古い薬と新しい方法を組み合わせて癌細胞を殺す
Combining old drug and new mehtod to kill cancer cells
デューク-シンガポール医学大学院(Duke-NUS)の研究チームは、古い薬と新しいアプローチの組み合わせは一般的な癌を治療する有効なアプローチかもしれないことを明らかにした。この画期的な研究においてDavid Virshup教授とJit Kong Cheong博士は、癌の中で行われる『食事』を調節する新たなシグナル経路を特定した。
この癌細胞の栄養経路を2箇所同時に攻撃する実験では古い抗マラリア剤をカゼインキナーゼ1アルファ(CK1α)という酵素の阻害剤と組み合わせて使用し、結腸癌と膀胱癌の増殖を止めた。この新しい組み合わせは、変異したRAS遺伝子とそれによって調節されるCK1αのフィードバックループを研究チームが明らかにしたことから発見された。
悪名高いRAS癌遺伝子は、ヒトのすべての癌の30%で変異している。しかしながら、変異体RASを直接標的にするのは難しいことがこれまでに明らかになっている。
変異体RASはオートファジーと呼ばれるプロセスを経て細胞内の栄養状態を変える。Duke-NUS研究チームは、変異体RASがカゼインキナーゼ1α(CK1α)に依存的なフィードバックループを通じてオートファジーをコントロールすることを示した。突然変異RASは、癌細胞の増殖を維持するため、そして自分を食べてしまうのを止めるため、非常に活性の高いキナーゼであるCK1αをたくさん作る。研究チームはRASが変異した癌細胞のアキレス腱はCK1αであることを明らかにした。
試験薬D4476によるCK1α阻害と抗マラリア剤クロロキンによるオートファジー阻害の組み合わせが試され、研究用マウスの体内で成長させたヒトのRAS変異結腸腫瘍と膀胱腫瘍を効果的に治療できることが明らかになった。
研究者はさらに、膵癌と肺癌の患者がこの複合製剤の治療から利益を得られるかもしれないと推測している。これらの癌ではしばしばRAS癌遺伝子が変異しているためである。
「これは刺激的な手がかりである。我々はCK1αのさらに強力でより特異的な阻害剤を特定して、オートファジー阻害剤と組み合わせたいと考えている」、首席著者でありDuke-NUSで癌と幹細胞生物学プログラムのディレクターであるVirshupは言う。
「この組み合わせによる療法が厳密な臨床試験で有効なら、それはRAS癌遺伝子が活性化する突然変異を有する癌患者で有効である可能性がある。」
記事出典:
上記の記事は、デューク-シンガポール医学大学院によって提供される素材に基づく。
学術誌参照:
1.カゼインキナーゼ1α依存的なフィードバックループは、RASが変異した癌においてオートファジーをコントロールする。
Journal of Clinical Investigation、2015;
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150323182510.htm
<コメント>
オートファジー阻害剤とCK1α阻害剤を組み合わせて、変異体RAS癌細胞によるオートファジーの調節を破綻させるという記事です。
論文によると、RASはPI3K/AKT/mTORを介してCK1αの発現を上方調節します。CK1αキナーゼとAktキナーゼは共にFOXO3Aをリン酸化することで核から追い出して阻害し、FOXO3Aの標的であるLC3の転写も抑制して、オートファゴソームの形成を抑制します。
そのようなRASによるオートファジーの調節をCK1α阻害剤とオートファジー阻害剤は破綻させ、腫瘍の成長を阻害して細胞死を促進します。RASにより調節された『適度な』バランスのとれたオートファジーは、癌の増殖にとって重要であるようです(balanced RAS-driven autophagy is critical for proliferation)。
RAS→PI3K/AKT/mTOR→CK1α─(リン酸化)─┤核内FOXO3A→LC3→オートファゴソーム形成─(+リソソーム)→オートファジー
CK1α阻害剤─┤CK1α↓─(リン酸化↓)─┤FOXO3A↑→LC3↑→オートファゴソーム形成↑─(+リソソーム↓)→オートファジー↓├─(リソソーム阻害)─オートファジー阻害剤