機械翻訳2

興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

なぜヒトの心臓は再生しないのか

2015-08-14 06:00:21 | 生命
Why the human heart cannot regenerate

Researchers discover endogenous process that controls reproduction of cardiac muscle cells and may lead to new treatments for heart attacks and cancer

August 6, 2015

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/08/150806121811.htm

ヒトの心臓は再生しないが、ゼブラフィッシュや両生類amphibiansの心臓は再生する

ニュルンベルク、エルランゲン大学University of ErlangenのDavid ZebrowskiとFelix B. Engelたちは、この現象についての考えられうる説明を発見した

「心筋細胞の中心体centrosomeは、生後すぐに分解プロセスdisassembly processをたどる。
分解プロセスはいくつかのタンパク質によって進行し、中心体を細胞の核膜へ移動させるrelocate
このプロセスで中心体は2つの中心小体centriolesへと分解して、細胞は再生する能力を失う」


最近の実験では、もし中心体が不完全だと細胞は再生/増殖reproduceできないことが示されている

「我々が非常に驚いたのは、ゼブラフィッシュや両生類は成体まで心筋の中心体が完全なままだということだった」
David Zebrowski博士は言う


http://dx.doi.org/10.7554/eLife.05563
Developmental alterations in centrosome integrity contribute to the post-mitotic state of mammalian cardiomyocytes.
 

2015年4月16日

2015-04-19 11:23:51 | 生命

基本的なプロセスの第一歩は、治療に使える細胞を作るために利用できる可能性がある
First steps in basic process could be harnessed to make therapeutic cells



胚の初期の細胞を様々なタイプの臓器へと発達するように誘導する分子シグナルを理解することは、組織がどのように再生し修復するのかについての洞察を提供する。発達の複雑な段階の根底にある原理を知ることにより、肝臓や心疾患の組織を修復したり移植するための新しい細胞を自由に作ることができるようになるだろう。

ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院の研究者たちは、このプロセスのちょうど始まりの時点での細胞のアイデンティティの変化がどのようにして生じるのかについて説明することが可能になった。

「科学者としての人生の中で、初期の細胞がどのようにして遺伝子プログラムの1つをオンにすることを『決定』してその他は排除するのかについて私はずっと魅了されてきた」、再生医療研究所のディレクターで細胞発生生物学の教授のKenneth S. Zaret博士は言う。

研究者によれば、今回の発見は多種多様な生医学的状況での細胞運命の誘導に応用できる可能性がある。例えば、受精後の初期胚のように別のタイプの細胞へ変身するときの分子的な変化を理解する際に利用できる。もう一つの例は治療目的で、例えば皮膚細胞を肝臓や血液、心臓細胞に直接変えることである。



 きつく圧縮されて(Tightly Packed)

それぞれの細胞のDNAは長さが2メートルで幅は原子20個分である。この遺伝物質は全て、体内にある14兆個の細胞それぞれの核の中に詰め込む必要がある。これは染色体タンパク質の周囲にDNAを巻きつけたヌクレオソームを一つの単位として、繰り返し構造を作ることによって可能である。これらヌクレオソームはさらにクロマチンと呼ばれる構造に圧縮され、すべてのDNAを細胞の核へと組み込む。

遺伝子発現を調節するタンパク質、つまり転写因子は、その標的であるDNAの作用部位をどのようにしてヌクレオソームの中から捜し出すのか? それは長年の謎だった。

京都大学のノーベル賞受賞者山中伸弥は、マウス皮膚細胞において遺伝子を調節する4つのタンパク質のスイッチを入れることで人工多能性幹細胞(iPS細胞)という胚性幹細胞と似た細胞に変換できることを発見した。遺伝子を調節する4つのタンパク質は、Oct4、Sox2、Kl
f4、c-Mycという転写因子である。これらはまとめて山中因子として知られ、通常は初期胚で活性化している。

山中らの研究を基礎として、Zaretの研究室は山中因子のヌクレオソームとクロマチンに対する標的活性を比較した。細胞にプログラムしたり再プログラム化を引き出すため、転写因子はもともとの細胞タイプではサイレンシング(silencing)されていて発現しないよう決められている遺伝子に結合する必要がある。これらのサイレンシングされた遺伝子は、典型的にはきつくヌクレオソームにグルグル巻きにされて「閉じて」いて、クロマチンの中に埋め込まれている。

最も高いリプログラム活性を持つ転写因子は、そのような閉じたヌクレオソームDNA上にある標的箇所と相互作用するために必要な能力を持つ。これらの転写因子は閉じたクロマチンの分子の変化を開始することができるので「パイオニア因子(pioneer factors)」と呼ばれる。

「これらパイオニアタンパク質の活性は、ヌクレオソームの表面上にあるDNAの特定領域に『適応』できる転写因子の能力と単純に関連する」、Zaretは言う。



 小刻みに揺れ動く因子(Wiggle Factor)

パイオニア因子のDNA結合ドメイン(DBD)は、ヌクレオソームに巻き付いたDNAの標的箇所を認識する。ヌクレオソームでのDNA構造部は染色体と関係するタンパク質によって閉じ込められている。パイオニア因子は、閉じてサイレンシングされたクロマチンの中にあるDNAを最初に標的とすることで、特定の細胞のサイレンシングされた遺伝子の発現を開始させる。それは一つの細胞タイプから別の細胞タイプへの変換を可能にする。

ZaretとSoufiは、パイオニア因子が特別なやり方で小刻みに揺れ動く(wiggle)柔軟な(adaptable)DBDを持つことを発見した。山中因子のOct4、Sox2、Klf4は、小刻みに揺れ動いてパイオニア因子として働くが、cMycはそれらより柔軟性がなく、パイオニア因子によって補助される。

パイオニア因子は小刻みに揺れ動くことにより、染色体タンパク質と複合体を形成しているDNA分子の形状と物理的に適応することができる。

「Oct4、Sox2、Klf4は、クロマチンの『閉じた』部位を標的とすることができる能力によってプログラムを作り直す間のパイオニア因子として機能するが、c-Mycはそうではない。この閉じた部分は、DNAの活性化した部分が持ちうる化学的修飾を欠くという点で『ナイーヴ』である」、Zaretは説明する。

彼らは今回発見した原理の普遍性について調べるために他の研究に目を向け、同じメカニズムが他の例にも適用されることを発見した。皮膚細胞からニューロンを作成するような場合でも、転写因子は細胞をリプログラムする間にパイオニア因子として働く。

学術誌参照:
1.パイオニア転写因子はヌクレオソーム上のDNAモチーフの一部を標的にして、リプログラミングを開始する。

Cell、2015年4月

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/04/150416141032.htm

<コメント>
山中因子のように細胞の運命を変えることができる転写因子は、閉じたヌクレオソーム上の標的と相互作用する能力がある「パイオニア因子(pioneer factor)」であるという記事です。ヌクレオソームのヒストンのメチル化やアセチル化などの修飾によりクロマチン構造は変化しますが、パイオニア因子は閉じたクロマチンに対してもアクセスして転写を開始できるとのことです。

山中因子以外にも例えばFOXA1はエストロゲン受容体による転写調節に先立つパイオニア因子であることが知られていますし、最近の記事でもTNFαシグナルが潜在的なエストロゲン受容体αの結合箇所を露出させて乳癌細胞の転写を変化させるというものがありました。



2015年1月1日

2015-01-05 23:33:33 | 生命

教科書の科学に逆らうタンパク質の新しい役割
Defying textbook science, study finds new role for proteins



どんな生物学の入門書でもいいから開いてみよう。あなたが最初に学ぶことの1つは、我々のDNAにはタンパク質を作るための『指示(instructions)』が明確に記されているということである。

Scienceで1月2日に発表される研究結果は、そのような教科書のサイエンスに反抗する。研究が明らかにしたのは、タンパク質の基礎単位であるアミノ酸は設計図、つまりメッセンジャーRNA(mRNA)がなくても組み立てることができるということである。研究者チームは、Rqc2というタンパク質が、どのアミノ酸を加えるかを指定する事例を観察した。



「この驚くべき発見は、生物学についての我々の理解がどんなに不完全かを反映する」、ユタ大学生化学部のポストドクターで筆頭著者のPeter Shen博士は言う。

細胞を工場であると仮定すると、リボソームはタンパク質組立てライン上の機械である。リボソームはDNAという遺伝子コードにより決められた順序で、アミノ酸をタンパク質に結合していく。

もし何かが間違った方向に進んだ場合、リボソームは立ち往生するかもしれない。するとそこへ品質管理の作業員が呼び出される。混乱を片付けるためにリボソームは解体されて設計図であるmRNAは廃棄され、既に一部が作られたタンパク質はリサイクルされる。

しかし、今回の研究はその品質管理チームのメンバーの驚くべき役割を明らかにする。そのメンバーはRqc2と呼ばれ、酵母から人間まで保存されているタンパク質である。不完全なタンパク質がリサイクルされる前に、Rqc2はリボソームに20種類のアミノ酸のうちたった2種類、アラニンとスレオニンだけを加えさせるよう促す。そして2つはどんな順序でも良い。

『指示』を失ったにもかかわらず動き続けるクルマの自動組立てラインを考えてみよう。その組み立てラインはできることを適当に見つけて、ひたすら組み立て続ける: ホーン-ホイール-ホイール-ホーン-ホイール-ホイール-ホイール-ホイール-ホーン。

余計なホーンとホイールがたくさん取り付けられた出来損ないの車のように、アラニンとスレオニンの明らかにランダムな配列が組み込まれた省略タンパク質は一見して奇妙であり、おそらく正常に機能しないだろう。

しかし、この無意味な配列はおそらく、特異的な目的のために役立つ。そのコードは、破壊されなければならない不完全なタンパク質であることを合図しているのかもしれないし、またはリボソームが適切に動作しているかを確認するためのテストの一部である可能性がある。

これらのプロセスのどちらか(または両方とも)は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病のような神経変性疾患において不完全である可能性をエビデンスは示唆する。



研究者は活動中の品質管理機構を急速に冷凍(flash freeze)し、低温電子顕微鏡法という技術を微調整して視覚化した。新しいRNAシーケンシング技術により、Rqc2/リボソーム複合体には立ち往生したタンパク質にアミノ酸を加える能力があることが示された。理由はRcq2がtRNAも結合したからである。彼らが観察した特異的なtRNAは、アミノ酸のアラニンとスレオニンを運ぶtRNAだけだった。

研究の決め手は、立ち往生したタンパク質には多くのアラニンとスレオニンから成る鎖が加えられると認められた時である。

記事出典:
上記の記事は、ユタ大学健康科学によって提供される素材に基づく。


学術誌参照:
1.Rqc2pと60Sリボソーム・サブユニットは、mRNAから独立したアミノ酸の伸長を仲介する。

Science、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150101142314.htm

<コメント>
いわゆるセントラルドグマを完全に無視する「タンパク質がタンパク質を作る」という流れが明らかになったという記事です。

下図の黄色がRqc2タンパク質、ダークブルーと青緑がそれぞれtRNAです。緑色で表された作りかけのタンパク質に、中央の明るい点の位置でアミノ酸が付加されている様子です。



2014年10月13日

2014-10-15 05:20:30 | 生命

年老いた母親から生まれる子供のミトコンドリアには、高い割合で突然変異が見つかる
Greater rates of mitochondrial mutations discovered in children born to older mothers



ペンシルバニアの科学者による「母体年齢効果(maternal age effect)」の発見は、母親の卵細胞(egg cell)に存在するミトコンドリアDNA(mtDNA)の突然変異の蓄積の予測に用いられる可能性がある。

mtDNAの突然変異は子供に伝達(transmission)されるため、彼らの研究は遺伝カウンセリングに有益な洞察を提供するかもしれない。mtDNAの突然変異により200以上の疾患が生じ、mtDNAは糖尿病や癌、パーキンソン病、アルツハイマー病のような疾患を引き起こす一因でもある。



細胞内でエネルギーを生み出すミトコンドリアは自分自身のDNAを持つが、今回の研究によれば母親自身のmtDNAはもちろん、年老いた母親から生まれる子供のmtDNAには高い確率で変異が見られる。

「多くのミトコンドリア疾患は、心臓、骨格筋、脳など多くのエネルギーを必要とする臓器に影響を及ぼす」、生物学教授のKateryna Makovaは言う。

「それらは悲惨な疾患であり、そして治療法が存在しない。ミトコンドリアの伝達に関する我々の発見はきわめて重要である。」



多くの専門家から構成される研究チームは、母親の年齢がmtDNAの突然変異の蓄積において重要かどうかについて研究し始めた。mtDNAの変異は、母親と、そして伝達の結果として子供に蓄積される。

mtDNAの配列決定により、年老いた母親の血液と頬の内側の細胞ではより多くの突然変異が見られた。研究に参加した母親の年齢の範囲は25歳から59歳だった。

「この発見には驚かなかった」、Makovaは言う。「我々は年をとり、細胞は分裂し続ける。したがって年を取るほど多くの突然変異が生じる。」

しかし、より年老いた母親から生まれた子供のmtDNAに突然変異の割合が高かったという発見には驚いたという。研究者は同様の突然変異プロセスが母親の体細胞(somatic cell)と生殖細胞系(germ line)の両方で生じると考えている。



今回の研究はさらに、卵細胞の発達に関する別の重要な発見につながった。

発育過程の卵細胞は「ボトルネック(bottleneck)」という期間を経験することが知られている。ボトルネックではミトコンドリアDNA分子の数が減少するが、科学者はこのボトルネックがどれぐらいの「大きさ」なのかを知らなかった。

「ボトルネックが大きい場合、母親のミトコンドリア遺伝子の構造は子供にも引き継がれるだろう」、Makovaは説明する。

「しかしそれが小さい場合、つまり、卵細胞の発達の間にミトコンドリアDNAが激しく減少するならば、その子供の遺伝子の構造は母親のそれとは劇的に異なるかもしれない。そして我々の発見によれば、このボトルネックは実際きわめて小さいのである。」



この発見は特にミトコンドリア疾患を有する母にとって重要である。多くのミトコンドリア疾患は、その兆候が表れるために70~80パーセントのmtDNAが病原性の変異を持つ必要がある。しかし他の疾患では、疾患を引き起こすために必要な変異mtDNAはわずか10パーセントである。

「我々が研究で発見したようにボトルネックがきわめて小さい場合、これらの割合は劇的に変化する可能性がある」、Makovaは言う。

「ボトルネックのサイズを知ることにより、疾患を運ぶmtDNAが子供に伝えられる割合の範囲を予測できるようになる。」

学術誌参照:
1.ヒトのミトコンドリアDNAの伝達における、母体年齢効果と、生殖細胞系の厳格なボトルネック。

PNAS、2014年10月;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141013152816.htm

<コメント>
ミトコンドリアと母体年齢効果(maternal age effect)の関連についての記事です。

細胞のミトコンドリアに正常と変異体が混在している状態はヘテロプラスミー(heteroplasmy)と呼ばれ、卵細胞の形成過程における減数分裂での「ボトルネック効果」により、それぞれの卵細胞に配分される正常と異常の割合はかなり異なってくる可能性があります。




Eurekalertの方には具体的なグラフが載っていました。




以前にも母体年齢効果についての記事がありました。


http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/449218709b0b00549d23259d94a0d56d

>卵母細胞(oocyte; 未発達の卵子細胞)における染色体分離のエラーは、先天性異常と流産の主な原因である。女性が30代後半に届く頃には、染色体の数が間違った胎児を妊娠する確率は30パーセントを超える。

>この現象は母体年齢効果(maternal age effect)として知られているが、その原因となる分子的なメカニズムはほとんど理解されていない。


http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/3540ae5577d6176d0069165511a6c61a

>減数分裂の早い段階では姉妹染色体の間の動原体は機械的に融合し、その融合は染色体の分離が早すぎないように保ち、置き忘れられて終わらないようにする。

>融合した動原体は単一の動原体よりも多くの結合エレメントを含み、頑丈で断裂しにくい結合を形成する。

2014年10月2日

2014-10-04 23:36:10 | 生命

疾患の流行を維持するDNAの『偏り』
DNA 'bias' may keep some diseases in circulation, biologists show



今回の研究は、ヒトのある種の疾患の遺伝子がなぜ偏っているか(predilection)という問題に関してはっきりさせる。

いくつかの理由は既に明らかである。例えばアーミッシュAmish)はいくつかの遺伝子疾患のリスクが高いが、その理由の一部は始祖効果(founder effects)と呼ばれる現象に起因する。つまり祖先の数が比較的少ない集団では特定の遺伝子の頻度が高くなり、疾患を発生させやすくする。

遺伝子の疾患がある状況にとって有利である場合も、比較的共通になる可能性もある。

「古典的な例は鎌状赤血球貧血症である」、ペンシルベニア大学のLachanceは言う。

「鎌状赤血球の突然変異のコピーを1つ持っている人はマラリアから保護される。それは進化的なトレードオフである。」



しかし、遺伝子変換(gene conversion)イベントについてはほとんど知られていない。

研究者たちは以前、異なる対立遺伝子がグアニン(G)またはシトシン(C)ヌクレオチドを含む場合は、遺伝子変換の間にDNAが保持され、複製される可能性が高くなることを発見した。

反対に、対立遺伝子がアデニン(A)またはチミン(T)を含む場合、DNAは変換されてしまうか、置き換えられてしまう可能性が高い。

「この偏り(bias)はきわめて小さい」、Lachanceは言う。

「それはほんのわずかに偏ったコインに似ている。世代を越えて、そして膨大な量のゲノム全体で、何度も何度も『コインを投げ』ることで初めて、我々は集団レベルで効果を観察し始めるだろうと考えた。」



この『GCバイアス』として知られる遺伝子の選好(preference)が影響を持つかどうかを観察するため、LachanceとTishkoffは、多様な集団を代表する5つのグループそれぞれから5人ずつ、合計25人のゲノム配列を分析した。

彼らは750万個の一塩基多型(SNP、単一のヌクレオチドが関係する突然変異)を特定し、その変化が「GまたはC」から「AまたはT」、またはその反対への変化を示すかどうかで分類した。

その結果彼らは、小さいが、明らかなGCバイアスの影響を集団全体で発見した。それは時間が経つにつれて、GまたはC変異体への変換がわずかに好まれたことを示す。



彼らはさらに、遺伝子の組換え(recombination)が起きやすいゲノムの領域を調べた。

組換えは、DNA配列に誤対合(mismatch)を生じさせる。それは「誤り」であり、遺伝子変換(gene conversion)によって「修復」されなければならないと解釈される可能性がある。したがって、遺伝子変換は組換えのホットスポット(hot spot)でより頻繁に生じる。

※hot spot: 染色体DNAの中でも特に高頻度で組み替えや突然変異が生じる部位

「我々の仮説は、これらの領域でGCへの偏りを観察する可能性が高いということだった」、Lachanceは言う。

「そしてそれはまさしく我々が観察したことである。これらの組換えホットスポット領域は、GCへの偏りが多かった。」



研究者たちは、弱いが、しかし実在する影響の強さを算出した。

AまたはT対立遺伝子を1つと、GまたはC対立遺伝子を1つ持つ人間は、50.000364パーセントの確率で(AまたはTからGまたはCへと)変換して子供にGまたはC対立遺伝子を伝える。

研究者はGC偏りの影響下にあるSNPを調査して、それらがホモ接合の確率が高いことを発見した。すなわち、GC変換が関係しないSNPよりも、それらの突然変異を含む同じ対立遺伝子のコピーを2つ持つ傾向があった。

ホモ接合であることは多くの遺伝子疾患に関しては有害である。それら遺伝子疾患は劣性である傾向があり、発現するためには同じ突然変異のコピーを2つ必要とすることが多い。

ペンシルベニアの科学者の分析によれば、このようなホモ接合性の可能性の増加は、今回の研究対象である5つの集団において42~63パーセントの劣性疾患リスク増加につながると予測された。

遺伝子変換によって影響される対立遺伝子が疾患と関連しやすくなるので、彼らはこれを「変換の呪い(the curse of the converted)」と名づけた。



LachanceとTishkoffは、この影響は疾患に関してだけでなく、より一般的に集団遺伝学研究を実施するときでも考慮されるべきであると強調する。自然淘汰(natural selection)の結果であると思われるいくつかの傾向も、実際にはGCの偏りから生じている可能性がある。

「普通、集団遺伝学では分子遺伝学はわからない。ヌクレオチドのレベルで起こっていることは不明である」、Lachanceは言う。

「しかし今回、我々がしばしば認識するより生命はたいへん複雑であり、分子の影響は重要であることを我々は研究で発見した。」

記事供給源:
上記の記事は、ペンシルベニア大学によって与えられる素材に基づく。

学術誌参照:
1.偏った遺伝子変換はヒト集団で対立遺伝子頻度をゆがめ、劣性対立遺伝子の疾患負荷を増加させる。

アメリカン・ジャーナル・オブ・ヒューマン・ジェネティクス、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141002123639.htm

<コメント>
組み換え(recombination)の際に生じる誤対合(mismatch)の修復によって起きる遺伝子変換(gene conversion)はわずかにGCに偏っていて、それがホモ接合による遺伝子疾患の維持につながる可能性があるという記事です。


2014年9月15日

2014-09-17 11:41:15 | 生命

細胞は、シンプルに染色体混乱を回避する
Cells simply avoid chromosome confusion



生殖細胞の分裂は染色体仕分けエラーを回避するために、シンプルな力学的解決案を発展させた。

この自然な保護は、不妊症、流産または先天性の疾患につながるような誤った染色体数と不整列を予防する。

「生殖細胞が分裂する間の誤りはこれらの問題を生じるが、何が正確にうまくいかないかはしばしば理解されない」、スコットランド、エディンバラ大学の細胞生物学のアデール・マーストンは言う。

マーストンは、減数分裂を調査する国際チームの一人である。



全てのタイプの細胞分裂において、姉妹染色分体(sister chromatids)は接着(cohesion)によって最初は一緒に保たれる。

しかし、生殖細胞の減数分裂の早い段階のステージでは、特別にしっかりした強い結合(strong, extra-tight linkage)が姉妹染色分体を接合することを研究チームは発見した。



細胞が分割する準備をするとき、動原体(kinetochores)と呼ばれる分子機械が染色体の移動を制御して促進する。

動原体は一連のタンパク質から構成され、微小管という非常に小さい繊維様構造の先端に結合する。

その先端はモーターとしての機能を果たす。

動原体は、微小管先端の延長と短縮を役立つ力に変換して、染色体を動かす。



今回の新しい研究で、減数分裂の早い段階では姉妹染色体の間の動原体は機械的に融合し、その融合は染色体の分離が早すぎないように保ち、置き忘れられて終わらないようにすることを研究者は確かめた。

融合した動原体は単一の動原体よりも多くの結合エレメントを含み、頑丈で断裂しにくい結合を形成する。



生殖細胞分裂の早い段階では、monopolinと呼ばれるタンパク質複合体が細胞中に見られ、それはこの一時的な変化の裏に存在するようである。

monopolinは、他のファクターがない場合でも単独でシャーレ上の動原体の小片を融合させることが可能だった。



研究者は、動原体の融合が健康な細胞の染色体の適切な分布にとって基本的なメカニズムであると考えている。

記事供給源:
上記の記事は、ワシントン大学健康科学/UW医学により提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.姉妹動原体は、酵母において減数分裂Iの間、機械的に融合する。

Science、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/09/140915154120.htm

<コメント>
少し前にも、減数分裂における染色体の接着と分離を制御する仕組みについての記事がありましたが、


http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/449218709b0b00549d23259d94a0d56d

「ショウジョウバエが短い期間(6日)接着を能動的に完全に保つというメカニズムを所有しているのに、
 それよりもずっと長い期間(数ヶ月から数年)接着を維持しなければならない哺乳類の卵母細胞にも類似したプログラムが存在するのでなければ、理解しにくいのである。」


今度は酵母での研究です。

下の写真は、染色体の分離を研究するためにワシントン大学の研究室で使われている全反射蛍光(total internal reflection fluorescence; TIRF)顕微鏡だそうです。



2014年9月11日

2014-09-16 22:15:12 | 生命

年老いた女性の間の先天性異常の分子のメカニズム:
年老いた女性は、なぜダウン症候群の赤ちゃんを産む可能性が高いのか

Molecular mechanisms of birth defects among older women:
Why older women can have babies with Down Syndrome



ショウジョウバエの細胞分裂を研究していたダートマス研究者は、より年老いた女性がダウン症候群の赤ちゃんを産む原因となる『分子の誤り』についての理解を改善する経路を発見した。



女性が年をとるにつれて、卵子も年を取る。そして、30代以降の女性はダウン症候群の胎児を妊娠する可能性が劇的に増加する。

そのような妊娠の大部分は、配偶子(gamete; 精子と卵子)をつくる特殊な細胞分裂、つまり減数分裂(meiosis)という過程での誤りから生じる。

減数分裂の誤りによって染色体の数が間違った配偶子が生じ、それはダウン症候群を引き起こす。

ダウン症候群の胎児は3コピーの21番染色体(21トリソミー)を受け継ぐ。



卵母細胞(oocyte; 未発達の卵子細胞)における染色体分離のエラーは、先天性異常と流産の主な原因である。

女性が30代後半に届く頃には、染色体の数が間違っている胎児を妊娠する確率は30パーセントを超える。

この現象は母体年齢効果(maternal age effect)として知られているが、その原因となる分子的なメカニズムはほとんど理解されていない。



減数分裂の間の正確な染色体の分離(chromosome segregation)は、タンパク質の結合(接着; cohesion)に依存する。

接着は、複製された染色体の同一コピーである姉妹染色分体(sister chromatid)を一緒の状態に保つ。

ダートマスと他の研究室による最近の証拠は、減数分裂の接着は時間が経つにつれて弱り、母体年齢効果に寄与することを示す。



広く知られていることだが、通常の条件下での減数分裂の接着は、卵母細胞がDNA複製を経験するときに一度確立されるだけである。

このことは、ヒト卵母細胞における誤りがない分離の必要条件は、胎児発達の間に卵母細胞で確立された減数分裂接着が何十年もの間(閉経期まで)、完全に存続しなければならないということを意味する。

長年にわたる接着の段階的な低下が、母体年齢効果に寄与すると考えられている。



しかしながら、ダートマス大学や他の大学の研究者は、胎児の卵母細胞で生じる最初の接着の結合が、25年どころか、5年間でさえ、減数分裂した染色体上で完全なままであるという可能性を疑問視した。

その代わりの可能性は、減数分裂接着の持続が能動的プロセスであり、新しい接着の結合を行うために特殊な「若返り(rejuvenation)」プログラムを利用するというものである。卵母細胞は排卵まで静止したままであるが、その長期間の全体を通じてプログラムが動く。



ビッケルは2003年、卵子がより年老いていくにつれて、なぜ、より多くの誤りが細胞分裂の間に生じるかについての研究にショウジョウバエが使えることを確立した。

彼女たちは今回の最新のリサーチで、接着の能動的な若返りプログラムを卵母細胞が備えているという仮説を検証した。

研究者たちはショウジョウバエの卵母細胞で接着タンパク質(cohesion proteins)を減少させた。それはDNA複製の間の正常な減数分裂接着が確立された後だが、卵母細胞が成熟して排卵する前である。

研究の結果、接着タンパク質が低下すると接着は早期に失われ、減数分裂中の染色体は誤って分離した。



正常な生理的状況下では新しい接着の結合の生成が減数分裂/DNA複製後の卵母細胞で起こり、卵母細胞が長期間の間その減数分裂接着を維持するためには、接着の結合の取り替え(replacement)が必須であることを彼女たちの研究は初めて示した。

研究のシニア著者、准教授シャロン・ビッケルは言う。

「減数分裂接着の若返りが哺乳類で生じるかどうかは証明されていない。

しかし、ショウジョウバエが短い期間(6日)接着を能動的に完全に保つというメカニズムを所有しているのに、それよりもずっと長い期間(数ヶ月から数年)接着を維持しなければならない哺乳類の卵母細胞にも類似したプログラムが存在するのでなければ、理解しにくいのである。」



通常の条件下では、ショウジョウバエの卵母細胞の接着の若返り(rejuvenation)は、正確な染色体分離を促進するのに十分なだけの接着の結合数を確実にする。

しかしビッケルの2008年の研究によれば、実験によりこれらの細胞に「老化(aging)」を強制すると接着は早期に失われ、染色体は誤って分離する。

したがって「年老いた」状態では、ショウジョウバエの卵母細胞の通常の「若返り」経路は、接着を維持することができない。



「このことは、減数分裂の接着の若返り経路がヒト卵母細胞でも作用している場合、その効果が年齢と共に落ちていくかもしれないという興味深い可能性を意味する」、ビッケルは言う。


「接着障害は年老いた女性で顕著になるかもしれないが、それは最初の接着の結合が最終的に尽きてしまうからではなく、若返りプログラムが新しい接着の結合を喪失と同じ割合で供給することができないからである。

この可能性についてのさらなる研究は、我々の母体年齢効果についての考え方を変えるかもしれない。」

記事供給源:
上記の記事は、ダートマス大学により提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.Prophase Iの間の卵母細胞の減数分裂接着の回復(Rejuvenation)は、キアズマ(Chiasma)の維持と正確な染色体分離のために必要とされる。

PLoS Genetics、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/09/140911135440.htm

<コメント>
ショウジョウバエの卵母細胞での姉妹染色分体の接着/合着(sister chromatid cohesion)の維持には、コヒーシン(cohesin)の若返り(rejuvenation)経路による置き換えが必要であり、それは老化とともに低下して染色体の正常な分離を妨げるかもしれないという記事です。



2014年9月11日

2014-09-12 23:27:41 | 生命

科学者は、ヒトの幹細胞を純粋な状態に転じる
Scientists revert human stem cells to pristine state



胚性幹細胞(embryonic stem cell; ES)は発達の早い段階から生じ、細胞のどんなタイプにでも分化させることができる。

これまで科学者は、成体のヒトの細胞(例えば、肝臓、肺、皮膚など)を、わずかに異なる特性を持つ多能性幹細胞(pluripotent stem cell; PS)に逆戻りすることができるだけであり、確実なES細胞はマウスとラットから導かれるだけだった。



「マウスの細胞を『完全に白紙の予定表』に転じることは、すでに日常的である。しかし、等価のナイーヴなヒトの細胞系統を生じることは、はるかに難しいチャレンジであることを我々は証明した」、EMBL-EBIリサーチ・グループのリーダー、ポール・ベルトーネ博士は言う。

※EMBL: European Molecular Biology Laboratory(欧州分子生物学研究所

※EBI: European Bioinformatics Institute(欧州バイオインフォマティクス研究所

「ヒトの多能性細胞は、哺乳類の胚が子宮に移ってからの発達中にやや後で出現する細胞タイプに似ている。」

この時点で遺伝子発現のかすかな変化が細胞に影響し始め、細胞は特定の系列の方へと誘導されると考えられている。

試験管で受精した(in vitro fertilised; IVF)胚から、多能性ヒト細胞を培養することはできる。しかし、マウスから得られるES細胞と同等のヒトの細胞は今まで存在しなかった。



「しかし、iPS細胞技術の出現により、分化したヒト細胞を『より早い段階の状態』に逆戻りさせることは可能なはずであると思われた。」



科学者たちは新しいアプローチを採用した。NANOGKLF2という2つの異なる遺伝子を発現させ、細胞を再プログラム(reprogramming)してリセットするという方法である。

再プログラムされた細胞は、特定の生物学的経路を阻害することによって無期限に細胞を維持した。結果として生じた細胞はどんな成体の細胞タイプにでも分化させることが可能であり、遺伝子的にも正常だった。

「我々はEMBLゲノミクス・コア施設で全転写データを包括的に分析し、ヒトのリセット細胞を本物のマウスES細胞と比較した。実際、それらは多くの類似点を共有していることが判明した。」



彼らはBabraham研究所のウルフReik教授と協力して、ゲノム全体にわたって多くのDNAメチル化が消去されたことも示した。それはリセットされた細胞から生じる細胞タイプが『無制限』であることを示す。

記事供給源:
上記の記事は、EMBL-EBIにより提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.ヒトにおいて、転写因子のリセットは、基底状態多能性(Ground-State Pluripotency)へ回路を制御する。

Cell、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/09/140911125047.htm



<コメント>
多能性幹細胞に2つの転写因子を一時的に発現させることで、マウスの胚性幹細胞に相当する基底状態多能性(Ground-State Pluripotency)へ変えることに成功したという記事です。



2014年8月6日

2014-08-10 22:38:43 | 生命

分子の競合は成体幹細胞の専門化を促進する



ショウジョウバエからヒトまで、成体の有機体には『成体幹細胞』が存在する。それは古くなったか損害を受けた細胞を置き換えるために必要な特殊な細胞に分化する一方で、一部は細胞分裂を通して自分自身を新しくする。

成体の幹細胞で自己複製と分化の釣合いを制御する分子のメカニズムを理解することは、組織を再生する治療法を作り出すための重要な基礎である。



ストワーズ医学研究所の科学者は、2つのタンパク質(BamとCOP9)の競合が、ショウジョウバエの卵巣で生殖細胞系幹細胞(germline stem cell; GSC)の自己複製と分化機能のバランスをとることを報告する。

「BamはメスのショウジョウバエのGSCシステムのマスター分化因子である」、ストアーズ研究者のティン・シェ博士は言う。

「自己複製から分化への転換を行うために、Bamは分化因子の機能を活性化すると同時に、自己複製因子の機能を不活性化しなければならない。」



Bamはショウジョウバエの分化している細胞で発現が高く、GSCでは発現が非常に低い。

そしてCOP9シグナロソーム(CSN)は、Bamによって目標とされる自己複製因子の一つである。COP9は進化的に保存されてきた多機能複合体であり、8つのタンパク質サブユニット(CSN1からCSN8まで)が含まれる。



シェたちは、BamがCOP9のサブユニットの一つであるCSN4を隔離して拮抗することによって、COP9の機能を『自己複製』から『分化』へと変更できることを発見した。

「BamはCSN4と直接結合する。そして競合により他の7つのCOP9成分との会合を妨害する」、シェは言う。

CSN4は、Bamと相互作用することができる唯一のCOP9サブユニットである。



シェの研究室は以前、BamがE-カドヘリンの発現を抑制するために必要であることを発見している。

E-カドヘリンは成体幹細胞を組織ニッチにつなぎ留めてGSCの自己複製を促進する(Bamは自己複製を抑制する)。



さらに、Bamは別のGSCの自己複製(真核生物翻訳開始因子-4A; eukaryotic initiation factor-4A; eIF4A)のプロモーター機能も不活性化する。



他の研究室も、BamがNanosの発現を抑制することを明らかにしている。Nanosはメスのショウジョウバエで自己複製するGSCを確立して維持するために必須であると考えられている。

学術誌参照:
1.タンパク質競合は、COP9の機能を自己複製から分化へと変える。

Nature、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/08/140806134420.htm


<コメント>
ショウジョウバエの生殖細胞系幹細胞では、Bamが自己複製を抑制して分化を促進するという記事です。

Bam─┤COP9/CSN4、eIF4A、Nanos


Bamが変異したショウジョウバエの卵巣は、下図のように赤色の成体幹細胞様細胞(adult stem cell-like cells)がほとんどを占めるようになります。
緑色は球状スペクトロゾーム(spherical spectrosome)というショウジョウバエ幹細胞の細胞小器官です。



2014年7月17日

2014-07-23 06:21:42 | 生命

飢餓の影響は、DNAではなく『スモールRNA』により未来世代に引き継がれる



飢餓はその子孫の健康に影響を及ぼす。それはヒトの観察と動物の実験から示唆されている。しかし、そのような後天的な特性がどのように伝えられるかは不明だった。

回虫による新しい研究によれば、飢餓は『スモールRNA』における特異的な変化を誘発し、その変化は少なくとも3世代を通して遺伝する。そして明らかなDNAの関与は見られなかった。



「第二次世界大戦のオランダの飢饉の様な出来事から、科学者たちは後天的な継承という新しい見方をせざるを得なくなった」、コロンビア大学メディカル・センター(CUMC)のハワード・ヒューズ医学研究所のOliver Hobert博士は言う。

飢饉の間に飢えている女性が出産すると、その子どもは肥満と他の代謝異常に非常に影響されやすくなり、それは孫でも同様であった。



2011年、Hobert博士の研究所のOded Rechaviは、ウイルスに抵抗性を獲得した回虫(線虫)は、その免疫を後の世代の子孫に連続して伝えていくことが可能であることを発見した。

その免疫は、DNAとは独立して作用する『ウイルス・サイレンシング・スモールRNA(small viral-silencing RNA)』の形で伝えられた。



今回、Hobert博士のチームは6日間回虫を飢えさせて、細胞に分子の変化がないか調べた。

結果、飢えた回虫は特異的なスモールRNAを生成したことが判明した。

回虫に普通食を与えてもこのスモールRNAは少なくとも3世代は持続した。

さらに、これらのスモールRNAは栄養に関与する遺伝子を標的とする。


「我々は、スモールRNAが細胞から細胞に輸送されることを他の研究から知っている」、Hobert博士は言う。

「飢餓によって誘発されたスモールRNAは、ワームの生殖細胞に伝わった可能性がある。」



研究では、飢えた寄生虫の子孫はそうでない子孫よりも寿命が長かった。

「ただの相関である可能性もある。しかし、これらのスモールRNAがワームの後期の世代で関連する遺伝子の発現を制御する手段を提供したことはありえるだろう」、Hobert博士は言う。

学術誌参照:
1.線虫の飢餓によって誘発されたスモールRNAのTransgenerational継承。

Cell、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/07/140717094600.htm



<コメント>
線虫を絶食させると子孫にも影響が残り、それはRDE-4などにより仲介されるRNA干渉によるらしいという研究です。

ヒトでも同様に環境に対応するためのエピジェネティックな仕組みが存在する可能性は高そうです。


2014年7月3日

2014-07-09 16:16:37 | 生命

甘い遺伝子:
代謝がDNAの調節にリンクされる新しい方法が見つかる




Alberta大学の研究チームは、代謝がDNAの調節とリンクするための新しい方法を発見した。

DNAは細胞核のヒストンという特殊なタンパク質の周囲に巻きつく。

通常、ヒストンはDNAをきつく凝縮するように保つことで遺伝子の発現とDNAの複製を妨げる。

しかし、DNAの複製は細胞成長と分裂のために必要であり、その重要な機能が実行されるためにヒストンはアセチル基の結合で修飾される必要がある。

アセチル基はアセチルCoAという重要な分子によって供与され、アセチル基の結合はDNAをゆるめる。それはDNAの複製と遺伝子発現を許す。

この「DNAのエピジェネティック調節」というメカニズムは、正常な機能ならびに心不全または癌の様な疾患に共通して重要である。

これまで、核がどのようにしてヒストンのアセチル化のためにアセチルCoAを生成するかは確認されないままだった。



ポストドクターGopinath Sutendraと教授Evangelos Michelakisによって指揮される研究チームは、ミトコンドリアの中にだけ存在すると考えられてきたピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(PDC)酵素が、実際には核に入ってアセチルCoAを生成できる可能性を発見した。

ミトコンドリアでのPDCは、我々の食事から炭水化物を使用して、エネルギー産生のためにアセチルCoAを生成する。

核に入ったPDCは、ヒストンのアセチル化のためにアセチルCoAを生成する。

研究チームはさらに、PDCの核へのトランスロケーションが癌をより急速に発達させることを発見した。

学術誌参照:
1.核ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体は、アセチルCoAとヒストン・アセチル化の生成にとって重要である。

Cell、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/07/140703151821.htm

<コメント>
ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDC)はEGFなどのシグナルによってミトコンドリアから細胞核に移行して、ヒストンのアセチル化に必要なアセチルCoAを供給するという記事です。

ヒストンのアセチル化という言葉で分かった気になっていましたが、確かに、アセチル基の供給がないとアセチル化はできませんよね。




2014年6月18日

2014-06-21 11:47:24 | 生命

血管の成長に関与する分子の『陰陽(yin-yang)』が明らかにされる


スクリップス研究所(The Scripps Research Institute; TSRI)の生物学者は、血管の発達を調節する重要なプロセスを発見した。

「我々が本質的に示したのは、タンパク質のSerRSが、どのように血管新生に対する歯止めとして作用するか、そして腫瘍を促進する転写因子c-Mycと対になって適切な血管の発達をもたらすかである」、TSRI教授のXiang-レイ Yangは言う。

「彼らは、転写調節の陰陽として作用する。」



SerRS(セリルtRNAシンテターゼ)は、細胞のタンパク質合成に関わるだけでなく、血管新生にも関与する。

SerRS遺伝子の特定の部分に突然変異をもつゼブラフィッシュは、異常な血管系を発達させた。同時に、重要な血管成長因子VEGFAの過剰なレベルが見られた。

SerRSはこの特定の部分、つまり『ホーミング配列』により、細胞質のタンパク質製造機械から離れて細胞核へと輸送される。SerRSは核内で、その血管形成を調節する機能を実行する。



科学者たちは、SerRSのノックダウンがVEGFA産生の大きい上昇につながることをまず確認した。

次に彼らは、VEGFA遺伝子の「プロモーター領域」にそのSerRSが結合することを確かめた。

その領域は、通常は転写因子c-Mycが結合する部位で、c-MycとSerRSはプロモーター領域で競合した。



さらに、c-Mycはアセチル基をDNA構造に加えてVEGFA転写を促進するのに対して、SerRSは逆にアセチル基を取り除くことが判明した。

そしてSerRSは、パートナーとして脱アセチル化酵素酵素SIRT2をリクルートすることによって、VEGFA DNAを脱アセチル化する。

SIRT2の役割を確認するために、彼らはゼブラフィッシュでSIRT2をノックダウンした。すると、SerRSが核内へのホーミング配列を失っているときに見られるのと同じ、血管の過成長が見られた。

「VEGFA上でのSerRSとc-Mycの影響の均衡は、血管の発達にとって明らかに、重要である」、Shiは言う。

新しい知見は、最終的には抗腫瘍戦略に最も関連することになるかもしれない。

SIRT2は腫瘍サプレッサとすでに考えられており、そしてc-Mycは腫瘍を促進する「癌遺伝子」として長く知られていた。

学術誌参照:
1.tRNAシンテターゼは、機能的な血管の構造を発達させるために、c-Mycと反対に作用する。

eLife、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/06/140618135831.htm

<コメント>
SerRS(セリルtRNA合成酵素)は核内に移動するとSIRT2をリクルートして、VEGFAプロモーター上でc-Mycと拮抗するという内容です。

関連記事として、LRG1というタンパク質はTGF-βを介して血管新生を促進するというものがあります。
TGF-βは癌の悪性化にも関与していますね。

http://www.sciencedaily.com/releases/2013/07/130717132328.htm

2014年6月5日

2014-06-09 21:52:01 | 生命

臭素はヒトと他の動物で生命にとって必須である



人間の生命にとって不可欠な元素は、27と考えられていた。

しかし今、28番目が存在する:

それは臭素である。


Cellで公開される論文においてヴァンダービルト大学の研究者は、臭素が宇宙で天然に存在する92の元素の中で、すべての動物における組織の発達に第28の元素が必要であると初めて確認する。

「臭素がなければ、動物は存在しない。それは発見である」、シニア著者のビリー・ハドソン博士は言う。

ファースト共著者スコット・マコールによって指導される研究者のクリストファー・カミングズ博士とGautam(ジェイ)バーヴェ医学博士は、臭素を食事から除くとミバエは死亡し、臭素を回復すると生き残ったことを彼らは示した。

この発見は人間の疾患に対する重要な意味を持つ。

「複数の患者群が、臭素の欠乏であることが示された」、スコット・マコール博士は言う。



1980年代の中頃、2つのまれな腎臓疾患についてのハドソンの好奇心は、トリプル・ヘリカル・コラーゲンIV分子(橋梁を支えているケーブルの様な)を形成するために各々にからみつく、2つの未知のタンパク質の発見につながった。

これらのケーブルが不完全であるか損傷を受けるとき、疾患は起こる。



2009年、Medicine准教授ロベルトVanacore博士によってリードされる同僚は、細胞のために足場を形成するコラーゲンIV分子を接続するために「ファスナー」のようなふりをする、硫黄原子と窒素原子間の新しいスルフィルイミン結合の発見をサイエンス誌で報告した。

不完全な結合は、まれな自己免疫疾患であるグッドパスチャー症候群を誘発する可能性がある。

その発見は、次の単純な質問につながった:

結合はどのように築かれるか?



2012年、バーヴェ、カミングズ、Vanacoreは、答えを見つけた ― 酵素peroxidasin(ペルオキシダシン)である。

peroxidasinは動物界全体で保存されており、この酵素も疾患で役割を果たす可能性がある。

過剰に活性化したperoxidasinは、コラーゲンIVの過剰な沈着と基底膜の肥厚に至る可能性がある。そして、それは腎臓機能を弱めることがNature Chemical Biologyで報告された。

本研究では、イオンの臭化物に関する「コファクター」としての固有かつ基本的な役割と、peroxidasinがスルフィルイミン結合を築くことを可能にすることが示された。

学術誌参照:
1.臭素は、組織の発達と構造におけるコラーゲンIV足場の組立てのために必須の微量元素である。

Cell、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/06/140605140007.htm

<コメント>
臭素がperoxidasinによるコラーゲンIV形成の過程に必須だったという研究です。
コラーゲンIVは腎糸球体の基底膜などを支えるタンパク質です。



2014年5月30日

2014-06-04 11:15:44 | 生命

不可欠な概日時計タンパク質複合体の原子構造が決定される



ヨハネス・グーテンベルグ・ユニヴァーシティ・マインツ(JGU)総合植物学研究所の構造生物学教授で、分子生物学研究所(IMB)の補助責任者、エヴァ・Wolfによって導かれる研究チームは、概日リズムの調節において重要な役割を果たすタンパク質複合体の分子構造を初めて特定した。

同時に、また、彼らは驚くべき発見をした:

タンパク質複合体は亜鉛イオンを含む。それは複合体を安定させるようである。



クリプトクローム(哺乳類で概日時計と関連するタンパク質の一種)は、目下研究されている主題の一つである。

概日リズムを調節することに加えて、これらはブドウ糖ホメオスタシスと血糖レベルも制御する。

ピリオドと呼ばれるもう一つのクロック・タンパク質と共に、それらは複合体を形成する。

クリプトクローム-ピリオド複合体構造のX線分析によって研究者はクリプトクロームとピリオドタンパク質の間の相互作用の原子レベルの詳細を観察し、さらに亜鉛イオンがこの相互作用を媒介するということを発見した。

「金属イオンは複合体を安定させて、隣接するジスルフィド結合にも影響するようである」、エヴァ・Wolf教授は説明する。



研究者は、細胞質と細胞核に広く見られるredox状態の存在下でジスルフィド結合を検出するのを期待していなかった。

その存在は亜鉛イオンによって調節されるだろう。そして、ジスルフィド結合そのものはおそらく、細胞の代謝的な状態を指し示すセンサーである。

「このクリプトクローム-ピリオドタンパク質複合体の形成は、概日時計が代謝と相互作用するためのメカニズムを提供すると我々は推定する。

亜鉛イオンとジスルフィド結合は、複合体の安定性を調節することにおいて重要な役割を果たす」、Wolfは要約する。

学術誌参照:
1.概日時計タンパク質CRY1とPER2の相互作用は、亜鉛結合とジスルフィド結合構造によって変化する。

Cell、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/05/140530133348.htm


<コメント>
マウスのCRYPTOCHROME1とPERIOD2複合体の立体構造が明らかにされました。

この結合の安定には亜鉛とジスルフィド結合が重要ということで、これは時差ボケに亜鉛が効くと言われる理由を説明するかもしれません。



2014年6月2日

2014-06-04 10:10:35 | 生命

ヒトの小さい細胞機械:
スプライセオソームの詳細




ウィスコンシン・ユニヴァーシティ-マディソンの研究者は、スプライセオソームと呼ばれる小さい細胞機械の内側の働きへと掘り進んでいる。

学術誌Nature Structural and Molecular Biologyで公表される研究において、UW-マディソンのDavid Brow、Samuel Butcherと同僚はこの機械の画像を捕らえた。

研究において彼らは、スプライセオソームのパーツの詳細を高い解像度で明らかにした。

それは複合体がどのように作用し、そしてそのパーツがどのくらい古くから存在するかについての有益な洞察を与える。

それはかつて信じられていたよりも緊密なタンパク質とRNAのつながりを示す。



スプライセオソームは遺伝子からの未加工のメッセージを編集するために一緒に作用する6つの複合体から成る。

そして、必要とされない部分をメッセージから取り除く(ゆえにスプライシングと呼ばれる; splicing 接合)。

チームは、U6と呼ばれるスプライセオソームの一部の結晶を生み出した。それはRNAと2つのタンパク質でできており、その1つはPrp24と呼ばれる。

「非常にクールであることは、RNAとタンパク質の共進化の程度である」、Browは言う。

「このように進化するためには、RNAとタンパク質は以前から非常に親しい友人でなければならなかったことは明らかである。」



画像では、Prp24の一部がU6 RNAの小さいループを通り過ぎて中に飛び込むことを明らかにした。

「これまでに誰も、RNAを開放して、タンパク質を通過させ、そして再び閉まらせるための方法を知らなかった。」、UW-マディソン生化学教授のブッチャーは言う。

U6結晶構造は米エネルギー省Office of Scienceのアルゴンヌ国立研究所Advanced Photon Source(APS)を使って画像化された。

学術誌参照:
1. 1.7オングストローム解像度でのU6核内低分子リボ核タンパク(small nuclear ribonucleo protein)の中心構造。

Nature Structural & Molecular Biology、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/06/140602150707.htm

<コメント>
酵母の一種、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の核内低分子RNA(small nuclear RNA; snRNA)U6と、タンパク質Prp24との複合体である核内低分子リボ核タンパク(small nuclear ribonuclear protein; snRNP)の結晶構造です。

下の画像では赤色がU6 RNA、Prp24タンパク質の4つのRRM(RNA recognition motif; RNA認識モチーフ)はそれぞれベージュ、オレンジ、淡青緑色(aqua)、紫で、灰色はリンカーです。



Nature Structural & Molecular Biologyで画像とビデオを見ることができます。

U6はPrp24によりU4とスプライセオソームを形成します。その後U4は遊離して、プレmRNA・U2と複合体を形成してスプライシングを実行します。