機械翻訳2

興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

癌への防御を複数同時に回復する

2016-05-31 06:06:02 | 
Taking control of key protein stifles cancer spread in mice

May 20, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160520101003.htm


(4匹のマウスの肺は全て癌に曝露したが、右の2つはタンパク質経路の特定の1つを刺激する一方でもう1つの経路は止めるように介入した
左の2つには何の介入もしなかった

Credit: Ma, et. al./Brown University)

癌が転移するためには、血流へと出発した癌細胞が生き残ることを許してくれる組織を見つけなければならない
しかし癌細胞は単に『見に行く』だけではなく、積極的に転移の準備をさせる場合があり、
例えば人体の防御を抑制するタンパク質を勝手に使うco-opt
ブラウン大学の科学者による新たな研究では、そのタンパク質の制御を取り返すwrest backことによりマウスの肺で防御の多くを回復し、癌の転移を寄せつけなかったstave offことを報告する

「癌は宿主の抗腫瘍応答を取り込むco-optか回避する能力を持つことが知られている」
Jack A. Elias博士は言う
彼はブラウン大学の内科学・生物科学/medicine and biological sciencesの学部長deanであり、Scientific Reports誌に発表された研究の責任著者でもある

見たところ、癌によって取り込まれるようになる重要なタンパク質は『キチナーゼ3様1/Chitinase 3-like-1 (CHI3L1) 』である
CHI3L1は多くの生物で感染と戦うのを助け、組織の治癒を刺激する役割を持つタンパク質だが、このタンパク質は間違った方向に行きやすく、様々な疾患の発症の一因となる
例えば特発性肺線維症/idiopathic pulmonary fibrosis(IPF)のようなヒトの疾患でCHI3L1は強すぎる反応を開始させて肺の損傷scarringにつながり、喘息のような疾患では有害な免疫応答を持続させる
ヒトはYKL-40と呼ばれるCHI3L1の直接的な類似バージョンを持ち、癌患者ではその高い発現が進行した癌の転移ならびに予後の悪さと強く相関する

※YKL-40: N末端チロシンリジンロイシン-40kDaの略。CHI3L1とYKL-40は同じ(またはCHI3L1は遺伝子名)と思われる(WikipediaGenecards


Eliasを中心とするブラウン大学とエール大学のチームは2014年の研究で、組織が癌の転移を受け入れreceptiveるようにする際にCHI3L1が中心的な役割を果たすことを明らかにした

「それは非常に根本的な経路であるように思われる」
肺の内科学と免疫学の専門家のEliasは言う

「この病気で、あの病気で、という特定の疾患だけに関係する経路ではない
人体が応答する根本的な経路であり、結果として多くの異なる結果が生じる」

今回の研究で科学者たちはCHI3L1がどのようにして癌の転移を促進するのかを説明するだけでなく、特に広範な影響を持つ新たな介入をテストした

科学者はマウスにメラノーマ細胞と乳癌細胞を曝露させ、それから8日間にわたって、異なるマウスに異なる回数、CHI3L1の発現を抑制させた
そのように処置したマウスでは腫瘍と戦うために持っている複数のメカニズムが回復し、肺が癌を受け入れるhospitableようになるのが阻止された
実験的な対照群として処置されなかったままのマウスは、癌細胞への曝露後に急速に肺に癌を生じた


防御を回復する
Restoring defenses

複数の実験によりこのマウスの肺で何が起きているのかについての詳細が明らかにされた

研究者は癌がCHI3L1を刺激することによって転移に寄与する経路と、
CHI3L1と癌の転移を抑制する新規の経路を同定し、
そして腫瘍がこの抗腫瘍応答を回避するやり方も明らかにした

例えば癌が存在するとセマフォリン7Aというタンパク質がCHI3L1の発現を誘発し、NK細胞やPTENなど多くの抗腫瘍応答を鈍らせるという

研究ではRIG様ヘリカーゼ/RIG-like helicase (RLH) という抗ウイルス免疫応答経路の活性化も新たに実証された
RLH経路は癌細胞のCHI3L1を刺激する能力を無効化counteractし、CHI3L1が仲介する腫瘍誘発効果も低下させる

さらに、研究者は癌細胞がNLRX1という別のタンパク質を刺激することも実証した
NLRX1はRLH応答を抑制し、腫瘍細胞がCHI3L1を誘導できるようにする

「したがって、」
Eliasは言う
「癌細胞はCHI3L1を刺激する一方で、同時にNLRX1を使ってRLH経路によるCHI3L1阻害効果をも抑制するのである」


Eliasのチームがテストした新たな介入ではPoly(I:C) と呼ばれるRNAのような分子を使い、RLH経路を刺激することによりRLH免疫を増進bolsterさせた
マウスはこの介入でCHI3L1の産生が減少し、癌を増大する応答は抑制された
処置しなかったマウスは2週間以内に肺に癌を生じたが、Poly(I:C) を与えられたマウスは癌を寄せ付けなかったfend off

特に目立つ影響として、NK細胞とNK細胞を呼び寄せるタンパク質の増加、LIMK2とPTENというタンパク質の産生の刺激、BrafとNlrx1というタンパク質の抑制が観察された

※LIMK2はcofilinをリン酸化して不活性化するキナーゼ。論文Discussionには「cofilinは細胞分裂・走化性chemotaxis・腫瘍転移で中心的な役割を演じるアクチン解重合因子depolymerizing factor(ADF)である(48」とある

最近科学者たちはこれらの個々のタンパク質のいくつかに焦点を当てることにより癌と戦う薬剤の開発を試みてきているが、多数を同時に標的とすることはなかった

「我々がこの論文で示したのはRLHというまったく新しい経路が存在し、RLH経路は実際にCHI3L1の産生を制御しうるということである」
Eliasは言う

「そしてCHI3L1が作られるのを制御できれば、これらの経路のそれぞれと癌の転移モデルが制御可能である」

研究チームは複数の実験で、処置したマウスとしなかったマウスを単純に比較しただけではなく、しばしばCHI3L1のような特定のタンパク質を産生する遺伝子を欠損させるように設計した対照群となるマウスも使った
これらのステップは、調査する特定のタンパク質が 疑わしいと考えられる重要な役割を本当に演じているかどうかをテストするのを助けたのである

癌のマウスの肺への転移の抑制に関して、CHI3L1に対してRLHを優勢にすることが重要であるmeaningfulことが証明されたことは明らかである

「RLH経路の刺激が、一つではなく多数の抗腫瘍応答を増大させるというのはエキサイティングだ」
Eliasは言う

「もしRLH経路を作動agonizeさせることができれば、癌において本当に優れた効果を発揮するだろう」


http://dx.doi.org/10.1038/srep26299
RIG-like Helicase Regulation of Chitinase 3-like 1 Axis and Pulmonary Metastasis.

Abstract
Chi3l1は様々な癌によって誘導され、転移の発生において重要な役割を演じ、予後の悪さの前兆となるportend
しかしながら、これらの応答を仲介するためにChi3l1が使うメカニズム、そしてChi3l1によって誘導される腫瘍応答を制御する経路はほとんど理解されていない

我々はChi3l1が腫瘍進行を助長fosterするために使うメカニズム、ならびにRIG-like helicase (RLH) という自然免疫応答がChi3l1上昇と肺への転移を制御する能力を特徴付けた

今回我々は、RLH活性化はMAVS依存的な方法で
腫瘍によるChi3l1の誘導とその受容体であるIL-13Rα2の発現、そして肺への転移を抑制する一方で、
NK細胞の集積accumulationと活性化を回復し、
IFN-α/IFN-β、chemerinとその受容体ChemR23、リン酸化cofilinとそのキナーゼLIMK2、PTENの発現を増大させ、
BRAFとNLRX1を阻害することを実証する

Chi3l1が多方面に関与multifacetedして腫瘍の進行と転移を免疫的に刺激し、その生成elaborationと組織への影響はRLH自然免疫応答によって阻害されることをこの研究は実証する



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https://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141222111651.htm

CHI3L1はメラノーマを肺に転移しやすくする
セマフォリン7aはインテグリンβ1またはプレキシンC1と相互作用することによってCHI3L1を調節する
インテグリンβ1はCHI3L1を促進し、プレキシンC1はCHI3L1を抑制する
CHI3L1の受容体であるIL-13Rα2が欠損してもメラノーマの肺転移は減少した



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/04/160414081524.htm
細胞質中のウイルスDNAはSTINGを刺激し、STINGはTBK1と相互作用することにより自然免疫応答を引き起こす
NLRX1はその相互作用を阻害することでHIVの感染を促進する
癌のPD-L1やCTLA-4と同様に、NLRX1を阻害することでHIV免疫を強化できるかもしれない



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https://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141112102511.htm
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膵臓癌は初期の段階からエクソソームexosomeを分泌し、それが肝臓のクッパー細胞に取り込まれて遺伝子発現を変化させる
マウスでの膵臓癌モデルではマクロファージ遊走阻害因子(MIF)がエクソソームによって血流に乗り、肝臓に線維形成を誘導する
進行した膵臓癌の患者の血流でもMIFはエクソソームで発現していた
エクソソームのMIFは、肝臓への転移が生じた患者の方が多かった
 

トリプルネガティブ乳癌をホルモンで治療する

2016-05-30 06:06:04 | 癌の治療法
Researchers identify novel treatment for aggressive form of breast cancer

Researchers discover hormone receptor-based treatment approach to triple-negative breast cancer

May 23, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160523125905.htm


(アンドロゲン受容体(赤色)とビタミンD受容体(緑色)は、乳癌の特定のサブセットでは核内に存在する(赤+緑色=黄色)

Credit: Sylvester Comprehensive Cancer Center)

マイアミ大学ミラー医学部シルベスター総合がんセンターの最近の研究によると、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)が実はビタミンD受容体・アンドロゲン受容体を標的とする治療法で治療可能であることが明らかになったという
Breast Cancer Research and Treatment誌で発表された今回の発見は、この悪性の乳癌に対して化学療法以外の新たな治療オプションをもたらす

「乳癌で最も成功した治療はホルモン受容体を標的としている
ホルモンを除去するか阻害すると、癌細胞は生き残るのが難しくなる」
シルベスターの乳癌病理学者であり筆頭著者のTan A. Ince, M.D., Ph.D.は言う

「しかしながら、トリプルネガティブの腫瘍は受容体を標的とする治療に応答しない
だから、ホルモン受容体を標的とするアプローチを使って腫瘍を治療するのは我々が初めてだ
我々はトリプルネガティブ乳癌の3分の2がビタミンD受容体とアンドロゲン受容体を発現するのを発見した」


ホルモン受容体が陽性の乳癌 vs 陰性の乳癌
Hormone-receptor positive vs. negative breast cancer

乳癌はホルモン受容体が陽性と陰性という2つのサブタイプに分類することができる
受容体が陽性の乳癌は受容体を標的とする治療法を使って細胞の増殖など全般的なホルモンの機能を妨害することができるが、TNBCに関しては受容体がないためにこの種の治療法は選択肢optionに入らない
加えて、TNBCの患者の予後は他のタイプの乳癌よりも一般に良くない

Inceと彼のチームは、TNBCがエストロゲン受容体・プロゲステロン受容体・HER2受容体という3つの受容体を欠くにもかかわらず、実はアンドロゲン受容体(AR)とビタミンD受容体(VDR)を発現することを明らかにした
これが今回の研究の基礎となり、研究者はアゴニストホルモンを使ってARとVDRを共に標的とすることが癌細胞の持続力sustainabilityを低下させるために有効な戦略であることを発見した
これはTNBCの治療で受容体への標的療法と予後の改善につながる可能性がある


乳癌幹細胞
Breast cancer stem cells

「乳癌は異なるサブタイプの細胞から構成されるというエビデンスが増えつつある
つまり、癌幹細胞と、それ以外の細胞だ」
ミラー医学部で病理学の助教授でもあるInceは言う

「癌幹細胞は自己再生する能力を持ち、標準治療への抵抗性や転移とも関連すると考えられている
癌幹細胞を標的とすることは完全な癌の寛解を得るために重要である可能性がある」

今回の研究はTNBCの治療に新たな選択肢と、癌の転移における幹細胞の役割への洞察をもたらす
ホルモン受容体療法はTNBCの治療で重要な役割を演じるものの、化学療法と組み合わせたアプローチが最良の結果を生じるだろう


http://dx.doi.org/10.1007/s10549-016-3807-y
Vitamin D and androgen receptor-targeted therapy for triple-negative breast cancer.
VDRとARを標的とするTNBCの治療法

Abstract
抗エストロゲン/抗HER2療法は乳癌(BC)の標的療法で最も早くからの、そして最も成功した例である
しかしながら、エストロゲン受容体の発現またはHER2増幅を欠くトリプルネガティブ乳癌(TNBC)の治療は難題のままである

我々は以前、TNBCの約3分の2がVDRとARを同時に発現するか、そのどちらかを発現することを発見した
そこから我々はARとVDR(av)という2つのホルモン受容体(HR2)をどちらも発現するTNBC(HR2-av TNBC)はそれらを両方とも標的とすることにより治療できるかもしれないという仮説を立てた

VDR/AR標的療法の実現可能性feasibilityを評価すべく我々は15の異なるBC細胞系統の特徴を調べ、2つのHR2-av TNBC系統を明らかにした上で、VDR/AR標的療法後の表現型・生存能力viability・増殖に関する変化を調査した

BC細胞系統にVDRまたはARのアゴニストを投与すると細胞の生存能力は受容体依存的な方法で阻害され、そしてVDRとARを組み合わせることで加法的additivelyに阻害されるように思われた
AR/VDRアゴニストホルモンを化学療法薬と組み合わせると、細胞の生存能力はさらに低下した

TNBC細胞系統におけるAR/VDRアゴニストホルモンによる阻害のメカニズムには、細胞周期の停止とアポトーシスが含まれていた

加えて、AR/VDRアゴニストホルモンは分化を誘導して癌幹細胞(CSC)を阻害した
これは腫瘍スフィアtumorsphereの形成効率/tumorsphere formation efficiency(TFE)の低下や、ALDH活性、CSCマーカーによって計測した

驚くべきことに、ARアンタゴニストはほとんどのBC細胞系統の増殖をAR依存的な方法で阻害した
これはARアンタゴニストの作用メカニズムに関して疑問を生じるものだ

まとめると、AR/VDRを標的とするアゴニストホルモン療法は受容体依存的な方法で多くのメカニズムを通じてHR2-av TNBCを阻害する可能性があり、化学療法と組み合わせることが可能である


Discussion
我々はARとVDRを同時にホルモンで刺激することが癌幹細胞集団の減少につながることを発見した
これは腫瘍スフィア形成効率TFEの減少、ALDH活性の低下、CSC表現型と関連するマーカーの下方調節によって証明される

CD49fの高い発現は OCT4やSOX2のような多分化能pluripotencyの因子を調節し [84]、
MusashiはNotchを調節する
Notchは細胞の自己再生能を調節する鍵となる経路である [85, 86]

したがって、CD49f・SOX2・Notchシグナル伝達の不活化は、AR/VDR療法がCSC集団を減少させうるメカニズムを提供する可能性がある



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https://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150224131201.htm
一部のトリプルネガティブ乳癌に、抗アンドロゲンのエンザルタミドが有効
管腔luminalタイプのトリプルネガティブ乳癌細胞はアンドロゲン受容体が多い傾向がある
非管腔タイプのトリプルネガティブ乳癌細胞系統はアンドロゲン受容体がはるかに少ない



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/a69029577edef0355dd6787bf4ea2bd8
エンザルタミドはアンドロゲン受容体を発現するタイプのトリプル・ネガティブ乳癌の増殖・移動・浸潤能を低下させるだけではなく、アンドロゲン受容体は乳癌細胞の生存に必須のようだ
これらの細胞でアンドロゲン受容体をブロックすると細胞は死んだが、しかし影響を受けたのはアンドロゲン受容体の発現が高い細胞だけではなかった



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/528247388cbcb08ff7e66ca233b8ec7f
タモキシフェンは腫瘍の増殖を抑え、NOTCH阻害剤は癌幹細胞の数を減らす



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160519220539.htm
トリプルネガティブ乳癌に対して、ドキソルビシン(D)、オールトランスレチノイン酸(ATRA)、そしてレチノイン酸への感受性を上昇させるエンチノスタット(E)を組み合わせるトリプル療法(EAD)
ドキソルビシン単体では腫瘍スフィアの形成(癌幹細胞の指標)が32%減少し、ATRA、またはエンチノスタット単独では18%減少したが、EAD組み合わせトリプル療法だと90%減少する



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https://www.sciencedaily.com/releases/2015/12/151214130400.htm
ビタミンAの一種であるレチノイドはHOXA5を再活性化し、HOXA5は幹細胞の数を抑制する
癌幹細胞はHOXA5を阻害する生物学的メカニズムを使う
HOXA5を元に戻すと癌幹細胞は消滅し、転移を防いだ



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160519220535.htm

HOXA5は分化を促進し、CD24とE-カドヘリンを調節する
HOXA5が失われることで幹細胞性と自己再生が増す
多くの癌でHOXA5が失われ、CD24がないと細胞は幹細胞の状態へ逆戻りrevertし、E-カドヘリンがないと細胞は『糊』を失い他の細胞への結合を失う



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/b83fcd1f83b816bd98dc2ddaa06e1693
乳癌幹細胞にはEMT(CD24-,CD44+)とMET(ALDH+)という2つの状態がある



関連サイト
http://blog.goo.ne.jp/kfukuda_ginzaclinic/e/d5f40bc1aea2f3ad4b2e14e66fd2e49b
ビタミンA/レチノールはIGF-1受容体を活性化する



関連記事
http://ta4000.exblog.jp/17936543
ヒトの真皮乳頭細胞では、ATRA によって IGFBP-3 が著しく増加し、IGF-1 / IGF-1Rシグナルに必要な遊離 IGF-1 の生物学的利用能を減少させる



関連記事
http://ta4000.exblog.jp/17969137
ATRAのアポトーシス促進活性は主にRARとCRABP-2、そして同系統の細胞内脂質結合タンパク質によって介在され、それらはATRAをRARへと運ぶ。
一方、脂肪酸結合タンパク質5 (FABP-5) は、このホルモン (ATRA) をPPARβ/δへと運ぶことで、角化細胞で観察される 「増殖を促進する応答」 を引き出す。
 

Aβは脳内の天然の抗生物質である

2016-05-28 06:06:17 | 
Human amyloid-beta acts as natural antibiotic in the brain: Alzheimer's-associated amyloid plaques may trap microbes

May 25, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160525161351.htm


(培地でβ-アミロイド微小繊維が酵母から広がり、カンジダ・アルビカンスを捕らえている画像

Credit: D.K.V. Kumar et al. / Science Translational Medicine (2016))


マサチューセッツ総合病院(MGH)の新たな研究によると、ベータアミロイド・プラーク/beta-amyloid plaqueという形でアルツハイマー病患者の脳内に蓄積するアミロイドベータタンパク質(Aβ)は『正常な自然免疫系の一部』であるというさらなる証拠がもたらされた
自然免疫系は病原体による感染に対する人体の防御の最前線である

Science Translational Medicine誌で発表された彼らの研究はマウスと線虫、培養されたヒト脳細胞で実施されたもので、致命的となりうる感染に対してAβの発現は保護的であることが明らかになった
この研究結果は新たな治療戦略につながる可能性があり、そして同時に、患者の脳内からアミロイド・プラークを除去するようにデザインされた治療への限界を示唆する

「アルツハイマー病における神経変性は、Aβという分子の異常なふるまいによって引き起こされると考えられてきた
Aβは患者の脳内でアミロイド・プラークという微小繊維状の頑丈toughな構造へと凝集することが知られている」
論文の共責任著者であるRobert Moir, MDは言う
彼はマサチューセッツ総合病院-マサチューセッツ神経変性疾患総合研究所/MassGeneral Institute for Neurodegenerative Disease (MGH-MIND)の遺伝学加齢研究ユニットに所属している

「この支配的な見方は30年以上もの間、治療戦略と薬剤開発を導いてきた
しかし我々の研究結果は、この見方が不完全だったことを示唆している」


MoirがMGH-MIND遺伝学加齢研究ユニットのディレクターであるRudolph Tanzi, PhDと共に主導した2010年の研究(※)は、Aβが抗菌ペプチド/antimicrobial peptide (AMP) の性質qualityを多く持つというMoirの観察から生まれたgrow outものだった
AMPは広範囲な病原体から防御する自然免疫系の小分子タンパク質である

※"The Alzheimer's Disease-Associated Amyloid β-Protein Is an Antimicrobial Peptide"

彼らはその研究で、合成したAβをLL-37という既知のAMPと比較し、Aβが複数の病原体の増殖を阻害することを発見した
その効果はLL-37と同等か、LL-37よりも優れていることすらあった
アルツハイマー病患者の脳内のAβは、培養カンジダイースト菌の増殖も抑制した
その後の別のグループによる研究ではインフルエンザウイルスとヘルペスウイルスに対する合成Aβの作用も実証された

※イーストyeast: サッカロミセス科Saccharomycetaceaeの真菌類を表す一般名

今回の研究ではヒトAβの生物モデルにおける抗菌作用を初めて調査した
研究者たちは、ヒトAβを発現するトランスジェニックマウスが通常のマウスよりも脳内へのサルモネラ菌Salmonellaによる感染後も著しく長く生きることを初めて明らかにした
一方、アミロイド前駆体タンパク質/amyloid precursor protein (APP) を持たないマウスは急速に死亡した

トランスジェニックなAβ発現は、線虫であるC.エレガンスでもカンジダ菌やサルモネラ菌による感染から保護するようだった
同様に、ヒトAβの発現は培養ニューロン細胞をカンジダから保護した
事実、生きている細胞で発現させたヒトAβは、以前の研究で合成されたAβよりも感染に対して1000倍も強力であるようだ


このような優位性は、アルツハイマー病の病理pathologyの一部と考えられてきたAβの性質に関係があるように思われた
つまり、互いに結合していわゆるオリゴマーとなり、ベータアミロイド・プラークへと凝集する小分子の傾向propensityである

※オリゴマーoligomer: 少数oligo + 化合体mer

抗菌ペプチド(AMP)は複数のメカニズムを通じて感染と戦うが、基本となるプロセスの一つはオリゴマーを形成して微生物の表面に結合し、互いに凝集clumpするというものである
それにより病原体が宿主の細胞に結合するのを防ぎ、同時に、細胞膜を破綻させて微生物を殺すのである

以前の研究で使われた合成Aβの調合preparationは、オリゴマーを含んでいなかった
しかし、今回の研究ではオリゴマー状のヒトAβがさらに強い抗菌活性を示しただけでなく、ベータアミロイド・プラークを形成する微小繊維という形態への凝集が微生物を捕えて閉じ込めるentrapことがマウスと線虫モデルの両方で観察された


Tanziは次のように説明する
「抗菌ペプチド/AMPは、軽症minorから重症majorまで広範囲の炎症性疾患に関与することが知られている
例えばLL-37はAβ抗菌活性の我々のモデルだが、これは関節リウマチ、狼瘡lupus、アテローム性動脈硬化症など人生後期の複数の疾患に関与している
それらの病態ではAMP活性の調節が失われて炎症の持続を引き起こすが、そのような調節の異常dysregulationがアルツハイマー病でもAβによる神経変性作用の一因である可能性がある」


Moirがさらに付け加える
「我々の研究結果は興味深い可能性を提案する
つまりアルツハイマー病の病理は脳が病原体による攻撃を受けていると『気付く』時に始まるのかもしれない
真に感染が関与しているかどうかを決定するためにはさらなる研究が必要だが、
実際、自然免疫系の炎症性の経路は潜在的な治療標的であるようだ

もし我々のデータが立証されれば、それはベータアミロイド・プラークを完全に除去することを目指す治療法へ警告する必要性の根拠となるwarrant
ベータアミロイドを抑制dial downはするが一掃wipe outはしないことを目標とするアミロイドベース療法が、ベターな戦略であるかもしれない」


Tanziは言う
「我々のデータは全て実験モデルだが、次の重要なステップはアルツハイマー病患者の脳内の微生物を調べることである
それが保護的な応答としてアミロイド蓄積を引き起こし、後に神経細胞の死と認知症につながる
もし我々が容疑者culpritを明らかにできれば(それは細菌、ウイルス、真菌かもしれない)、我々はそれらをアルツハイマー病を初期primaryに防ぐための治療的な標的とすることができるかもしれない」


http://dx.doi.org/10.1126/scitranslmed.aaf1059
Amyloid-β peptide protects against microbial infection in mouse and worm models of Alzheimers disease.

『悪いやつ』だったβ-アミロイドの更生/復権
Rehabilitation of a β-amyloid bad boy

Aβというタンパク質はアルツハイマー病(AD)においてニューロンの細胞死を引き起こすと考えられている
AβはAD患者の脳内に、疾患の顕著な特徴である不溶性の凝集体aggregateを形成する
Aβとその凝集する傾向は本質的intrinsicallyに異常であると広く見られてきた

しかしながら、Kumarらによる新たな研究で、Aβは脳を感染から保護するための生まれつき備わった抗生物質natural antibioticsであることが示される
非常に驚くべきことに、Aβ凝集体は細菌病原体を捕えてtrap閉じ込めるimprison

ADにおいてAβが実際の感染と戦っているのか、それとも誤って感染と認識されたものと戦っているのかは不明のままである
しかしながら、いずれにしてもin any case、これらの研究結果はADを治療するための新しい潜在的な薬剤標的としての炎症性の経路を明らかにする


Abstract
アミロイド-βペプチド/amyloid-β peptide (Aβ) はアルツハイマー病の病において鍵となるタンパク質である

我々は以前in vitroでAβが抗菌ペプチドであることを示唆するエビデンスを報告した
今回我々はマウス・線虫・培養細胞ADモデルにおいてAβ発現が真菌感染と細菌感染から保護するというin vivoのデータを提供する
我々は本質的に病理的な性質であると伝統的に考えられてきた反応behaviorであるAβのオリゴマー化oligomerizationが、Aβペプチドの抗菌作用に必須である可能性を示す
まとめると、我々のデータは、可溶性のAβオリゴマーがヘパリン結合ドメインを介して微生物細胞壁の炭水化物carbohydrateに優先してfirst結合するというモデルと一致する

Aβから原繊維(プロトフィブリルprotofibril)が生じることにより、宿主細胞への病原体の接着は阻止された
β-アミロイドの微小繊維(フィブリルfibril)の広がり/増加propagateは細菌の凝集反応agglutinationを仲介し、結果として、結合していないunattached微生物は閉じ込められるentrapment

我々のモデルと一致して、トランスジェニック5XFADマウスの脳へのネズミチフス菌Salmonella Typhimuriumによる感染は結果として急速なシーディングを引き起こし、β-アミロイド沈着は加速された
β-アミロイドの沈着は、侵入したネズミチフス菌the invading bacteriaの近くで共に集中していたclosely colocalized

我々の研究結果は、β-アミロイドが自然免疫と感染において保護的な役割を演じる可能性、もしくは、病原体によるものではない/無菌のsterile炎症性の刺激がアミロイド症amyloidosisを促進するかもしれないという興味深い可能性をもたらす
これらのデータは保護的であり/有害でもあるというAβの二重の役割を示唆する
それは他の抗菌ペプチドに関してこれまで記述されてきたのと同様である



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https://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141020104930.htm
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)感染はアルツハイマーのリスクが2倍



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真菌の中には血液脳関門を超えることが可能なものもある



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https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/10270
アルツハイマー病患者の脳組織が真菌に感染していた



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160223074923.htm
アルツハイマー病モデルマウスからT細胞、B細胞、NK細胞をなくすと、βアミロイドの蓄積が2倍になった
完全な免疫系のアルツハイマーマウスではB細胞の抗体が脳に蓄積し、ミクログリアによるAβの除去を助けていた



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アルツハイマー病の3つのサブタイプ、炎症性/Inflammatory、非炎症性/Non-inflammatory、皮質性/Cortical



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/44dd380eae54a796f94b7b5fb5d93849
Aβオリゴマーは補体分子のC1qとC3を活性化し、C3はミクログリアの受容体CR3を通じてシグナルを伝達して、ミクログリアが脆弱なシナプスを飲み込むように刺激する



関連サイト
http://dislocon.blog.fc2.com/blog-entry-330.html
>PLoS Oneの 「The Alzheimer's Disease-Associated Amyloid β-Protein Is an Antimicrobial Peptide」 の Discussion

>アミロイドβペプチドは、細菌性髄膜炎の主な原因であるS. pneumoniae(肺炎連鎖球菌)や中枢神経系カンジダ症の最も一般的な原因であるカンジダ・アルビカンスを含む12種類の臨床的に重要な病原体の内8種類を抑制した。
>もしアミロイドβの通常の機能が抗微生物ペプチド(AMP)として機能することにあるのなら、このペプチドの欠如は感染に対する脆弱性の増加をもたらすかも知れない。
>我々の知る限りでは、ヒトでの免疫欠乏と低いアミロイドβレべルとの関係は、これまでは検討されていない。しかし、内因性の齧歯類(本来の)アミロイドβを生成するプロテアーゼを欠いたノックアウトマウスでは、病原体に対する感染性が増加しているように思われる。
>低レベルのアミロイドβしか産生しない BACE1 ノックアウトマウスと、BACE1- と BACE2の何れも欠きアミロイドβを産生しないダブルノックアウトマウスの死亡率はそれぞれ40%と60%である。これらの動物を無菌環境で飼育すると生存率は野生型のもの(95%以上)に戻る。この免疫不全の病因をずっと調べているが、未だに確認されていない。
>つい最近、アミロイドβ42を低下させる薬剤 Tarenflurbil(Flurizan)の臨床試験では、この薬剤を投与された患者は感染率が有意に増加していた。
 

膠芽腫のCSF-1阻害剤への抵抗性を克服する

2016-05-27 06:06:45 | 癌の治療法
Resistance mechanism of aggressive brain tumors revealed

May 19, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160519144538.htm

脳腫瘍の患者は治療に対して抵抗性になりうるが、それは腫瘍それ自体に備わる内因性の何かが原因というよりむしろ、腫瘍微小環境との相互作用を通じてであることが、マウスを使った研究によって示唆された
今回の研究で説明される抵抗性メカニズムには特定の酵素が含まれ、この新たに明らかにされたシグナル伝達経路を標的とする他の薬剤を使うことで克服可能である


多形膠芽腫/glioblastoma multiforme (GBM) は成人で一般的に見られる悪性の脳腫瘍で、現在の標準治療はごくわずかに寿命を延ばすだけである
GBMの腫瘍内にはマクロファージという破片や残骸debrisを取り込む白血球が大量に存在し、コロニー刺激因子/colony stimulating factor-1 (CSF-1) の発現が高い傾向がある

Daniela QuailらはBLZ945という薬剤によるCSF-1の阻害がマウスで腫瘍の退縮regressionを引き起こすことを示したが、結局はGBM腫瘍の大部分がBLZ945への抵抗性を生じた
この現象が興味深いのは、現在CSF-1を標的とする抗癌剤が多くの状況で臨床試験中だからである


さらなる調査から、GBMの再発recurrenceは腫瘍のPI3-Kという酵素の活性上昇と相関することが明らかになった
PI3-Kは環境の影響によって促進されており、それはマクロファージが分泌するIGF-1によるものだった

CSF-1阻害剤のBLZ945に加えて、PI3-K阻害剤またはIGF-1阻害剤を投与したマウスは、対照群よりも著しく生存が延びることを研究者は示した

BLZ945に抵抗性のGBM腫瘍を無投薬だったマウス/naïve miceに移植したところ、この腫瘍はPI3-K/IGF-1メカニズムを使って自分の有利になるように周囲の微小環境を操ることが実証された

このように、腫瘍は腫瘍それ自体には依存しない、微小環境に依存的なメカニズムを通じて抵抗性を生じうるのだと研究者は言う

この研究結果がヒトの神経膠腫gliomaモデルに応用translateされるかどうかは、さらなる研究が必要である


http://dx.doi.org/10.1126/science.aad3018
The tumor microenvironment underlies acquired resistance to CSF-1R inhibition in gliomas.
神経膠腫におけるCSF-1R阻害への抵抗性獲得の根底には腫瘍微小環境が存在する

Structured Abstract
RESULTS
我々は多形膠芽腫/glioblastoma multiforme(GBM)の遺伝学的マウスモデルを使い、CSF-1R阻害への応答として全生存が有意に延長するにもかかわらず、腫瘍は結局マウスの50%以上で再発することを示す

再発した腫瘍細胞を分離してナイーブマウスに移植したところ、神経膠腫gliomaはCSF-1R阻害への感受性を回復した
これは抵抗性が微小環境によって促進されるdrivenことを示す

阻害剤を投与した腫瘍から取り出して精製purifyした神経膠腫細胞ならびにマクロファージのRNAシーケンシングとex vivo細胞培養アッセイを通じて、我々はCSF-1R阻害後の再発GBMにおけるPI3K経路の活性が上昇していることを発見した
これはマクロファージ由来のIGF-1と腫瘍細胞のIGF-1Rによって促進されていたdriven

その結果として、再発した腫瘍において、連続的なCSF-1R阻害と、IGF-1R阻害またはPI3K阻害を組み合わせることは、有意に全生存を延長した

対照的に、IGF-1R阻害またはPI3K阻害のどちらか単一での治療は、再発reboundした腫瘍、または治療していない腫瘍、そのどちらにもあまり有効ではなかった
このことは、CSF-1R阻害に対して再発した腫瘍で生じるPI3Kシグナル伝達への依存に対して組み合わせ療法をしなければならないという必要性を示す


機構的に見ると、再発した腫瘍におけるマクロファージの活性化はIL-4によるものであり、それがStat6とNFATシグナル伝達の上昇につながる(Igf1の上流)
in vivoでこれらの経路のどちらかを阻害することはマウスの生存を有意に延長するのに十分だった

※NFAT: 通常は活性化したT細胞で検出される、IL-2プロモータの転写を活性化する転写因子。カルシニューリンにより活性化され、プロトピックにより阻害される



Figure 1
Resistance to CSF-1R inhibition in glioma.
(A) マクロファージはM2様の遺伝子発現と関連する腫瘍促進的ニッチを形成することによりGBMの進行に寄与する
CSF-1Rはマクロファージ生物学にとって決定的な受容体であり、神経膠腫gliomaにおける治療標的として臨床評価中である

(B) 神経膠腫発生glioma­genesisの早期にCSF-1Rを標的とすることは、マウスモデルで生存を延長する
CSF-1R阻害はマクロファージを再プログラムして、M2様の遺伝子を下方調節し、食作用phagocytosisを促進することにより、抗腫瘍形成性antitumorigenicにする

しかし、CSF-1R阻害にもかかわらず、腫瘍に由来する生存因子は、マクロファージの生存能力を維持するsustain

(C) 治療を続けると、GBMのサブセットがCSF-1R阻害への抵抗性を獲得し、腫瘍は再発する
これはマクロファージ由来のIGF-1の上昇と腫瘍細胞のIGF-1Rの高さによって促進されるdriven
結果として、PI3K経路が活性化し、神経膠腫細胞の生存と浸潤が促進されるenhanced

前臨床試験でこの経路とCSF-1Rを阻害したところ、かなりsubstantialの生存的利益がもたらされた



<コメント>
腫瘍内にCSF-1を発現するマクロファージが多いので阻害してみると、マクロファージはIGF-1を発現するようになった



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/305eb8758c89181480425e88fcdd8783
診断から20年前のIL-4レベルの高さは神経膠腫を発症する可能性の減少と関連することを分析は示した
今回の結果は、アレルギーが神経膠腫リスクを実際に低下させることを示唆する発見を支持するものである
これらの脳腫瘍は免疫系に影響するので、研究者はまだ「アレルギーが脳腫瘍リスクを低下させるのか」、それとも「アレルゲンに対する過剰に敏感な免疫応答にこれらの腫瘍が診断前に干渉しているかどうか」を確信していない



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160108084437.htm
アルツハイマーモデルマウス(APP)でCSF1Rを阻害すると、ミクログリアの増殖は阻止され、ミクログリアは炎症性から抗炎症性に変化して、アルツハイマー病は軽減した
このアルツハイマー病の軽減は、Aβプラークの量とは相関しなかった



関連サイト
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/200805/506592.html
グリオーマの腫瘍組織内に浸潤しているM2マクロファージ数が多いほど、グリオーマの悪性度が高くなる



関連サイト
http://www.cancerit.jp/9574.html
GBMマウスモデルで放射線治療後に腫瘍が再発するのは、腫瘍が産生するSDF-1によって動員されたマクロファージ等が一因
 

癌細胞のEGFR阻害剤への防御を打ち破る

2016-05-26 06:06:06 | 癌の治療法
Breaking down cancer cell defenses

Inhibiting membrane enzyme may make some cancer cells more vulnerable to chemotherapy

May 21, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160521071209.htm

細胞表面の特定の受容体の誤った活性化は、ヒトの様々な癌の一因である
その活性化のプロセスについて多く知ることにより、EGFRという受容体がドライバである癌(主に肺癌)に対して既存の第一選択療法first-line treatmentへの脆弱性を誘発することが可能である

ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院で癌生物学部の助教授であるEric Witze, PhDを中心とする研究チームは、研究結果を今月のMolecular Cell誌で発表した

「パルミチン酸という脂肪酸をタンパク質に付加する酵素を阻害すると、癌細胞は生存のためにEGFRシグナル伝達に依存するようになることを我々は発見した」
Witzeは言う

2-ブロモパルミチン酸/2-bromo-palmitate (2BP) という小さい分子を使うことにより、EGFR阻害剤に対して癌細胞を脆弱にすることができるかもしれないと研究者は推測するsurmise


パルミチン酸/palmitateは動物・植物・微生物で最も一般的に見られる脂肪酸だが、十分には研究されていない

パルミチン酸が結合したタンパク質は、常に細胞膜に結合しているassociate
パルミチン酸により膜に結合したタンパク質は、化学的シグナルを細胞外から細胞内へ伝えることが可能になる

EGF受容体 (EGFR) は細胞膜を貫通するタンパク質で、本来itselfはパルミチン酸と結合しているが、パルミチン酸を阻害するとEGFRは過剰に活性化するようになる

「我々はこの発見が癌にとっては『良い』が、癌患者にとっては『悪い』だろうと思う」
Witzeは言う

EGFRシグナル伝達と関連しない癌では、この関係は正しい
EGFRが活性化すれば、細胞の増殖は促進されるからだ

しかしながら、EGFRと関連する癌では、パルミチン酸を付加する酵素が阻害されるとEGFRは活性化するが、しかし癌細胞の増殖は遅くなる

加えて、肺癌の治療用として売られているEGFRの阻害剤であるゲフィチニブ/gefitinibをこの状態の癌細胞に投与すると、癌細胞は死ぬ

EGFR活性化は正の細胞増殖シグナルとして機能するので、この発見は細胞増殖に関する直感にやや反しているsomewhat counterintuitive

しかし、EGFRが阻害されると細胞が死ぬという事実は、直感に反しないnot counterintuitive
今や癌細胞はEGFRシグナルに依存addictするようになっているのである

「それはまるで、スイッチがオンに固定されるstuck onようなものである
それにより細胞は増殖シグナルの制御を失う」
Witzeは言う

「もしパルミチン酸がEGFRと結合しないと癌細胞はシグナルの制御を失い、EGFR阻害剤が加えられると細胞は死ぬ」


EGFRをパルミチン酸で可逆的に修飾することはEGFRの『尾tail』を細胞膜に『ピンで留め』ることになり、EGFRの活性化を妨げるimpedeことを研究者は示す
EGFRの『尾』が細胞膜にピンで留められなくなると、スイッチが『オン』のままになるのだろうと研究者は考えている

現在のところ、実験的な2BP化合物はパルミチン酸を基質として使うあらゆる酵素を阻害するため、ほとんどの細胞にとって有害である

「パルミチン酸を付加する酵素だけに特異的な化合物を見つけるか、2BPを修正して不要な副作用を低下させるか、そのどちらかまたは両方をする必要がある」
Witzeは言う

この研究は、アメリカ国立衛生研究所/NIH、米国癌学会/American Cancer Society、国防総省/Department of Defenseから研究資金を受けた


http://dx.doi.org/10.1016/j.molcel.2016.04.003
Inhibition of DHHC20-Mediated EGFR Palmitoylation Creates a Dependence on EGFR Signaling
DHHC20を介するEGFRパルミトイル化の阻害は、EGFRシグナル伝達への依存状態を生み出す


Highlights
・パルミトイル転移酵素/palmitoyltransferaseであるDHHC20の阻害は、EGFR阻害剤への感受性を生み出す
・EGFRはC末端の尾部内のシステイン残基がパルミトイル化/palmitoylatedされる
・パルミトイル化/palmitoylationは、構造化されていないC末端尾部を細胞膜に『ピンで留める』
・パルミトイル化の喪失は、EGFRシグナル活性化の持続を増大させる

Summary
受容体チロシンキナーゼであるEGFRの不適切な活性化は、様々なヒトの悪性腫瘍の一因である

ここに我々はEGFRがドライバの癌に対する既存の第一線治療に対して脆弱性を誘導するメカニズムを示す
我々はパルミトイル転移酵素のDHHC20を阻害することで癌細胞が生存のためにEGFRシグナル伝達への依存状態を生み出すことを発見した
パルミトイル化の喪失はEGFRシグナル活性化の持続sustainedを増大させ、EGFRチロシンキナーゼ阻害に対して細胞を感受性にする

我々の研究はパルミチン酸によるEGFRの可逆的な修飾が構造化されていないC末端尾部を細胞膜へと『ピンで留め』てEGFR活性化を妨げるimpedeことを示す
我々は質量分析により、C末端尾部内のパルミトイル化されるシステイン残基のシステインからアラニンへの突然変異が、細胞の移動と形質転換を促進するEGFRシグナル伝達の活性化に十分であることを確認した

EGFRシグナル伝達の末梢的peripheralな調節者modulatorであるDHHC20を標的とすることでシグナル調節を失わせ、EGFR阻害剤による細胞死への感受性を惹起することを我々の結果は明らかにする



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/05/150508140258.htm
膠芽腫は半分にEGFRという受容体に変異がある
しかし、EGFRへの阻害剤は別の受容体をオンにしてしまい、腫瘍は阻害剤を迂回する
EGFR阻害剤に抵抗する膠芽腫はPLK1に依存する
膠芽腫のストレスを調節するPLK1は生存に必要

EGFR阻害剤のゲフィチニブ/Gefitnib、PLK1阻害剤のBI2536、DNA損傷剤/DNA-damaging agentのテモゾロミド/TMZを組み合わせて膠芽腫のマウスモデルに投与すると、検出できるような再発は観察されず、明らかな副作用もなかった
 

ハイブリッド細胞が転移する際の『確かな証拠』を確定する

2016-05-24 06:06:44 | 
Scientists identify 'smoking gun' in metastasis of hybrid cells

Cancer cells coordinate to form roving clusters

May 19, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160519101031.htm


(notchシグナル伝達タンパク質であるdeltaの影響を受けた上皮細胞は、通常は間葉系細胞になる
しかしnotchシグナル伝達が癌によってハイジャックされると、jaggedの影響を受けて上皮-間葉系のハイブリッド細胞が生じることがライス大学の研究者によって明らかにされた
このハイブリッド細胞はお互いにコミュニケーションをして群れを形成clusterし、体内の別の場所へ転移する

Credit: Illustration by Marcelo Boareto)

ライス大学の研究者によると、癌細胞同士の間の双方向コミュニケーション/two-way communicationは、それらが動けるようになって集合して転移するようになるための鍵であるようだという

ライス大学の理論生物物理学センター/Center for Theoretical Biological Physics (CTBP) のメンバーは、シグナル・フィードバックループの複雑なシステムを癌細胞がどのようにしてねじ曲げてtwist自分のために利用するのかについてのモデルを開発した
これらのシグナルは癌細胞が原発腫瘍から離れて群れを形成clusterするのを助け、それがしばしば致死的となる転移へとつながる

notchシグナル伝達経路にはnotch、jagged、deltaというタンパク質が含まれる
2015年、ライス大学のチームはそれらが癌細胞によってハイジャックされる可能性を報告した

正常な場合、このメカニズムは胚の発達や傷の治癒にとって重要であり、
典型的には一方の細胞のdeltaというリガンドがもう片方の細胞のnotch受容体と相互作用する時に活性化される

研究チームは癌細胞がnotch経路をハイジャックして、特にjaggedを使うという理論を提唱したが、
今回The Royal Society journal Interface誌で発表された新たな論文ではその理論をさらに拡張した
それによると、
癌細胞はjaggedを使って 上皮-間葉系を合わせた『ハイブリッド細胞』に変化させる双方向シグナルtwo-way signalsを確立するだけでなく、jaggedによって 移動する集団mobile clusterを形成するのだという


「全体的に、我々の興味は細胞がどのようにして原発腫瘍を離れる『決断decision』をするのかということにある」
ライスの理論生物物理学者であるHerbert Levineは言う

「腫瘍の中に存在する上皮細胞は異常である
この上皮細胞は外見こそまだ正常な細胞のようだが、増殖すべきではない場所で増殖する
しかし、癌が真に致命的となるのは、元の腫瘍を離れて体内の別のどこかで増殖を始めたときである」

notchシグナル伝達は非常に一般的な機能であるため、
研究者たちはそれが悪党rogue、つまり癌細胞によって別の目的のために再利用repurposeされている可能性を疑った

「我々は過去二、三年にわたって、細胞は動けるようになって腫瘍を離れるために、その細胞運命cell-fateを積極的に決定するのだと主張argueしてきた
今回の論文はその理論をさらに進め、細胞はその決定を、お互いに相互作用することにより調整coordinateするというところまで拡大して扱うaddress the extent」

Levineを中心とする研究チームは、転移のプロセスを妨害する方法を探し求める研究者たちに考慮すべき新たな標的をもたらす

通常、一つの細胞で始まったnotchシグナル伝達は、隣の細胞の『転換transition』を引き起こす
それは例えば、幹細胞がその周囲の細胞を特定の機能のために再設定reconfigureできるようにする

「送信者sendersの細胞と、受信者receiversの細胞がある」
Onuchicは言う

「送信者から受信することにより、受信者である隣の細胞は分化する
細胞は、そのパートナーを元とは異なる状態に変えることができる」

しかし癌では、細胞は『送信者でもあり受信者でもある』
この性質の獲得は、特に細胞がnotchシグナル伝達に使うリガンドを最初のdeltaからjaggedへ変更した時に起きる

「jaggedの増加は動かぬ証拠/煙の立ち上る銃smoking gunであることが判明した」

jaggedタンパク質の数の多さは、動けるハイブリッド細胞を増やすのを助ける
それに加えて、jaggedの増加はハイブリッド細胞が情報を交換するのに役立つ
この情報交換によって、可能な細胞は全て一つのグループへとまとまるのを確実にするのだと彼は言う

「生物学者は、リガンド同士の間の違いについて常に考えているわけではない」
Boaretoは言う

「しかし、大きな違いが存在する
論文の中心的なメッセージは単純だ:
notch-deltaシグナル伝達は細胞の分離isolatedにつながり、上皮間葉転換(EMT)を経て、個々に動くようになる
notch-jaggedシグナル伝達の結果として細胞はグループ化して、EMTを経て、移動する群れmotile clusterになる」


研究者たちは、そのような移行transitionはランダムではないと考えた

「我々は今や、それらが単なる環境への反応ではないことを知っている」
Levineは言う

「それらは多くの場合often、細胞が通信communicatingして、集団的な決定をしたことが原因である」

これらの考えをテストすべく、共著者であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンター所属のSendurai Maniは癌の組織サンプルを使いjaggedや他の関連するタンパク質の存在をこれから数年かけて定量化する予定である


癌細胞がnotch経路や、そしておそらく他の経路も使っているというのは驚くべきことではないとOnuchicは言う

「癌は決して生物学的に完全に新しいメカニズムを作り出さない
癌は既存のメカニズムを使って必要を満たす
それがどのようにして起きるのかを調べることで、転移を防ぐための新たな手がかりがもたらされる可能性がある」


たとえこの発見がすぐには治療に応用されなくても、notch/jagged/deltaタンパク質の発現を定量化することは重症度の診断の助けになるかもしれない

「それは元の腫瘍がどれほど危険なのかをより正確に予測するために計測すべき何らの基準を我々にもたらす」
Levineは言う


http://dx.doi.org/10.1098/rsif.2015.1106
Notch-Jagged signalling can give rise to clusters of cells exhibiting a hybrid epithelial/mesenchymal phenotype.
Notch-Jaggedシグナル伝達は、上皮/間葉ハイブリッド表現型を示す細胞のクラスター化を生じる

Abstract
転移は、上皮間葉転換/epithelial-to-mesenchymal transition (EMT) とその逆の間葉上皮転換/mesenchymal-to-epithelial transition (MET) の繰り返されるサイクルを伴う可能性がある

また、細胞は不完全な転換transitionをしてハイブリッドな上皮/間葉系の表現型を獲得attainしうる
それにより接着したままの細胞が群れclusterを形成して、血液中を循環する腫瘍細胞/circulating tumour cell (CTC)として移動できるようになる

これらの群れは、完全なEMTを経た間葉系細胞と比較してアポトーシス抵抗性であり、転移する傾向propensityを持つ可能性がある
したがって、そのような群れの形成と維持を調節するための鍵となる要因を確定することは、転移を防ぐための戦略に役立つ可能性がある

今回我々は、Notch-Delta-Jaggedシグナル伝達を経由する細胞間コミニュケーションをEMT調節と関連付ける、メカニズムをベースとした理論モデルを考案deviseした

Notch-DeltaとNotch-Jaggedシグナル伝達の両方とも細胞集団にEMTを誘導するが、Jaggedが支配的dominatedなNotchシグナル伝達だけがハイブリッドなE/M細胞を含む群れclusterの形成につながる可能性があり、Deltaが支配的なシグナル伝達ではそれは起きないことを我々は実証する

我々の結果は、腫瘍進行におけるJaggedの役割に関する機構的な洞察の可能性をもたらし、そして転移する間の他の微小環境シグナルの影響を調査するための枠組みを与える



Figure 1.
Notchシグナル伝達経路とEMT回路との間の細胞内相互作用 (a)、ならびにNotchシグナル伝達が組織をパターン化させる結果 (b,c) についての概観

(a) Notchシグナル伝達は、隣り合う細胞の膜貫通Notch受容体と膜貫通リガンド(DeltaまたはJagged)の相互作用によって活性化される
このトランスな相互作用はNotchを切断し、その結果としてNotch細胞内ドメイン/Notch intracellular domain (NICD) が細胞質に放出される

NICDは細胞質から核に入り、そこで多くの標的遺伝子の転写を調整する
NICDはNotch・Jagged・Snailを活性化するが、Deltaは阻害する

FringeによるNotch受容体のグリコシル化/glycosylationは、
NotchのDeltaリガンドへの親和性を増大させるが、Jaggedへの親和性は低下させる

EMT調節回路/EMT regulatory circuitは2つの相互阻害フィードバック回路から構成され、
それぞれEMTを阻害するマイクロRNA(miR)とEMTを誘導する転写因子(TF)が相互に阻害している
 miR-34 / SNAIL
 miR-200 / ZEB

マイクロRNAは両方ともNotch経路のタンパク質の翻訳を阻害する
miR-34(μ34)はNotchとDeltaをどちらも阻害し、miR-200(μ200)はJaggedを阻害する

WntとTGFβのような、EMTを誘導する外側(external)からのシグナル/EMT-inducing signals (Iext) は、Snailを活性化することによりEMTを誘導することが可能である


(b) Notch-Deltaシグナル伝達は細胞間トグルスイッチ(二方向に切替え可能なスイッチ)を作り出し、隣りの細胞に互い違いalternateの運命を採用させる
つまり、Deltaリガンドが高い送信側の細胞と、Notch受容体が高い受信側の細胞である
これがチェッカーボードのようなパターンを生み出す(側方抑制/lateral inhibition)


(c) Notch-Jaggedシグナル伝達は細胞間のダブルポジティブ・フィードバックループを作り出し、隣の細胞に同じような運命を採用させる
つまり、どちらも細胞もJaggedリガンドが高く、Notch受容体も高い
それにより組織の中で広く同じ運命を普及させる(側方誘導/lateral induction)


Discussion
Notchシグナル伝達は進化的に保存されてきた細胞間のコミュニケーション経路であり、癌の特徴の多くがNotchシグナル伝達による

最近の研究では、Notchシグナル伝達を介する細胞の運命決定においてリガンドの2つのファミリー(DeltaとJagged)が異なる役割を演じ、時には正反対にもなることが注目されている [42]

知る限り、我々の研究は癌の転移の特徴である上皮の可塑性(EMT/MET)においてDeltaとJaggedの異なる役割を明らかにした初めてのものである

Notchシグナル伝達はDeltaとJaggedのどちらでもEMTを誘導するが、
Jaggedを通じてのEMTの誘導はハイブリッドE/Mの表現型において細胞クラスターの形成を特に可能にすることを我々の結果は示唆する

EMT誘導シグナルとNotchシグナル伝達経路可溶性リガンドのどちらかまたは両方によって、これらのクラスターの形成は促進され、安定性は延長される

通常、Notch-Jaggedシグナル伝達は側方誘導/lateral inductionに関与する [20,34,43,44]
言い換えると、隣の細胞に自らと同じ運命を採用させる

したがって、Jaggedが支配的なNotchシグナル伝達を伴う細胞クラスターは、互いに細胞運命を安定させる

『準安定的metastable』な不完全EMT、いわゆるハイブリッドE/M表現型における細胞間でのそのような相互安定は、循環腫瘍細胞(CTC)のクラスター形成につながる可能性があり、したがって臨床的に重要な関連がある

※metastable: 準安定的な。metastasisは転移。不完全EMTという意味での『準安定metastable』と、転移metastasisできるable『転移可能metastable』という意味を掛けているのかもしれない

ハイブリッドE/M表現型を示すCTCは、肺癌・乳癌・前立腺癌の患者の血流に見つかっている [5,45–47]
そしてそれらは集団的移動collective migrationをする能力によってCTCクラスターになる

そのようなクラスターCTCはアポトーシス抵抗性であり、比較的容易に血流から脱出し、個別に移動するCTC(間葉系表現型/Mesenchymal phenotype)よりも最大50倍も転移しやすい
したがって、患者の転移リスクは高まる [5,48,49]

EMTは『1か0か』の反応ではなく、in vivoの癌細胞は滅多に完全なEMTをしないという考え方の評価が増えている [7,50,51]
また、上で述べたような利点から、癌細胞はハイブリッドなE/M表現型を好むpreferのかもしれない

したがって、細胞をハイブリッドなE/M表現型に維持することは(別の状況otherwiseでは『準安定metastable』とも考えられる[52])、多くの重要な生存的な利点をCTCクラスターにもたらしうる
Jagged1を治療標的とすることによって、これらの利点は潜在的に減ずると我々は予測する


Jagged1を治療標的とすることはこれらのクラスターを『壊しbreak』て、単一で移動するCTC(間葉系表現型)にする可能性があるだけでなく、腫瘍を開始する潜在性tumour-initiating potentialも鎮圧subdueすると予測される

最近の研究では、ハイブリッドE/M表現型の細胞(CD24+/CD44+)は、純粋に間葉系の表現型(CD24-/CD44+)よりも多くの腫瘍を形成できることが示されている
それは特にハイブリッドE/M表現型が安定している時である(例えばOVOL [33, 37–40] のような『表現型安定因子phenotypic stability factor』によって[36])

OVOL1, OVOL2, OVOL3

>UniProtKB/Swiss-Prot for OVOL2 Gene
>Zinc-finger transcription repressor factor. Plays a critical role to maintain the identity of epithelial lineages by suppressing epithelial-to mesenchymal transition mainly through the up-regulation of ZEB1 expression. Positively regulates neuronal differentiation (By similarity). Suppresses cell cycling and terminal differentiation of keratinocytes by directly repressing MYC and NOTCH1.
(ジンクフィンガーというDNA結合モチーフを持つ転写因子である
主にZEB1発現の上方調節を通じてのEMTを抑制することにより上皮系統のアイデンティティを維持するために重要な役割を演じる
ニューロン分化を正に調節する(同様の経路による)
MYCとNOTCH1を直接抑制することにより角化細胞の細胞周期と最終分化を抑制する)

我々の実験データはMDA-MB-231で薬剤耐性tolerantの集団がCD24+/CD44+であり、Jagged1とNotchのレベルが上昇していることを示すが、
これはハイブリッドE/M表現型にとってNotch-Jaggedシグナル伝達が『細胞間の表現型安定因子』としても働くことを示唆する

我々のデータは、癌幹細胞(CSC)が『EMT軸/EMT axis』の中途mid-wayに存在するという最近現れつつある概念 [7,37,53–55]とも共鳴するものであり、
そしてNotch-Jaggedシグナル伝達はCSC集団の維持と化学療法抵抗性にしばしば関与するという概念とも一致する [15,35]

さらに、Jagged1を標的とすることは、腫瘍を促進する多くの炎症性サイトカインによる影響を軽減するmollify
なぜなら、そのような炎症性サイトカインは、Jagged活性化とDelta阻害のどちらかまたは両方によってNotch-Jaggedシグナル伝達を増大させるからである [42,56,57]

したがって、Jagged1は悪性腫瘍進行を止めるための重要な治療標的となりうる [58]
そして、Jagged1を標的とすることは特に、最近試みられているように [59]、NICDを阻害してNotch経路全体を標的とすることによる副作用を緩和する可能性がある [60]

しかしながら、Notch-Jagged (N-J) シグナル伝達は、癌の転移のような病理学的な状況だけに特異的なものではない
例えば、N-Jシグナル伝達は、内耳[34]、膵臓[61]、上皮幹細胞クラスター[62]の発達中の空間的パターン化において重要でありうる
したがって、今回提出した結果は上皮組織化や複数の生物学的状況における恒常性でのJaggedの役割を明らかにするために応用可能かもしれない



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癌はJaggedで血管形成を操る



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MusashiによってJagged1が抑制されると、細胞は上皮細胞の状態に固定され、動きにくくなる
Musashiは正常な乳腺の発達時にもJagged1を抑制する



関連サイト
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24844362
Jagged-1はAML患者の好ましい予後と関連する新たな有望なファクターである



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p53はmiR-34aを活性化させ、miR-34aはPD-L1の発現を直接阻害する




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miR-34aはPD-L1を抑制する。miR-34aをリポソームナノパーティクルにより癌にデリバリーする




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マイクロRNAに不活性化という概念はなかったが、miR-34は不活化することがある



関連サイト
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6389
Notchのリガンドに対する選択性は、EGFリピート8番目の保存されたバリン残基が重要な役割を果たす
 

IGF2BP3はどのようにして転移を促進するのか

2016-05-22 06:06:40 | 
Malignancy-associated gene network regulated by RNA binding protein

Study of protein-RNA interactions in pancreatic cancer cells reveals an extensive regulatory network associated with tumor metastasis

May 19, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160519130121.htm

カリフォルニア大学サンタクルーズ校のJeremy Sanfordたちは、IGF2BP3というタンパク質が癌細胞の増殖と転移の促進において重要な役割を演じるようだということを明らかにした

※IGF2BP3: insulin-like growth factor 2 mRNA binding protein 3

通常のIGF2BP3は胎児の組織で活性化するが、成人になると検出できなくなる
しかしこのタンパク質は悪性の癌の多くで再び作られるようになり、充実性腫瘍solid tumorと白血病の両方で予後の悪さと関連する

サンタクルーズ校で分子・細胞・発達生物学の助教授であるSanfordと彼のラボは、5月19日にCell Reports誌で発表される今回の研究でIGF2BP3が転移を促進する可能性のあるメカニズムを指摘する

Sanfordたちは悪性腫瘍と関連する広範囲な遺伝子発現回路を明らかにした
これは膵臓癌細胞ではIGF2BP3によって調節される

「この相互作用の詳細を我々は突き止めてnail downいないが、
しかしそのような広範囲の相互作用は『IGF2BP3が癌生物学に関与する遺伝子発現に影響することで どのようにして転移を促進するのか?』に関するメカニズムであることを示唆している」
Sanfordは言う


遺伝子の発現には複数の段階があり、そのプロセスの中の様々な段階で調節が起きる
タンパク質をコードする遺伝子のスイッチが入ると、そのDNA配列はメッセンジャーRNA(mRNA)という分子へとコピーされ、特定の機能を実行するタンパク質へと翻訳される
そして、どの遺伝子がいつmRNAに転写されるのかは多くの調節因子によって制御されている
IGF2BP3のようなRNA結合タンパク質はmRNAと相互作用して転写後に遺伝子発現を調節するが、そこで具体的に何が起きているのかはよくわかっていなかった


Sanfordのチームは今回の研究で 膵癌細胞でIGF2BP3によって調節される164個の標的mRNAを確定し、
その標的となるRNAのほとんどが癌生物学cancer biologyの中で何らかの役割を持つタンパク質をコードすることを明らかにした
役割とは例えば癌細胞の移動や増殖、そして接着である

IGF2BP3は様々な標的に異なる影響があり、いくらかのタンパク質の発現は上昇させ、他のタンパク質の発現は減少させる(移動↑、増殖↑、接着↓)
そのような二重性は、IGF2BP3がどのようにしてマイクロRNAという重要な遺伝子サイレンシング経路と相互作用するかに依存する
マイクロRNAはRISCという複合体の一部としてmRNAに結合することによって遺伝子発現のサイレンシング(翻訳阻害)を促進する

※RISC(リスク): RNA-induced silencing complex

「それは基本的にはマイクロRNAからなる誘導システムを持つ小さな分子機械であり、mRNAの翻訳を阻害することによって遺伝子をサイレンシングする」
Sanfordは言う

「IGF2BP3が相互作用する箇所を位置づけたところ、それらの多くがRISCの結合箇所と重複することに我々は気付いた」

いくつかのケースでIGF2BP3はmRNAとの結合箇所をマイクロRNAと競合し、それによってサイレンシング複合体に干渉するが、別のケースではIGF2BP3はRISC複合体の機能を促進するように見えたという

「我々はまだIGF2BP3がどのようにしてRISC複合体と相互作用するのかという正確なメカニズムについて理解していないが、それはこの興味深い相互作用のネットワークに関して調査すべき多くを我々にもたらす」
Sanfordは言う

「それはまた、IGF2BP3とその標的との間の相互作用に干渉する治療アプローチが特定の腫瘍の悪性度を低下させるために有効かもしれないことを示唆している」


http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.04.083
http://www.cell.com/cell-reports/abstract/S2211-1247(16)30528-9
IGF2BP3 Modulates the Interaction of Invasion-Associated Transcripts with RISC.
IGF2BP3は浸潤と関連する転写の相互作用をRISCと共に調整する



Highlights
・IGF2BP3は膵管腺癌細胞 (PDAC) における浸潤表現型を促進する
・IGF2BP3は、PDAC細胞の悪性度と関連する遺伝子発現プログラムを調節する
・PDAC細胞系統におけるIGF2BP3の結合箇所は、マイクロRNAの標的箇所の近くに豊富である
・IGF2BP3は、アルゴノート(Ago2)と関連するmRNA標的を調整する

Summary
インスリン成長因子2mRNA結合タンパク質3/Insulin-like growth factor 2 mRNA binding protein 3 (IGF2BP3) の発現は悪性度と関連するが、病理発生におけるその役割は謎のままである

我々はPDAC細胞におけるIGF2BP3とRNAの相互作用ネットワークを詳しく調査interrogateした
ゲノムワイドなアプローチを組み合わせることにより我々はIGF2BP3の直接の標的となる164のmRNAを確定した
これらの転写物は、細胞の移動・増殖・接着のような機能に関するタンパク質をコードするものが多い

IGF2BP3の喪失はPDAC細胞の浸潤性を低下させ、接着点の結合focal adhesion junctionを再構築させた

individual nucleotide resolution crosslinking immunoprecipitation (iCLIP) という手法により、
IGF2BP3とマイクロRNA (miRNA) の結合箇所に有意な重複が存在することが明らかになった

IGF2BP3は、RNA-induced silencing complex (RISC) と特定の転写物との結合を促進する

我々の結果は、IGF2BP3がmiRNAとmRNAの相互作用を調節することにより、悪性度と関連するRNAレギュロンRegulon)に影響することを示す


関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/c423f7c31a227e5ba275cd88efe791bc
PDACの患者の30%はSIRT6の低下、Lin28bの増加、let-7の低下を示し、HMGA2,IGF2BP1,IGF2BP3が上昇する



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141023131707.htm
エクソソームには、DNA、マイクロRNA、RNA-induced silencing complex (RISC) が含まれ、さらに乳癌のエクソソームにはダイサー(Dicer)、アルゴノート(AGO2)、TRBPが含まれていて、腫瘍の成長を刺激する
 

古いミトコンドリアの除去が1型糖尿病の予防に重要

2016-05-20 06:06:57 | 代謝
Genetic risk for type 1 diabetes driven by faulty cell recycling

June 19, 2014

https://www.sciencedaily.com/releases/2014/06/140619124909.htm

ミシガン大学の糖尿病研究者は、β細胞のインスリンを作る能力を破綻させて1型糖尿病の発症につながると考えられる遺伝子を明らかにした

それによると、β細胞の機能喪失はClec16aという遺伝子の機能不全によって促進drivenされる可能性があるという
Clec16aは古くなったミトコンドリアの除去に関与する遺伝子であり、新しいミトコンドリアのために場所をあける役割がある
正常なミトコンドリアはβ細胞がインスリンを作り血糖レベルを制御するために重要である

『糖尿病に関与する遺伝子』の多くはどのようにして作用するのかはほとんど知られていないが、
Cell誌で発表された今回の研究は
1型糖尿病の遺伝的なリスク要因に光を当てるものであり、β細胞の強さを維持するための新たなアプローチにつながるだろう

「糖尿病の治療diabetes careにおいて、β細胞を維持することは最優先事項the top priorityである」
ミシガン大学のBrehm Diabetes Research Centerの研究者である筆頭著者lead authorのScott Soleimanpour, M.D.は言う

「この新たな経路の発見により、
我々は1型と2型両方の糖尿病を治療して予防するためにβ細胞の正常なミトコンドリアを維持するという新しい治療法に注目できるようになるだろう」

ミシガン大学医療システムHealth Systemで患者を治療している内分泌学者のSoleimanpourは、1型糖尿病患者として30年間生きてきた
彼は生涯ずっと糖尿病の研究をしてきたmade a career of studying diabetes
ペンシルベニア大学ペレルマン医学部では特別研究員fellowshipを努め、そこで彼のラボはClec16aを理解するための研究を始めた

糖尿病とは血液中のグルコース/ブドウ糖の濃度が異常に高くなると診断される病名であり、そして1型糖尿病は防ぐことができないタイプの糖尿病である
通常は子供または若い成人を冒す疾患で、加齢や肥満が原因とされる2型糖尿病に比べると少ない

一般に1型糖尿病では免疫系が膵臓のβ細胞を破壊すると考えられている
β細胞はインスリンを作る細胞であり、インスリンがなければ体は食べたものをエネルギーに変えることができないとされる

しかし、そのようなモデルは、今回発表されたようなClec16aの突然変異の研究によって変わってしまうかもしれない

「なぜ1型糖尿病が起きるのか?
科学者たちはそれを理解する際に、β細胞そのものの重要性を評価し始めている」
ミシガン大学で内科学の助教授でもあるSoleimanpourは言う

「免疫系の機能不全に対する『無罪の傍観者innocent bystanders』というよりもむしろ、β細胞は1型糖尿病の発症の中心的な役割を演じることを我々の研究は示している」


http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2014.05.016
The Diabetes Susceptibility Gene Clec16a Regulates Mitophagy.
糖尿病感受性遺伝子のClec16aはマイトファジーを調節する


Highlights
・1型糖尿病の感受性遺伝子susceptibility geneとされるClec16aは、E3ユビキチンリガーゼのNrdp1と相互作用する
・Clec16aはNrdp1を調節し、さらにNrdp1の標的であるパーキン/Parkinと、そのエフェクター・ポリンeffectors porinのMfn1Mfn2(Mitofusin/マイトフュージン)も調節する
・Clec16aはNrdp1を介してマイトファジー後期のオートファゴソーム輸送を調節する
・Clec16aはマイトファジーの制御を通じて膵臓β細胞の機能を調節する


Summary
Clec16aは1型糖尿病・多発性硬化症・副腎機能不全adrenal dysfunctionの疾患感受性遺伝子であることが明らかにされてきたが、その機能は不明のままである

今回我々はClec16aが膜結合エンドソームタンパク質/membrane-associated endosomal proteinであり、E3ユビキチンリガーゼのNrdp1と相互作用することを報告する

Clec16aの喪失は、E3ユビキチンリガーゼNrdp1の標的であるパーキンの増加につながる
パーキンはマイトファジーのマスター調節因子である

膵臓特異的にClec16aを欠損させたマウスの膵島はミトコンドリアの異常を示し、酸素消費が減少してATP濃度が低下した
そのどちらも正常なβ細胞の機能に必要である

事実、膵臓のClec16aはグルコースによって刺激される正常なインスリン分泌/glucose-stimulated insulin releaseにとって必要である

さらに、
Clec16a遺伝子における糖尿病誘発性diabetogenicの一塩基多型(SNP)を持つ患者の膵島ではClec16a発現が低下し、インスリン分泌が減少している

このようにthus、Clec16aはマイトファジーの制御によってβ細胞の機能を制御し、糖尿病を予防する

この経路は糖尿病を予防してコントロールするための標的となりうるものであり、
それに加えてClec16a/パーキンと関連する他の疾患の病理発生pathogenesisにも拡張される可能性がある



関連サイト
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=CLEC16A
Entrez Gene Summary for CLEC16A Gene
この遺伝子はC型レクチンドメインを含むファミリーのメンバーをコードする(C-Type Lectin Domain Family 16, Member A)
この遺伝子のイントロンのSNPは糖尿病・多発性硬化症・関節リウマチと関連付けられている

GeneCards Summary for CLEC16A Gene
CLEC16Aと関連する疾患には、IL-7受容体α欠損、グルコース代謝疾患などがある

UniProtKB/Swiss-Prot for CLEC16A Gene
RNF41/NRDP1-PARK2経路の上流を調節することにより、マイトファジーの調節因子として働く
マイトファジーは選択的なオートファジーであり、ミトコンドリアの質をコントロールするために必要である
RNF41/NRDP1-PARK2経路は、マイトファジー後期のオートファゴソームとリソソームの融合を調節する
CLEC16AはRNF41/NRDP1をプロテオソームによる分解から保護する可能性があり、E3ユビキチンリガーゼのRNF41/NRDP1は PARK2のプロテオソーム分解を調節する
CLEC16Aはマイトファジー/オートファジーを調節して正常なミトコンドリアを維持することによりβ細胞の機能において重要な役割を演じる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/b6db327c85f490033e248ad4533d1786
腸内細菌による短鎖脂肪酸はβ細胞のカテリシジン関連抗菌ペプチド (CRAMP) の発現を促進し、膵臓の免疫細胞を炎症性から調節性へ変換する
 

PDACの30%で見られる分子シグネチャーが悪性度と関連する

2016-05-19 06:06:27 | 
Study identifies potential treatment target for pancreatic cancer

Molecular signature found in 30 percent of PDAC tumors associated with more aggressive cancer

May 12, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160512124911.htm

マサチューセッツ総合病院 (MGH) の研究者たちは、最も一般的な膵臓癌に対する潜在的な分子治療の標的を初めて明らかにした
膵管腺癌/pancreatic ductal adenocarcinoma (PDAC) という膵癌では患者の90パーセント以上が死亡する

PDACでは症例の約30パーセントでSIRT6という腫瘍抑制タンパク質が不活化していることに加え、SIRT6がPDACの発症を抑制するための正確な経路を研究チームは同定した
それはSIRT6が結腸直腸癌を抑制するのとは異なるメカニズムだったという
この論文はCell誌の6月2日で発表される予定であり、オンラインでは既に先行発表されている


「癌では遺伝子の変化だけでなく、エピジェネティックな要素における変化が見られる
エピジェネティックな変化は遺伝子がいつ発現するか、そして遺伝子が発現するかどうかそのものを制御するが、
それらは癌における最も頻繁に見られる変化のいくつかを代表することが 癌ゲノミクスの進歩と共に明らかになってきた」
今回の報告の首席著者でありMGHがんセンターの一員であるRaul Mostoslavsky, MD, PhDは言う

「しかし、それらエピジェネティックな要素の多くはまだ説明されておらず、明らかになっているものでも特定の下流の標的に関連付けられてはいない
我々が明らかにした分子シグネチャーは 今回分析されたPDAC患者の3分の1以上で見られただけでなく、そのような患者の予後は非常に悪いことが判明した」


SIRT6は様々な機能を持つが、その中でも特に 細胞がグルコースをどのように処理するのかを制御することが知られている
2012年の研究でMostoslavskyのチームは、SIRT6が結腸直腸癌を抑制する能力には解糖系の制御が含まれることを明らかにした

しかし、その研究ではPDAC腫瘍の細胞でもSIRT6の発現の低下が観察された
そして今回の調査でSIRT6の欠乏がPDACを促進するのは異なるメカニズムを通じてであることが示された

細胞系統と動物モデルの実験により、PDACにおけるSIRT6レベルの低下はLin28bの発現の上昇と相関することが明らかにされた
Lin28bは通常は胎児の発達時に発現する『発癌タンパク質oncoprotein』である

Lin28bの発現はSIRT6欠損PDAC細胞の増殖と生存に必須であり、その作用はlet-7という『腫瘍抑制mRNA』を阻害することによる
let-7は、膵癌の悪性度と転移の増大と関連付けられている3つの遺伝子の発現を抑制する

 SIRT6↓─┤Lin28b↑─┤let-7↓─┤HMGA2,IGF2BP1,IGF2BP3↑→転移↑

より早く死亡した患者から得られた腫瘍サンプルでは、これらの特徴の全て、つまりSIRT6が低下し、Lin28bは増加して、そしてlet-7は低下していることが発見された


「これらの研究からの一般的なメッセージは、
癌細胞はSIRT6のようなエピジェネティックなファクターを調整することで利益を得るということである
それにより細胞の正常な増殖制御パターンを無効にするoverride能力を獲得する」
Mostoslavskyは言う
彼はハーバードメディカルスクールの内科学準教授associate professor of Medicineで、ブロード研究所では准会員associate memberである

「それぞれの腫瘍のタイプは、増殖と生存のアドバンテージをもたらす腫瘍特異的で独特な能力を獲得する可能性がある
それはそれぞれの癌ごとに決定する必要があるかもしれない
PDACに関する我々の発見について言えば、我々はLin28bによって制御される下流の経路とそれらがどのようにして悪性度と転移を増すのかについて興味がある
我々が望むのは、将来Lin28bの阻害剤が開発されることにより このPDAC患者のサブセットに利益がもたらされることだ
彼らには現在、治療オプションがほとんどまったく存在しない」


http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2016.04.033
SIRT6 Suppresses Pancreatic Cancer through Control of Lin28b.


SIRT6↓─(脱アセチル化↓)─┤c-MycによるLin28bの発現↑─┤Let-7↓


Highlights
・SIRT6の喪失は発癌性Kras(KrasG12D)と協力して膵癌を駆り立てるdrive
・SIRT6はプロモーターヒストン脱アセチル化を通じて腫瘍胎児性タンパク質oncofetal proteinのLin28bを調節する
・Lin28bはSIRT6を欠く膵癌の増殖と生存を駆り立てるdrive
・SIRT6とLin28bの発現は、特定の膵癌サブセットにおける予後を規定するdefine

Summary
ヒトの癌ではクロマチン再編成タンパク質chromatin remodeling proteinsがしばしば調節を失うが、それらがどのようにして腫瘍発生tumorigenesisを制御するのかについてはほとんど知られていない

今回我々はNAD+依存性ヒストン脱アセチル化酵素サーチュイン6(SIRT6)によって仲介されるエピジェネティックなプログラムが膵管腺癌(PDAC)の抑制に決定的に重要criticalであることを明らかにする

SIRT6の不活化はLin28bの上方調節を介してPDACの進行と転移を加速する
Lin28bはlet-7というマイクロRNAを負に調節する

SIRT6の喪失の結果としてLin28bプロモーターの位置でヒストンの過剰なアセチル化が生じ、MycがリクルートされてLin28bが顕著に誘導され、let-7の下流の標的遺伝子であるHMGA2、IGF2BP1、IGF2BP3が発現する

このエピジェネティックなプログラムは予後の悪いサブセットを明確に規定し、それはヒトのPDACの30%から40%を占める
その特徴はSIRT6の発現低下と、そして腫瘍増殖のためにLin28bへ非常に強くexquisite依存するということである

したがって我々はSIRT6をPDACの重要な腫瘍抑制因子として同定し、分子的に定義されたPDACサブセットの一つとしてLin28b経路が潜在的な治療標的であることを明らかにする



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/a0dcc719c04982622d72f174d27ae8fd
LIN28Bによるlet-7の抑制はHmga2を介して結腸癌につながる



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160217113640.htm
TSC2を介する腫瘍形成はmTORではなくHMGA2が原因
TSC2のハプロ不全によって促進される間葉系の腫瘍発生はHMGA2を必要とするが、mTOR経路の活性化には依存しない



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/1acea69d654f23bbb24d30016caf210d
let-7は細胞の成長を遅らせる重要なマイクロRNAだが、DROSHAまたはDICER1が変異したウィルムス腫瘍ではlet-7 RNAが失われて異常に急速な細胞の成長を引き起こす



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150204074854.htm
HPV陰性の頭頸部癌ではCCND1とCDK6を抑制するCDKN2A(p16)が57%で不活化、let-7cが40%で不活化しているのに対して、HPV陽性ではCDKN2Aの変異は0%、let-7cは17%で不活化している
 

Aβによるシナプスの損傷にはPKCαが必要

2016-05-18 06:06:28 | 
Genetic variations that boost PKC enzyme contribute to Alzheimer's disease

May 10, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160510143654.htm


(アルツハイマー病と関連するPKCタンパク質の突然変異の一つは、PKCの活性を促進する空洞cavityを形成する
Credit: UC San Diego Health)

アルツハイマー病ではアミロイドβタンパク質のプラークが脳内に蓄積してニューロン間の接続に損傷を与える
カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部とハーバードメディカルスクールの研究者は、
アミロイドβによるニューロン間接続の損傷にはタンパク質キナーゼCアルファ/Protein Kinase C alpha (PKCα) が必要であることを明らかにした
また、彼らはアルツハイマー病患者の中にPKCαの活性を促進する遺伝子多型も確認した

Science Signalin誌で5月10日に発表された今回の研究は、アルツハイマー病の新たな治療標的をもたらすかもしれない

「最近になるまで、PKCは細胞の生存を助け、過剰なPKCの活性は癌につながると考えられていた
そのような思い込みassumptionに基づいて多くの企業がPKC阻害剤を開発して癌の治療薬としてテストしたが、それらはうまくいかなかった」
UCサンディエゴ医学部で薬理学の教授で共首席著者co-senior authorのAlexandra Newton, PhDは言う7

「我々はその正反対が真実であることを発見した
PKCは細胞の増殖と生存の『ブレーキ』として働く
なのでPKCが不活化するとむしろ癌細胞にとって有利になる」

「我々の今回の研究では、PKCの過剰すぎる活性も良くないということを明らかにする
それは神経変性を促進するからだ
このことは癌の臨床試験で失敗した薬剤がアルツハイマー病の新たな治療の機会をもたらすことを意味する」


この研究は三方向からの協力によるものだった
PKCの専門家であるAlexandra Newtonと、
神経科学のRoberto Malinow, MD, PhD (UCサンディエゴ医学部で神経科学と神経生物学の名誉教授)、
そしてゲノミクスではRudolph Tanzi, PhD (ハーバードメディカルスクールで神経学の教授) が協力した

Malinowのチームは、PKCα遺伝子を失ったマウスはアミロイドβが存在していても機能的には正常であることを明らかにした
彼らがPKCαを回復させると、アミロイドβは再びニューロンの機能を低下させた
言い換えると、アミロイドβは
PKCαの活性がなければ脳機能を阻害できないのである


Tanziのチームは遅発性アルツハイマー病の患者1,345人とその家族410組のデータベースから、
Tアルツハイマー病になった患者と家族だけで見られる遺伝子の突然変異を探すべくデータベースを検索した
分析の結果、彼らは5つの家族でアルツハイマー病と関連するPKCαの3つの多型variantsを発見した
研究者たちはさらに、この3つの多型をラボの細胞系統で再現することにも成功した
それぞれの例でPKCαの活性は増大したのである

この研究ではPKCαのまれな突然変異を持つ5つの家族だけを扱ったが、PKCαの活性に影響する要因は数多くあるとNewtonは言う
間接的にPKCの活性を加速したり阻害したりする遺伝的な多型が他にも多数存在する可能性があり、したがってそれらがアルツハイマー病の発症のしやすさにも影響しうると彼女は考えている

「我々はこの病理に関与する分子をさらに多く明らかにしたいと望んでいる」
Malinowは言う

「このメカニズムで我々が理解できるステップが多くなればなるほど、
より多くのアルツハイマー病の治療標的を我々は見つけることになるだろう」


http://dx.doi.org/10.1126/scisignal.aaf6209
Gain-of-function mutations in protein kinase Cα (PKCα) may promote synaptic defects in Alzheimers disease.
PKCαの機能獲得変異はアルツハイマー病におけるシナプス欠陥を促進する


アルツハイマー病におけるPKCαバリアント
アルツハイマー病(AD)の特徴は神経変性ならびにニューロン機能の損傷であり、認知機能が徐々に失われる
早発性ADは遺伝子の突然変異と関連があるが、アミロイドβというタンパク質の蓄積は早発性ADと遅発性ADの両方で生じる

遅発性ADと診断された家族の大規模なコホートで遺伝学を調査したAlfonsoらによって、PKCαの活性化変異がアルツハイマー病と関連することが明らかにされた

薬理学的にPKCαを阻害するかPKCαをコードする遺伝子を削除すると、マウスの海馬組織のスライスにおけるアミロイドβによるシナプス活性の損傷が阻止された

我々の研究は、遅発性ADの患者の中にPKCαのバリアントvariantがアミロイドβの病理的な影響を仲介する者がいることを示唆する


Abstract
アルツハイマー病は進行性の痴呆症であり、脳内のシナプス変性とアミロイドβ(Aβ)の蓄積が特徴である

410家族中の遅発性AD(LOAD)1345人の全ゲノム配列決定を通じて、我々はPKCαをコードするPRKCA遺伝子に浸透度の高い3つのバリアントhighly penetrant variantを5家族に発見した

LOADと関連する3つのバリアント全てが、野生型PKCαと比べて触媒活性の増大を示した(genetically encoded PKC activity reporterを使い、live-cell imaging experimentsで評価した)

マウスからPRKCAを削除するか、Aβ前駆体を発現するウイルスCT100を感染させたマウス海馬スライスにPKCアンタゴニストを加えた実験により、
Aβによって引き起こされるシナプス活性の低下にはPKCαが必要であることが明らかになった

CT100を発現するPRKCA−/−のニューロンでPKCαを導入するとシナプス抑圧depressionは救済されたが、PDZドメインと相互作用する部分を欠くPKCαではそうはならなかった
これはPKCαをシナプスへと移動bringさせる足場的な相互作用が、そのAβの影響の仲介に必要であることを示唆する
したがって、PKCα活性の促進はADの一因となる可能性があり、それはおそらくAβのシナプスへの作用を仲介することによるものだろう

対照的に、PKCα活性の減少は癌と関連がある
したがって、これらの発見はPKCαの活性の注意深いバランスの維持の重要性を補強する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/4caa01b42e8bf10c3f358bc8078dc647
PKCαはビタミンEの両方の種類と結合するが、オリーブ油とひまわり油に多いα-トコフェロールはPKCαの作用を阻害し、ダイズ油・キャノーラ油・トウモロコシ油に多いγ-トコフェロールはPKCαの作用を増加させる
γ-トコフェロールは肺の炎症を増大させて喘息リスクになりうる



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150309082934.htm
癌で見られたPKCの突然変異のほとんどは機能喪失変異だった
患者から得られた結腸癌の細胞系統でPKCβを修正すると、anchorage-independent growthは抑制された



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150122132736.htm

PKCβは腫瘍抑制因子だった
結腸癌患者の細胞系でPKCβの機能喪失変異をCRISPRによるゲノム編集で修正すると、
異種移植モデルxenograft modelではanchorage-非依存的な増殖は抑制され、腫瘍の成長は低下した



関連サイト
http://www.ekouhou.net/
αセクレターゼは、無毒性のシナプス形成性の可溶性APP-αを生成する。蓄積された監察結果により、プロテインキナーゼCアイソザイム-αおよび-εは、直接的にAPPのα-セクレターゼ媒介性切断を直接的に活性化し、および/または細胞外シグナル調節キナーゼのリン酸化を介して間接的に活性化する。


癌細胞の移動にはオートファジーが必要

2016-05-15 06:06:20 | 
Stopping cancer in its tracks

Disrupting autophagy, a cellular housekeeping process, limits cancer spread

May 12, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160512124918.htm

シカゴ大学の研究者は、オートファジーの阻害が効果的に腫瘍細胞の移動と乳癌の転移を阻止することを示した
5月12日にCell Reports誌で発表された研究で彼らはこのプロセスが腫瘍の転移に必須であることを実証し、オートファジーを細胞移動につなげるメカニズムを説明する


「我々は遺伝学的・化学的な手段を使うことで、オートファジーが高度に転移性の腫瘍細胞の移動と浸潤に必須であることを示した」
チームリーダーのKay MacLeod, PhDは言う
彼はシカゴ大学Ben May Department for Cancer Researchでは準教授associate professorである

「我々の研究は臨床的状況clinical settingにおけるオートファジーの阻害が転移による癌の広がりを阻止するための効果的なアプローチであることを示唆する」

転移は癌による死因の90パーセントを占めている
急速に増殖する腫瘍細胞は密接に詰め込まれ、利用可能な酸素と栄養を急速に使い果たす
そのような腫瘍から逃れることで移動する癌細胞は飢えを回避し、密集していない環境で栄養を獲得することになる

「転移する癌細胞のオートファジーを止めると何が起きるのだろうと問うことから我々は始めた」
Macleodは言う

MacLeodのラボで研究していた二人のMD/PhD studentであるMarina SharifiとErin Mowersが転移性の癌細胞を培養皿の上に置いてtime-lapse microscopyで観察すると、それらは活発に動き回り続けた
しかし、彼ら研究チームがオートファジーに関する遺伝子のAtg5とAtg7をノックダウンしたところ、「それはまったく動かなかった
まるで止まってしまったかのようだった」という

その遺伝子を変化させた癌細胞をメスのマウスの乳腺脂肪パッドmammary fat padに注入すると、 癌細胞は増殖して巨大な原発乳癌腫瘍を形成した
しかし通常なら肺や肝臓、骨などの遠い箇所に転移するはずの癌細胞は、転移することができなかった

詳しく観察したところ、それらの細胞は形態的にmorphologically非常に異なることが示された
細胞の移動に重要な構造である『接着点focal adhesion』の数がおびただしく多くnumerous、そして異常に大きったのである

※focal adhesion: 接着点。インテグリンを介して細胞外マトリックスと細胞骨格が結合する場所。インテグリンの細胞内ドメインは、α-アクチニン、テーリン、パキシリン、ビンクリンなどの作用を受ける

※パキシリンpaxillin: 接着点focal adhesionでフォーカル・アドヒージョン・キナーゼ/focal adhesion kinase(FAK)と結合するタンパク質で、FAKとの結合箇所が2つある。パキシリンが足場となって、インテグリン・FAK・SRCキナーゼが会合する


「接着点はタンクトラック/tank trackのように機能する」
MacLeodは言う

これらの大きなタンパク質複合体は細胞の前面に組み立てられ、細胞の外面peripheryから伸びて細胞外マトリックスに接続する
細胞はそれを使ってマトリックスに対して細胞自身を押したり引いたりする

細胞が前へ移動する時、接着点は細胞の前面で形作られて、細胞外マトリックスへの動的な接続を確立する
細胞がそれを通ぎていくにつれて、引きずるように動く細胞の端を 接着点はだんだん後ろの方へずれていくdrift
そこでオートファジーが介入し、接着点をばらばらにしてdisassemble中身を分解し、細胞の後ろの端を細胞外マトリックスから離れられるようにする
そうして細胞は前方の端からの牽引力tractionによって引っ張られるのである


もしオートファジーが阻害されると、転移する腫瘍細胞は動くことができなくなることをMacleodたちは示した

入れ替わるturn overことがない接着点はだんだん大きくなり、細胞をその場に固定するanchor

「それらの細胞は文字通り『刺し留められてstuck』、動かなくなる
顕微鏡では細胞が動こうとして震えているwobbleのが見えるだろう
細胞は新たな突起protrusionを作って移動しようとするが、それは不可能だ
なぜなら細胞は刺し留められstuck、細胞の後ろ側の接着を分解するdissolveことができないからだ
基本的に、オートファジーに欠陥がある癌細胞は移動できず、結果として別の場所に行くことは不可能になる
こういう理由でオートファジーの阻害が腫瘍の転移を防ぐと我々は考えている」


このプロセスを詳しく分析することにより、オートファジーと接着点との間の生化学的なつながりが明らかになった
接着点に存在するパキシリンpaxillinというタンパク質は、突起の細胞内側の構成物を細胞移動へとつなげるために使われる
細胞が接着点を分解する必要が生じると、オートファジーのプロセスではLC3というタンパク質が使われる
LC3はパキシリンを飲み込みengulf、リソソームへと運んで分解させる

「LC3とパキシリンとの相互作用は、SRCによって調節される」

SRCは細胞の移動と転移を促進するキナーゼであり、初めて癌遺伝子として定義されたタンパク質でもある
研究の共著者co-authorであるErin Mowersは、SRCが転移を促進する能力がオートファジーに依存することを示した

「オートファジーを阻害すると、
もはやSRCは転移する腫瘍細胞を駆り立てることはできない」
MacLeodは言う

「これは非常に大きな発見である」

オートファジーを阻害する薬が既に承認されており、現在いくつかが臨床試験で評価中である
その内の一つ、ヒドロキシクロロキンはマラリアの予防と治療用としてFDAが承認し、今は腫瘍の成長を遅らせる手段として試験中である

「しかし、オートファジー阻害剤は転移を防ぐ方法として特に評価されてはいない」ということにMacLeodは言及する

「我々はヒドロキシクロロキンや他の関連する薬剤の効能を、転移の抑制という点で評価するようにデザインされた試験を調べたいと考えている
このオートファジーを阻害するアプローチはそのような場でこそ抗癌の手段として最も役立つだろうと我々は考えている」


著者は次のように結論する
「腫瘍の移動、浸潤、転移にオートファジーを関連付ける研究が増えつつある
我々の研究はそれに加わるものだ」

「我々の研究はパキシリンの分解を通じて接着点を分解する際にオートファジーが果たす重要な役割、そして原発腫瘍から逃れるためのオートファジーの必要性を明らかにしたが、
それに加えて腫瘍の転移を阻害するためにオートファジーを阻害することの潜在的な有用性を強調する」


Cell Reports誌で発表された実験のほとんどは乳癌の細胞をマウスに移植することで実施されたものだが、研究者たちは転移性のメラノーマ細胞でも同じ現象を観察したという

「そのため、オートファジーに依存する転移は一種類の腫瘍だけに特別なことではないように思われる」
MacLeodは言う


http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.04.065
Autophagy Promotes Focal Adhesion Disassembly and Cell Motility of Metastatic Tumor Cells through the Direct Interaction of Paxillin with LC3.
オートファジーはパキシリンとLC3との直接の相互作用を通じて転移性腫瘍細胞の接着点分解ならびに細胞移動を促進する


Highlights
・転移性の腫瘍細胞が移動して浸潤するためにはオートファジーが必要である
・オートファジーはパキシリンpaxillinの分解を促進し、接着点focal adhesionの代謝回転turnoverを促進する
・パキシリンは保存されたLIRモチーフを通じてLC3Bと相互作用し、それはSrcによって調節される
・オートファジーはSrcによって調節される細胞移動にとって必要である

Summary
オートファジーは種を通じて保存conservedされた異化catabolicのプロセスであり、凝集したタンパク質や細胞器官organelleの除去に関してハウスキーピング的な役割を演じる
また、オートファジーは栄養が欠乏した状態で活性化されて代謝産物とエネルギーを作り出す

オートファジーは腫瘍発生/発癌tumorigenesisにおいて重大significantな役割を演じるが、
癌におけるオートファジーの機能は状況依存的context-dependent functionsであり、時に正反対opposingでもあるため、
治療目的でオートファジーを標的にする研究者の努力は非常に複雑なものとなっていた
Autophagy plays a significant role in tumorigenesis, although opposing context-dependent functions of autophagy in cancer have complicated efforts to target autophagy for therapeutic purposes.

我々はオートファジーの阻害がin vitroで腫瘍細胞の移動と浸潤を低下させ、in vivoでは転移を減少させるattenuateことを実証する

オートファジーを欠く腫瘍細胞では非常に多数numerousの大きなlarge『接着点/focal adhesion (FA)』が蓄積する
これはパキシリンを標的とする分解degradationを通じて接着点を分解disassemblyする際のオートファジーの役割を反映する

我々はパキシリンがそのアミノ末端/N末端の保存されたLIRモチーフを通じて プロセスを受けたLC3/processed LC3(LC3-II)と相互作用し、その相互作用が発癌性oncogenicのSRC活性によって調節されることを実証する

合わせて考えると、これらのデータは
接着点の代謝回転・腫瘍細胞の移動・転移におけるオートファジーの機能を確定するものである



関連サイト
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/yoshimori/jp/research/030/
LC3はProLC3として翻訳された後、直ちにAtg4によってC末端22アミノ酸が除去され、LC3-Iとなります。
LC3-IはまずAtg7に、続いてAtg3に受け渡された後、オートファゴソーム膜のリン脂質分子フォスファチジルエタノールアミンにC末端で共有結合してLC3-IIとなります。
オートファゴソームの外側のLC3-IIはAtg4によってPEから切断され、再びLC3-Iに戻ることが出来ますが、オートファゴソームの内側のLC3-IIは、オートファゴソームがリソソームと融合すると分解されます。



関連記事
https://blog.goo.ne.jp/news-t/e/dd5f0507eea0b2e78f76bbccbba164a1
腫瘍の酸性pHはクロロキンのオートファジー阻害効果を妨害する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/3022779d04a58d7ce6e47c810ec5d295
オートファジーを調節するbeclin 1の発現の低さは、トリプルネガティブ乳癌に罹患していることと35倍関連する
 

コレステロールエステル化の阻害で膵臓癌の転移を抑制する

2016-05-12 06:06:09 | 癌の治療法
Research points to a new treatment for pancreatic cancer

May 3, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160503161425.htm


(Researchers have shown how controlling cholesterol metabolism in pancreatic cancer cells reduces metastasis to other organs, pointing to a potential new treatment. Findings showed a higher number of metastatic lesions in organs of untreated and treated mice, shown at top and bottom, respectively.

Credit: Purdue University image/Junjie Li)

パーデュー大学(インディアナ州)の研究者は、膵臓癌の細胞内のコレステロール代謝を制御することがどのようにして転移を抑制するかを示した
これは以前アテローム性動脈硬化症のために開発された薬剤を使った新たな潜在的治療への道を指し示すものである
膵癌は診断から数ヶ月以内に死亡するため、膵癌患者の寿命を延ばす新たな治療が望まれている

「コレステロール代謝を制御すると膵臓癌が他の臓器へ転移するのを減少させうることを我々は初めて示す」
パーデュー大学のWeldon School of Biomedical Engineeringと化学部で教授を務めるJi-Xin Chengは言う

「我々はこのアプローチをテストするために膵臓癌を選んだ
なぜなら全ての癌の中で最も悪性の疾患だからである」


以前Chengは研究チームを率いてコレステロールが細胞によって代謝された際に作られる化合物(コレステリルエステル)と前立腺癌の悪性度との間のつながりを発見しており、その発見は新たな診断と治療の方法をもたらしうるものだった

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24606897



今回の研究チームにはパーデュー大学がん研究センター、バイオメディカル・エンジニアリングスクール、
パーデュー大学生物科学部、比較病理生物学、生化学部、
そしてインディアナ大学医学部、サイモンがんセンターの研究者が含まれる

Oncogene誌で詳細が発表された今回の研究結果は、以前アテローム性動脈硬化症を治療するために開発された薬剤が膵臓癌などの癌の治療のために再利用repurposeされうることを示唆する
アテローム性動脈硬化とは脂肪やコレステロールなどの物質が動脈に蓄積して血流が制限される状態である

今回の研究ではヒト膵臓癌の標本specimenならびに細胞系統ではコレステリルエステルcholesteryl esterという化合物の蓄積が明らかになり、コレステロールのエステル化cholesterol esterificationと転移との間のつながりが実証された


エステル化はコレステロールを細胞に蓄積するための生化学的なプロセスである
コレステロールの量が過剰だと、コレステリルエステルが癌細胞内の脂肪滴lipid droplet内に蓄積される結果になる

「今回の研究結果は、コレステロールのエステル化を阻害することで転移性の膵臓癌を治療するという新たな戦略を実証する」
インディアナ大学でJonathan and Jennifer Simmons Professor教授職であり、Melvin and Bren Simon Cancer Centerの研究者でもあるJingwu Xieは言う

論文の筆頭著者lead authorでパーデューのpost-doctoral fellowのJunjie Liを含めた研究者たちはラマン顕微分光法/Raman spectromicroscopyという分析ツールを開発し、それにより生きた細胞の単一の脂肪滴がどのような成分から構成されているかを調べることが可能になった

「我々はヒト膵臓癌の標本ならびに細胞系統におけるコレステリルエステルの異常な蓄積を確認した」
Liは言う

「マウスの膵臓でコレステロールのエステル化を枯渇させると、腫瘍の増殖と転移は著しく抑制された」


研究結果はアテローム性動脈硬化症を治療するために以前開発されたアバシミベ/avasimibeのようなACAT阻害剤がコレステリルエステルの蓄積を減少させることを示す

※ACAT: アシルCoA コレステロールアシル基転移酵素。アシル基をコレステロールに転移させる

コレステリルエステルの蓄積はACAT-1のような酵素によって制御され、
この酵素の発現の高さと患者の生存率の悪さとの相関関係が研究により証明された

研究者たちは膵癌患者の組織サンプルを分析し、加えてインディアナ大学医学部によって開発された同所性マウスモデル/orthotopic mouse modelと呼ばれる実験用マウスで薬剤による治療をテストした
ヒト膵癌組織の標本はSimon Cancer CenterのSolid Tissue Bankから提供された

※orthotopic graft: 同所移植。ある組織を移植する際に、それが正常に存在するべき解剖学的部位に移植すること

実験の結果、画像では脂肪滴の数の減少が示され、ラマン分光による分析では脂肪滴内部のコレステリルエステルの著しい減少が立証された
これはアバシミベavasimibeがコレステロールのエステル化を阻害することにより作用したことを示唆する
この薬は体重を減少させず、肝臓、腎臓、肺、脾臓のような臓器への明らかな毒性も見られなかったとChengは言う

また、実験ではコレステリルエステルの貯蔵の阻害が癌細胞を殺すことが示された
その原因は特に小胞体/endoplasmic reticulum(ER)に対してダメージを与えたことによるもので、ERはタンパク質と脂質の合成のために働く器官である

「ACAT-1の強力な阻害剤であるアバシミベを使うことで我々は膵癌の細胞が通常の細胞よりもACAT-1阻害に感受性があるsensitiveことを明らかにした」

さらなる研究でアバシミベの抗癌効果は特にACAT-1阻害によることが確かめられた
研究者は様々な生化学的な分析と『遺伝子除去genetic ablation』を実施して薬剤の抗癌効果を確認した

「実験結果では4週間のアバシミベによる治療が腫瘍のサイズを顕著に抑制して腫瘍の成長速度を大幅に低下させることが示された」
論文の共著者coauthorであるTimothy Ratliffは言う
彼はパーデューのがん研究センターでRobert Wallace Miller Directorである

「研究の最後にリンパ節と遠隔臓器の転移病巣metastatic lesionsを評価した
アバシミベによる治療群と比較して、対照群ではリンパ節で非常に多くの転移病巣が検出された」

対照群の8匹のマウスはそれぞれ肝臓に少なくとも一つ以上の転移病巣を示したが、
アバシミベでの治療群は9匹中わずか3匹のマウスが肝臓に一つの転移病巣を示しただけだった

※記事にはそれぞれの群groupの数が書かれていない。論文にはこう書かれている。
"Much higher number of metastatic lesions in lymph nodes were detected in the control group (15.0±2.2, n=8) than the avasimibe-treated group (4.4±1.7, n=9). "
"Each mouse in the control group showed, at least, one metastatic lesion in the liver. In contrast, only three mice in the avasimibe-treated group showed single lesion in liver (Figure 5d). "


Cheng, LiとRatliffは、ヒトの癌患者のための薬の調剤formulationの開発に向けて、Purdue Research ParkにResarci Therapeutics LLCを設立した

「我々はこれを臨床に持って行きたいと考えている」
Chengは言う

彼らはインディアナ大学のXieと共に治療の可能性についてさらに研究を進めていく予定である


http://dx.doi.org/10.1038/onc.2016.168
Abrogating cholesterol esterification suppresses growth and metastasis of pancreatic cancer.
コレステロールエステル化の阻害は膵癌の増殖と転移を抑制する

Abstract
癌細胞はグルコース・アミノ酸・脂質の代謝を再プログラム化することが知られている

今回我々は、癌の転移におけるコレステロール代謝の重要な役割を報告する

我々は標識を用いないラマン顕微分光法label-free Raman spectromicroscopyを使い、ヒトの膵癌の標本と細胞系統においてコレステリルエステルの異常な蓄積が見られることを明らかにした
これはアシルCoA コレステロールアシル基転移酵素/acyl-CoA cholesterol acyltransferase-1 (ACAT-1) によって仲介されるものであり、ACAT-1の発現は患者の生存の悪さと相関を示した

コレステロールエステル化の阻害は、ACAT-1阻害剤またはスモールヘアピンRNA(shRNA)ノックダウンのどちらであっても、膵癌の同所性マウスモデル/orthotopic mouse modelにおいて腫瘍の増殖と転移を有意に抑制した

機構的にはMechanically、ACAT-1阻害は細胞内の遊離コレステロールfree cholesterolのレベルを増加させた
これは小胞体ストレスの上昇と関連し、癌細胞のアポトーシスを引き起こした

まとめると、我々の結果はコレステロールエステル化の阻害によって転移性の膵癌を治療するための新たな戦略を実証する


Results
膵癌におけるコレステリルエステルの蓄積はPTENによって調節され、新規のコレステロール合成とLDL取り込みの両方によって仲介される

合わせて考えると、我々の結果は膵癌におけるコレステリルエステルの蓄積は新規合成とLDL取り込みの両方から生じることを示し、そしてどちらもACAT-1酵素によって仲介される (Figure 3h)


http://www.nature.com/onc/journal/vaop/ncurrent/fig_tab/onc2016168f7.html
Figure 7
Inhibition of ACAT-1 induces ER stress and apoptosis in pancreatic cancer
ACAT-1の阻害は膵癌にERストレスとアポトーシスを誘発する


ACAT-1酵素は遊離コレステロールをエステル化し、エステル化されたコレステロールは脂肪滴(LD)に貯蔵されてコレステロール恒常性を維持する

我々はコレステロールのエステル化が新規コレステロール合成/LDL取り込みによって引き起こされる過剰な遊離コレステロールの毒性を最小化する方法をもたらすのではと仮説を立てた

我々が予想した通り、遊離コレステロール濃度はアバシミベ投与と共に徐々に増大して高くなった (Figure 7a)

遊離コレステロールの増加は、アバシミベを投与した膵癌マウスの腫瘍組織でも検出された (Supplementary Figure S7A).

細胞内の遊離コレステロールレベルの上昇はマクロファージにERストレスを引き起こし、アポトーシスを誘発することにより有害であることが以前報告されている (33

アバシミベ投与が膵癌細胞におけるERストレスと関連するかどうかをテストするため、我々は3つのERストレスマーカーを使って調べた
78 kDa glucose-regulated protein (GRP78)、activating transcription factor 4 (ATF4)、C/EBP homologous protein (CHOP) である (34

免疫ブロット法/immunoblottingによる分析で、アバシミベ投与後に時間が経つにつれてGRP78発現レベルが徐々に上昇することが示された
これはERシャペロンであるGRP78が放出releaseされたことを示す (34

GRP78の放出は小胞体ストレス応答/unfolded protein response(UPR)経路を活性化し、投与から12時間後以内の転写因子ATF4の増大につながる

ATF4は、アポトーシスを促進する因子であるCHOPの発現を誘導する
この発現はアバシミベ投与の12時間後に現れ、12時間後から48時間後まで増大していた (Figure 7b)

我々はさらに、アバシミベを低濃度~高濃度で投与したMIA PaCa-2細胞でERストレスの程度を評価した
これはGRP78が徐々に増大することにより示された (Figure 7c)

GRP78発現の上昇は、アバシミベによるACAT-1阻害だけでなく、ACAT-1がノックダウンされたMIA PaCa-2細胞でも観察された (Supplementary Figure S7B)

ACAT-1阻害によって誘発されたERストレス と 上昇した遊離コレステロールレベル との間の関連を実証すべく、
アバシミベを投与した細胞に リポタンパク質を欠乏させて外因性コレステロールを除去した血清 または コレステロール新規合成を阻害するシンバスタチン を使用した

この実験により、リポタンパク質を欠乏させた血清、シンバスタチン、そのどちらもGRP78レベルを低下させることが示された (Figure 7d)
これは細胞を特にアバシミベによって誘発されたERストレスから救った


Discussion
今回の研究から示された『コレステリルエステル/cholesteryl ester(CE)の蓄積を癌の悪性度へと関連付ける分子メカニズム』にはさらなる研究が必要である

※cholesteryl ester: "-yl"は『…基』のこと。ある物質からH原子が失われる(alkyl, methyl, phenyl)かOH基が失われる(acyl, acetyl, carbamoyl)ことにより生成される基であることを示す


考えられる可能性の一つは、コレステロールのエステル化esterificationが
遊離コレステロールの少ない環境を維持することにより
シグナル伝達経路を活性化した状態に保つというメカニズムである

可能性のある標的の一つは、カベオリン1/caveolin-1シグナル伝達経路である
One of the possible targets is the caveolin-1 signaling pathway.

細胞コレステロール恒常性の調節因子であるカベオリン1は、膵癌の進行のマーカーであると考えられている (11

特に、カベオリン1は膵癌の転移の促進で役割を果たすことがこれまで報告されている (40

我々の予備研究preliminary studiesでは、ACAT-1の阻害は SREBP1・カベオリン1・リン酸化ERK1/2 の発現レベルを低下させることが示された (未発表データ)

カベオリン1の影響はおそらくSREBP1によって仲介されるものであり、SREBP1は細胞内コレステロール恒常性を感知する (41

一方で、カベオリン1はSREBP1からMAPK経路への作用を仲介する際に重要な役割を演じるかもしれない (42, 43
MAPKは癌細胞の転移において極めて重要な役割を持つことが知られている (44

 細胞内コレステロール恒常性/SREBP1→(カベオリン1)→MAPK→転移

ゆえに、ACAT-1阻害によって生じる遊離コレステロールレベル増加は、SREBP1を不活化してカベオリン1・MAPK経路の下方調節につながり、これが癌の悪性度の低下に寄与する可能性がある

 遊離コレステロール↑/SREBP1↓→(カベオリン1↓)→MAPK↓→転移↓


カベオリン1/MAPKシグナル伝達以外では、脂質ラフト/lipid raftのような膜構成がACAT-1の阻害によって潜在的に変化する可能性がある
脂質ラフトは多種多様な細胞シグナル伝達経路のプラットフォームを提供することが知られている

したがってコレステロール代謝の調整は他のシグナル伝達経路を経てさらに深い影響を与える可能性が高い
分子メカニズムを完全に明瞭にするための研究が将来必要である






関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160216180248.htm
ERストレスによるUPR応答ではATF4が誘導される
ONC201という臨床試験中の抗癌剤によってもATF4が誘導され、p53には依存しない細胞死や細胞周期停止が起きる



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/04/160426144737.htm
コレステロールが高いほど結腸直腸癌リスクは低下する(オッズ比0.95)
スタチン使用もリスク低下と関連したが、それはindication biasである



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/3787e596bc6ddff6d2af0918968ced08
コレステロールは細胞の移動で重要な役割を果たす



関連サイト
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20428172
同じコレステロールでも、ACATによってエステル化されたものは結晶になりにくい
NLRP3インフラマソームはアテロームの生成に必要であり、コレステロール結晶により活性化される



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/6089be975c0cf32996447e33323a6ece
癌はLDLのコレステロールをエサにして増殖する
 

肺癌は肝臓のインスリンシグナルに干渉する

2016-05-10 06:06:15 | 
Lung tumors hijack metabolic processes in the liver, study finds

Research provides first insights into how cancer rewires circadian rhythms

May 5, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160505133901.htm

我々自身の体内時計である概日リズム/circadian rhythmがどのようにして肝臓の機能をコントロールするのかを研究していたカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の科学者たちは、肺癌の腫瘍がこのプロセスをハイジャックして代謝を大きくprofoundly変化させることを発見した
体内時計は脂質代謝・インスリンへの感受性・グルコースを支配sway overしているが、彼らの研究は肺腺癌lung adenocarcinomaがこの時計に影響しうることを初めて示す
彼らの研究はCell誌のオンライン版で発表された

UCIエピジェネティクス代謝センターのPaolo Sassone-CorsiとSelma Masriたちは、肺腺癌が炎症性の応答を通じて肝臓にシグナルを送ることにより、代謝経路を管理する概日メカニズムを配線し直すことをげっ歯類の研究で明らかにした
この炎症の結果として肝臓のインスリンシグナル伝達経路は阻害され、耐糖能glucose toleranceの低下と脂質代謝の再編成につながる

「肺腫瘍は肝臓の概日的な代謝機能を支配take controlし、癌細胞の高まった代謝的な需要を潜在的にサポートさせる」
Sassone-Corsiのラボでresearch scientistを務めるMasriは言う

「この代謝組織の遠隔的な再配線rewiringは肝臓だけで起きるのではなく、全身の代謝の再編成shake-upを示唆すると我々は考えている」


ほぼ全ての生物において24時間の概日リズムは基本的fundamentalな生理学的プロセスを支配する
概日時計circadian clocksは我々の体に備わっている時間追跡システムであり、それにより人体は環境的な変動を前もって先取りanticipateして、『(時計の)時刻the time of day』に適応する

これらのリズムに対する変化はヒトの健康に深く影響しうる
ヒトの遺伝子の15パーセントまでが概日リズムの昼夜のパターンによって調節され、肝臓の代謝経路に関与する遺伝子の50パーセント近くがそのリズムによって影響を受ける


過去10年の間、概日リズムの分野で先頭foremostを走る研究者の一人であるSassone-Corsiは体内時計がどのようにして外的要因(例えば昼夜のパターンや栄養素)による影響を通じて様々な肝臓の機能をコントロールするのかを調査してきた
そこから彼らは、この洗練された『標準時計regulator』に対して癌のような疾患がどのようにして影響を与えうるのかについて研究するに至った

過去40年以上の研究で膨大で目覚ましい進歩が為されたにもかかわらず、癌はいまだに未解決の課題である
多くの癌患者にとっての実際の死因は、正常な生理的機能・生体機能の悪化である
今回発表されたCell誌の研究では腫瘍に由来する炎症は肝臓のインスリンシグナル伝達経路を阻害し、肺腫瘍のマウスで高血糖につながることが明らかになった
脂肪酸の合成も抑制されるが、しかし総コレステロールレベルは上昇する


現在Sassone-Corsiのラボは肺腫瘍によって分泌される因子factorsを分析中であり、癌による代謝的な影響の完全に正確な『地図』を描こうと努力している最中である
彼らは代謝組織における概日時計の『まとめ役organizer』として働くことが可能な肺腺癌の能力を理解しようとしている

「概日リズムのプロセスについて、そして癌のような疾患がどのようにしてそれらを改ざんalterできるのかについて、これまで以上に学び続けることが重要である」
Sassone-Corsiはそのように言う
彼はカリフォルニア大学アーバイン校で生化学のDonald Bren Professor教授職である

「得られた知識を使って、我々は介入する方法(行動論的なものと薬学的なものの両方)を開発することが可能である
それはヒトの健康を維持して回復するのを助けることができるだろう」


http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2016.04.039
Lung Adenocarcinoma Distally Rewires Hepatic Circadian Homeostasis.
肺腺癌は肝臓の概日恒常性を遠位に再配線する


Highlights
・肺腺癌は肝臓の概日的な転写ならびに代謝を再配線する
・この再配線は、STAT3-Socs3という炎症性シグナル伝達経路を伴う
・肝臓のシグナル伝達の阻害ならびに耐糖能障害glucose intoleranceは腫瘍由来である
・肺腺癌は肝臓の脂質代謝を損なう

Summary
概日時計は精密に調整された分子メカニズムを通じて代謝的・生理的なプロセスを制御する

この時計は際立って柔軟で適応性がありplastic、『ツァイトゲーバーzeitgeber』、すなわち光や栄養のような外的因子に適応する

※zeitgeber: 英語に訳すとtime giver

特定の組織における病的な状態がどのようにして他の組織における全身の概日的な恒常性に影響するのかは未だ答えが出ていない疑問であり、それに答えることは概念的にも生物医学的にも重要である

今回我々は肺腺癌が概日的な代謝を外的に操作することが可能な『まとめ直す者/reorganizer』であることを示す

ハイスループット・トランスクリプトミクス/transcriptomicsにより転写と代謝産物の循環に関する独特な徴候signatureが明らかになり、それは腫瘍を持つマウスの肝臓でのみ排他的に見られた

際立っていたのは、肺癌は(Clock、Bmal1、Period、Cryptochromeなどのような)コアクロックcore clock
https://en.wikipedia.org/wiki/Circadian_clock
には影響せず、むしろSTAT3-Socs3経路を経由する炎症促進的な応答の変化を通じて肝臓の代謝を再プログラムすることである

※Socs3: suppressor of cytokine signaling 3

これは結果としてAKT, AMPK, SREBPシグナル伝達を妨害disruptし、インスリン・グルコース・脂質代謝の変化につながる

このように、肺腺癌は内因性の概日オーガナイザー/endogenous circadian organizer(ECO)として強力に機能し、肝臓のような遠い組織の病態生理学的な次元を再配線する



<コメント>
炎症とは具体的に何を指すかについて、本文には次のように書かれている

『NSCLCのモデルとされるKras LSL-G12D p53 fl/flマウス、つまり肺腺癌マウス(TBマウス)の血清では特にIL-6が有意に上昇し、他のサイトカイン(IL-1a、TNFa、LIF、IFNg)も有意ではないが明らかな上昇が見られた
それに伴って肝臓でサイトカイン受容体(Il6ra、Il1r1、Tnfrsf1b、Il17ra)の発現が上昇し、概日的なプロファイルを示した
Stat3の遺伝子発現も概日的に上昇し、総タンパク質レベルも一致して上昇、これは報告されているIL-6依存的なSTAT3の自己調節と一致する (Narimatsu et al., 2001).
STAT3の活性化を示すとされるチロシン705リン酸化も、TBマウスの肝臓で概日的な上昇が観察された

STAT3の転写的活性化は結果として下流の標的遺伝子の発現の上昇につながり、TBマウスでは特にsuppressor of cytokine signaling 3 (Socs3) の発現が概日的な上昇を示したが、Socs1とSocs7の発現は変化がなかった

SOCS3は脂肪組織と肝臓でインスリン感受性を調整することが示されている
インスリン依存的なAKTセリン473リン酸化は劇的に阻害されたが、AKT総レベルは変化がなかった
IRS-1タンパク質の総レベルは顕著に低下し、これも概日リズムを示した
このIRS-1タンパク質レベルはSTAT3活性化のピークと同時に生じたcoincide
SOCS3はIRS-1を標的とし、IRS-1タンパク質を分解することにより肝臓のインスリンシグナル伝達を抑制することが報告されている (Rui et al., 2002)

乳酸とピルビン酸を相互変換するldhaとldhcが概日的ではないが上昇し、糖新生に転じうるピルビン酸が上昇を示した

AMP/ATP比が上昇し、AMPKの活性化を示すAMPKαスレオニン172のリン酸化が顕著に上昇し、それと一致してSREBP経路も抑制され、核内SREBP1cが概日的に低下した
SREBPの標的遺伝子であるFasn、Acaca、Elovl6の発現も低下した
それらは長鎖脂肪酸ならびにエステル化脂肪酸(myristate, linolenate, palmitoleate, eicosapentaenoate (EPA)のレベルの低下によっても立証substantiateされた
これは脂肪酸の生合成の低下ならびにβ酸化による分解の増大のどちらかを示唆するが、TBマウスの肝臓におけるSREBP1シグナル伝達の抑制ならびにPPARαとβ酸化遺伝子発現プロファイルが変化していないことを考慮するとgiven、前者である可能性が高い (Figure S6)

SREBP1経路が抑制されているのに対して、SREBP2遺伝子発現は抑制されておらず、その標的遺伝子であるlanosterol synthase (Lss)、3-hydroxy-3-methylglutaryl-CoA synthase (Hmgcs1)、phosphomevalonate kinase (Pmvk) は、概日的かつ調和した上昇が有意に示された
SREBP1は主に脂肪酸合成に関与するが、SREBP2はコレステロール産生に重要である』



参考サイト
http://howto-tube.xyz/post-11-11.html
>実はコレステロール値が高いのはたいした問題ではない。という衝撃の情報
>1,値が高いだけで心筋梗塞・脳梗塞の原因にはなりえない

は?

>腫瘍に由来する炎症は肝臓のインスリンシグナル伝達経路を阻害する
>脂肪酸の合成も抑制されるが、しかし総コレステロールレベルは上昇する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/6089be975c0cf32996447e33323a6ece
癌はLDLのコレステロールをエサにして増殖する



関連記事
http://ta4000.exblog.jp/18303888
重度のインスリン抵抗性で過剰に活性化したFoxOは肝臓のβ酸化を抑制し、脂質蓄積を引き起こす
 

癌細胞を飢えさせることが新たな治療の鍵

2016-05-08 06:06:59 | 
Starving cancer the key to new treatments, say scientists

May 5, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160505104738.htm


(This is Angelika Broeer.

Credit: Stuart Hay, ANU)

オーストラリア国立大学/Australian National University (ANU) の研究者は、癌細胞が栄養素を得るために使う重要な経路を明らかにした
この発見は腫瘍の増殖を止める新たな治療につながる可能性がある

研究チームは癌細胞がグルタミンというアミノ酸を得るための入り口/ゲートウェイgatewayを阻害すると、細胞の増殖がほとんど完全に止まることを発見した

「これは様々な癌で作用する可能性が高い
なぜなら癌細胞で非常に一般的なメカニズムだからだ」
ANUで研究主任lead researcherのStefan Bröer教授は言う

「さらに良いことに、これは深刻な副作用のない化学療法につながると考えられる
普通の細胞はグルタミンを細胞の構築材料として使わないからだ」

「現行の治療は重要な白血球に損害を与えるが、そういうダメージや化学療法が引き起こす脱毛がなくなるだろう」

現在917種類の癌が同定されているが、多くの治療は単一の癌にしか作用しないか、癌が抵抗性を獲得するにつれて効かなくなる

しかしながら、ANU Research School of Biologyの生化学者であるBröer教授はこの新しいアプローチが抵抗性を生じにくいだろうと言う
なぜなら、グルタミンの輸送メカニズムを阻害することは癌が回避するのが難しい外部からのプロセスexternal processだからである


研究チームは初めに遺伝子操作により癌細胞の中心的なグルタミン輸送体を変化させてグルタミン輸送を阻害しようと試みた
しかしながら、これはあまり効果がなかったとBröer教授は言う

「我々が考えていたほど簡単ではなかった
癌細胞は生化学的なアラームを作動させて細胞のバックドアを開き、
必要なグルタミンを得られるようにした」

しかし研究チームがRNAサイレンシングという技術を使って生化学的なアラームのスイッチを切ることで二番目のゲートウェイを閉じると、細胞の増殖は96パーセント低下した
この研究結果はJournal of Biological Chemistry誌で発表された

グルタミン輸送体を同定して遺伝子をノックアウトする際に中心となって働いたのは筆頭著者lead authorのAngelika Bröerである

「我々は今や癌細胞のゲノムを操作する精密なツールを手にしている
それによりこれまでは解決するのが難しい問題に対処できるようになった」

グルタミン・ゲートウェイの重要性が明らかになった今、それを標的とすることにより癌を封じ込めてlock down殺すための薬剤治療をこれから探し求めることになるだろう/the hunt is on to find drug treatments

「我々はある薬剤がグルタミン輸送体を標的にするかどうかを簡単に決定できる一連のテストを開発した」
Angelika Bröerは言う

「このことは、ロボットを使って何千何万という薬剤を来年か再来年までにテストさせられるということを意味する」


http://dx.doi.org/10.1074/jbc.M115.700534
Deletion of Amino Acid Transporter ASCT2 (SLC1A5) Reveals an Essential Role for Transporters SNAT1 (SLC38A1) and SNAT2 (SLC38A2) to Sustain Glutaminolysis in Cancer Cells.
トランスポーターSNAT1 (SLC38A1) と SNAT2 (SLC38A2) が癌細胞におけるグルタミノリシスを維持するために必須の役割を果たすことをアミノ酸トランスポーターASCT2 (SLC1A5) の削除によって明らかにする

Abstract
多くの癌細胞がグルタミンに依存する
なぜなら、癌細胞はグルタミノリシスglutaminolysisという経路を使って、細胞を構築する材料building blocksならびに同化目的のためのエネルギーenergy for anabolic purposesを作り出すからである

結果として、グルタミントランスポーターは癌細胞の増殖に必須であり、癌の化学療法の潜在的な標的である
中でもASCT2 (SLC1A5) が最も集中的に調査されてきた

今回我々は、HeLa子宮頸癌上皮細胞と143B骨肉腫細胞が複数のグルタミントランスポーターのセットを発現することを示す
(SNAT1 (SLC38A1), SNAT2 (SLC38A2), SNAT4 (SLC38A4), LAT1 (SLC7A5), ASCT2 (SLC1A5))

正味netのグルタミン取り込みuptakeはASCT2には依存しなかったが、SNAT1とSNAT2の発現を必要とした

ASCT2の削除は細胞増殖を減少させなかったが、アミノ酸飢餓応答を引き起こし、
SNAT1の上方調節が起きて機能的にASCT2に取って代わった

ASCT2 (-/-) という背景backgroundにおけるGCN2 (EIF2AK4) のサイレンシングは、細胞の増殖を抑制した
これは標的化アプローチの組み合わせがグルタミンに依存する癌細胞の増殖を阻止するであろうことを示す



参考サイト
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3545.html
>実は、がん細胞はブドウ糖しかエネルギー源として使えないことがわかっているのです。

は?
 

肥満を治療するための新たな薬剤送達アプローチ

2016-05-06 06:06:40 | 代謝
New drug-delivery approach holds potential for treating obesity

May 2, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160502161116.htm


(Top) Stimulating the growth of new blood vessels (angiogenesis) in adipose tissue transforms the tissue from fat-storing white tissue to fat-burning brown tissue.

A schematic of the nanoparticle (bottom left) that MIT and Brigham and Women’s Hospital researchers used to deliver angiogenesis drugs to adipose tissue.

(Bottom right) The nanoparticles imaged by transmission electron microscopy.

Credit: Courtesy of the researchers)

マサチューセッツ工科大学(MIT)とブリガム・アンド・ウィメンズ病院/Brigham and Women's Hospital(BWH)の研究者は、複数の抗肥満薬antiobesity drugsを脂肪組織に直接送り届けるナノパーティクルを開発した
このナノパーティクルを過体重のマウスに投与すると25日で体重の10パーセントが減り、そして何も副作用を示さなかった

この薬剤は脂肪を蓄える細胞から構成される白色脂肪組織を、脂肪を燃焼する褐色脂肪組織へと変換することによって作用する
加えてこの薬剤は脂肪組織で新しい血管が成長するのを刺激する
血管形成はナノパーティクルによる標的化を増強reinforceし、白色から褐色への変換を手助けする

これらの薬剤は以前から存在するものであり、肥満の治療目的ではFDAによって承認されてはいない
しかし研究チームは脂肪組織だけに蓄積するように送り届ける新たな方法を開発し、体の他の場所に望ましくない副作用が出るのを回避するのを助ける

「今回の方法の利点は、特定の領域にのみ標的を絞ることで全身には影響を与えないということである
それは肥満に対して望ましいプラスの影響を発揮するが、マイナスの影響はもたらさない」
Robert Langerロバート・ランガー)は言う
彼はMITのDavid H. Koch "Institute Professor"であり、David H. Koch総合がん研究所の一員でもある
Langerは、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院ナノメディシン・バイオマテリアル・ラボのディレクターであるOmid Farokhzadと共に今回PNASで発表された論文の首席著者である
論文の筆頭著者lead authorsはそれぞれ以前MITとBMHのポスドクだったYuan XueとXiaoyang Xuである


脂肪組織を標的にする
Targeting fat

Langerたちは以前、血管新生angiogenesisと呼ばれる新しい血管の成長を促進することがマウスの脂肪組織の変換を助け、体重減少につながることを示している
しかしながら、血管新生を促進する薬剤は体内の残りの部分にとって有害となりうる

この問題を克服するためにLangerとFarokhzadは癌などの疾患を治療するために彼らが最近開発したナノパーティクル/微小粒子nanoparticleで薬剤を送り届ける方法に着目した
このパーティクルparticleを疾患の箇所へ向かわせることにより効果的な用量を送ることが可能となる一方で、他の領域への薬剤の蓄積は最低限になる

研究者はパーティクルのデザインとして中心の疎水性領域で薬剤を運べるように設計し、他の多くの薬剤送達パーティクルなどで使われるPLGAというポリマーを結合させた

※PLGA: Poly(Lactic-co-Glycolic-acid)、乳酸-グリコール酸共重合体

彼らはそのパーティクルの中にロシグリタゾンrosiglitazoneまたはプロスタグランジンE2prostaglandin E2(PGE2)という2つの異なる薬剤のどちらかをパッケージングした(ロシグリタゾンは糖尿病の治療用として承認されたものの副作用のために広く使われることはなかった)
この薬剤はどちらも細胞のPPARという受容体を活性化させて、血管新生と脂肪の変換を刺激する

ナノパーティクルの外側の殻はPLGAとは別のポリマーであるPEGから構成され、そこに正しい目的地へパーティクルをガイドするための『標的化分子targeting molecules』が埋め込まれるembedded
この標的化分子は、脂肪組織を囲む血管の内層で見られるタンパク質に結合する

※PEG: polyethylene glycol、ポリエチレングリコール。酸化エチレンと水が縮重合したもの。HOH2C(CH2OCH2)nCH2OH
※[中心部] 薬剤 - PLGA - PEG - 標的化分子 [外側]


高脂肪食を与えられて肥満になっていたマウスでこのパーティクルをテストしたところ、体重は約10パーセント減少し、コレステロールとトリグリセリド(ヒトの体脂肪を主に構成する分子)のレベルも低下した
肥満では2型糖尿病のリスク要因であるインスリンへの感受性低下がしばしば生じるが、実験したマウスではインスリン感受性も上昇した
ナノパーティクルは1日おきに25日間投与されたが、マウスに副作用はまったく見られなかった


デレバリー・チャレンジ
Delivery challenges

このパーティクルは現行のシステムでは静脈内に注射されるが、それは肥満関連疾患の著しいリスクに晒されている病的な肥満患者にとってさらに適したものになる余地がありうるcouldとFarokhzadは言う

「これをより広く肥満の治療に適したものにするため、我々はこの標的化されたナノパーティクルを投与するためのより簡単な、例えば経口投与のような方法を提供しなければならない」

ナノパーティクルを経口投与で送り届ける際の難題challengeは、それらが腸の上皮を通り抜けるのが難しいということである
しかしながら、以前の研究でLangerとFarokhzadは抗体でコーティングされたナノパーティクルを開発した
この抗体は腸の上皮細胞の表面に存在する受容体に結合し、ナノパーティクルが消化管を通じて吸収されることを可能にする

さらに最近の研究でFarokhzadたちは別の経口デリバリーナノパーティクルを開発した
これは体内で鉄の輸送に関与するトランスフェリンというタンパク質を使い、腸の壁を越えてナノパーティクルが能動的に輸送されるのを促進する

彼らはナノパーティクル用のさらに特異的な脂肪組織の標的を見つけたいとも考えており、それは副作用の可能性をさらに低下させうるものになるだろう
また、より毒性の低い他の薬剤の利用も調べることになるかもしれない

Farokhzadは言う
「今回の研究結果は、白色脂肪組織を選択的に標的化することで『褐色化』して体が脂肪を多く燃やせるようにするための概念実証proof-of-concept的なアプローチである
この技術はこれから開発されるかもしれない他の薬剤分子や、いずれ現れるcome upかもしれない他の標的で使われる可能性があるだろう」


http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1603840113
Preventing diet-induced obesity in mice by adipose tissue transformation and angiogenesis using targeted nanoparticles.

Significance
今回我々は標的化されたナノパーティクルによるアプローチを記述する
これはPPARγを活性化させる薬剤またはプロスタグランジンE2アナログのどちらかを封じ込めencapsulateたものであり、それぞれ脂肪組織の転換transformationと血管新生を誘発し、白色脂肪組織から褐色脂肪組織への転換を促進する
標的化ナノパーティクルは、そのままの薬剤や、標的化されていない対照ナノパーティクルと比較して、マウスモデルで抗肥満効果を示す

Abstract
脂肪組織の拡大expansionと転換transformationには能動的activeな心血管の成長を必要とすることを考えれば、血管新生angiogenesisは肥満関連疾患を治療するための潜在的な標的をもたらす

今回我々はPPARγ活性化因子のロシグリタゾンまたはプロスタグランジンE2アナログ(16,16-ジメチルPGE2)を脂肪組織の血管に送り届けるための、ペプチドにより機能的なものにされたfunctionalizedナノパーティクル・プラットフォームを構築した

これらのナノパーティクルは、生分解性biodegradableの3つの単位blockからなるポリマーの自己集合self-assemblyにより設計され、PLGAとPEG(PLGA-b-PEG)と上皮を標的とするペプチドの末端同士が結合end-to-end linkageしたものから構成される

※PLGA: poly(lactic-coglycolic acid)
※PEG: poly(ethylene glycol)

このシステムでは放出されたロシグリタゾンが褐色脂肪組織への転換と血管新生を両方とも促進promoteするが、血管新生は『標的化ナノパーティクル』が脂肪組織で形成された血管angiogenic vesselへとホーミングされるのを容易にしてfacilitate、それによりさらにデリバリーを増幅させる

我々はこれらのナノパーティクルの静脈内投与が白色脂肪組織の血管を標的にすることが可能であり、加えて脂肪組織の転換に必要な血管新生を刺激し、白色脂肪組織を褐色様の脂肪組織へと転換できることを、
血管新生と褐色脂肪組織のマーカーmarkerが上方調節されることにより示す

(高脂肪食の)食餌による肥満マウスモデルにおいて、これらの血管新生-標的化ナノパーティクルは対照群と比較して体重増加を阻止し、コレステロール・トリグリセリド・インスリンを含む複数の血清学的マーカーを調整した

これらの研究結果は、血管形成の刺激因子を積み込んだナノパーティクルを用いた血管新生-標的化の部分moietiesが、肥満とその他の代謝疾患metabolic diseasesの臨床的な治療のための効果的な処方計画regimenに組み入れられうることを示唆する



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/04/160412132029.htm
VEGFB/VEGFR1による脂肪組織の毛細血管の拡張は2型糖尿病を緩和する