機械翻訳2

興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

2015年3月23日

2015-03-30 23:26:08 | 癌の治療法

古い薬と新しい方法を組み合わせて癌細胞を殺す
Combining old drug and new mehtod to kill cancer cells



デューク-シンガポール医学大学院(Duke-NUS)の研究チームは、古い薬と新しいアプローチの組み合わせは一般的な癌を治療する有効なアプローチかもしれないことを明らかにした。この画期的な研究においてDavid Virshup教授とJit Kong Cheong博士は、癌の中で行われる『食事』を調節する新たなシグナル経路を特定した。

この癌細胞の栄養経路を2箇所同時に攻撃する実験では古い抗マラリア剤をカゼインキナーゼ1アルファ(CK1α)という酵素の阻害剤と組み合わせて使用し、結腸癌と膀胱癌の増殖を止めた。この新しい組み合わせは、変異したRAS遺伝子とそれによって調節されるCK1αのフィードバックループを研究チームが明らかにしたことから発見された。

悪名高いRAS癌遺伝子は、ヒトのすべての癌の30%で変異している。しかしながら、変異体RASを直接標的にするのは難しいことがこれまでに明らかになっている。

変異体RASはオートファジーと呼ばれるプロセスを経て細胞内の栄養状態を変える。Duke-NUS研究チームは、変異体RASがカゼインキナーゼ1α(CK1α)に依存的なフィードバックループを通じてオートファジーをコントロールすることを示した。突然変異RASは、癌細胞の増殖を維持するため、そして自分を食べてしまうのを止めるため、非常に活性の高いキナーゼであるCK1αをたくさん作る。研究チームはRASが変異した癌細胞のアキレス腱はCK1αであることを明らかにした。

試験薬D4476によるCK1α阻害と抗マラリア剤クロロキンによるオートファジー阻害の組み合わせが試され、研究用マウスの体内で成長させたヒトのRAS変異結腸腫瘍と膀胱腫瘍を効果的に治療できることが明らかになった。

研究者はさらに、膵癌と肺癌の患者がこの複合製剤の治療から利益を得られるかもしれないと推測している。これらの癌ではしばしばRAS癌遺伝子が変異しているためである。

「これは刺激的な手がかりである。我々はCK1αのさらに強力でより特異的な阻害剤を特定して、オートファジー阻害剤と組み合わせたいと考えている」、首席著者でありDuke-NUSで癌と幹細胞生物学プログラムのディレクターであるVirshupは言う。

「この組み合わせによる療法が厳密な臨床試験で有効なら、それはRAS癌遺伝子が活性化する突然変異を有する癌患者で有効である可能性がある。」

記事出典:
上記の記事は、デューク-シンガポール医学大学院によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.カゼインキナーゼ1α依存的なフィードバックループは、RASが変異した癌においてオートファジーをコントロールする。

Journal of Clinical Investigation、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150323182510.htm

<コメント>
オートファジー阻害剤とCK1α阻害剤を組み合わせて、変異体RAS癌細胞によるオートファジーの調節を破綻させるという記事です。

論文によると、RASはPI3K/AKT/mTORを介してCK1αの発現を上方調節します。CK1αキナーゼとAktキナーゼは共にFOXO3Aをリン酸化することで核から追い出して阻害し、FOXO3Aの標的であるLC3の転写も抑制して、オートファゴソームの形成を抑制します。

そのようなRASによるオートファジーの調節をCK1α阻害剤とオートファジー阻害剤は破綻させ、腫瘍の成長を阻害して細胞死を促進します。RASにより調節された『適度な』バランスのとれたオートファジーは、癌の増殖にとって重要であるようです(balanced RAS-driven autophagy is critical for proliferation)。

 RAS→PI3K/AKT/mTOR→CK1α─(リン酸化)─┤核内FOXO3A→LC3→オートファゴソーム形成─(+リソソーム)→オートファジー

 CK1α阻害剤─┤CK1α↓─(リン酸化↓)─┤FOXO3A↑→LC3↑→オートファゴソーム形成↑─(+リソソーム↓)→オートファジー↓├─(リソソーム阻害)─オートファジー阻害剤



2015年3月27日

2015-03-29 23:18:23 | 代謝

良い脂肪組織は、どのように脳と情報をやりとりするか
How body's good fat tissue communicates with brain



ジョージア州立大学の研究者によると、人体の「良い脂肪」である褐色脂肪組織は、感覚神経を通して脳と情報をやりとりして情報を共有するようだ。その情報は、どれくらいの脂肪が存在し、そしてどれくらいの脂肪を失ったかというような内容であり、それは肥満との戦いにとって重要である。この発見は、褐色脂肪が熱を生じる際に脳と褐色脂肪組織との間で行われる会話を説明するのに役立つ。

褐色脂肪は「良い脂肪」または「健康な脂肪」と考えられている。褐色脂肪はカロリーを消費し、人体が熱を生じてエネルギーを消費するのを助ける。一方で白色脂肪は後のためにエネルギーを保存し、糖尿病と心臓疾患のような健康問題のリスクを増す。健康な代謝の人は白色脂肪が少なく、逆に褐色脂肪は活発に供給されている。

褐色脂肪はエネルギーをより多く燃焼する能力に関して大きな役割を演じ、太らずに細いままでいるための道具になりうることを研究は示す。製薬会社は褐色脂肪を標的にしており、活性化を試みているとJohnny Garretsonは言う。彼は今回の研究著者であり、ジョージア州神経科学研究所とObesity Reversalセンターで博士課程の学生である。

通常、褐色脂肪組織は脳から到着する交感神経系の通信で活性化する。この通信を模倣する薬(β3-adrenoceptor agonist)で褐色脂肪を活性化すると、脂肪は感覚神経(sensory nerves)を活性化することによって脳に応答することを研究は明らかにした。褐色脂肪から脳への感覚神経の通信は、直接的な化学的活性化に反応する活性、ならびに熱の産生を増加させた。

「褐色脂肪からの感覚神経の機能が調べられたのはこれが初めてである」、Garretsonは言う。

「褐色脂肪は代謝にとって比較的重要である活動的な臓器である。我々はそのコミュニケーションの新しい経路を明らかにした。今回の研究は脂肪と脳との間のコミュニケーションについて我々に教える。それは肥満の治療にとって実に有益である。」

「褐色脂肪が多い人ほど代謝が良く、2型糖尿病になる例は少なく、そして体が細いというエビデンスがある。どのようにして褐色脂肪の活動量を増加させ、褐色脂肪を増やすのかを知ること、それは効果的かつ急速に減量するためのもう一つの方法を理解しようとする未来の試みである。」



研究者は褐色脂肪が脳に多くのことを伝えていると推測している。それは例えば、どれくらいの熱が作られているか、どのような種類の自由なエネルギーがどれくらい保存され、また使われているか、どれくらいの脂肪が残っていて、どれくらいの脂肪を失ったかというような情報である。

「褐色脂肪が熱を作り始め、熱くなって活動的になり、人体にとって良いことをするにつれて、それは我々の代謝を増加させて白色脂肪を燃焼させるのを助ける」、Garretsonは言う。

「褐色脂肪は熱くなるにつれて、熱くなっていることを脳に教える。我々はこれが何らかの種類のフィードバック、例えばサーモスタットのようなものであると考えている。それは、熱くなるにつれて、それに対して脳がどのように応答するかをコントロールしているのだろう。」

脳は脂肪組織と情報交換して、自由なエネルギーを分解し、我々の人体が機能するためにそれを放出させるか消費するよう伝えることは既に知られていた。本研究は、褐色脂肪組織と脳の間のフィードバックループを示す。

研究チームは長い間、脂肪から脳、脳から脂肪へのコミュニケーションを研究してきた。しかし、彼らは神経系を通じた脂肪から脳への連絡を調べている、世界でもわずかな研究室の内の1つであるとGarretsonは言う。

記事出典:
上記の記事は、ジョージア州立大学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.褐色脂肪組織は、交感神経-感覚神経フィードバック回路を有する。

Journal of Neuroscience、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150327101035.htm

<コメント>
論文のリンク先が間違っているようです。実際のアドレスはこちら

脳と褐色脂肪組織は、お互いに通信するフィードバックループを有しているという記事です。

 脳→(交感神経系/SNS)→褐色脂肪細胞/BAT

 褐色脂肪細胞→(感覚系/SS)→脳

Abstractによれば、褐色脂肪細胞の熱産生に強く関与している箇所として
 淡蒼縫線核(raphe pallidus nucleus)
 孤束核(nucleus of the solitary tract)
 中脳水道周囲灰白質(periaqueductal gray)
 視床下部室傍核(hypothalamic paraventricular nucleus)
 内側視索前野(medial preoptic area)
を確認したとあります。


2015年3月17日

2015-03-22 23:54:39 | 代謝

勃起障害薬は、糖尿病のマウスにおいて神経損傷を軽減する
Erectile dysfunction drug relieves nerve damage in diabetic mice



糖尿病の長期の罹患は痛みを伴う神経障害を引き起こし、時に致命的になることがある。ヘンリー・フォード病院の新しい動物実験によると、勃起障害の治療で一般的に用いられるシルデナフィル(sildenafil)はそのような神経障害を軽減する際に有効であるかもしれないことを明らかにした。今回の研究は、糖尿病患者の7割で見られる合併症の末梢神経障害を標的にする。

研究を指揮したヘンリー・フォード神経科学者のLei Wang医学博士によれば、以前の動物実験では多くの薬が有効性を示したにもかかわらず、そのほとんどは臨床試験で効果が見られなかったと言う。

「一般的にさまざまな薬物治療の調査で使われるのは若い動物で、糖尿病による末梢神経障害の初期段階である」、Wang博士は説明する。

「しかし、臨床試験に登録される糖尿病患者はしばしば高齢で、末梢神経障害は進行している。標的となる臨床的な集団、つまり糖尿病で末梢に神経障害があるヒトの患者を適切に反映するような治療法の開発と適切な評価をできずにいることが、臨床試験が失敗する原因なのかもしれない。」

末梢神経障害が進行した糖尿病患者の臨床試験を模倣するため、ヘンリー・フォードの研究者はヒトの中年に相当する36週齢のオスのマウスを選択した。ヘンリー・フォード・グループの以前の動物実験は商標名のバイアグラとして一般に知られるシルデナフィルが坐骨神経(sciatic nerve)への血液供給を改善することを示したのに加えて、勃起障害のためにバイアグラを服用している糖尿病患者は末梢神経障害の症状が通常より少ないことが知られていた。しかしながら、この治療効果が長期の末梢の神経障害にも有効かどうかは不明だった。なぜなら以前の実験で使われた糖尿病マウスは16週齢と比較的若かったためである。そのためヘンリー・フォード研究者は2倍以上高齢の糖尿病マウスを選択した。

一方のグループでは、15匹のマウスに8週間毎日シルデナフィル/バイアグラを経口投与した。もう一方の対照グループでは、同じ週齢の15匹の糖尿病マウスに毎日同一量の食塩水を投与した。神経と機能の検査を両グループで実施した結果、食塩水を投与したマウスと比較して、シルデナフィルを投与したマウスは投与6週目から感覚機能が著しく改善した。

「これらのデータは、シルデナフィルが長期の糖尿病による末梢神経障害の中年マウスにおいてさえ神経学的機能を改善することを示す。」

Wang博士は今回の発見がまだ実験段階であることを強調する一方で、それらが長期の糖尿病の神経障害の根底にあるメカニズムに対する新しい洞察を提供し、長期の糖尿病による末梢神経障害のシルデナフィルでの治療法の開発に通じる可能性があると言う。

糖尿病の末梢神経障害は特に気付かれにくいが、その理由は、進行して手足の先などの神経に損傷を与えるにつれて痛みセンサーが感覚を失うためである。その結果、足の底の切傷や潰瘍は、例えば感染が始まって広がるまで気がつかないかもしれない。そしておそらく切断することになるか、死ぬことさえある。

糖尿病の神経障害は慢性的な高血糖から生じるので、糖尿病患者は厳しく血糖値のレベルを監視することが求められ、食事を通してそれらをコントロールするよう強く促される。神経障害による痛みの治療には抗うつ薬やアヘン製剤などが有効だが、しばしば望ましくない副作用がある。

記事出典:
上記の記事は、ヘンリー・フォード・ヘルス・システムによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.シルデナフィルは、2型糖尿病マウスで長期の末梢神経障害を改善する。

PLoS ONE、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150317104126.htm

<コメント>
シルデナフィル/バイアグラは、高血糖で発現が下方調節されるangiopoietin 1とその受容体のTie2シグナルを通じて中高齢の糖尿病マウスの神経障害の緩和に有効だったという記事です。


2015年3月12日

2015-03-18 23:42:38 | 医学

心臓の細胞が骨に変わることを防ぐ
Preventing heart cells from turning to bone



グラッドストーン研究所の研究者はヒトの細胞を使った実験で、心臓の血流がどのようにして弁が硬くなる心血管疾患から保護するのかを発見した。彼らはさらに、異常が起きたときにほんの一握りの遺伝子のスイッチを入れてこのプロセスを修正する潜在的な方法を特定した。これらの発見は、血流が関係する病気、例えば心臓発作と脳卒中を引き起こす動脈硬化のような病気に影響する可能性がある。

石灰化大動脈弁疾患(calcific aortic valve disease; CAVD)は心疾患の3番目に多い原因である。アメリカだけで約150万人が罹患し、10万人が人工弁置換手術を受けている。CAVDは年を取ると共に発症し、心臓弁がカルシウムを作り始めて骨のように堅くなる。科学者は長い間心臓の血流が弁と動脈の石灰化で役割を果たすことは知っていたが、それがどのようにして起きるのかは理解していなかった。

Cell誌でグラッドストーン研究所により発表される新しい研究は、健康な弁を骨のようにする原因となる一連の出来事を明らかにする。論文の首席著者のDeepak Srivastava医学博士はグラッドストーンの心血管・幹細胞研究のディレクターであり、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の小児科学心臓病専門医でもある。彼は以前、NOTCH1というマスター遺伝子の2コピーのうちの1つの破損は弁の先天性異常とCAVDを引き起こすことを発見した。

今回の研究で彼はNOTCH1が内皮細胞上でセンサーのように働くことを報告する。内皮細胞は弁と血管の内側を覆う細胞である。NOTCH1は細胞外の血流を検出して、その情報を細胞内の遺伝子ネットワークに伝える。血流によるNOTCH1の活性化はドミノ効果を引き起こし、ネットワーク内の他の多くの遺伝子をオンにするかオフにする。それにより炎症と石灰化は抑制される。しかしながら、このプロセスがNOTCH1の減少によって阻害されると、細胞は混乱して骨細胞のようにふるまい始める。弁はカルシウムをたくわえて、致命的なまでに硬くなる。

彼はグラッドストーン・ラボのBenoit Bruneau博士、Katherine Pollard博士たちとの協力で幹細胞テクノロジーを使ってCAVDの患者から大量の内皮細胞を作り、それらを健康な細胞と比較して弁細胞に育つ過程における遺伝子およびエピジェネティックな変化を明らかにした。研究者は遺伝子シーケンシングとコンピュータによりヒト内皮細胞の「ソース・コード」を開放して、そのコードがどのように疾患で阻害されるかについて研究した。

「CAVDで阻害されている遺伝子ネットワークを理解することで修正すべき箇所を特定し、疾患のプロセスを補正するための新しい療法を発見する」、グラッドストーン研究所の医学博士でUCSFの博士課程学生である筆頭著者のChristina Theodorisは言う。

大量のデータを厳密に調べることで科学者は3つの重要な遺伝子を明らかにした。それらはNOTCH1の突然変異によって変更され、その上マスター調節因子としてふるまうことで、通常は炎症と石灰化を防いでいる重要な経路をオフにする。注目すべきことに、研究者がこれらの3つの遺伝子の活動を操作すると、ネットワーク内の他のほとんど全ての遺伝子が修正された。これはCAVDの新しい治療の標的を示す。科学者たちは現在、その正常な状態に遺伝子ネットワークを回復する薬をスクリーニングしている。

「これらのマスター調節因子の特定は、CAVDの治療における大きな一歩である。
NOTCH1の突然変異をもつ人々だけでなく、弁と動脈の石灰化を経験する患者においてもである」、Srivastava博士は言う。

「石灰化がどのように発生し、そして重要な中核が何であるかを知った今、我々はどんな遺伝子を探すべきかについて知っている。それは他の関連する心血管疾患でも変異する可能性がある。」

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150312123317.htm

学術誌参照:
1.ヒト疾患モデル化は、NOTCH1ハプロ不全に関する転写・エピジェネティックな統合的メカニズムを明らかにする。

Cell、2015;

<コメント>
石灰化大動脈弁狭窄(calcified aortic stenosis)のように大動脈弁が石灰化する疾患の原因についての記事です。

Abstractによると、NOTCH1は血流によるずり応力(shear stress)を感知することで、NOTCH1が結合するエンハンサーのH3K27アセチル化を維持し、MMPs、GREM1、DKK1、CYGB、TXNRD1の転写を促進して、SOX7、TCF4、SMAD1による骨形成(BMP、TGF-β、WNT)と炎症(STAT、IRF)と酸化ストレスを抑制しています。

運動不足や筋力の低下により血流が低下すると血管や弁が石灰化しやすくなるということのようです。



2015年3月14日

2015-03-15 21:49:45 | 環境

ディーゼル汚染物質の吸入と呼吸困難を関連づけるメカニズムの発見
Researchers uncover a mechanism linking inhaled diesel pollution and respiratory distress



英国の研究者は、ディーゼルエンジンの排気ガスによる汚染がどのように肺の神経に影響を及ぼすのかについて初めて示した。大気汚染は健康に対する重大な脅威である。ディーゼル排気ガスへの曝露と呼吸器疾患の増悪を関連づける潜在的なメカニズムを特定することは、疾患の治療につながる可能性がある。

インペリアル・カレッジ・ロンドン(イギリス)の国立心肺研究所で博士課程学生のRyan Robinson氏は、第13回欧州呼吸器学会肺科学会議(the 13th European Respiratory Society Lung Science Conference)において「ディーゼル排気ガス微粒子と気道感覚神経に関する研究」を発表する。欧州呼吸器学会(European Respiratory Society; ERS)と欧州肺財団(European Lung Foundation; ELF)はきれいな空気を呼吸する重要性について知らせることを目的とした「生涯健康な肺(Healthy Lungs for Life)」キャンペーンを今年になって始めたところへ、今回の発表である。ディーゼル排気は都市大気汚染のかなりの部分を占めており、ガスと粒子の複雑な混合物が含まれる。

「我々の研究は、ディーゼル粒子への曝露が健康への有害な影響と関連することを示した」、Robinson氏は言う。

「ディーゼル粒子は直径約20ナノメートルと非常に小さい。したがって肉眼で見えないだけでなく、肺の奥深くまで届くことがある。」

肺には潜在的に有害な刺激を検出する多くの感覚神経があり、それにより人体は咳などで反応することができる。

「しかしながら、これらの神経は呼吸器疾患の悪化にも関与する。例えば喘息のような疾患では気管支を収縮させる」、Robinson氏は言う。

Robinson氏とその指導教授であるMaria Belvisi教授、Terry Tetley教授、Alexandra Porter教授たちによる研究によると、フォークリフトトラックのディーゼル粒子はin vivoの麻酔モルモットモデル(anaesthetised guinea pig model)で気道の感覚神経を活性化する。

「物理的な感受性よりもむしろ、化学的に感受性が高い気道神経の関与が観察されたのは興味深い」、Robinson氏は言う。



次に研究者は単離した神経の組織標本を使い、関与するメカニズムをin vitroで綿密に調査した。

「我々が最初に注目したのは、『きれい』にした粒子は無害ということだった。神経の活性化にとって重要なのはディーゼル粒子から有機的に抽出された化学物質であることは明らかだった。それは我々がin vivoで観察したデータを裏付ける。」

ディーゼル抽出物がどのように気道神経を活性化するのかを知るため、研究者は薬理学的手法ならびに遺伝子ノックアウト技術を利用した。

「気道感覚神経の活性化で重要なのは、一過性受容器電位(Transient Receptor Potential; TRP)イオンチャネルとして知られる環境センサーである。そこで我々はディーゼルの抽出物がそれらを活性化できるか調べるために様々なチャネルを阻害した。」

研究の結果、ディーゼル抽出物に対する反応はTRPアンキリン1(TRPA1)チャネルの活性化によって促進されることが判明した。

彼らはさらに、抗酸化物質の投与が抽出物への反応を無効化することを発見した。

「酸化ストレスは、細胞の正常な酸化状態の乱れとその結果として生じる損傷を修復する能力との間のアンバランスであり、多くの疾患と関連がある。そして酸化ストレスはTRPA1を活性化することが知られている」、Robinson氏は言う。

とはいえ、この研究は大気汚染がどのようにして気道感覚神経と呼吸反射(respiratory reflex)に影響を及ぼすのかについての理解に向けた最初の段階に過ぎない。他のタイプの燃料が気道神経を活性化するかどうかはまだ研究されておらず、それらがディーゼル燃料よりずっと強い影響があるかもしれないという可能性は高い。

記事出典:
上記の記事は、欧州呼吸器学会(ERS)によって提供される素材に基づく。

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150314084127.htm

<コメント>
TRPA1は揮発性の刺激物、例えばニンニクに含まれるアリシンや、催涙ガスの刺激などにより活性化するチャネルですが、ディーゼルの排気ガスに含まれる微粒子は気道のTRPA1を通じて感覚神経を化学的に過敏にするという記事です。

今回の記事ではディーゼル排気ガスによるTRPA1の活性化に酸化ストレスの関与が示されていますが、検索するとTRPA1は酸化物質に反応するセンサーであるという研究が見つかりました。

http://first.lifesciencedb.jp/archives/3598
>TRPA1チャネルが担う生体における新しいO2センサー機構

2015年3月12日

2015-03-13 23:48:23 | 

運動が慢性疲労症候群患者の疲弊を強める理由
Why exercise magnifies exhaustion for chronic fatigue syndrome patients



フロリダ大学(UF)の新しい研究によると、優れた運動選手に「(筋肉が)燃焼しているのを感じ」させるメカニズムは、慢性疲労症候群の人々がありふれた日常の行動で消耗したと感じる元凶であることが判明した。

Pain誌2月号で発表された研究で、疲労の感覚を脳に伝達する神経路が原因である可能性が示された。慢性疲労症候群の人々はこの経路の活動が過剰である。この発見は筋肉のような末梢の組織も疲労の感覚に寄与するというエビデンスを初めて提供する。疲労の原因の確定は、治療の標的を特定して治療法を開発するために役立つ可能性がある。

研究者は筋肉の代謝産物(乳酸やアデノシン三リン酸(ATP)など)の役割に焦点を合わせた。研究では、ヒトが筋肉を動かすときに放出されるこれらの物質が神経経路を活性化することが初めて示された。さらに、これらの経路は健康な人よりも慢性疲労症候群患者において非常に感受性が高いようである。



慢性疲労症候群は、最近米国医学研究所(IOM)が『全身性労作不耐性疾患(systemic exertion intolerance disease; SEID)』と名前を変更した極度の慢性的な疲労が特徴の疾患である。疾病管理予防センター(CDC)によると、その主症状である疲労はしばしば他の多くの疾患と関連しているため、実際には100万人以上がかかっていると思われるSEIDを診断することは難しい。疾患には根本となる医学的な原因がなく、研究者は何がそれを引き起こすかについてわからないままである。しかし彼らは治療法を見つけるために疾患の様々な側面を調査している。

「筋肉の代謝産物は、既に疲労がある人はもちろん、健康な人でも疲労を引き起こしうる。それはこれまでヒトでは示されていなかった」、UF医科大学でリウマチ学と臨床免疫学の教授であり、論文の筆頭著者のRoland Staud博士は言う。

研究者によれば、運動の間に筋肉が生じた代謝産物は代謝性受容体によって感知され、疲労経路(fatigue pathways)を通じて脳に情報が伝えられるという。しかし、SEIDの患者ではこれらの疲労経路の代謝産物に対する感受性が非常に高く、過剰な疲労感を引き起こす可能性がある。

「ほとんどの人は、激しい運動が続くと疲弊を感じて止まる必要がある。しかし我々は急速に回復するだろう」、Staudは言った。

「しかし、患者は非常に速く疲れ、時にはただ部屋の反対側に動いただけで完全に疲弊してしまう。これが彼らの人生を破壊する(This takes a toll on their lives)。」

学術誌参照:
1.慢性疲労症候群患者における疲労経路の感受性増加のエビデンス。

Pain、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150312154135.htm

<コメント>
論文のリンク先が間違っているようです。実際のアドレスはこちら

慢性疲労症候群(CFS)の人は筋肉を動かした時の代謝物が感知されて脳に伝わる経路(fatigue pathways)が過敏で、過剰な疲労感を引き起こすという記事です。実験の内容は割愛しますが、ハンドグリップの運動後に血圧測定用の圧迫帯を巻きつけて代謝産物を閉じ込めた状態と圧迫帯をしない状態での疲労感を比較したというものです。

脳への疲労経路が過敏になる理由は不明ですが、脳の炎症サイトカインが関与しているのでしょう。

関連記事には、筋肉から分泌されるセロトニンが関与しているというものがあります(中枢性疲労; central fatigue)。

http://www.sciencedaily.com/releases/2013/03/130304151805.htm
>We have always known that the neurotransmitter serotonin is released when you exercise, and indeed, it helps us to keep going.
>However, the answer to what role the substance plays in relation to the fact that we also feel so exhausted we have to stop has been eluding us for years.

>We can now see it is actually a surplus of serotonin that triggers a braking mechanism in the brain.

2015年3月4日

2015-03-12 23:05:38 | 

癌治療での画期的な発見
Breakthrough discovery made in cancer treatment



ノースイースタン大学で免疫生理学の専門家であるMichail Sitkovskyたちは、癌の治療における画期的な発見をした。約30年の研究による新しいアプローチは、年間約800万人が死亡する癌の生存率を劇的に増加させる可能性がある。この発見はScience Translational Medicineで発表された。



低酸素は腫瘍微小環境におけるアデノシンの蓄積を促進するが、高濃度の酸素の吸入(supplemental oxygenation; 酸素補充)はその蓄積を阻害して免疫抑制を弱めることをSitkovskyらは発見した。これにより癌の免疫療法は改善し、腫瘍を攻撃するTリンパ球とナチュラルキラー細胞を解き放つことによって腫瘍を縮小できる可能性がある。

「この発見は、数十年続いた成功率の低い薬剤開発のパラダイムを変える」、ノースイースタン大学でEleanor W. Black教授職であり、大学のNew England Inflammation and Tissue Protection Institute(NEITPI)創立ディレクターのSitkovskyは言う。

「実際のところ、我々の酸素補充法は、既存の異なるタイプの免疫療法と組み合わせた臨床試験により比較的早く実行に移されるだろう。」

今回の論文 「酸素補充による抗腫瘍作用の免疫機構」は、国の名門大学、病院、メディカル・スクールの医師と研究者との間の活発な学際的な共同の結果だった。共著者にはNEITPIから参加した12人の研究者が含まれる。NEITPIはノースイースタン大学に拠点を置くコンソーシアムであり、炎症の根底にある原因と分子のメカニズムを理解することを目指している。

今回の発見はSitkovskyの以前の研究を基にしたもので、ノースイースタン大学と米国国立衛生研究所によって支援されている。2000年代の初めにSitkovskyは免疫学で重要な発見をして、それにより彼の研究は癌生物学において知られるようになった。その研究では、免疫細胞の表面にあるA2Aアデノシン受容体(adenosine receptor)はT細胞が腫瘍に侵入することを阻害し、腫瘍の中に侵攻するそれらのキラー細胞に「麻酔をかける」原因となることが示された。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15210754
Cutting edge: Physiologic attenuation of proinflammatory transcription by the Gs protein-coupled A2A adenosine receptor in vivo.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16110315
Regulation of immune cells by local-tissue oxygen tension: HIF1 alpha and adenosine receptors.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16916931
A2A adenosine receptor protects tumors from antitumor T cells.

彼の最新の研究によれば、通常は21パーセントの酸素を40~60パーセントに高めて吸入するとA2Aアデノシン受容体を通して腫瘍を保護するシグナルを弱める。さらに、酸素吸入はT細胞を覚醒させて肺腫瘍に侵入する能力を獲得させた。

「濃度の高い酸素を呼吸することは腫瘍という要塞のゲートを開けて、『眠っている』抗腫瘍細胞を目覚めさせる。兵士は要塞に入って破壊することが可能になる」、Sitkovsyは説明する。

「しかしながら」、彼は付け加えた。「抗腫瘍免疫細胞が存在しない場合、酸素は影響しないだろう。」

加えて、彼が「スーパー・カフェイン」と呼ぶ合成物質と組み合わせると酸素補充の効果はさらに強力になるかもしれないとSitkovskyは言う。スーパー・カフェインは、アデノシン受容体の腫瘍保護効果を阻害することが知られている。彼らは現在、次世代のスーパー・カフェインを設計するために共同研究している。それは本来パーキンソン病患者のために開発されたものである。

「高濃度酸素の抗腫瘍効果は、A2Aアデノシン受容体の天然アンタゴニストによってよりさらに改善することができる。そして、それは偶然にもあなたが飲むコーヒーのカフェインである」、Sitkovskyは言う。

「人々がコーヒーを飲む理由は、カフェインが脳のA2Aアデノシン受容体を阻害して我々を眠りから覚ますからである。」

記事出典:
上記の記事は、ノースイースタン大学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.酸素補充による抗腫瘍作用の免疫機構。

Science Translational Medicine、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150304190238.htm

<コメント>
高濃度の酸素とスーパー・カフェインは、アデノシンA2A受容体を阻害することにより腫瘍を攻撃するT細胞を活性化するという記事です。

http://stm.sciencemag.org/content/7/277/277ra30
>Antitumor T cells either avoid or are inhibited in hypoxic and extracellular adenosine-rich tumor microenvironments (TMEs) by A2A adenosine receptors.
(低酸素ならびに細胞外アデノシンが豊富な腫瘍微小環境では、抗腫瘍T細胞はA2Aアデノシン受容体により回避するか阻害される)

アデノシン受容体にはA1、A2A、A2B、A3の4種類があり、ストレス反応などで細胞から放出されたアデノシンが結合します。逆にカフェインはどれにも結合するアンタゴニストです。運動やコーヒーに抗腫瘍効果が見られることがあるのは、今回の記事のような作用によるのかもしれません。



2014年12月3日

2015-03-08 16:35:51 | 

2番目に多い認知症の潜在的治療法
Potential therapy for second most common form of dementia



アラバマ大学バーミングハム校(UAB)の科学者がJournal of Neuroscienceで発表する研究によると、特定のタイプの神経伝達物質受容体の機能を促進する薬は認知症の2番目に多いタイプの患者に有効かもしれない。

前頭側頭型認知症(Frontotemporal dementia; FTD)は、患者の行動と人格ならびに社会スキルが急速かつ劇的に変化する壊滅的な疾患である。FTDの発病年齢は比較的若く50代半ばから50代後半であり、大抵は人目を引く患者である。予後は厳しく、患者は急速に悪化して通常は発症後10年以内に死亡する。現在FTDに有効な治療薬は存在しない。

UABの研究チームは、微小管関連蛋白質(microtubule-associated protein; MAP)の一つであるタウの突然変異を主に集中的に研究している。タウ蛋白(tau protein)の蓄積は最もありふれた認知症のアルツハイマー病と関連しているが、タウ遺伝子の突然変異がどのようにして特定の脳領域に影響を及ぼし、そしてFTDを引き起こすのかについてはほとんど何もわかっていない。

UABの研究者は、FTDと関連する突然変異を持つヒトのタウを発現する新しいマウス・モデルを用いた。これらのマウスはFTDの患者で観察されるのと似たような挙動、つまり衝動的で過度に繰り返される行動を示す(グルーミングなど)。このマウスでは特定の脳ネットワーク領域でのシナプス/ネットワーク機能も損なわれる。

「タウの突然変異は、NMDAというグルタミン酸受容体が固定する箇所(anchoring site)のサイズを低下させてシナプスを損なう」、神経学部准教授のErik Roberson医学博士は言う。

「固定箇所の縮小は興奮性信号を受け取るシナプスで利用可能なNMDA受容体を減少させ、したがってシナプスの発火とネットワーク活動を制限する。」



研究チームは次にサイクロセリン(cycloserine)を利用した。この薬はNMDA受容体の機能を補助することが知られており、FDAによりすでに承認されている。マウスモデルにサイクロセリンを投与するとNMDA受容体の機能は加速され、シナプスの発火とネットワーク活動は回復した。正常なネットワーク活動の回復は、マウスで観察される行動に関する異常を取り消した。

Robersonの研究チームは、NMDA受容体機能を増加させることが人間のFTD患者に有益である可能性があると仮説を立てている。この仮説はすでに利用可能な薬のサイクロセリンを用いた前臨床試験で検証されるだろう。

学術誌参照:
1.前頭側頭型認知症のマウス・モデルにおいて、タウの介在するNMDA受容体の障害は、選択的に脆弱なネットワークの機能不全の根底にある。

Journal of Neuroscience、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141203185128.htm

<コメント>
前回の記事と関連する内容で、前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia; FTD)の原因の一部はタウ(tau)遺伝子の変異によるNMDA受容体の障害が原因かもしれないという記事です。

Abstractによると、マウスにヒトのFTDと関連する変異(V337M)を持つタウを発現させると、繰り返される脱抑制的な(repetitive and disinhibited)行動が加齢依存的に見られ、腹側線条体(ventral striatum; 側坐核と嗅結節。尾状核と被殻から成る背側線条体の対語)ならびにライル島(insula)において選択的にシナプスが障害され、さらにタウの変異によりPSD-95が枯渇してシナプス後肥厚(postsynaptic density)が縮小し、シナプスでのNMDARの局在が障害されたとあります(PSD-95はシナプス後肥厚を構成する足場タンパク質。NMDARのカルボキシル末端に結合する)。

>In the ventral striatum, decreased NMDAR-mediated transmission reduced striatal neuron firing.
(腹側線条体において、NMDARによる伝達の減少は、線条体ニューロンの発火を減少させた)

実験に使われたサイクロセリン(cycloserine)は結核の治療として使われる抗生物質で、Wikipediaの英語版にはNMDARのグリシン結合箇所に結合するパーシャルアゴニストであると書かれています。ブリタニカ国際大百科事典によると、副作用として催眠、精神錯乱、けいれんなどがあるとされています。


脳のタンパク質に対する抗体は、精神病を引き起こす可能性がある

2015-03-07 23:53:21 | 

脳のタンパク質に対する抗体は、精神病を引き起こす可能性がある
Antibodies to brain proteins may trigger psychosis

2015年3月5日


抗体は細菌やウイルスなどの侵略者から人体を守っている。しかし、人体は時々自らの正常な細胞を攻撃する抗体を作る。そのような時に自己免疫性疾患は起きる。

精神病患者における免疫の異常は1世紀以上も前から知られていたが、幻覚と妄想のような精神病の症状を直接引き起こすと思われる特定の免疫のメカニズムを科学者が特定したのは、比較的最近のことである。この『免疫仮説(immune hypothesis)』は、Biological Psychiatryの今号で発表されるPathmanandavelたちによる新しい研究によって裏づけられる。

研究によれば、精神病の最初のエピソードを経験した子供のサブグループでは脳の特定の受容体に対する抗体が検出され、健康な子供ではそのような抗体は検出されなかった。その受容体とは、ドーパミンD2受容体、またはN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)グルタミン酸受容体である。そのどちらも神経系のシグナルを伝達する重要なタンパク質であり、過去にも精神病と関連付けられている。

「急性精神病(acute psychosis)の最初のエピソードを経験した子供で我々が検出した抗体は、そのような疾患に自己免疫が関与するサブグループの存在を示唆する」、論文の首席著者であり、ウェストミード小児病院(シドニー)の神経免疫学グループのトップであるFabienne Brilot博士は言う。

それはほとんど不正工作(dirty trick)のようである。何十年もの間、精神科医はドーパミンD2受容体を刺激するか、NMDAレセプタを阻害する薬を投与してきた。これらの薬は、認知の変化、妄想、思考過程の解体など精神病性障害の症状に似た副作用を一時的にもたらす可能性がある。今回の発見は、これらの精神症状を生じる薬に似たやり方で脳に影響する抗体を免疫系が作り出す可能性を示唆する。

「本研究は神経系のタンパク質を標的にする抗体の重要性についての議論に拍車をかけ、この分野に関する重要な質問をさらに増やす。これらの抗体は、単純に薬のように脳に作用するのか?それとも、複数の方法で神経細胞を『攻撃』して損傷を与えるのか?」、Biological Psychiatryの編集者、John Krystal博士は尋ねる。

「そして、これらの抗体は誰にでも症状をもたらすのか? それとも、精神病の根底にある(おそらくは遺伝子の)脆弱性のプローブとして機能しているのか?」

重要なことに、この領域の研究は急速に進歩している。急性の精神症状を引き起こす脳の炎症を特徴とする抗NMDA受容体脳炎anti-NMDA receptor encephalitis)が初めて特定されたのは、ほんの数年前である。それは概して統合失調症や双極性障害と誤診されるが、脳のNMDAレセプタを攻撃する抗体によって引き起こされる治療可能なタイプの脳の炎症である。

「本研究のデータは、抗体による急性精神病を経験する子供に関しては介入が可能であることを示唆し、主要な障害は防ぐことができるという望みを与える」、Brilotは付け加えた。

学術誌参照:
1.子供の急性精神病の第一エピソードにおける細胞表面ドーパミン-2受容体ならびにN-メチル-D-アスパラギン酸受容体に対する抗体。

Biological Psychiatry、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150305081331.htm

<コメント>
統合失調症や双極性障害の一部で、ドーパミンやNMDAへの抗体の関与が示唆されたという記事です。

ReferencesのReference14には「2007年の発見からNMDARへの抗体が神経学などの分野でメインストリームに登場した」と書かれています。
PUBMEDで検索すると、2007年のペンシルベニア大学の研究が見つかりました。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17262855
Paraneoplastic anti-N-methyl-D-aspartate receptor encephalitis associated with ovarian teratoma.
(卵巣奇形腫と関連する腫瘍随伴性の抗NMDAR脳炎)

Referencesには複数の報告が挙げられていて、Reference23として日本の秋田大学の報告もあります。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22569157
Anti-NMDA-receptor antibody detected in encephalitis, schizophrenia, and narcolepsy with psychotic features.

元は秋田大学の学位論文のようです。

http://hdl.handle.net/10295/2491
>ナルコレプシーに難治の精神症状を呈する例が知られているが、ナルコレプシーに統合失調症を発症したものとして扱うべきか否か、治療者を悩ませていた。
>本研究の斬新性は、統合失調症として治療が行われてきた一群や、難治の精神症状を呈したナルコレプシー患者、脳炎の患者の一群に、新規の自己免疫疾患が混在している可能性を指摘するものである。

ナルコレプシーには特定のHLAが関与することが指摘されています。
NMDAR拮抗薬のケタミンがかつては麻酔薬として使われ、副作用に幻覚や錯乱が起きることを考えれば、一部に抗NMDAR抗体が関与しているとすれば納得できる話です。

NMDARに限らずナルコレプシーへの自己免疫の関与が以前から示唆されているようです。

http://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/370
>T細胞受容体遺伝子の多型がナルコレプシーの発症に関与

http://www.natureasia.com/ja-jp/jobs/tokushu/detail/154
>HLA遺伝子のDQB1*0602はナルコレプシーの感受性遺伝子

http://www.bmj.com/content/346/bmj.f794
>Risk of narcolepsy in children and young people receiving AS03 adjuvanted pandemic A/H1N1 2009 influenza vaccine: retrospective analysis

否定的な見解もあります。

http://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%83%97%E3%82%B7%E3%83%BC
 

2015年3月2日

2015-03-04 17:46:31 | 

癌細胞の生き残りを助けるミトコンドリアの『盾』が特定される
Mitochondrial 'shield' that helps cancer cells survive identified



癌細胞はなぜ、ほとんど毒である薬や放射線、免疫システムの猛攻撃に直面してさえ非常に立ち直りが早いのか? 科学者はその仕組みの理解に一歩近づいた。

FASEB誌の2015年3月号で発表される新しい研究報告によれば、ビメンチンVimentin)というタンパク質から形成される中間径フィラメント(intermediate filaments)は癌細胞のミトコンドリアを効果的に「絶縁(insulate)」して、癌細胞を破壊するどんな試みからも保護するという。

通常の状況下では、ビメンチンは細胞のための「骨格」となり細胞の形状を維持するのを助ける。しかしながら、いくつかの癌細胞でビメンチンは癌細胞のエネルギーセンターであるミトコンドリアの維持を助け、外側からの攻撃の阻止および細胞の急速な回復を補助する。多くの癌の治療薬が癌細胞のミトコンドリアを標的にしていることから、この発見は研究者が癌をより効果的に治療する新薬を開発するのに役立つはずである。

「いくつかの腫瘍細胞が悪性の形質転換プロセスにおいてビメンチンを発現することはずっと前に発見された。その時からこのタンパク質は臨床診断のマーカーとして用いられてきたが、転移の促進におけるビメンチンの役割は不明だった」、ロシア科学アカデミー(モスクワ)のInstitute of Protein Researchから研究に参加したAlexander A. Minin博士は言う。

「我々の発見は、この問題を解決することの手がかりを提供する。腫瘍細胞が『運動能力のある表現型』を獲得するためには、ミトコンドリアによるエネルギー生成の増強が必要であることを我々は提案する。ビメンチンはミトコンドリア膜電位(MMP)を増加させることによってこの課題を果たす。MMPは細胞のエネルギー資源の量を示す。」

Minin博士と彼の同僚であるFASEB誌の共同編集者Robert Goldman、編集委員会のVladimir Gelfandたちは、生きたまま培養細胞でMMPを分析するために蛍光を発する電位依存的なミトコンドリア色素を用いた。色素はミトコンドリアのMMPのレベルに比例して蓄積し、MMP(エネルギーレベル)が高いほど色素は明るくなる。

MMPの調節におけるビメンチンの役割を調査するため、研究者はビメンチンを欠損する細胞とビメンチンを回復させた細胞とで染色されたミトコンドリアの蛍光強度を比較した。逆の実験では、ビメンチンを有する通常の細胞においてビメンチンの発現をRNA干渉によって抑制した。それらの研究の結果、ビメンチンの存在下でMMPは増加し、ビメンチンの欠乏はMMPの減少を引き起こした。

「癌細胞は概して生物に対して破壊的であるが、癌ではない対照の細胞と比較すると著しく立ち直りが速い(resilient)ことが以前から知られていた」、FASEB誌の編集長、ジェラルド・ワイスマン医学博士は言う。

「本研究はその理由を説明するのに役立つかもしれない。癌細胞の『骨格』となるタンパク質は、細胞の形状を維持するだけでなく、転移のために必要とされるエネルギーの蓄えも保護する。そのことを知った今、我々はこの相互作用を標的にする新しい治療法に取り組み始めることができる。」

記事出典:
上記の記事は、米国実験生物学会連合(Federation of American Societies for Experimental Biology; FASEB)によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.ミトコンドリア膜電位は、ビメンチン中間径フィラメントによって調節される。

FASEB、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150302105011.htm

<コメント>
間葉系の細胞で発現する中間径フィラメントタンパク質のビメンチンは、癌幹細胞のミトコンドリアの膜電位も調節して転移に関与するという記事です。

Wikipediaの英語版の項目を見ると、ビメンチンはミトコンドリアに接着する(attached)という記述があります。また同じ乳癌でもトリプルネガティブ乳癌ではビメンチンと予後の悪さは相関する一方で、それ以外の乳癌ではビメンチンの発現は予後の悪さと逆相関するという多様性があるようです。

抗生物質がミトコンドリアを標的にすることで癌幹細胞を根絶するという記事が最近発表されました


2015年2月25日

2015-03-01 23:33:41 | 代謝

オメガ3脂肪酸とビタミンDは脳のセロトニンを制御し、行動と精神の障害に影響するかもしれない
Omega-3 fatty acids, vitamin D may control brain serotonin, affecting behavior and psychiatric disorders



海産物に豊富な必須脂肪酸のオメガ3とビタミンDは特定の脳障害と関連する認知機能と行動を改善することが示されたにもかかわらず、根底にあるメカニズムは不明だった。FASEB誌で発表される新しい論文では、ビタミンDと海産物のオメガ3脂肪酸が様々な脳障害と関連する症状を改善する理由についてのミッシングリンク(missing link; 隠された手がかり)はセロトニンかもしれないと説明する。

昨年発表された論文で著者のPatrickとAmesは、必須アミノ酸のトリプトファンからセロトニンへの変換をビタミンDが調節するという発見の意味について論じ、特にビタミンDの状態が悪い発育中の子供においてどのように自閉症の発症に影響するのかについて述べた。

今回彼らはこれらの微量栄養素(micronutrient)と神経精神病学的な疾患との関連について論じた。セロトニンは、気分や意思決定(decision-making)、社会的行動、衝動的行動など広範囲の認知機能と行動に影響を及ぼし、攻撃的な社会的反応(aggressive social responses)や衝動的行動を抑制することで社会的な意思決定にさえ関与する。多くの臨床的な障害(例えば自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、双極性障害、統合失調症、鬱病)は、統一的な特性として脳のセロトニン濃度の低さを共有する。

「本論文で我々は、セロトニンがどのようにして実行機能(executive function)、衝動調節(impulse control)、感覚ゲート(sensory gating)、向社会的行動(pro-social behavior)を調節するのかについて説明する」、Patrick博士は言う。

「我々はセロトニンの生成と機能をビタミンDとオメガ3脂肪酸に関連づけ、これらの重要な微量栄養素がどのように脳の機能を助けて我々のふるまい方に影響を及ぼすのかを示す。」



エイコサペンタエン酸(EPA)は脳でプロスタグランジンE2(PGE2)という炎症性シグナル分子を減少させることによりシナプス前ニューロンからのセロトニン分泌を増加させ、PGE2はセロトニン分泌を阻害する。EPAは、炎症がどのようにして脳のセロトニンに対して負に影響するのかを示唆する。

しかし、EPAはセロトニン経路に関与する唯一のオメガ3でない。ドコサヘキサエン酸(DHA)はシナプス後ニューロンで細胞膜の流動性を増加させて受容体をセロトニンへアクセスしやすくすることにより、さまざまなセロトニン受容体の作用に影響する。

彼らの論文はビタミンDの低さ(大部分は日光に当たった時に皮膚によって作られる)と海産物のオメガ3の欠乏がなぜセロトニン経路のような遺伝子の経路と相互作用するかについて説明し、それらの機械論的な関連を明らかにする。セロトニン経路は脳の発達、社会的な認知、意思決定にとって重要であり、これらの遺伝子-微量栄養素の相互作用はどのようにして神経精神病学的な転帰に影響するかについて考察する。

「ビタミンDはステロイドホルモンに変換されて約1,000の遺伝子(その多くが脳内にある)を制御するが、アメリカ人には不足している。アメリカ人は魚を十分に食べないのでオメガ3脂肪酸欠乏も非常に広くみられる」、Ames博士は言う。

この発表は、ビタミンD、EPA、DHAの最適な摂取が、脳のセロトニン濃度と機能を最適化することを示唆する。脳の障害と関連する症状のいくらかをおそらく予防して、副作用なく改善する。

記事出典:
上記の記事は、UCSF Benioff Children's Hospital Oaklandによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.ビタミンDとオメガ3脂肪酸はセロトニンの合成と作用を制御する、パート2:
ADHD、双極性障害、統合失調症、衝動的行動との関連。

FASEB、2015年2月;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150225094109.htm

<コメント>
1年前のPart1の続きです。


http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/ad06785ebedd4298b25fb41fb68eee65
ビタミンDは、必須アミノ酸のトリプトファンを変換して脳でセロトニンに作る酵素のトリプトファンヒドロキシラーゼ2(TPH2)を活性化する。
ビタミンDは、トリプトファンヒドロキシラーゼ1(TPH1)を作る遺伝子を阻害して、腸などの組織でセロトニンの産生を止める。TPH1は過度に発現されると炎症を促進する。