機械翻訳2

興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

2015年2月19日

2015-02-26 23:13:52 | 

DNAの『ワームホール』と関連する癌リスク
Cancer risk linked to DNA 'wormholes'



Institute of Cancer Researchの新しい研究によると、かつて『ジャンクDNA』として片づけられたゲノムの中のたった一文字の遺伝子変異は、はるか彼方の遺伝子に対してワームホール(wormhole; 虫食い穴)のような効果により癌リスクを増す可能性がある。

遺伝子が全く存在しない『遺伝子砂漠』 と呼ばれる中のDNA配列は、比較的遠い距離を越えてDNAループ(DNA loop)を形成することにより異なる場所の遺伝子活性を調節することが可能である。Institute of Cancer Research(ロンドン)の科学者たちを中心とする今回の研究は、あまり役に立っているようには見えないゲノムの遺伝子変異がどのようにして癌リスクを増加するのかについての謎を解決するのを助ける。

研究者たちはDNAの環状化による相互作用(looping interactions)を研究する新しい技術を開発し、DNA環状化を含むゲノム領域の単一のDNA変異が結腸直腸癌の発症と関連することを発見した。本日Nature Communicationsで発表される研究は、これらのDNA相互作用、特に腸の癌細胞における相互作用に目を向けた最初の包括的研究であり、他の複雑な遺伝子疾患とも関連がある。

彼らはキャプチャHi-C(cHi-C)と呼ばれる技術を開発し、拡散したDNA同士の物理的な長距離相互作用を調査した。それにより染色体の特定の領域が物理的に相互作用する方法を以前にもまして詳しく観察できるようになった。長距離の(long-range)DNA相互作用を調べるためにこれまで用いられてきた技術は、決定的な結果をもたらすには感度が不十分だった。

研究者は以前腸癌リスクと関連づけられた変異を含むDNAの14の領域を評価し、それら14の領域すべてに著しい長距離の相互作用を検出した。これは遺伝子の調節における長距離相互作用の役割を示す。この相互作用が重要である理由は遺伝子のふるまいを制御できるためであり、遺伝子のふるまいの変化は癌につながる可能性がある。実際、癌リスクと関連づけられてきたほとんどの遺伝子変異は遺伝子それ自体の中にではなく、それらを調節するゲノム領域の中に存在する。



研究のリーダーでありInstitute of Cancer Researchの分子集団遺伝学の教授でもあるRichard Houlston教授は以下のように言う:

「我々の新しい技術は、遺伝子の変異がDNAループによりゲノムの他の場所にある発癌遺伝子と長距離の相互作用をすることで、癌リスクを増加させる可能性を示す。
それは時にワームホールと同じように説明される。ワームホール理論では、宇宙の遠い場所を空間と時間の歪みが結びつける。」

「長距離の遺伝子の調節についての理解は、癌がどのように生じるかについて理解するために重要である。そしてそれは癌の治療のために新しい方法を発見する際に重要であるかもしれない。」

Institute of Cancer Researchのチーフ・エグゼクティブであるPaul Workman教授は以下のように言う:

「すでに癌と関連づけられてきた多くの遺伝子のバリアントは遺伝子砂漠(gene deserts)において生じる。遺伝子砂漠はしばしばきわめて長く、そして非常に不可解なDNA塩基配列である。実際のところ、砂漠には『遺伝子』が存在しない。しかしそれは、我々がまだ完全には理解していないやり方で癌の発症に関与する。」

「よく言われるようにDNAの環状化は研究が困難である。しかし今回の研究は、DNA砂漠の遺伝子変異が腸癌の発達を促進するために何をしているのかについての理解へ向けて重要な一歩を踏み出した。」

記事出典:
上記の記事は、Institute of Cancer Researchによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.キャプチャHi-Cは、結腸直腸癌リスク遺伝子座のクロマチン・インタラクトームを特定する。

Nature Communications、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150219090349.htm

<コメント>
ジャンクDNAと思われていたゲノムの多型は、DNAの環状化によりゲノムの遠い箇所と相互作用して結腸癌などのリスクにつながるという記事です。

以前にもDNAの立体構造を推定するために3Cを用いてマラリア原虫の核を捉えたという記事がありましたが、今回使われたのは3Cを発展させたHi-Cをさらに改良したcHi-Cというものです。本文によると「Hi-Cはゲノム全体スケールでの長距離相互作用の検出には使えるが、その有効な解像度は限定フラグメント(制限酵素による断片化?)ならびに実験の感受性に依存しており、特定の相互作用を説明することはできない」とのことです。

記事中にある「cHi-Cを適用した14の領域」というのは、論文によると1q41, 3q26.2, 8q23.1, 8q24.21, 10p14, 11q23, 12q13, 14q22.2, 15q13, 16q22.1, 18q21.1, 19q13.1, 20p12.3, 20q13.33という14箇所で、その内の一つ8q24.21にあるSNPのrs6983267は下流のMYCと相互作用し、さらに上流の調節因子としてCCAT1を同定したとあります(MYCCCAT1は50万塩基以上離れている)。



本文にはこうあります。

>These observations are concordant with recent data from Xiang et al.26 showing the role of ​CCAT1-L, a CRC-specific isoform of the ​CCAT1 lncRNA, in intra-chromosomal looping with the ​MYC gene promoter regulating ​MYC transcription.
(これらの観察は、[26]のデータとも一致している。CCAT1というロングノンコーディングRNAの結腸直腸癌CRC特異的アイソフォームのCCAT1-Lは、MYCの転写を調節するMYC遺伝子のプロモーターとの染色体内ループ形成において役割を果たすことを[26]は示した。)

染色体内のループというのは、[26]によれば具体的にはこのような形になっているようです。2つのループにより結果的にMYCプロモーターを含む3つ目のループが形成されています。



2015年2月23日

2015-02-24 23:40:12 | 代謝

サウナの利用は、心臓ならびに全原因の死亡率リスク減少と関連する
Sauna use associated with reduced risk of cardiac, all-cause mortality



サウナは単にあなたを発汗させるだけではないかもしれない。JAMA内科学のオンライン版で発表された論文によると、サウナを利用する頻度の高い人は致命的な心血管イベントならびに全死因死亡率のリスクが減少することが示唆される。

これまでのいくつかの研究でサウナはより望ましい心血管・循環機能との関連が見られたが、定期的なサウナ入浴と心臓突然死(sudden cardiac death; SCD)等のリスクとの関連は不明である。東フィンランド大学クオピオキャンパスのJari A. Laukkanen医学博士たちは、42~60歳の東フィンランドの中年男性2,315人におけるサウナ入浴とSCD、致命的な冠動脈性心疾患(coronary heart disease; CHD)、致命的な心血管疾患(cardiovascular diseases; CVD)、全死因死亡リスクとの関連を調査した。

中央値約21年の追跡調査の間にSCDは190人、致命的なCHDは281人、致命的なCVDは407人で、全死因での死亡は929人だった。

SCDのリスクはサウナに1週につき1回行ったと報告した人と比較して週2~3回サウナに行った人は22パーセント低く、週4~7回サウナに行った人は63パーセント低かった。

致命的なCHDイベントのリスクは、週1回の人と比較して週2~3回の人は23パーセント低く、週4~7回の人は48パーセント低かった。

CVD死亡に関しても、週1回しか楽しまなかった人と比較して週2~3回の人はリスクが27パーセント低く、週4~7回の人は50パーセント低かった。

全死因死亡率は、週1回しかサウナに行かない人と比較して週2~3回の人は24パーセントのリスク減少と関連し、週4~7回の人は40パーセントのリスク減少と関連していた。

サウナで過ごす時間も重要であると思われる。サウナで11分未満を過ごした人間と比較して、11~19分のサウナセッションについてはSCDのリスクが7パーセント低く、19分以上ではリスクが52パーセント低かった。



編集後記(Editor's Note): JAMA内科学の編集長、カリフォルニア大学(サンフランシスコ)のRita F. Redberg医学博士は次のように書く:

「なぜ頻繁にサウナに行く人は寿命が長いかについては分からない(その理由が温かい部屋hot roomで過ごす時間なのか、くつろぎの時間、長い間くつろぐことができる人生のレジャー、サウナの仲間意識、そのどれであれ)が、サウナで過ごす時間は明らかに有益な時間である。」

学術誌参照:
1.サウナ入浴と致命的な心血管および全死因死亡率イベントの間の関連。

JAMA内科学、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150223122602.htm

<コメント>
編集後記にもあるように、サウナが血流を良くするのか、サウナに長くいるほど知り合いが増えて心臓にも良い影響があるのかというような因果関係はこの研究からはわかりませんが、興味深い記事だと思います。

フィンランドは糖尿病が多いので糖尿病とも何か関係があるかなと思ったのですが、エストニア人もサウナは大好きだということであまり関係はないようです。


2015年2月13日

2015-02-19 22:34:14 | 免疫

免疫細胞はアレルギーを防ぐために自殺する
Immune cells commit suicide to prevent allergy



CNRS(フランス国立科学研究センター)、INSERM(フランス国立保健医学研究所)、リモージュ大学の科学者たちは、CNRS/リモージュ大学の共同研究所であるCRIBL(Controle de la Reponse Immune B et Lymphoproliferations; 免疫応答の制御 B細胞とリンパ増殖)[1] での研究により、Bリンパ球によるタイプE免疫グロブリン(IgE)の生成はその運動能を低下させ、細胞死メカニズムの開始を誘導することを証明した。

[1] がん微小環境研究所(INSERM/レンヌ第一大学)の免疫学者と協力して。

IgE抗体は量は少ないものの免疫システムにおける最も強力な「武器」であり、ほんのわずかでも濃度が上がるとすぐに喘息やじんま疹、アレルギー性ショックなどの非常に激しい免疫反応(即時型アレルギー)を引き起こす。2015年2月12日のCell Reportsにオンラインで発表される今回の発見は、我々の人体がどのようにしてIgEの生成を制限してアレルギー反応を阻害するについて説明する。



免疫はBリンパ球という細胞に基礎をおく。Bリンパ球は細菌やウイルスに対する「武器」、つまり免疫グロブリン/抗体(IgG、IgM、IgA、IgE)を作って分泌する。これらの「武器」は我々を保護しているが、時に我々自身を攻撃することもある。抗体の中で最も効果的なのはIgEである。IgEは極め少ない量でさえ(IgEは他の抗体よりも10万倍も少ない)、非常に激しいアレルギー反応を誘発する。

IgM、IgG、IgAを生産するリンパ球は非常に多く、容易に確認することが可能であり、長い間存在し続ける(「記憶B細胞」として)。しかし、IgEを生産する細胞はまばらで、その理由も不明であり、したがって研究の対象になることは非常に少なかった。

IgEを制御しているメカニズムを理解するため、科学者はまず初めに遺伝子工学を用いて強制的にこれらの抗体を大量に作らせた。その結果彼らは2つの主要なコントロール・メカニズムを証明することに成功した。

リンパ球は概して非常に機動的であるのに対して、Bリンパ球が細胞膜上にIgEを発現するとすぐに「凍りつき」、ふくらんで偽足を失い[3]、動かすことができなくなることを彼らは示した。さらに、そのBリンパ球はアポトーシス(プログラム細胞死)につながるいくつかのメカニズムを活性化することも科学者は明らかにした。免疫システムの他の細胞は最高で数年間は生き残ることができるが、IgEを発現するリンパ球の自殺はその迅速な排除を引き起こす。

[3] 偽足: 細胞が食べて「這う」ことを可能にする膜の変形(Deformations)。

このように、我々の人体は進化の間、その最も強力な免疫「武器」の1つであるIgEの周囲にいくつかの自己制限メカニズムを作り出した。IgEを発現する細胞はもはや動くことができないので、生き残ることができるのはわずかな短期間だけである。それは寄生生物や毒素などに対して保護するのにちょうど十分な長さである。そして彼らは一種の「切腹」を行うことによって自滅し、IgE生成を強く減少させてアレルギーの誘発を抑える。

科学者はこの自己制限を制御する異なる分子の経路を更に詳細に調査したいと考えている。実際、そのような経路は多くの新しい治療の標的となる可能性がある。薬理学的な活性化はアレルギーを阻害する可能性があり、リンパ腫に関与するBリンパ球を減少させるようなことさえ可能にするかもしれない。

記事出典:
上記の記事は、CNRSによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.自制的なB細胞は、膜IgE発現の後に生じる。

Cell Reports、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150213081519.htm



<コメント>
抗体を作るようになったB細胞/形質細胞は一定の割合で骨髄に移動して抗体を作り続けるものだと思っていましたが、どうやらそうではないようです。



2015年2月12日

2015-02-15 22:28:27 | 感染症

腺ペストのボトルネック: 科学者はペストに関する定説をひっくり返す
Bubonic bottleneck: Scientists overturn dogma on the plague



科学者たちは何十年もの間、腺ペスト(bubonic plague)を引き起こす細菌は蚤に食われた跡(fleabite)で宿主の細胞をハイジャックして、そこからリンパ節に向かうと考えてきた(ペスト菌はリンパ節で増殖して重い疾患を引き起こす)。しかし、ノースカロライナ大学医学部研究者は、この広く認められた理論が勘違い(off base)であることを発見した。

細菌は宿主の細胞を使わない; 細菌は独力で、そして少数だけがリンパ節に移動する。実際には、ペストを引き起こす細菌であるペスト菌(Yersinia pestis)の大部分 は、ボトルネックとなる皮膚やリンパ節への途中、またはリンパ節それ自体のいずれかで捕らえられる。ほんの少数のペスト菌だけは逃げ出して、リンパ節を感染させて疾患を引き起こす。



標準治療の抗生物質は十分に早く服用すればペスト菌に対して有効である。しかし感染は何日も気付かれずに進行することが可能であり、それが診断を難しくする。抗生物質は効きにくくなり、細菌の感染は長期化する。

ペスト菌は3種類のペストを引き起こす:
腺ペスト(bubonic plague; 蚤に食われた跡から感染する);
肺ペスト(pneumonic plague; 細菌を吸い込むことによって感染する);
敗血性ペスト(septicemic plague; 重い血液の感染症)。

微生物学と免疫学の教授であり論文のシニア著者のヴァージニア・ミラー博士たちの研究チームは、肺ペストと腺ペストを調査している。

3年前、当時UNC大学院生だったRodrigo Gonzalez博士(現在はハーバードのポストドクター)は文献を検索し、ペスト菌は蚤に食われた跡からリンパ節まで食細胞(phagocyte)によって移動するという一般に認められている概念を確認した。培養した食細胞にペスト菌を加えると食細胞は細菌を取り込むので、科学者はこの考えを容易に受け入れた。食細胞は基本的に有害な微生物を食べてリンパ系からリンパ節まで移動するので、科学者は必然的に食細胞がペスト菌をリンパ節へ連れて行くという結論に至った。

しかし、注射とは異なり、蚤に食われた跡は皮膚のすべての層を貫通しないということをGonzalezとミラーは知っていた。ノミと蚊の噛み傷は皮内(intradermal)であり、それらは皮膚の層の中で生じる。Gonzalesとミラーは、この長い間保たれてきた理論をテストすることは価値あるプロジェクトであることに同意した。

Gonzalezは、正確な量の細菌がマウスの皮膚から移動するように蚤の咬傷を研究室で模倣するための適切な方法を数ヵ月かけて作り出した。続いてミラーの研究チームは10種類の特別なDNA配列を作成して、それらをペスト菌の染色体に加えることで10種類の異なる菌株を作製した。この配列は細菌の毒性には影響を及ぼさないが、微生物にタグ(標識)を付けて、どの細菌が「噛み傷」からリンパ節まで移動したのか特定できるようにする。

「10系統の内、リンパ節にたどり着くのは一つか二つだけだと判明した」、ミラーは言う。

「しかしそれらの菌の到着は早く、細菌が注入されて5分から10分以内だった。もし細菌が宿主の細胞の中で一緒に移動するなら、素早く移動することはないだろう。宿主の細胞の動きは遅いからである。細菌は液体の中を流れるように移動できるが、細胞はどちらかと言えばリンパ系の中を這って動く。」



ミラーの研究チームは現在、感染できない大部分のペスト菌はどのようにリンパ節への感染を阻害されているのか知るための実験を実施している。

「我々は、脆弱性の1つを発見したかもしれない」、ミラーは言う。

「その脆弱性の利用は、ペスト菌と他の昆虫媒介性の病原体を打ち破る新しい方法につながる可能性がある。」

記事出典:
上記の記事は、ノースカロライナ大学医学部によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.高度に有毒な病原体の伝播: 感染を特徴づける早期の事象を追跡する。

PLOS Pathogens、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150129125459.htm



<コメント>
ペスト菌(Yersinia pestis)の感染経路は従来考えられていたものとは異なるかもしれないという記事です。

関連記事にもありますが、ほんの数ヶ月前にペスト菌が樹状細胞(dendritic cells)と単球(monocytes)に感染したまま鼠径(groin)等のリンパ節に移動する(その後S1Pアゴニストで刺激するとリンパ節に留まり生存が改善する)というImmunityの研究記事が掲載されたばかりでした。


2015年2月10日

2015-02-14 23:25:35 | 

がん研究者は細胞生物学の研究の新しい領域をインスパイアするかもしれない
Cancer researchers may inspire new area of research in cellular biology



グリフィス大学(ゴールドコースト)の草分け的な研究は科学者たちを驚かせた。彼らの中には細胞生物学の研究すべてが修正されるべきかもしれないと思う者もいる。グリフィス大学とMalaghan研究所(ニュージーランドウエリントン)の共同研究によると、宿主細胞のミトコンドリアは細胞膜を通過して腫瘍細胞に移動することが可能である。その後、ミトコンドリアが不完全だったがん細胞は急速な増殖を始める。

これまでの考えでは細胞のミトコンドリアとミトコンドリアDNA(mtDNA)は細胞膜の中に拘束され、それぞれの細胞は固有の存在であるとされてきた。グリフィス大学とMalaghan研究は、mtDNAが健康な細胞からミトコンドリアに障害がある腫瘍細胞へと移動できることを発見した。研究を指揮したグリフィス大学のJiri Neuzil教授は、mtDNA移動の発見がまったく新しい研究領域を築くかもしれないと考えている。

「我々が発見したのは、遺伝物質(genetic material)は細胞から細胞へと伝えることができるということである。その遺伝物質は細胞を『生き返らせる』。これは我々のヒトの生物学の理解における重要な発見である」、Neuzil教授は言う。

「このプロセスは以前にも実験室の環境で観察されている。しかし今回我々はニュージーランドのグループとともに研究を実施し、生きている動物においてこのプロセスが起きるというエビデンスを提供する。」

従来の生物学が我々に教えてきたのは、すべての生物形態(life forms)は細胞から造られ、どんな生物形態が意図されてもそれを組み立てるための基本的な情報は細胞の中に存在するということだった。すなわち、生物形態を作るための計画書であるDNAと、指示を実施するために必要なエネルギーを作るミトコンドリアである。

紛らわしいことに、細胞の中にはミトコンドリアDNA(mtDNA)という別の要素が存在する。その名前が示唆するように、mtDNAは生物形態とミトコンドリアの計画書を両方とも少しずつ持っており、細胞増殖のプロセス全体を確実に進ませるために重要である。

mtDNAが腫瘍に転送される正確な方法は不明である。細胞が相互作用して一時的に融合するのか、あるいは細胞膜が『ナノチューブ』を形成してmtDNAが伝わるのかはまだ示されていない。



がんの柔軟性(plasticity)、つまり脅威を作り変えて変化させ、乗り越えるという能力はがんの大きな強みである。それは誰もまだ治療法を見つけられない理由に関する非常に重要な要素なのかもしれない。

「我々の研究はがんの適応性に対する新たな洞察だけではなく、おそらく他の病態も発見している。今回のようなことは、mtDNAに障害がある他の疾患、例えば神経変性疾患でも起きることはありえる。しかしこれは現段階では推測である」、彼は言う。

ミトコンドリアDNAの障害は200以上の疾患の原因である。そしてそれはおそらく、より多くの一部に過ぎない。


記事出典:
上記の記事は、グリフィス大学によって提供される素材に基づく。


学術誌参照:
1.ミトコンドリア・ゲノムの獲得は、ミトコンドリアDNAのないがん細胞の呼吸機能と腫瘍形成可能性を回復する。

Cell Metabolism、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150210133216.htm


<コメント>
ミトコンドリアDNAをなくしたがん細胞は、宿主からミトコンドリアDNAを獲得してから転移を始めるという記事です。

実験では確認されていたとあるのでReferencesを見ると、確かにいくつか報告があります[1][2][3]。その中の一つに血小板(human platelets)と共培養したという実験があってなるほどと思ったのですが(血小板にはミトコンドリアが含まれている)、しかしその実験はうまくいかなかったようです。

>We were not able to demonstrate transfer of mitochondria from cocultured platelets or isolated mitochondria. Therefore, the transfer of mitochondria appeared to involve an active cellular process rather than passive uptake of cellular fragments or organelles. The results did not exclude the possibility that the target cells were rescued by a transfer of mtDNA without intact mitochondria, but the simplest explanation of the data are that functional mitochondria were transferred and then propagated in the target cells.

2015年2月9日

2015-02-12 16:05:12 | 

吃音の人は生涯にわたって脳の発達が異常である
Brain develops abnormally over lifespan of people who stutter



アルバータ大学の新しい研究によると、言語の生成を制御すると考えられている脳の領域は吃音の子供では発達が異常であり、そのパターンは成人期まで持続するという。アルバータ大学の吃音治療研究所(Institute for Stuttering Treatment and Research; ISTAR)の研究者はMRIを使用して吃音の子供と成人の脳発達を調べ、ブローカ野において灰白質の発達が異常であることを発見した。ブローカ野は言語能力を左右する前頭葉の領域である。研究チームが調査した脳の30の領域の中で、異常が見られたのはブローカ野だけだった。

「脳の他の領域では典型的なパターンの発達が観察された。この発見は吃音と関係する重要な領域としてブローカ野を意味づけるものだ」、ISTARエグゼキュティブ・ディレクターであり、リハビリテーション医学部助教授のDeryk Bealは言う。

Bealの研究チームとトロント大学からの共同研究者は、6歳から48歳の男性116人の脳のMRIイメージを調べた。これは今回のような研究では最多の人数であり、最も幅広い年齢の集団である。参加者のおよそ半分の55名が吃音であり、残りはコントロール・グループとなった。



研究者が予想した通り、コントロール・グループでは皮質の灰白質の厚みの安定した低下が観察されたが、この低下は吃音の人々では観察されなかった。Bealの説明によれば、このような厚みの低下は実際のところ望ましいことであるという。なぜなら、それは我々が年をとるにつれて脳が効率的になるための方法を反映するからである。脳が効率的になるほど、必要な神経のリソースはより少なくなる。

「この発見の1つの解釈は、吃音の人々はこの領域が言語を生成する脳のネットワーク内でうまく働いていないということかもしれない」、Bealは言う。

今回の研究結果はこの脳の領域が吃音の人々で発達が異常であることを確認するが、科学者はまだブローカ野が吃音の原因であると言うことはできない。

「それは鶏と卵のようである」、Bealは説明する。

「我々がこの脳の領域で観察している変化は、吃音による会話に対して脳が反応した結果なのか、または脳が他の場所で働く方法における何か別の違いなのか、それとも実際にこれらの変化が障害の原因であるかどうか。それは今回の研究からはわからない。」

Bealの研究チームは以前吃音の子供は灰白質の量がより少ないことを発見したが、その発見はむしろ「スナップショット」に近いものであり、やがてそれは吃音の子供は言語障害のない子供とどのように異なるかについて示すものになった。

今回の新しい研究は「たいへんな進歩」であると彼は言う。「脳が生涯にわたってどのように変化するかというパラパラ漫画を手に入れたようなものである。以前の研究は特定の年齢のたった1つのイメージだけだった。」

この研究は乳児期から成人期までのさらに大規模で長期の脳発達の研究の必要性を支持するものであるとBealは言う。言語に関する脳の領域の成長が吃音の子供とそうでない子供の間でどのように異なるか、そして吃音だったが後に回復した子供とも比較して調べるという。

「それは吃音から回復する子供の脳がどのように変化して自分自身を治すのを手伝ったのかについて、我々が知ることを助けるだろう。そうして我々は治療を変え始めることができる。それはすべての子供に影響を与える。」

この研究はFrontiers in Human Neuroscience誌のオンライン版で発表され、トロントのSickKids Foundation、カナダ健康研究所、国立聴覚・伝達障害研究所(NIDCD)から資金提供を受けた。

学術誌参照:
1.ブローカ野の灰白質発達の軌跡は、吃音の人々において異常である。

Frontiers in Human Neuroscience、2015

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150209143443.htm

<コメント>
言語中枢の中でも、特にブローカ野の左弁蓋部(left pars opercularis)と吃音との関連についてです。吃音がある人は、この領域でのみ子供から成人まで灰白質の厚みの変化が通常とは異なるとのことです。

本文を見ると「様々なfMRIやPETの研究は吃音者が話している間の右半球の神経活動(シルヴィウス裂周辺に相当homologues of parasylvian regions)の増大を示すが、この右半球の活動は治療と回復によって正常化される。多くの著者が、これは左の障害に対する神経の補償だとしている」と書かれていて、吃音以外にも影響はありそうです。

Wikipediaを見るとブローカ野の弁蓋部は自閉症とも関連が示唆されていますが、アメリカ吃音財団(Stuttering Foundation of America)のホームページにもそれらしき記述があります。

>Although there are no specific statistics on the number of people with ASDs who stutter, there have been numerous documented cases of stuttering in ASDs.
(特定の統計は存在しないものの、ASDにおける吃音は多くの症例が確認されている。)

PUBMEDで検索すると、アスペルガー症候群の子供の吃音の割合についての報告がありました。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24372887
> In the AS(Asperger's syndrome) group, four out of 11 (36%) met the common diagnostic criteria for a fluency disorder. Disfluencies in the AS group differed qualitatively and quantitatively from the CWS(children who stutter), and included a larger distribution of word-final disfluencies.

2015年2月9日

2015-02-11 15:19:58 | 

結腸直腸がん腫瘍細胞の起源を突き止める
Origins of colorectal cancer tumor cells traced



南カリフォルニア大学(USC)ケック医学部の癌研究者は、結腸直腸がん細胞の起源を初めて突きとめた。この発見はなぜ腫瘍細胞が「良」くなったり「悪」くなったりするかについての重要な手がかりであり、腫瘍が始まる前に止めることができるポテンシャルを持つ。

USCケック医学部で病理学教授のDarryl Shibata医学博士と、スタンフォード大学の助教授でありUSCケック医学部の非常勤助教授でもあるChristina Curtis博士らを中心とする研究チームは、ヒト結腸直腸がんの増殖に対して「ビッグバン」モデルを使用した。このモデルは宇宙が単一の点から始まり外側に爆発したというビッグバン理論と似ている。

「それはまるで過去にさかのぼるようである」、Shibataは言う。

「それぞれの腫瘍の歴史はゲノムに書かれている。腫瘍を防ぐために、早い時期に何があったかを調べて最初の細胞分裂をどのように止めるべきかを知りたいと思う。」

研究者は結腸直腸腫瘍の正反対の側からのサンプルを取ることにより、最初に起きた数回の分裂を再構築した。そのような分裂が生じるのは、生まれたての腫瘍が小さすぎて検出すらできない時である。

腫瘍の始まりは、突然の新たな突然変異を伴う異常なものである。さらに、多くの悪性のがん細胞は最初から異常な運動能や細胞の混合(intermixing)を示し、それにより最終的には人体に侵入して転移することができるようになる。対照的に、のちに良性腺腫を形成することになる腫瘍細胞は(他の細胞とは)混ざらなかった。それは腫瘍の中に「生まれながらの悪」がいることを示す。腫瘍が患者を殺すのか無害なのかを知ることは、手術を受けるかどうかの決断をしなければならない患者にとって重要であるとShibataは言う。

研究の次のステップは、腫瘍細胞の発生で起こることをさらに調査することである。また、Curtisは他のがんも結腸直腸がんと同じようにふるまうかどうかも調査しようと考えている。

学術誌参照:
1.ヒト結腸直腸腫瘍増殖のビッグバン・モデル。

Nature Genetics、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150209122848.htm


<コメント>
腫瘍の正反対の位置の2箇所から生検することで最初に起きた変異を推定した結果、宇宙のビッグバンと似たようなモデルが提案されたという記事です。

ビッグバン理論では「宇宙の晴れ上がり」が宇宙マイクロ波背景放射として観察されるとしています。それと同様に腫瘍の早期に起きた変化が腫瘍の全体で観察されるということを、宇宙のビッグバンになぞらえたということのようです。

Abstractにはこう書かれています。

Genomic profiling of 349 individual glands from 15 colorectal tumors showed an absence of selective sweeps, uniformly high intratumoral heterogeneity (ITH) and subclone mixing in distant regions, as postulated by our model.
我々のモデルから仮定されるように、選択的一掃(selective sweeps)の不存在、一様に高度な腫瘍内の不均一性(intratumoral heterogeneity/ITH)、ならびに遠く離れた領域のサブクローンの混合をゲノムのプロファイリングは示した。

We also verified the prediction that most detectable ITH originates from early private alterations and not from later clonal expansions, thus exposing the profile of the primordial tumor.
我々は次の予想も確認した。ほとんどの検出可能な腫瘍内の不均一性/ITHは腫瘍早期の最初の個別な変化が起源であり、後期のクローン増殖によるものではなく、ゆえに最初の腫瘍のプロファイルを示す。

※selective sweep: 選択的一掃
http://en.wikipedia.org/wiki/Selective_sweep
>A selective sweep is the reduction or elimination of variation among the nucleotides in neighboring DNA of a mutation as the result of recent and strong positive natural selection.
(選択的一掃とは、新しく生じた自然選択に有利な変異の近隣にあるDNAヌクレオチドの多型が、減少するか消えることである。)


腫瘍内の不均一性については以前からいくつかモデルが提示されているようです。


2015年1月29日

2015-02-10 16:17:02 | 

強迫過食と砂糖中毒を制御する脳回路が発見される
Brain circuit that controls compulsive overeating and sugar addiction discovered


強迫過食(compulsive overeating)と砂糖中毒(sugar addiction)はヒトの健康に対する大きな脅威であり、現在治療法は存在しない。しかし、治療しようとすれば生存のために重要な通常の食行動まで損なう危険がある。

1月29日に学術誌Cellで発表された研究の対象となったのは、報酬と関連する神経回路(reward-related neural circuit)である。この回路はマウスの生存のために必要な摂食を妨げることなく、衝動的な砂糖の消費を特に制御する。それはヒトでの強迫過食に対する安全かつ有効な治療の標的を提供する。

「肥満と2型糖尿病が社会的に大きな問題であるにもかかわらず、多くの治療は最も大きな原因、つまり不健康な食生活に取り組んでいない」、研究のシニア著者でマサチューセッツ工科大学のKay Tyeは言う。

「我々の発見がエキサイティングである理由は、健康な食生活を変えることなく強迫過食だけを選択的に抑える治療を開発できるかもしれないからだ。」

強迫過食は報酬を求める行動(reward-seeking behavior)の一種であり、薬物中毒と似ている。しかしその2つの大きな違いは、食べることは生存のために必要ということである。安全かつ有効な治療法を開発するためには、強迫過食だけに関与する脳回路を薄くそぐように注意深く調べる(tease apart)必要がある。



Tyeと彼女の研究チームは、強迫過食において重要な役割を演ずるのは外側視床下部(lateral hypothalamus)から中脳の腹側被蓋野(ventral tegmental area)への神経路かもしれないと考えた。なぜなら、これらの脳領域は報酬と関連する行動(例えば摂食、性的活動、薬物中毒)と関係するからである。

この考えをテストするためにTyeと彼女の研究チームは光遺伝学(optogenetics)と呼ばれる技術を用いた。光遺伝学ではニューロンの特異的な集団が感光性タンパク質を発現するように遺伝子を操作し、光ファイバーを通して青い光を当てると細胞が活性化し、黄色の光を当てると阻害することができる。外側視床下部から中脳腹側被蓋野への経路を活性化すると、十分に食べさせていたマウスはさらに多くの時間を摂食に費やすようになり、砂糖の報酬(sugar reward)を受け取るためにポートに鼻を突っ込む回数を増加させた。

報酬を得るために足に(電気)ショックを受ける場所を越えなければならなかったときでさえ、マウスは砂糖を求めた。対照的に、同じ経路を阻害すると砂糖を求める衝動的な行動は低下したが、空腹のマウスの摂食は減少しなかった。これは空腹の動物の摂食を制御するのは異なる神経回路であることを示唆する。



1月29日にCellで発表される別の独立した研究でノースカロライナ大学医学部のGarret Stuberと彼の研究チームは同じようにマウスで光遺伝学のアプローチを用いて、報酬を求める行動と摂食を制御する外側視床下部のニューロンを特定した。

マウスが食料を求めて自由にエリアを探査するか甘味の報酬を得るために動いている間、外側視床下部の数百ものニューロンの活動を画像化することにより、彼らはニューロンの異なるサブセット(VGAT(vesicular GABA transporter)-expressing LH GABAergic neurons; 小胞GABA輸送体を発現するGABA作動性ニューロン)を発見した。そのニューロンは食料を求める行動を媒介するか、報酬消費(reward consumption)に反応する。

Tyeによれば、砂糖を含む食料は貴重なエネルギー源だが季節により乏しくなるため、一時的に食べられるようになった季節の間はいつでも食べすぎることを支援するように脳回路が進化したのは道理にかなっているという。しかし冬には、どんな食料のタイプでも手に入ったものを食べ、限られたリソースを分配して全体としてあまり消費しないように別の神経回路が促進することは適応能力があるかもしれない。

「しかしながら、我々の現代の社会において味のよい食料が不足することはない。そしてたいていの場合、高砂糖または高脂肪の食料は新鮮な食品やタンパク質よりもずっと手に入りやすい」、Tyeは言う。

「我々は砂糖が過剰な世界にまだ適応していない。甘味を自分に詰め込むように我々を促すこれらの脳回路は今や新しい健康問題を生み出している。衝動的な砂糖消費の根底にある神経回路の発見は、この広範囲にわたる問題を効果的に扱うための標的特異的な薬物治療の開発への道を開くだろう。」

学術誌参照:
1.衝動的なスクロース(Sucrose)探索を制御する神経回路を解読する。

Cell、2015;

2.食欲および自己目的的な(Consummatory)行動のための視床下部ネットワーク・ダイナミクスを視覚化すること。

Cell、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150129125459.htm

<コメント>
食欲を調節する脳の回路の中でも、特に外側視床下部(lateral hypothalamus/LH)から中脳腹側被蓋野(ventral tegmental area/VTA)への報酬と関連する経路が「食べ過ぎる」行動を促進するという記事です。



ChR2(channelrhodopsin-2; チャネルロドプシン2)、NpHR(Halorhodopsin; ハロロドプシン
VMH(ventromedial hypothalamus; 腹内側視床下部)、DMH(dorsomedial hypothalamus; 背内側視床下部)、Arc(視床下部弓状核)

2015年2月8日

2015-02-09 16:17:08 | 

外傷性脳傷害、心発作、脳卒中のための有望なペプチド
Promising peptide for TBI (traumatic brain injuries), heart attack and stroke



脳卒中と心発作と外傷性脳傷害はそれぞれ別々の疾患だが、それらは特定の病理が共通し、同じ結果になる。つまり低酸素のために細胞は死んで組織とヒトが傷つく。これらの疾患で生じる組織への血液供給の停止は、エネルギーとなるATP分子の産生を最終的に停止させるシグナル経路を開始する。それはほとんどの細胞にとって死刑宣告である。

ネゲブ(イスラエル)のベングリオン大学の研究者は、ヒューマニンhumanin)というミトコンドリアのゲノムにコードされるペプチドの誘導体を用いることによりこのプロセスを妨げることに取り組んでいる。細胞のメカニズムが維持するのを断念した組織にとって貴重な時間をかせぐためである。

「今回の発見は、外傷性脳傷害、脳卒中、心筋梗塞のような壊死と関連する疾患の薬物治療の開発のために新しいリード化合物を提供する可能性がある。それらは現在、(壊死を阻害することによって作用するような)薬による効果的な治療が存在しない」、ベールシェバ(イスラエル)のネゲブにあるベングリオン大学の生物物理学と化学の教授であるAbraham Parolaは言う。

Parolaは現在ニューヨーク大学の上海校で生物物理化学の客員教授であり、自然科学のディレクターである。彼は今週メリーランド州ボルチモアで開催される生物物理学会の第59年次総会で、この発見についての演説をする予定である。



ヒューマニンの誘導体は、壊死によって引き起こされるATPレベルの減少の効果を打ち消すことによって作用する。研究者は壊死を引き起こす物質へ曝露させる前にニューロンをヒューマニン誘導体のペプチド(AGA(C8R)-HNG17とAGA-HNG)で処理することによってその効果を実験し、その結果は成功だった。

「我々の研究グループが発表した最近の論文は、壊死のプロセスにカルジオリピン(Cardiolipin)、つまりミトコンドリア内膜のリン脂質が関与することを示唆する」、Parolaは言う。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24995676

「我々はヒューマニンの研究につまずきながらも、その抗アポトーシスの効果に興味をそそられ、抗壊死効果について研究するまでに至った。」

Parolaたちは外傷性脳傷害を示すマウスをヒューマニン誘導体のHNG17で処置するというin vivoでの研究も実施した。その結果、頭蓋内の液体の蓄積を低下させることに成功し、マウスのニューロンの重症度スコア(神経学的運動障害の重症度と数字が相関する測定基準)を低下させた。

Parolaと彼の同僚が用いたペプチドは体内で自然に生じるヒューマニンの誘導体であるため、その理想的な治療はHNG17を使ったドラッグデリバリーシステムを含む可能性がある。ここでHNG17はリード化合物であり、そのプロセスはさらなる試薬を用いずに細胞膜を透過するペプチドの能力によって補助される。

Parolaたちの今後の研究は、肝硬変の虚血の状態(アセトアミノフェンの作用によって引き起こされるような)の更なる調査や、ヒューマニンと他の壊死を防ぐ物質との間の相乗効果を捜すことである。例えばプロテアーゼ阻害薬は、その臨床的な潜在性を増大させる。

記事出典:
上記の記事は、生物物理学会によって提供される素材に基づく。

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150208152755.htm

<コメント>
壊死と関連する疾患にヒューマニンというペプチドの誘導体が有効かを調べているという記事です。

ヒューマニン(HN)は様々な誘導体が合成されていて、元の配列はMAPRGFSCLLLLTSEIDLPVKRRAですが、誘導体の一つHNGは14番目のSをGに置き換えたものです。

文中のAGA-HNGはHNGのRGFがAGAに変更されたもので、AGA(C8R)-HNG17も同じくRGFがAGAに、8番目のCがRに、14番目のSがGに(HNG)変更され、元の24残基から17残基のPAGASRLLLLTGEIDLPとなっています。


AGA(C8R)-HNG17 and the mitochondrial tracker tetramethylrhodamine methyl ester in PC-12 cells (rat pheochromocytoma, of neuronal origin) 10 min after inducing necrosis by cyanide, exhbiting co-localization of humanin and mito-tracker at the mitochondria. Both trackers are co-localized where their lifetime is the longest.
PC-12細胞(ラットのニューロンに由来する褐色細胞腫)にシアン化物で壊死を誘導して10分後の、AGA(C8R)-HNG17と、ミトコンドリア・トラッカーのテトラメチルローダミン・メチル・エステル。
ミトコンドリアでのヒューマニンとミトコンドリア・トラッカーの共存を示す。寿命が最も長い所に両方のトラッカーが共に集中している。

関連記事には、今記事と同じくヒトで自然に生じるペプチドのAcSDKP(N-Acetyl-Seryl-Aspartyl-Lysyl-Proline)とtPAの組み合わせがニューロン保護的であるという記事があります。

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/03/140311151949.htm

2015年2月5日

2015-02-09 09:24:36 | 腸内細菌

1型糖尿病とマイクロバイオームの関連: 疾患の発症より前に起きるマイクロバイオームの種多様性の変化
Microbiome linked to type 1 diabetes: Shift in microbiome species diversity prior to disease onset



MITとハーバードのブロード研究所、マサチューセッツ総合病院(MGH)、DIABIMMUNE研究グループの研究者たちは、これまでで最大規模となる経時的なマイクロバイオーム研究において、腸微生物叢の変化と1型糖尿病(T1D)発症との間の関係を特定した。遺伝的にT1Dになりやすい傾向を持つ乳児を追跡調査した結果、T1Dが発症する前に微生物多様性が低下し、腸の健康を促進する種(species)の数が不釣合いに減少するなどの異常が生じることを発見した。Cell, Host & Microbeによって発表される今回の発見は、微生物に基づくT1Dの診断ならびに治療の選択肢への可能性を開くかもしれない。



我々の体内に住む細菌やウイルスなど何兆もの微生物から構成されるヒトのマイクロバイオームは、それらがヒトの健康と疾患において演ずる役割を研究者が探求し始めるにつれて医学コミュニティにとっての関心事になりつつある。マイクロバイオームのほとんどの微生物は無害でしかも有益ですらあるが、マイクロバイオームの変化、そして微生物種が宿主のヒトと共有する相互作用における変化は、糖尿病や炎症性腸疾患/IBDなどのさまざまな疾患と関連付けられている。

マイクロバイオームの変化と1型糖尿病との間の関係を調査するため、ブロード研究所のメンバーでありMGHの胃腸病学のチーフでもあるRamnik Xavierを中心とする研究チームは、フィンランドとエストニアの子供たちの大規模なコホートから遺伝的にT1Dになりやすい傾向のある33人の乳児を選んで追跡調査した。研究チームは出生から3歳までの便検体を定期的に分析して、腸マイクロバイオームの組成に関するデータを収集した。

その結果、この期間中にT1Dを発病した少数の子供は、発症の1年前に群集の多様度(community diversity; マイクロバイオームに存在する種の数)が25%低下した。この集団の変化には、腸の健康の調節を助ける細菌の減少と、炎症を促進する潜在的に有害な細菌の増加が含まれていた。この発見は以前に特定された腸の炎症と1型糖尿病との関連のエビデンスに続くものである。

「過去の研究から、腸細菌の組成の変化が1型糖尿病の早い時期の発症と相関することが知られている。その細菌ネットワーク間の相互作用は、疾患の危険性がある人々の中でなぜ1型糖尿病を発症する人と発症しない人がいるのかについての理由の一部である可能性がある」、研究に資金助成したJDRF(国際若年性糖尿病研究財団)Discovery ResearchのディレクターであるJessica Dunneは言う。

「今回の研究は、マイクロバイオームの特異的な変化がどのようにして症候性のT1Dへの進行に影響するかについて示す最初のものである。」



先行研究は、自己免疫性糖尿病の素因をもつマウス(マウスのT1Dに相当する)から素因をもたないマウスへの微生物叢の移植は、自己免疫性糖尿病の有病率を増加させることを示した。ヒトにおける研究もT1Dと腸内細菌の組成との間に関連を示している。しかしながら、それらの研究は後向き(retrospective)であり、患者がT1Dを発症した後に研究が実施されたために因果関係を証明するのは困難である。

「1型糖尿病の発症のリスクが高い子供のコホートを選び、続いてどんなマイクロバイオームの変化が疾患の進行へバランスを変えたかについて追跡したという点で、我々の研究は独特である」、Xavierは言う。



研究では1型糖尿病を最終的に発病しなかった乳児も追跡調査したため、研究者は乳児期の通常のマイクロバイオームの発達に対する洞察も得ることができた。腸マイクロバイオームに存在する細菌の種は個人間で非常に異なる一方、個々人の中でのマイクロバイオームの組成は時間が経過しても概して安定していた。さらに、代謝の間に産生される小さい分子(代謝産物)を被験者の便検体から観察するメタボローム分析では、細菌の種が個人間で異なる一方で、マイクロバイオームのさまざまな種によって果たされる生物学的機能は時間が経過しても人によって一貫したままだった。

「乳児期の早期は細菌のコミュニティの大きさは小さく、そして人生の後期になってそれがより大きくなっても、細菌のコミュニティの大きさや組成とは関係なくコミュニティは常に同じ大きな機能を果たす。たとえどの種が存在しても、彼らは同じように大きな代謝経路をつくり上げる。それは彼らが同じ仕事をしていることを示す」、Kosticは言った。

治療法(therapeutics)に関しては、ハーバード医科大学院のKurt Isselbacher教授職でありMITのマイクロバイオーム・インフォマティクス・セラピューティクスセンターの共同ディレクターでもあるXavierは次のように言う。T1Dの子供の胃腸管にどの種が存在せずどの種が栄えているのかを知ることは、マイクロバイオームを操作して免疫を調節する方法を明らかにすることにより発症後に疾患の進行を遅らせることを可能にすることの助けになる、と。



次のステップはサンプルの蓄積を拡大し、環境とマイクロバイオーム中のどのような要因がフィンランド人をT1Dにかかりやすくしている可能性があるかについて確かめることである(フィンランド人は例外的にT1Dのリスクが高い)。それは衛生仮説を再訪することを含む。衛生仮説では小児期の微生物や他の潜在的な感染病原体への曝露の欠乏が免疫システムの発達を妨げ、免疫的障害への感受性を増加させるとする。

研究者は研究で集められたメタゲノム・データも分析し、微生物叢が作用する生物学的経路やどんな代謝産物を産生しているかを確かめ、T1Dの発症に寄与する原因を明らかにしようとしている。

記事出典:
上記の記事は、MITとハーバードのブロード研究所によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.乳児の発達中のマイクロバイオームならびに1型糖尿病へと進行中のマイクロバイオームのダイナミクス。

Cell Host & Microbe、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150205123022.htm

<コメント>
1型糖尿病を発症する乳児は、発症前に細菌の多様性が低下していたという記事です。3歳児までの研究ですが、成人になってから緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)を発症する人もいるので関係はあるのかもしれません。

Abstractを見ると、まずセロコンバージョン(seroconversion)、つまり血清中の抗体が陽性になり、次にコミュニティ多様性(community diversity)が減少し、炎症と関連する生物と経路が増加して、それからT1Dの発症/診断という流れです。



文中のDIABIMMUNEはフィンランド・ロシアカレリア・エストニアという近隣の国で1型糖尿病について調べるプロジェクトです。特にフィンランドとカレリアは国境を接しているにも関わらずT1Dの発症率は6倍以上も違うとのことです。

>The incidence of T1D is six times lower in Russian Karelia than in Finland, whereas there are very limited differences in the frequency of predisposing and protective HLA ( human leukocyte antigen) genotypes in the background population.

2015年2月6日

2015-02-08 14:47:03 | 

新しい研究は癌幹細胞の調節を明らかにする
New study sheds light on cancer stem cell regulation



サンフォード・バーナム医学研究所の研究者は、阻害されることで腸の腫瘍の原因となりうる幹細胞シグナルの正確なプロセスを発見した。この発見は幹細胞がどのようにして腫瘍を生じるのかについての理解を深め、腸癌の発症と進行、再発を阻害するための標的となるような特異的な幹細胞分子を特定する。研究の結果は本日のCell Reportsで公表される。

「癌幹細胞は癌の開始と進行、転移、再発、そして薬剤耐性の原因となることを示唆するエビデンスが蓄積しつつある」、サンフォード-バーナムでthe Cell Death and Survival Networks Programのプログラム・ディレクターであるJorge Moscat博士は言う。

「我々の新しい研究は、幹細胞を調節するシグナル伝達カスケードについての理解を深める。それは今よりも有効な癌の治療法を新しくデザインするために必須である。」

「プロテインキナーゼC-ゼータ(PKC-ゼータ)は通常、2つのシグナル経路、つまりベータカテニンとYapを下方調節することにより幹細胞の活性を阻害する」、論文のシニア共著者のMaria Diaz-Meco博士は言う。

「我々の研究室は以前、PKC-ゼータは腫瘍サプレッサー遺伝子として作用し、腸の幹細胞の恒常性を維持することを示した。今回の研究は、それが生じるメカニズムを明らかにする。」

腸は上皮細胞の単一の層によって覆われ、3日から5日ごとに入れ替わる。これらの上皮細胞を置き換える細胞のプールである腸の幹細胞は、恒常性を維持するように調節される必要がある。

「幹細胞プールの恒常性の乱れは、2通りの方向へ進む可能性がある。それは腸の上皮細胞の再生を低下させるか、または幹細胞の増殖を増大させる」、Diaz-Mecoは言う。

「細胞増殖の主要なメカニズムを制御する重要な遺伝子で突然変異が蓄積することにより癌は生じる。幹細胞は腸において『永続的』に存在する集団であり、それらの突然変異を蓄積するリザーバーである。したがって幹細胞の活性が増加すると、PKC-ゼータが欠けている腸の場合と同様に腫瘍を生じる可能性はずっと高くなり、腫瘍が生じるとそれはより悪性になる。」

研究チームは遺伝子工学による腸癌のマウス・モデルを用いて、このプロセスはPKC-ゼータが2つの不可欠な腫瘍プロモーターのベータカテニンとYapを直接リン酸化することによって、制御が保たれることを発見した。

「重要なことに、我々はヒトの結腸腺癌サンプルでPKC-ゼータとベータカテニン、Yapの腫瘍形成的なプロファイルを確かめた。マウスのin vivoでの研究とヒトでの結果の相関性は、YapとベータカテニンがPKC-ゼータ機能の潜在的な標的であり、新しい癌治療法の潜在的な標的であることを強く示唆する。」

「この結果は、腫瘍の原因となる経路を阻害することによる腸癌の予防と治療に新しい可能性を与える」、Moscatは言う。

「それらは、化学療法と放射線によって引き起こされるような急性または慢性的な損傷後の腸の再生を促進するための新しい戦略に光を当てる。」

記事出典:
上記の記事は、サンフォード・バーナム医学研究所によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.PKCζによるβ-カテニンとYapの直接のリン酸化による、腸幹細胞機能と腫瘍形成の抑制。

Cell Reports、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150206111631.htm

<コメント>
腸陰窩に存在するLgr5+幹細胞は、PKCζがβ-カテニンとYapを直接リン酸化することにより機能が抑制されるという記事です。



2015年2月4日

2015-02-06 23:04:02 | 

追加されたタンパク質は、ハダカデバネズミに癌を止めるための力を与える
An extra protein gives naked mole rats more power to stop cancer



ハダカデバネズミという地下に住む齧歯動物は、癌にならないように見える。ハダカデバネズミで新しく発見されたタンパク質は、その独特の癌を防ぐ能力についての理解を助けるかもしれない。そのタンパク質は複数の遺伝子が集まる場所(遺伝子座)と関係がある。その遺伝子座の仕事は、癌と戦ういくつかのタンパク質をコードすることである。

この遺伝子座はヒトとマウスにも存在する。しかしそのどちらも癌と戦うタンパク質を3つしかコードしていないのに対して、ハダカデバネズミの遺伝子座は合計4つのタンパク質をコードする。ロチェスター大学の生物学教授のVera Gorbunovaらによるこの発見はPNASで発表された。



INK4遺伝子座と呼ばれる領域がヒトとマウス両方の種で3つの同じ癌抑制タンパク質、つまりp15INK4bp16INK4ap14ARF(alternate reading frame)を作ることはすでに知られていた: この3つのタンパク質は、細胞がストレスに曝されるか変異したときに、細胞が分裂するのを止める。

学生研究者のJorge Azpuruaは、単独の実験としてハダカデバネズミのp16タンパク質を複製しようとして予想外のことに気がついた: p15INK4bとp16INK4aが融合した結果として生まれた、第4のタンパク質の存在である。この第4のタンパク質は細胞の分裂を止める能力がp15INK4bとp16INK4aと同等か、さらに優れてすらいた。

「我々は、この新しい産物をpALTINK4a/bと名づけた」、Gorbunovaは言う。

「我々はそれが腫瘍の発達を阻害する能力を含めて、ハダカデバネズミの長寿に寄与する可能性があると考えている。」

ハダカデバネズミは地下に住む小型で無毛の齧歯動物である。寿命が30年あるにもかかわらず、これまで癌になったという報告はない。SeluanovとGorbunovaらは以前の研究で、INK4遺伝子座の抗がん応答を活性化する化学物質としてHMW-HA(very high molecular weight hyaluronan; 高分子量ヒアルロン酸)を特定した。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23783513

「INK4は、ヒトの癌において最も広く変異が見られる遺伝子座である」、Seluanovは言う。

「その遺伝子が削除されるかサイレンシングされると、しばしば腫瘍の形成に結びつく。」

そして彼が指摘したように、アテローム性動脈硬化症や他の加齢と関連する疾患における役割を裏づけるエビデンスが増えつつある。



pALTINK4a/bの重要性を確認するため、研究者はさまざまな細胞が増殖する状態下でのタンパク質の発現を調べた。実験の結果、細胞が過密になると、HMW-HAが存在する間に限ってハイブリッド・タンパク質が増加することを発見した。一方、HMW-HAが取り除かれるとpALTINK4a/bは発現しなかった。しかしpALTINK4a/bは癌遺伝子のような様々なストレスによっても誘導されたため、それは癌を引き起こす可能性もある。

研究者は、このタンパク質は高い細胞密度とHMW-HAに反応して、INK4遺伝子の抗がん応答を開始すると結論した。第4のINK4タンパク質pALTINK4a/bの存在により、ハダカデバネズミは悪性腫瘍のリスクがあるときも細胞の増殖を抑制すると思われる。

pALTINK4a/bがマウスとヒトにも存在するかを確かめるために細胞と組織のスクリーニングを試みたが、うまくいかなかった。

「我々の研究は、このタンパク質がマウスとヒトでも何らかの状態下で存在する可能性を除外しないが、研究結果はその可能性が非常に低いことを示唆する」、Gorbunovaは言う。

学術誌参照:
1.腫瘍抵抗性の齧歯動物のハダカデバネズミのINK4遺伝子座は、機能するp15/p16ハイブリッド・アイソフォームを発現する。

PNAS、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150204144657.htm

<コメント>
ハダカデバネズミ(naked mole rat)は癌にならないことで有名ですが、その一因としてヒトとマウスにはない4つ目の癌を抑制するタンパク質(pALTINK4a/b)の存在が示唆されたという記事です。

Abstractによると、pALTINK4a/bは、p15INK4bのエキソン1と、p16INK4aのエキソン2、エキソン3から構成されるとのことです。



2015年2月3日

2015-02-04 23:18:37 | 免疫

皮膚による免疫の秘密が明らかにされる
Skin based immunity secrets revealed



科学者たちは、皮膚の免疫細胞が人体の『国境警備員』として機能するための新しいメカニズムを発見した。これらの免疫細胞は、脂質または脂肪のような分子により『外国からの侵略者』の存在を感知する。この発見は、感染症やアレルギー、自己免疫疾患と戦う方法を改善する可能性がある。

今回の研究はメルボルン大学とモナッシュ大学、ハーバード大学の研究者によるもので、免疫システムが特に皮膚においてどのように機能するかについての理解を根本的に前進させるものである。



ヒトの皮膚には免疫細胞の広大なネットワークがあり、それは感染に対するバリアとして重要である。しかし、これらの免疫細胞が自分の体の細胞やただの食べ物を異質な物として認識してしまうと、不必要な副作用、例えば炎症やアレルギーが起きる可能性がある。

皮膚を中心とする免疫細胞上に存在するCD1aという分子は、このような免疫応答において重要な役割を果たす。CD1aは細菌に由来する異質な脂質(または脂肪の類似物)の分子に結合するが、それは自分自身の細胞の脂質にも結合して、免疫システムのTリンパ球に提示することで認識される。

CD1a分子は国境管理員のように働いて脂質分子をパスポートのように読み取り、その化合物が人体に属しているかそうでないかを特定する。このCD1aと脂質分子の相互作用が、メルボルン大学のDale Godfrey教授、モナッシュ大学のJamie Rossjohn教授、そしてハーバード大学のBranch Moody教授らによって解明された。

CD1aは30年前に発見され、ミコバクテリウムへの免疫やハチ刺されの後の炎症に関与することは知られていたが、CD1a分子と免疫システムがどのように相互作用するかはずっと謎だった。

「脂質は病原体やアレルゲン、自分自身の細胞によって産生され、免疫応答を強力に刺激する。免疫システムが脂質を検出する手段はタンパク質を認識するメカニズムとはまったく異なることを本研究は示す」、メルボルン大学Peter Doherty感染免疫研究所のGodfrey教授は言う。

Rossjohn教授とGodfrey教授はオーストラリアのシンクロトロンと連携して、免疫システムがCD1aと脂質分子の複合体を認識する方法についての詳細な分子的洞察を提供した。彼らは免疫細胞による認識について全く新しいメカニズムを明らかにし、さらに、免疫システムがどのように機能するかについての有益な洞察を提供した。この相互作用により、免疫システムは感染に対して免疫を増強するか、またはアレルギー反応と関連する免疫抑制の手段として免疫が操作されるという。

「ヒトの免疫システムが脂質を感知して応答する方法を理解することにより、我々はそれらの構造を微妙に修正して免疫応答の強さを変化させることが可能である」、モナッシュ大学のRossjohn教授は言う。

記事出典:
上記の記事は、モナッシュ大学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.αβT細胞の抗原レセプター(TCR)による、自己の脂質リガンドを提示するCD1aの認識。

Nature Immunology、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150203104133.htm

<コメント>
脂質と結合したCD1a分子が、T細胞のTCRとどのように相互作用するかについて明らかにしたという記事です。CD1aはMHCクラスIと似ていますが、CD1aと深く結合した脂質分子はTCRと直接の接触はしないとのことです。

画像を見ると、TCRβ鎖の相補性決定領域(complementarity determining region)の一部であるCDR3βは、CD1aのE154とR73に阻まれて脂質分子のLPC(lysophosphatidylcholine)と直接は接触していません。



2015年1月29日

2015-02-01 23:26:41 | 

史上初めて明らかにされたタンパク質の構造は、優れた抗不安薬につながるかもしれない
First-ever view of protein structure may lead to better anxiety drugs



新しい薬が発明されると、その薬は意図された標的を攻撃して、症状を無くすかもしれない。しかし『中心に釘を打つ』こと、つまり副作用をまったく生じないようにするのは非常に難しい。

Scienceの今号で発表されるミシガン州立大学による新しい研究は、TSPOというタンパク質の結晶構造を初めて明らかにする。TSPOはいくつかの不安障害(anxiety disorders)と関連する重要なタンパク質である。原子レベルで構造を特定することによって、科学者は薬がタンパク質と相互作用する場所を正確に示すことができる。

「他の多くの科学者がこのタンパク質を研究してきたが、それが正確に何をしているかを確定するのはきわめて困難だった」、生化学と分子生物学の特別教授(Distinguished Professor)であるShelagh Ferguson-Millerは言う。

「薬や化合物はTSPOと結合するが、その作用をタンパク質の構造を知らずに解釈するのは難しい。今回我々が明らかにした構造は、不安障害と新世代の抗不安薬の基礎に関して重要な手がかりを提供する可能性がある。」

これらの次世代の治療は数年後になるかもしれないと彼女は付け加える。その理由の一部は、TSPOが世間の注目から遠ざけられていたことによる。TSPOはベイリウム(Valium; ジアゼパム/Diazepam)の不安をおさえる特性が研究される中で1977年に発見されたが、末梢での結合部位として考えられたために新薬の標的として製薬会社には追求されなかった。

興味深いことに、TSPOは組織が損傷した領域において高レベルで見られる。この発見は脳の炎症範囲の画像化を助けるために用いられてきた。PETスキャンにおいてTSPOは凝集して強調されるので、医師は損傷した領域を観察することが可能である。

今回の研究でFerguson-Millerと彼女の研究チームはPETスキャンではなくX線技術を用いてタンパク質の結晶構造を解析し、分子レベルでTSPOのイメージを作成した。これにより研究者は、TSPOがどのようにしてコレステロールと相互作用し、ステロイドホルモンの合成に影響するかを理解できるようになった。

コレステロールはステロイドホルモンの作成において重要な役割を果たす。コレステロールなしではステロイドホルモンは作られない。TSPOはミトコンドリアにコレステロールを往復輸送(shuttle)することにおいて重要な役割を果たすようである。そしてミトコンドリアは、コレステロールがホルモンへと変換される場所である。

研究チームはTSPOの変異体(mutant)も特定し、それは重要なブレークスルーを提供する。双極性障害のような病態で苦しむ患者はこのTSPOの突然変異を持つ可能性が普通より高いことが発見され、この変異はまずまずの頻度で見られる。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23942012

この変異体はコレステロールとそれほど強くは結合しないと思われれるが、それはおそらく、変異体の構造がより隆起している(ridged)ためにコレステロールとの相互作用を制限することと関係がある。

「通常のTSPOと変異体という2つの形状を比較したとき、我々は構造上の重要な違いを認めた」、Ferguson-Millerは言った。

「これは、ヒトのTSPOの変異体が不安障害と関連する理由に関して手がかりとなる可能性がある。」

本研究で用いられたTSPOタンパク質はヒトではなく細菌に由来するが、しかし両者は密接な関連がある。

学術誌参照:
1.輸送体タンパク質(TSPO)の結晶構造と、ヒト多型の変異体の模倣。

Science、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150129143042.htm



<コメント>
ベンゾジアゼピン(benzodiazepine)をリガンドとするTSPOの立体構造がScienceに掲載されたという記事です。

Abstractによると、TSPOの結晶構造はロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)のもので、ヒトの精神疾患と関連する多型(147番目のアミノ酸アラニンがトレオニンに変わる変異)によりプレグネノロン(pregnenolone)の産生が減少したとあります。

Scienceの同じ号には、ブルックヘブン国立研究所によるセレウス菌(Bacillus cereus)のTSPOとベンゾジアゼピン様の阻害剤PK11195との複合体の結晶構造も報告されています

ミシガン州立大学が動画として立体構造を公開しています