機械翻訳2

興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

異数性はどのようにして腫瘍につながるか

2016-02-26 06:06:30 | 
Scientists shed light on how cells with an incorrect number of chromosomes lead to tumor development

February 9, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160209090714.htm


(この画像ではハエの羽組織の前駆体細胞が、その発現する様々なタンパク質によって色付けされている
このハエモデルは、染色体不安定性chromosome instability、異数性aneuploidy、腫瘍発生tumorigenesisという三者の関係性を調べるために実験で用いられた

Credit: Lara Barrio, IRB Barcelona)

異数性細胞/aneuploid cells、つまり染色体の数が異常な細胞はヒトのほとんどの腫瘍で見つかる
バルセロナ生物医学研究所/Institute for Research in Biomedicine(IRB)Barcelonaはショウジョウバエで研究を行い、
生き残った異数性細胞がどのようにして腫瘍の発達を促進するのかを明らかにした

約4万3千のヒトの腫瘍を分析した最近の研究により、充実性腫瘍solid tumourの68%が異数性であり、染色体数の異常が明らかになった
科学者は近年、この異数性は腫瘍発達の一因なのか、それとも癌細胞のゲノム不安定性に付随する影響collateral effectなのかを明らかにしようと試みてきた(異数性は腫瘍発達の原因なのか、結果なのか)

※collateral effect: 記事中では"co-lateral effect"


Developmental Cell誌で発表された今回の研究はICREA(スペイン・カタロニア)の研究者であるMarco Milán率いる研究グループによってIRBバルセロナで行われたものだ
この研究結果はゲノムの不安定性と異数性、そして癌との間の関係についての詳細をもたらし、
異数性細胞によって引き金を引かれる分子・細胞メカニズムがどのようにして腫瘍を生じるのかを説明する

彼らはショウジョウバエの『羽原基wing primordium』をモデルとして使い、異数性と腫瘍発生についての研究を実施した
この組織は単層構造の上皮epithelium organised into a single layerであり、20個の細胞から2~3日で3万個にまで成長する
これらの特徴を考慮すると、ゲノム不安定性を生じ、増殖する組織で異数性細胞を引き出す分子・細胞メカニズムを細かく調べるためには、この羽原基という組織は理想的なシステムである


異数性細胞: 第一歩は自殺
Aneuploid cells: first step, suicide

研究チームは、異数性細胞がまず最初にプログラムされた細胞の自殺であるアポトーシスを活性化することを観察した
同時に、この差し迫ったimminent細胞の喪失を相殺しようとして異数性細胞は隣の細胞に『分裂して増殖しろ』と指示するシグナルを送っていた
これは正常な組織(この場合はハエの羽)の発達を確実にして保証ensureさせようとするものだった

次に異数性細胞はさらなる異数性aneuploidyを阻止するために一連のDNA修復シグナルを活性化し、抗腫瘍的な保護経路も活性化した

「我々は分子・細胞プロセスのカスケードを、そして修復保護と補償のメカニズムを描写してきた
このメカニズムは異数性細胞の中で生じ、そして細胞の外に対しても引き起こされ、
それらは同時に、または結果として起きる」
そう説明するのはpostdoctoral researcherで筆頭著者のMarta Clementeである


しかし、もし異数性細胞が何とかして生き残ってしまったら、何が起きるのか?

研究者が細胞死を妨害したところ、異数性細胞に由来する増殖シグナルが観察された
それは元々は健康な組織を維持するために働くシグナルだが、今や腫瘍の発達を促進していた


この研究は、癌の発症におけるゲノム安定性のダーウィン進化論的な見方perspectiveを広げるものであり、「それは腫瘍発生におけるゲノム安定性が果たす役割についてのおそらく不完全な見方である」とMilánはいう
ここでいう進化論的な見方というのは、腫瘍促進遺伝子がランダムに増大するとともに腫瘍抑制遺伝子がランダムに失われ、そうした増減が最終的に腫瘍細胞を促進するという考え方を元にしたものである

「どういうわけかsomehowこのゲノム不安定性に由来する異数性は代謝的ストレスも引き起こし、
それは次に、腫瘍の増殖と発達を促進する一連のシグナルの発現につながる」


異数性がほとんどの癌に共通することから、Marco Milánは異数性細胞の排他的exclusivelyな除去に向けた治療を探すことが癌に取り組むための優れた戦略をもたらすかもしれないと考察considerする

「今回の基礎生物学研究は、異数性細胞によって引き起こされる分子的なつながりについての新たな情報をもたらす
これは癌と戦うための治療を研究する際に最も重要なステップである」


http://dx.doi.org/10.1016/j.devcel.2016.01.008
Gene Dosage Imbalance Contributes to Chromosomal Instability-Induced Tumorigenesis.
遺伝子量の不均衡は染色体不安定性によって誘発される腫瘍発生の一因である


Highlights
・染色体全体の遺伝子不均衡gene imbalancesは、異数性によって誘発される細胞死に寄与する
・染色体全体の遺伝子の量的不均衡gene dosage imbalancesは、腫瘍発生的反応を誘導する
・DDR経路は、染色体不安定性/chromosomal instability (CIN) による異数性と腫瘍発生のレベルを低下させる
・遺伝子の量的不均衡はROSを誘導し、これはCINによる腫瘍発生に寄与する

※DDR経路: DNA damage response pathway/DNA損傷応答経路


Summary
染色体不安定性/chromosomal instability (CIN) は、癌の突然変異のしやすさの源であると考えられる
しかしながら、この不安定性の結果としてしばしば異数性を生じ、これは細胞の適応度fitnessを損なう

今回我々は
ショウジョウバエの量的補償メカニズム/dosage compensation mechanism (DCM) を使い、
染色体全体の遺伝子の量的不均衡gene dosage imbalanceが、
染色体不安定性による異数性の有害な影響とその腫瘍形成を促進pro-tumorigenicする作用の一因であることを実証した


我々は
CINによって誘発されるX染色体数の変化が引き起こす有害な影響を、DCMが再セットresetすることで釣り合わせるcounterbalanceという証拠を提供する

重要なことに、
異数性細胞はROS産生、JNK依存的な細胞死、そしてアポトーシス阻害による腫瘍発生という点で細胞に影響を与えるが、
DCMへの干渉はそれらを真似るのに十分であるsuffice

我々は
JNK活性化におけるROSの役割ならびに
CINの有害な影響を緩衝する様々な細胞と組織全体のメカニズムを明らかにする
それにはDNA損傷修復、p38経路の活性化、そして補償的な増殖を促進するサイトカイン産生が含まれる

我々のデータは
CINによって誘発される細胞死と腫瘍発生を相殺counteractする強固な補償メカニズムの存在を明らかにする



関連サイト
http://tenure5.vbl.okayama-u.ac.jp/~hisaom/HMwiki/index.php
遺伝子コピー数が変動するとパートナー遺伝子との量的不均衡(遺伝子量不均衡)により細胞機能に悪影響を及ぼすような遺伝子の事を「量的均衡遺伝子」(Dosage Balance Gene)と呼ぶ。


<コメント>
補償的な増殖を促進するサイトカインが具体的に何なのかはAbstractには書かれていないが、
Referenceを見る限りではIL-1αとIL-6が増殖を促進するようだ(肝細胞癌では)

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18691550
Hepatocyte necrosis induced by oxidative stress and IL-1 alpha release mediate carcinogen-induced compensatory proliferation and liver tumorigenesis.
酸化ストレスとIL-1α分泌によって誘発される肝細胞の壊死は、発癌物質による補償的な増殖と肝臓の腫瘍発生を仲介する


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2707922/figure/F7/

 p38α,IKKβ↓─┤ROS↑─┤MKP↓─┤JNK↑→細胞死↑→IL-1α↑→IL-1R/MyD88↑→[クッパー細胞]IL-6↑→補償的増殖↑→肝癌↑

 

卵巣癌の樹状細胞は炎症性で免疫抑制性になる

2016-02-25 06:06:46 | 
How a master regulator in ovarian cancer can go from helpful to harmful

The molecule Satb1 can drive immunosuppressive activity by driving the production of tumor-promoting cytokines

February 11, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160211140436.htm

我々の免疫系に関して言うと、樹状細胞はT細胞にとっての一種の灯台lighthouseである
この特殊化した免疫細胞は癌細胞を粉々に分解して抗原antigenという小さな破片に変え、抗原を得た樹状細胞は白血球にシグナルを伝えられるようになる
シグナルを受けた白血球は、一致する癌細胞の抗原を認識して適切に応答する能力を得る

卵巣癌における樹状細胞の振る舞いは異なる
樹状細胞が活性化シグナルを受け取ると、その抗原を効果的にT細胞に提示する
しかしながら、もしそのような活性化シグナルを受け取らないと、樹状細胞は自動的に抗腫瘍免疫応答を抑制する
この振る舞いの格差は、なぜ卵巣癌進行に対する自発的な免疫圧力が最終的に失敗し、腫瘍の進行を加速する結果になるのかを説明する

ウィスター研究所の科学者は、ゲノムのマスター編成因子organizerがこれら卵巣癌関連樹状細胞/ovarian-associated dendritic cellのふるまいに影響する方法が、どのような役割を果たすのかを明らかにした
このことは以前知られていなかった 癌が免疫系を操作できる方法を明らかにする
研究結果はCell Reportsで発表された


special AT-rich binding protein 1(Satb1: Wikipedia, Genecards)という遺伝子は、ゲノム編成ならびに表現型と分化の制御を助ける
ウィスターの腫瘍微小環境転移プログラムのプログラムリーダーである教授Jose Conejo-Garcia, M.D., Ph.D.のラボは、以前の2012年の研究で
卵巣癌関連樹状細胞においてSatb1遺伝子が『miR-155という免疫系を刺激するマイクロRNA』の直接の標的であることを明らかにした
反対に、miR-155が免疫系を刺激しないと、これら樹状細胞はIL-6とガレクチン-1のような炎症性の腫瘍促進サイトカインを産生する

 miR-155─┤Satb1

筆頭著者のConejo-Garciaは言う
「以前の研究から、miR-155を加えることによるSatb1の下方調節は
腫瘍を持つホストにおける適切な免疫応答と密接に関連することがわかっていた
今回の研究では、樹状細胞が潜在的な免疫刺激性細胞タイプから免疫抑制性の細胞へと形質転換transformする時
この遺伝子がどのようにして振る舞うのかについて我々は知りたいと考えた」

研究結果では、樹状細胞におけるSatb1発現が逆説的に適切な免疫応答に必要であることが示された
しかしながら、Satb1は発現すべき期間が非常に短く、樹状細胞が成熟した後にはSatb1は消えねばならない
もしSatb1がグズグズhang aroundして発現したままでいると、それは免疫抑制性immunosuppressiveを促進し、炎症性pro-inflammatoryの振る舞いを加速する
これは腫瘍関連樹状細胞でSatb1をサイレンシングして確認された

Satb1遺伝子のサイレンシングは炎症と免疫抑制のレベル低下につながり、T細胞活性化と免疫応答は加速された
事実、Satb1がサイレンシングされると、
これら免疫応答レベルにおいて 転写の22パーセントが2倍からそれ以上の変化を経験した
このことは樹状細胞の複雑な転写プログラムにおけるSatb1という単一の分子の重要性を強調する

正確な時間的パターンで発現するSatb1の生理学的機能の中で、研究者はSatb1の振る舞いをNotch1にも関連付けた
Notch1は腫瘍細胞の生存と増殖に関連する遺伝子である
Notch1は樹状細胞が成熟してSabtb1がほとんど消えようとする時の一時的な状態の間に、Satb1依存的なやり方で活性化する


炎症性の樹状細胞において、Notch1発現はMHCクラスII分子のレベル上昇と同時に起きる
MHC-IIはCD4+ヘルパーT細胞の活性化に必要な分子である
Conejo-GarciaたちはSatb1がNotch1の発現を刺激し、一方でNotch1はMHC-IIの発現を促進することを発見した
MHC-IIの発現は樹状細胞に様々なT細胞集団を活性化する能力を与えるequip

 Satb1→Notch1→MHC-II→CD4+T

しかしながら、もし樹状細胞が正常な免疫応答を作り出すことができるようになった後もSatb1が過剰発現したままだと、
それは多数の炎症性かつ免疫抑制的な因子の産生を促進して、
樹状細胞を悪性進行と免疫抑制における共犯者accompliceへと形質転換transformさせる

「我々の研究は、
腫瘍の特に卵巣癌が骨髄細胞をどのようにして免疫刺激性immunostimulatoryから免疫抑制性immunosuppressiveの細胞タイプへと徐々に形質転換させるのかについての新たな機構的洞察を提供する
それは以前の我々の研究で卵巣癌の進化を理解するために非常に重要criticalであることが示されている」
Conejo-Garciaは言う

「Satb1の発現を調整することは、
我々の研究のようにナノ複合体nanocomplexを使ったin vivoでの調整、
またはin vitroでの樹状細胞ベースのワクチンにおける調整、
そのどちらでもより強い抗腫瘍免疫応答を刺激し、
腫瘍によって誘導される免疫抑制性シグナルに対して抗原提示細胞(APC)をより抵抗性にするのである」


http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.01.056
http://www.cell.com/cell-reports/abstract/S2211-1247(16)30034-1
Satb1 Overexpression Drives Tumor-Promoting Activities in Cancer-Associated Dendritic Cells


Highlights
・成熟した炎症性の樹状細胞(DC)は充実性卵巣癌に浸潤する
・Satb1は古典的CD4+樹状細胞の分化differentiationを調節する
・Satb1はNotchシグナル伝達経路を調節し、Notchシグナルは炎症性DCでMHCクラスIIのスイッチを入れる
・Satb1の発現が緩和されないunremitと、免疫抑制的なDCを促進する


Summary
Satb1は、ゲノムワイドな転写プログラムを支配する
Satb1は、古典的樹状細胞(DC)の正常な分化に必要である
さらに、Satb1は炎症性DCの分化を支配するが、それはMHCクラスIIの発現をNotch1シグナル伝達を通じて調節することによる

機構的に見ると、Satb1はNotch1プロモーターに結合してNotch発現を活性化し、H2-Ab1プロモーターのRBPJ占有occupancyを促進してMHCクラスII転写を活性化する

しかしながら、
卵巣腫瘍に浸潤する不活化したZbtb46+の炎症性DCにおいて
腫瘍によって刺激されるSatb1の絶え間ない発現unremitting expressionは
結果として免疫抑制性の表現型になり、
その特徴は腫瘍促進性サイトカインであるガレクチン-1/Galectin-1とIL-6の分泌の増加である

in vivoでの腫瘍関連DCにおけるSatb1サイレンシングは腫瘍形成性の活性を無効化して、保護的な免疫を加速する


したがって、Satb1発現のダイナミックな変動は炎症性DCの生成ならびにその比較的安定な免疫刺激性の活性を支配するが、
分化したDCにおけるSatb1の絶え間ないcontinuous過剰発現は、DCを免疫寛容性かつ炎症性の細胞へと変換し
悪性進行の一因となる
 

卵巣癌は小胞体ストレス応答で樹状細胞を抑制する

2016-02-25 06:06:23 | 
Researchers discover how ovarian cancer halts body's natural defense against tumor

Novel therapy could restore powerful immune response to deadly cancer

June 11, 2015

https://www.sciencedaily.com/releases/2015/06/150611174207.htm

卵巣癌は樹状細胞のXBP1をオンにすることにより、腫瘍に対する効果的な応答を開始mountする能力を失わせる
XBP1をオフにすると樹状細胞の機能は回復し、卵巣腫瘍への免疫応答を引き起こす


我々は2014年にXBP1がトリプルネガティブ乳癌の発症と進行development and progressionに関与することを報告した
今回はXBP1が抗腫瘍免疫をも抑制することを報告する

XBP1は腫瘍細胞の生存を促進する
XBP1は小胞体ストレス応答/unfolded protein response(UPR)というストレス応答経路の一部であり、
栄養や酸素が不足してもUPR経路により腫瘍は増殖して生存することができるようになる


http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2015.05.025
ER Stress Sensor XBP1 Controls Anti-tumor Immunity by Disrupting Dendritic Cell Homeostasis.
ERストレスセンサーのXBP1は、樹状細胞の恒常性を乱すことにより、抗腫瘍免疫を制御する


脂質過酸化の副産物/lipid peroxidation byproductsは、XBP1を活性化する

[腫瘍関連樹状細胞/tumor-associated DCs]
 卵巣癌→[微小環境]ROS→4-HNE付加化合物adduct→ERストレス→Xbp1s→[核内]XBP1→[細胞質]脂肪蓄積─┤抗腫瘍T細胞

※4-HNE: 4-ヒドロキシノネナール



関連記事 
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160216180248.htm
ERストレスによるUPR応答でATF4が誘導されるが、ONC201という臨床試験中の抗癌剤によってもATF4が誘導され、結果としてp53に非依存的に細胞死や細胞周期停止を引き起こす



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150203190023.htm
悪性の卵巣癌に対して微小環境に特定の細菌を投与することで、免疫抑制から免疫を刺激する方へ振る舞いを変化させる

http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.4161/onci.28926
Attenuated Listeria monocytogenes reprograms M2-polarized tumor-associated macrophages in ovarian cancer leading to iNOS-mediated tumor cell lysis

弱毒化した/ΔactA/ΔinlB株のリステリア・モノサイトゲネスは、M2に偏った腫瘍関連マクロファージ(TAM)を再プログラムして、卵巣癌をiNOSにより破壊する

 補助刺激分子CD80とCD86↑
 炎症性サイトカインの転写↑
 抑制性のエフェクター分子の転写を下方調節

この反応にT細胞とNK細胞の活性は関与しない
 

mTORは寒さによる脂肪細胞のベージュ化に重要

2016-02-24 06:04:00 | 代謝
'Beiging' white fat cells to fight diabetes

Penn Study reveals a signaling pathway required for beige fat formation

February 16, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160216181706.htm


(Credit: Cassie Tan , PhD, Perelman School of Medicine, University of Pennsylvania)

研究者はどのようにして白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞へと変換するのか、その答えへと徐々に近づきつつある
その目的は白から褐色へ変化させる『ベージュ化beiging』というプロセスで血糖レベルを低下させて糖尿病と戦うためである
ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院で生理学の助教授assistant professorであるJoseph Baur, PhDが率いる研究チームは、その研究結果を今月号のDiabetesで報告した


「白色脂肪のベージュ化は、過剰なカロリーを燃焼して血糖を低下させることで糖尿病と戦うために利用できるかもしれない」
Baurは言う

「我々の研究はmTOR経路の活性化がこのプロセスで重要な役割を演じることを示唆する」

ベージュ脂肪細胞の誘導は肥満と戦うための有望な戦略であると考えられている
なぜならベージュ脂肪細胞にはグルコースと脂質を代謝する能力があり、その結果生じたエネルギーを熱として消失dissipateさせるからである

褐色・白色脂肪細胞は体内での役割が異なる
白色はエネルギーを巨大な脂肪滴として貯蔵するが、褐色の脂肪滴は小さく、脂肪を燃焼して熱を作ることに特化されている
そのため褐色脂肪細胞には鉄が多いミトコンドリアが詰め込まれ、鉄の多さから色が褐色になる
実際、赤ん坊は体温を維持するために上背部upper backと肩に褐色脂肪が多い状態で生まれ、
成人では褐色脂肪細胞の集積depotsが体重の少なさと関連することが明らかになっている

褐色細胞状の脂肪細胞は『ベージュ脂肪細胞beige adipocyte』と呼ばれ、寒冷や他のシグナルに応じて白色脂肪細胞の堆積depositする中に見られる
体内のエネルギーバランスは褐色/ベージュ脂肪細胞の影響を受ける
それらは気温の低さや他のシグナルによって作用を開始するように刺激され、脂肪や炭水化物を燃焼する


今回の研究で使われた主なツールはラパマイシンである
この薬剤はmTORというタンパク質を阻害し、mTORは『ラパマイシンの機構的標的/mechanistic target of rapamycin』の略である
mTORはmTORC1とmTORC2という二つの異なるタンパク質複合体で共通して見られる

ラパマイシンは初めて発見されたのが『ラパ・ヌイ島/Rapa Nui(イースター島/Easter Islandの別名)』であることからその名がついた
現在は臓器移植の免疫抑制剤immunosuppressantとして使われているが、最近マウスで寿命を延長することが発見されたことから注目を集めている

興味深いことに、2012年にBaurのラボはラパマイシンがインスリン抵抗性を引き起こすことを発見し、それはmTORC1とmTORC2複合体によって制御されるmTORシグナル伝達経路を両方とも阻害するためだった
彼らは原則としてin principleこれらの二つの経路が区分されうることを動物モデルで示し、どちらの経路が寿命への影響を制御するのかを(内分泌への影響に対して)切り離した

生理学の点から見ると、mTORシグナル伝達は血糖レベルとコレステロールレベルの制御に関与し、その阻害は糖尿病リスクを増大させる
以前の研究でmTORC1の阻害は白色脂肪細胞のベージュ化を促進することが示唆されていたが、Baurの今研究はmTORC1の活性が実際には寒冷によって誘導される白色脂肪細胞のベージュ化に必要であるという概念を支持する
もしmTORC1の活性化が直接同じ結果を引き起こすなら、このアプローチは潜在的に糖尿病との戦いに応用できるかもしれない


寒冷やある種の薬剤は特定の神経伝達物質の経路を活性化してベージュ脂肪細胞の出現を誘導する能力を持つが、Diabetes誌の研究で研究チームはラパマイシンがそのような能力を阻害することを示す
それゆえに、ラパマイシンを投与されたマウスは寒冷に対して不耐性になり、より寒い環境に移動すると体温と体重を維持することに失敗する

この研究結果は、白色脂肪細胞の集積する中にベージュ脂肪細胞をリクルートすることにおけるmTORC1のポジティブな役割を実証する
これはmTOR阻害による代謝的にネガティブな影響のいくつかについて説明になりうる


「我々の研究は、mTORシグナル伝達と代謝との間の複雑な相互接続を強調する」
Baurのラボでpostdoctoral fellowである筆頭著者のCassie Tran, PhDは言う

「将来、ネガティブな代謝的影響を引き起こすmTOR下流の標的を特定することが重要だろう
より良い薬剤を、そしていつかは寿命healthspanを延長する薬剤を作るために」

※ラパマイシンでマウスの寿命は伸びるが、代謝的な悪影響があるためこんなことを書いているようだ

「今回のベージュ脂肪形成にとって重要なシグナル伝達経路の発見は、この経路を標的にする好機であることも示唆する
熱を作る細胞の数を増やして、肥満または糖尿病患者を治療するために」


http://dx.doi.org/10.2337/db15-0502
Rapamycin blocks induction of the thermogenic program in white adipose tissue

ラパマイシンはマウスの寿命を伸ばすが、逆説的に脂質調節不全とグルコース不耐性を引き起こす
しかしそのメカニズムは完全には理解されないままである

全身のエネルギーバランスはベージュ脂肪細胞/ブライト脂肪細胞(brite: brown in white)によって影響されうる
それらは寒冷や他の刺激によってβ-アドレナリン作動性シグナル伝達を通じて白色脂肪の貯蔵所depotsにおいて誘導可能であるinducible

ベージュ脂肪細胞の誘導は肥満と戦うための有望な戦略であると考えられている
なぜなら、グルコースと脂質を代謝して結果として生じたエネルギーをUCP1により熱として四散させる能力を持つためである


今回我々は、β-アドレナリン作動性シグナル伝達が白色脂肪の貯蔵所でベージュ脂肪細胞ならびに熱発生遺伝子thermogenic geneの発現を誘導する能力を、ラパマイシンが阻害することを報告する
ラパマイシンは、β3-アドレナリン作動性受容体に対する転写的ネガティブフィードバックを高める

しかしながら、細胞透過性のcAMPアナログを使ってこの受容体をバイパスしても、熱発生遺伝子の発現は損なわれたままだった
このことはアドレナリン作動性受容体とは別の二つ目の阻害メカニズムが存在することを明らかにする

それらに応じて、ラパマイシンを投与したマウスは寒冷不耐性であり、4℃にすると体温と体重の維持に失敗する

mTORC1サブユニットのRaporを脂肪細胞特異的に欠損させると、β-アドレナリン作動性シグナル伝達の阻害による結果を再現した

我々の研究結果はベージュ脂肪細胞のリクルートにおけるmTORC1のポジティブな役割を実証し、
ラパマイシンによるβ-アドレナリン作動性シグナル伝達の阻害がその生理的影響の一因である可能性を示唆するものである



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/8f35e64b9ac20c72c7b2960e8a0d78a9
寒冷は腸内微生物を変化させて脂肪細胞のベージュ化を引き起こす



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141110110104.htm
寒冷→[褐色脂肪細胞]交感神経β3-アドレナリン作動性受容体→2つの経路→

 1→cAMP→GLUT1転写↑→GLUT1によるグルコース取り込み↑↑
 2→mTORC2→GLUT1トランスロケーション↑→GLUT1によるグルコース取り込み↑↑

※2は PI3K-Akt経路には依存しない

http://dx.doi.org/10.1083/jcb.201403080
Glucose uptake in brown fat cells is dependent on mTOR complex 2–promoted GLUT1 translocation.


<コメント>
mTORC1はインスリン/IGF-1等の下流

 

α細胞とβ細胞はカンナビノイドで会話する

2016-02-23 06:06:52 | 代謝
Cells chat via cannabinoids, about your future diabetes

February 1, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160201085000.htm

ヒトの血液中のグルコースレベルは膵臓の2種類の細胞が絶え間なく協力することにより維持されている
α細胞はグルカゴンを分泌してグルコースを増加させ、β細胞はインスリンを分泌してグルコース濃度を低下させる

ポーランド科学アカデミー(ワルシャワ)のNencki実験生物学研究所の科学者は、α細胞とβ細胞がお互いにコミュニケーションすることを明らかにした
そのコミュニケーションで中心的な役割を演じるのはカンナビノイドcannabinoidsであり、これは大麻cannabisの花から自然に取れるものと同じ有機化合物である
スゥエーデン、オーストリア、イタリア、アメリカとの最近の共同研究でカンナビノイドはβ細胞のアイデンティティにも影響することが示されており、ヒトの胎児ではそれらが膵島形成の構造architectureの著しい変化につながる可能性があるという

「我々の発見は2型糖尿病を発症する原因となるメカニズムの理解に必須である
この疾患は成人で生じ、しばしば体重増加と関連がある
さらなる研究で予想通りの結果がもたらされた場合、それはおそらく近い将来、継続的なインスリン注射という悪夢から患者の何割かを解放するために使うことができるだろう」
Agnieszka Dobrzyn教授は言う


PNAS誌で発表された最新の研究において、Nencki研究所の科学者はカンナビノイドを含む化学的シグナルの経路がα細胞とβ細胞との間のコミュニケーションにおいて重要な役割を演じるだけでなく、β細胞のアイデンティティを保つことにも関与することを示した
事実、α細胞によって作られたカンナビノイドは、膵島に局在するCB1というカンナビノイド受容体を活性化する可能性がある
この受容体は細胞機能の分化に影響を与え、β細胞がグルコースに応じてインスリンを作る能力を増大させるのだという

「マウスの胚やラボで作成した擬似膵島が発達する間に観察される膵島構造の変化も非常に興味深かった
カンナビノイドの濃度依存的に、そして二つの異なるカンナビノイド受容体の活性依存的に、膵島は大きくも小さくもなった
一方、通常は膵島の外側に位置するα細胞は内側に移動することが可能だった」
筆頭著者のKatarzyna Malenczyk博士は説明する


この研究は既に実践的な応用に入っている
妊娠期間中にカンナビノイドを含む物質を使用すると膵島の構造が損なわれた子どもを出産する可能性が高くなり、したがったその子どもは2型糖尿病を発症しやすくなると彼らは示唆する

「どんなことがあってもunder no circumstance、我々の研究からマリファナmarijuanaの使用が糖尿病の治療法になりうるという結論を出すべきではない」
Dobrzyn教授は警告する

「血中グルコース濃度は膵島のα細胞とβ細胞、そしてインスリンの標的組織である骨格筋や脂肪組織の活動バランスによって決定される
成人では大量のカンナビノイドがβ細胞に激しく働くことを強要するだろうが、それは同時にもう一方のα細胞の効率を弱める
結果として血中グルコースは変化しないか、またはかなり増大することさえあるかもしれない」

カンナビノイドがα細胞とβ細胞間のコミュニケーションで果たす役割の発見は、膵島移植によるより効率的な糖尿病の治療法に対する希望をもたらす
そのような同種異系移植allograftは既に実施されており、死亡したドナーから臓器を再生recoverしてレシピエントの胃粘膜の下に配置する
しかしその効果は完全ではなく、移植されたβ細胞はしばしばそのアイデンティティを失う
細胞は生きているが、もはやインスリンを作らない
外来組織の移植後は免疫抑制剤を服用する必要があり、そのような治療によって起きる障害はしばしば利益を上回る

Nencki研究所の科学者は、カンナビノイド経路の理解がβ細胞の稼働期間を著しく延長することができるだろうと期待している
この想定がさらなる研究で立証されれば、膵島移植は完全に成熟fledgedした糖尿病治療法になりうる
さらに、現在では患者の脂肪細胞に由来する幹細胞からβ細胞を育てることが可能であり、将来は移植された膵島に対する拒絶を防ぐ薬を服用する必要がなくなるだろう


http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1519040112
Fetal endocannabinoids orchestrate the organization of pancreatic islet microarchitecture.



Significance
エンドカンナビノイド(オメガ-6)はCB1カンナビノイド受容体を介して、エンドバニロイドリガンドはTRPV1受容体を介して、
加えて食事によるオメガ-3多価不飽和脂肪酸も、組織発達中の膵島細胞組織化に影響することを我々は示す

ゆえに、脂質シグナル伝達は組織編成の重要な決定要因であることが明らかになり、生涯を通じてホルモン分泌をプログラムする可能性がある


Abstract
エンドカンナビノイドは膵臓ホルモン分泌を調整することによりグルコース利用ならびにエネルギー恒常性の制御に関与する
さらに、いくつかの細胞ニッチではエンドカンナビノイドが細胞の増殖、運命決定、移動を調節する
にもかかわらず、エンドカンナビノイドがどのように内分泌膵臓の発達に寄与するのかは不明なままである

今回我々はマウスの胎児とヒト膵島において、
α細胞がエンドカンナビノイドの2-アラキドノイルグリセロール/2-arachidonoylglycerol (2-AG) を産生し、
2-AGはCB1カンナビノイド受容体(CB1R)の連結engagementによりβ細胞のリクルートを刺激することを示す

我々はsubtractive pharmacologyを使うことでこれらの研究結果を
アナンダミドanandamide、エンドカンナビノイドendocannabinoid/エンドバニロイドendovanilloidの入り混じったpromiscuousリガンドにまで拡張する
それは細胞増殖によって膵島サイズの決定に影響を与え、TRPV1とCB1Rの異なった活性化によりα細胞/β細胞の分類sortingを左右する

※N-アラキドノイルエタノールアミン(アナンダミドanandamide)と2-アラキドノイルグリセロール/2-arachidonoylglycerolは、どちらもアラキドン酸の誘導体


したがって、TRPV1チャネルの遺伝子破壊genetic disruptionは膵島サイズを増大し、
CB1Rのノックアウトは細胞の不均一性heterogeneityを促進して、グルカゴン放出よりもインスリン放出を容易にするfavor over

マウスにおいて妊娠中と授乳中のオメガ3脂肪酸が豊富な食事は、
永続的に仔マウスのエンドカンナビノイドレベルを低下させ、
CB1R-/-ノックアウト膵島の微小構造を表現型模写phenocopyして、調和的なホルモン分泌を改善する

まとめると、我々のデータは
エンドカンナビノイドを膵島形成中の細胞増殖ならびに分類sortingへと機構的に結びつけ、
グルコース恒常性の生涯にわたるホルモン的な決定要因のプログラミングにも関連付けるものである



関連サイト
http://www.cosmobio.co.jp/aaas_signal/archive/ra_20120320_2.asp
カンナビノイドはインスリン受容体活性化を直接抑制することによって膵β細胞死を誘導する



関連サイト
http://syodokukai.exblog.jp/19549905/
内因性カンナビノイドによるβ細胞消失は、膵島浸潤マクロファージのNlrp3インフラマソーム活性化を介する
 

GBA1突然変異はα-シヌクレインを細胞外へ放出させる

2016-02-22 06:06:54 | 
Stemming the flow: Stem cell study reveals how Parkinson's spreads

February 18, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160218132257.htm


(パーキンソン病に冒された幹細胞が脳細胞に変化する様子を示した画像

Credit: Parkinson's UK)

幹細胞を使った新たな研究により、パーキンソン病がどのようにして細胞から細胞へと広がるのかについての新たな手がかりがもたらされた
このプロセスは研究者が何十年もの間ずっとはぐらかしてevadeきた問題である

Stem Cell Reports誌で発表された今回の研究は、α-シヌクレインの放出とGBA1遺伝子の突然変異とを初めて関連付けた
α-シヌクレインは体内で自然に生じるタンパク質であり、パーキンソン病の発症において中心的な役割を演じている
GBA1β-グルコセレブロシダーゼをコードする遺伝子で、パーキンソン病で最も広く見られる遺伝的なリスク要因である
この研究はパーキンソン病という破滅的な神経疾患とその症状の進行でGBA1がどのように関与するのかについて新たな光を当てる


Parkinson's UKの出資によりオックスフォード・パーキンソン病センターが実施した今研究では、二つのグループからなる参加者から得られた細胞を調べた
グループの一つはGBA1遺伝子に突然変異があるパーキンソン病患者で、もう一方はそのような状態/病態conditionのないコントロールグループである

参加者の皮膚から作られた幹細胞と脳細胞を分析した結果、GBA1の突然変異はタンパク質、特にα-シヌクレインがどのように処理されてリサイクルされるかに関する問題を起こすことが初めて明らかになった
GBA1変異を持つ人は細胞内でのタンパク質のリサイクルが適切に働かず、α-シヌクレインが蓄積build-upされる
それは脳内に放出されてパーキンソン病が拡散spreadする一因となる

パーキンソン病の身体症状/運動面での症状は黒質という脳の一部で約70%の細胞が失われると現れる
身体症状としては振戦tremor、緩慢slownessな歩行、硬直stiffnessなどがあり、病態が脳の他の領域に広がるspreadとパーキンソン病認知症のような認知問題が生じる

今回の新しい研究結果は、どのようにして、そしてなぜ過剰なα-シヌクレインが脳内に放出されるのかについての洞察をもたらし、このプロセスを止めうる標的治療への調査を進める新しい道を開く
そして治療の最終的な目標は疾患の重症化を止めるか、最小限にすることである


オックスフォード・パーキンソン病センター長のRichard Wade-Martins教授は次のように述べる
「我々の脳細胞は工場の複雑な製造ユニットのように働く
活動を実行するための新しいタンパク質を作り、損傷したタンパク質をリサイクルしている
パーキンソン病では冒された細胞からα-シヌクレインが脳内に逃れて、そこで別の脳細胞によって取り込まれうることが既にわかっている
今回の研究で我々は初めてα-シヌクレインがどのようにして放出されるかを理解し、この拡散がどのようにして起きるのかについての手がかりを得た」

「最も重要なことは、これらの研究結果がα-シヌクレインの拡散を止めて疾患の進行を遅らせるための潜在的な治療法の調査に向けた新たな道を開くことだ」


Parkinson's UKの研究ディレクターであるArthur Roach博士は次のように言う
「パーキンソン病の患者やその家族は、この病態が精神と身体の両面に将来どのように影響するのかについて確信を持てずにいる
よく知られた動きやバランスの問題に加えて8割までの患者が認知症を発症し、
理論的な考えや計画性、集中力、注意、記憶、言語が影響を受ける」

「今回の研究は、遺伝的な病態についての研究がどのようにして病態全体の根本的な特徴であると考えられるものに対する重要な洞察をもたらすのかという良い例である
これらの研究結果はどうやってパーキンソン病を途中で止めるのかについての新しい概念をもたらす
それはイギリスで生きる12万7千人の、そして世界では700万人のパーキンソン病患者たちの人生を変化させるだろう」


OPEN
http://dx.doi.org/10.1016/j.stemcr.2016.01.013
http://www.cell.com/stem-cell-reports/abstract/S2213-6711(16)00030-8
ER Stress and Autophagic Perturbations Lead to Elevated Extracellular a-Synuclein in GBAN370S. Parkinson's iPSC-Derived Dopamine Neurons.
ERストレスとオートファジーの混乱は、GBAN370S変異パーキンソン病のiPSC由来ドーパミンニューロンにおける細胞外α-シヌクレインの上昇につながる

 GBA変異→折りたたみ失敗→ERストレス,リソソーム肥大(緑色),オートファゴソーム↑(赤色)→オートリソソーム肥大(黄色),カーゴ分解されず,α-シヌクレイン放出

Highlights
・GBA-N370S突然変異を持つパーキンソン病患者3人と、コントロール群3人のiPSC細胞系統から作られた、ドーパミンニューロンの機能的分析
・iPS細胞N370S変異ドーパミンニューロンでは、脂質プロファイルの乱れ、ERストレス、オトーファジーが見られた
・iPS細胞N370S変異ドーパミンニューロンでは、リソソーム区画が拡張enlargedして損なわれていた
・iPS細胞N370S変異ドーパミンニューロンの培養では、細胞外α-シヌクレインが増大した

Summary
β-グルコセレブロシダーゼ/glucocerebrosidase (GBA) 遺伝子のヘテロ接合heterozygousの突然変異は、家族性パーキンソン病で広く見られる最も強いリスク要因である
しかしながら、その関連の根本的な分子メカニズムはほとんど理解されていない

今回我々は、互いに独立したパーキンソン病患者3人とコントロール群3人から得られた10の独立した誘導多能性幹細胞/induced pluripotent stem cell(iPSC)細胞系統lineを分析し、関連する疾患メカニズムを明らかにした

ドーパミン作動性ニューロンに分化させた後、我々は突然変異体グルコセレブロシダーゼタンパク質がER内でプロセシング失敗misprocessingするのを観察した
それはERストレスの活性化、ならびに異常な細胞内脂質プロファイルと関連していた

さらに、オートファジーの乱れperturbationとリソソーム区画の拡張enlargementが、特にドーパミン作動性ニューロンで観察された
最後に、細胞外α-シヌクレインがニューロン培養基で増大し、これはエクソソームexosomeとは関連がなかった

まとめると、ERストレス、オートファジー/リソソームの乱れ、細胞外α-シヌクレインの上昇は、おそらくパーキンソン病早期の決定的な細胞表現型であり、多くの治療標的をもたらす可能性がある



関連サイト
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=GBA
Entrez Gene Summary for GBA Gene
この遺伝子はリソソーム膜タンパク質をコードし、グリコシルセラミド(糖が結合したセラミド。セレブロシド)のβ-グルコシド結合/beta-glucosidic linkageを切断する
グリコシルセラミドは糖脂質glycolipid代謝の中間体intermediateである
この遺伝子の変異はゴーシェ病Gaucher diseaseの原因であり、リソソームにグルコシルセラミド(グルコースが1分子結合したセラミド。グルコセレブロシド)が蓄積する



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160217091003.htm
脳脊髄液中(CSF)のα-シヌクレインの濃度低下は、パーキンソン病における早期の認知力低下(軽度認知障害/mild cognitive impairment(MCI))を示すバイオマーカー



関連サイト
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6527
RAB7L1とLRRK2は協調してニューロンにおける細胞内輸送を制御するとともにパーキンソン病の発症リスクを決定する
RAB7L1のノックダウンによってもリソソームの肥大化がみられること,同時に,リソソームの機能に重要な加水分解酵素の輸送を担うカチオン非依存性のマンノース6-リン酸受容体のリソソームへの局在が減少することが見い出された.
一方,RAB7L1の過剰発現によりG2019S変異をもつLRRK2の発現によるリソソームの肥大とマンノース6-リン酸受容体のリソソームへの局在の低下は回復した.
 

新たな抗癌剤の開発と組み合わせ

2016-02-21 06:06:22 | 癌の治療法
Scientists discover secret to promising new cancer drug
February 19, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160219100329.htm

MDM2アンタゴニストのNutlinはp53を眠りから覚ます

http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.01.059
Therapeutic Response to Non-genotoxic Activation of p53 by Nutlin3a Is Driven by PUMA-Mediated Apoptosis in Lymphoma Cells.





Synthetic plant hormones shut down DNA repair in cancer cellsFebruary 16, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160216181055.htm

植物のストリゴラクトンstrigolactoneを元に合成されたMEB55とST362は、PARP阻害剤と共に使うことで抗癌効果を発揮する




First-in-class drug ONC201 shows potential for some blood cancers
February 16, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160216180248.htm

ERストレスによるUPR応答でATF4が誘導されるが、ONC201という臨床試験中の抗癌剤によってもATF4が誘導され、結果としてp53に非依存的に細胞死や細胞周期停止を引き起こす

http://dx.doi.org/10.1126/scisignal.aac4380
ATF4 induction through an atypical integrated stress response to ONC201 triggers p53-independent apoptosis in hematological malignancies.




Pairing pain medicine with metal ions to battle cancer
February 17, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160217130711.htm

シスプラチンとNSAIDsを組み合わせると、シスプラチン単体より毒性が強く、より癌細胞特異的になった

http://dx.doi.org/10.1021/acs.inorgchem.5b02690
Nonsteroidal Anti-inflammatory—Organometallic Anticancer Compounds.

NSAIDのインドメタシン・ジクロフェナクで修飾されたルテニウム(II)-ならびにオスミウム(II)-パラ-シメン複合体は、高度に細胞毒性と癌細胞への特異性を持つ化合物であることが示され、シスプラチンにより獲得される交差耐性cross-resistanceがない




Some chemotherapy drugs may improve tumor response to immune checkpoint therapy
February 16, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160216181059.htm

化学療法の中には免疫チェックポイント療法への腫瘍の応答を改善するものがある

http://dx.doi.org/10.1016/j.immuni.2015.11.024
Immunogenic Chemotherapy Sensitizes Tumors to Checkpoint Blockade Therapy.


腫瘍原性Krasを発現しTrp53を欠く腫瘍に対して、オキサリプラチンとシクロフォスファミドを組み合わせて治療として使う
これはTLR4の免疫細胞を刺激してCD8+を呼び寄せるが、さらにチェックポイント阻害剤との組み合わせで効果が上昇する




Discovery lays the foundation to expand personalized chemotherapy for leukemia patients
February 15, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160215114011.htm

化学療法の毒性に影響する遺伝子多型
チオプリンの代謝に関与するNUDT15の多型は、化学療法の毒性に影響する
以前にもTPMTの多型がチオプリンへの感受性と毒性の増大に関連付けられている
2015年にはNUDT15の多型とメルカプトプリンの忍容性の低下が関連付けられ、この多型は東アジアを祖先とする患者で一般的だった

http://dx.doi.org/10.1038/ng.3508
NUDT15 polymorphisms alter thiopurine metabolism and hematopoietic toxicity.
NUDT15多型はチオプリン代謝ならびに造血毒性を変化させる

※TPMT: thiopurine methyltransferase/チオプリンメチルトランスフェラーゼ




Interferon not beneficial for most stage III melanoma
Final results of trial begun in 1997 show improved diagnostics make aggressive treatment unnecessary for many patients with metastasized skin cancer
February 15, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160215090206.htm

インターフェロン療法は、ほとんどのステージIII/リンパ節転移メラノーマで役に立たない
 

癌にSTAT3阻害剤が効かない理由

2016-02-20 06:06:15 | 癌の治療法
Scientists show how cancerous cells evade a potent targeted therapy

Significant antitumor activity was shown in cancers when this therapy was combined with an enzyme

February 16, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160216142833.htm

癌細胞の増殖と生存を促進するタンパク質を阻害するようにデザインされ開発された薬剤が、実際の臨床ではまったくうまく行かないという事態を想像してみよう
これはSTAT3阻害剤を研究している科学者が直面するジレンマである
マウスモデルでSTAT3をノックアウトするとT細胞による免疫応答の増加が観察され、治療標的として有益であることが示唆される
しかしながら、腫瘍でSTAT3を標的にすることはこれまで限られた成功しか収めていない

今回ウィスター研究所の科学者は、未成熟な骨髄細胞である『骨髄由来免疫抑制細胞/myeloid-derived suppressor cell (MDSC)』においてSTAT3がどのようにして振る舞うのかを明らかにした
彼らはこれが癌の進行を途中で止めるためのSTAT3阻害剤のさらに効果的な使用法の基礎になると考えている
この研究結果はImmunity誌で発表された


健康なヒトの場合MDSCは免疫応答と組織修復を調節しており、炎症や感染、癌になるとMDSCの細胞集団は急速に増殖する
しかしながら、この骨髄細胞が腫瘍へと移動すると『腫瘍関連マクロファージ/tumor associated macrophage (TAM)』へと分化し、
腫瘍の血管形成を刺激することで高まっている腫瘍細胞の浸潤と移動をさらに促進することになる

以前の研究でSTAT3はMDSCの増殖expansionに強く関与することが示されたため、ウィスターの研究者はSTAT3とMDSCの分化との間に関連が存在するのか研究しようと決定した


「これまでの研究で、癌の発達developmentにおいてSTAT3が重要な標的であることが示されてきた」
筆頭著者lead authorのDmitry I. Gabrilovich, M.D., Ph.D.は言う
Christopher M. Davis Professor職の保持者である彼は、
ウィスター研究所トランスレーショナル腫瘍免疫学プログラムの教授でありプログラムリーダーでもある

「臨床的に言って、STAT3阻害剤には予測したほどの強い効果は見られなかった
今回の研究の目的は、なぜそのようなことになるのかを明らかにし、
そしてこの治療法がこれまでの我々の研究から示唆されるぐらい有効にするための方法を理解することである」


Gabrilovichたちは癌患者の血液サンプルを分析し、STAT3活性レベルを決定した
その結果、STAT3の活性はMDSCの増殖を強く刺激し、MDSC細胞による免疫応答に関与していたにもかかわらず、
実際には高レベルのSTAT3活性はMDSCからマクロファージへの分化を妨害することが明らかになった
腫瘍内の低レベルのSTAT3がこの活性の原因だったが、しかしSTAT3阻害剤が効果的にSTAT3を標的にできないぐらい低いレベルだった

では一体何がこの腫瘍内MDSCのSTAT3活性の低レベルを引き起こして、TAMへの分化を促進するのか?

その答えは腫瘍の微小環境の中にあった
酸素が欠乏する低酸素hypoxiaの状態は腫瘍が血液の供給を越えて急速に成長することから起きる現象である
低酸素が起きると、CD45(骨髄細胞とリンパ球様細胞lymphoid cellsに見られるタンパク質)の活性が増大する
フォスファターゼであるCD45活性の増大はSTAT3を脱リン酸化することによりSTAT3活性レベルを低下させ、MDSCがTAMへと分化できるようにする

最後に、研究者はCD45を標的にすることがSTAT3阻害剤の有効性を高めるかどうかを調べたいと考えた
彼らはSTAT3阻害剤に抵抗性であることが示されている肉腫において、
実験的なSTAT3阻害剤であるJSI-124 (cucurbitacin I) と、CD45活性を妨害するシアリダーゼsialidaseを組み合わせて使用した
JSI-124かシアリダーゼをそれぞれ単独で使っても腫瘍増殖や腫瘍進行促進に何ら効果はなかったが、
それらを組み合わせて使うとかなり強い抗腫瘍活性が観察された

「我々の結果は、これまで効果がなかったSTAT3阻害剤に対してシアリダーゼを組み合わせると腫瘍内の骨髄細胞を感受性にすることを示唆する」
Gabrilovich研究室のスタッフ科学者であり筆頭著者first authorのVinit Kumar, Ph.D.は言う

「我々はSTAT3が実際に癌治療の潜在的な標的であることを確認した
しかしそれは、腫瘍の微小環境に影響する他の要素を明らかにする限りにおいてである」


http://dx.doi.org/10.1016/j.immuni.2016.01.014
CD45 Phosphatase Inhibits STAT3 Transcription Factor Activity in Myeloid Cells and Promotes Tumor-Associated Macrophage Differentiation.
CD45フォスファターゼは骨髄細胞におけるSTAT3転写因子活性を阻害し、腫瘍関連マクロファージへの分化を促進する


Highlights
・低酸素環境におけるMDSCからTAMへの分化は、STAT3活性によって調節される
・MDSCにおけるSTAT3阻害は、CD45フォスファターゼ活性の上方調節が原因である
・CD45フォスファターゼの活性化はシアル酸によって仲介される
・シアル酸の分解は腫瘍骨髄細胞をSTAT3阻害剤に感受性にする


Summary
単核球MDSCのリクルートとそのTAMへの分化は、腫瘍の進行と転移に寄与する主な要因である

我々は、単核球前駆体から腫瘍でのTAMへの分化が転写因子STAT3の活性の下方調節によって制御されることを実証した

STAT3活性の低下は低酸素によって引き起こされて全ての骨髄細胞に影響するが、腫瘍細胞には観察されなかった

低酸素に曝露したMDSCにおけるCD45チロシンフォスファターゼ活性の上方調節は、STAT3下方調節の原因である

この影響はCD45タンパク質の二量体化dimerizationの妨害によって仲介され、この二量体化はシアル酸によって調節される

 低酸素→シアル酸↑─┤CD45二量体化↓CD45フォスファターゼ活性↑→STAT3↓

したがって、STAT3はMDSCからTAMへの分化の制御において腫瘍環境では独特な機能を持ち、その調節経路は治療の潜在的な標的となりうる


<コメント>
Referenceを見てみる

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12134145
Negative regulation of CD45 by differential homodimerization of the alternatively spliced isoforms.
CD45はホモ二量体化によって負の調節を受ける
CD45の様々なアイソフォームはホモ二量体化に差がある
二量体化は、選択的スプライシングされたCD45エキソンの細胞外ドメインのシアル酸付加sialylationとO-グリコシル化によって調節される
したがって、最も小さいアイソフォームであるCD45ROは、細胞外のシアル酸付加とO-グリコシル化が最小であり、最も効率よくホモ二量体化する結果、TCRによるシグナル伝達が減少する
CD45はT細胞の活性化に必須である


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16540641
Hypoxic culture induces expression of sialin, a sialic acid transporter, and cancer-associated gangliosides containing non-human sialic acid on human cancer cells.
低酸素での培養はシアル酸トランスポーターであるシアリンのmRNA発現を著しく誘導する



関連サイト
http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?ds_ja:H00147
シアリン/SLC17A5は遊離シアル酸をリソソームから輸送するリソソームのメンブレントランスポーターであり、シアリンの異常によってリソソームに多量な遊離シアル酸が蓄積する。
 

肥満が癌の進行と転移を促進するメカニズム

2016-02-19 06:06:49 | 
Study finds mechanism by which obesity promotes pancreatic and breast cancer

Suppression of metastasis-promoting microenvironment by blocking signaling pathway may be particularly effective in obese patients

February 12, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160212130523.htm

マサチューセッツ総合病院(MGH)の研究者は、肥満が癌の進行を促進するという性質の背後にあるまったく新しいメカニズムを発見したのかもしれない
Clinical Cancer Research誌のオンライン版で発表された報告によると、彼らは肥満と過剰な胎盤成長因子/placental growth factor(PlGF)との間の関連を発見した
腫瘍の内部にいる免疫細胞はPlGFの受容体であるVEGFR-1を発現し、PlGFが結合することにより腫瘍の進行は促進されるという
腫瘍の細胞と動物モデル、患者からの腫瘍サンプルによる今回の研究結果は、PlGF/VEGFR-1という経路を標的にすることが特に肥満の患者に有効であることを示す

「我々は肥満が『腫瘍を促進する免疫細胞』の浸潤を増大させて膵臓癌の増殖と転移を促進することを発見した」
MGHの放射線腫瘍学部でスティール腫瘍生物学研究室の一員であるDai Fukumura, MD, PhDは言う

「膵臓癌と乳癌モデルの肥満マウスでVEGFR-1シグナル伝達を阻害すると、腫瘍進行を妨げる方向へと免疫環境を入れ替えるが、
同モデルの痩せているマウスではそうではなかった
また、肥満ではPlGFも過剰に存在し、肥満マウスの腫瘍でPlGFを減少させるとVEGFR-1阻害と同様の結果をもたらす」

今回の研究では肥満が膵臓癌と乳癌に与える影響に焦点を当てたが、その理由はこれらの腫瘍であると診断される人々の半分以上が過体重か肥満だからである
肥満が膵臓癌や乳癌などの癌で死亡するリスクを増大させることが多数の大規模な研究により明らかになっているが、肥満が癌の進行を誘発するメカニズムはこれまで不明だった

MGHの研究者は肥満が腫瘍の炎症の増大と関連し、免疫抑制性の腫瘍関連マクロファージ/tumor-associated macrophage(TAM)の浸潤と関連することを初めて発見した
彼らはさらに、VEGFR-1を標的にすることは腫瘍関連マクロファージの活性に影響して免疫抑制性の腫瘍環境を変化させ、腫瘍増殖の加速を妨害しうることを肥満マウスで明らかにした
この結果は、VEGFR-1に結合するPlGFが肥満で過剰発現することを反映したものである

加えて彼らは、PlGF/VEGFR-1の相互作用を標的にすると遺伝学的に肥満になるマウスで体重の増加を防ぐことも明らかにした
しかし糖尿病のような状態は悪化し、この悪化は一般的に使われる糖尿病薬のメトフォルミンを使うことで軽減した
メトフォルミンは有益な抗癌作用も持っている


「膵臓癌と乳癌の患者は大多数が診断時に過体重か肥満であるため、
肥満と癌の予後の悪さとを関連付けるメカニズムの中に存在する潜在的な治療標的を発見することは
このような関連を断ち切り患者の予後を著しく改善するための治療開発に向けた第一歩である」
スティール研究室のディレクターで共首席著者のRakesh K. Jain, PhDは言う

「肥満がこれらの癌に与える影響の根本に新しいメカニズムが存在していたという事実は、
それが腫瘍を誘発する一般的なメカニズムであり他のタイプの癌にも応用できる可能性を示唆する」


スティール研究室に所属している筆頭著者のJoao Incio, MDは、次のように付け加える
「肥満がどのようにして膵臓癌や他の癌に影響を与えるのかを理解することにより、
例えば体重やPlGFレベルの上昇のようなバイオマーカーを発見しやすくなる可能性がある
このバイオマーカーは抗VEGFR-1の治療が最も有効な患者を明らかにできるかもしれない
加えて我々は前臨床研究のデザインに体重を組み入れるべきであり、それは抗VEGFのような新たな標的治療への応答が低いことを従来よりも適切に反映させるためである
炎症を標的とすることにより大部分の癌患者の臨床結果の改善が期待できる」


http://dx.doi.org/10.1158/1078-0432.CCR-15-1839
PlGF/VEGFR-1 signaling promotes macrophage polarization and accelerated tumor progression in obesity.
PlGF/VEGFR-1シグナル伝達はマクロファージの分化を促進し、肥満における腫瘍進行を加速する


Abstract

RESULTS:
肥満は膵臓癌における肥満関連マクロファージ/tumor-associated macrophage(TAM)の浸潤を増大させ、腫瘍の増殖と転移を促進したが、血管密度には影響しなかった
VEGFR-1シグナル伝達を取り除くと肥満による腫瘍進行は妨げられ、腫瘍免疫環境を抗腫瘍性の表現型へと切り替えさせた
同様の結果が乳癌モデルでも観察された
肥満は膵臓癌/乳癌患者や様々なマウスモデルで全身のPlGF増大と関連したが、VEGF-AまたはVEGF-Bとは関連がなかった
肥満マウスで『PlGFの除去ablation』と『VEGFR-1チロシンキナーゼの削除deletion』が腫瘍に与える影響は、どちらも同様の表現型として現れたphenocopy

PlGF/VEGFR-1-チロシンキナーゼの削除deletionは高脂肪食を与えたマウスの体重増加を防いだが、高インスリン血症は悪化した
メトフォルミンの追加はインスリンレベルを正常化しただけでなく抗腫瘍免疫も強めた



関連サイト
http://first.lifesciencedb.jp/archives/1056
マクロファージのM2への分化は、Jmjd3による脱メチル化に依存する場合がある


<コメント>
肥満により、炎症は増大するが、TAMにより免疫は抑制される
体重がさらに増加し、癌も進行する

 肥満→PlGF/VEGFR-1→炎症↑免疫抑制性TAM浸潤↑→癌進行↑体重増加↑→肥満↑↑
 

GABAA受容体は乳癌の転移を促進し、抑制する

2016-02-17 06:06:28 | 
Gene previously observed only in brain is important driver of metastatic breast cancer

February 12, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160212093658.htm

乳癌が進行して他の臓器へ転移すると、患者の生存率は劇的に低下する
このことは腫瘍細胞の転移の原因となる遺伝子を探求する必要性を刺激してきた

今回ウィスター研究所の科学者によって、脳でしか見られないと考えられていた遺伝子の一つが乳癌でも発現し、癌細胞の増殖と転移を促進することが明らかにされた
加えて彼らは、その遺伝子がRNAが編集されるとどのようにして転移を予防するのかについても示した
この研究結果はNature Communications誌でオンラインにて発表された


国立癌研究所によると、乳癌が早いステージで見つかれば治療を受けた患者全てが治療の5年後も生きている
しかしながら、乳癌が転移して他の臓器に拡散すると、5年以上生き残るのは5人中わずか1人である
この著しい生存のギャップは、何が乳癌を転移させるのかについて明らかにする必要性を強める

乳癌が転移する分子レベルでの原因は十分に理解されてはいない
そのため、この転移という振る舞いを刺激する調節性の遺伝子を明らかにすることは、早期検出から最良の治療戦略デザインに至るまで、患者の生存に途方もなく強い影響を与えうる

「転移する乳癌は最終的に患者を殺す」
ウィスター研究所で腫瘍微小環境・転移プログラムの準教授associate professorであり、筆頭著者のQihong Huang, M.D., Ph.D.は言う

「早期の検出が重要であるものの、それは転移してしまった患者の助けにはならない
そのため我々は何がこの転移を引き起こすのかを決定したいと考えている」


研究者はがんゲノムアトラス/The Cancer Genome Atlas (TCGA) を分析し、41の遺伝子が乳癌の生存と逆相関することを明らかにした
Huangたちはこの中から特に一つの遺伝子、GABAA受容体α3/GABAA receptor alpha3 (Gabra3) に焦点を合わせた
この遺伝子は特別に興味深い存在だった
なぜなら、これまでGabra3は脳組織でしか発現しないと考えられていたからである

これが研究する価値があると彼らが決定するに至った理由は、主に3つ存在した
まず一つに、Gabra3は癌組織で強く発現しているが、健康な胸部では発現しない
二つ目は、Gabra3が細胞表面の分子であり、したがって潜在的に薬剤によって標的となりうる
最後に、Gabra3を標的とする薬剤は不眠症insomniaのような他の疾患の治療用として既に利用可能である

彼らは研究でGabra3を発現する細胞が対応するコントロール群よりも移動して浸潤するのが上手いことを示した
Gabra3はin vivoで転移を促進する作用を示し、活性化したGabra3遺伝子を注入された動物モデルは全て肺に転移病巣を形成した
これはAKT経路の活性化によるものであり、乳癌を含む多くのタイプの癌においてAKTは細胞の増殖と生存に必須の経路である

 Gabra3→AKT→転移

しかし場合によってはin some instances、特定のタイプのGabra3は実際には乳癌の転移を抑制可能である
これは遺伝子のRNAと密接に関連する

RNAは遺伝子をコードするDNAと似たような分子であり、
最近の研究から遺伝子がどのようにしてオン/オフされるのかを調節する際にRNAは複雑な役割を持つことが示されている
『RNA編集』として知られる現象では、それが転写された後でさえRNAヌクレオチド配列に小さな変化が形成される

HuangたちはRNA編集を受けたGabra3が浸潤しない乳癌でのみ見られることを発見した
RNAが編集されると、転移に必要なAKT経路の活性化を抑制する
つまりこの特定のタイプのGabra3を持つ乳癌は他の臓器に転移できないことを意味する

これは大いに有望particularly encouragingである
なぜならシグナル伝達タンパク質の一つであるインターフェロンがRNA編集の活性を増大させることが可能であり、
したがってGabra3によるAKT経路の活性化を妨害できるかもしれないからである

「我々はこれが初めて乳癌でRNA編集の重要性を実証したものであると考えている」
Huangは言う

「Gabra3を標的にしながらRNA編集する分子の発現を上方調節することを含めた組み合わせ戦略は、転移する乳癌を管理するために有効な戦略となりうる」


乳癌転移におけるGabra3の役割をさらに研究することに加え、
ウィスターはGabra3を過剰発現する腫瘍において既存のGABA-A受容体アンタゴニストを使う標的治療を改善するための協力開発パートナーを積極的に探している
ウィスターはさらに、次世代の腫瘍学的治療法として血液脳関門を透過しないGABA-A受容体アンタゴニストを協力して開発することにも興味を持っている


OPEN
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms10715
The mRNA-edited form of GABRA3 suppresses GABRA3-mediated Akt activation and breast cancer metastasis.
mRNA編集された形態のGABRA3は、GABRA3を介するAkt活性化ならびに乳癌転移を抑制する

我々はここに通常は脳でしか発現しないGABAA受容体α3 (Gabra3) が乳癌でも発現することを示す
Gabra3の高い発現は乳癌患者の生存と逆相関する
我々はGabra3がAKT経路を活性化して移動・浸潤・転移を促進することを実証する

重要なことに、アデニン/Aからイノシン/IへRNA編集されたGabra3は非浸潤乳癌においてのみ見られ
編集されたGabra3は乳癌細胞の浸潤と転移を抑制した

AからIへ編集されたGabra3は細胞表面の発現が低下し、AKTの活性化も抑制した



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https://www.sciencedaily.com/releases/2014/01/140114202655.htm
乳癌細胞は脳に転移する時にGABA受容体を発現してニューロンを偽装する



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160107123912.htm
転移する乳癌細胞は、エピジェネティックな仕組みにより様々な臓器の微小環境に適応する



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https://www.sciencedaily.com/releases/2015/09/150923133502.htm
転移する乳癌細胞は、幹細胞遺伝子のスイッチを入れる



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メラノーマはADAR1によるRNA編集を抑制して転移する
転移するメラノーマはADAR1がなく、3つのマイクロRNAでRNA編集が起きない



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https://www.sciencedaily.com/releases/2015/12/151216105303.htm
ADAR1過剰発現によるRNA編集の増大は、異常タンパク質を生じて肺腫瘍発生を促進する
 

高血圧薬を使っている糖尿病患者は血糖値が低い

2016-02-16 06:06:21 | 代謝
Diabetics who use verapamil have lower glucose levels, data show

February 12, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160212093652.htm

Diabetes Research and Clinical Practice誌で発表されたアラバマ大学バーミングハム校(UAB)の新たな研究により、ヒト糖尿病患者のベラパミルverapamilの使用と空腹時グルコースレベルの低さとの間の関連が初めて示された
これは現在UAB総合糖尿病センターがJDRFの資金提供によるベラパミルを使ったこれまでに類を見ない臨床試験を実施している中で得られた有望な結果である
ベラパミルはUAB医学部がマウスモデルで糖尿病を完全に一変reverseさせることを示した薬剤である

UABの予防医学部ではresearch associateかつpostdoctoral scholarであり総合糖尿病センターではjunior memberでもあるYulia Khodneva M.D., Ph.D.は、
REGARDS研究に参加した約5000人の成人糖尿病患者で、カルシウムチャネル遮断薬、ベラパミルの使用、空腹時血清グルコースの関連を検討した
REGARDS(Reasons for Geographic and Racial Differences in Stroke)という研究プロジェクトはNIHをスポンサーとするアメリカ国内の研究であり、心血管疾患のリスクを増大する要因について研究することに焦点を合わせている
参加者の中には成人糖尿病のサンプルとしてカルシウムチャネル遮断薬を服用する1484人が含まれ、その中の174人がベラパミルを服用していた
分析の結果、カルシウムチャネル遮断薬を服用する糖尿病患者は、そうでない患者と比較して血清グルコースが5mg/dL低いことが示された
ベラパミルを服用する患者は、カルシウムチャネル遮断薬を使わない患者と比較して平均10mg/dL低かった

さらに、インスリンを使っていてベラパミルも服用している患者の間で非常に大幅な数の違いが示された
ベラパミルの服用者で、インスリンを使っていて経口薬も組み合わせて使っている患者は血清グルコースが24mg/dL低く、
ベラパミルの服用者で、糖尿病の管理にインスリンのみを使っている患者は37mg/dLという低い血清グルコース値を示した


「これは横断的な観察研究であり、現在UABが実施している前向きprospectiveでランダム化されたベラパミルの臨床試験とは異なる
よって我々はベラパミルの服用とグルコースレベルの低さとの間の因果関係を推論することはできないが、
しかしグルコースレベルの低さと関連があると言うことはできる
それは非常に励みになるabsolutely encouraging」
Khodnevaは言う

そしてKhodnevaは、ほとんどの1型糖尿病患者と重症の2型糖尿病患者が含まれる『インスリンだけを使う最後のサブグループ』での研究結果が非常に印象的quite strikingであると言う

「ベラパミルを服用しないグループと比較した際の、そのグループでのグルコースの変化は37mg/dLという大きなものであり、
この違いは成人の糖尿病サンプル全体を見た時よりもほぼ4倍も高い
そこから我々は、ベラパミルはβ細胞が本当にダメージを受けている1型糖尿病や2型糖尿病の患者で主に有効であると考えるようになった
構造レベルで作用する何かsomethingが存在し、それは特にβ細胞のダメージが強い人ほど顕著であるようだ」


「Khodneva博士はこれらの大規模なデータセットを分析し、ベラパミルの服用が糖尿病患者のグルコースレベルの低さと関連することを初めて発見したという非常に素晴らしい仕事を成し遂げた」
UABの総合糖尿病センターのディレクターでありベラパミル臨床試験の主任研究員/治験責任者principal investigatorでもあるAnath Shalev, M.D.は言う

「印象的なことに、今回観察されたグルコースレベルの違いはHbA1cでいえば約1%の低下に匹敵し、承認糖尿病薬を追加することから期待される変化と同等である
さらに、特にインスリンを使っているグループで見られたグルコースレベルの大きな差は、機能するβ細胞の量functional beta-cell massをベラパミルが促進するという我々の根本的な仮説と一致する」


UABはベラパミルの臨床試験を2014年の11月に告知announceし、2015年1月に患者の登録を開始した
1型糖尿病に対するベラパミルの有効性を評価する最初の結果はまだ約18ヶ月先である

この試験は現在のどんな治療とも異なるアプローチをテストするもので、血糖を制御するために必要なインスリンを作る膵臓β細胞の機能を促進することに焦点を合わせている
UABの科学者たちは長年の研究を通じて、高血糖によりTXNIP(チオレドキシン相互作用タンパク質)というタンパク質が過剰に作られることを証明してきた
TXNIPは糖尿病に応じてβ細胞の内部で増加するが、それがβ細胞にとって生物学的に重要であることはこれまで知られていなかった
β細胞内の過剰なTXNIPは細胞死につながり、体がインスリンを作る努力を妨害して糖尿病の進行の一因となる

しかしUABの科学者は、高血圧や不整脈irregular heartbeat、偏頭痛migraine headacheを治療するために広く使われているベラパミルが、β細胞内のカルシウム濃度を低下させることによりTXNIPレベルを低下させることも発見している
糖尿病を確立したマウスモデルで血糖が300mg/dLを越えたものをベラパミルで治療すると、糖尿病は根絶された


http://dx.doi.org/10.1016/j.diabres.2016.01.021
Calcium channel blocker use is associated with lower fasting serum glucose among adults with diabetes from the REGARDS study.



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/6bbad84c33e591dce00ed134dc7f8c87
高血糖はTXNIPというタンパク質の過剰生産を引き起こす。膵臓β細胞内の過剰なTXNIPは細胞死につながり、インスリンの分泌を妨害して糖尿病の進行に関与する。ベラパミルはβ細胞内のTXNIPレベルを低下させる。
臨床試験では1型糖尿病の診断を受けて3ヵ月以内の19歳から45歳の間の52人を登録する予定である。登録された患者はインスリン・ポンプ療法は継続し、ベラパミルまたはプラセボのどちらかの1年間の投与にランダムに割り振られる。



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160208112603.htm
2型糖尿病の特に血糖コントロールが悪い人は、TXNIP遺伝子のメチル化が低下する

http://dx.doi.org/10.1093/hmg/ddv493
Epigenome-wide association study identifies TXNIP gene associated with type 2 diabetes mellitus and sustained hyperglycemia.
 

生検と液体生検を組み合わせて腫瘍の変異を監視する

2016-02-15 06:06:49 | 癌の治療法
Single-lesion biopsy may be insufficient to choose therapy targeting resistance mutations

February 5, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160205135008.htm

薬剤で標的にすることが可能な遺伝子突然変異をドライバとする転移性の腫瘍が標的治療薬に対して抵抗性になると、通常は次の治療法の選択をガイドするために転移病変の一箇所から生検し、抵抗性の原因となった新しい変異について試験する

マサチューセッツ総合病院(MGH)のがんセンターとトリノ大学(イタリア)の研究者は、このような戦略が標的となりうる別の突然変異を見逃してしまい、異なる転移を生じるかもしれないということを発見した
彼らはCancer Discovery誌の2月号で、血液中を循環する腫瘍DNA断片を分析することにより患者の癌の分子的な基盤の全体像をもたらす可能性を報告する

「治療を受けている間に転移病巣metastatic lesionの一つで生じる薬剤抵抗性の分子メカニズムは、同じ患者の隣接する病巣で抵抗性を促進するメカニズムとは全く異なりうることを我々は発見した」
MGHがんセンターの胃腸管癌センターでトランスレーショナル研究ディレクターであるRyan Corcoran, MD, PhD.は言う

「我々の結論は、転移病巣の一箇所から生検してスタンダードな分子試験を実施するのは不十分であり、血液中を循環する腫瘍DNAを調べることで患者の腫瘍に存在する分子的な多様性をよりうまく捉えられるかもしれないというものである
それにより効果的な治療法を選択して抵抗性に打ち勝つ能力が促進される」


著者らは結腸直腸癌が肝臓に転移した症例を報告する
この患者は抗EGFRモノクローナル抗体であるセツキシマブcetuximab (アービタックスErbitux) に15ヶ月間反応していた
患者が治療に抵抗性になると転移先の肝臓から一箇所の生検を実施し、抵抗性をもたらす新たな突然変異を分析した

この標本からはセツキシマブ治療の前には存在していなかったMEK1変異が見つかり、
MEK1変異は抗EGFR抗体への抵抗性のドライバとなることが結腸癌の実験室モデルで著者らによって実証された

この研究結果を元に、患者はMEK阻害剤のトラメチニブtrametinib(メキニストMekinist)と別の抗EGFR抗体であるパニツムマブpanitumumab(ベクティビックスVectibix)を組み合わせた治療を受けた
この組み合わせは同じ変異を持つセツキシマブ抵抗性腫瘍細胞の細胞モデルでは有効だった

患者は最初こそ組み合わせ治療に反応しているように思われた
しかし、3ヶ月後の腹部CTスキャンではMEK1突然変異の肝臓病変は縮小していたものの、別の転移病巣が増殖を続けていた

組み合わせ治療の開始前と治療中に取られていた血液サンプルから血液中を循環する腫瘍DNAの分析がトリノ大学のAlberto Bardelli, PhDら研究チームによって実施され、
治療開始時に取られた血液サンプルにはMEK1変異に加えて以前検出されなかったKRAS変異も存在していたことが明らかになった
組み合わせ治療の間に血液中で検出されるMEK1変異のレベルは低下したが、KRAS変異のレベルは劇的に上昇した

KRAS変異はMEK1変異病巣ではどこにも見つからなかったものの、組み合わせ治療の間も進行を続ける病巣の一つでは検出された
このことは別個の抵抗性変異が生じていて異なる転移の増殖を促進していたことを暗示implyする

循環する腫瘍DNAの分析では抵抗性の変異を両方とも同定できていたことから、
著者らは治療経過の監視には単一病巣の生検よりもそのような『液体生検liquid biopsies』が有効である可能性を強調する
液体生検は頻繁に繰り返すことが可能であり、患者にとっての不都合もほとんどない

「総合的に見て、我々の研究は
同じ患者の別個のdifferent転移病巣で進化する異なるdistinct抵抗性メカニズムが
その後の治療に対して腫瘍のそれぞれの転移病巣の間でどのようにして異なる応答を駆動するドライバとなりうるのかを示す
ハーバード・メディカルスクールの内科学助教授であるCorcoranは言う

「これらの結果は、抵抗性が生じた際に単一の腫瘍生検からの分子テストを元にした治療選択の際にあり得るpossible落とし穴を強調するが、それらは同時に腫瘍学において臨床的な決定をする際に液体生検を組み込むことの潜在的なpotential見込みをも例証するものである」

彼は付け加える
「近年、血液中を循環する腫瘍DNAを分析する我々の能力は劇的に進歩し、技術は進歩を続けている
しかし現在いくつかの分析が臨床的に利用可能であるものの、液体生検は腫瘍生検を完全に置き換えるまでには至っていない
治療への抵抗性を生じた時に患者の腫瘍をリアルタイムに監視するために液体生検の可能性を利用する最適な方法を、我々は学ぶ必要がある
それにより抵抗性のタイミングと原因の両方とも予測し、それにより治療を修正することができるようになる」


http://dx.doi.org/10.1158/2159-8290.CD-15-1283
Tumor Heterogeneity and Lesion-Specific Response to Targeted Therapy in Colorectal Cancer.
結腸癌における腫瘍の不均一性と標的治療にする病変特異的な応答

MEK1 K57T

KRAS Q61H



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/ab7f83d0f92133abb83530140b509ad7
より一般的でない2つの突然変異、KRASとBRAFは、生検の小さい検体では見逃される可能性がある。



関連記事
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/12/151223221343.htm
ALK変異に対してALK阻害剤→耐性のため別のALK阻害剤→耐性のため別のALK阻害剤→耐性のため最初のALK阻害剤を投与すると有効だった

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e833200.html
ALK遺伝子再構成を伴う52歳の女性患者が、ALKのリン酸化部位の二次的変異によりクリゾチニブ耐性となった。この二次的変異はC1156Yのアミノ酸置換をもたらすものと予測された。
耐性後、第2世代ALK阻害薬であるCeritinibを使用したが多発肝転移によりわずか5週間後に無効中止となり、ヒートショック蛋白90(HSP-90)阻害薬も無効だった。
続いてカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法を行ったところ6か月間は無増悪期間が得られたが、その後病勢進行に至り、クリゾチニブ再投与を試みたが無効だった。
続いて、第3世代ALK阻害薬であるLorlatinib(PF-06463922)の第I相試験に参加したところ、5週間後には41%の腫瘍縮小効果が得られたが、8か月後には肝転移が増悪した。
肝転移巣の再生検を行い遺伝子シーケンスを調べたところ、C1156Yの二次変異に加えて、L1198Fの三次変異を認めた。この変異はLorlatinibの結合部位に構造変化をもたらし、結合を阻害するものだった。
しかしながら、L1198Fは不思議なことにクリゾチニブの結合作用を増強する効果も併せ持っていることがわかり、これによってC1156Yのクリゾチニブ阻害効果が無効化されていた。
患者は遺伝子シーケンスの最中もLorlatinibの投与を受けていたが肝機能障害の進行により中止せざるを得なくなっていた。しかし、クリゾチニブの再々投与により臨床症状と肝機能障害は改善した。
 

神経細胞の発達中に壊れやすい27の遺伝子を発見

2016-02-14 06:47:28 | 
DNA breaks in nerve cells' ancestors cluster in specific genes
Study reveals new avenue for thinking about brain development, brain tumors and neurodevelopmental/psychiatric diseases
February 11, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160211184955.htm


(神経幹細胞・前駆細胞で頻発するDNA二本鎖切断クラスター/Recurrent DSB clusters(RDC)を示す
Credit: Boston Children's Hospital)

Breakable genes may promote disease, brain cell diversity
Date:February 11, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160211141341.htm

ボストン小児病院、ハーバード・メディカルスクール(HMS)、ハワードヒューズ医学研究所の『細胞分子医学プログラム/Program in Cellular and Molecular Medicine (PCMM) 』の研究者たちは、
発達中の脳細胞のゲノムにはDNAが他よりも非常に壊れやすい27箇所のクラスターclusters/ホットスポットhotspotsが存在することを明らかにしてCell誌で報告した

それらのホットスポットは脳腫瘍や多くの神経発達的・神経精神病学的な病態に関与する遺伝子に現れており、
このことはこれらの病態の源についての、さらにはどのようにして脳が様々な回路を生成するのかという新たな疑問を生じる


今回の研究のルーツは30年以上前にさかのぼる
PCMMのディレクターであり研究首席著者study senior authorでもあるFrederick Alt, PhDたちは、腫瘍と癌遺伝子oncogene、DNA切断/DNA修復との間のつながり、特にその免疫細胞と神経細胞におけるつながりlinksの調査を初めて開始した


一連の研究の中でAltのラボは、DNA修復経路の一つである非相同末端結合/non-homologous end joining (NHEJ) を欠損させてDNA鎖切断の修復ができなくなった神経細胞が
発達の初期に死に絶えるか髄芽腫medulloblastomaという脳腫瘍を生じることを発見した
彼らはなぜこの経路が失われるとそのような劇的な影響があるのかを理解しようと奮闘した


「我々はDNAの切断について非常に多くのことを考察してきた」
遺伝学の教授であり、ハーバードでは小児学のCharles A. Janeway ProfessorでもあるAltは言う

「そして多くの人々が長年にわたって、DNA切断が神経発達における多様性diversityを形作るために重要でありうるという可能性を考えてきた
しかし、NHEJが欠けていると神経系発達がほぼ完全に阻止されることにつながるという、神経細胞におけるそのような切断を確認するための方法は存在しなかった」


最近になり、AltのラボはDNA切断を非常に高解像度でゲノム全体にマッピングする手法として『ハイスループット・ゲノムワイド・トランスロケーション・シーケンシング (HTGTS) 』を設計した
HTGTSは元々、癌ではどのようにして遺伝子が再編成reshuffleされるか、どうやって転座translocateが生じるかを理解するために開発されたが、
AltのラボはこれをCRISPR遺伝子編集の正確さを計測するためにも利用し、加えてゲノムが遺伝子を切断すべきでない箇所で切断しないようにするためにどのようにしてDNA切断酵素を『サンドボックスに入れておく』か詳しく調べるprobeためにも使い始めた

※sandbox: サンドボックス。コンピューターのセキュリティ用語

今回の研究でAltのラボメンバーたちはHTGTSと情報工学informaticsを使い、マウスの神経幹細胞・前駆細胞/neural stem and progenitor cell(NSPC)におけるDNA切断のパターンを複製ストレスreplication stressという条件下で探索してマッピングした

※NSPC: 脳のニューロン、アストロサイト、乏突起膠細胞oligodendrocyteを生じる細胞

実験によりNSPCのゲノムが頻繁に切断される27箇所のホットスポットが明らかになった
印象的だったのはstrikingly、それら27のホットスポットが27の遺伝子それぞれに散らばって存在していたことである
27の遺伝子には多くの特徴が共通していた

・27の遺伝子全てが長く、大部分が10万塩基以上で、多くのエキソンと長いイントロンを持つ
・そのほとんどが遅いレプリケーターlate replicatorである。つまり細胞複製プロセスで遅くにコピーされる
・それらはニューロン表面に見られるタンパク質をコードし、そのほとんどはニューロンがコミュニケーションするのを助ける役目を果たす(例えばシナプス形成や細胞間接着)
・27の遺伝子の内、24の遺伝子が、腫瘍抑制と神経学的病態のどちらか、または両方と関連がある(病態は例えば自閉症スペクトラム障害、統合失調症、双極性障害)

「神経細胞でのDNA切断が重要であるという仮説にフィットするような遺伝子セットは、もう見つからないかもしれないという夢を見るくらいだった」とAltは声を上げる

発見されたDNA切断のほとんどが遺伝子のイントロンで頻繁に現れていたことから、研究チームはホットスポットが明確な目的を持っていると推測するに至った
つまり『脳が様々な回路のレパートリーを生成するのを促進する』ためにわざと切断するのだろうという

「二本鎖切断のほとんどがエキソン間で生じるため、それらはおそらく場合によってはin some casesエキソンの一つか二つを消去させ、潜在的に遺伝子が異なるタンパク質を作れるようにするのだろう」
Altはそのように説明する

様々な方法で遺伝子のエキソンをスプライシングすることにより、ゲノムは一つの遺伝子のコードから複数のバリエーションのタンパク質を作る可能性がある
そうしてNPSCから発達するニューロンは自分自身を配線wireし、独特な神経回路を形成する

「我々が明らかにした27の遺伝子の一つがコードするタンパク質はニューレキシンneurexinというもので、このタンパク質の形態は潜在的に1000を越える
そのうちのいくつかはニューロン間を異なる強さで結合する」
Altラボのpostdoctoral fellowであるWeiは言う

「我々の発見は様々なシナプス結合synaptic connectionのメカニズムをもたらし、ニューロン間の接触を異なるものにする」

※ニューレキシン: 多数のアイソフォームからなる神経細胞表面タンパク質で、α-ニューレキシンを欠損するマウスではシナプスでの伝達物質の放出が著しく障害される

「神経が発達する間、ヒトは比較的限られた数のNSPCから1000億のニューロンで脳全体を形成する」
ハーバードで小児科学の助教授assistant professorであるSchwerは付け加える

「この状況でDNA切断が頻発することにどのような潜在的な利点が存在するのか?
それは回路とシナプスの様々な組み合わせをサンプルとして抽出するための方法かもしれない
それはほとんど進化のミニチュアであるかのようだ」

「我々はこれが当てはまるのか確信してはいない」
彼は続ける
「しかし、神経発達中に生じるこれらの複製ストレスと関連する切断は、これまで認識されてきた神経細胞の多様性に寄与する方法でありうることを今回我々は示す
この多様性を持つ神経細胞が最終的に成熟した脳へと発達する」

また、研究チームは今回の発見に基いて、これら27の遺伝子によって影響を受ける神経発達中の複製ストレスと関連するDNA損傷が、神経発達的な疾患または神経精神病学的な疾患を促進すると推測している

「これらの遺伝子のほとんど全てが、神経発達的な要素を持つ疾患と関連する」
Schwerは言う

「もし遺伝子内の破損を効率的に修復できなければ、そのヒトは神経発達疾患に罹患しやすくなるのかもしれない/it could be that」


http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2015.12.039
http://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(15)01703-1
Long Neural Genes Harbor Recurrent DNA Break Clusters in Neural Stem/Progenitor Cells.
神経幹細胞・前駆細胞における長いニューロンの遺伝子は、頻発するDNA切断クラスターを持つ



(1番染色体から順に、
Bai3(Adhesion G Protein-Coupled Receptor B3)、
Pard3b(Par-3 Family Cell Polarity Regulator Beta)、
Nfia(転写因子NFIA)、
Magi2(Membrane Associated Guanylate Kinase, WW And PDZ Domain Containing 2)、
Sdk1(Sidekick Cell Adhesion Molecule 1)、
Ptn(プレイオトロフィン)、
Ctnna2(Catenin (Cadherin-Associated Protein), Alpha 2)、
Csmd1(CUB And Sushi Multiple Domains 1)、
Cdh13(カドヘリン13)、
Wwox(WW Domain Containing Oxidoreductase)、
Ntm(Neurotrimin)、
Grik2(Glutamate Receptor, Ionotropic, Kainate 2)、
Dgkb(Diacylglycerol Kinase, Beta 90kDa)、
Npas3(転写因子Neuronal PAS Domain Protein 3)、
Mdga2(MAM Domain Containing Glycosylphosphatidylinositol Anchor 2)、
Nrxn3(ニューレキシン3)、
※上流プロモーターからはEGF様配列を持つαが、下流プロモーターからは配列を持たないβアイソフォームが形成される
Gpc6(グリピカン6)、
Ctnnd2(Catenin (Cadherin-Associated Protein), Delta 2)、
Oxr1(Oxidation Resistance 1)、
Csmd3(CUB And Sushi Multiple Domains 3)、
Rbfox1(RNA Binding Protein, Fox-1 Homolog (C. Elegans) 1)、
Fgf12(Fibroblast Growth Factor 12)、
Lsamp(Limbic System-Associated Membrane Protein)、
Cadm2(Cell Adhesion Molecule 2)、
Nrxn1(ニューレキシン1)、
※By using alternate promoters, splice sites and exons, predictions of hundreds or even thousands of distinct mRNAs have been made.
Dcc(DCC Netrin 1 Receptor)、
Prkg1(Protein Kinase, CGMP-Dependent, Type I))

Highlights
・神経幹細胞・前駆細胞における『頻発するDNA二本鎖切断クラスター/Recurrent DSB clusters (RDCs)』を明らかにする
・全てのRDCsは遺伝子内に存在し、そのほとんどが長い遺伝子で、転写され、複製が後期である
・ほとんどのRDC遺伝子はシナプス形成と神経細胞接着のどちらか/両方に関与する
・複製ストレスと関連する脆弱な箇所fragile siteをヌクレオチドレベルの解像度で提供する

※fragile site: 脆弱部、染色体不安定部


Summary
27の神経幹細胞・前駆細胞(NSPC)の頻発DSBクラスター(RDC)のほとんどは、アフィディコリンaphidicolinによる弱い複製ストレスで検出された
これは複製関連ゲノム脆弱部のヌクレオチドレベル解像の視点をもたらす

※アフィディコリンaphidicolin: 抗生物質。真核生物のα型DNAポリメラーゼを特異的に強く阻害する



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160211141341.htm
今回の研究ではDNAをわざと切断して『エサbait』として利用した
この切断された箇所は、既に切断されている箇所と結合するため、元々どこが切断されていたかを示す
そうして特定された27のクラスター全てが、ゲノムのほとんどが遺伝子ではないにも関わらず、遺伝子の中に存在した
27の内15の遺伝子はニューロンが近くにくっつけるようにするタンパク質をコードし、22の遺伝子がシナプスの形成または活性に関与していた
なぜ壊れやすいのかはおそらく遅れて転写されるためで、転写するための分子機構と複写のための分子機構が衝突collideするのかもしれないという
この衝突が二本鎖切断につながる可能性があると研究者は示唆する



関連記事
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/11/151130084043.htm
癌と関連すると思われていたBRCA1は認知症にも関係がある
脳は記憶する際にDNAを切断しているため、DNAを修復するBRCAは記憶にも重要



関連サイト
http://ameblo.jp/mojio914/entry-11469645587.html
HHMI/Howard Hughes Medical Institute(ハワードヒューズ医学研究所)は実際には研究所なんてないんですけど、お金だけを配っている団体があるんですよね。
お金をもらう、すなわちHHMI investigatorになるというのは最高に名誉なことで、アメリカではトップクラスのサイエンティストであることを意味します(うちのボスもその一人になるわけですが)。
 

「重力波の直接検出に初めて成功」のニュース

2016-02-13 06:06:06 | 天文
Gravitational waves detected 100 years after Einstein's prediction

LIGO opens new window on the universe with observation of gravitational waves from colliding black holes

February 11, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160211103935.htm

(Credit: LIGO)

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160211104237.htm

(Credit: Simulating eXtreme Spacetimes)

<コメント>
詳細は新聞記事などで既出なので訳す必要はないということで、ソースの忠実度を見てみる

Sciencedaily/プレスリリースで目を引く記述として、重力波の検出の順番が「ルイジアナ州リビングストン→ワシントン州ハンフォード」であり、その差が「7ミリ秒」だったとある
「重力波は光速度と同じなのか?」という疑問を抱いたり耳にしたことがある人(私だ)にとって興味深い一語だと思う

しかし『リビングストン ハンフォード "7ミリ秒" 重力波』と検索すると、日本語で引っかかったのはわずかに3件

http://www.astroarts.co.jp/news/2016/02/12gravitationalwave/
アストロアーツ天文ニュース

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/021200053/
ナショナルジオグラフィック日本語版

https://www.facebook.com/webronza/posts/961627517252003
ウェブロンザ(朝日新聞社)

※『リビングストン ハンフォード 重力波』で検索すると220件


ギズモード・ジャパンにプレスリリースを改変したような記事が掲載されているが、「7ミリ秒」が抜けている
http://www.gizmodo.jp/2016/02/_gravitationalwave_official.html


英語で『Livingston Hanford "7 milliseconds" Gravitational waves』と検索すると、1390件ヒット

※『Livingston Hanford "Gravitational waves"』で検索すると30000件


3件 / 220件=1.3%
1400件 / 30000件=4.7%




関連サイト
http://scienceminestrone.blog.fc2.com/?no=759
現状、本格的な重力波観測所はアメリカ合衆国のLIGOの2ヶ所のみである。2ヶ所の干渉計だけでは、重力波の発生源は大雑把にしかわからず、今回のGW150914も発生場所は天球の南半球の140平方度 (50%の確率) ないし590平方度 (90%の確率) の領域と、極めて大雑把にしかわからない。590平方度とはオリオン座の面積に匹敵し、満月の3000倍もある。当時は運用を休止していたイタリアのVIRGOの1ヶ所を加えると計3ヶ所となり、これで初めて三次元的な場所が絞られる事になる。それでも検出エラーや2ヶ所同時に到達する可能性を考えると4ヶ所以上が望ましく、今の所日本のTAMA300とドイツのGEO 600が候補に挙がる。
いずれにしろ、極めて弱い重力波を用いた天文学を行うためには、国際的な連携が欠かせず、重力波を初めて観測した事は、重力波による天文学の発展の始まりに過ぎないのである。



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/ff172273721d866bf8adcf2ecf493ccb
超電導体コイルの磁場で重力場をコントロールする
 

アポE4は1700の遺伝子プロモーターに結合する転写因子である

2016-02-11 06:06:02 | 
A surprising new role for ApoE offers explanation for its diverse range of effects, particularly in Alzheimer's

January 28, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160128155753.htm

バック研究所とカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の新たな研究は、
なぜアポリポタンパク質E/apolipoprotein E (ApoE) の特定の遺伝型(アレルallele)がアルツハイマー病の最も重大な遺伝リスクを有するのかについて説明する

1月20日にThe Journal of Neuroscience誌で発表された彼らの研究は、脂質結合タンパク質のアポE4/apoE4にまったく新しい光を当てる
それによるとアポE4は転写因子であり、核内に入ってDNAに結合する高い親和性を持つ
結合する箇所の中には1700という様々な遺伝子のプロモーター領域が含まれるという

7500万人のアメリカ人がアポE4キャリアであり、アルツハイマー病のリスクが高い
さらに700万人はアポE4のコピーを2つ持ち、彼らのアルツハイマー病の発症リスクは10倍から12倍も高い

「プロモーターにアポE4が結合する遺伝子が機能的グループfunctional groupsにあるとみなす時に、そのアルツハイマー病との関係が目立つ」
共首席著者のDale Bredesen, MDは言う
彼はバック研究所の教員/Buck Institute facultyであり、UCLAのイースタン神経変性疾患研究所の教授でもある

「アポE4が標的とするのは、サーチュイン(Sirtuin)や加齢、インスリン抵抗性、炎症と酸化によるダメージ、アミロイドプラークの蓄積、タウのもつれと関連する遺伝子である
これは何が本質的にアルツハイマー病の『統一理論unified theory』なのかの解明に向けたロードマップをもたらす」

※サーチュイン: ヒトではSIRT1からSIRT7まであり、主に脱アセチル化酵素deacetylaseとして働く

「我々はこの研究がアルツハイマー病の予防と治療のための新しい種類のスクリーニングにつながることを望んでいる
共首席著者のRammohan Rao, PhDは言う
彼はバック研究所で准研究教授associate research professorである

「また、我々は全く新しい薬剤の候補をデザインして設計しており、これはアポE4を介する経路を一つではなく複数同時に標的とするものだ
我々は最終的に、アポE4キャリアに与えることでアルツハイマー病を予防できる薬を開発したいと考えている
これらの結果はメカニズムを提供し、候補をふるいにかけるscreen」


今回の研究はニューロンの細胞系統とアルツハイマー病患者の皮膚の線維芽細胞、ApoEを標的とするマウスの脳を組み合わせて実施され、クロマチン免疫沈降法・ハイスループットDNAシーケンシング(ChIP-seq)が利用された

この研究は2013年のBredesenとRao、Veena Theendakaraらの研究に続くものである
その研究では、抗加齢タンパク質SIRT1によって仲介されるアポE4とアルツハイマー病との間の関連が示された
SIRT1はワインの成分であるレスベラトロールによって活性が促進されるのと同じ分子である

http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1314145110
"Neuroprotective Sirtuin ratio reversed by ApoE4"

http://www.buckinstitute.org/buck-news/major-alzheimers-risk-factor-linked-red-wine-target
"Major Alzheimer's Risk Factor Linked to Red Wine Target "

その研究によると、アポE4の存在は神経細胞とアポE4アルツハイマー病患者の両方でSIRT1の減少を引き起こした
しかし、アポE4がどのようにしてSirT1を減少させるのかは説明されなかった

「これらの結果は新たな治療法をデザインするエキサイティングな可能性をもたらす
その治療法は、アポE4と関連する1700の遺伝子の協調した作用がアルツハイマー病のリスクを引き起こすのを阻害する
そのようなアプローチは現在進行中である」
Bredesenは言う


http://dx.doi.org/10.1523/JNEUROSCI.3562-15.2016
Direct Transcriptional Effects of Apolipoprotein E
アポリポタンパク質Eの直接の転写的影響

Abstract
生物学と医学で未解決の大きな問いは、
アポリポタンパク質Eε4アレルの産物、アポリポタンパク質E4/apolipoprotein E4 (ApoE4) が
本質的に全く異なるdisparate次のようなプロセスで重要な役割を演じるためのメカニズムである

・アルツハイマー病/Alzheimer's disease (AD。ADでアポE4は最も重要な遺伝リスク要因である)
・動脈硬化性心血管病/atherosclerotic cardiovascular disease
・レヴィ小体認知症/Lewy body dementia
・人類の進化/hominid evolution
・炎症inflammation


我々は今回の報告で、神経細胞系統、AD患者の皮膚線維芽細胞、アポE4標的置換マウス脳/ApoE targeted replacement mouse brainsを組み合わせることにより、
アポE4が核に移行して二本鎖DNAに高親和性(低ナノモル)で結合し、転写因子として機能することを示す

クロマチン免疫沈降法とハイスループットDNAシーケンシングを使って、アポE4が1700の遺伝子のプロモーター箇所に結合することを示す

これらのプロモーターと関連する遺伝子はADリスクがアポE4によってもたらされるメカニズムへの新たな洞察をもたらす
なぜなら、それらには栄養サポートtrophic support、プログラム細胞死、微小管分解microtubule disassembly、シナプス機能、加齢、インスリン抵抗性などと関連する遺伝子が含まれ、それらはすべてADの病理発生に関連付けられてきたからである



関連サイト
http://www.buckinstitute.org/buck-news/major-alzheimers-risk-factor-linked-red-wine-target
Major Alzheimer's Risk Factor Linked to Red Wine Target

>ApoE4 causes a dramatic reduction in SirT1.
(アポE4はSirT1を劇的に減少させた)

>the abnormalities associated with ApoE4 and AD, such as the creation of phospho-tau and amyloid-beta, could be prevented by increasing SirT1.
(アポE4とアルツハイマー病に関連する異常は、SirT1の増加によって予防されえた)

>with ApoE3 (which confers no increased risk of AD), there was a higher ratio of the anti-Alzheimer’s peptide, sAPP alpha, produced, in comparison to the pro-Alzheimer’s amyloid-beta peptide.
(アルツハイマー病のリスクを上昇させないApoE3が存在すると、アミロイドベータ/Aβペプチドよりも、sAPPαという抗アルツハイマー病ペプチドの割合が上昇した)

>This finding fits very well with the reduction in SirT1, since overexpressing SirT1 has previously been shown to increase ADAM10, the protease that cleaves APP to produce sAPP alpha and prevent amyloid-beta.
(この発見はアポE4によるSirT1の減少と非常にフィットする。なぜなら、以前SirT1の過剰発現はADAM10を増大させることが示されたからである。ADAM10はAPPを切断してsAPPαを産生するプロテアーゼであり、Aβの産生を阻止する)