機械翻訳2

興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

眠っている間に筋肉を麻痺させるニューロンが特定される

2017-01-03 06:06:45 | 
Neurons paralyze us during REM sleep

December 12, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/12/161212152408.htm


※sublaterodorsal tegmental nucleus(SLD): 下背外側被蓋核

(ウイルスベクターで処理したラット (CとD) では、ニューロン(茶色)は存在してはいるが、ニューロンはもはやグルタミン酸(黒色)を放出することができない

Credit: © Sara Valencia Garcia / Patrice Fort, CNRS)


REM睡眠の間の脳は運動器官motor systemを抑制し、眠っている者を動けないようにする

フランスのリヨン神経科学研究センター/Centre de Recherche en Neurosciences de Lyon (CNRS/INSERM/クロード・ベルナール・リヨン第1大学/Université Claude Bernard Lyon 1/ジャン・モネ大学/Université Jean Monnet) の研究者は、この一時的な筋肉の『麻痺paralysis』の原因となるニューロンの集団を突き止めた

今回作られた動物モデルはいくつかの逆説睡眠障害paradoxical sleep disorders、特にこの麻痺を阻害する病態についての源を明らかにすることが期待され、加えて病理に関連性があることからパーキンソン病の研究にも役立つだろう
この研究は2016年12月12日にBrain誌で発表された

※逆説睡眠/paradoxical sleep: REM睡眠のこと

『レム睡眠行動障害/REM sleep behavior disorder(RBD)』は『錯眠/睡眠時随伴症parasomnia』の一種であり、通常50歳ぐらいで生じる

※錯眠/睡眠時随伴症/parasomnia: 睡眠中に起きる異常な身体現象。夢遊病や寝言、夜尿や悪夢など様々な異常行動が含まれる

RBDの患者は深い眠りにもかかわらず話したり蹴ったり、しまいにはベッドから落ちたりする
REM睡眠中の筋肉は休息しているのが普通だがRBDの患者では麻痺が起きず、その理由は明らかになっていない
この患者はおそらく夢の活動を反映して異常行動を示す

CNRSの研究チームはこの病理の解明に向けて一歩進んだ
彼らは脳内の下背外側核/sublaterodorsal nucleusの領域にあるニューロンを特定したのである
それは理想的なことにideally、REM睡眠中に運動器官をコントロールするところに位置している

研究チームはラットでこのニューロンの集団を標的にすべく、遺伝学的に調整したウイルスベクターを加えた
このベクターが神経細胞の中に入ると、シナプスがグルタミン酸の分泌を可能にするための遺伝子の発現を止める
グルタミン酸は興奮性の神経伝達物質excitatory neurotransmitterである
その分泌ができなくなったニューロンはもはや隣のニューロンとコミュニケーションを取ることができなくなり、REM睡眠中に麻痺を生じるために必要な脳のネットワークから切り離される

50年もの間、科学界scientific communityではこれらのグルタミン酸ニューロンがREM睡眠そのものを作り出していると考えられていた
しかし、研究チームが観察したことはこの仮説を無効化する
このニューロン回路の活動がなくてもラットはREM睡眠に入り、すぐに眠り、外界outside worldから切り離されて目は閉じられたが、ラットは麻痺しなかったのである
ラットたちの行動はRBDに罹患する患者の臨床プロファイルを連想させるもので、非常に似ていた
この研究で標的となったグルタミン酸ニューロンは睡眠中の麻痺において必須の役割を演じており、この神経学的疾患neurological diseaseに影響するニューロンとしては初めてのものであるというのが今回の報告である


この研究は睡眠時随伴症parasomniaを模した新たな前臨床モデルを作り出すだけに留まらず、いくつかの神経変性疾患の研究において非常に重要なものになるかもしれない

最近の臨床研究では、RBDと診断された患者はほぼ必ずalmost always、平均して10年後にパーキンソン病の運動症状を発症することが示されている
研究チームは現在、睡眠時随伴症parasomniaからパーキンソン病へと展開evolveする動物モデルを開発しようと試みており、ニューロンの変性がどのようにして起きるのかを理解しようしている

この下背外側核/sublaterodorsal nucleusのグルタミン酸ニューロン/glutamate neuronsは自発的な赤い蛍光を発しており、今回使用したウイルスベクターがうまく加えられたことを示している


http://dx.doi.org/10.1093/brain/aww310
Genetic inactivation of glutamate sublaterodorsal nucleus recapitulates REM sleep Behavior Disorder.
下背外側核でのグルタミン酸の遺伝学的な不活化はREM睡眠中の行動障害を再現する


Summary
特発性REM睡眠行動障害idiopathic REM sleep behaviour disorderの特徴は、逆説睡眠paradoxical sleep(REM睡眠)の間の、正常な筋肉の弛緩atoniaが欠けている状態での、暴力的な夢の行動化the enactment of violent dreamsである

※dream enacting behavior: 夢の行動化

※enactment: (劇の)上演、(法律の)制定

臨床データならびに実験データの蓄積から示唆されるのは、REM睡眠行動障害の原因が『逆説睡眠に関与するグルタミン酸ニューロン』の神経変性によるかもしれないということであり、そのニューロンは橋pontineの『下背外側被蓋核/sublaterodorsal tegmental nucleus』の内部に位置している

※sub下 + lateral側 + dorsal背 + tegmental被蓋 + nucleus核

※laterodorsal tegmental nucleus(LDTN): 背外側被蓋核
※sublaterodorsal tegmental nucleus(SLD): 下背外側被蓋核

ゆえに今回の研究の目的は、まず一つ目は下背外側被蓋核グルタミン酸ニューロンの逆説睡眠における役割を機能的にラットで確定することであり、二つ目はそれらを遺伝学的に不活化することがREM睡眠行動障害を再現するに十分であるかどうかを機能的に確定することである

目的を果たすために我々はまず、下背外側被蓋核が関与するニューロンの回路を解きほぐすdisentangleべく、髄板内視床/intralaminar thalamusならびに腹側髄/ventral medullaに、逆行性のトレーサーretrograde tracersを注入し、
次に、下背外側被蓋核の両側bilaterallyにアデノ随伴ウイルス/adeno-associated viruses(AAV)を注入した
このAAVはSlc17a6のmRNAを標的とするショートヘアピンRNA(shRNA)を持ち、このmRNAは小胞グルタミン酸トランスポーター2/vesicular glutamate transporter 2 (vGluT2) をコードする
これは下背外側被蓋核のグルタミン酸によるシナプスの伝達を長期的chronicallyに抑制するためである

神経解剖学レベルでは、逆説睡眠過眠症hypersomniaの間に特に活性化する下背外側被蓋核ニューロンは、
下行性の遠心性神経descending efferentsを 腹側髄/ventral medullaの内部にあるグリシン/GABAニューロンへと送るが、
上行性の投射ascending projectionsを 髄板内視床/intralaminar thalamusへと送ることはない

これらのデータは、下背外側被蓋核ニューロンが『逆説睡眠の生成』においてというよりもむしろ、『筋肉の弛緩』において決定的な役割を演じることを示唆するものである

この仮説と一致して、下背外側被蓋核へAAV注入した30日後、ラットは日々の逆説睡眠の量/paradoxical sleep daily quantitiesの30パーセントの低下を示したが、
『夢を行動化する異常な運動行動/abnormal motor dream-enacting behaviours』がとてつもなくtremendous増加し、それに伴う『逆説睡眠中の筋緊張muscle tone』の著しい増加を示した

※dream enacting behavior: 夢の行動化

これらのラットは、ヒトのREM睡眠行動障害と非常に似た逆説睡眠中の症状と行動を示す

まとめると、我々のデータは下背外側被蓋核グルタミン酸ニューロンが逆説睡眠中の筋肉の弛緩を作り出すものであり、それはおそらくグリシン/GABA 前運動ニューロンpremotor neuronへの下行性の投射descending projectionsを通じてであることを実証する
それらのニューロンは逆説睡眠の調節に関与はするものの、逆説睡眠の状態そのものを誘導するために必須ではない

さらに、この研究はREM睡眠行動障害の新しく有力な前臨床モデルの正当性を立証するvalidateものであり、それはこの無力化disablingする睡眠障害の研究と治療への道を開き、そしてパーキンソン病のようなシヌクレイノパチーの症状が出る前の段階prodromal stagesに関与する『潜在的な領域』を前進させる



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2012/07/120711131030.htm
GABAとグリシンはラットにおいてREM睡眠中の麻痺を引き起こし、それは『筋肉を活動できるようにする脳の特殊な細胞』のスイッチを切ることによる
運動細胞のGABA受容体(イオンチャネル型受容体ionotropic receptorのGABAAだけでなく、代謝調節型受容体metabotropic receptorのGABABも)とグリシン受容体(イオンチャネル型受容体)を阻害すると、REM睡眠麻痺が起きない
REM睡眠障害を持つヒトの約8割が最終的にパーキンソン病のような神経変性疾患を発症する



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2012/11/121116085208.htm
呼吸のための筋肉の活動をREM睡眠中に強く阻害するのを仲介する脳の化学物質はアセチルコリンであり、これはムスカリン性受容体を介して作用し、この受容体は特にカリウムチャネルという種類のチャネルと機能的につながりがある



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150203123423.htm
動物実験によれば、REM睡眠には、脳幹brain stemの中脳橋被蓋核の
 背外側被蓋核/laterodorsal tegmentum (LDT)
 脚橋被蓋核 pedunculopontine tegmentum (PPT)
のコリン作動性ニューロンが重要とされてきた
光遺伝学optogeneticsを使ってマウスで実験したところ、ノンレム睡眠中にLDTかPPTのどちらかのコリン作動性ニューロンが活性化するとレム睡眠に入る可能性が高まった
LDTかPPTの活性化はレム睡眠のエピソードは増加させたがレム睡眠の期間は延長しなかったため、レム睡眠の維持には別の仕組みが存在するようである



※脚橋被蓋核は中脳橋被蓋核とも呼ばれる

関連サイト
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E7%9D%A1%E7%9C%A0%E9%9A%9C%E5%AE%B3
ネコを使った実験では、REM睡眠は情動系の抑制と骨格筋脱力の出現が重要であり、骨格筋脱力は、コリン系の
 中脳橋被蓋核(pedunculopontine tegmental nucleus:PPN)と
 外背側被蓋核(laterodorsal tegmental nucleus:LDTN)
アドレナリン系の青斑核(locus coeruleus:LC)から延髄巨大細胞網様体(medullary magnocellular reticular formation:MCRF)を介した系により生じることがわかっている。
齧歯類を用いた実験により、ネコの青斑核(LC)に相当する
 外側背側核(sublateral dorsal nucleus:SLD)
がREM睡眠を促進する働きをもっており、反対に中脳水道周辺の腹外側灰白質(ventrolateral part of the periaqueductal grey matter:vlPAG)、外側橋被蓋(lateral pontine tegmentum:LPT)はREM睡眠を抑制することが示されている。
ネコのLC、SLDの破壊により、レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder;RBD)が生じることがわかっている。
RBDの症状としてはREM睡眠期に一致して(夜間中~後期に多い)、はっきりとした大きな寝言あるいは発声、腕を振り回す、布団を蹴る、座る、手足をばたつかせるといった複雑な動作が起こる。



関連サイト
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%89%8D%E8%84%B3%E5%9F%BA%E5%BA%95%E9%83%A8
前脳基底部は、睡眠・覚醒に重要な役割を果たす脳幹の縫線核と 大脳皮質との中継的役割を果たしていると考えられており、損傷により睡眠障害がよく見られる。アルツハイマー病の患者では前脳基底部のとくにマイネルト基底核のコリン作動性ニューロンが減少している。
アセチリコリンの作動薬はREM睡眠を促進し、拮抗薬はREM睡眠を抑制する。ネコにおけるマイクロダイアリシス実験では、前脳基底部のアセチリコリンの量がREM睡眠時で最も大きく、non-REM睡眠時に最も小さく、覚醒時にその中間レベルであることが示されている。前脳基底部を破壊すると、皮質の覚醒の度合いが下がるとともに、REM睡眠障害が起こる。



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/06/150601122442.htm
2013年のロチェスターの研究では、非REM睡眠の間はマウスの脳細胞が萎縮して脳脊髄液のためのスペースを作り、Aβのような毒性のある代謝物を洗い流すことが示された



<コメント>
下背外側被蓋核のグルタミン酸ニューロンがREM睡眠中の麻痺を、
背外側被蓋核のコリン作動性ニューロンがREM睡眠そのものの促進を担当しているということか
フルダイブVRMMO的な応用ができるかもしれない

 

BBBでのアミノ酸の輸送の障害が自閉症につながる

2016-12-30 06:06:38 | 
Autism spectrum disorders: New genetic cause of identified

December 1, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/12/161201121502.htm

自閉症スペクトラム障害(ASD)は全世界の人口の約1パーセントが罹患しており、社会的な相互作用やコミュニケーションでの広範囲な困難が特徴である
Cell誌で発表された新たな研究によれば、ISTオーストリアの教授であるGaia Novarinoが率いるチームはASDの遺伝的原因の一つを突き止めたという
Gaia Novarinoはこの発見の重要性を次のように説明する

「自閉症の原因となる遺伝子変異には様々なものが多くあるものの、それらは全て非常にまれである
自閉症の効果的な治療法の開発を困難にしているのは、そのような異種混合性heterogeneityである
我々の分析は自閉症と関連する新たな遺伝子を明らかにしただけではなく、その遺伝子の変異が自閉症を引き起こすメカニズムを突き止めた
興味深いことに、他の遺伝子における変異も同じ自閉症を引き起こすメカニズムを共有する
これは我々がASDのサブグループを浮かび上がらせたunderscoreということを示す」

Caglayan博士は次のように指摘する
「新たな遺伝子を突き止めることは、特に自閉症のような異種混合性heterogeneousの疾患では非常に難しい
しかしながら、共同研究の努力の結果、近親婚consanguineous marriagesの家庭に生まれ、症候性自閉症syndromic autismと診断された複数の両親において、我々はSLC7A5という遺伝子の変異を明らかにした」
彼はIstanbul Bilim University in
トルコ/Turkeyのイスタンブール・ビリム大学/Istanbul Bilim Universityの医学部で遺伝医学部/Department of Medical Geneticsの部長Chairmanである

※SLC7A5/LAT1
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=SLC7A5


SLC7A5はアミノ酸の一種、分岐鎖アミノ酸/branched-chain amino acids (BCAA) を脳内に輸送するタンパク質である
SLC7A5の変異がどのようにして自閉症につながるのかを理解すべく、研究者は血液と脳との間のバリアにあるSLC7A5を取り除いたマウスを調査した
これによりマウスの脳内のBCAAレベルは低下し、ニューロンのタンパク質の合成は干渉を受ける
実験の結果、マウスは社会的な相互作用の低下を示し、他の自閉症マウスモデルでも観察されるような行動の変化を示した

以前の研究でGaia Novarinoたちは、同じアミノ酸の分解に関与する遺伝子の変異を複数の患者、つまりASDと知的障害intellectual disability、てんかんepilepsyの患者において明らかにしている

Gaia Novarinoは次のように説明する
「もちろん、自閉症を引き起こす遺伝子の全てがアミノ酸レベルに影響するわけではなく、そしてこのタイプの自閉症が非常にまれなのは議論の余地がないunarguably
しかし、さらに多くの自閉症原因遺伝子がこのグループに分類される可能性はありそうである」


特に注目すべきは、血液脳関門でSLC7A5を失った成体マウスにおける神経学的な異常のいくらかは治療可能だったということだ
BCAAをマウスの脳内へと3週間投与すると、行動症状behavioral symptomsの改善が観察されたのである

筆頭著者でありGaia NovarinoのグループでPhD studentのDora Tarlungeanuは、この結果からもたらされる見通しoutlookに興奮して次のようなコメントをしている
「我々の調査から、このタイプのASDマウスモデルで現れる特定の症状について潜在的な治療法が見つかった
しかし、ヒトのASD患者へと応用translationするにはさらに長い研究が必要になるだろう」


今回の結果は、ASDという病態が常に不可逆で回復不能であるという一般的な観念に反するものだ
無論、彼らがマウスで治療した方法は直接ヒトで使うことはできないが、
彼らはSlc7a5を持たないマウスが示す神経学的な合併症complicationsのいくらかが回復可能であるという結果を示しており、いつかはヒトの患者もまた治療が可能になる見込みはありそうである


http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2016.11.013
Impaired Amino Acid Transport at the Blood Brain Barrier Is a Cause of Autism Spectrum Disorder.


タンパク質の翻訳↓、社会的相互作用↓、mIPSCの頻度↓

微小抑制性シナプス後電流/miniature inhibitory postsynaptic current(mIPSC

Highlights
・マウスのSlc7a5は脳内の正常なBCAAレベルの維持にとって決定的に重要である
・マウスにおいて脳内のBCAA欠乏は神経行動学的な変化の引き金を引く
・SLC7A5変異を持つ患者は自閉症スペクトラム障害(ASD)ならびに運動遅延motor delayを示す
・Slc7a5変異体/mutantのマウスの行動は、BCAA注入によって部分的に修正される


Summary
自閉症スペクトラム障害/autism spectrum disorders (ASD) は、しばしば他の神経学的病態と重複する遺伝的疾患genetic disordersの一群である
以前我々は、ASDの原因として、分枝鎖アミノ酸/branched-chain amino acid(BCAA)の異化経路catabolic pathwayにおける異常について記述した
今回我々は血液脳関門(BBB)に局在して大型中性アミノ酸/large neutral amino acid(LNAA)を輸送する『溶質輸送体solute carrierトランスポーター7a5(SLC7A5)』が、脳内の正常なBCAAレベル維持において必須の役割を演じることを示す

※中性アミノ酸: 中性アミノ酸は脂肪族や芳香族、イミノ酸、オキシアミノ酸、含硫アミノ酸、酸性アミノ酸アミドという6種類に大きく分類される。20種類の中で中性アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン
酸性アミノ酸は、グルタミン酸、アスパラギン酸。塩基性アミノ酸は、リジン、アルギニン、ヒスチジン。

※分岐鎖アミノ酸/branched-chain amino acid(BCAA):バリン、ロイシン、イソロイシン

※大型中性アミノ酸/Large Neutral Amino Acid(LNAA): トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン

※トランスポーターによるアミノ酸の輸送は、ナトリウムの存在に依存するかどうかによって分類される。中性アミノ酸の輸送で、ナトリウムに依存するのがA型、G型、ASC型、N型などで、ナトリウムに依存しないのがL型、asc型、T型など。L型の一つがLAT1(SLC7A5)


マウスBBBの内皮細胞からSlc7a5を削除すると、その結果として、非典型的な脳アミノ酸プロファイル、異常なmRNA翻訳、重度の神経学的異常につながる
さらに、SLC7A5遺伝子に有害なホモhomozygousの変異を持ち、自閉症の特質traitsならびに運動遅延motor delayを示す複数の患者を我々は同定した
最後に、脳室内intracerebroventricularにBCAAを投与することで変異を持つ成体マウスの異常行動が軽減されることを我々は実証する
我々のデータはSLC7A5変異によって定義される神経学的症候群を明らかにし、ヒトの脳機能においてBCAAが必須の役割を演じることを支持するものである



関連サイト
http://www.j-pharma.com/b3.html
癌ではLAT2の代わりに発癌遺伝子c-Mycの制御を受けるLAT1の発現が上昇し、LAT1の発現は悪性度を予測する



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150107131339.htm
リソソーム膜SLC38A9輸送体によるアルギニンの輸送によってmTORC1が活性化する




関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/70990360aaeb3bb060b485ef09d88549
たった一つのスプライシング関連タンパク質が自閉症の発症に広く影響を与える

 

たった一つのタンパク質が自閉症の発症に広く影響を与える

2016-12-23 04:44:40 | 
Autism breakthrough: One protein's sweeping influence on development of autism revealed

December 15, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/12/161215143402.htm


(動物実験では、nSR100タンパク質のレベルを半分に低下させることは自閉症のようなふるまいを引き起こすのに十分だった

Credit: Mathieu Quesnel Vallieres)

自閉症の三分の一もの症例は脳内の単一のタンパク質が欠乏することによって説明されうることを、トロント大学の科学者は明らかにした
この研究結果は『遺伝的欠陥の多様な集団a motley crew of genetic faultsに根ざした疾患』である自閉症の治療法を開発するための、これまでに類のない機会をもたらす

※a motley crew: いろいろな人間の一団

トロントの研究者は脳の正常な発達に重要なnSR100というタンパク質(SRRM4としても知られる)のレベルを低下させることによって、マウスに自閉症様のふるまいを誘発させた
12月15日号のMolecular Cell誌で発表された今回の研究は、自閉症の人々の脳内ではnSR100タンパク質が減少していることを示した以前の研究を基にしている

※nSR100: Neural-Specific Serine/Arginine Repetitive Splicing Factor Of 100(ニューロン特異的セリン/アルギニン反復スプライシング因子100)
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=SRRM4

研究チームを率いるのはトロント大学ドネリーセンターのBenjamin Blencowe教授と、同じくトロント大学分子遺伝学のSabine Cordes教授である
Cordesはサイナイ医療システム/Health SystemのLunenfeld-Tanenbaum Research Instituteにも所属している

Cordesは次のように言う
「我々は以前nSR100タンパク質レベルと自閉症との間の関連を報告した
しかし今回我々は、nSR100レベルの低下が実際に原因causativeとして作用することを示す
これは非常に重要なことだ
ただ単にnSR100レベルを50パーセント低下させることにより、自閉症的なふるまいの特徴が観察されるのである」

また、今回のデータからはnSR100が『自閉症に寄与する様々な分子的エラー』を伝えるための中核hubとして働くことが示唆される


自閉症は一般的な神経疾患であり、人口の1パーセント以上が罹患している
自閉症は『変わった社会的行動/altered social behaviours』をすることでよく知られ、その程度は途方もなく多様でありうるために『自閉症スペクトラム障害/autism spectrum disorder (ASD)』とも呼ばれる
その発端は遺伝であるとしても原因が特定されているのは症例のほんの一部だけであり、疾患の背後にある原因はわかっていない

今回のトロント大学の研究では、nSR100タンパク質が社会的行動や自閉症の他の特徴に広範囲な影響を与えるというエビデンスがもたらされる
選択的スプライシング/alternative splicingというプロセスからは著しく多様なタンパク質が生み出されるが、nSR100は脳内で選択的スプライシングの鍵となる調節因子として働く

細胞の材料であるタンパク質は遺伝子のDNA配列にコードされているが、有用なコードは何もコードしていないDNA(ノンコーディングDNA)によってバラバラになっている
選択的スプライシングではそのような何もコードしないスペーサーが除去され、タンパク質をコードする部分が接合されて(※splice「重ね継ぎをする」「接合する」)、タンパク質のテンプレートが完成する
しかしつなぎ合わされたコードの指示書は変化することがあり、途中がいくつか抜け落ちたりすることで、単一の遺伝子から様々なタンパク質が生まれうる
このようにして細胞は、遺伝子の数よりも途方もなく多いタンパク質のツールボックスを持つことができるのである

なので、選択的スプライシングが特に脳で際立っているのは驚くべきことではない
脳の驚くべき複雑さの背後にある駆動力は、タンパク質多様性の急激な増加によると考えられているからである


nSR100を発見したのはBlencoweのチームであり、自閉症の人々の多くの脳でnSR100が減少していることも示している

今回の研究結果は自閉症が(部分的には)間違ってスプライシングされたタンパク質が脳細胞に蓄積して生じうることを示唆する
それが脳内の配線の間違いにつながり、やがて自閉症的な行動という結果になりうるのだという


今回の研究ではnSR100の不足が実際に自閉症を引き起こすかどうかを真正面からhead-onテストしようと決め、BlencoweとCordesが共同で監督/jointly superviseした大学院生graduate studentのMathieu Quesnel-VallieresがnSR100を欠くミュータントマウスを作成してその行動を研究した
その結果、驚いたことにnSR100タンパク質レベルが半分低下するだけで自閉症の行動的な特徴、つまり社会的相互作用の回避/avoidance of socialinteractionsや、雑音に対する感受性の高さを引き起こすのに十分であることを発見した
nSR100変異マウスはヒトの自閉症患者が持つ他の多くの特徴、例えば選択的スプライシングの変化や、脳内のシグナル配線の変化のような特徴を共有していた

大学院生のZahra Dargaeiやトロント大学細胞システム生物学部のMelanie Woodin教授、バルセロナゲノム調節センターのManuel Irimia博士らとの共同研究では、nSR100レベルがニューロンの活動とリンクしていることを示すことも可能だった


Quesnel-Vallieresは言う
「ニューロンの活動が上昇すると(それは自閉症の多くのタイプに当てはまるが)、nSR100がコントロールする選択的スプライシングのプログラムが乱れ、それが自閉行動/autistic behaviourの発端となる」


トロント大学で分子遺伝学の教授でもあるBlencoweは言う
「nSR100欠陥マウスの持つ大きな価値は自閉症の他の原因について説明できることであり、それらの原因がnSR100タンパク質へと収束することによってどのようにして神経生物学に影響を与えるのかの理解を助けるのである」

「我々のマウスモデルは、自閉症で不足するnSR100を回復できるような小分子をテストするための有用な実験の場/testing groundとしても役立つだろう」


Cordesは言う
「自閉症と関連する個々の変異に注目する代わりに、nSR100のような『調節の中核/regulatory hubs』を突き止めることは非常に強い影響があるpowerful
将来、自閉症患者でこのタンパク質をわずかに強めるturn upことで行動障害のいくつかを改善できるかもしれない」


http://dx.doi.org/10.1016/j.molcel.2016.11.033
Misregulation of an Activity-Dependent Splicing Network as a Common Mechanism Underlying Autism Spectrum Disorders
自閉症スペクトラム障害の根底にある共通のメカニズムとしての、ニューロンの活動に依存的なスプライシング・ネットワークの調節不全


Highlights
・nSR100/Srrm4のハプロ不全haploinsufficientのマウスは複数の自閉症様の特徴を示す
・nSR100変異マウスはシナプスの伝達ならびにニューロンの興奮性が変化する
・ニューロンの活性化は、自閉症の個々人で観察されるスプライシングの変化を誘発する
・ニューロンの活性化は、nSR100レベルを低下させることによりスプライシングを変化させる


Summary
自閉症の脳をトランスクリプトーム・プロファイリングで分析したところ、分析した人たちの3分の1以上で、ニューロン・スプライシング調節因子のnSR100/SRRM4の調節不全と、その標的であるマイクロエクソン・スプライシング・プログラムとの相関が明らかになった

nSR100の調節不全と自閉症とに因果関係があるのかどうかを調査すべく、nSR100タンパク質レベルならびにその標的スプライシング・プログラムが低下する変異マウスを我々は作成した

実験の結果、際立っていたのはこれらのマウスが複数の自閉症様の特徴(社会行動の変化、シナプス密度とシグナル伝達の変化)を示したことである

ニューロンの活動の上昇はしばしば自閉症と関連するが、それはnSR100の急速な減少、ならびに、マイクロエクソンのスプライシングという結果になる
それらは自閉症の脳で調節不全を起こしているものと著しく重複する

まとめると、我々の結果はnSR100に依存的なスプライシング・ネットワークの調節不全が自閉症の症例のかなりの割合と因果関係があるというエビデンスを提供する
このスプライシングネットワークはニューロンの活動の変化によってコントロールされる



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/04/150401093631.htm
自閉症患者の脳ではnSR100のレベル低下とマイクロエクソンのスプライシングが相関する




関連サイト
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20150424-3/
自閉症患者の脳内ではPTPδのミニエクソンペプチドA及びB配列を含むスプライシング調節に異常がある




関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/502eb26129d1acd3872624e380fbd02b
核内でスプライシングに関与するRbfox1は自閉症やてんかん等と関連するが、細胞質のRbfox1バリアントはmRNAに結合して翻訳を調節し、Rbfox1が失われると翻訳の調節が失われて癌化する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/4f9b9ec8e2dbbf4fc50e0a4097a83e31
自閉症患者から作られたミニチュア脳では、FOXG1遺伝子発現の増大により抑制性ニューロンが過剰に産生された
細胞増殖・ニューロン分化・シナプス形成に関与する遺伝子が上方調節され、細胞周期は加速し、GABA作動性の抑制性ニューロンが過剰産生された



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/a09b1b207c031eeb1a6939ed733c6f07
自閉症ではオートファジー/刈り込みが抑制されている



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160211142012.htm
ADNP遺伝子の突然変異は自閉症と関連する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/dc706e6e2204d0f3b8c534f205abb7f2
カルモジュリン・MYC・代謝調節型グルタミン酸受容体に代表される3つの遺伝子ファミリーのコピー数多型が、自閉症スペクトラム障害の発症に影響する



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UBE3Aはリン酸が結合するとスイッチがオフになるが、自閉症と関連する変異はこの調節スイッチを破壊して常に活性化したままにする



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自閉症スペクトラム障害と関連付けられた遺伝子の多型はドーパミン輸送機能を障害する



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CHD8遺伝子の突然変異がある人々は、自閉症と胃腸障害、そしてより大きな頭部と広い眼が特徴である可能性が高い
自閉症スペクトラム障害の6,176人の小児の研究では15人にCHD8の突然変異があり、これらの症例すべてに同様の外見と、そして睡眠障害と胃腸問題の問題があった。



関連サイト
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%82%AE%E3%83%B3
ニューレキシンの内因性リガンドであるニューロリギンはシナプスの成熟や機能を調整し、遺伝子改変マウスは自閉症様行動を示す。



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自閉症とミトコンドリア障害に関連
自閉症の一部にミトコンドリア遺伝子欠失の異常などが見られた




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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160107094747.htm
脊髄小脳失調症1型(SCA1)マウスのプルキンエ細胞では、シナプスの足場タンパク質であるHomer-3が低下しており、そのHomer-3はmTORC1によって調節される
「興味深いことに、mTORC1のシグナル伝達の変化は自閉症様の行動ならびに知的障害と関連する」
 


タウのリン酸化は悪いことばかりではない

2016-12-11 06:06:07 | 
Discovery opens door to new Alzheimer's treatments

November 17, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/11/161117151205.htm


(These are neurons in culture dishes.
The colors highlight the human tau protein in green, a structural component in red and the DNA inside the cell nucleus in blue.

Credit: UNSW/Lars Ittner)

オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)の研究者は、アルツハイマー病(AD)につながる神経細胞のプロセスに光を当てた
これはアルツハイマー病がどのようにして起きるのかについてのこれまでの考えを一変させるものであり、疾患の進行を止めるか遅くしうる新たな治療の選択肢への扉を開く
この研究はScience誌で発表される

UNSWはNeuroscience Research Australia(NeuRA)と共同でヒトの脳組織を研究し、アルツハイマー病が進行するにつれてp38γというキナーゼが失われることを突き止めた
彼らがマウスの脳にp38γを再導入したところ、疾患と関連する記憶障害に対して保護的な効果があることが示された

「この研究は、アルツハイマー病が発症する間に脳内で何が起きるのかについての我々の理解を根底から変えた」
筆頭著者lead authorのLars Ittner教授は言う

アルツハイマー病の大きな特徴は、アミロイドベータからなる『プラークplaques』と、タウタンパク質からなる『もつれtangles』が脳内に存在することである
プラークともつれの蓄積は、神経の細胞死、脳の萎縮、記憶の喪失と関連がある

※もつれ: tangle
※神経原線維変化: neurofibrillary tangle(NFT)


研究チームはこれまで誤解されていた『もつれにつながるプロセス』の重要な段階を明らかにした
これまでの考えでは、プラークを形成するタンパク質であるアミロイドベータがタウタンパク質の修飾、つまりリン酸化/phosphorylationを引き起こすと信じられており、それが細胞死を誘発して最終的にアルツハイマー病につながるのだとされていた
タウのリン酸化が増加する結果、それがもつれとして蓄積するというのが以前の考え方だった

しかし、今回の新たな研究の結果からタウのリン酸化が初めはニューロンに保護的な効果があることが示唆され、
その保護的な機能に対してアミロイドベータが猛攻撃する結果、それは徐々に失われるのだという
その段階で毒性レベルがニューロンの破壊を引き起こし、アルツハイマー病と関連する認知障害という結果になる

「アミロイドベータはニューロンに毒性を誘発するが、タウのリン酸化の初めの段階は実際には毒性を低下させる」
Ittner教授は言う

「これは全く新しい考え方mindsetだ
タウが修飾されるようになる理由は、実際にはダメージから保護するためだった」


研究でp38γというキナーゼが突き止められるまでに様々なマウスモデルが使われ、ヒトの脳組織はSydney Brain Bankから提供された
p38γは保護的なタウのリン酸化を助けており、アミロイドベータによってもたらされる毒性に干渉していた

「我々はマウスを使って、我々がこれまでの研究で知っていた疾患の進行に関与する『非常に特異的な毒性』に関してふるいにかけたscreen
我々はこの進行を仲介するメディエーターを見つけるべく研究を開始し、それが我々をこの驚くべき発見へと素早く導いた
それは我々が予測していたのとは全く正反対のものだった
このアルツハイマー病の発症に関与するプロセスへの我々の見方を変えた時に初めて、これらの結果は意味を持ち始めるのである」


Ittner教授たちはヒトの脳組織を研究する中で、アルツハイマー病が進行するにしたがってp38γは失われることを突き止めた
脳内に残っているのは本当にわずかな量である

「p38γは最初は保護をもたらすが、アルツハイマー病患者の脳内では早くに消え去ることを我々は発見した
これはp38γによる保護が失われることを示唆する」

「研究ではp38γを再び導入し、活性を上昇させた
マウスでは記憶障害が起きるのを防ぐことが可能だったことから、これは真に治療としての潜在性を持っている
もしその活性を刺激できれば、我々はアルツハイマー病の進行を遅らせ、あるいは止めることすらできるかもしれない」

研究者にとって次の段階は、この特許を取った発見から、ヒトの患者のための新たな治療法を開発することになるだろう
ただしそれには新たな資金調達が必要である/subject to new funding


http://dx.doi.org/10.1126/science.aah6205
Site-specific phosphorylation of tau inhibits amyloid-β toxicity in Alzheimers mice.
アルツハイマー病モデルマウスにおいてタウの箇所特異的なリン酸化はアミロイドβの毒性を阻止する


タウのリン酸化は必ずしも悪ではない
Tau phosphorylation—not all bad


アルツハイマー病はアミロイドβ (Aβ) からなるプラークと、タウのもつれを示す
この分野で支配的な考えは、Aβがタウのリン酸化を誘発し、それがニューロンの機能不全を仲介するというものだ

Ittnerらはアルツハイマー病のマウスモデルを研究することで、アルツハイマー病の初期におけるタウの保護的な役割に関するエビデンスを発見した
この保護は、シナプス後部postsynapseでのタウの特異的なリン酸化(スレオニン205)を伴うinvolve

リン酸化したタウの疾患における保護的な役割は、タウのリン酸化は有害なプロセスを仲介するだけであるというドグマに異議を申し立てるものだ


Abstract
アルツハイマー病におけるアミロイドβ(Aβ)の毒性は、リン酸化したタウタンパク質によって仲介すると考えられている
それとは対照的に、少なくとも疾患の初期では、タウの箇所特異的なリン酸化がAβの毒性を阻止することを我々は発見した

このタウの特異的なリン酸化はニューロンのMAPKであるp38γによって仲介され、シナプス後部でAβと噛み合った興奮毒性シグナル伝達複合体に干渉する/interfered with postsynaptic excitotoxic signaling complexes engaged by Aβ
これと一致して、p38γの枯渇はアルツハイマー病のマウスモデルにおいて、ニューロン回路の異常、認知障害、若年死亡率premature lethalityを悪化させる一方で、p38γの活性の上昇はこれらの障害を無効化した
さらに、
箇所特異的site-specificなタウのリン酸化を模したところ、Aβによって誘発されるニューロンの細胞死は軽減され、興奮毒性excitotoxicityからの保護がもたらされた

我々の研究はアルツハイマー病の病理発生におけるシナプス後部のプロセスへの洞察を提供し、ニューロンの毒性におけるタウのリン酸化には全く病原性の役割しかないという考え方に異議を唱えるものだ



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/5fa6854054e1286ed0a7c0e494ba7ab4
Aβオリゴマーと細胞プリオンタンパク質の複合体は、mGluR5からFynキナーゼを通じてタウのリン酸化につながる




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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/049339c7c42e622ed4fe9abb25e211ba
タウはプリオンのように伝わり、タウ凝集の立体構造の違いが異なる神経変性につながる





関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/1da80ab653ed9104f4940f195a8b651f
タウはエンドサイトーシスによってシナプス間を移動し、エンドソーム膜を破損させて病理を伝える

 

アルツハイマー病でグリンパ系/アクアポリン4を標的にする

2016-12-09 06:06:41 | 
Possible new target for treating and preventing Alzheimer's

December 1, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/12/161201165405.htm


(左は高齢のアルツハイマー病患者の脳のスキャン画像で、右は認知が正常な人のもの
赤い蛍光色は膜タンパク質のアクアポリン4を示す

認知が正常な人はアクアポリン4の発現が組織全体で比較的均一evenであり、血管の周囲では際立って促進stark enhancementされている一方で、
アルツハイマー病の人は不均一で『不調和な/まだら状のpatchy』 発現である

Credit: OHSU)

今回の新たな科学的発見は、アルツハイマー病の治療と予防に新たな道を示すかもしれない

JAMA Neurology誌で11月28日に発表された研究では、脳細胞の膜タンパク質であるアクアポリン4/aquaporin-4について調査した
オレゴン健康科学大学(OHSU)の研究者たちは科学研究のために提供された献体の脳を調査し、年老いた人々のアルツハイマー病の有無とアクアポリン4の分布prevalenceとの間に相関があることを発見した

「アクアポリン4はアルツハイマー病の予防と治療に役立つ標的である可能性が示唆される」
首席著者senior authorのJeffrey Iliff, Ph.D.は言う
彼はOHSU医学部の麻酔・周術期医学部/Department of Anesthesiology and Perioperative Medicineで助教授/Assistant Professorである

「しかしながら、我々はこれ一つだけを修正すればそれでアルツハイマー病が治癒できるという、思い違いをしているわけではない」


アルツハイマー病は進行性の疾患でほとんどは加齢と関連して生じ、記憶、思考、行動で問題が起きる
世界的に痴呆の主な原因で、現在のアメリカでは死因として6番目である
治癒する方法は知られておらず、いくつかの症状に対症療法があるのみである

アクアポリン4は脳全体に広がる『グリンパ系/glymphatic system』という水路channelsのネットワークの重要な一部である
グリンパ系は、脳に蓄積するアミロイドやタウのようなタンパク質を脳脊髄液が洗い流すことを可能にする
それらのタンパク質はアルツハイマー病に罹患する人々の脳内に蓄積する傾向があり、その後の神経細胞の破壊に関与する可能性がある

「アルツハイマー病の人々では多くのことが狂ってうまくいかなくなるが、グリンパ系はその一つである」
Iliffは言う

今回の研究ではOHSU Layton Aging and Alzheimer's Disease Centerの一部であるOregon Brain Bankを通じて提供された79の献体の脳を詳しく調査した
研究者はそれらを次の3つのグループに分類した

・60歳未満で、神経疾患の病歴がない人々
・60歳より上で、アルツハイマー病の病歴がある人々
・60歳より上で、アルツハイマー病ではない人々

調査の結果、アルツハイマー病ではない60未満と60より上の人々の脳内では、アクアポリン4タンパク質が十分に整っていてorganized、脳の血管を裏打ちlineしていた
しかしながら、アルツハイマー病の人々の脳内ではアクアポリン4タンパク質は乱れてdisorganizedいるように見えた
それは脳がアミロイドベータのような廃棄物を効率的に除去できないことを反映しているのかもしれない

研究の結論としては、将来のアクアポリン4の形態または機能に注目した研究が最終的にはアルツハイマー病を治療または予防するための薬剤の開発に繋がるかもしれないという
2015年、Iliffが率いるOHSUの科学者からなる集学的multidisciplinaryな研究チームは140万ドルのグラントをPaul G. Allen Family Foundationから受けた
その目的はMRIをベースとした新たな画像化技術の開発であり、高齢者の脳でアクアポリン4を含めたプロセスが作用しているところを観察するためである


http://dx.doi.org/10.1001/jamaneurol.2016.4370
Association of Perivascular Localization of Aquaporin-4 With Cognition and Alzheimer Disease in Aging Brains.
高齢者の脳における血管周囲へのアクアポリン4の局在と認知ならびにアルツハイマー病との関連


キーポイント/Key Points

問題/Question
アストログリアの水チャネルwater channelであるアクアポリン4の発現または局在は、高齢者advanced ageまたはアルツハイマー病患者で変化するのか?

※星状膠細胞/アストログリアastroglia: この細胞の突起の一部は血管壁に終わっていて(終足endfeetと呼ばれる)、終足と血管壁が接触する部分にはアクアポリン4が存在する

研究成果/Findings
年老いているが認知的に完全な人々とアルツハイマー病患者の死後の脳皮質でアクアポリン4タンパク質の発現と局在を分析したところ、アクアポリン4の発現と加齢との間には統計的に有意な関連があることが明らかになった
アクアポリン4タンパク質の『血管周囲アストロサイト終足/perivascular astrocytic endfeet』への局在が失われることは、アルツハイマー病の状態statusならびに病理pathologyと強い関連があった

意義/Meaning
アクアポリン4発現の上昇は、年老いたヒトの脳の特徴である
アクアポリン4の局在の異常は、アルツハイマー病の病理の発生と関連がある


Abstract

Results
アクアポリン4(AQP4)の発現は、全ての人々で加齢advancing ageと関連していた (R2 = 0.17; P = .003)

血管周囲へのAQP4の局在は、年齢とは関わりなくアルツハイマー病(AD)の状態と有意に関連していた (OR, 11.7 per 10% increase in localization; z = −2.89; P = .004)
認知的に完全で85歳より上の最高齢の人々の間では、血管周囲へのAQP4の局在は保持されていた

年齢で調整したところ/when controlling for age、血管周囲へのAQP4の局在が喪失することは、アミロイドβの負荷の増大と関連し (R2 = 0.15; P = .003) 、Braak神経原線維変化ステージの上昇とも関連した (R2 = 0.14; P = .006)

※Braak神経原線維変化ステージ: ステージIからステージVIまで。http://dementia.umin.jp/link4-3.html



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グリンパ系と睡眠とアルツハイマー病の関連



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オメガ3多価不飽和脂肪酸はグリンパ系の機能を仲介することにより脳からのAβ除去を促進する



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Aβを分解するネプリライシンneprilysinと、Aβを排出させるABCC1、それらを両方とも欠くマウスはアルツハイマー病のようになった
 

グラム陰性細菌はアルツハイマー病の病理に影響する

2016-12-07 06:06:47 | 
Gram-negative bacteria may influence Alzheimer's disease pathology

November 30, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/11/161130114200.htm

カリフォルニア大学デイビス校(UC Davis)の研究者は、遅発性アルツハイマー病/late-onset Alzheimer's disease(LOAD)の脳内ではグラム陰性菌/Gram-negative bacteriaに対する抗体のレベルが高いことを発見した
対照群と比較してアルツハイマー病患者は『リポ多糖/lipopolysaccharide (LPS)』と、タンパク質の『E. coli K99』のレベルが高かった

加えて、LPS分子はアミロイドプラークと共に集まっていた
アミロイドプラークはアルツハイマー病の病理ならびに進行と関連する斑点状の部位である
この研究はNeurology誌の印刷版print editionで発表された

「年老いた人の脳を免疫組織化学染色immunohistochemistryで調べると、被験者18人の全てでLPSとE coli K99が検出された」
筆頭著者first authorのXinhua Zhanは言う
彼はUC Davis神経学部とMIND研究所の准研究教授associate research professorである

※MIND: マサチューセッツ総合病院-マサチューセッツ神経変性疾患総合研究所/MassGeneral Institute for Neurodegenerative Disease

「ウェスタンブロット分析によると、アルツハイマー病の脳では対照群と比較してK99が有意に増加していた
アルツハイマー病の脳の血管やアミロイドプラークではLPSがアミロイドβと共に局在していた」

研究者たちは細菌がアルツハイマー病を引き起こすのか、それともアルツハイマー病の結果として起きることなのかを確かめてはいない


グラム陰性菌の多くは病原性pathogenicであり、その中には大腸菌/E. coli、ピロリ菌/Helicobacter pylori、サルモネラ菌/salmonella、肺炎クラミジア菌/Chlamydophila pneumoniae、赤痢菌/Shigellaが含まれる

研究者たちの間では以前から感染症がアルツハイマー病のリスクを増すことが知られていた
しかしながら、アルツハイマー病患者の脳内でのグラム陰性菌への抗体や細菌分子のレベル上昇が、疾患の病理と関連することが判明したのはこれが初めてである

今回の研究は以前のSharpのラボでの動物実験の結果を元にしている
その研究では細菌のLPSと虚血/低酸素との組み合わせがアミロイドβを増大させ、アミロイドプラーク状の凝集物を作り出しうることが示されていた


今回の研究では、アルツハイマー病患者の灰白質と白質の24のサンプルを、認知機能低下のエビデンスを示さない人々から得られた18のサンプルと比較した
アルツハイマー病の診断基準としてはCERAD基準(Consortium to Establish a Registry for Alzheimer's disease criteria)を使用した

LPSとK99はどちらのグループでも観察されたが、有病率prevalenceはアルツハイマー病患者の方が高かった

ウェスタンブロット分析ではアルツハイマー病患者の灰白質中にK99が13人中9人で見られたが、対照群では10人中1人だけだった
K99レベルの上昇はアルツハイマー病患者の白質サンプルでも観察された
同様にLPSも6つのサンプル(ウェスタンブロット分析で灰白質と白質のサンプルがそれぞれ3つ)の全てで観察されたが、対照群では全く見られなかった

「脳内に細菌の分子が見つかったことには驚くが、アルツハイマー病の脳内により多く見られたことはとても驚いた」
神経学の教授で首席著者senior authorのFrank Sharpは言う

これまでも脳内に感染病原体infectious agentsが認められてきたが、細菌の分子が全ての脳内に一致して見つかったのは今回が初めてである


研究者たちは発表の前に4年を費やしてこれらの結果を確認してきた
LPSは一般に多くの試薬に見られるため、彼らは特にサンプルの汚染を心配していた
しかしながら、アルツハイマー病のサンプルと対照群との間の差differential、そしてアルツハイマー病の脳内でのそれら分子の独特な局在は、研究チームがそのような落とし穴pitfallを避けたことを示しているように思われた

これらの研究結果は、感染病原体がどのようにしてアルツハイマー病に影響するのかについてのさらなる調査への必要性に焦点を当てる

アルツハイマー病患者の脳内サンプルでLPSとK99が発見されたことは幸先が良いスタートだが、研究者たちは細菌が疾患の病理にどのように関与しているのかを研究しなければならないだろう
細菌感染とアルツハイマー病との間のつながりが証明されたことは、疾患の予防と治療のための新たな機会をもたらす可能性がある

「もしLPSが原因であるcausativeのなら、我々が通常行っているよりも強力にLPSを無効化immunizeするか、グラム陰性菌による感染を治療できる」
Sharpは言う


今回の結果は確認のためにより大規模な研究で再現される必要があるだろう
加えて、グラム陰性菌が直接疾患の進行に影響しているのか、それとも単に他のプロセスの副産物であるのかは不確かである

「我々はこれらの細菌の構成要素を年老いた被験者の脳内で検出した」
Zhanは言う

「我々の次の段階は、これがアルツハイマー病の原因なのか結果なのかを解決することだ
グラム陰性菌の分子は疾患を引き起こす原因なのか?
それともアルツハイマー病になると、より多くの細菌の分子が脳内に入り込むのか?」


http://dx.doi.org/10.1212/WNL.0000000000003391
Gram-negative bacterial molecules associate with Alzheimer disease pathology.



Abstract

目的/OBJECTIVE:
我々はグラム陰性菌の分子がアルツハイマー病の神経病理と関連するのかどうかを決定した
それは以前の研究でグラム陰性菌の大腸菌/Escherichia coliが細胞外アミロイドを形成することが実証されており、加えてグラム陰性菌が正常なヒトの脳内でも見られる支配的な細菌であると報告されていることを考慮してのことである

方法/METHODS:
アルツハイマー病患者24人と、年齢をマッチさせた対照群18人から得られた灰白質と白質の脳サンプルを調べた
リポ多糖/lipopolysaccharide (LPS) と E coli K99 pili タンパク質は、ウェスタンブロットと、免疫細胞化学immunocytochemistryによって評価した
ヒト脳サンプルは、E coliのDNAに関して評価し、その後にDNAシーケンシングで検討した

結果/RESULTS:
LPSとE coli K99は、対照群の脳と比較して脳実質parenchymaで免疫化学染色により検出された
アルツハイマー病と対照群の全ての脳実質と血管が、免疫細胞化学的に検出されている

ウェスタンブロットで計測されたK99レベルは、対照群と比べてアルツハイマー病で高かった (p < 0.01)
K99はアルツハイマー病の脳ではニューロン様細胞に局在していたが、対照群の脳ではそうではなかった

LPSレベルは、対照群と比較してアルツハイマー病で高かった
LPSはアルツハイマー病の脳内のアミロイドプラーク内ではAβ1-40/42と共に局在し、血管周囲ではAβ1-40/42と共に局在していた

DNAシーケンシングによりヒトの対照群とアルツハイマー病群の脳内でE coliのDNAを確認した

※Aβ1-40: Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Glu-Asp-Val-Gly-Ser-Asn-Lys-Gly-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val
DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV

※Aβ1-42: Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Glu-Asp-Val-Gly-Ser-Asn-Lys-Gly-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val-Ile-Ala
DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA


結論/CONCLUSIONS:
E coli K99とLPSのレベルは対照群の脳よりもアルツハイマー病の脳内で高かった
LPSはアルツハイマー病の脳のアミロイドプラーク内ならびに血管周囲でAβ1-40/42と共に局在していた
このデータはグラム陰性菌の分子がアルツハイマー病の神経病理neuropathologyと関連することを示す

それらは我々の『LPS-虚血-低酸素ラットモデル』と一致する
そのモデルではミエリン凝集を生じる
この凝集はAβと共に局在し、そしてアミロイド様プラークと似ている



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高血糖は免疫系の機能不全を引き起こす
ジカルボニル化合物(メチルグリオキサール/グリオキサール)で処理した抗菌ペプチドのヒトβ-ディフェンシン-2は、グラム陰性細菌の攻撃を止める能力が大幅に低下した



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Aβは脳内の天然の抗生物質/抗菌ペプチドである




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腸内細菌のcurliがタンパク質凝集と脳内の炎症につながり、アルツハイマー病などの神経変性の一因となる



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腸内細菌のバイオフィルムと自己免疫疾患



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腸内細菌を殺す抗生物質は、海馬の神経細胞の増殖も止める
抗生物質を使うと脳内のLy6C hi単球が減少して記憶力が低下したが、運動かプロバイオティクスで改善した



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抗生物質は腸内微生物叢の変化によりアルツハイマー病の進行を弱める
マウスへの長期の抗生物質投与はプラークレベルを低下させ、ミクログリアの神経炎症活動を促進した



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血管のアミロイドはニューロン周囲のアミロイドとは構造が異なる



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https://www.sciencedaily.com/releases/2015/05/150522083317.htm
Aβを分解するネプリライシンneprilysinと、Aβを排出させるABCC1、それらを両方とも欠くマウスはアルツハイマー病のようになった



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/8ab2c14e5c92528c45a0b42d1db98364
HtrA1はタウタンパク質を分解させ、プラークが作られないようにAPPを切断するが、アポE4はHtrA1に強く結合するのでタウが分解されずプラークが作られるようになる

 

腸の微生物はパーキンソン病モデルマウスの運動障害を促進する

2016-12-05 06:06:54 | 
Gut microbes promote motor deficits in a mouse model of Parkinson's disease

December 1, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/12/161201122159.htm


(Sampsonらの研究によると、腸内微生物からのシグナルはパーキンソン病のモデル動物における神経炎症応答、そして特徴的な胃腸障害ならびにα-シヌクレイン依存的な運動障害にとって必要だという

Credit: Sampson et al./Cell 2016)

遺伝的にパーキンソン病にかかりやすくしたマウスでのパーキンソン病に似た運動障害movement disordersの発症には、腸の微生物が重要な役割を演じるかもしれないということをカリフォルニア工科大学/California Institute of Technologyの研究者が12月1日にCell誌で報告した
抗生物質の投与はマウスモデルでの運動障害motor deficitならびにパーキンソン病の分子レベルでの特徴を減少させ、逆にパーキンソン病患者からの腸内微生物の移植はマウスモデルの症状を悪化させた
この研究結果はアメリカで二番目に多い神経変性疾患であるパーキンソン病の新しい治療戦略につながる可能性がある


「我々は腸の微生物叢とパーキンソン病との間の生物学的なつながりを初めて発見した
より一般的には、神経変性疾患の起源がこれまで考えられていたような脳だけでなく、腸にもあることをこの研究では明らかにした」
首席著者senior study authorのSarkis Mazmanianは言う

「微生物の変化がパーキンソン病に関与するかもしれないという今回の発見はパラダイムシフトであり、患者の治療にとって全く新しい可能性を開く」


パーキンソン病はアメリカで推定100万人、60歳を越える人口の1パーセントが罹患している
この疾患は異常な形状のα-シヌクレインというタンパク質がニューロンに蓄積することが原因であり、運動をコントロールする脳の領域に位置するドーパミン放出ニューロンに特に有害な影響を生じる
結果として患者は消耗性の/衰弱させるような症状debilitating symptoms、例えば振戦tremors、筋硬直muscle stiffness、動きの緩慢さslowness of movement、歩行障害impaired gaitなどを経験する
現在の第一選択療法first-line therapiesは脳内のドーパミンレベルを上昇させることが中心だが、そのような治療は深刻な副作用を生じることがあり、薬が有効性を失うことがしばしばである


より安全でより効果的な治療が必要とされる現状に対処すべく、カリフォルニア工科大学のMazmanianと筆頭著者first authorのTimothy Sampsonは、興味深い可能性intriguing possibilityとして腸の微生物に注目した
パーキンソン病の患者では腸の微生物叢microbiomeが変化しており、しばしば便秘constipationのような胃腸の問題が、運動障害が出る何年も前に先行して起きる
さらに、腸の微生物はニューロンの発達や認知能力、不安、うつ病、自閉症などに影響することがこれまで示されてきている
しかしながら、神経変性疾患においては、腸の微生物の役割を支持する実験的なエビデンスは欠けていた


工科大学の研究者たちは、パーキンソン病のような症状を生じるよう遺伝学的に修飾したマウスを通常の『滅菌していないケージ/non-sterile cage』か、または『無菌の環境/germ-free environment』のどちらかで飼育raiseした

すると興味深いことに、無菌状態のケージで育てたマウスは、そうでないマウスよりも運動障害が少なく、運動をコントロールする脳の領域内ではミスフォールドしたタンパク質の凝集の蓄積が少ないことが示された
事実、このマウスは様々な課題でほとんど正常なパフォーマンスを示した
課題とは例えば、棒渡りtraversing a beam、鼻から粘着材を取り除くremoving an adhesive from their nose、棒降りclimbing down a poleである

抗生物質の投与は、パーキンソン病のような障害を生じやすいマウスの運動症状の軽減に対して、無菌環境と同様の効果があった

対照的に、無菌のケージで育てられたマウスでも、細菌の代謝産物である短鎖脂肪酸を投与されたり、ヒトのパーキンソン病患者の腸内微生物を糞便で移植されると運動症状の悪化を示した

合わせて考えると、この結果が示唆しているのは腸内の微生物が運動症状を悪化させ、
そしてそれは折りたたみに失敗した/ミスフォールドしたmisfoldedタンパク質が凝集しやすい環境を作り出すことによるということである


加えて今回の研究では腸内の微生物が『特定の遺伝的要素genetic factor』と協力してパーキンソン病の発症リスクに影響したことに注目することが重要である
今回の研究ではα-シヌクレインの蓄積を通じて運動症状を再現する特定の遺伝学的マウスモデルを使ったのであって、
遺伝学的に正常なマウス、つまりパーキンソン病を発症しやすいわけではないマウスは、パーキンソン病患者から糞便移植を受けても運動症状を発症しなかったのである
他の遺伝的要因や環境的な要因、例えば殺虫剤への曝露pesticide exposureもまたパーキンソン病に関与する


今回の研究結果はプロバイオティクスprobioticsや、プロバイオティクスを促進するプレバイオティクスな治療prebiotic therapiesが、パーキンソン病の症状を軽減する能力があることを示唆する
しかしながら、抗生物質antibioticsや糞便による微生物の移植は、現時点では実現からは程遠い

「我々が今回の研究で実施したような長期間の強力な抗生物質の使用は、ヒトでは著しいリスク、例えば免疫機能や代謝機能の障害を伴う」
とSampsonは警告する

「腸内細菌は生理的に巨大な利益をもたらす
そして我々はまだ、どの細菌がパーキンソン病で有害なのか、または有益なのかを知るためのデータを持っていないのである」

したがって、どの病原性微生物がパーキンソン病リスクの上昇や総体的症状symptomatologyの重症化に寄与するのかを突き止めることが決定的に重要であり、それこそが彼らの計画している調査の方向性である
また、彼らは運動機能の低下から患者を保護する可能性のある特定の細菌の種類も探している


最後に、パーキンソン病で変化する微生物の種類や代謝産物を突き止めることは疾患のバイオマーカーとしても役立つ可能性があり、それは薬剤の標的にすらなりうる
微生物の不均衡imbalancesを修正するための介入は、このしばしば患者を消耗させる運動障害の進行を遅くするか止めるための、安全かつ効果的な治療をもたらすかもしれない

「他のあらゆる薬剤の発見プロセスと同様、この革新的な研究をマウスからヒトへと応用するには長い年月が必要になるだろう」 Mazmanianは言う

「しかし、これは我々の長期的目的へ向けた重要な初めの一歩である
つまり、我々が発見した腸と脳のつながりに関する深い機構的な洞察を活用し、
パーキンソン病の医療的、経済的、そして社会的な負荷を緩和するのを助けるための一歩である」


http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2016.11.018
Gut Microbiota Regulate Motor Deficits and Neuroinflammation in a Model of Parkinson’s Disease.



Highlights
・腸の微生物は、α-シヌクレインを介する運動障害ならびに脳の病理を促進する
・腸内細菌の枯渇は、ミクログリアの活性化を低下させる
・短鎖脂肪酸/SCFAsはミクログリアを調整modulateし、パーキンソン病の病態生理pathophysiologyを促進する
・ヒトのパーキンソン病患者の腸の微生物叢microbiotaは、マウスの運動障害motor dysfunctionの促進を誘発する


Summary
シヌクレイノパチー/synucleinopathiesはα-シヌクレイン (αSyn) の凝集が特徴であり、パーキンソン病を例とするような運動障害をしばしば引き起こす

今回我々はαSynを過剰発現するマウスを使い、運動障害motor deficits、ミクログリアの活性化、そしてαSynの病理には腸の微生物叢が必要であることを報告する

成体マウスの病態生理pathophysiologyを、抗生物質の投与は緩和し、微生物の再コロニー化は促進することから、
生後postnatalの腸と脳との間のシグナル伝達が疾患を調整modulateすることが示唆される
事実、微生物の特定の代謝産物を無菌マウスに経口投与すると、ニューロンの炎症neuroinflammationならびに運動症状が促進される

注目すべきことに、αSyn過剰発現マウスにパーキンソン病患者からの微生物叢をコロニー化させると、健康なヒトのドナーからの微生物叢の移植と比較して、肉体的な障害physical impairmentsが促進される

これらの研究結果は腸の細菌が運動障害を調節することを明らかにするものであり、
ヒトの微生物叢microbiomeの変化はパーキンソン病のリスク要因を代表することを示唆している



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CAMPを投与するとインスリン分泌が2倍になった
 

血管のアミロイドはニューロン周囲のアミロイドとは構造が異なる

2016-11-23 06:06:51 | 
Unique structure of brain blood vessel amyloid latest clue to Alzheimer's development?

November 21, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/11/161121204116.htm


(赤は脳の血管、緑は血管アミロイドvascular amyloidの蓄積を示す
堆積物を構成するアミロイドの原繊維は、血管アミロイドに独特な徴候を示す

Credit: Image courtesy of Stony Brook University)

タンパク質の断片であるアミロイドが脳内に多く蓄積することは、アルツハイマー病のような痴呆症の発症と関連付けられてきた
今回ストーニーブルック大学の神経科学と生化学の研究チームは、脳の血管へのアミロイドの蓄積とニューロンの周囲へのアミロイドの蓄積の違いを初めて明らかにした
11月21日にNature Communications誌で発表された彼らの研究結果はアルツハイマー病とその原因の解明に向けた新たな道を開くかもしれない

神経外科学の教授であるWilliam Van Nostrand, PhDは、今回の研究が生化学・細胞生物学の教授であるSteven Smith, PhDとの共同研究に由来すると述べた
彼らが脳の血管に蓄積するアミロイドの構造的な徴候を詳細に分析し、ニューロン周囲のプラークに蓄積するアミロイドの構造と比較したところ、血管に蓄積するアミロイドのサブユニットは『互い違いのパターンalternating patterns』という独特の並び方をしており、ニューロン周囲のプラークのアミロイド蓄積とはほとんど正反対のパターンで存在していることが判明した

「今回の発見は新たな診断ツールや、この血管の病理を示す認知症患者のための治療的介入の開発へと我々を導くかもしれない」
とVan Nostrand博士は要約した

彼らは脳血管のアミロイドの独特な構造が異なる病理学的な応答や炎症を促進しうると仮説を立てた
それは認知障害や痴呆症にとって、ニューロン周囲のアミロイドとは異なる要因となりそうである


http://dx.doi.org/10.1038/ncomms13527
Cerebral vascular amyloid seeds drive amyloid β-protein fibril assembly with a distinct anti-parallel structure.
脳血管のアミロイドの種は、独特な逆平行構造を持つアミロイドβタンパク質原繊維の組み立てを刺激する

※逆平行/antiparallel: 鎖状の二本鎖で互いの方向性が逆になっている構造を指す。DNAの二重らせんやタンパク質のβシートが代表例


Abstract
アミロイドβタンパク質(Aβ)の脳血管への蓄積は『脳アミロイド血管症/cerebral amyloid angiopathy (CAA)』として知られる病態であり、アルツハイマー病患者の一般的な病理学的特徴である
Dutch-E22QやIowa-D23Nのような家族性のAβ変異は重度のアミロイド脳血管蓄積を引き起こす可能性があり、血管性の認知障害ならびに痴呆症への強力なドライバとして作用する
その独特な病理学的性質の根底にある血管アミロイドの異なる特徴は不明のままである

今回我々はCAA変異体mutantを生じるトランスジェニック・マウスモデル(Tg-SwDI)、またはヒトの野生型のAβを過剰に作るマウス(Tg2576)を使い、CAA変異体の血管アミロイドが野生型Aβの脳内での蓄積に影響することを実証する

また、我々はTg-SwDIマウスから単離した微小血管のアミロイドの種seedが、ヒトの野生型Aβから、独特distinctな逆平行βシート原繊維への組み立てを刺激することを示す


これらの研究結果は脳血管アミロイドが効果的な足場scaffoldとして働き、Aβから独特uniqueな構造への急速な組み立てと強い蓄積を促進することを示す
この独特uniqueな構造はその特有distinctiveの病理に寄与しそうである


http://www.nature.com/articles/ncomms13527/figures/1
Figure 1:
Aβ40-DI CAA mutant amyloid fibril seeds promote the rapid assembly of wild-type Aβ40 and Aβ42 fibrils.



(a) Aβ40-DIのFourier transform infrared(FTIR)スペクトル。逆平行(緑)と平行(黒)のβシート二次構造を持つ
逆平行の原繊維anti-parallel fibrilsは、Tyckoプロトコルを使うと摂氏4度から6度(°C)で形成され、少なくとも22°Cで安定する

※Aβ40-DI: Dutch/Iowa CAA mutant Aβ40 peptide

(b) 22 °Cで得られた逆平行Aβ40-DIの透過型電子顕微鏡(TEM)画像。スケールバーは150 nmを表す
原繊維形成の速度と程度は、thioflavin T fluorescence measurementsによって37 °Cで評価した



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https://www.sciencedaily.com/releases/2015/11/151123201933.htm
Aβは血管に外骨格を形成してアストロサイトと血管を分離させ、認知症の症状を引き起こす




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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/10/161003093400.htm
アルツハイマー病の3割から4割は血管性の痴呆症を併発している
 

アルツハイマー病のタウのもつれをより正確に再現するモデル

2016-11-21 06:06:28 | 
More human-like model of Alzheimer's better mirrors tangles in the brain

November 16, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/11/161116094956.htm

タウという元凶のタンパク質がもつれた原繊維はアルツハイマー病(AD)の特徴であり、治療の鍵を握っている可能性が高いために研究者の興味を引いてきた
タウのもつれtau tanglesの形成と拡がりを真似る動物モデルが正確であれば正確であるほど、拡がりを止めるか遅くするための新たな治療をもっとうまく調査することが可能になる

ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院で開発された新しい動物モデルでは、アルツハイマー病患者の脳から単離されたタウのもつれを使う
それはこれまでの合成したタウのもつれよりもタウの病理を患者の脳に近い状態で示しているという
この研究はペレルマンの神経変性疾患研究センター/Center for Neurodegenerative Disease Research (CNDR) で実施されたもので、学術誌のJournal of Experimental Medicineで報告された

研究で使われたマウスは通常の野生型のマウスであり、そのマウスにアルツハイマー病患者の脳から単離された非常に強力なタウタンパク質(AD-tau)を接種した
AD-tauはマウスの脳内に有害なもつれを誘発し、アルツハイマー病患者の脳で見られるタウのもつれのより現実的な進行を再現した

実験で使われたマウスがトランスジェニックではない、つまりタウタンパク質を過剰発現しないマウスだったというのは重要である
過去の動物実験では(ペンシルバニアの医学部での研究も含めて)合成したタウ原繊維/synthetic tau fibrilsが使われており、細胞間の病的なタウの伝達を関連付けることでアルツハイマー病や関連するタウオパチーがどのように進行するのかについての説明を提供していた
しかしながら、そのような現象はタウを過剰発現するモデルでしか実証されていなかった
しかし、タウの発現の増加は、アルツハイマー病やタウの奇形化を伴う他の病態の原因ではない

「一般にアルツハイマー病の患者はタウを過剰発現したりタウの変異を持ってはいないため、患者で起きていることをもっとうまく真似た状態の病理を再現できるモデルを開発することが重要だ」
首席著者senior authorのVirginia M.-Y. Lee, PhDはそのように言う
彼はCNDRのセンター長directorであり、病理・臨床検査医学/Pathology and Laboratory Medicineの教授でもある

「この新たなモデルは、アルツハイマー病だけでなく他の病的なタウ疾患にとっての新たな方向性への道を開くだろう
他の疾患とは例えば『大脳皮質基底核変性症/corticobasal degeneration(CBD)』や『進行性核上性麻痺/progressive supranuclear palsy(PSP)』のような病態で、それらはパーキンソン病のような症状を引き起こすが、アルツハイマー病と似た認知障害とも関連する」


正常なタウは神経細胞の機能を適切に保つのを助けるが、病的なタウは有害になり『ミスフォールド/misfold』する
それは神経原線維変化/neurofibrillary tangle(NFT)というタンパク質凝集の形成を引き起こし、NFTはアルツハイマー病と密接に関連する
NFTは脳内を細胞から細胞へと移動してもつれ/tanglesを形成することが示されており、まず記憶を形成する領域が冒され、やがて思い出すことと関連する外側の領域へと拡がっていく

ペンシルバニア大学や他のチームはこの分野の研究でタウのもつれを合成し、タウを過剰発現するトランスジェニックマウスに使うことで、そのような拡散を模倣していた
しかし現在に至るまで、トランスジェニックではない通常のマウスでは奇形化したタウタンパク質/misshapened tau proteinを作り出すことはできておらず、仮説を完全に支持するには十分ではなかった

※タウのもつれの合成: タウは可溶性が高いため、線維化するためにヘパリンを使っていた


著者たちの知る限り、AD-tauを接種して数ヶ月以内に説得力のある十分な量のタウのもつれが複数の脳の領域に誘発されたというのはこれが初めてである
著者によると、今回の観察結果はヒトのタウオパチーにおける病的なタウの細胞間の伝達が強い生理学的な関連性physiological relevanceを持つという仮説を最も強力に支持するものだという

「この適切なrelevantマウスモデルにより我々は機構的な調査や治療法の調査でタウの構造architectureとその生理学的な結果をうまく研究できるようになる」とLeeは言う

「それだけではなく、このマウスモデルは他の要因、たとえばアルツハイマー病のもう一つの特徴であるアミロイドプラークがタウの拡散にどのように寄与するのか、そしてCBDやPSPのような他の疾患ではタウがどのように拡がるのかといった重要な疑問を調査するための実験的な枠組みをも提供するのである」


http://dx.doi.org/10.1084/jem.20160833
Unique pathological tau conformers from Alzheimer’s brains transmit tau pathology in nontransgenic mice.


Abstract
繊維状filamentousのタウ凝集は、アルツハイマー病などの多くの神経変性疾患で見られる特徴的な病巣である

細胞培養や動物の研究では、タウの原繊維は細胞間を伝わりcell-to-cell transmission、可溶性タウが凝集するための種となるseed aggregation of soluble tauことが示されてきたが、その現象がしっかり実証されているのはタウを過剰発現するモデルだけである

今回の研究で我々はトランスジェニックではないマウスの脳内にアルツハイマー病患者の脳から精製purifyされたタウ原繊維(AD-tau)を接種し、解剖学的に接続された脳領域内にタウの封入体inclusionが豊富に形成されることを明らかにした
しかしそれは合成したタウ原繊維では起きなかった

AD-tauによってシーディングされたseeded 組み換え型のrecombinantヒトのタウを使った実験では、コンフォメーションの独特な特徴が明らかになった
それは合成したタウ原繊維とは異なっており、タウが凝集するためのシーディングの生理学的なレベルがそれぞれ異なることの根拠となる可能性がある

したがって、我々の研究は孤発性タウオパチーsporadic tauopathiesのマウスモデルを確立し、人工的に作られたタウ原繊維とアルツハイマー病の脳内で生じる本物authenticのタウ原繊維との間の重要な違いを示す


Introduction
タウは高い可溶性を持つため、in vitroでのタウの効率的な線維化はポリ・アニオンのコファクター/polyanionic cofactorsの存在下でのみ可能であり、ヘパリンが最も一般的に使われる薬品である (Goedert et al., 1996; Kampers et al., 1996; Chirita et al., 2003)
ヘパリンによって誘発されるタウ繊維はアルツハイマー病で見られる βシートが豊富な不溶性アミロイド繊維の『ペアとなったらせん状の繊維/paired helical filaments (PHF)』と似ていると考えられたため、
PHF組み立ての構造的メカニズムを調査するために広く使われた (Friedhoff et al., 1998; Mandelkow et al., 2007; Siddiqua and Margittai, 2010)


Discussion
以前にも似たような実験はあったがうまくいかず、そこではAD患者の脳の抽出物を「生crude」のまま使っていた (Clavaguera et al., 2013)



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タウはエンドサイトーシスによってシナプス間を移動し、エンドソーム膜を破損させて病理を伝える




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タウはプリオンのように伝わり、タウ凝集の立体構造の違いが異なる神経変性につながる





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タウは微小管を安定させるが、その3次元構造が安定しないと立体構造が変化して塊を形成するか蓄積し、その蓄積はアルツハイマーなどの認知症と関連する
コンピュータシミュレーションでタウタンパク質と尿素ureaとトリメチルアミンオキサイドTMAOとの間の水素結合hydrogen bondsを解析した




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カスパーゼによって切断されたタウがPSPのような神経変性につながる

 

アミノ酸の繰り返しがどのようにして疾患につながるのか

2016-11-19 06:06:30 | 
Hunt for Huntington's cause yields clues

November 10, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/11/161110120745.htm


※Q: グルタミン

(ライス大学のシミュレーションにより、ハンチントン病などの神経変性疾患では異常タンパク質のアミノ酸の繰り返し配列がどのようにして疾患を引き起こすのかが示された
この研究では、凝集を始めるためにいくつのタンパク質が必要になるのか、その必要なタンパク質の数にとって決定的に重要なのはアミノ酸の繰り返しの数であることが確かめられた
上の画像は、アミノ酸のリピート数が20または30のタンパク質は繊維の核となるためにそれぞれ異なる形態を取ることを表す

Credit: Graphic by Mingchen Chen)

ライス大学の科学者たちは、変異タンパク質をコードする遺伝子内のヌクレオチドの繰り返し配列がどのようにしてハンチントン病や他の神経変性疾患を引き起こすのかを明らかにした
ライス大学の理論生物物理学センター/Center for Theoretical Biological Physicsの研究者はコンピューターモデルを使い、折りたたみに失敗/ミスフォールディングmisfoldingしてプラークを形成すると疑われているタンパク質を分析した
彼らのシミュレーションでは他のラボによる実験結果、つまりタンパク質に含まれるグルタミンの繰り返し配列の長さが疾患の発症にとって決定的に重要であるという実験結果が確認された
ライス大学の生物科学者bioscientistであるPeter Wolynesを中心とする今回の研究結果は、学術誌のJournal of the American Chemical Societyで発表される


グルタミンはゲノム中の3つのヌクレオチド、CAGによってコードされるアミノ酸である
グルタミンの繰り返し(いわゆるポリグルタミン/polyglutamines)は、疾患の原因タンパク質に存在する
正常なタンパク質にも繰り返し配列は存在するが、DNAの複製が不正確だとグルタミンの繰り返し配列は異常なまでに長くなる
その結果として起きる疾患がハンチントン病や脊髄小脳失調症/spinocerebellar ataxia(SCA)である

グルタミンの繰り返しの数は、遺伝子をコードする情報が世代から世代へと代々伝えられてpassed downいくにつれて増えていく可能性がある
例えばハンチントン病の原因となるタンパク質はハンチンチンhuntingtinだが、それをコードする親の遺伝子のグルタミンの繰り返しが35回の場合、その子どもの繰り返しの数は36回になるかもしれないということである
繰り返しの数が長いほどハンチントン病を発症する可能性が高くなり、ハンチントン病におけるタンパク質の凝集は一般にポリグルタミン鎖のグルタミンの繰り返しが36回に到達した時にのみ生じる
これまでの研究で、鎖の繰り返しの数が長いほど疾患は重症となり、発症は早まることが実証されてきた

今回の論文は以前アミロイドベータ(Aβ)タンパク質の研究で使われた技術を元にしてまとめたものである
その研究は、アルツハイマー病に関連するアミロイド凝集での『エネルギーの特性/ランドスケープenergy landscape』をモデル化しようとラボが初めて試みたものである
今回Wolynesと彼のチームが興味を持っていたのは、繰り返しの長さを変化させること(例えば20回未満と50回以上)が、どのように凝集の形成のされ方に影響するのかということだった


「ハンチントン病の患者で最終的に形成されるのは肉眼で見えるmacroscopicほどの凝集物で、それは多くの分子からできている
たとえれば、それは水からできた氷の結晶がその内部に多くの分子を持つのとほぼ同じようなものだ」
Wolynesは言う

「この凝集プロセスはいつかどこかで始まる必要があり、それには『核/nucleus』が伴う
核は微小サイズの分子の集まり/クラスターclusterであり、このプロセスが完了すると肉眼で見えるサイズまで成長するだろう」

「グルタミンの繰り返しの長さは疾患の重症度と相関することが知られていた
我々が知りたかったのは、なぜそのような長さが『決定的となる核のサイズ/critical nucleus size』にとって重要なのかということだった」


実験ではグルタミンの繰り返しが20回以下だとフォールディングされない、いわゆる『noodle-y』のままであり、それが凝集できるのは4つ以上が近くに集まった時だけだった

シミュレーションでは30回以上の繰り返しの配列はパートナーを必要とせず、それ自体だけでどのようにしてフォールディングしてヘアピン型の形状になるのかが示された
このフォールディングした『ヘアピン』が、やっかいな凝集物の材料になる
したがって、配列が長くなればなるほど、単一のタンパク質でさえも凝集プロセスを開始できる
それは特に高濃度で起きやすい

ライスの研究チームは、ポリグルタミン配列の繰り返しが20回と30回との間の中間の長さ(26回)で、形状configurationsがまっすぐかヘアピンかが切り替わりうることを明らかにした
配列がより長くてもより短くても一列に並んだaligned繊維の束が形成されるが、中間の長さの配列は乱れて枝分かれした構造disordered, branched structuresを取ることがシミュレーションで示された

「枝分かれすることが良いのか悪いのかはわからない」
Wolynesは言う

「しかし、それは試験管の実験で得られる奇妙weirdな形状を説明する」


さらに、ポリグルタミン配列をフォールディングしないままにしておく突然変異は、凝集に対するエネルギーの障壁energy barrierを上昇させるだろうということを研究チームは発見した

「皮肉なのは、ハンチントン病はミスフォールディング疾患と分類されてきたが、それが起きる理由は、長すぎる繰り返し配列を持っている場合のタンパク質は、本来するはずのない余分なフォールディング・プロセスを実行するからということだ」
Wolynesは言う

チームが現在進めている研究では、グルタミンの繰り返し配列に加えて別の部分を持つ完全なハンチンチンタンパク質がどのようにして凝集するのかについて調査している


http://dx.doi.org/10.1021/jacs.6b08665
The Aggregation Free Energy Landscapes of Polyglutamine Repeats.
ポリグルタミンリピート凝集における自由エネルギーのランドスケープ




Abstract
ポリグルタミン (polyQ) の繰り返しrepeatsを含むタンパク質の凝集は、複数の神経変性疾患と強い関連がある
繰り返しの長さは疾患の重症度と相関する

以前の研究で、純粋なpolyQペプチドは核化から成長したポリマー化nucleated growth polymerizationによって凝集することが示されており、
決定的となる核のサイズ/critical nucleus size (n*) は、ポリグルタミンの長さがQ18からQ26まで伸びるにつれて、四量体からニ量体・単量体まで低下する
なぜ決定的となる核のサイズがリピートの長さで変化するのかは不明だった

我々は『associative memory, water-mediated, structure and energy model(AWSEM)』を使い、異なる長さのpolyQペプチドに関して凝集の自由エネルギーのランドスケープを構築した

これらの研究から示されたのは、より短い繰り返しの長さの単量体monomer (Q20) は伸びたコンフォメーションextended conformationを選び、その凝集物が三量体の核/trimeric nucleus (n* ∼ 3) を持つ一方で、
より長い繰り返しの長さの単量体 (Q30) はβ-ヘアピンのコンフォメーションを選ぶということである
β-ヘアピンのコンフォメーションは下り坂を下るように/in a downhill fashion、0.1ミリモルで凝集する

中間の長さのペプチド (Q26) に関しては、単量体においてヘアピン状の形状と伸びた形状が等しく選択equal preferenceされ、混合した不均一なmixed inhomogeneous核化メカニズムによって繊維の形成につながる

この予想される単量体の構造の変化ならびに核化のメカニズムは、ヘアピン形状を選びやすい『箇所特異的なポリグルタミン突然変異site-specific PG mutations』を持つポリグルタミンの繰り返し配列に関して、凝集の自由エネルギープロファイルを研究することで確かめられる
それはこのシステムでの実験と一致する結果をもたらす



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160816151900.htm
ハンチンチンのセリン421のリン酸化は、マウスをハンチントン病から保護した
リン酸化はタンパク質の折りたたみや除去を調節する
 

プロバイオティクスはアルツハイマー病患者の認知を改善する

2016-11-17 06:06:02 | 
Probiotics improve cognition in Alzheimer's patients

November 10, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/11/161110162840.htm

カーシャーン医学大学/Kashan University of Medical Sciencesの科学者たちは、プロバイオティクスprobioticsがヒトの認知機能を改善できることを初めて示した
プロバイオティクスはヒトにとって有益な生きた細菌や酵母のことで、サプリメントdietary supplementsとして摂取されている

今回の臨床試験では年老いたアルツハイマー病患者にプロバイオティクスのラクトバチルスLactobacillusとビフィドバクテリウムBifidobacteriumを毎日、12週間だけ摂取させ、それがミニメンタルステート検査という認知障害を測定する標準的な尺度において中程度moderateだが有意significantなスコアの改善を引き起こすのに十分であることが示された

プロバイオティクスは様々な疾患に対して部分的にせよ保護することが知られており、特定の感染性の下痢や、過敏性腸症候群/irritable bowel syndrome、炎症性腸疾患/inflammatory bowel disease、湿疹/eczema、アレルギー/allergies、風邪/colds、虫歯/tooth decay、歯周病/periodontal diseaseなどに有効である

しかし科学者たちは長年の間、プロバイオティクスは認知をも加速するかもしれないという仮説を立てていた
なぜなら、腸の微生物叢microfloraと胃腸管、そして脳との間には、神経系・免疫系・ホルモンなどを通じて継続的に両方向のコミュニケーションが存在するからである(いわゆる『微生物叢-腸-脳の経路/microbiota-gut-brain axis』)

実際、マウスへのプロバイオティクスの投与は学習と記憶を改善することが示されており、しかも不安や鬱、強迫性障害/obsessive-compulsive disorder(OCD)と類似する症状を減少させる
しかし、ヒトに対して何らかの認知的な改善をもたらす利点があるのかどうかについては、今回の研究以前には非常に限られたエビデンスしか存在しなかった


今回、カーシャーン医学大学(カーシャーン)とイスラムアザド大学(テヘラン・イラン)の研究者は、60歳から95歳までの間のアルツハイマー病患者の男女総数52人での『ランダム化二重盲検対照試験/randomized, double-blind, controlled clinical trial』の結果を発表する


この試験では被験者の半数に4種類のプロバイオティック細菌が豊富な200ミリリットルの牛乳を毎日飲んでもらい、もう半分の被験者には普通の牛乳を飲ませた
4種類の細菌は、ラクトバチルス・アシドフィラス/Lactobacillus acidophilus、ラクトバチルス・カゼイ/Lactobacillus casei、ラクトバチルス・ファーメンタム(発酵乳酸桿菌)/Lactobacillus fermentum、ビフィドバクテリウム・ビフィダム/Bifidobacterium bifidumであり、1種あたり約4000億の細菌が含まれていた

12週間の実験期間の初めと終わりに血液サンプルを採取して生化学的な分析を実施し、加えてMMSEの質問表を用いて被験者の認知機能をテストした
MMSEの課題とは例えば、現在の日付を答える、100から7ずつ減らして数える、物の正しい名を言う、語句の復唱、絵画の模写などである

研究を通じてMMSE質問表の平均スコアは、プロバイオティクスを投与されたグループで有意に上昇した(最高30点中、8.7から10.6まで上昇)が、対照グループでは上昇しなかった(8.5から8.0)
この上昇は中程度であり、被験者の全員が依然として重度の認知障害だったものの、これらの結果は重要である
なぜならプロバイオティクスがヒトの認知を改善できるということが初めて示されたからである

将来さらに多くの患者と長い期間の試験を実施して、プロバイオティクスの有益な効果が長期の投与後にもっと強くなるのかどうかをテストすることが必要である


「我々は以前の研究で、糖尿病モデルのラットでの空間的な学習と記憶の障害がプロバイオティックな治療により改善することを示した
しかし、プロバイオティックなサプリメントが認知に障害のあるヒトでも有益であることを示したのは今回が初めてである」
研究の首席著者/senior authorであるカーシャーン大学/Kashan UniversityのMahmoud Salami教授は言う


さらに、プロバイオティクスの投与によりアルツハイマー病患者の血液中のトリグリセリド、超低密度リポタンパク質/Very Low Density Lipoprotein(VLDL)、高感度C-反応性タンパク/high-sensitivity C-Reactive Protein (hs-CRP) という生化学的な指標のレベルが低下する結果になった
加えて、インスリン抵抗性とインスリン産生細胞の活動を示すために広く使われる2つの計測値、HOMA-IRとHOMA-Bが低下した

※HOMA: Homeostatic Model Assessment


「これらの研究結果が示すのは、プロバイオティクスがアルツハイマー病やおそらく他の神経疾患にも影響するメカニズムは『代謝的な調整における変化/change in the metabolic adjustments』であるということだ」
Salamiは言う

「我々は次の研究で、そのメカニズムをさらに詳細に調べようと計画している」


今回の研究をレビューしたルイジアナ州立大学の神経学・神経科学・眼科学/Ophthalmologyの教授、Walter Lukiwは次のように言う
「この初期の研究は興味深く、そして重要だ
なぜなら、胃腸管(GI)の微生物叢/マイクロバイオームmicrobiomeの要素が神経学的な機能に関与するというエビデンスを提供するからだ
そして、原理上、プロバイオティクスがヒトの認知を改善しうることも示す」

「これは我々の最近の研究のいくつかと同一線上にある
我々は以前、アルツハイマー病患者の胃腸管の微生物叢が、年齢をマッチさせた対照群と比較して構成が著しく変化していることを示している
そして(患者の)胃腸管と血液脳関門は両方とも加齢にしたがって著しく漏れやすくなることも示しており、したがって胃腸管の微生物からの滲出物exudates、例えばアミロイド/amyloids、リポ多糖/lipopolysaccharides(LPS)、内毒素/endotoxins、小分子ノンコーディングRNAなどが中枢神経系の区画までアクセス可能になる」


http://dx.doi.org/10.3389/fnagi.2016.00256
Effect of Probiotic Supplementation on Cognitive Function and Metabolic Status in Alzheimer's Disease: A Randomized, Double-Blind and Controlled Trial.
プロバイオティックなサプリメントがアルツハイマー病の認知機能と代謝状態に与える効果: ランダム化二重盲検対照試験

Abstract
12週間の介入後のMMSEスコアは、対照群 (−5.03% ± 3.00) と比較して、プロバイオティック投与群 (+27.90% ± 8.07) は有意な改善を示した (P <0.001)

さらに、プロバイオティック群では対照群と比較して次のような変化が見られた(プロバイオティック群 vs. 対照群)

血漿中の
マロンジアルデヒド/malondialdehyde (−22.01% ± 4.84 vs. +2.67% ± 3.86 μmol/L)

血清中の
高感度C-反応性タンパク (−17.61% ± 3.70 vs. +45.26% ± 3.50 μg/mL)
トリグリセリド (−20.29% ± 4.49 vs. −0.16% ± 5.24 mg/dL)

インスリン抵抗性/HOMA-IR (+28.84% ± 13.34 vs. +76.95% ± 24.60)
β細胞の機能 (+3.45% ± 10.91 vs. +75.62% ± 23.18)
インスリン感受性検査指数/quantitative insulin sensitivity check index(QUICKI) (−1.83 ± 1.26 vs. −4.66 ± 1.70)

プロバイオティックの投与は、酸化ストレスと炎症、空腹時血漿グルコース、ならびに他の脂質プロファイルなど他のバイオマーカーに対しては際立った効果はなかった
全体として、12週間のプロバイオティクスの投与はアルツハイマー病患者の認知機能ならびにいくつかの代謝的ステータスに正の影響を与えることが今回の研究で実証された



関連サイト
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%B3
ロイテリン(Reuterin)は、ラクトバチルス・ロイテリ菌がシアノコバラミン依存ジオールジヒドラーゼによりグリセロールを1,3-プロパンジオールに代謝する際に生成する強い抗生物質である。
抽出されたロイテリンは、腸管出血性大腸菌O157やリステリア・モノサイトゲネスを殺すことができ、乳酸がその効果を高める。



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/12/151202142210.htm
メトホルミンが効く理由の一因は腸内細菌の変化とそれによる酪酸などの短鎖脂肪酸による



関連記事
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/cvdprem/blog/furukawa/201307/531369.html
肉に多いカルニチンからTMAOへの腸内での変換には腸内細菌叢が重要



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150225142549.htm
タウタンパク質と、尿素ureaと、トリメチルアミンオキサイドTMAO
神経系に多いタウは微小管を安定させるが、その3次元の構造が安定しないと立体構造が変化して、塊を形成するか蓄積し、その蓄積はアルツハイマーなどの認知症と関連する
コンピュータシミュレーションでタウと尿素とTMAOとの間の水素結合hydrogen bondsを解析した




関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/b6db327c85f490033e248ad4533d1786
腸内細菌が作る短鎖脂肪酸はβ細胞のカテリシジン関連抗菌ペプチド (CRAMP) の発現を促進し、膵臓の免疫細胞を炎症性から調節性へと変換する




関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160224100321.htm
1型糖尿病に関与するとされてきたカテリシジンという細菌を殺すタンパク質 (CAMP) が膵臓でも見つかった
CAMPを投与するとインスリン分泌が2倍になった



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/6533480ade13bb2f6a7879639b1a1f01
腸内細菌のバイオフィルムと自己免疫疾患



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/10/161006092015.htm
腸内細菌のcurliがタンパク質凝集と脳内の炎症につながり、アルツハイマー病などの神経変性の一因となる



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160519130105.htm
腸内細菌を殺す抗生物質は海馬の神経細胞の増殖も止める
抗生物質を使うと脳内のLy6C hi単球が減少して記憶力が低下したが、運動かプロバイオティクスで改善した



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160721072559.htm
抗生物質は腸内微生物叢の変化によりアルツハイマー病の進行を弱める
マウスへの長期の抗生物質投与はプラークレベルを低下させてミクログリアの神経炎症活動を促進した


関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/aaeac9a22d739b53b1af889f3f37a814
抗生物質は細菌だけでなく細胞中のミトコンドリアにも作用する

 

タウはどのようにしてシナプス間を伝わるのか

2016-11-15 06:06:56 | 
Researchers reveal how neurodegenerative diseases spread through the brain

November 9, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/11/161109085807.htm

シナプスは脳細胞がお互いに接触する場だが、有害なタンパク質の伝達transmissionにも重要な役割を演じる
それによりアルツハイマー病のような神経変性疾患は脳内に拡がることが可能になる
これはVIB-KU LeuvenのPatrik Verstreken教授を中心とする新たな研究の主な結論である
研究にはJanssen Research & Development (Johnson & Johnson) が協力した

※VIB-KU Leuven: ベルギーのルーヴェン・カトリック大学/Katholieke Universiteit Leuven(KU Leuven)内にあるフランダース・バイオテクノロジー研究機関/Flanders Institute for Biotechnology(VIB)

もし有害なタンパク質の拡散を阻止することができれば、神経変性疾患の進行はかなり抑制される可能性がある
この研究の論文はCell Reports誌で発表される


アルツハイマー病を含む神経変性疾患では、有害なタンパク質が脳全体に拡がることが知られている
疾患が進行するにつれて、さらに多くの脳の領域が徐々に冒されていく

VIB-KU LeuvenのPatrik Verstreken教授は次のように言う
「コップの水にインクを一滴垂らすのと同じように、有害なタンパク質は脳全体に拡散していく
アルツハイマー病は脳の既存の経路をたどって拡がることが既に知られているが、具体的にどのプロセスが拡散それ自体を可能にするのかはこれまで不明だった」


遺伝的なリスク要因
Genetic risk factors


VIB-KU Leuvenの研究者たちは今回の研究で、有害なタンパク質の伝達を仲介するために決定的に重要なのはシナプスであるという証拠を提供し、このプロセスの背後にあるメカニズムを明らかにする

有害なタンパク質は『小胞vesicles』に取り込まれるengulfedことによって脳細胞から脳細胞へ伝わることが研究で示された
この小胞とは、受け取る側の脳細胞が使う『小さな泡small bubbles』のような構造である
受け取られた小胞はそこで破裂し、有害なタンパク質を放出する

Patrik Verstreken教授は次のように説明する
「我々は『家族歴familial history』がどのようにしてこのプロセスに影響するのかについても示す
ヒトの集団にはアルツハイマー病の発症リスクを上昇させる既知の遺伝的要因が存在するが、
BIN1という一般的な遺伝子バリアントgenetic variantsの一つがシナプスでの有害なタンパク質の伝達に直接影響することを我々は示す
BIN1はシナプスでの伝達を『改善』するが、その際に有害なタンパク質の拡散を可能にする」


次のステップ
Next steps


これらの発見は、神経変性疾患の治療法に関する新たな見方perspectivesをもたらす
有害なタンパク質がどのようにして脳細胞の間を伝播passed onするのかを理解することにより、
そのプロセスを阻害したり、または有害なタンパク質を細胞の『ゴミ入れ/waste bins』へ送るといった治療アプローチを突き止めることが可能になるかもしれない

Janssen Research & Developmentの科学顧問scientific directorであるDieder Moechars博士は次のように言う
「我々の研究はin vitroの実験を基にしたものであり、したがって、in vivoのアルツハイマー病モデルで我々のモデルをテストすることが重要だろう
拡散のメカニズムを知った今、それに干渉するための賢い方法を開発することが我々には必要だ」


http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.09.063
Bin1 Promotes the Propagation of Tau Pathology.
Bin1はタウ病理の伝播を促進する



Highlights
・培養細胞において、エンドサイトーシスはタウ病理の伝播に干渉する
・BIN1は、エンドサイトーシスの流れの負の調整因子negative modulatorである
・BIN1のレベルとタウ病理の伝播は逆の相関を示す
・内部に取り込まれたinternalized タウの凝集物は、エンドソームの膜を透過性にするpermeabilize


Summary
タウ病理Tau pathologyはシナプスで接続された神経回路の内部で伝播propagateするが、根底にあるメカニズムは不明である

BIN1-amphiphysin2は、遅発型アルツハイマー病で二番目に多い遺伝的リスク要因である
疾患の脳ではBIN1-amphiphysin2 のニューロンでのアイソフォームが下方調節されている

今回我々はニューロンでのBIN1-amphiphysin2レベルの低下がタウ病理の伝播を促進することを示す
一方、ニューロンでのBIN1-amphiphysin2の過剰発現は、2つのin vitroモデルでこのプロセスを阻害した
BIN1-amphiphysin2がエンドサイトーシスの流れを負に調節するという我々の発見を考慮すると、タウ伝播の増加はエンドサイトーシスの増加によって引き起こされたと言える

さらに、ダイナミンdynaminを阻害することでエンドサイトーシスを阻止しても、タウ病理の伝播は減少する

我々はガレクチン3結合アッセイ/galectin-3-binding assayを使い、
内部に取り込まれたinternalizedタウ凝集物がエンドソーム膜を損傷させ、取り込まれた凝集物が細胞質に漏れ出して病理の伝播を可能にすることを示す

我々の研究はBIN1レベルの低さがタウ病理の伝播を促進することを示し、それはエンドサイトーシスendocytosisならびにエンドソーム輸送endosomal traffickingによる凝集物内在化を効率的に増加させることによる



関連サイト
http://www.jscb.gr.jp/glossary/glossary.html?category=jh
BAR (Bin/Amphiphysin/Rvs) ドメインスーパーファミリーは『BAR』と総称されるドメインを持ち、BARドメイン、F-BARドメイン、I-BARドメインのサブファミリーに分類される。BARドメインおよびF-BARドメインは、三日月形の二量体を形成し、負に帯電している細胞膜と静電的な相互作用で結合する【画像1】。BARドメインとF-BARドメインは、 三日月型二量体の立体構造における凹面が正に帯電している。この結合様式は、細胞膜の陥入構造に対応すると考えられ、実際に、多くのBARドメイン含有タンパク質 (Amphiphysin やEndophilinなど) や、F-BARドメイン含有タンパク質 (FBP17やFCHo1など) は、エンドサイトーシスなどの細胞膜の陥入構造の形成に関与する。
一方、IRSp53等に含まれるI-BARドメインは、凸面が正に帯電している。よって、陥入構造とは逆の形態である、フィロポディアなどの細胞膜の突起構造の形成に関与する。また、BARドメイン、F-BARドメイン、I-BARドメインの中には、両親媒性ヘリックスなどの脂質膜に挿入されると考えられる部位を持つものがあり、この部位の挿入は、細胞膜の曲率形成を促進する。
全体として、BARドメインスーパーファミリーは、細胞膜の曲率を認識、あるいは生成する機能を有すると考えられている。多くのBARドメイン含有タンパク質は、SH3ドメイン等の他のドメインを伴う。このため、BARドメイン含有タンパク質は、膜の曲率に準拠して、タンパク質を集積させる可能性がある。代表的なSH3ドメイン結合タンパク質は、Arp2/3複合体を活性化するWASPファミリータンパク質や、細胞膜を切断するダイナミン (dynamin) である。



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/5fa6854054e1286ed0a7c0e494ba7ab4
Aβオリゴマーと細胞プリオンタンパク質の複合体は、mGluR5からFynキナーゼを通じてタウのリン酸化につながる




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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/049339c7c42e622ed4fe9abb25e211ba


タウはプリオンのように伝わり、タウ凝集の立体構造の違いが異なる神経変性につながる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/f9b6db10eb549c924494cb2a6f74cca2
α-シヌクレインの伝わり方はプリオンとは異なりシーディングを伴わない



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/e5ac0e6fdfca08e96e23624302f5fb44
α-シヌクレインの凝集物が細胞間を伝わる仕組みを発見




関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/ae5451edbe22e1082bef73eac57a4181
リソソーム内のα-シヌクレイン原繊維はチューブを通じて伝わる


 

アルツハイマー病はどの領域から始まるのか

2016-11-10 06:06:08 | 
Study challenges model of Alzheimer's disease progression

November 4, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/11/161104145811.htm


(上段は基底前脳basal forebrain、下段は嗅内皮質entorhinal cortexの画像
この2つの領域はアルツハイマー病の起源に関して関心を集めている

Credit: Image courtesy of Cornell University)

アルツハイマー病は、長年の研究にもかかわらず何ら有効な治療法が存在しない神経変性疾患である

しかしながら、分子遺伝学における最近の画期的な発見breakthroughsにより、この疾患は感染症のように脳のある領域から近接する別の領域へ拡がることが示されている
そのような発見は、拡がりの源となる最初の箇所まで追跡し、その箇所を標的とする治療法が開発できるようにするための研究の必要性を強調する

今回発表された国際的な協同研究はコーネル大学の助教assistant professorのNathan Sprengやケンブリッジ大学の認知脳科学ユニットのTaylor Schmitzたちを中心とするもので、認知や行動の症状が現れる前でさえ神経組織の変性が現れる領域の『基底前脳basal forebrain』に注目している

彼らが11月4日にNature Communicationsで発表した論文の題名は『基底前脳の変性はアルツハイマーの病理の皮質の拡散に先行し、その拡がりを予言する』で、この研究で使われたデータはアルツハイマー病神経画像検査イニシアチブ/Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)のデータベースから提供された

※ADNI: 「健常な高齢者(200名),軽度の認知障害者(400名),軽症のアルツハイマー病患者(200名)を対象に,心理検査による記憶および各種の認知機能の評価,MRIによる形態画像の検査,PETによる機能画像の検査,脳脊髄液および血液におけるアルツハイマー病の関連物質や遺伝子型の測定などを,半年から1年ごとに最大3年間にわたり実施し,アルツハイマー病の発症を予測するような画像およびバイオマーカーを確定しようとするプロジェクトである(http://events.biosciencedbc.jp/article/11 より)」


基底前脳にはとても大きくそして密に接続したニューロンが含まれ、アルツハイマー病には特に脆弱である
SchmitzとSprengは、アルツハイマー病が進行するにつれて、基底前脳の変性がその後に続いて起きる『側頭葉の記憶に関与する領域』の変性を予測することを示した
このパターンはアルツハイマー病が時の経つにつれて脳の領域を越えて拡がることを示した他の研究と一致するが、しかし今回の研究結果はアルツハイマー病が側頭葉temporal lobeから始まるという一般に広く信じられている考えと対立するものだ


「我々はこの研究が研究分野それ自体の再編成を押し進め、疾患がどこから始まるのかが再評価reappraiseされることを望んでいる」
Sprengは言う

「それは介入interventionへの新たな道を開く
確実にそれは疾患の早期検出のために使われるだろう」

今回の彼らの報告は、年齢を一致させた老人の集団を対象とする大規模な2年間の研究の産物である
この集団はグループの一つが標準的なテストで認知的に正常であり、他のグループは様々な度合いで認知に障害を持っていた

・軽度認知障害/mild cognitive impairment (MCI) だが、アルツハイマー病に進行しなかった人たちのグループ
・MCIで、一年後にアルツハイマー病に進行したグループ
・研究の期間中を通してアルツハイマー病であると分類されたグループ


2年間にわたる研究期間中、高解像度のMRIによる解剖組織画像が3回撮影された
その分析を通じて、MCIまたはアルツハイマーの人たちは認知が正常な対照群と比較して、灰白質gray matterの容量が基底前脳basal forebrainと側頭葉temporal lobeの両方で大きな喪失を示すことが確認された

興味深いことに、2年間にわたる期間中、基底前脳の神経組織の変性はその後の側頭葉の組織の変性を予言したが、反対はそうではなかった/not the other way around(側頭葉の変性は基底前脳の変性を予言しなかった)


健康な成人からの脊髄液サンプルを取ると、アルツハイマー病を思わせる異常なレベルのアミロイドベータが検出されることがあるとSprengは言う
今回のテストの結果では、アミロイドレベルにかかわらず側頭葉は同じであるように見えたが、表面的には健康でもアミロイドレベルが異常な人の間では基底前脳は顕著な変性を示した


『誰がアルツハイマー病になるのか?』を予測することが可能になっても、治療や治癒するための治療計画がなければあまり意味はないdoesn't mean a lotことをSprengも認めている

「それは不安を引き起こすかもしれない」
と彼は言う
しかし、得られる知識が多ければ多いほど、結局はうまくいくだろうとも彼は言う


「将来の分子遺伝学による研究はとても有望であり、アルツハイマー病の認知の低下に先立つ段階で病理が拡散することを防ぐための治療的戦略を開発することが可能になるだろう」
Schmitzは言う

「ゆえに、アルツハイマー病が拡散する早期のポイントを説明する我々の研究は、この破壊的な疾患と戦うための努力を導くためにこの上なく重要である」


http://dx.doi.org/10.1038/ncomms13249
Basal forebrain degeneration precedes and predicts the cortical spread of Alzheimer’s pathology.
基底前脳の変性は皮質アルツハイマー病理の拡がりに先行し、それを予測する


Abstract
アルツハイマー病が基底前脳basal forebrainから始まるのか、それとも嗅内皮質entorhinal cortexから始まるのかという議論が少なからず存在する

今回我々は、長期にわたるlongitudinal基底前脳ならびに嗅内皮質における灰白質の減少が相互に依存するinterdependentのかどうか、そしてそれらが連続して起こるsequentialのかどうかを調査した

我々は年齢をマッチさせた年長の成人older adultsの大規模なコホートで認知的に正常な人からアルツハイマー病まで分析し、『基底前脳の容量volume』こそが『長期にわたる嗅内野entorhinal areaの変性』を予測することを我々は実証する
並行して変性するモデル、または嗅内野が起源であるとするモデルは、それらを支持する証拠はほとんど取るに足りなかったreceive negligible support

次に我々は、容量の計測volumetric measuresを、症状が出る前のアルツハイマー病病理に感受性があるアミロイドβバイオマーカーと組み合わせた
認知的にマッチさせた正常な成人サブグループ間を比較したところ、アミロイドバイオマーカーに従って正確に叙述した場合、基底前脳の異常な変性が明らかになったが、嗅内皮質についてはそうではなかった
基底前脳と嗅内皮質の両方における異常な変性は、前駆症状の人たちprodromal individuals(軽度の健忘症mildly amnestic)の間でだけ観察された

我々は基底前脳の病理が嗅内野の病理ならびに記憶障害に先行し、そしてそれを予測することが可能であるというエビデンスを提供する
これはアルツハイマー病が皮質を起源とするという広く信じられている考え方に異議を申し立てるものである



関連サイト
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%89%8D%E8%84%B3%E5%9F%BA%E5%BA%95%E9%83%A8
前脳基底部は前頭葉底面の後端に位置し、ブローカの対角帯核/Nucleus of the diagonal band of Broca、内側中隔核/Medial septal nuclei、マイネルト基底核/Necleus basalis of Meynert を含む無名質 Substantia Innominataなどの脳部位からなる。
アルツハイマー病患者は前脳基底部の、特にマイネルト基底核のコリン作動性ニューロンが減少している。



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/049339c7c42e622ed4fe9abb25e211ba
タウ凝集の立体構造の違いが異なる神経変性につながる





関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/10/161014145448.htm
TM2D3の変異はアルツハイマー病リスク上昇と関連
ハエの実験では、TM2D3相当の遺伝子の変異はNotchシグナル伝達経路に干渉した
他のNotchシグナルの要素がアミロイドプラークの生成に関与することが以前にも示されていた



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/10/161025125829.htm
アフリカ系アメリカ人の新たなアルツハイマー病リスク関連遺伝子、COBLとSLC10A2



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/07/150715170654.htm
アルツハイマー病はアフリカ系アメリカ人とヨーロッパ系アメリカ人では脳の冒され方が異なる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/da5b1460551c4cedbd472dd8037649d4
アルツハイマー病の3つのサブタイプ、炎症性/Inflammatory、非炎症性/Non-inflammatory、皮質性/Cortical



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タウ凝集の立体構造の違いが異なる神経変性につながる

2016-11-06 06:06:06 | 
Structure of toxic tau aggregates determines type of dementia, rate of progression

October 28, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/10/161028205358.htm



(Marc Diamond博士たちの新たな研究により、有害なタウの凝集パターンは『どのタイプの認知症が起きるのか』、『脳のどの領域が冒されるのか』、そして『疾患がどれくらいの速さで拡がるのか』を確定するために利用可能であることが実証された

上段: 異なるパターンのタウの株/distinctly patterned tau strainsを再現したもの
画像では培養細胞中のタウが緑色で示されている

下段: これらのタウの株をマウスの脳に接種したところ、特定の認知症と関連しうるような独特な病理パターンがそれぞれ形成された

Credit: Image courtesy of UT Southwestern Medical Center)

Peter O'Donnell Jr.脳研究所の研究によると、神経が変性しつつある脳で形成される有害なタウタンパク質凝集物の様々な構造は、どのタイプの認知症が起きるのか、どの領域が冒されるのか、そして疾患がどれくらいの速さで拡がるのかを確定するのだという
アルツハイマー病やその他の神経変性症候群の患者の脳細胞はタウタンパク質によって破壊されるが、今回の研究はタウタンパク質の凝集と関連するそれら認知症の多様性diversityを説明することを助ける
さらに、この研究はそれぞれの認知症と関連する『タウの独特な形態』を決定することによる様々な認知症のより早くより正確な診断にも密接な関連がある


「なぜ患者は様々なタイプの神経変性を生じるのか?
今回の研究はその理解の枠組みframeworkを提供することに加えて、特定の神経変性疾患を治療するための薬剤の開発や正確な診断にとっても裏付けpromiseを与える
この研究結果は『一つのサイズがすべてに当てはまる/one-size-fits-all』という戦略で治療しようとしてもうまくいかないことを暗示しており、
我々はどのタイプのタウを標的にしているのかを認識した上で臨床試験や薬剤開発にアプローチしなければならないことを示す」
研究著者のMarc Diamond博士は言う
彼はアルツハイマー病・神経変性疾患センターの創立ディレクターfounding Directorであり、テキサス大学(UT)サウスウエスタン・メディカルセンターのO'Donnell脳研究所では神経学・神経治療学の教授でもある


Marc Diamond博士たちは特別な細胞系を使ってタウ凝集の異なる立体構造conformationsを再現し、それらの異なるタイプの病的なタウをマウスの脳に摂取した
それぞれのタイプのタウは異なる病理学的なパターンを形成し、アルツハイマー病や前頭側頭型認知症/frontotemporal dementia(FTD)、外傷性脳損傷/traumatic encephalopathyのような疾患で生じるバリエーションを再現した
異なるタイプのタウによる病変pathologyは脳内に異なる速度で拡がり、それぞれが特定の脳領域に影響を与えた
この実験では、タウタンパク質と関連するヒトの神経変性疾患で見られるバリエーションの、全てではないにしてもほとんどを説明するには、病的なタウ凝集の構造だけで十分であることが実証された

Neuron誌で発表された今回の研究結果は、認知症患者の脳からタウや他の有害なタンパク質を除去するための治療法を開発するための活動effortsに対して著しいインパクトを広範囲に与える可能性がある


「現在の我々の課題は、それぞれの患者の脳内に存在するタウの形態をどのようにして早く効率的に決定するのかを解決し、そして同時に、それぞれへの特定の治療法を開発しなければならないということだ
我々の研究は、タウの凝集した構造についての知識を基にして患者の疾患のパターンと治療への応答を予測することが可能であるはずだということを示している」
Diamond博士は言う
彼はBasic Brain Injury and Repairの特別職/Distinguished Chairを保持している

タウタンパク質と関連する多くの特筆すべき発見の先頭に立つDiamond博士のラボは以前、タウがプリオンのように作用することを特定している(プリオンは自己再生が可能な感染するタンパク質で、脳内をウイルスのように拡がる)
彼のラボはヒトの脳内のタウタンパク質が多くの異なる株distinct strains、つまり自己再生する構造self-replicating structuresを形成することを明らかにしており、それをラボで再現する方法を開発していた
このような調査研究からDiamondの研究チームは今回の研究、つまりそれらの株strainsが異なるタイプの認知症の説明になる可能性があるかどうかをテストするに至った

この関連を証明するため、18の異なるタウ凝集の株がラボで再現された
それらはヒトの神経変性疾患の脳サンプルやマウスモデルから得られたものや、人工的に作成したものだった
研究者たちがタウ凝集の株をマウスの様々な脳の領域に接種したところ、それらの間には著しい違いが見られた
いくつかの株は遠くまで届いて急速に影響を与えたが、別の株は脳内の限られた部分でしか(病理を)再現しなかった

この驚くべき結果は、神経変性疾患の分野にしつこくつきまとう根本的な疑問に答える
『ある脳の領域が疾患によって脆弱だったりそうでなかったりするのはなぜか?』
『同じタウ凝集関連疾患なのに、なぜ急速に進む疾患とそうでない疾患があるのか?』

例えばアルツハイマー病では、問題が脳の記憶センターで生じてから、言語のような機能を制御する他の領域に拡がる
逆に前頭側頭型認知症ではまず前方と側方の脳領域が変性し、記憶センターは比較的保たれるため、患者はしばしば最初に人格や行動の変化を示す
そしてどちらもタウの凝集が問題になる神経変性疾患である

今回の新たな研究はタウ凝集の構造を知ることで患者の、そしてもしかすると健康な人でさえも、変性に最も脆弱な脳の領域や疾患の進行速度を予測することが可能になるはずだということを示す


http://dx.doi.org/10.1016/j.neuron.2016.09.055
Tau Prion Strains Dictate Patterns of Cell Pathology, Progression Rate, and Regional Vulnerability In Vivo.
タウのプリオン株は、細胞病理のパターン・進行速度・領域の脆弱性をin vivoで規定する


Highlights
・タウは異なる生化学的性質を持つ独特のプリオン株prion strainsを複数形成する
・それぞれのタウ株/tau strainsはin vitroとin vivoで病理学的に異なるdiverse表現型を誘発した
・それぞれのタウ株は異なる脳領域を標的とし、独特の速度で病理を伝播propagateする
・我々はヒトタウオパチーの多様性diversityを理解するための枠組みを提供する


Summary
タウオパチーは異なる脳領域を冒し、異なる速度で進行し、特定のパターンでのタウの蓄積を示す神経変性疾患の集合である
この多様性diversityの源は不明である

我々は以前、独特の立体構造conformationsをin vitroとin vivoで安定して維持する2つのタウ株について記述したが、それぞれの株が脳領域間の脆弱性の違いや伝播速度のようなタウオパチー間を区別するパラメーターに対してどのように関連性を持つのかを決定しなかった

今回我々は詳細な生化学的/生物学的診断基準criteriaを基にした細胞において18のタウ株を単離して記述した

PS19トランスジェニック・タウ(P301S)マウスにこれらの株を接種すると、株に特異的な細胞内病理が、異なる細胞タイプ/脳領域に対して引き起こされ、
ネットワーク伝播の異なる速度を誘発した

このシステムでは、ヒトのタウオパチーを定義する症状と同様の それぞれ異なる神経病理学的な症状presentationsを説明するには株だけで十分だった
ゆえに、これらの株をさらに研究することにより、生化学的な影響を支配する構造的な論理を確立しうる可能性がある



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α-シヌクレインの凝集にはスパゲッティ状とリングィーニ状の2種類がある
スパゲッティ状の方が細胞に結合して入り込んで殺す毒性が高く分解されにくい
リングィーニ状は分解されやすく毒性はより低かった



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https://www.sciencedaily.com/releases/2015/06/150610152217.htm
α-シヌクレインの凝集の仕方によって病気が異なる
シリンダー状はパーキンソン病を引き起こし、リボン状は多系統萎縮(MSA)の症状を引き起こす



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/2f69e68999aaf91e1daa22758545d605
タウの凝集による核膜の乱れが脳細胞を殺す




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Aβとリン酸化タウは両方ともアルツハイマー病の早期から代謝の低下に関与する



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/10/161022161902.htm
タウタンパク質を凝集させる変異(P301S)に対して、Nuak1を抑制すると、タウは減少した
Nuak1はタウタンパク質をリン酸化して安定化させるため、Nuak1の低下はタウを減少させる




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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160725121729.htm
アルツハイマー病におけるタウオパチーをPETで評価する
Aβがないと海馬の容量とタウオパチーは関連がないが、Aβがあると海馬の容量とタウオパチーは逆相関を示す



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/03/160302132529.htm
症状が出る前からPET画像化によりAβとタウの両方をステージ化して比較する

 

CB2アゴニストのNTRX-07はアルツハイマー病の治療薬として有望

2016-10-25 06:06:28 | 
Experimental drug shows promise in treating Alzheimer’s disease

October 25, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/10/161025201713.htm

2016年アメリカ麻酔学会/ANESTHESIOLOGY(R) 2016で発表されるマウスの実験結果によると、NTRX-07という実験薬は神経の炎症を防ぎ、アルツハイマー病と関連する異常なタンパク質の凝集を取り除くことにより疾患の治療薬として有望であることが示唆されたという

アルツハイマー病の鍵となる重要な特徴は脳内のアミロイドプラークという異常なタンパク質凝集と、繊維のもつれた束tangled bundles of fibersである
これらの変化は脳に炎症を引き起こしてニューロンを傷つけてゆき、損傷の進行が記憶の喪失や混乱、そして認知症へとつながる
NTRX-07という新薬はそのような炎症を減少させる一方でニューロンを保護し、細胞の再生を保つようである

「NTRX-07はアルツハイマー病と関連する脳内の炎症を減少させる」
中心となった研究者lead researcherのMohamed Naguib M.D.は言う
彼はクリーブランド・クリニック・ラーナー医科大学/Lerner College of Medicineの一般麻酔科Department of General Anesthesiologyで麻酔科医physician anesthesiologistである

「NTRX-07は他の現在利用可能な薬剤とは異なるメカニズムで作用し、単なる対症療法ではなく疾患の原因を標的にする」


研究者たちはNTRX-07の記憶を回復する能力を明らかにしただけでなく、神経因性疼痛neuropathic painという複雑な慢性痛を治療する潜在能力についても研究している

「神経因性疼痛の患者は慢性的な神経の炎症が起きている」
Naguib博士は言う

「この化合物は、そのような炎症を抑制する」


今回の研究ではアルツハイマー病で見られるのと同様の神経変性を発生するようにしたマウスに対してNTRX-07をテストした

マウスを詳しく調べると、疾患に応じて生じた炎症は 脳内の免疫細胞であるミクログリアに変化を引き起こしていた
通常、この免疫細胞はアミロイドプラークというタンパク質の凝集を取り除く細胞である
アミロイドプラークがマウスの脳内に蓄積するにつれてミクログリアはそれらを除去することができなくなり、結果として炎症が起きて神経細胞が損傷し、認知能力の低下が引き起こされた

ミクログリアはその表面にカンナビノイド受容体2/cannabinoid receptor 2(CB2)という受容体が存在し、CB2が活性化されると炎症に対抗する応答/抗炎症応答が生じる
NTRX-07はCB2受容体を標的とするアゴニストであり、炎症を抑制して脳組織へのダメージを防ぐ
加えて、異常なアミロイドプラークの除去を改善し、記憶能力memory performanceや他の認知機能cognitive skillsを改善する

さらに、NTRX-07はSOX2というタンパク質のレベルを増大させる
SOX2は新たな脳細胞の発生を助け、アルツハイマー病患者の脳を保護することがこれまでに示されている
NTRX-07を投与したマウスはSOX2のレベルが正常レベルまで回復した一方で、プラセボを投与したマウスはSOX2レベルの低下を示し、
脳内の炎症が活性化し、アミロイドプラークの除去が悪化して、記憶能力は低下した


<コメント>
元の記事ではNTRX-07とNRTX-07が混在してますが、開発元のサイトを見るとNTRX-07の方が正しいようです
サイトにはNTRX-07が以前はMDA7と呼ばれていたとあります



関連記事
http://fface.exblog.jp/21526492/
Aβによる神経炎症はニューロリギン1/Neuroligin-1(NLGN1)をエピジェネティックに抑制してシナプスネットワークを破綻させるが、この神経炎症プロセスは新規に発見されたMDA7という化合物によって阻止された
クリーブランド・クリニックでは近い将来フェーズI試験を開始する予定である



関連記事
https://alzheimersnewstoday.com/2016/09/28/alzheimers-drug-targeting-cannabinoid-receptor-given-almost-2-million-to-move-to-clinical-testing/
NeuroTherapiaは既に治験薬/investigational new drug(IND)の申請を可能にするための研究を始めており、2017年半ばにはNTRX-07のヒトでの臨床試験を開始することを目標としている



関連サイト
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%82%AE%E3%83%B3
ニューロリギンはシナプス後部に存在する1回膜貫通型タンパク質であり、シナプス前末端に存在するニューレキシン(Neurexin: NRXN)の内因性リガンドであり、シナプスの成熟や機能を調整している




関連サイト
http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%93%E3%83%8E%E3%82%A4%E3%83%89
カンナビノイド受容体として、7回膜貫通、Gタンパク質(Gi/Go)共役型のCB1受容体とCB2受容体の2つがある。
CB1受容体は脳などで多量に発現しており、神経伝達の抑制的制御に関与していると考えられている。
CB2受容体は脾臓や扁桃腺など、免疫系の臓器や細胞に多く発現しており、炎症反応や免疫応答の調節に関与していると考えられている。



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/c5430d8634bdca32080281683490f6fd
α細胞によって作られたカンナビノイドは膵島に局在するCB1というカンナビノイド受容体を活性化し、細胞機能の分化に影響を与えることでβ細胞がグルコースに応じてインスリンを作る能力を増大させる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/44dd380eae54a796f94b7b5fb5d93849
Aβオリゴマーは補体分子のC1qとC3を活性化し、C3はミクログリアの受容体CR3を通じてシグナルを伝達して、ミクログリアが脆弱なシナプスを飲み込むように刺激する