝から生じ、細胞分化と抗腫瘍性を示す

Abstract
我々は以前デンドロジェニンAを合成し、それが哺乳類において自然に生じる代謝産物でありうると仮定した
デンドロジェニンAはコレステロールエポキシドヒドロラーゼ/cholesterol epoxide hydrolaseを選択的に阻害する
デンドロジェニンAは腫瘍の再分化を引き起こしてマウスの腫瘍増殖を制御し、マウスの生存を改善した


<コメント>
アレルギーとがんの関連



関連サイト
http://www.nutritio.net/linkdediet/news/FMPro?-db=NEWS.fp5&-Format=detail.htm&kibanID=43833&-lay=lay&-Find
ヒスタミンは骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)の活性化・生存・増殖を誘導し、免疫系を抑制して腫瘍の増殖を促進する。
また、MDSCは肥満細胞に向かって移動する傾向があるため、肝臓や腫瘍などの炎症部位にMDSCが移動する助けとなる。
 

FGF21は加齢による免疫系の低下から保護する

2016-01-23 06:06:49 | 免疫
Life-extending hormone bolsters the body's immune function

January 12, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160112093545.htm

イェール大学医学大学院/Yale School of Medicineの新たな研究によると、マウスの寿命を40%延長するホルモンが胸腺thymus glandの特殊化した上皮細胞から作られることが明らかになった
また、研究チームはこのFGF21というホルモンが加齢による胸腺の免疫系機能喪失から保護することも発見した
PNASオンライン版で1月11日に発表された今回の研究は、高齢者や肥満、癌や2型糖尿病のような人々の免疫系の改善につながる可能性がある


正常に機能する胸腺thymusでは新しいT細胞が作られて免疫系に寄与しているが、年とともに胸腺は脂肪で置き換えられ、新たなT細胞を作る能力を失う
この新しいT細胞が作られなくなるというのは、高齢者での感染症やある種の癌のリスクが上昇する原因の一つである

比較医学(獣医学と医学との間の類似性などについて研究する分野)と免疫学のVishwa Deep Dixit教授を中心とする研究チームはFGF21レベルが上昇するトランスジェニックマウスを研究し、遺伝子機能をノックアウトしてFGF21レベルの低下が免疫系に与える影響を調べた
その結果、年老いたマウスにおけるFGF21レベルの上昇は加齢と関連する脂肪性の変性fatty degenerationから胸腺を保護し、新しいT細胞を作る胸腺の能力を増大させた一方で、FGF21の欠乏は年老いたマウスの胸腺の変性を加速した

「我々は胸腺上皮細胞におけるFGF21レベルが肝臓より数倍高いことを発見した
したがって、FGF21は胸腺内部で働いてT細胞産生を促進する」
Dixit教授は言う

「中高年elderlyまたは骨髄移植を受ける癌患者でのFGF21レベル上昇は、
T細胞産生を増やして免疫系を強めるbolsterための補助的additionalな戦略であるかもしれない」


Dixitはさらに、FGF21が内分泌ホルモンとして肝臓で作られ、そのレベルはカロリー制限により増大し、グルコースレベルが低い時に脂肪を燃焼させるという
FGF21は代謝ホルモンであり、インスリン感受性を改善し、体重を減少させることから、2型糖尿病と肥満の治療効果に関して研究されている

Dixitはこれからの研究でFGF21がどのようにして胸腺を加齢から保護するのかについて焦点を当てるつもりだという
FGF21の上昇が薬理学的にヒトの寿命を延長できるのかどうか、加齢と関連する免疫機能の喪失によって引き起こされる疾患の発症を抑制できるのかといった研究もしていきたいとしている

Dixitは「実際にカロリー摂取を減らすことなく免疫機能を促進するため、カロリー制限を『真似る』方法の開発も調べるつもりだ」という


http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1514511113
Prolongevity hormone FGF21 protects against immune senescence by delaying age-related thymic involution.



関連記事
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/12/151225141547.htm
砂糖を摂取するとマウスの肝臓でFGF21が作られて血中に放出され、視床下部に作用して砂糖への欲求が抑制される

http://dx.doi.org/10.1016/j.cmet.2015.12.003
http://www.cell.com/cell-metabolism/abstract/S1550-4131(15)00618-X
FGF21 Mediates Endocrine Control of Simple Sugar Intake and Sweet Taste Preference by the Liver.
FGF21は単糖の摂取と甘味の好みの肝臓による制御を仲介する
 



関連記事
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141023142053.htm
FGF21は副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン/corticotropin-releasing factor(CRF)を活性化させ、交感神経を介して褐色脂肪細胞の熱産生を増大させるので痩せる

http://dx.doi.org/10.1016/j.cmet.2014.07.012
FGF21 Acts Centrally to Induce Sympathetic Nerve Activity, Energy Expenditure, and Weight Loss




関連サイト
http://dx.doi.org/10.1016/j.cmet.2013.03.019
FGF21はげっ歯類のアディポネクチンの分泌を促進するが、肥満げっ歯類のセラミドの分泌は抑制する





関連サイト
http://syodokukai.exblog.jp/15176124
In vivoでのFGF21作用メカニズム
これらの統一的なメカニズムは明らかではないが、いくつかの仮説が報告されている。
FGF21の肝臓におけるインスリン抵抗性改善作用や脂肪組織におけるlipolytic/脂肪分解活性によるFFA低下作用、FGF21投与によるエネルギー消費亢進、などがそれである。
FGF21を投与すると視床下部に作用して、アグーチ関連ペプチド/Agouti-related peptide(AgRP)や神経ペプチドY/neuropeptide Y(NPY)産生が増加するという報告もある。
 

肝細胞癌の種はミトコンドリアを再プログラムする

2016-01-22 06:06:32 | 
Scientists root out 'bad seeds' of liver cancer

Researchers have discovered the Achilles heel of hepatocellular carcinoma, the third-deadliest cancer

January 6, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160106215531.htm


(化学療法はほとんどの癌細胞を殺すが、幹細胞が生き残り…、化学療法に抵抗する新たな腫瘍の種をまく)

南カリフォルニア大学の研究者は、肝臓癌の『悪い種/bad seeds』を発見した
研究者はそれらを再プログラムすることにより、癌が治療に反応し続けるようにできるかもしれないと考えている


増殖によって肝臓の腫瘍を生じる癌幹細胞は、化学療法に抵抗性である
南カリフォルニア大学ケック医学部の分子微生物学と免疫学の准教授/associate professorで首席著者のKeigo Machidaによると、
そのような幹細胞を妨害するための鍵はNANOGという幹細胞マーカーを標的にすることであるという

NANOGは早期ステージの癌では欠乏scarceしているが、ステージIIIの肝臓癌では豊富aboundである
NANOGは細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの代謝を配線し直すことにより癌の転移を促進する

「我々は癌治療におけるアキレス腱を同定した」
Machidaは言う

「癌には『悪い種』が存在し、化学療法で治療してもそれらの悪い種が生き残って再発させる
我々が再発の問題と転移を根絶するために癌の悪い種を標的にしたいというのは、そのような理由である」

彼らの研究は1月12日号のCell Metabolism誌で発表される予定である


抵抗性を排除する
Eliminating resistance

研究では患者に由来する幹細胞と何百もの肝腫瘍モデルマウスを用いた
研究者はこれが幹細胞マーカーであるNANOGによる発癌性の経路を同定した初めての科学的な論文であり、ソラフェニブへの抵抗性を排除するための標的としてNANOGを据えるものだと考えている
ソラフェニブは肝臓癌の患者に最も一般的に利用される化学療法である

※ソラフェニブ/sorafenib: 複数のキナーゼを阻害する抗悪性腫瘍剤。C-Raf、B-Raf、FLT-3、c-KIT、VEGF受容体、PDGF受容体などのチロシンキナーゼ活性を阻害する

肝臓癌は増加しつつあり、国立癌研究所によると2015年には推定で24550人が亡くなったという
肝臓癌と診断された人で5年以上生き残るのはわずか17.2%である


癌治療の新たな標的
A new cancer treatment target

USCのエピゲノムセンターでバイオインフォマティクスの第一人者であり論文の共著者のVasu Punjによると、NANOGがどのようにして幹細胞を再プログラムするのかを知るために彼らは肝臓のタンパク質、mRNA、細胞の代謝を調べたという

「癌のミトコンドリア代謝を標的とする治療は、個別化された新たな治療戦略の開発に向けた有望な領域として徐々に認識されてきている」
Punjは言う

「もしミトコンドリアの酸化的リン酸化 - 脂肪酸酸化への細胞の応答を低下させると、NANOGは癌の進行を促進できないだろう
これにより研究者は全く新しい治療戦略を開発することが可能になる」


NANOGは何をしているのか
What NANOG does

NANOGは『ミトコンドリアの代謝経路』を形成する遺伝子の発現を制御する
ミトコンドリアの代謝経路は、腫瘍へと変化turn intoする幹細胞にとってのエネルギー源である
NANOGは細胞を再プログラムして、燃料としてグルコースの代わりに脂肪酸を使うように命令する

「もしこの代替経路alternative pathwayを止めれば、肝臓癌は再び化学療法に感受性になるだろう」
Machidaは言う

「将来、我々は肝臓癌の患者に、NANOGを標的とする治療を血流に注入する注射ができるようになるだろう
血流が循環するところならどこにでも、新しい『指示instructions』を癌の悪い種に送り届けることができる」


http://dx.doi.org/10.1016/j.cmet.2015.12.004
NANOG Metabolically Reprograms Tumor-Initiating Stem-like Cells through Tumorigenic Changes in Oxidative Phosphorylation and Fatty Acid Metabolism.
NANOGは酸化的リン酸化ならびに脂肪酸代謝の発癌性の変化を通じて腫瘍始原-幹細胞様細胞を代謝的に再プログラムする


Highlights
・幹細胞マーカーのNANOGは、TLR4-E2F1経路によって活性化される
・NANOG ChIP-seqにより、酸化的リン酸化/OXPHOSと脂肪酸酸化/FAOに関与する標的遺伝子を同定する
・Nanogは、腫瘍始原-幹細胞様細胞/tumor-initiating stem-like cell(TIC)における酸化的リン酸化ならびにミトコンドリアの活性酸素種/ROSを抑制する
・酸化的リン酸化の回復と脂肪酸酸化の阻害は、TICの薬剤への感受性を回復させる

ChIP-seq: クロマチン免疫沈降法/chromatin immunoprecipitation(ChIP)と次世代シーケンシング(next generation sequencing)を組み合わせた分析


Summary
NANOGを含む幹細胞マーカーは様々な癌に関与するが、NANOGがどのようにして機能的に癌へ寄与するのかは不明である

今回我々は、NANOGがTLR4シグナル伝達によりE2F1のリン酸化を経て誘導されることを示す
Nanogの下方調節は、アルコール・西洋食ならびにC型肝炎ウイルスによってマウスに誘発される肝細胞癌/hepatocellular carcinoma (HCC) の進行を抑制する

NANOG ChIP-seq分析により、NANOGがミトコンドリアの代謝経路に関与する遺伝子の発現を調節することを明らかにする
この代謝経路は、腫瘍始原-幹細胞様細胞/tumor-initiating stem-like cell(TIC)を維持するために必要である

NANOGはミトコンドリアの酸化的リン酸化/oxidative phosphorylation (OXPHOS) の遺伝子を抑制し、活性酸素種/ROSの産生も抑制する
加えて脂肪酸酸化/fatty acid oxidation (FAO) を活性化して、TICの自己再生self-renewalと薬剤抵抗性を支える

 肥満,アルコール(LPS),ウイルス→TLR4→pE2F1→NANOG─(酸化的リン酸化↓,ROS↓,pAMPK,脂肪酸酸化↑)→TIC自己再生,薬剤抵抗性

酸化的リン酸化の活性を回復してFAOを阻害することにより、HCCへの標準治療の化学療法薬であるソラフェニブに対するTICの感受性は回復する

この研究はNANOGを介してTICが生成され、腫瘍発生tumorigenesisと化学療法への抵抗性が生じるメカニズムへの洞察を提供する
それはミトコンドリア代謝の再プログラムを通して起きる


<コメント>
脂肪酸の酸化は増やすが、酸化的リン酸化/ROSは抑制する



関連サイト
http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2012.07.029
β細胞量の喪失はβ細胞の細胞死ではなく脱分化によることが系統追跡実験で実証された
脱分化したβ細胞は前駆体様の細胞に逆戻りし、その細胞はニューロジェニン3, Oct4, Nanog, L-Mycを発現していた

 

肥満と結腸癌リスクの関連が明らかにされる

2016-01-21 06:09:46 | 
Link between obesity, increased risk of colorectal cancer revealed

January 15, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160115084806.htm

これまで肥満は結腸癌リスクの増大と関連付けられてきたが、その関係の意味はよくわかっていない
トマスジェファーソン大学を中心とする研究チームはその生物学的な関連を明らかにした上で、
既に承認されている薬剤が癌の発症を防ぐことを研究の過程で突き止めた

Cancer Research誌で発表された研究では、マウスに高カロリーの食事を与えると腸で重要なホルモンの発現が低下し、腫瘍を抑制する経路の活性が失われることが明らかになった
そのホルモンを遺伝子操作により元に戻すと腫瘍抑制経路も再び活性化して、マウスが過剰にカロリーを取り続けた時でさえ癌の発症は防がれた

トマスジェファーソン大学シドニーキンメル医学部/Sidney Kimmel Medical Collegeで薬理学部と実験治療学の教授Chairであり論文の首席著者であるScott Waldman, M.D. Ph.D.によると、
これらの発見はリナクロチド/linaclotide (Linzess)という薬を肥満の患者の結腸直腸癌を予防する治療アプローチとして利用可能にするという
リナクロチドはこの高カロリー食で失われるホルモンと構造的に関連があるからである

※リナクロチド/linaclotide: C型グアニル酸シクラーゼ/guanylate cyclase type-C(GC-C)のアゴニスト

※グアニル酸シクラーゼ: GTPからcGMPとピロリン酸を生成する。細胞外のシグナルや細胞内の一酸化窒素によって活性化される

2012年、アメリカFDAはリナクロチドを便秘を伴う過敏腸症候群/irritable bowel syndrome(IBS)ならびに慢性特発性の(慢性的かつ原因不明の)便秘の治療薬として承認している

「我々の研究は肥満の人々の結腸直腸癌がホルモンの置き換え療法により阻止できることを示唆する
それはホルモン喪失と関連する他の疾患、例えば糖尿病がインスリンで治療可能であるのと同様である」
Waldman博士は言う


「今回の発見は意外なものだった
我々も含めて世界中の研究者は『肥満と結腸直腸癌の発症とのもつれた関連』を解きほぐそうとしてきた/trying to disentangle」

「カロリーは肥満と結腸直腸癌という病態の中心に位置しているが、
では具体的にカロリーが何をしているのかという疑問は癌の研究において最も複雑かつ刺激的な問いだった」

「我々は今や肥満の人々の(おそらくそうでない人々でも)結腸直腸癌の源についての大きな手がかりを得た」
サミュエルMVハミルトン教授職/Samuel MV Hamilton ProfessorでもあるWaldman博士は言う

肥満の人々の結腸直腸癌リスクは、痩せている人々と比較して約50%高い
これまでの科学者たちの考えでは、問題は脂肪組織の量とそれに関連する未知の代謝プロセスが根底にあり、過剰なカロリーが細胞にエネルギーを供給して増殖を刺激するthat fuel cell energy and growthことだとされていた
しかし今回の研究でそれは事実ではないことが明らかになったとWaldman博士は言う

Waldman博士は既に複数施設での臨床試験に参加involvedし、健康なボランティアでリナクロチドの用量と副作用をテストしている
この試験には国立癌研究所、メイヨークリニック、フォックスチェイスがんセンターの研究者が参加participateしている

ハーバードとデュークメディカルスクールの研究者もチームに参加した今回の研究では、遺伝子工学で操作したマウスを使い、様々な食餌を与えて実験を実施した
研究の結果、マウスの肥満はグアニリン/guanylinという腸上皮で作られるホルモンの喪失と関連することが明らかにされた
グアニリンは、受容体のグアニリルシクラーゼC/guanylyl cyclase C (GUCY2C)=グアニル酸シクラーゼ結合C型受容体を活性化して、腸上皮の再生の根底にあるプロセスを調節する

※グアニリン: 15のアミノ酸(SHTCEICAFAACAGC)からなるペプチドホルモン

「腸の上皮は非常に動的で、絶え間なく置き換えられている
GUCY2Cはこの上皮再生に必要とされる重要なプロセスの振り付け/演出構成choreographyに寄与する」


グアニリン遺伝子の不活化はヒトの結腸癌でも動物モデルでも一般的であり、病的morbidlyに肥満の患者は痩せている人と比較してグアニリン遺伝子発現が80%の低下を示すという

研究では喪失の結果として何が起きるのかも明らかになった
グアニリンの受容体は増殖を制御する腫瘍抑制因子として働いており、グアニリンが失われるとその受容体も沈黙した

「これは癌の発症で極めて早くに起きる」
Waldman博士は言う
「受容体が沈黙すると、腸の上皮は機能しなくなり、癌が発症できる状態にする」

彼らはグアニリン遺伝子が阻害されないようにした導入遺伝子transgeneを持つマウスを作成して研究結果をチェックした

「カロリー過剰な状況でさえ、食餌の源が何であれ、腫瘍は発症しなかった」


実験では、肥満のマウスは痩せたマウスと比較してホルモン(グアニリン)とその受容体(グアニル酸シクラーゼ結合C型受容体)を沈黙silenceさせる可能性が高いことが実証された

「結腸直腸癌が発症しようとする時、この沈黙メカニズム/silencing mechanismを通して生じるのだろうと我々は考えている
そしてこれは肥満の人ではより頻繁に起きるだろう」

そのようにWaldmanは言うが、たとえそうでもeven so、ホルモン産生を停止させる正確な分子メカニズムはいまだ不明である

「我々の研究結果の利点は、肥満のマウスではグアニリンホルモンが失われる一方で、その受容体はスイッチを入れられるのをそこでただ待っているということである
加えて、もしホルモンの喪失を阻止できれば腫瘍の発症も防げることを研究は実証する
これらの結果が示唆するのは、リナクロチドのような薬剤がグアニリンのように働いて腫瘍抑制受容体のGUCY2Cを活性化し、
肥満患者の癌を予防するということである」


また、研究者は過剰なカロリー消費の影響がカロリー制限によって無効化reversedされ、それは肥満マウスでさえ同様であることを示した

「ライフスタイルを修正しようという挑戦がされてきたが、やはりnotwithstanding、
カロリー制限がグアニリン発現を復元reconstituteできることを我々の観察は示唆する
これは肥満の人の結腸癌を防ぐための効果的な戦略になるかもしれない」


http://dx.doi.org/10.1158/0008-5472.CAN-15-1467-T
Obesity-Induced Colorectal Cancer Is Driven by Caloric Silencing of the Guanylin-GUCY2C Paracrine Signaling Axis.
肥満により誘発される結腸直腸癌は、グアニリン-GUCY2Cパラクラインシグナル伝達軸のカロリー的なサイレンシングによって駆動される

Abstract
機構的な調査により、肥満は腸上皮細胞において可逆的にカロリー依存的なERストレスならびに小胞体ストレス応答/Unfolded Protein Response(UPR)を誘導して
グアニリン発現をサイレンシングすることが明らかになった

 高カロリー食─(ERストレス/UPR)─┤グアニリン/リナクロチド→グアニル酸シクラーゼ─┤腫瘍



関連記事
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141010083733.htm
研究者が結腸癌のそれぞれの腫瘍細胞に含まれるグアニリンのmRNAの数を計測したところ、その85%以上で100倍から1000倍低下していた
この結果を確認すべく組織サンプルのスライスでグアニリンを着色したところ、癌のサンプルからはグアニリンはまったく検出されなかった

グアニリンの受容体はGUCY2C(発音は/pronounced "goosy toosy")で、GUCY2Cシグナルは腸管の上皮のターンオーバー(3日で入れ替わる)に重要
結腸癌の多くはグアニリンの消失に応じて受容体のGUCY2Cを過剰発現している
50歳を過ぎると、正常な人でもグアニリンの産生は減少する
 

癌にとって重要な遺伝子変化のネットワークを分析する

2016-01-18 06:06:36 | 
Breast cancer study suggests new potential drug targets and combinations

January 14, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160114162542.htm

これまで判明してきた乳癌細胞の機能を大規模に分析することにより、
既存の薬剤の新たな利用法や、薬剤発見の新しい標的、新しい薬剤の組み合わせが数多く示唆された

著者たちは他のタイプの癌における新たな薬剤候補を明らかにしたり、癌細胞が治療に抵抗するメカニズムを特定するために
1月14日にCellのオンライン版で発表された今回の研究結果に世界中のラボが飛びつくseize onだろうと言う

ニューヨーク大学のランゴンメディカルセンター/NYU Langone Medical Centerとローラ・アイザック・パールマターがんセンター/Laura and Isaac Perlmutter Cancer Center、カナダ・トロントのプリンセスマーガレットがんセンターの研究者を中心とする研究チームは、
以前の研究よりも多くのタイプの乳癌の遺伝子の分析、新たな統計学的手法、分子シグネチャーならびに抗癌剤の効果のデータベースとの比較、を組み合わせることにより結論に達した

「この研究は、乳癌細胞における遺伝子の変化がどのようにして増殖と生存に重要な経路に干渉するのかについてのこれまでの最大の研究を代表する
その経路は既存の薬または新しい薬の組み合わせで標的にできる可能性がある」
筆頭著者のBenjamin Neel, MD, PhD.は言う

「癌細胞の遺伝子変化の入り組んだ関係websを、癌細胞が依存する複雑な機能へと関連付けることが以前の方法では不可能だった
我々の新しい統計学的アプローチはそれを改善することを示す」

以前のアルゴリズムとは異なり、新しい統計学モデルは
特定の乳癌サブタイプにとって必須であることが既知の遺伝子を複数同定することが可能である(例えばHER2、エストロゲン受容体/ER, HER3など)

検出と治療の改善は乳癌の5年生存率を85%以上に引き上げたが、罹患者の半数は未だに疾患で亡くなる
現在の治療法は単一の疾患メカニズムに対処しようとするものであり、そのどんな治療法に直面しても癌細胞の分子的変化の複雑なネットワークがほとんどを生存させ続けることを可能にする
これまで治療が限定的な成功しか収めてこなかったのは、そのようなネットワークについての理解不足を反映している


新たに発見されたパターンがこれからの治療の改善を刺激する
Newfound Patterns to Drive Future Treatment

長年の間、世界中のラボが乳癌に寄与する多くの遺伝子の変化を同定するために大規模なゲノム研究を実施してきた
そのような研究は癌の様々なタイプとサブタイプにおいて遺伝子の変化が見られるという情報をもたらしてきたものの、
それらの変化のどれが癌細胞の増殖や生存にとって重要なのか、その変化がどのようにして治療に利用されるのかを決定することにはあまり成功してきていない

ゲノム研究を補うために近年多くのラボがスモールヘアピンRNAの『ドロップアウト・スクリーニング/dropout screens』を利用している
これは癌細胞の遺伝子を一つ一つそれぞれ妨げることにより、どの遺伝子が最も生存に重要かを調べるというものである
しかしながら、最も最近の研究でも、乳癌全体を通して見られる様々な変化のランドスケープlandscapeを捉えるために十分な細胞系統を調べていない

今回の研究では77の乳癌細胞系統でのshRNAスクリーニングを実施した
これは乳癌の多くのサブタイプを表すのに十分大きなサンプルである

研究チームは新たにデザインした統計学的技術であるsi/shRNA Mixed-Effect Model (siMEM) を適用して、
細胞系統の遺伝子ノックダウンの研究結果をスコア付けし、癌の増殖にとって最も重要な候補遺伝子を同定した
また、彼らはその結果を
薬剤が有効である時とそうでない時に癌細胞で見られる、癌遺伝学、タンパク質相互作用、遺伝子の変化の大規模なデータベース情報と比較した

このように方法を組み合わせることで
癌細胞の性質に影響するよう密接に結びついたデータにおける新たなシグナルがもたらされ、偽陽性をうまく排除screen outした

この研究でこれまで知られていなかった乳癌細胞の生存に重要な役割を演じる多くの候補遺伝子が明らかにされ、
さらに、90の抗癌剤に対して感受性または抵抗性のどちらかである細胞にとって必要な遺伝子クラスターが見つかった

トリプルネガティブ乳癌で同定された新しくかつ潜在的な『創薬可能druggable』な標的の中では、
シグナル伝達タンパク質(EFNB3、EPHA4)、
細胞増殖経路を調節するタンパク質(MAP2K4、MAPK13)、
炎症を促進するタンパク質(IL-32)が、過去の研究によって脳腫瘍と関連付けられている

今回のデータでは、乳癌サブタイプを治療するための新しい潜在的な薬剤の数十通りの組み合わせについてのさらなる研究が示唆された
その中には、RAF/MEK阻害剤・CDK4阻害剤・EGFR阻害剤・BET阻害剤とエピルビシンepirubicin・ビノレルビンvinorelbineとの組み合わせや、
PLK1阻害剤とAKT阻害剤の組み合わせが含まれる

※エピルビシン: アントラサイクリン系抗腫瘍性抗生物質。DNA・RNAポリメラーゼ反応を阻害
※ビノレルビン: ビンカアルカロイド系抗悪性腫瘍薬。有糸分裂微小管タンパク質のチューブリンの重合を選択的に阻害

新たな方法によりあらゆる乳癌サブタイプごとにさらなる研究すべき経路が示唆されたものの、この分野を導いて研究の可能性を示すために著者はさらなる研究対象として一つを選び出し、
さらなる実験によりBRD4がほとんどの管腔乳癌/HER2+乳癌細胞にとって、さらにトリプルネガティブ乳癌のサブセットの生存にとっても必須の遺伝子であることを確認した

BRD4はBETファミリー(bromodomain and extra terminal domain)のメンバーであり、細胞増殖にとって重要な多くの遺伝子の調節を助ける
BET阻害剤という種類の薬剤の標的であり現在白血病の臨床試験中である
研究結果はBET阻害剤が乳癌のいくつかのタイプで有用である可能性を示唆し、
その阻害剤への抵抗性はPI3Kの遺伝子変異によって影響され、
この抵抗性はBET阻害剤とエベロリムスを組み合わせることによって無効化される可能性も示唆された

Neelは言う
「世界中の研究者の究極の目的は
治療法を開発すべき分子標的ならびにどんな治療であれ応答する可能性が高い患者グループを明らかにできるほど十分にそれぞれの癌細胞の配線図wiring diagramを最終的に理解することである」


http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2015.11.062
Functional Genomic Landscape of Human Breast Cancer Drivers, Vulnerabilities, and Resistance.
ヒト乳癌のドライバ・脆弱性・抵抗性の、機能的なゲノムのランドスケープ

Highlights
・ゲノムワイドなスモールヘアピンRNA/shRNAのプールされたライブラリを使うことにより、77の乳癌細胞系統をスクリーニングした
・アルゴリズム (siMEM) を開発して、状況依存的な遺伝子context-dependent genesの同定を改善した
・スクリーニングの結果をゲノムデータと統合することにより、潜在的な『ドライバ』を明らかにする
・BRD4は管腔乳癌に必須である一方、PIK3CA変異体はBET阻害剤への抵抗性をもたらす

Summary
大規模なゲノム研究により、乳癌における多数の体細胞異常(コピー数変化/copy number alteration(CNA)や点突然変異point mutationなど)が同定されてきた
しかし今なお、原因となる変異causal variantsと、遺伝子の変化の結果として生じて現れる脆弱性emergent vulnerabilitiesの同定は、大きな問題である

我々は77の乳癌細胞系統に対して
スモールヘアピンRNAにより全ゲノムの『ドロップアウト・スクリーニング/dropout screens』を実施した

階層的hierarchicalな線形回帰linear regressionアルゴリズムを使用してスクリーニング結果をスコア付けし、随伴する詳細な遺伝子・プロテオーム情報にそれらを統合して、
乳癌において候補となる『ドライバ』などの脆弱性を同定し、癌細胞の機能的なゲノムの性質を全体的に明らかにする

遺伝子の必要性を薬剤感受性データと比較することにより、
潜在的な抵抗性メカニズム、既存の抗癌剤の効果、組み合わせ療法の機会が示唆される


最後に我々はBRD4が管腔乳癌における潜在的な標的であり
PIK3CA変異がBET阻害剤への抵抗性の決定因子であるとして同定することにより、
この大規模なデータセットの有用性を実証する
 

IDHの変異がゲノムの折りたたみを失敗させる

2016-01-15 06:06:06 | 
Genome misfolding unearthed as new path to cancer

Isocitrate dehydrogenase mutations disrupt how the genome folds, bringing together disparate genes, regulatory controls to spur cancer growth

December 23, 2015

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/12/151223221528.htm

ブロード研究所とマサチューセッツ総合病院の研究者は、その画期的な研究で癌の根底にある全くcompletely新しい生物学的メカニズムを明らかにする
研究チームはイソクエン酸脱水素酵素/isocitrate dehydrogenase (IDH) の遺伝子に変異を持つ脳腫瘍を研究し、ゲノムがどのようにして自分自身を折りたたむのかに関する指示instructionsにいくつかの異変unusual changesを発見した

それらの変化はインスレーターinsulatorというゲノムの重要な部分を標的にする
インスレーターは、ある領域の遺伝子がその隣の領域にあるプロモーター(遺伝子のコントロールスイッチ)や遺伝子と相互作用しないよう物理的に妨害するDNA配列である

※insulator: 絶縁/隔離、インスレーター
※insulate: 絶縁/隔離する

IDHが変異した腫瘍でインスレーターに異常が起きるrun amokと、強力な成長因子の遺伝子が『常にオンになっている遺伝子スイッチ』の制御に影響されるようになり、癌を促進する強力なコンビネーションを形成する

Nature誌のオンライン先行出版号advance online issueで12月23日に発表されるこの研究結果は、癌の大部分に共通するプロセスを明らかにするもので、他のタイプの癌も促進するようである

「これは癌を引き起こすメカニズムとして全くtotally新しいものであり、
我々はこれが脳腫瘍だけでなく他のタイプの癌にも当てはまるhold trueと考えている」
ブロード研究所の一員であり、マサチューセッツ総合病院では病理学の教授でもある首席著者のBradley Bernsteinは言う

「癌を引き起こす遺伝子cancer-causing genesがそのDNA配列の変化によって異常に活性化されうることは、既に十分に立証されている
しかし今回の場合、我々はゲノムがどのようにして折りたたまれるのかが変化することにより癌を引き起こす遺伝子のスイッチが入ることを発見した」


ヒトのゲノムを端から端まで伸ばすと約6フィート半になる
ゲノムは別々の異なる染色体chromosomesから構成されるが、ゲノムのそれぞれは三次元で一緒になって複雑に入り組んでintricately折り重なっているfold
そうした折りたたみによって長大なゲノムは顕微鏡でしか見えないような細胞の領域confineの中にコンパクトに収まっているfit compactlyと現在では考えられている

これらのゲノムの折りたたみfoldsは、単にゲノムを詰め込むためのパッケージングではないmore than mere packaging
折りたたみは『結んだ靴ひもtied shoelace』のような一連の物理的なループから構成され、
遠くはなれた遺伝子と遺伝子制御スイッチを非常に近い場所へと集める
合計およそ1万個のこのようなループを形成することにより、ゲノムはこの形態を利用して機能を調節する

「ゲノムの機能的なユニットfunctional unitは染色体ではなく、遺伝子でさえない
むしろこれらの『ループ・ドメイン/loop domain』であることがだんだん明らかになってきている
ループ・ドメインは物理的に分かれているため、隣り合ったループ・ドメインから絶縁insulatedされている」
Bernsteinは言う

しかし、Bernsteinの研究グループはこの高次構造を形成するゲノムの詰め込みhigher-order packing of the genomeの研究を開始せず、
代わりに脳腫瘍の一種である神経膠腫gliomaを、より悪性のタイプである膠芽腫glioblastomaも含めて、より深く分子的に理解しようと追求を始めた
過去二十年間これら不治の悪性腫瘍の治療での進歩は比較的小さいものだったが、Bernsteinたちはこの腫瘍の生物学的な性質に明らかにするため、The Cancer Genome Atlas (TCGA) などの最近のがんゲノムプロジェクトから得られた膨大な量のデータをしらみつぶしに調べたcomb
分析の結果、彼らはIDHが変異した腫瘍に異常な傾向を検出した
成長因子の一つであるPDGFRA遺伝子のスイッチがオンになると、遠く離れたFIP1L1という遺伝子もオンだった
そしてPDGFRAがオフになるとFIP1L1もオフだった

※PDGFRA: Platelet-Derived Growth Factor Receptor, Alpha Polypeptide(血小板由来成長因子アルファポリペプチド)
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=PDGFRA

※FIP1L1: Factor Interacting With PAPOLA And CPSF1(PAPOLA・CPSF1相互作用因子)
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=FIP1L1
>この遺伝子はCPSF(cleavage and polyadenylation specificity factor)複合体のサブユニットをコードする。CPSFはmRNA前駆体の3'末端をポリアデニル化(ポリA化)する
>この遺伝子は酵母のFip1(factor interacting with PAP)のホモログであり、pre-mRNAのUリッチな配列に結合して、ポリAポリメラーゼ(poly(A) polymerase/PAP)の活性を刺激する

「これは本当に興味深かった
なぜならこのような遺伝子の発現シグネチャーsignatureは他の状況contextsでは見られなかったからだ
つまり、IDHが変異していない神経膠腫では見られなかった」
Bernsteinは言う

このシグネチャーsignatureを目立たせたのは、問題の二つの遺伝子が異なるゲノムのループに存在するということであり、それらのループはインスレーターによって分かれている
結んだ靴ひもtied shoelaceのループが中心の結び目に集まるのとちょうど同じように、ゲノムの二つのインスレーターが互いに結合してループを形成する
これらのインスレーターは、CTCF結合箇所/CTCF binding siteのようなゲノムの特定の領域に結合する複数のタンパク質の作用を通じて交わるjoin together

※CTCF: CCCTC-binding factorの略。このタンパク質はインスレーターinsulatorに結合する

Bernsteinと研究チームは、この奇妙な現象が
他の多くのCTCF結合箇所と遺伝子ペアを含めてゲノム全体に見られることを発見して驚いた
このことは、IDHが変異した腫瘍では全体的にゲノムの絶縁insulationが妨害されていることを示唆する
しかし、これがどのようにして生じ、そしてIDHはどんな役割を演じているのか?


IDH遺伝子の変異は、大規模な腫瘍ゲノムシーケンシングから生まれた初期のサクセス・ストーリーの一つを示す
歴史的にIDH遺伝子は平凡run-of-the-millな『ハウスキーピング遺伝子/housekeeping gene』であると考えられており、癌のドライバではないように思われた
これは癌ゲノムのシステマティックな探求を通じて発見したいと科学者が望んだ、まさに予想もしなかった類の発見だった

数年があっという間に経ったがfast forward a few years、IDHが変異した腫瘍への生物学的な理解はほとんど進まないままである
IDH遺伝子が変異すると有害な代謝産物を生じる酵素が作られ、それが様々なタンパク質に干渉する
その代謝産物のどれが癌に関係があるのかは正確には不明だが、わかっているのはIDHが変異した腫瘍のDNAが修飾され、メチル基という化学的なタグtagの数が異常に多いということである
この過剰なメチル化の重要性はまだ明らかになっていない

「IDHが変異した神経膠腫で我々が観察したゲノム全体の絶縁insulationの欠陥を基盤にして、我々はこれらのIDHパズルのピースを一箇所に組み立てるput togetherためのやり方を探した」

Bernsteinたちはゲノムスケールでのアプローチを組み合わせることで
IDHが変異した神経膠腫の過剰なメチル化がCTCF結合箇所に局在し、インスレーターの機能を妨害することを明らかにした

彼らの以前の結果を合わせて考えると、
通常はループドメインを分離するように閉じ込められて滅多に相互作用しないPDGFRAとFIP1L1が
IDHが変異した腫瘍では密接に関係するようになることを今回の研究は示す
それは靴ひもをほどいて新しい形/相対的配置configurationへ結び直すのに似ている
この異常な関係は、間に存在interveningするCTCF結合箇所が過剰にメチル化した結果として生じる

「白血病や結腸癌、膀胱癌など他の様々な腫瘍がIDH遺伝子の変異を持つ
この研究結果が神経膠腫を越えてどれぐらい一般的に適用されるかを調べるのは非常に興味深いことだ」

IDH変異の神経膠腫や他の癌のさらなる研究を通じてこれらの初期の研究結果を広げる必要があるものの、それらは潜在的な治療アプローチに向けたいくつかの興味深い洞察を提供する
この治療アプローチとしては現在臨床で開発中のIDH阻害剤や、関連するDNAメチル化を減少させたりその下流の癌遺伝子を標的にする薬剤が考えられる

「基礎科学はしばしばトランスレーショナル科学や臨床科学とは別々の容器に入れられる」
Bernsteinは言う

「しかし今回の研究は、非常に基礎的で機構的な科学でありつつ、臨床的な状況でなされた例だ
これは我々にヒトの疾患の基礎について注目すべき何かを教えているのである」


http://dx.doi.org/10.1038/nature16490
Insulator dysfunction and oncogene activation in IDH mutant gliomas.
IDH変異神経膠腫におけるインスレーター機能不全と癌遺伝子活性化

機能獲得型gain-of-functionのIDH変異は、神経膠腫の臨床的分類ならびに予後の分類の大部分を定義するイベントを開始する (1, 2.
突然変異体のIDHタンパク質は2-ヒドロキシグルタル酸/2-hydroxyglutarate(2-HG)という新たな癌代謝物onco-metaboliteを作り出し、
TETファミリーの5′-メチルシトシンヒドロキシラーゼを含む鉄依存性ヒドロキシラーゼhydroxylaseに干渉する (3, 4, 5, 6, 7.
TETはDNAメチル化の除去において鍵となる段階を触媒する酵素である (8, 9.

したがって、IDH変異神経膠腫は、CpGアイランドメチル化表現型/CpG island methylator phenotype (G-CIMP) を示すが (10, 11、
この変化したエピジェネティック状態の機能的な重要性は不明のままである


我々はヒトIDH突然変異体神経膠腫がコヒーシンcohesinならびにCCCTC-binding factor (CTCF) の結合箇所で過剰メチル化を示し、
メチル化に影響されやすいこのインスレーターinsulatorタンパク質の結合を損なうことをここに示す

CTCF結合の減少は、トポロジカルなドメインと異常な遺伝子活性化との間の絶縁insulationの喪失と関連する

我々は特に
ドメイン境界boundaryでのCTCFの喪失により
構成的エンハンサーが
神経膠腫の癌遺伝子として著名prominentな受容体型チロシンキナーゼ遺伝子のPDGFRAと異常な相互作用が可能になることを実証する

※constitutive: 構成的な。常に活性がある

IDH突然変異体の神経膠腫スフィアgliomasphereに脱メチル化剤で処理すると、部分的にインスレーター機能が回復し、PDGFRAが下方調節される
反対に、IDH野生型の神経膠腫スフィアにおいて、CRISPRを介するCTCFモチーフの妨害はPDGFRAを上方調節し、増殖を増大させる

我々の研究は
IDH変異が染色体のトポロジーを妨害し、癌遺伝子の発現を誘導する異常な調節相互作用を許すことにより
神経膠腫の発癌gliomagenesis/glioma tumorigenesisを促進することを示唆する


http://www.nature.com/nature/journal/v529/n7584/fig_tab/nature16490_F4.html
Figure 4: Boundary methylation and CTCF occupancy affect PDGFRA expression and proliferation.
境界メチル化とCTCF占有が、PDGFRA発現と増殖に影響する

※meCpG は、メチル化したCpGを表す

a, PDGFRA遺伝子座locusにおけるクロマチンループと境界を表す図解schematic

(左)IDH野生型の細胞では、完全な境界boundaryが癌遺伝子を絶縁/隔離するinsulate
CTCFモチーフを取り除くことによる境界の破綻は、癌遺伝子を活性化させるだろうshould

(右)IDH突然変異体の細胞では、過剰なメチル化がCTCFを妨害し、境界を損なって、エンハンサーが癌遺伝子を活性化できるようにする
脱メチル化はCTCFを介する絶縁/隔離insulationを回復するだろうshoul



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/b9a5d42e4bba4e00fb26777d33a8b188
ジャンクDNAと思われていたゲノムの多型はDNAの環状化によりゲノムの遠い箇所と相互作用して結腸癌などのリスクにつながる
SNPのrs6983267は下流のMYCと相互作用し、さらにMYCと50万塩基以上離れているCCAT1を上流の調節因子として同定した



関連記事
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/12/151214130033.htm
変異したIDH1の活性を阻害すると2-HGは減少したが、細胞の増殖は止まらなかった
分析すると、IDH1阻害によりNAD+が増加していた
NAD+を枯渇させると癌細胞は死んだ

変異したIDH1はNAD+レベルを維持する酵素の発現を低下させ、それによりNAD+を枯渇させることに脆弱になる
変異したIDH1を抑制するとNAD+レベルを維持する酵素の発現は上昇し、NAD+レベルは上昇する

http://dx.doi.org/10.1016/j.ccell.2015.11.006
Extreme Vulnerability of IDH1 Mutant Cancers to NAD Depletion.

 

アバターはメラノーマの治療抵抗性を打ち破る

2016-01-14 06:06:51 | 癌の治療法
Blocking melanoma's escape: Avatars break theraping resistance in relapsed cancers

Revolutionary mouse 'avatar' models to discover effective combination treatments that may prolong responses and survival rates

January 7, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160107184944.htm

標的治療targeted treatmentsを受けたメラノーマの患者は、初めは治癒したかのように感じるほどの応答を経験するが、初めの興奮はすぐに覚めてがっかりすることになる
それはメラノーマは標的治療を回避するのが得意であり、増殖して転移するための『代わりの経路alternative pathways』を細胞内で見つけて再発するからである
最初の良好な応答を長続きさせて健康で長い寿命を促進するため、この癌を止める方法を今すぐにでも見つける必要性がある

ウィスター研究所の科学者は今回の研究でマウスを癌患者の『アバター』として利用できるようにする革命的な方法を利用することにより、
これまでメラノーマに対して効果がなかった標的治療薬が予測に反して特定の患者で非常に強力に作用し、
疾患の進行を止める可能性を示した
この研究結果はClinical Cancer Research誌で発表される


メラノーマは全ての皮膚癌の約5%に過ぎないが、皮膚癌による死亡の約75%を占める
個別化医療personalized medicineはそのようなメラノーマの患者にとって非常に有望である
メラノーマの成長と増殖の原因は特定の変異であるため、変異した皮膚癌細胞を標的にする薬剤は魅力的な治療オプションである
例えばBRAF遺伝子はメラノーマ患者の約半分で変異しており、重要な増殖経路の異常な活性化につながる
異常活性化したBRAFを阻害する薬剤は患者の寿命を延長可能である

しかしながら、メラノーマ細胞は妨害に気付いて代わりの生存メカニズムを見つけるため、薬剤による治療を受けたほぼ全ての患者が結局は再発し、もはや最初の治療には応答しない
現在研究者たちはメラノーマの『逃走ルート/escape route』を研究中であり、癌細胞を生き残らせないように治療を組み合わせて追い詰めcornerたいと考えている

「我々がメラノーマ患者で同定した逃走ルートは約15通り存在し、任意の患者で癌細胞がどのルートを使うのかを予測するのは決して簡単ではない」
ウィスター研究所メラノーマ研究センターのディレクターでありメラノーマ研究のCaspar Wistar Professorでもある今回の研究の筆頭著者lead authorのMeenhard Herlyn, D.V.M.(Doctor of Veterinary Medicine/獣医学博士)D.Sc.(Doctor of Science/科学博士)は言う

「これらのメラノーマ細胞は、再び活性化するためには何でもやるだろう」


癌細胞の逃走ルートと浸潤転移を阻害する治療法を明らかにするため、ウィスターの研究者は『患者由来の異種移植/patient-derived xenograft (PDX) によるマウスモデル』という革命的な方法を使っている
彼らは患者から得た腫瘍サンプルをマウスに移植して患者個々人の『アバター/avatars』を作ることにより、一つの腫瘍を多数のプールしたマウスアバターでテストできるようにした
この方法により、患者由来の腫瘍のタイプがどのように応答するのかを調べるために様々な薬剤とその組み合わせを試すことが可能になる

※avatar: アバター、アバターラ。サンスクリット語で「化身、権化」の意。転じてインターネットにおける自分の化身


最新の研究でウィスターのチームはPDXモデルを使い、BRAF阻害剤による治療を受けたが再発した患者に由来する腫瘍をテストした
さらに、BRAF変異メラノーマが治療を回避する逃走ルート遺伝子として知られるNRASやMAP2K1(MEK1)という遺伝子の変異や、MET遺伝子の増幅amplificationが観察された
このMETの増幅は抵抗性の新たなメカニズムである可能性を示唆する

ウィスターの研究チームはこの情報を利用して、疾患の進行を止める手段として標的治療の組み合わせをテストした
現在臨床試験中のMET阻害剤であるカプマチニブ/capmatinibはメラノーマ治療のために単独by itselfで使うと著しい腫瘍退縮regressionを示したが、結果は一時的なものに過ぎなかった
このことはMETの増幅が腫瘍増殖の単独のドライバではないことを意味する

しかしながら、MET阻害剤のカプマチニブを、BRAF阻害剤のエンコラフェニブ/encorafenibと、BRAF経路のMEKを阻害するビニメチニブ/binimetinibに組み合わせて投与すると、全てのPDXマウスで完全かつ持続的な腫瘍退縮regressionが観察された

「これまで、MET阻害剤はメラノーマ患者にそれほど作用を示してこなかった」
ウィスター研究所のHerlynラボの特任助教research assistant professorで、研究の第一著者first authorのClemens Krepler, M.D.は言う

「我々の研究結果はより確固とした臨床試験により確認される必要はあるが、
この研究はBRAF阻害剤の後かまたは同時のMET阻害剤の投与はメラノーマの進行を止めることに成功するようであり、薬剤への応答と全生存期間をかなり延長するかもしれないというエビデンスを提供する」


http://dx.doi.org/10.1158/1078-0432.CCR-15-1762
Personalized pre-clinical trials in BRAF inhibitor resistant patient derived xenograft models identify second line combination therapies.
BRAF阻害剤に抵抗する患者に由来する異種移植モデルにおける個別化された前臨床試験により、セカンドラインの組み合わせ療法を突きとめる



関連記事
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/09/150930141335.htm
アバターによりEGFR阻害剤への抵抗性と感受性を左右する変異を発見



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http://www.sciencedaily.com/releases/2015/12/151223221343.htm
ALK変異→ALK阻害剤→再発→別のALK阻害剤→再発→最初のALK阻害剤



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http://www.sciencedaily.com/releases/2015/11/151112055454.htm
良性のほくろ/母斑→中間の前癌病変→メラノーマ
BRAF V600E→NRAS→TERTプロモーター→CDKN2A→PTEN,TP53
 

ベータトロフィンはストレスと脂肪代謝とを結びつける

2016-01-13 06:18:02 | 代謝
New details linking stress, fat metabolism revealed

January 6, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160106125046.htm

もしあなたが絶え間ないストレスにさらされていて、そして体重が落ちないなら、それには原因となるタンパク質が存在するかもしれない

細胞とマウスモデルによる実験により、フロリダ・ヘルス大学の研究者は慢性的なストレスがベータトロフィンというタンパク質の産生を刺激し、
続いてこのタンパク質が脂肪代謝に関与する酵素のトリグリセリドリパーゼを阻害することを発見した
これらの研究結果は今月号のBBA Molecular and Cell Biology of Lipids誌で発表される

※ベータトロフィン: アンジオポエチン様タンパク質8/angiopoietin-like protein 8(ANGPTL8)
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=C19orf80


この発見はそのストレス関連タンパク質としての役割に新たな注目をもたらす
このタンパク質はかつて糖尿病治療のブレイクスルーとして歓迎hailされたが、後に効果がないとされた

最新のベータトロフィンの性質はまだ臨床的な環境でテストされていないものの、ある研究者はこの研究結果がヒトにも意味を持つ可能性があると言う
「アンジオポエチン様タンパク質8は、体の脂肪を分解する能力を低下させる
これは慢性的なストレスと体重現象との間の関係を強調する」
フロリダ大学医科大学の病理学部・免疫学部・臨床検査医学部laboratory medicineの教授であり主任研究者lead investigatorのLi-Jun Yang, M.D.はそのように言う

今回の研究では代謝ストレスを経験するマウスモデルがベータトロフィンを有意に多く産生し、正常な脂肪燃焼プロセスが著しく遅くなった
このような観察結果が重要である理由は、これはストレスとベータトロフィンと脂肪代謝とを結びつける生物学的なメカニズムに光を当てるからである

ベータトロフィンはハーバード大学から糖尿病患者のβ細胞の数を増やす可能性を示唆する研究が発表され、2013年の科学界で盛んに騒がれていたabuzzが、後に別の研究者がそのような効果はないと結論付けた

さて、前より歓迎はされないとしても、ベータトロフィンはやはり重要な役割を持つようだ
今回の研究結果はストレスが脂肪分解を困難にするという実験上のエビデンスを提供する


Yangの研究グループはいくつか新しい発見をした
例えばベータトロフィンはストレス関連タンパク質であるということや、なぜベータトロフィンが増えるほど脂肪燃焼が低下するのかについて明らかにした
蓄えられた脂肪を分解する脂肪組織トリグリセリドリパーゼ/adipose triglyceride lipaseを、ベータトロフィンは抑制する

 ストレス→ベータトロフィン─┤脂肪組織トリグリセリドリパーゼ

体の脂肪の調節におけるベータトロフィンの役割を確認するためにマウスとヒトに由来する細胞実験が初めて使われ、さらに
マウスモデルが環境ストレスならびに代謝ストレスを経験するにつれてベータトロフィンレベルがどれくらい増加するのかが調査された
研究の結果、どちらのストレスも脂肪組織と肝臓におけるベータトロフィンの産生を加速し、ベータトロフィンがストレス関連タンパク質であることが確認された

ベータトロフィンが脂肪代謝に与える影響はまだヒトでテストする必要があるが、Yangは今回の研究結果がストレスの低下が有益でありうる理由を説明すると言う
短期間の適度なストレスは難しい状況を切り抜けて上手くやるのを助ける一方で、長期のストレスは非常に有害になる可能性がある

「ストレスは脂肪の蓄積を引き起こすか、または少なくとも脂肪代謝を遅らせる
これはなぜストレスの多い状況を解決してバランスの取れた人生を求めるのが最良であるかについてのもう一つの理由である」
Yangは言う


http://dx.doi.org/10.1016/j.bbalip.2015.11.003
Angiopoietin-like protein 8 (betatrophin) is a stress-response protein that down-regulates expression of adipocyte triglyceride lipase.
アンジオポエチン様タンパク質8(ベータトロフィン)は、脂肪組織トリグリセリドリパーゼの発現を下方調節するストレス応答タンパク質である

Highlights
・ANGPTL8はストレス応答タンパク質である
・RAS/c-RAF/MAPKシグナル伝達経路は、ANGPTL8転写を仲介する
・ANGPTL8は、ERK信号交換伝達/signal transductionの経路を活性化する
・ANGPTL8は、Egr1発現の情報調節を介して脂肪組織トリグリセリドリパーゼ/adipose triglyceride lipase (ATGL)の発現を抑制する

Abstract

Results
ANGPTL8は、in vitroでアミノ酸が枯渇した培養細胞において有意に上方調節される
ANGPTL8遺伝子転写の活性化は、通常generalのGCN2/ATF4経路よりもむしろ、RAS/c-RAF/MAPKシグナル伝達経路によって仲介される

ANGPTL8は肝細胞、脂肪細胞、膵臓β細胞においてERK信号交換伝達経路を活性化させ、
初期増殖応答転写因子1/early growth response transcription factor (Egr1) を上方調節し、
脂肪組織トリグリセリドリパーゼ/adipose triglyceride lipase (ATGL) を下方調節した

※Egr1: http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=EGR1


Conclusion
ANGPTL8はストレス応答タンパク質であり、ATGL遺伝子発現を抑制することにより脂肪代謝を調節する
このことは哺乳類の細胞におけるANGTPL8と脂質恒常性との間の機構的な関係を明らかにする



関連記事
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/07/150723111359.htm
脂肪組織が発現する糖質コルチコイド受容体が脳のストレスと代謝の制御の仕方に影響する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/5410eb0f0900f4f19d875c843cfb6ab9
太れば太るほど痩せなくなる理由は脂肪細胞が作るsLR11というタンパク質



関連サイト
http://syodokukai.exblog.jp/18652586/
2013-04-27
膵β細胞増殖を調節するホルモン・ベータトロフィンについて


http://diabetologistnote.blog119.fc2.com/blog-entry-459.html
2013-04-29
β細胞を特異的に増加させるホルモン、Betatrophinの報告です。マウスの結果で肝臓に強発現させると8日後にはβ細胞面積が3倍になったという強力な効果が示されている。


http://nsmcuriosity.hatenablog.com/entry/2014/04/05/192515
2014-04-05
昨年発表されたハーバードのMelton教授のラボで発見された、膵β細胞の複製を強力に活性化するホルモンであるbetatrophin(ベータトロフィン)。このbetatrophinがヒトで有効であるかを検証した論文がDiabetesで報告された。
この結果はもしかするとbetatrophinはマウスのβ細胞は増やすがヒトのは増やさないかもしれないことを示唆する結果となった。
しかし忘れてはいけないことは、betatrophinはどうやってβ細胞を増やしているのか全くそのメカニズムがブラックボックスであるということだ。


http://fm7.hatenablog.com/entry/2015/09/09/221236
2015-09-09
すい臓のβ細胞を増やす新規ホルモンとして報告されたベータトロフィンであるが、後にAngiopoietin-like protein 8 (ANGPTL8) であることが明らかになった。
 

超電導体コイルの磁場で重力場をコントロールする

2016-01-12 06:06:58 | 天文
Gravitation under human control?

Physicist proposes using magnetic fields to produce and detect gravitational fields

January 8, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160108083918.htm

磁場magnetic fieldsを使って自由自在に重力場gravitational fieldsを生成して検出し、制御して研究して、新しい技術を開発する --
向こう見ずで斬新daringに聞こえるかもしれないが、まさにそれをナウル大学Naur UnimversityのAndré Füzfa教授は科学誌のPhysical Review Dで発表された論文で提案している
この提案が発展を続ければ、物理学を一変させてアインシュタインの一般相対性理論を揺るがすことになる可能性がある

現在科学者たちは重力場を『受動的』に研究しており、巨大な慣性質量inertial massによって生成される重力場の存在を観測して理解しようとしている
その質量は例えば星や地球であり、それらのあるがままを磁場などで変化させることはできない

この不満がFüzfaを革新的なアプローチへと導いたlead
十分に制御された磁場から重力場を自由自在に作り、この磁場がどのようにして時空space-timeを曲げるのかを観察するというものである

彼は論文において数学的な証明をもって重力場を検出可能なデバイスを提案している
このデバイスは超電導superconducting電磁石electromagnetを基礎にしていて、したがってCERNやITERのリアクターreactorで日常的に使われている技術による

この実験は大規模な資源を必要とするだろうが、もし実施されればアインシュタインの一般相対性理論theory of general relativityをテストするために使われる
これがもし成功すれば、重力場を生成し、検出し、究極的にはコントロールするという、確実に物理学の大きな一歩となるだろう
他の三つの基本相互作用fundamental interaction(電磁場、強い力、弱い力)と同様に重力相互作用gravitational interactionを作り出すことができるようになり、それは重力を新たな実験と工業の時代へと導くだろう

これまでこのような科学の進歩はSFの夢物語だったが、それは例えば重力波を使った通信分野のような未来の多くの応用への道を開くだろう
世界の反対側に衛星や地上の中継を通すことなく『電話』で話せるようになるのである


http://arxiv.org/abs/1504.00333
How current loops and solenoids curve space-time.
どのようにして電流ループとソレノイドが時空を曲げるのか

※ソレノイド: 円筒形に線を螺旋状に巻いたコイル

任意arbitrarilyの大きな定常電流large steady electric currentを持つ電流ループcurrent loopsとソレノイドsolenoidsの周囲で湾曲した時空は、円柱状の対称性cylindrical symmetryにおいて
アインシュタインとマクスウェル方程式/Maxwell equationsをつなげたcoupled数字的な解から得られる

磁場の生成と関連する人工的な重力場は、光子の重力赤方偏移gravitational redshiftと光の偏光deviationを生み出す

曲がった時空における電流ループとソレノイドのゼロnullの測地線geodesic(曲面上の2点を結ぶ最短曲線)も提示される

最後に我々は、超伝導コイルの現行技術で達成可能な実験機構setupを提案する
それは地上設置の重力波観測所における天体物理学シグナルと比べて同種の強さの、光の位相のずれphase shiftを生成する


<コメント>
論文によると、2つのソレノイドからなる超電導ヘルムホルツコイル/Helmholtz coilが重力場を生成し、
生成された重力場に光を蓄えるためのファブリーペローキャビティー(共振器)を備えた高感度のマイケルソン干渉計/Michelson interferometerを用いて、
数ヶ月かけて跳ね返る光bouncing lightの位相のずれphase shiftの蓄積accumulationから重力場を検出するとのことです

 

卵巣癌で変異して凝集したp53を回復するペプチド

2016-01-11 06:06:02 | 癌の治療法
Scientists test new strategy that could help fight ovarian cancer

January 6, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160106220518.htm


(左: ハイグレード漿液性卵巣癌の患者に由来する腫瘍オルガノイド
右: ReACp53を投与して広範囲が死滅したミニ腫瘍)

ハイグレードの漿液性serousの卵巣癌96%で見られるp53の変異は、p53を凝集させて機能しなくする
癌細胞に浸透してp53の凝集を防ぐペプチドReACp53により、そのような凝集を防ぐ
コンピュータシミュレーションで凝集タンパク質の構造を決定してペプチドを開発した


カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の科学者は、致死的な生殖器の癌である卵巣癌を治療するためのまったく新しい有望な方法を開発した
このアプローチはハイグレードの漿液性の卵巣癌serous ovarian cancerで広く共通して変異するp53というタンパク質に焦点を当てるものである
多くの女性が卵巣癌の診断を受けるまでにかなり進行しており、ゆえに治療は非常に難しい

今回の発見はUCLAジョンソン総合がんセンターのDavid EisenbergとSanaz Memarzadehという博士たちの3年に及ぶ研究の成果である
このCancer Cell誌のオンライン版で発表される研究結果は、最終的にはp53に変異を持つ他の多くの同様のタイプの癌に対する新たな標的治療につながる可能性がある


P53は『ゲノムのガーディアン』として知られ、損傷が修復されるまで細胞が増殖するのを阻止し、もし損傷が回復できなければ細胞死を促進する
しかしハイグレードの漿液性の卵巣癌患者の96%で見られる変異はp53タンパク質の凝集を引き起こし、その正常な機能を妨げる
結果として損傷した細胞は制御不能の増殖が可能になり、それが癌につながりうる

UCLAの科学者はReACp53というペプチドを開発してテストした
このペプチドは癌細胞に浸透して変異したp53が凝集するのを防ぎ、p53の正常な機能を回復して卵巣癌細胞を殺す

「我々のラボは15年間、タンパク質の凝集について研究してきた
タンパク質の凝集はアルツハイマー病やパーキンソン病のようなアミロイド病を引き起こす」
生物化学の教授でありUCLA-DOE研究所(Department of Energy/エネルギー省)の一員でもあるEisenbergは言う

「このような凝集は線維としての構造を持つようになるが、髪の毛の幅より500倍も小さいために扱いが非常に難しい」

「このアプローチは元々は神経変性疾患のために開発されたもので、それを癌の治療に応用している」
UCLAでEisenbergラボのpostdoctoral scholarであり研究の筆頭著者であるAlice Soragniは言う

「我々はコンピュータアルゴリズムを使って凝集の原因となるp53のくっつきやすい部分を同定し、その構造を決定して凝集のプロセスを阻害するようにReACp53をデザインした
ReACp53はp53タンパク質が凝集しないように防ぎ、その本来の仕事、つまり癌細胞を殺せるようにする」

研究者は腫瘍細胞を患者から単離し、増殖させて小さな腫瘍をラボで再現した
この『ミニ腫瘍』は元となる癌の特徴のいくつかを忠実に再現するため、薬剤の開発に非常に役立つ

「結果は目覚ましいもので、患者由来の腫瘍は著しく縮小した」
Memarzadehは言う

彼女はこのアプローチが生理学的モデルにおいて明らかな副作用を生じず、ReACp53が非常に良好な忍容性があるvery well toleratedことも付け加えた

進行したステージのハイグレード漿液性卵巣癌の女性の80%以上が、手術を繰り返し化学療法を何度も受けた後でさえ再発を経験する
この新しい有効な治療アプローチは癌の再発を防ぐための大きな一歩になる可能性がある
アメリカでは年間1万5千人以上の女性が卵巣癌で亡くなっている


http://dx.doi.org/10.1016/j.ccell.2015.12.002
A Designed Inhibitor of p53 Aggregation Rescues p53 Tumor Suppression in Ovarian Carcinomas.
p53凝集を防ぐデザインされた阻害剤は、卵巣癌においてp53による腫瘍抑制を回復する


Highlights
・我々はp53凝集を止めるReACp53というペプチドをデザインした
・ReACp53はp53標的遺伝子の転写とアポトーシスを回復する
・ReACp53は凝集しやすいp53を持つ腫瘍の進行をin vivoで止めて縮小させる
・癌におけるp53の凝集はReACp53を主な化合物として使う治療の標的である

Summary
ヒトのすべての癌の半分でp53はミスセンス変異により機能を失い、その中には割合は不明だが自己凝集するアミロイド様の状態のp53が含まれる

我々は細胞に浸透してp53のアミロイド形成を阻害するようにデザインされたペプチドReACp53が
癌細胞系統ならびにハイグレード漿液性卵巣癌/high-grade serous ovarian carcinomas (HGSOC) オルガノイドにおいてp53機能を回復することをここに示す
HGSOCはp53変異が広く共通する特徴の悪性の癌である

回復された53は野生型の対照p53と同様にふるまい、標的遺伝子を調節し、細胞増殖を抑制し、細胞死を増大させる

腹腔内への投与はin vivoでの腫瘍増殖を抑制して異種移植を縮小させた



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/762e15cdffad3582ba41f02f3311b5d2
p53はリソソームでのTSC2を適切なレベルに維持してmTORC1を抑制する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/3236d7fa036fe0a6a5c93efef5d80fc9
p53は細胞タイプが変化することから保護する門番である
 

α-シヌクレインの伝わり方はプリオンとは異なる

2016-01-10 06:06:45 | 
Parkinson's disease: New insights into a traveling protein

A laboratory study indicates that one of the main proteins involved in Parkinson's disease pathology does not behave as a 'prion'

January 5, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160105133128.htm

パーキンソン病ではα-シヌクレインというタンパク質が患者のニューロン内に凝集し、脳の相互につながった領域を伝わって広まるpropagateようである
これがどのようにして起きるのかはほとんどわかっていないが、α-シヌクレインが『プリオン』のようにふるまう可能性がこれまで提案されている
それによると、このタンパク質の『病的な形態pathological forms』は、正常なα-シヌクレインのコンフォメーション/構造を変化させることを可能にし、
したがって凝集を引き起こしてニューロンからニューロンへの伝播propagationをできるようにするかもしれないという(この現象をシーディングseedingと呼ぶ)

※seed: (vt) 種をまく,生長の因子を供給する,種晶を入れる. (n) 種晶(過飽和溶液から結晶を析出するために加える微小結晶)

神経変性疾患ドイツセンター/German Center for Neurodegenerative Diseases (DZNE) による最近の研究で、α-シヌクレインによる凝集、拡散、病理は、必ずしもプリオンのようなシーディングを伴わないことが明らかにされた
シーディングの代わりに、それらはα-シヌクレイン発現の促進ならびにモノマー形態とオリゴマー形態両方のニューロン間の移動passageによって引き起こされる可能性があるという
このDonato Di Monte教授を中心とする研究報告はBRAIN誌で報告される


パーキンソン病の病理発生におけるα-シヌクレインの決定的に重要criticalな役割を強調するエビデンスは数多い
特に、α-シヌクレインはレヴィ小体というニューロン内の封入体inclusionの主な構成要素であり、この封入体がパーキンソン病の脳内に徐々に蓄積する
α-シヌクレインの病理はしばしば延髄medulla oblongataという脳の下部領域から始まり、延髄から上方の中脳~皮質領域へと拡がっていく
今回の研究でDZNEの研究者はこの現象をマウスで模倣した
テーラーメイドなウイルスベクターを使ってヒトのα-シヌクレイン遺伝子の複写図blueprintをマウスの延髄のニューロン特異的に導入した結果、これらの細胞は比較的多い量の外因性ヒトα-シヌクレインを作って蓄積し始めた


長距離のタンパク質伝播
Long-distance protein transmission

Di Monte教授たちはヒトα-シヌクレインを認識する特異的な抗体を用いて、このタンパク質がマウスの脳内を拡散していく様子を6週間から12週間かけて追跡した
さらに、外因性ヒトα-シヌクレインと内因性α-シヌクレインを発現するマウスを、外因性ヒトα-シヌクレインは発現するがマウスの内因性α-シヌクレインを持たない変異体マウスと比較し、その拡散spreadingする様子と病理を検討した

実験の結果、両方のグループで、ヒトα-シヌクレインの発現上昇により延髄から吻側rostralの脳領域へと拡散diffusionが進行した
このタンパク質の拡散spreadingは少なくとも一つのトランスtransなシナプスを越えたジャンプを伴い、
解剖学的な相互接続経路を経由する拡散と一致するステレオタイプなパターンstereotypical patternをたどったfollow

※trans: トランス。こちら側から向こう側へ

さらに、レシピエント側ニューロンへ拡散したタンパク質の蓄積は、ニューロンへのダメージのエビデンスを伴った(ニューロンが損傷したという証拠が見られた)


プリオンとの相違
Unlike prions

プリオン様のシーディングメカニズムからの予想では、
ドナーのニューロンによって作られた異常な形態のα-シヌクレインと
レシピエントのニューロンが発現する『汚染されていないuncorrupted』α-シヌクレインとの間の相互作用により
α-シヌクレインの拡散spreadingは促進されるはずである

「言い換えれば、」
Di Monte教授は言う
「我々の予想では、内因性のα-シヌクレインを持たない変異体マウスでは、α-シヌクレインタンパク質の伝達transmissionの効率は低下less efficientし、病理は目立たなくなるless pronouncedと思われた
また、拡散と病理は『アミロイドを生み出すamyloidogenic形態のα-シヌクレイン』の蓄積と関連するだろうとも予測していた
不溶性の線維状凝集物を作ることができるのは、そのような形態のタンパク質である」

これらの予測とは反対に、内因性α-シヌクレインを持たない変異体マウスにおいて、α-シヌクレインの拡散は相殺されるよりもむしろ促進された
さらに、α-シヌクレインタンパク質の拡散とそれにより引き起こされたニューロン病理の原因は、線維状ではないnon-fibrillar、非線維状のα-シヌクレインのトランスなニューロン伝達passageだった

研究者は次のように説明する
「我々はこれらの研究結果が疾患の病理発生にとって多くの重要な意味を持つと考えている
我々はα-シヌクレインの長距離の拡散diffusionが必ずしもプリオン様の形態の生成を必要としないと結論する
加えて、研究データからは拡散spreadingと病理がただ単にα-シヌクレインの過剰発現によって引き起こされる可能性があり、
少なくとも初めは、モノマーまたはオリゴマーなα-シヌクレイン、もしくはモノマーとオリゴマーの両方によって、仲介されることが明らかになった」


動くmovingタンパク質とともに進むmoving
Moving forward with studies on a "moving" protein

α-シヌクレインがプリオンのようにふるまうかもしれないという可能性は、他のプリオン病(クロイツフェルト-ヤコブ病)と同様、パーキンソン病の症例は接触伝染性の形態のタンパク質contagious protein speciesへの曝露から生じるのかもしれないという疑いを引き起こしてきた

Di Monte教授は次のことを強調する
「パーキンソン病が伝染病であることを示す徴候はまったく存在しない
実際、我々の新たな研究の重要な貢献は、ニューロンからニューロンへのα-シヌクレインの伝達とタンパク質蓄積のようなパーキンソン病の病理発生の重要な側面がどのようにしてプリオンのようなものではないメカニズムによって説明できるかということである」

DZNEのDi Monte教授たちはα-シヌクレインについての研究を続けるつもりであり、彼らは特に病理的/臨床的な疾患の進行を遅くするか止めるためにα-シヌクレインをどのように標的にできるかに焦点を合わせている


http://dx.doi.org/10.1093/brain/awv376
Brain propagation of transduced α-synuclein involves non-fibrillar protein species and is enhanced in α-synuclein null mice.
形質導入されたα-シヌクレインの脳内伝播は非微小繊維状タンパク質種を必要とし、それはα-シヌクレイン・ヌルのマウスで促進される

Abstract
ニューロンからニューロンへの伝達と蓄積は、ヒトのシヌクレイン病synucleinopathyにおける病理発生的な役割と関連するα-シヌクレインの特性attributeである
線維状α-シヌクレインの実質内への注入は内因性α-シヌクレインの発現を必要とするメカニズムによりアミロイド生成性タンパク質種の広範な伝播を引き起こし、
そしておそらく、そのミスフォールドされたコンフォーマーmisfolded conformerによる構造的な改悪structural corruptionが病理的なシードseedとして働く

※conformer: コンフォーマー。(異常な)プリオンタンパク質の構造

今回我々はそれとは別の、脳内α-シヌクレイン長距離拡散のもう一つのパラダイムを記述する
それはモノマーとオリゴマーのどちらかまたは両方のニューロン間の移動を伴いinvolve、
そして内因性α-シヌクレインタンパク質には依存しない


ウイルスベクターによる形質導入後、
延髄medulla oblongataのドナーニューロン内にはモノマー、オリゴマー、線維状のタンパク質が検出されたが、
橋ponsのレシピエントニューロンの軸索には線維状α-シヌクレインの免疫活性が検出されなかった
このことが示すのはニューロン間を主に伝わるのが非線維状の形態のα-シヌクレインであり、脳内を拡散して初期のニューロン損傷につながるということである



関連記事
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/09/140929174413.htm
α-シヌクレインは通常の濃度ではマルチマーmultimerとなってシナプスに集まり、シナプス小胞のクラスター化を促進し、その動きを制限している
シナプス小胞をシナプスでクラスター化することにより、α-シヌクレインは神経伝達を根本的fundamentallyに制限する
それは信号に似ていなくもない--自動車を交差点に集めて交通の流れを遅くし、全体の流れを調節している
「通常の濃度でα-シヌクレインは神経伝達を阻害せずむしろ管理しているが、
疾患ではそのレベルが異常に上昇することにより神経伝達が強く抑制されてシナプス毒性につながる」

http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2014.08.027
α-Synuclein Multimers Cluster Synaptic Vesicles and Attenuate Recycling.